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なかしゅー世界一周
なかしゅー世界一周2012・第14回:殿堂候補者たちのプレイング
読み物
木曜マジック・バラエティ
2012.07.05
なかしゅー世界一周2012・第14回:殿堂候補者たちのプレイング
By 中村 修平
アンコールワットでiPhone用の壁紙を撮影するという用事も済まし、変な日本語や変な英語で話しかけてくる胡散臭い人を無視する事にも慣れた3日間のカンボジア滞在。
そういえば最後まで現地通貨を使うことは無く、同行者の誰かがお土産用にわざわざあっちの紙幣をお釣りでもらっていましたっけ。
それと我が人生のライフワークのひとつでもある、1人で遺跡のどこかでぼけーっとする時間を存分に浪費し、帰国の途に着いたのは木曜日の深夜。
幸いなことに、天気予報曰く週末に来襲予定だった台風5号は、日本を目の前にして熱帯性低気圧へと変わり、なんとか数時間ほどの遅延で成田空港へと帰国できたのです、が。
もちろんこんなスケジュールでマジックの大会へと出れば結果はだいたい予想通りなわけで・・・
グランプリ・横浜
というわけでグランプリ・横浜はひどいものでした。
グランプリ・マニラとマッチレコードが全く同じ、バイ明け後に負け(これも同じくフィーチャーマッチ)、勝ち、勝ち、負け、勝ち、負けでの初日落ち。
世界選手権以来のほぼ半年間、掛け値なしに全くモダンについて触っていなくて3勝もできたことに驚くべきか、それとも連続初日落ちの不甲斐なさについて悔やむべきか。
もちろん後者であるべきだとは承知していますが、負けて当然というのがこれほどそのとおりなグランプリも久しぶりのことでした。
そんなグランプリ・横浜ですがプレイヤーとして役目を終えた後も、とにかく慌ただしかったという印象ですね。
土曜日夜は某所で秘密の集まり的なものに参加していたり、日曜日はカバレージを手伝わせていただいたり、夜は夜でニコニコ動画さんの実況解説をさせていただいたり(編注:こちらでタイムシフト視聴ができます)。
もう少しくらいはマシな解説をできないものかとは、毎度放送を終える度に思ってしまうのですが・・・
つかの間の休息?
週末を終えて、旅の疲れから真っ白な灰になることおおよそ1週間。
久しぶりの日本滞在、いやホームに浸かりつつ次の旅行計画を立てている。
というのが今の近況です。
とはいえ、ひとつひとつは小さなものでも、積もり積もってしまうとけっこうな量になっているわけで、今はその処理に追われている毎日ですね。
それはそれとして、目下の問題として、私のこの1週間内に書くべきことが特に無かったのです。
ちょっと編集さんからの要請で今週も書いて欲しいということになり、ネタが無いよどうしようとのやり取りの末、まあ殿堂とかどうでしょうね、今年は書けるでしょうから。
なるほどなるほどで、机ならぬノートPCの前で瞑想すること締め切り24時間前。
あ、ウィンブルドンという名の《時間の熟達》により気がつけば締め切り21時間前といった塩梅になりつつ、
お題が決まった今週の~。今回はマジックの殿堂について書いていきたいと思います。
まず殿堂とはなんぞや
それについて詳しくは鍛冶友浩の「デジタル・マジック通信」で。
と、いきなり丸投げスタンスで挑ませてもらうとして、簡単に言ってしまえば通算獲得プロポイント100点以上、それに加えて初めてプロツアーに出てから10年が経過しているプレイヤーのみに『とりあえずは』選ばれる権利が発生するという仕組みです。
ちなみにプロツアー優勝で獲得できるプロポイントが30点。そこから考えてこの条件は厳しいのか、優しいのかは個人の判断によるところなのでなんとも言いがたいですが、ともあれ100点というのはあくまで選出されるために必要な最低条件でしかありません。
各人の投票枠が5人までという縛りから、選挙人である同僚、関係者達に強く印象を残していなければならないのに加え、他候補を圧倒する実績が必要不可欠です。
具体的にはどれくらいのモノがあれば良いのか。
マジックの歴史において別格である、プロツアー2勝以上の経験者は脇に置くとして、ただ単にプロツアーを1勝したくらいのプレイヤーは論外、ここ最近の傾向的にプロツアー優勝者であれば更に追加してプロツアートップ8経験が複数回、プロツアー未勝利ならばトップ8経験が5回以上、獲得プロポイントに直すと250点前後がひとつの目安となっています。
もちろん目安は目安ですから、例えばその人の友人や誰かが熱心にロビー活動を行った結果としての当選や、記録には残らずとも記憶に残っているから、もっと別の角度でトーナメントマジック以外での功績からなどなどといった要素も存分にあります。
概して言えることは、選出初年度であるプレイヤーが圧倒的に強いということ。
当たり前といえば当たり前。前年度当選できなかった売れ残りよりも、フレッシュな新星の方に選挙人達の関心がいくのは自然なことですし、そうなると得票数で上乗せというのは難しい相談。
そうなると殿堂投票=新顔は誰かという話になりやすく、そして今年は殿堂のヴィンテージイヤーともいうべき年なのです。
2012年度から被選挙権を獲得したプレイヤーの中に当選確実と目されているプレイヤーがなんと3人もいるのです。
もちろん私も投票する、彼ら3名からまず挙げていきましょう。
パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ
ジョン・フィンケル、カイ・ブッディという、既に追いつくことが限りなく厳しくなっている双天は置いておくとして。
プロたちが「第3のプレイヤー」という場合、フィンケル、ブッディを除いて最強、あるいは彼らのいる頂に挑戦できる、現役で最も強いプレイヤーという意味が込められています。
それ故の問題として、「第3のプレイヤー」と言う場合、その時代や発言者の立場によって意見が異なるということもあるのですが、
そこに限りなく近い位置にいると万人が認めるクラスにあるのが、2009年の殿堂顕彰者であるガブリエル・ナシフと、PV、ことパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサでしょう。
プロツアートップ8回数は歴代3位タイの9回。
さらに優勝経験有りと、殿堂当確ラインをダブルスコアで上回る実績。
ブラジルという非英語圏出身でありながら英語を完璧に使いこなし、自身が英語で書いているコラムは当代随一の評価。完全に隙なし。
PVの場合は殿堂入りというラインではなく、むしろ得票率で90%、ナシフ、ブッディに迫れるかが焦点でしょう。
と、殿堂前ブルーになっている本人にスウェーデンでお説教したのがもう2ヶ月前。
あの時はジュザと3人揃って初日落ちして呑んだくれていたなあと・・・
脇道に逸れそうなのでこの辺にしておくとして、
「この人がならなければ誰がなるのか」
というレベルの存在であることは、衆目が一致するところではないだろうかと。
プレイスタイルについては、かつて何かで語った気もしますが、
『一貫性の権化、強者に対して強いマジック』
です。
対戦相手を常に最高の相手と仮定して、全ての行動に意味があるもの。指向性があるものとして考えます。
それは自分が観測できる事象についても同じことです。
例えば対戦相手がこの手札を持っていると仮定したならば、例え形勢が限りなく不利になろうとも、その考えを取り消して手札に無いものとして一か八かの勝負に出るということは、PVの中ではあり得ない選択肢です。
プロツアー・オースティン2009でのこと。
ZOOを駆るマーティン・ジュザとのトップ8がかかったゲームで、ジュザの手に残る1枚を《流刑への道》と1点読みして、《流刑への道》への対処カードを引くまで耐え続け、結局それは引けずじまいで終わるのですが、それでも死ぬまで《暗黒の深部》+《吸血鬼の呪詛術士》コンボを起動しなかったのは強く印象に残っています。
それはそうと、ラテン語圏お約束ともいえるこのひたすらに長い名前。
本人に聞いたところ、パウロが個人名、ヴィターがセカンドネーム、その後に母方の苗字、父方の苗字と続いているとのこと。どうやら兄達は母方の姓を名乗っていない+かなりのお母さん子らしいのですが、果たして・・・
予想得票率 90%+
大礒 正嗣
歴代最強の日本人マジックプレイヤーは誰か。
この問いに対して、少なくとも私の世代まででは、議論の余地はないと思います。
大礒というプレイヤーは、藤田剛史がこじ開けたものの、その後2年余りの間停滞していた日本人プロツアートップ8という壁をプロツアー・横浜2003準優勝で突き崩してルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得、そして翌年には2度に渡るプロツアートップ8入賞と、日本人がプロツアーシーンの主役へと躍り出る原動力、中心となったエポックメイキング的な存在です。
そういえば、日本人として初めて『第3のプレイヤー』候補として挙がったのも大礒でした。
プロとして精力的に活動した期間は3年程度と短いものの、トーナメントシーンを文字通り支配し続けた日本人は後にも先にも大礒だけです。
そんな大礒のプレイスタイルを一言で表現するとしたら、
『寄せ』のマジック。
詰み筋に入ってから終局へのゲームの運び方が抜群に上手いのです。
特に真価を発揮するのは、初めから終局が見えているデッキ。
1ターン目から既に終局へのカウントダウンを始める瞬殺系のコンボデッキを持たせてしまった日には、第1ターンから既に対戦相手が死んでいるというような事態になってしまっているのを見たのも1度や2度ではありません。
充分な練習時間とパズルボックス系のデッキという要素が揃った時に大礒に太刀打ちできるのは残念ながら人類には不可能、それこそ人間辞めてるレベルが必要な有り様でした。
ついでにマッチに負けた時に、会場の隅で覇気を垂れ流しながら延々と一人回しする光景も耐性が無い人ならそれだけで魂を抜かれるレベル。これもただの人類には止めることは不可能でしたね。
まあ、そんな半分冗談話はさておき、
個人的には彼が殿堂入りできないなら、日本人は誰一人として殿堂入りする価値が無いと思います。
ただ、問題があるとするならば、若い世代への訴求力に欠けることが否めないというのも事実。
活動期間が短かったので、大礒を見ていない、対戦していない世代というのもそれなりの数が選挙人の中にいるのです。
それに加えてもう1人、有力な候補が日本人にいるというのもマイナス要素。
殿堂入り自体は間違いないとは思いますが、得票率がどのあたりになるかはいささか希望的観測が入っているかもしれません。
予想得票率 80%
津村 健志
ご存知スタンダード・アナライズでもお馴染みの津村も今年からの候補者入りです。
実績については言うまでも無いでしょう。
プロツアートップ8数は大礒と同じく日本人トップの6回。
日本人初のプレイヤーオブ・ザ・イヤー保持者。
何よりもマジック界きっての善玉、ベイビーフェイスとして知名度は抜群です。
対戦相手が忘れかけていた《否定の契約》を指摘して払わせた、というエピソードはもはや伝説というか、いささか一人歩きしてしまってよく海外で『本当の話?』と聞かれることがあります。
例えば私が殿堂投票をする際に、投票先がアメリカ人4人というような配分になってしまったら一度検討し直すだろうと考えてしまうあたり、
選挙人の投票枠が5人までという制限がある中、「日本人以外から見た日本人枠」という括りは、どうしても存在してしまうとは思います。
もし大礒と津村のどちらかに票を入れるかとなると津村に得票が集まりそうな、若い世代になればなるほどよりその傾向は強くなりそうな気がします。
大礒のように津村の強さを一言で表現するなら、
『研鑽』
でしょうか。
積み重ねられた莫大な練習量から、正確な打ち筋を追究するというスタイル。
表面的には大礒によく似ているのですが、その実は全く逆という印象ですね。
ただここからは少々本人への苦言となってしまいますが、ここ最近の津村を見ていると歯痒さを感じてしまいます。
トーナメントマジックに対して離れるでもなくの今のスタンスは、プレイヤーとしての津村にとって決して良くない。
率直に言ってしまえば、せっかくの持ち味である切れ味が鈍ってしまっているように思えるのです。
せっかく選ばれるのだから、あの頃のようにとはいかないだろうけどもうちょっと真剣にやってみてよ。と思っているのはたぶん私だけではないはず。
予想得票率 85%
残りの2人を誰にするか。
この先からはシアトルでの殿堂式典への搭乗券付きというにはいかず、いささか私の願望が入り過ぎているという点は認めざるを得ません。
ですが、それでも選ばれて欲しいプレイヤーが1人います。
八十岡 翔太
かつて日本での認知度と世界での認知度に最も差があったのは他ならない、ヤソこと八十岡翔太でした。
ですがここ2年で、最も過小評価されていたプロプレイヤーから、トーナメントシーンで最も対面に座ってほしくないプレイヤーへと知名度が飛躍的に上昇し、いまやプロプレイヤーの中で八十岡を知らない者はいないと言っても過言ではないでしょう。
実績も充分です。世界でただ1人の電脳世界と現実世界でのダブル・プレイヤーオブ・ザ・イヤー受賞者に加えて、プロツアー優勝、獲得プロポイント288点。
そして実力はもはや皆が知るところ。
ですが知り合いのプロ達が、口を揃えてある1点を指摘します。
プロツアートップ8入賞数1回。
ただこれだけ。ですが殿堂というシステムにとってこの差は計り知れないものがあるのは、厳然たる事実なのです。
『せめてあと1回トップ8に入ってくれれば』
私が2006年から07年にかけて一緒に世界を廻った津村健志、斎藤友晴、八十岡翔太に特別な思い入れがあるというのも否定はしません。
ですが入賞数を差し引いても、いや入賞数が少ないにも関わらずPVや大礒、津村と比肩しうる実績を挙げている八十岡翔太は、殿堂入りすべきだと思うのです。
5人目の男
そして最後の1人なのですが、決めあぐねています。
実績を考えると池田剛、ライターという分野を加味すればパトリック・チャピン、かつてのリミテッドマスター、ウィリアム・ジェンセン。そしてアジアでただ一人インビテーショナルを優勝しているテリー・ソーといった面々が5人目候補、
斎藤友晴については、禊というには少々変な気がしますが復帰後にもう一度プロツアーでの活躍が必要だと思っていますが、もし私の1票がそのまま当落線に影響を与えるようであればその限りとは言えない、というのが正直な心境です。
この中で誰を選ぶかは、
もう少し先の投票締め切り、7月19日までに結論を出したいと考えています。
結果発表は27日。
できることならば投票した5人全員が当選していれば良いのですが。
それではまた次週、もしかすればブラジルかアメリカでお会いしましょう。
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