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戦略記事

ReConstructed -デッキ再構築-

変形術

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変形術

Gavin Verhey / Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing

2014年10月21日


 古典的な映画表現で例えてみよう。そうだな、よそ者、おそらく転校生や新入社員が登場する。そいつは......ちょっと変わったやつだ。

 多分その登場人物のツカミは、アイスクリームをストローでズルズル吸うとか、消臭剤を顔につけているといったものだろう。この人物はまともじゃない。じゃあ、どれくらい変だろうか? ふむ。まあ、ちょっと判断できないね。恐らくそれは、彼が単にそう育ったか、特徴的な状態の皮膚を持っているか、あるいは――

 あーっ! そいつは宇宙から来た6つの触手を持つボルケーノ・デーモンだ! そいつは不死で、制御不能で、そして不滅の存在なんだ!

 「物事はいつも見たままではない」特集週間へようこそ。

 デッキ構築と、見たままではない、ということの共通点を探し求めれば、結論は自ずと導かれる。そう、変形サイドボードだ。

 投稿されてくるデッキリストのサイドボードには、変形サイドボードが多く見かけられる。変形サイドボードの概念と、それに則った構築は明らかに人気のあるものだ。しかしそれは、実際にどういった場合に活用できるだろうか? 何の役に立つのだろうか?

 今日はそれについてやっていこう。さあいくぞ!

変形サイドボードとは?

 先へと進む前に、この最初の質問に答えを出すのがいいだろう......そもそも、変形サイドボードとはどんなものだろうか? サイドボードが15枚とも『イニストラード』の変身カードなのか? 変形......つまりトランスフォームだから、オプティマス・プライムが関係してくるのか? どうなってるんだ?!

 私はいつも、最初に見た変形サイドボードのことを思い出す。私は15歳で、新米のデッキビルダーだった。そしてテリー・ソー/Terry Sohはこのデッキでマジック・インビテーショナルの勝者となったんだ(そして後に《ラクドスの穴開け魔道士》を作った)。

テリー・ソーの「歯と爪デッキ」
2005マジック・インビテーショナル 優勝 / スタンダード(当時)[MO] [ARENA]
10 《
4 《ウルザの鉱山
4 《ウルザの魔力炉
4 《ウルザの塔

-土地(22)-

4 《桜族の長老
4 《永遠の証人
1 《鏡割りのキキジキ
2 《映し身人形
2 《隔離するタイタン

-クリーチャー(13)-
4 《師範の占い独楽
4 《森の占術
4 《木霊の手の内
3 《忘却石
3 《刈り取りと種まき
1 《すき込み
3 《精神隷属器
3 《歯と爪

-呪文(25)-
2 《ぶどう棚
4 《トロールの苦行者
2 《素拳の岩守
3 《すき込み
2 《腐食ナメクジ
2 《剃刀毛のマスティコア

-サイドボード(15)-

 最初に見たとは言ったが、変形サイドボードがこれより前には無かった、というわけではない。しかし私の競技マジック経験の中で、知名度の高いものと言って最初に思い浮かぶのはこれだ。このデッキが登場してから数ヶ月間、少なくとも私のプレイ環境では、変形サイドボードが流行っていたように思える。フローズンヨーグルトの販売スペースや、ケーキの2倍ほどのサイズがある糖衣が飾り付けられた、高価なカップケーキぐらいには、どこでも見かけられたものだ。

 それで、話を戻すが、テリーのサイドボードは何が異なっていたのだろうか?

 スタンダード環境の《歯と爪》デッキは、本質的にはコンボ・デッキだった。(大抵は「ウルザトロン」土地の支援を受けて)9マナを揃えることに全力を尽くし、《歯と爪》をプレイして、《隔離するタイタン》と《鏡割りのキキジキ》、という感じで戦場にクリーチャーを展開する。それは同時に、対戦相手にとって終幕を意味するだろう。もちろん、このデッキならそのマナを使って別のこともできる――いつでも対戦相手を《精神隷属器》にかけてひどい目に合わせることができる――が、それはまだ一般的な代替手段の範疇だろう。

 そうなると、当然のことだが、対戦相手はそれらに対抗するためのカードをサイドボードから用意するだろう。しかしテリーは――大胆に虚を突いた。中心となるゲームプランの復帰性を高めたり、対戦相手の対抗策に対処するのではなく、サイドボードを利用することでデッキを実質的に入れ替えたんだ! テリーは、サイドボードの《トロールの苦行者》、《剃刀毛のマスティコア》、《素拳の岩守》、《腐食ナメクジ》、《すき込み》、そして《ぶどう棚》から組み合わせて――ほとんどの場合全てを――デッキに加えて、メインデッキからはコンボ要素を完全に取り除いていただろうね。

 サイドボード後、対戦相手はライフルを構えて、テリーのデッキが頭上を横切るのを待って空を見上げている。ところがアリゲーターとなったテリーの新デッキは、ノッシノッシと地面を進んで対戦相手の足に噛みつく。本質的にはこういう感じだ。加えて、極めてアグレッシブなデッキへの変形を対戦相手が予測していなかったならば、相手は全然関係のないカードをサイドボードから数多く投入している可能性が十分にある。

 要するに、変形サイドボードとは、デッキがどのように見えるか、動くかを根本的に変更するためのサイドボード・カードを投入するということだ。

変形サイドボードの恩恵

 変形サイドボードには、いくつかの大きな恩恵がある。

 最初に言及する、決して軽視できない理由は、奇襲性だ。相手が予測していない場合、変形サイドボードは極めて効果的だ。(これは多くの場合、変形サイドボードが同じようなデッキで長期間にわたって見かけることがない理由でもある。その代わりに、プレイヤーがそれに慣れてきて対応してくるまでのイベント数回分は、正体を現してもうまくやれるわけだ。)使うことを知られていないカードによって、お手軽な勝利を幾度も得ることができる。

 第二の大きな理由は、対策カードを退けるためだ。《凶暴な拳刃》のようなカードで対戦相手を倒すために攻撃している間、相手は対コンボ用のカードでいっぱいの手札をむなしく眺めている。こんな感じで、変形サイドボードはサイドボード後のお手軽な勝利を山ほど獲得できるわけだ。

 第三の大きな理由は、相性最悪の対戦を解消するためだ。例えばコンボ・デッキを使っていて、流行している打ち消し呪文が20枚入ったコントロール・デッキに勝ち目が無いとしよう。対戦をましな方向へ変化させるため、徹底的にビートダウンするアグレッシブ・デッキへとサイドボードすることが可能だ。

 別の小さな恩恵は、特定のデッキに対して行いたいゲームプランを実行可能にさせる、ということだ。通常はビートダウン・デッキだが、ミッドレンジに対処したい、というような場合があるとする。そこで、自分のプレイスタイルとフォーマットに適合する、別のデッキタイプへと変形できるサイドボードを準備しておくことは有用かもしれない。

変形サイドボードの問題点

 変形サイドボードは、素敵でクールなテクニックに思える。そして、その手法をいつでも使い続けることを選択すること自体は簡単だ。しかしながら、妥当な期間で行う次善の策という程度に止めておくべき、多くの危険がある。

 第一に、変形サイドボードに関する1つの大きな問題が、どの程度サイドボードの枠を食うのか、という点だ。大掛かりに行うつもりならば、サイドボードの枠を十二分に持つ必要がある。

 ほとんどの変形サイドボードは、サイドボード枠のうち少なくとも11枚を消費する、ということが想定される。最低でもね。サイドボードの働きを確実なものとするためには、それらを確実に引けるようにしなければならないが、サイドボード枠を普通に使うか単に15枚の追加プレイ枠とするかのどちらかしか選べない。

 変形用のカードに枚数を取られてサイドボードの枠が狭くなる、という問題に対処できているとしよう。それでも、第二の問題として、それがちょっとした仕掛けの1つにすぎないかも、という点がある。こちらの行動を把握していた場合、変形サイドボードが裏目になるように、対戦相手がサイドボーディングを行うことが可能だろう。3ゲーム目があれば、抜け目なく対戦相手は変更していたサイドボードを元に戻すかもしれない。多くの選択肢も持てず、サイドボードとしての柔軟性も保てないほどに、多量のカードを変形サイドボードへと費やすことになれば、大抵は「変形サイドボードを使うかどうか?」というだけの話になってしまう。

 これらは変形サイドボードを採用しない、かなり重要な2つの理由となる。それによって、ある質問が導かれる......

変形サイドボードを使うべき時とは?

 いくつかのデッキは、メタゲームによっては、変形サイドボードが最善手となる。また、「単に良いサイドボード・カードを用いるかわりに、変形サイドボードを使っているのはなぜか?」と常に自問すべきだ。

 最も変形サイドボードを用いるのに向いているのが、コンボ・デッキなのは間違いない。コンボ・デッキは元々、マッチの1ゲーム目には強い。しかし、いったんサイドボードから対策カードを投入されてしまうと、勝率はずっと厳しくなる。ところが、変形サイドボードを利用していれば、対策カードは完全に回避できるというわけだ。

 加えて、サイドボード枠の減少という問題点についても、コンボ・デッキはその他のデッキに比べれば被害が少ない。どのみち、コンボ要素が薄まってしまうため、効果的なサイドボードを投入できる枠は少ししかない、ということがしょっちゅうだ。だからこそ、まるごとそのまま入れ替えられるカードの束があることで、素晴らしい効果を発揮する。

 使っているデッキがほとんどのデッキに対して極めて優位にあるが、1種~2種のデッキとの対戦を苦手としている、という場合。これが、変形サイドボードを採用できるもう1つの好機だ。苦手デッキの穴を繕う必要があるならば、変形サイドボードを試みる価値はある。(そのデッキに対して1ゲーム目を落としたとしても、なんとか2、3ゲーム目を勝利するためにサイドボードの大部分を投じるつもりであれば、価値があるだけにとどまらない場合がよくある、という点は注目に値する。)

 しかしながら、変形サイドボードを見かける際、うまく採用できているように思えない場合はかなりある。上で提起した質問に戻るが、そのデッキに対して、普通のサイドボードではなく変形サイドボードを採用するための理由が必要だ。

 例えば、そのデッキに対して元々有利なら、変形サイドボードの必要はない。そのデッキに対して有効なサイドボードを用いて対処できるなら、変形サイドボードの必要はない。そして最後に、デッキの相性が平行線をたどる――つまり、変更前と後ではデッキ内容が違うだけで相性が変化しないならば――変形サイドボードは必要ない。

 基本的には、ほとんど変形サイドボードを必要とすることはないと言っておこう。変形サイドボードはクールで素敵で、そして使うとかっこよさそうに思える。魅力的だ。しかし全体的には、本当は必要としていないのに変形サイドボードを使うデッキをたくさん見かける。とは言うものの、有効な状況ならば、変形サイドボードは恐ろしいほどの効果を発揮してくれるだろう、とも言った――変形サイドボードが有効かどうか検討し終わるまでは、その選択肢を無視してはいけないということだ。

部分的変形

 最後に、部分的変形サイドボードについて軽く触れておきたい。部分的変形サイドボードは、デッキにひねりをつけるカードを用意はしているが、変形サイドボードのようにまるっきり別のデッキに変形するというわけではない。例として、数週間前のプロツアー『タルキール覇王譚』からリー・シー・ティエン/Lee Shi Tianのデッキを取り上げてみよう。

リー・シー・ティエン
プロツアー『タルキール覇王譚』 / スタンダード[MO] [ARENA]
1 《平地
1 《
1 《
1 《
2 《溢れかえる岸辺
2 《樹木茂る山麓
2 《開拓地の野営地
2 《豊潤の神殿
2 《ヤヴィマヤの沿岸
2 《神秘の神殿
2 《奔放の神殿
4 《マナの合流点

-土地(22)-

4 《爪鳴らしの神秘家
4 《森の女人像
3 《キオーラの追随者

-クリーチャー(11)-
4 《ドラゴンのマントル
4 《撤回のらせん
2 《贈賄者の財布
4 《神々との融和
3 《苦しめる声
2 《双つ身の炎
4 《ジェスカイの隆盛
3 《時を越えた探索
1 《世界を目覚めさせる者、ニッサ

-呪文(27)-
3 《白鳥の歌
3 《稲妻の一撃
4 《凶暴な拳刃
3 《弧状の稲妻
2 《世界を喰らう者、ポルクラノス

-サイドボード(15)-

 リーのデッキは、サイドボードから《凶暴な拳刃》と《世界を喰らう者、ポルクラノス》(と、特定のデッキに狙いを定めた少々の除去)を投入して、マナ加速から攻撃に転じることができる。ここで、サイドボードから完全に変形するのはよくない――おそらくコンボを抑制してしまうだろう。しかし部分的変形サイドボードは、ここで2つの役割を果たす。まずは、相手のコンボへの対処を阻害する役割だ。対戦相手は戦場に出た脅威への対処を強いられるだろう。相手はコンボともクリーチャーとも渡り合えるだけのカードを持っているだろうか? 最低でも、優秀なクリーチャーという脅威は、カードを探すための時間を稼いでくれるだろう。

 とはいえ部分的変形サイドボードは、変形サイドボードと同様に、的確なサイドボード・カードを持たない対戦相手を倒すという本来の役割も果たす。対戦相手がコンボに気をとられるあまり、《胆汁病》のように小型クリーチャーしか処理できない除去をサイドインしてきたならば、《凶暴な拳刃》と《世界を喰らう者、ポルクラノス》はどこからでも相手を蹂躙できるだろう。

 部分的変形サイドボードを採用する場合、完全変形サイドボードと比べてサイドボードを占有する割合が少ないため、より使いやすい。とは言うものの、部分的変形サイドボードは、少量のカードをサイドアウトするだけでコンボ要素をそのまま残せるこのデッキのような、特定のデッキでのみ機能するものだ。しかし頻繁に使用するわけではないとしても、心に留めておきたい良い選択肢の1つではある。

 変形サイドボードについて総括しよう。変形サイドボードは、デッキ構築に用いる道具入れの中にある道具の1つだ――多用せず、そしてうまく用いることで、相手を撃破できるだろう。


(以下のデッキ募集部分は、原文・本日(11月4日)掲載分の記事から抜粋・収録しております。 この節の文責・編集 吉川)

 2週間後(「ReConstructed」の翻訳掲載は4週間後)には、氏族巡りの旅における次の目的地、マルドゥを見ていこう! 自分のデッキが取り上げられることに興味がある? 今週の投稿ガイドラインを確認してほしい!

フォーマット:スタンダード

デッキの制限:過不足なく、白黒赤のデッキであること。

締め切り:11月11日(火)午前11時(日本時間)

投稿方法・投稿先reconstructeddecks@gmail.com 宛にメールにて。

 デッキリストは、最初の行に「あなたのローマ字氏名+'s+デッキ名(英語)」、それに続いて各行に1種類のカードを、「枚数(半角数字)」+「半角スペース」+「カード名(英語)」の形式で、以下のように入力していただきたい。

12 Mountain
4 Satyr Firedrinker
3 Ash Zealot
4 Lighting Bolt

 カードの枚数と名前の区切りには半角スペース以外のものを使わないでほしい――「4x Lightning Bolt」などのように。整った書式のデッキリストは、読みやすく、このコラムに取り上げやすくなる。書式が崩れたリストはおそらく受け付けられないだろう。(デッキリストを読めないことには、それについて語ることもできない!)

 また、今週についても、デッキは reconstructeddecks@gmail.com 宛に送っていただきたい。現状ではバグがあり、私のウィザーズでのアドレスへ送られたデッキリストを見ることに問題が生じているためだ。

 記事についてのコメントがあれば何でも、私へのツイートや、私のTumblrでの質問として送ってほしい。お送りいただいたメッセージはすべて目を通しているし、皆さんの考えを知ることができるのは大変ありがたい。

 また来週お会いしよう!

Gavin / @GavinVerhey / GavInsight

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