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MAGIC STORY
テーロス
悲劇
読み物
Uncharted Realms
悲劇
Jennifer Clarke Wilkes / Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori
2013年10月23日
《運命の三人組》 アート:Daarken |
テーロス。英雄の地。俺のような英雄の地。お前がこの栄光を共にすることがないことを願う。
俺はかつてイロアスに愛されし者の一人だった。アクロスの密集軍の一員として、仲間とともにファラガックス橋に立って都市国家を防衛し、死呻き峡谷の略奪者達へと向かって進軍した。俺達は多くの敵を屠った。だが、一つの集団の一部として見事に仕えるだけでは十分ではなかった。俺の心は勝利の神の祝福を求めて叫び、俺は自分の勇敢さを神へと証明しようと決心した。
ある日、俺と仲間のストラティアン達はフォベロスの荒れ地を攻撃すべくタイタンの階梯を登った。先の防衛団に追いつくかしないかのうちに、獣の一団が視界に群れた。炎を吐く猟犬、血に飢えたミノタウルス、凶暴なサテュロス、その他にも容易に語ることのできない生物達が。その荒れ狂うけだもの達は何の戦略もなく攻撃してきた、そして俺は同じ心で対峙した――隊列を破り、前方へと駆けた。この刃を濡らす血を切望して。
《ヘリオッドの試練》 アート:Lucas Graciano |
ああ、これぞ栄光! 俺は敵がやって来るや否や打ち伏せ、更により多くを剣に対峙させた。息絶える怪物の咆哮と俺自身の鬨の声の只中で、俺は最初、背後からの叫び声が聞こえなかった。俺は殺戮の絶え間にようやくその音に気が付いた。
振り返ると、恐ろしい光景があった。ぞっとする、黄金の仮面の戦士の密集軍が、俺が後ろに残してきた仲間達を挟み打ちにして迫っていた。俺が軽率に突撃したためにアクロスの兵士達は無秩序となり、仲間達は俺へと追いつこうとしたが、蘇りし者達が進軍する波の下に飲まれた。俺は戦いへと急いだが、その戦いに希望はないと槍が届く前にわかった。俺は盾持ちの仲間が俺を呪いながら死ぬ声を聞いた。
俺は危険を知らせるために都市国家へと戻るしかなかった。俺は苦闘しながら峡谷を抜け、コロフォンの鋭い崖までの道程を測り、やがてどうにかアクロスの城門へとよろめきながら辿り着いた。俺は血を流しながらオロマイの前に倒れ、戦友達にどんな不運が降りかかったのかをあえぎながら語った。
俺は王の前へと連れて行かれた。王は俺の話を聞いた。王は命令を出した。そして俺に判決を下した。
「何にも属さぬことを望むお前は、永久に追放されるがよい」
《岩への繋ぎ止め》 アート:Aaron Miller |
俺はイロアスの笑みを求めてきた、だが今俺はヘリオッドの怒れる瞳にさらされていた。俺の石の寝台はパーフォロスの金床のように熱くなっていった。俺は苦悶の中、投槍のように堅く真の祈りを空へと放った。「神々よ、我が傲慢を償う機会を御与え下さい! 貴方が定めるどのような試練をも受け、我が身を捧げることを誓います」
長い、もしくはそう思われた間、何の答えもなかった。だが俺の下で岩が揺れ、響き渡るような声が大気を満たした。
「よかろう」
《沼》 アート:Adam Paquette |
不気味で静かな洞窟の前に俺は立っていた。枷は外れていた。洞窟からは硫黄の悪臭が流れてきていた。俺は神の言葉をそれ以上聞かなかったが、入らなければならないとわかっていた。
その道は渦巻いた鞭のようにねじれながら下っていった。息が詰まるような毒気は次第に濃くなっていった。俺の周り全てで、聞き取れない咆哮、かん高い笑い、囁きが反響していた。俺の足どりは段々と重く、遅くなった。思考は霞んでいった。全てが暗くなっていった。俺の持つ松明が燃え尽きたのか、それとも目が光を失ったのかもわからなかった。
俺は汗ばんだ肌に冷たいものが触れるのを感じた。何かが通り過ぎた。実体のない、だが悪意あるものが。俺は暗闇の中やみくもに攻撃した。俺の刃がその何かを引き裂いた時、俺の魂も同じように裂かれた。俺は再び、仲間の叫びと俺を呪う声を聞いた。俺の両眼に黒い涙が溢れた。
《苛まれし英雄》 アート:Winona Nelson |
何度も何度もその影は俺を打ち、俺の肉をひっかいては血を凍らせた。その痛みを終わらせるには影を切り伏せるしかなかったが、その死さえも俺の心を裂いた。一撃ごとに、汚れた膿漿が俺の頬を伝った。
ついに金切り声の影は離れていった。
俺はその戦慄の道を先へと進むだけだった。肉体と精神の傷で俺は這って進むしかなかった。これ以上は進めないと思ったその時、俺は前方に広大な空間があるように思えた。有毒の空気は晴れて視界が戻り、だが重苦しい霧がその空間のほとんどを俺の視界から隠していた。完全な静寂、それを破るのは俺の苦しい息だけだった。
前方に見るも恐ろしい岸辺が伸びていた、歯や砕けた骨の岸と、タールのように濃い黒の水面。腐った船体が、むき出しの肋骨のように頭上へと曲がって伸びていた。遠くではオーラが一つ、鈍く輝いていた。降り注ぐ雨の向こうから差す太陽を思い出させた。俺は立ち上がり、のろのろと歩き始めた、その望み無き光に向かって。
薄暗がりの中に、生者の形見が積み上げられた陰鬱な山があった。葬送の骨壷、引き裂かれた旗印、割れた兜、錆びた刃。その青ざめた明かりはその場所の侘びしさを増すだけのように思えた。泥だらけで湿った埠頭が長く、霧の中へと消えていた。そこにどんな小舟が繋がれているかを俺は知っていた。
《静寂の神殿》 アート:Karl Kopinski |
これが、そう、俺の最期だ。神々への俺の償いは定命の者全てに待つ運命と何ら違いはなかった。ただ俺は「大河」の岸へと生きたまま辿り着いたというだけだった。肉体があの恐ろしい流れを渡ったら、俺の魂はこの先、どんな苦痛に耐えるのだろう?
もし苦痛と死が俺の運命だというなら、俺はイロアスとエレボスへ、一人の英雄がそれに面した時にどうするかを示してやろう。俺は桟橋へと一歩を踏み出した、そしてもう一歩。
「あなたの四肢からはまだ生命が離れていないのに、死の国を見たいと願うの?」
その声は柔らかく、だが雷のように静寂を打ち破った。俺は振り返り、驚き、裾まである外衣をまとった人影が、船の横梁の破片に寄りかかっているのを見た、彼女は俺を見て、その瞳は投げ上げた一枚の貨幣のきらめきを映していた。
《エイスリオスの学者》 アート:Cynthia Sheppard |
「あなたは船頭に渡す顔を持っていないのね。どうやって渡るつもりなの?」
俺は手で自分の唇と頬に触れた。いや、それらは無かった。俺の顔は黒い涙に覆われて風貌を失い、残っていたのは目だけだった。葬送の仮面無しに、河の渡し守エイスリオスは俺の名を知ることはない。俺はここに留まるのだろうか、あらゆる存在から悼まれることも、許されることもなく?
「三つめの質問、これでおしまい。あなたは忘却を願うの?」
俺は彼女の射るような視線の前に膝を折った。肺の底からしゃくり上げそうになったが、歯を食いしばってそれを堪えた。俺はこの期に及んでさえも、弱さを見せたくなかった。
「俺が求めるのは赦免だ。抹消だ。平穏だ」
「あなたが求めるものを私はあげられない。それは神々だけのもの。私は聞くことと、もしかしたら助言ができるだけ」
「神が俺をここに送り込んだ。そいつは多くを語らなかった」
「あなたは何に祈ったの?」
「俺は都市国家と神々の法を破った。俺は償う機会を求めただけだ。俺の罪は怪物みたいに大きいのか、罰が与えられるほどに? 俺はまだ十分に苦しんでいないというのか?」
「苦しんでいるのはエレボス様よ。他者の痛みを通してのみあの方は安らぐ。他者の痛みを通してのみ、定命の者達はその運命を見出す」
「それなら俺は奴と取引をした愚か者ということか。ならば、俺は運命を拒絶してやろう」
「運命とは避けられないもの。ただ悟るもの」
「俺は自分の運命を作ってやる」 俺は叫ぶと、顔面そのものが変化し、それ自体が歪んだ死面と化すのを感じた。
「来たれ、渡河の主よ! この痛ましい魂は死の国の暗き岸を望んでいます」
その古の小舟は霧の中から、音もなく滑るように現れた。みずぼらしい案内人が心待ちにして立っており、俺の苦痛が結晶化した顔を受け取るためにその手を差し出していた。代価は払われ、俺達はその暗き地へと滑り出した。
《蘇りし者の密集軍》 アート:Seb McKinnon |
だが俺は死の神へと喜びを与える気はない。俺は鈍い影達の中、暗闇に残る気はない。今なお、最後の一漕ぎが俺の新たな黄金の顔へと降りかかる。俺は蘇りし者の道を行き、死者の軍の中に居場所を探し求めよう。
Theros テーロス
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