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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

トップ8と半分の話

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トップ8と半分の話

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2014年11月24日


 トップ8特集へようこそ! 時々、編集者のブレイク/Blakeは面白い特集を組むが、今回もそんな特集の1つだ。トップ8特集となっているが、そのテーマをどう解釈するかは筆者に任せられている。何を書きたいか考えたところ、私は、10年ちょっと前の特集、「トップ10特集」を思い出した(英語記事)。

 トップ10特集を祝うために10個のトップ10リストを作ったので、今回はその理念を継ぐ形で8個のトップ8リストを作ることにした。楽しんでもらえたら幸いである。

最も時間のかかったデザイン要素トップ8

 最初に発想が生まれてから印刷に到るまでにもっとも時間がかかったデザイン上の要素のトップ8はこれだ。

8) 彩色への再挑戦(5年)

 『フィフス・ドーン』のデザイン中に、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheが作ったのがマナ・シンボルを数えるカードであった。アーロンはそれを気に入り、2枚目をデザインした。私はそのカードを見て、アーロンがこだわっている発想は『フィフス・ドーン』に必要なものよりも大きく、アーティファクト・ブロック以外のところで使われるべきものだとわかった。『未来予知』で、私がこのメカニズムを使ったミライシフト・カードを作ったのは、いつかこれを使う日が来るとわかっていたからである。そして1年後、『イーヴンタイド』で日の目を見ることになる。

 反応は、いいとも悪いとも言えないものだった。私はこのメカニズムがクールだと信じていたから落ち込んだ。もう一度このメカニズムに機会を、最高の機会を与えたいと思ったから、このメカニズムの活きる場所を探すことが重要になったのだ。そして、『テーロス』のデザイン中に、どのメカニズムを再録するかという議論の際に、ザック・ヒル/Zac Hillが彩色を提案してきた。私は、確かにちょうどいいと同意したが、仕上げるには微調整が必要だった。いいメカニズムだったが、私は、このメカニズムの問題はフレイバーに欠けていたことだと考えていた。

 このメカニズムが人々と神々の間のつながりを示すものだという発想が気に入ったので、私はチームに新しい名前が必要だと告げた。イーサン/Ethanは「信心/Devotion」という単語を提案してきて、それで決まりだった。このメカニズムは複数のフォーマットに大きな影響を与え、大好評を博した。どれほど好評だったかというと、再録するかどうかではなく、いつ再録するかの議論になるほどだったのだ。

7) 2つめの銀枠セットの作成(6年)

 『Unglued』はジョエル・ミック/Joel Mickとビル・ローズ/Bill Roseのプロジェクトとして産声をあげた。彼らは、イベントで使えない銀枠セットという発想を気に入って、私にその実体を決めるという任務を下したのだ。私は、黒枠のマジックでは作れないカードとコメディなフレイバーを詰め込んだパロディ・セットという形にまとめた。このセットは大ヒットになると判断され、ウィザーズは私に2つめを作るように命じたのだ。しかし、このセットは望まれていたほどは売れず(私は今でも刷りすぎだっただけだと信じている)、『Unglued 2』は開発中止になったのだった。

 私は『Unglued』に本当に惚れ込んでいて、もう一度挑戦することを決めていた。最終的に、私の夢への協力者――当時の上司であるランディ・ビューラー/Randy Buehler――を見付け、そしてランディの協力の下、我々は2つめとなる銀枠セットを作ることができた。現在の私の夢は、いつか書きたいと思っていることだが、3つめの銀枠セットを作ることである。

6) 土地ブロックの作成(7年)

 『ミラディン』のデザイン中に、私は、他のカード・タイプをブロック作成の軸に使う方法について考えていた。そして、それまでブロックの中核として、それどころかセットの中核として掘り下げたことのないカード・タイプが1つあるということに思い至ったのだ。それが、土地である。長年にわたって興味深い土地のデザイン空間を扱ってきて、何かクールなことができると確信するに到った。問題はただ1つ、私がこの発想について説明した相手は必ず「他に何かないのか?」という反応を示してくるのだ。

 当時、ランディは私に、将来に向けての5ヶ年計画(実際には6ヶ年計画になった)を作成させていた。私は、そのうち1年を青天井の実験的デザインの年にすべきだと説得したのだ。計画のほとんどの年は既に実績のあるテーマだったが、新しいものを試さなければそれでは新しいものを見付けることができないのだと私は主張したのだ。幸いにも、ランディは同意してくれた。そして私はその実験的な年に土地のブロックを割り当てたのだった。

 そのブロックのデザインを始めたとき、マイク・チュリアン/Mike Turianというデザイナーだけがいい考えだと思うと言ってくれた。そして幸いにもデザインの終盤には、会議室の誰もが同意してくれるに到ったのだった。

5) 変異の再録(8年)

 変異は、ルール・チームが《Illusionary Mask》や《Camouflage》をルール的に成立させる方法を探していて見付けたものである。その方法とは、裏向きのカードをパワーとタフネスを持つクリーチャーとして定義するというものであった。ルール・チームはこの解決策に満足しただけでなく、この解決策からメカニズムが作れると気がついたのだ。裏向きでカードを唱え、そして、後でコストを支払って表向きにする。全ての裏向きクリーチャーが同じではないので、そこには謎が生じることになる。ルール・チームはこの発想をビル・ローズに伝えたが、ビルはあまり興味を示さなかった。そこで今度はマイク・エリオット/Mike Elliottに伝えたが、彼もまた興味を示さなかった。そこで私の所に来て、私はそれを気に入ったのだった。

 そして時が流れた。変異は『オンスロート』に収録され、そして他の多くのメカニズムと一緒に『時のらせん』ブロックで再録された。私は、変異がもう一度輝く場所を見付けたいと心の底から思っていたのだ。変異は複雑で様々な制限があったので、どのセットにでも入れることができるわけではなかった。しかし『タルキール覇王譚』ブロックでは、ブロック全体でやることを表すメカニズムが必要となり、大将軍の世界に相応しい陰謀の世界観の元で変異が見事に働くことになったのである。

4) ゴシックホラーのブロックの作成(10年)

 ある日、ブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuthと私は、『オデッセイ』のために描かれたアートを見ていた。彼は、クリエイティブ(当時はまだ彼はクリエイティブ所属ではなく、テクニカルライターだった)とこのメカニズムは合っていない、と言っていた。墓地テーマに相応しいのは、ゴシックホラーのセットなのだと。私のほうは、マジックで使えるジャンルは何かとずっと考えていて、ブレイディがゴシックホラーと言ったときにはそれだと思ったのだった。

 問題は、当時はメカニズムが主軸だったということだ。セットは、多色、部族、アーティファクトなどがテーマだった。クリエイティブ的な視点からセットを展開するのは、それまでないことだったのだ。ある日、ビル・ローズがクリエイティブ的な構想に基づいてデザインをしたいと言い出した。私はゴシックホラーのセットを提案したが、彼の胸中には何か他の計画があったようだった。そのビルの計画は、後に『神河物語』ブロックとなることになる。

 そのブロックはそれほど大好評というわけではなかったので、トップダウンのデザインをもう一度作るというのは受け入れにくい話だった。私は『神河物語』ブロックの後期に主席デザイナーとなり、将来のブロックの発想について提案することになった。私はゴシックホラーの世界を提案したが、誰も興奮しなかったのだ。そこでビルは、最初の2つのセットが1つの世界、そして3つめにあたる大型セットがまた別の世界、というブロックを作るという発想を思いついた。検討の結果、開発部はブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanが提案した世界を最初の2セットに使うことにし、私がゴシックホラーの世界に拘っていることを知っていたビルは、私に第3セットを使ってもいいと言ってくれたのだ。

 そしてやがて、誰かがゴシックホラーのセットを作るならハロウィンに合わせた方がいいと言ってきたので、この2つのセットは入れ替わることになった。ビルが、この世界でもう1つ小型セットをできるかと尋ねてきたので、私はできると思うと答えたのだ。そして、クリエイティブがクールなひねりを思いついたので、2つめの大型セットも同じ世界が舞台になることになった。諸君もご存じの通り、そのひねりとは、「獄庫」と呼ばれるものに天使が囚われる、というものだったのだ。

3) 毒カウンターのマジックへの復活(13年)

 『レジェンド』にはこの2枚のカードが存在した。

 これらのカードは、対戦相手に毒カウンターを与えるというものだ。毒カウンターが10個溜まれば、対戦相手はゲームに負けるのだ! 一目で恋に落ちた。以前から普通でない勝利条件キチ(《石臼》いいね)だった私は、毒にも魅せられたのだ。ウィザーズに入社して、私はもっと毒カードを作ることに興奮していた。実際、私の最初のデザインである『テンペスト』では、毒を大テーマとしていた。しかし、開発部は毒は有用でないと判断し、『ビジョンズ』の《スークアタの暗殺者》が最後の毒クリーチャーとなったのだった。

 毒が『テンペスト』から取り除かれてから、私は『Unglued 2』に毒を入れようと思った(何のことか判らない諸君はこちらの記事を読んでくれたまえ)が、『Unglued 2』は開発中止となり、日の目を見ることはなかった。私はそのことを飲み込み、我慢すべき時だと理解したのだった。『未来予知』で、私は毒の復活を予測させるようなミライシフト・カードを数枚入れた。そして最終的に、太古のマジックにおける悪役であったファイレクシアを再び導入するセットのデザインを主導することになった。毒を入れるのに最適な時期というのがあるとすれば、ファイレクシアだ。私のデザイン・チームは尽力し、そして毒の使い方となる素晴らしい新メカニズムである感染メカニズムを作り上げたのだ。このときまでに、13年の時間が経っていた。

2) エンチャント・ブロックへの再挑戦(14年)

 最近まで、マジックのパーマネント・タイプは4つだった。アーティファクト、クリーチャー、エンチャント、土地。アーティファクトとクリーチャーはいくつものセットで中心となっていた。土地をセットの中心に据えるなんてありえるだろうか? ということで、エンチャントだけがまだ中心になっていないパーマネント・タイプだった。『ウルザズ・サーガ』のデザイン・チームは、これを覆すべきときだと判断した。しかし、ここでおかしなことが起こった。物語は捻れ、そのブロックはアーティファクトの匠として名高いウルザを中心としたものになったのだ。

 物語に注目を集めるため、ブランド・チームはこのブロックを「アーティファクト・サイクル」と呼んだ。その後、開発部がこのブロックでいくつかの誤りを犯した結果、開発部語で言うところの「壊れている」ものになった。そしてその壊れたカードはアーティファクトばかりでエンチャントではなかった。そこで、エンチャント・テーマは葬り去られることになった。実際、エンチャント・ブロックだと認識しているプレイヤーはごくわずかだったのだ。

 デザインは常にエンチャント・ブロックに再挑戦しようと計画していたが、他の発想が優先され続けてエンチャント・テーマは軽く触れられるだけだった。ギリシャ神話に触発されたトップダウンのセットを作ることにするまで、そしてブレイディ・ドマーマスがエンチャントが役に立ちうると提案するまで、その状況は続いたのだ。そしてわずか14年後、2つめのエンチャント・ブロックが世に出ることになったのだった。

1) 引いた時に働くメカニズムを見付ける(15年)

 私が最初にデザインした、そしてリード・デザイナーを務めたセットが『テンペスト』だった。私が当時持っていた発想の中に、引いた時に効果を発揮するカード群というのがあった。諸君なら、例えば、クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象として、それに4点のダメージを与える{1}{R}のインスタントだけれども、それを引いた時に自分に2点のダメージを与えるというカードをプレイするだろうか? 私はこのドロー・トリガーという発想に魅了されていた。問題は、対戦相手がそのカードを引いたことを知ることだった。ドロー・トリガーは背面が違っていて引いたことが判るようになっている(当時、カード・スリーブは一般的ではなかった)とか、様々な奇妙な発想を試してみた。他にも、引いたプレイヤーが公開したくなるように、ドロー・トリガーを有利になる効果だけにしたりもした。

 どれも巧く行かず、その代わりに他のメカニズム、バイバックに集中することにした。しかしドロー・トリガーという発想自体はそれから何年にもわたって登場してきた。新人デザイナーがいつもやりたいと言って、そして時間をかけて取り組むお決まりのメカニズムとなっていた。そして、『アヴァシンの帰還』のデザインの際に、デヴァイン(デザインとデベロップの中間の時期)中に(禁断と呼ばれていた)大メカニズムをデベロップ上の理由から切り捨てることになった。このセットのリード・デザイナーであったブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanは、引いた時に効果を発揮するメカニズムはどうかと提案してきた。私は彼に、長年にわたって取り組んできた話をしたが、ブライアンは動揺もしなかったのだ。

 ブライアンは諦めず、働かせる方法を見つけ出した。怯えることなく、勇敢に取り組んだのだ。カードを引いたときに、望むのならば使える。なぜできないのか、と言うのではなく、ブライアンはどうやればできるのかを追求したのだ。このメカニズムは、奇跡と呼ばれている。

(『タルキール覇王譚』ブロックまでで)リード・デザイナーを務めた回数トップ8

 長年にわたり、多くのマジックのセットがデザインされてきた。その中でリード・デザイナーを多く務めてきた7人と1グループを紹介しよう。

7)(同率)東海岸プレイテスター/East Coast Playtesters (チーム全体でリード・デザイナーを務めた)スカッフ・エイリアス/Skaff Elias、ジム・リン/Jim Lin、クリス・ペイジ/Chris Page、デイブ・ペティ/Dave Petty

 4つ:『アンティキティ』『フォールン・エンパイア』『アイスエイジ』『アライアンス』

7)(同率) マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb

 4つ:『ミラディン包囲戦』『ギルド門侵犯』『統率者(2013年版)』『タルキール龍紀伝』

6) アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe

 6つ:『ディセンション』『ローウィン』『アラーラ再誕』『マジック2010』『マジック2011』『マジック2015』

5) ケン・ネーグル/Ken Nagle

 7つ:『ワールドウェイク』『アーチエネミー』『新たなるファイレクシア』『統率者(2011年版)』『ラヴニカへの回帰』『神々の軍勢』『運命再編』

4) ブライアン・ティンスマン/Brian Tinsman

 8つ:『ジャッジメント』『スカージ』『神河物語』『神河救済』『時のらせん』『プレインチェイス(2012年版)』『エルドラージ覚醒』『アヴァシンの帰還』

3) ビル・ローズ/Bill Rose

 10個:『ミラージュ』『ビジョンズ』『ポータル』『ポータル・セカンドエイジ』『インベイジョン』『ダークスティール』『コールドスナップ』『次元の混乱』『アラーラの断片』『コンフラックス』

2) マイク・エリオット/Mike Elliott

 12個:『ストロングホールド』『エクソダス』『ウルザズ・サーガ』『ウルザズ・レガシー』『メルカディアン・マスクス』『ネメシス』『第5版基本セット』『プレーンシフト』『オンスロート』『レギオン』『神河謀叛』『ギルドパクト』

1) マーク・ローズウォーター/Mark Rosewater

 18個:『テンペスト』『Unglued』『ウルザズ・デスティニー』『オデッセイ』『ミラディン』『フィフス・ドーン』『Unhinged』『ラヴニカ』『未来予知』『シャドウムーア』『イーヴンタイド』『ゼンディカー』『ミラディンの傷跡』『イニストラード』『闇の隆盛』『ギルド門侵犯』『テーロス』『タルキール覇王譚』

プレイヤーが私にサインを求めてくるカードトップ8

 イベントで、あるいは郵送で(この場合、住所を書いて切手の貼ってある返信用封筒が同梱してある)、サインを頼まれて、数多くのカードにサインをしてきた。私がもっとも多くサインしたカードのトップ8は以下のようになる。

8) 各種ジェイス
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 プレイヤーは私にプレインズウォーカーへのサインを求めてくる。その中でも、一番多かったのがジェイスである。

7) 《精神隷属器
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 最も気に入っているカードのデザインを聞かれると、私はこのカードか、あるいはこの次のカードを答えることが多い。そこでプレイヤーはこれにサインして欲しいと言ってくるのだ。

6) 《倍増の季節
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 これもお気に入りのカードだ。これにサインする場合、2回サインすることが多い。

5) 各種「マロー」(《マローの魔術師ムルタニ》《マローの魔術師モリモ》《初めて欲したもの、仇麻呂》《初めて夢見たもの、空麻呂》など)
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 数枚の伝説の「マロー」や『神河救済』の「マロ」サイクルなど、各種のマローにもサインを求められることがある。

4) 基本土地
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 サインしてもらうちょうどいいカードが思いつかなかったときによく使われるのがコレだろう。基本土地ならいろいろなデッキに入れることができるからだと思われる。

3) 《スズメバチの一刺し
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 《スズメバチの一刺し》は、「カラー・パイ違反」カードの見本のようなものだ。多くのプレイヤーは、私のもっとも嫌っているカードにサインさせることでブーイング代わりにしているのだろう。サインするとき、軽蔑的なコメントを書くことが多いね。

2) 《Look at Me, I'm the DCI
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 このカードが2番目に入っているのは、私が(文字通りの意味で)アーティストを務めたからだ。このカードにサインする場合、私は必ず目隠しされた人物に目を描くことにしている。

1) 《マロー》[9ED]
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 このカードは私にちなんで名付けられた(私のファーストネームの最初の2文字とラストネームの最初の2文字だ。気付いていない諸君のために特別に書いておこう)。私は《マロー》にサインする場合、必ず顔に絵を描くことにしている。《マロー》の顔にはいろいろなものを描いてきたので、さまざまなバリエーションが存在することになる。

デザイナーにちなんで名付けられたカード、トップ8(《マロー》は除く)

 《マロー》が私の名前にちなんでいるのは一般常識だが、他のデザイナーにちなんで名付けられたマジックのカードもいろいろと存在する。化粧カード(マジックを作っている人物をネタにした内輪ネタ)と呼ばれる類のもので、今はもう作られることはない。つまり、ここに挙げるカードは、マジックの黎明期のものばかりということになる。

8) 《ジェイムデー秘本》(『アルファ版』)

 リチャード/Richardが初めてウィザーズ・オブ・ザ・コースト社にやってきて売り込んだ商品は、マジックではなく「ロボラリー/Roborally」だった。ウィザーズの創設者の1人で最初のCEOだったピーター・アドキッソン/Peter Adkisonは、ウィザーズの体力ではロボラリーのようなゲームを作ることはできない、カードを使った小規模で持ち運びのできるゲームなら作れる、と言った。この、カードを使ったゲーム、という発言から、リチャードはマジックを作ることになる。この最初の会議にリチャードとともに参加していたのが、J・マイケル・デービス/J. Michael Davisだ。彼は後に最初の開発担当副社長になる。その彼にちなんで、リチャードは『アルファ版』の1枚のカードに名前を付けた。J.M.D. Tome(発音してみると、ほら、ね)。

7) 《ジェイラム秘本》(『アンティキティ』)、《Jalum Grifter》(『Unglued』)

 《ジェイムデー秘本》以降、同じように、秘本にマジックのデザイナーの名前を冠するという流行ができた。ジェイラム、あるいはJ.L.M.の元になったのはジョエル・L・ミック/Joel L. Mick、『アンティキティ』『ミラージュ』『ビジョンズ』のデザイナーの1人で、後に主席デザイナー、ならびにマジックの上席ブランド・マネージャーになった人物である。

6) 《エメシーの秘本》(『テンペスト』)

 《エメシーの秘本》のM.S.E.はマイケル・S・エリオット/Michael S. Elliottにちなんだものだ。上記の通り、マイクはこの地球上において私に次いで多くのセットでリード・デザイナーを務めていた。『テンペスト』のデザイン中に、私はそんな彼への敬意を込めてこのカードに名付けたのだ。

5) 《Joven》(『ホームランド』)《Joven's Ferrets》《Joven's Tools》(『ホームランド』)

 《Joven》は『ホームランド』のデザイナーの1人、カイル・ナンヴァー/Kyle Namvarにちなんでいる。ジョーヴンはあだ名だったはずだ。本人が伝説のクリーチャーになっているだけではなく、彼のフェレットを描いたカードも存在する。海流はペットのフェレットを飼っていたのだ。

4) 《モンスのゴブリン略奪隊》(『アルファ版』)、《Mons's Goblin Waiters》(『Unhinged』)

 モンス・ジョンソン/Mons Johnsonはリチャード・ガーフィールドの旧友である。彼はゴブリン好きで知られていたので、『アルファ版』を作るときにリチャードは人気のあるゴブリンを作ることにした。そのゴブリンこそ、彼の友人にちなんで名付けられたパシャリク・モンスである。《モンスのゴブリン略奪隊》は、このパシャリク・モンスの仲間たちなのだ。

3) 《Delif's Cone》(『フォールン・エンパイア』)

 ドン・フェリス/Don Feliceは最初のプレイテスターの1人である。彼は『ミラージュ』と『ビジョンズ』をデザインしたデザイン・チームの一員でもあった。彼は東海岸プレイテスターの友人だったので、東海岸プレイテスターは彼にちなんだカードを『アンティキティ』に入れることにした。それが〈Feldon's Ice Cane〉である。Feldon IceでDon Feliceのアナグラムになっていたのだ。しかし、アートには氷要素がまったくなかったので、カード名から「Ice」が取り除かれてしまった。そこでそのチームは後に(『フォールン・エンパイア』で)彼にちなんで《Delif's Cone》を名付けたのだ。Delif Coneもまた、Don Feliceのアナグラムになっている。

2) 《テリムトー》(『ミラージュ』)、《テリムトーの投げ矢》《テリムトーの勅令》(ともに『ミラージュ』)

 エリオット・セガールは『ミラージュ』『ビジョンズ』のデザイナーの1人である。ある日、彼は「冷蔵庫」のあだ名で呼ばれるサッカーのシカゴ・ベアーズの選手、ウィリアム・ペリーの話をしていた。エリオットは、自分たちも家の中のものにちなんだあだ名を付けたらクールなんじゃないかと考えたのだ。そこでビル・ローズ/Bill Roseが答えたのが、「オーケー、トイレ君/Mr. Toilet」。この「トイレ君」はしばらく冗談として残り、『ミラージュ』では「Mr. Toilet」のアナグラムである「Telim'Tor」という人物が作られたのだった。

1) 《Phelddagrif》(『アライアンス』)、《探索するフェルダグリフ》(『プレーンシフト』)

 このカードは「Garfield PhD.」のアナグラムである。昔、メディアにリチャードが取り上げられるとき、ウィザーズの広告チームは必ず「リチャード・ガーフィールド博士/Richard Garfield, PhD.」と表記していた。そして、開発部は、どこかの時点でマジックに空を飛ぶ紫のカバを登場させることになるだろうという冗談をよく言っていた。『アライアンス』で、東海岸プレイテスターは空を飛ぶ紫のカバを作り、それにリチャードにちなんだ名前を付けたのだ(当時、デザイナーが自分のセットの多くに名前をつけていたのだ)。

カード名の長いカード、トップ8

 英語版のマジックのカードの中でもっともカード名が長いものトップ8を紹介しよう。この文字数にはあらゆる文字、記号、空白が含まれる。この上位には、黒枠では使えない反則技を使った銀枠カードばかりが名を連ねている。

7)(同率) Circle of Protection: Artifacts (32)
7)(同率) The Tabernacle At Pendrell Vale (32)
5)(同率) Erase (Not the Urza's Legacy One) (34)
5)(同率) Okina, Temple to the Grandfathers (34)
4) Infernal Spawn of Infernal Spawn of Evil (41)
3) Burning Cinder Fury of Crimson Chaos Fire (42)
2) The Ultimate Nightmare of Wizards of the Coast Customer Service (64)
1) Our Market Research Shows That Players Like Really Long Card Names So We Made This Card to Have the Absolute Longest Card Name Ever Elemental (142)

常磐木でないメカニズムのうち、スタンダードで使えるセットに戻ってきた回数の多いメカニズム、トップ8

 メカニズムはデザイン上の資源であり、再利用可能なものだとわかっている。もっとも再利用された回数の多いメカニズム、トップ8を紹介しよう。

5)(同率)召集 (2)

 召集は最初『ラヴニカ』のセレズニアのメカニズムとして登場し、後に『未来予知』の組み合わせカード(マジックの異なった時代からのメカニズム2つを持つカード)3枚に再登場した。その後、今年の『マジック2015』の再録メカニズムとして戻ってきている。

5)(同率)フラッシュバック (2)

 フラッシュバックは最初『オデッセイ』ブロックの大メカニズムとして登場した。その後、『時のらせん』ブロックで、特に過去を表す『時のらせん』のメカニズムとして採録された。さらに、トップダウンのゴシックホラー・セットで、強い墓地要素を持つ『イニストラード』でも復活している。

5)(同率)キッカー (2)

 キッカーは最初『インベイジョン』ブロックの大メカニズムとして登場した。その後、『時のらせん』ブロックで再録され、さらに『ゼンディカー』ブロックでは土地が多いことから生じる過剰なマナを消費するためのメカニズムとして再録されている。

5)(同率)変異 (2)

 変異は最初『オンスロート』ブロックで登場した。『時のらせん』ブロックで再録され、青を中心に存在した。最近、『タルキール覇王譚』でも用いられて、大将軍だらけの世界らしさを際立たせている。

1)(同率)サイクリング (3)

 最初『テンペスト』のためにデザインされたこのメカニズムは、『ウルザズ・サーガ』ブロックで初登場となった。その後『オンスロート』で、サイクリングのようなメカニズムを探していたチームによって再録されている。これは、常磐木でないキーワード・メカニズムが初めて再録された瞬間である。次に登場したのは『時のらせん』ブロックの最後、『未来予知』であった。3回目に再録されたのは『アラーラの断片』ブロックで、プレイヤーが必要な色のマナを手に入れられるようにカードを引く回数を増やすためのメカニズムとして採用されている。

1)(同率)混成マナ (3)

 混成マナは最初『ラヴニカ』ブロックで登場した。いったんセットから取り除かれたが、『ラヴニカ』のリード・デベロッパーのブライアン・シュナイダー/Brian Schneiderがこのセットには何か革新的だと思えるものが欲しいと判断して戻している。混成マナが最初に再録されたのは、混成マナを中心として作られたブロックである『シャドウムーア』のときである。ブースターに入っているカードの約半分が混成カードだったのだ。次の混成マナが帰ってきたのは『アラーラ再誕』の時であり、このときはカードが2つの2色の組み合わせのうち1つに当てはまるようにするために使われている。その後、マジックが人気のあるラヴニカ次元に『ラヴニカへの回帰』で戻ったときにも再録された。

1)(同率)占術 (3)

 占術は『ミラディン』ブロックの最後である『フィフス・ドーン』で、アーロン・フォーサイスの手によって作られたものである。アーロンはこのメカニズムを、プレイヤーがよりスムーズにカードを手にできるようにするためにデザインしている。このメカニズムはデベロップ上とても有用であることがわかり、3回再録されることになった。まず、『時のらせん』ブロックの最後の『未来予知』で、ここでは「未来」というテーマを表している(占術はフレイバー的には未来を覗いている)。次の再録は『マジック2011』で、常磐木でないキーワード・メカニズムの再録として選ばれた。それ以降の基本セットでは、同じように常磐木でないキーワード・メカニズムを再録することになったのだ。最後が、『テーロス』のデベロップ中に、占術が追加され、『テーロス』で起こるあらゆる相互作用をより起こりやすくするため、カードを引くことをスムーズにすることになったのだ。

1)(同率)分割カード (3)

 分割カードは『Unglued 2』のために作られたが、実際に印刷されたのは『インベイジョン』が最初である。最初の再録は『ラヴニカ』ブロックの最後の『ディセンション』の金色カードだった。分割カードが次に登場したのは『次元の混乱』で、ここではどちらの半分も同じ色という新しい試みが成された。全て赤だったのだ。そして3回目の再録が『ドラゴンの迷路』で、新しく融合という能力が追加された。これはマナさえあれば分割カードの両方を唱えることができるというものである。

私がウィザーズで経験した、カード・デザイン以外のお気に入りの仕事トップ8

 私の仕事の素晴らしいことの1つは、マジックのカードやメカニズムやセットやブロックをデザインするだけでなく、他にもいろいろなクールなことをしてきたということである。

8) ジャッジ
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 長年にわたり、私はレベル4ジャッジだった。私はプロツアーのフィーチャー・マッチ・エリアを担当し、とても活発にジャッジ認定をおこなっていたのだ。

7) クリエイティブ・チームのマネージャー

 私が主席デザイナーになった当初は、同時にクリエイティブ・チームの監督もすることになっていた。私の担当期間中に作られたのが、『ラヴニカ』ブロックと『時のらせん』ブロックである。

6) サンディエゴ・コミコンのパネルでのモデレーター

 長年にわたり、私はサンディエゴ・コミコンに参加していた。ある日、私はエレイン・チェイス/Elaine Chaseのオフィスに行き(エレインはマジックの上席ブランド・マネージャーである)、コミコンでパネルをやってもいいかと尋ねた。私の本来の計画では、1人でちょっとしたパネルをやるつもりだったが、すぐに大ごとになり、私は毎年そのモデレーターを務めることになった。毎年の私のハイライトの1つである。

5) 物語の進行係

 短い期間だったが、私と友人のマイケル・ライアン/Michael Ryanはマジックの物語の責任者になっていた。その物語とは、諸君もよく知っているウェザーライト・サーガである(少なくともその初期には)。我々は『ウェザーライト』から『エクソダス』の途中まで責任者だった。テレビの脚本家としての前職があったので、私はマジックの物語を紡ぐのが好きだった。

4) プロツアーのビデオ制作者

 8年にわたり、私はプロツアーの日曜日に参加していた。私はビデオ作成の「ショー」部分を構成する責任者だった。コメンテーターと協力し、カメラをどこに向けて欲しいかをディレクターにアドバイスしていた。この仕事では、大学時代に学んだコミュニケーション学関連の技術が非常に役に立った。

3) 映画コンサルタント

 私は、現在マジックの映画のプロデューサーやライターと協力して働いている4人のウィザーズ・スタッフの1人である。映画がマジックを正しく表すものにすることが我々の役目なのだ。その映画について、現時点では、すごいもので、私はすごく興奮している、としかお伝えすることができない。

2) デュエリスト誌の編集長
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 私は余暇を使って、雑誌の編集長も務めていた。私は素晴らしいスタッフと共に作り上げた全ての記事をこの上なく誇りに思っている。

1) マジックのスポークスマン

 毎週のコラムやポッドキャスト、毎日のブログやコミック。ソーシャルメディアを通しての多くのプレイヤー諸君との交流。数多くのインタビュー。マジックを作ることで手一杯になっていないとき、私はマジックについて語っている。そしてそれは私の仕事の中でも気に入っている部分の1つである。また、私は、それがよりよいデザインへと繋がっているとも信じているのだ。

最初から大きく変化したセット、トップ8

8) 『タルキール覇王譚』
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 最初は、このセットに存在した氏族は4つで、楔がテーマにもなっていなかった。

7) 『時のらせん』

 最初は、『時のらせん』は時間操作がテーマだった。過去/現在/未来というブロック計画にたどり着いたのは、第1セットで「過去」とやりとりする方法を探し始めてからのことである。そこから郷愁を扱うことになり、気がついたら郷愁はこのセットの(そしてブロック全体の)独自性を作り出す大きなテーマになっていたのだ。

6) 『ミラディン』

 一番最初は、『ミラディン』のクリーチャーは闘技場で戦わせるために他の世界から輸送してきたものだったので、金属成分はなかった。3つのブロックをつなぐ物語の一部で、その物語が日の目を見ることはなかった。クリエイティブ・チームは基本的な発想を取り入れたものの、舞台となる時期をずっと先、持ち込まれた存在が何世代もかけて自分の組織に金属を折り込んでいった後にしたのだ。

5) 『テンペスト』

 ラース世界はもともと、主となるメカニズムに毒を使うことで危険性を表す予定だった。しかし、開発部が毒をマジックから取り除くことに決めたので、毒というテーマはセットから取り除かれたのである。

4) 『ラヴニカ』

 最初は、このセットでは多色の半分が通常の金色、残りの半分は混成カードになる予定だった。しかし初期のプレイテストが芳しくなく、削る必要があると示されたのだ。

3) 『オンスロート』

 『オンスロート』のデザインのほとんどの期間は、変異もサイクリングもなく、部族テーマは小要素にすぎなかった。詳しい話を聞きたい諸君は、最近のポッドキャストを聞いてみてくれたまえ(英語)。

2) 『ミラディンの傷跡』

 何ヶ月もの間、『ミラディンの傷跡』は『新たなるファイレクシア』であり、新たなるファイレクシアがかつてのミラディンであったということをプレイヤーが知るのはブロックが終わってからという予定だった。しかし、それでは物語の一番面白いところを飛ばしてしまっていることになるということに気がつき、やりなおしたのだった。

1) 『イニストラード』

 初期企画のほとんどの期間、2011年秋セットはゴシックホラーのセットではなかった。ゴシックホラーのセットは、2012年春の独立大型セット(後の『アヴァシンの帰還』)になる予定だったのだ。

トップ8で充分だ

 諸君がこれらのトリビアを楽しんでくれたなら幸いである。いつもの通り、諸君の感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、世界への旅をする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたがあなた自身のトップ8を紡ぎますように。

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