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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

影を追う その2

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影を追う その2

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2016年3月21日


 『イニストラードを覆う影』プレビュー第2週にようこそ。先週、デザイン・チームを紹介し、このセットがどう作られたかの話を始めた。今回はその後半の話をして、新しく2枚のクールなプレビュー・カード(と、クリーチャーでないトークン・カード)を紹介しよう。楽しそうだと思うかね? それでは続きだ。

影に隠れる

 先週の終わりにも書いたとおり、デザインはイニストラードの世界を飲み込んでいる狂気を再現することに集中した。そのため、以下のようなメカニズムを採用している。

  • マッドネス ― 捨てられるに際してそのカードを(しばしば安いコストで)唱えることができるというメカニズムで、初登場は墓地を中心にした史上初のブロックである『オデッセイ』ブロックの『トーメント』で、その後『時のらせん』ブロックで再録されている。このメカニズムには乗り越えるべき多くの障壁があったが、マッドネス以上に狂気マッドネスを表すメカニズムは存在しない。
  • 昂揚 ― このメカニズムは(『オデッセイ』の)スレッショルドの調整版で、自分の墓地のカードに4種類以上のカード・タイプが含まれている場合とそうでない場合で違う効果を持つようになる。先週書いたとおり、様々な条件を試してみたが、この(ケン・ネーグル/Ken Nagleが提案した)ものが一番うまくいっていた。
  • 潜伏 ― これは、それよりもパワーの大きいクリーチャーにブロックされなくするという回避メカニズムである。これは、ブロックされないクリーチャーをオーラや装備品で強化することができない回避メカニズムとしてデザインされている。
  • 両面カード ― イニストラードに戻るなら、旧『イニストラード』の派手なメカニズムを再録しない手はない。デザイン・チームは狼男などの両面カードの好評な実装を維持しながら新しいデザイン空間を探すのに尽力した。

先週のまとめ:イニストラードに戻ると決めて、実際に戻すものは何なのかを理解するために時間をかけた。前回のイニストラードでプレイヤーが好きだったものは何かという市場調査に立ち返ったのだ。データを見ると、『イニストラード』は史上最も人気の高いセットの1つである(比肩できるのは『ラヴニカ』と『ラヴニカへの回帰』の両ブロックのセットぐらいなのだ)。「人気の高い」と言ったのは、メカニズムとフレイバーの両方が好評だったという意味である。

 『闇の隆盛』は世界観の上ではほぼ同点で(拡張なので当たり前である)、メカニズム的にはわずかに下回っているとはいえ充分高い。『アヴァシンの帰還』はこの両セットに比べると低い。天使というテーマは非常に人気が高くセットの売れ行きも上々だったが、市場調査の結果はプレイヤーはこの世界観やメカニズムをあまり気に入らなかったということを示していた。イニストラードに戻るのであれば、『イニストラード』ブロックの終了時ではなく開始時に戻るべきだということは明白だった。物語を考える上で重要なのは、『アヴァシンの帰還』で起こったことの中の一部をどうやって無効にするかということである。状況は再び悪くならなければならないのだ。そうなると......そう、ほとんどの存在が、世界の守護者でさえ、狂い始めるというのはどうだろうか......?

 こうして、我々はセットのほとんどを埋めて、あと1つのキーワードを入れる場所が残された。メカニズム的には、その追加されるキーワードに必要なのは次の要素だった。

  • カードの流れを助ける ― 各セットで取り組んでいることの1つが、カードを手に入れやすくするための方法を提供することである(これは占術が常盤木になったことで多少簡単になっている)。デザインの大部分は特定のシナジーを作ることに依っており、それらのシナジーを有効にするためカードの流れを充分高めるようにしたいのだ。
  • 長期戦のマナの使いみちを提供する ― 適切にデッキを作成したプレイヤーが、充分なマナを手にできるようになるよう我々は尽力している。そのための手段の一つが、プレイヤーが土地の割合を少し高められるように、ゲームの終盤でそのマナを使って何かができるようにするというものだ。カードの流れを助けるメカニズムにはこの助けにならないものもあるが、大抵は有用である。

 フレイバー的には、また別の問題があった。デザイン・チームは世界が狂っていくという雰囲気を再現することに全力を尽くしていた。ストーリーが組み上がっていくと、そこには謎という要素が組み込まれていた。主人公ジェイスがイニストラードを訪れ、何かがひどく歪んでいるということを知ってその理由を探ることになるのだ。狂気マッドネスはジェイスが理解して止めようとするものでありもちろん重要なのだが、このセットにはメカニズム的に謎と繋がるものが必要だということが明らかになった。追加できるメカニズムは1つだ。それを使って、メカニズム的、フレイバー的な需要をまかなえるだろうか?


アート:Chase Stone

影を投げかける

 まず我々はそのメカニズムに名前を与えることから始めた。我々はそれを「調査」と呼ぶことにした。さて、調査とは何か。当然、カードを引くことに関係しなければならない。1つめのメカニズム的要求に答えたうえで、フレイバーにふさわしくなければならない。調査によってさらなる情報(つまりカード)が手に入るものだ。我々は様々なメカニズムを試したが、最終的に赤の「衝動的ドロー」能力に似たものになった(自分のライブラリーの一番上からカードを追放し、ターン終了時までそれを唱えられる)。

 ここに2つの調整を加えた。1つ目が、ライブラリーの一番上から追放したカードは裏向きで追放されるようにした。これによって、唱えることができるカードが何か自分ではわかるが、対戦相手にはわからなくなる。これで多少の謎の要素が増えると感じたのだ。2つ目に、唱えることができる期間を次の自分のターンの終了時までにした。これによってそのカードを唱えるのに充分なマナが使える可能性が高まる。デザイン・チームはこのバージョンの調査をしばらく試し、そしてこれに満足した。そして、それをデベロップに引き渡したのだった。

 デベロップはファイルを手にして、このセットのプレイを始め、メカニズムの精査を始めた。我々は高レベルのプレイからデベロッパーを集めているので、デベロッパーは一般により良いプレイヤーである。彼らは調査をプレイし、そして問題を見つけた。追加されるカードは非常に価値があり、ほぼ確実にプレイされるのだ。結局は引いたカードを次のターンにプレイしなければならないキャントリップなのに、このメカニズムはあまりにも文章が多かった。

 『イニストラードを覆う影』のリード・デベロッパーのデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysは、その代替となるものを探すための小デザイン・チームを組織した。条件はデザインのものとほぼ同じだった。(謎という要素を表すため)「調査」という名前で、カードの流れが必要だった。ただし、デイブは長期戦におけるマナの使い方の問題は他のカードに任せることにした。小チームは閃きを求めてストーリーを掘り下げることにした。世界構築からの細かな情報の中に、ねじれた小さな石の手がかりが大量にあるというものがあった。


アート:Noah Bradley

 ここから、調査によって手がかりを見つけるという方向性ができた。調査によってアーティファクト・トークンが生成されるというのはどうだろう。アーティファクト・トークン、それも手がかり・トークンだ。では、「手がかり」とは一体何をするものなのか。デザイン的にカードの流れが必要だ。それなら、このアーティファクトを生け贄に捧げてカードを引くとしたらどうか。小チームはそれが単に「カードを1枚引く」にならないよう、マナをコストとしてつけた。このコストは必要に応じてデベロップが調整できる部分である。

 それに満足した小チームが、デベロップに提出した。デイブ率いるチームはそれをプレイして、同じく満足という結論に至った。他のマナ・コストも試したのだろうと思うが、結局は{2}が一番よかったのだ。マナを払うと言えるだけの量ではあるが、カードを引くのが困難になるほどではない。

 調査について理解してもらうためには、カードを見せるのが一番だろう。実際、プレビュー・カードとして2枚お見せしよう。両方とも調査付きだ。不屈の追跡者》と《ウルヴェンワルドの謎》、それに手がかり・アーティファクト・トークンをご覧あれ。

 この例を踏まえて、いくつか説明しよう。1つ目に、「調査」はキーワード処理(動詞であるキーワード)であり、効果であり、何かが起こったときに処理されうる効果である。例えばこのプレビュー・カードでは、土地が1つあなたのコントロール下で戦場に出るたびき、あるいはあなたがコントロールするトークンでないクリーチャーが1体死亡するたび、調査を行うのだ。

 2つ目に、手がかりが生け贄に捧げられたときに誘発するカードを作った。これはいくつかの意味で重要である。その存在によって、いつ手がかりを生け贄に捧げるかという選択が興味深いものになる。いつでも可能なかぎり早く生け贄に捧げれば良い、というものではなくなるのだ。これによって調査を持つカードとの主軸的繋がりが発生する。これによって、それを軸にしたデッキを作る動機となるのだ。最後に、これによって手がかりに、ただカードを引く以外の効果を持たせることができる。手がかりを生成するカードに生け贄による誘発型能力を持たせれば、実質的には手がかりに2つめの効果を与えることになるのだ。

かつての自分の影

 調査が最後のキーワードだが、デザイン・チームにはまだ他に解決すべき問題があった。まずは部族である。『イニストラード』の特徴の1つが、4つの「怪物」の部族(スピリット、吸血鬼、狼男、ゾンビ)と人間の存在である。これを1つずつ見ていこう。

人間

 前回は、人間は「怪物」に包囲され、生き残りのためにあらゆる手段を講じていた。装備品の中には、人間の手にあるときに強くなるものもあった。人間は怪物と戦うために協力するというテーマもあった。これは今回も継続しているが、新しいフレイバーが加えられている。狂気が世界を覆うと、人間たちは非常に影響を受けやすいので狂い始めた。人間は全ての色に存在するが、部族の要素は白と緑に集中している。

スピリット

 スピリットは人間と関わりがある。今回も、人間が死亡することでスピリットが生成されることがある。スピリットのほとんどは飛行を持ち、周りのものを操作するところからコントロール寄りの雰囲気がある。世界が狂気に覆われ、スピリットもその影響を受けていろいろな意味で囚われることになる。スピリットの主な色は白と青である。

狼男

 狼男の動きについてどう変更するかの議論をしたが、現状のままにすることにした。旧『イニストラード』と同じ条件(呪文を唱えなければ狼男になり、ターンに2つ呪文を唱えれば人間に戻る。気づいていない諸君のために添えるなら、フレイバー的には、夜はあまり活動しないものだ、ということを示している。)で変身したり戻ったりする両面クリーチャーのままである。また、今回も狼はメカニズム的に狼男と関連している。これはドラフトやデッキ作成のための枚数を確保するためだ。全ての部族の中で、狼男の変化が一番小さい。狼男や狼の色は、赤と緑である。

ゾンビ

 ゾンビは今回も、長期戦で対戦相手をゾンビで埋め尽くしていくことを企図した、遅いコントロール型のデッキである。ゾンビは今回も墓地と密接に関わっており、墓地から戻ってくることも多い。今回も自分の墓地にある死体の部品(クリーチャー)から「ゾンビ軍団」を作る方法はあるが、このテーマ自体は前回よりも薄れている。新しいフレイバーの1つが、ゾンビは世界に広がる狂気に侵されない唯一の部族であるということである。ゾンビは青と黒だ。

吸血鬼

 変化が一番小さいのが狼男なら、変化が一番大きいのは吸血鬼である。『イニストラード』では、吸血鬼は戦闘ダメージをプレイヤーに与えた時に+1/+1カウンターを得るという名前の無いメカニズム(開発部内では『ミラディン』にいたクリーチャーの一群に倣ってスリス能力と呼ばれていた)を持つ、最も攻撃的な部族だった。スリス能力は(ほとんど完全に)なくなった。その代わりになるのが、吸血鬼の色である黒と赤に存在するマッドネスとの強い繋がりである。イニストラードの吸血鬼は狂いつつあり、それは多くの吸血鬼・カードにマッドネス能力があることによって表されている。

天使

 ああ、厳密に言えばこれは『イニストラード』の部族ではないが、『アヴァシンの帰還』では一大勢力だった。この第3セットからの最大の繋がりが、通常より多い天使がいて、そのほとんどが世界を席巻している狂気に堕ちているということだ。天使は主に白だが、奇妙な形でいろいろな影響を受けている。

疑いの影もなく

 デザイン・チームが取り組まなければならなかった最後の課題はもう少し複雑だったが、それについて説明しよう。シナジーの働き方には2種類ある。「自然シナジー/natural synergy」と「連結シナジー/linked synergy」である。自然シナジーは、セットに含まれる要素同士が自然に重なっている場合である。例えば強襲は攻撃を推奨しており、変異は相手を欺く機会を求めている。したがって、この2つのメカニズムはお互いにシナジーを形成する。この2つのメカニズムがあれば、それだけでシナジーが成立するのだ。

 連結シナジーは、2つのメカニズムが直接は繋がらないが共通のシナジーを通して連結しうる場合のことである。例えば、マッドネスは直接は昂揚と繋がらないが、この2つはともに手札を捨てる効果とシナジーを持つ。マッドネスは捨てることで誘発するので捨てることが必要であるし、昂揚はカードを捨てることで「有効」にすることができる。『イニストラードを覆う影』は、自然シナジーよりも連結シナジーのほうが多くなっている。

 連結シナジーのほうが難しいのは、有効にするための前提が多くなるからである。自然シナジーでは、必要なのはそのシナジーを持つメカニズムを入れることだけで全てである。一方の連結シナジーでは、何がその連結を生み出しているのかにも注意を払い、メカニズム2つだけでなくその連結するカードも入れるようにしなければならないのだ。

 『イニストラードを覆う影』をデザインする中で、連結している要素が何なのかを見つけ、それをファイルに入れるとともに、デベロップがその必要な要素を残すことができるように全てを文書化する必要があった。これは、諸君がこのセットについての知識を深めた時に再び取り上げるテーマとしよう。今ここで取り上げているのは、デザインを完成させるための鍵となる要素の1つだったからである。


アート:Eric Deschamps

自身の影に怯え

 本日はここまで。今週と先週の2週が諸君に『イニストラードを覆う影』のデザインについて何らかの知見をもたらしてくれたなら幸いである。いつもの通り、諸君からのこの記事やセットに関する反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『イニストラードを覆う影』のカード個別の話をする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが狂気に堕ちることなくネットを楽しめますように。

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