MAGIC STORY

テーロス

EPISODE 01

失われし告白

読み物

Uncharted Realms

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失われし告白

Jenna Helland / Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori

2013年9月11日


 アジャニへ

 貴方がこの手紙を読むことはないでしょう、それはわかっています。私はこの話を書き終えたなら、羊皮紙を丸めて陶製の瓶に入れ、沼へと沈めるつもりです。この地での祈り方、少なくとも、薬の神であるらしいファリカへの祈り方です。彼女はまた毒薬の神でもあるので、この便りはただ私の状況を悪化させるだけかもしれません。私は未だこの次元を理解していません――死なないように努めるのが精一杯です。ですが、私は前を向いています。

 私が自分の剣を手に入れた場所については以前お話ししたと思います――テーロスという名の次元、そして今、私がいる次元です。数年前、初めて訪れた時の記憶は曖昧です――節くれだったオリーブの巨木からなる森、岩がちの平原を望む、目が眩むような高い崖。今回到着した時は、私はある洞窟の入り口近くに広がる寂れた沼地に出ました。幸運な巡り合わせでした。その洞窟は神殿になっていて、私はそこの、蛇を好む神官達に世話になりました。彼らは冷淡ながらも有能でした。幸運にもその神官達は私がどこから来たのかを詮索せず、またその助力に対して何の見返りも求めませんでした。今日、彼らは私にこの木炭の筆記具を持たせてくれました。彼らは私に祈りの言葉を書いて欲しかったのでしょう......ですがその神性を理解しない私ができる筈があるでしょうか?


アート:Peter Mohrbacher

 コスは言っていました、アーボーグの後に二度貴方を見たと。ですがその状況を話してくれた事はありませんでした。ミラディンで私を見つけようとしないで下さい、ですが少なくとも、何があったかを知って下さい。ファイレクシアがその金属世界の中に勃興し、飲み込んだことを知って下さい。私達にファイレクシアの汚染に対する免疫の性質をくれた、メリーラという名の若きミラディン人を知って下さい。貴方はその次元を私よりも長く放浪してきましたから、その汚染についてきっと、私よりもずっと理解してくれるかと思います。

 コスは非凡な男です......でした。彼が生きているのかどうか、私にはわかりません。私にわかるのは、彼は残忍な、とても苦しい方法で殺されたという事だけです。コスもファイレクシアの汚染への免疫を持っていますから、ファイレクシア人達は彼が屈するまで切り刻み続けることでしょう。ファイレクシア人は身体の切断に長けています。私とコスは誓い合いました、離れ離れにされてファイレクシア人達が私達を生きたまま、四肢をばらばらにする前に互いで互いの命を絶とうと。ですが彼の最期の時、私はそこにいませんでした。ですので、正確な所はわかりません。もしコスが死んでしまったのであれば、速やかな死であったことを祈るばかりです。

 カーンが去ってから少しの間ですが、抵抗軍には勝算があると私は考えました。法務官達は支配権を巡って互いに争っていました。ですが彼らは全員、侵入者であるテゼレットを嫌い始めました。抵抗軍が手に入れることのできる情報は限られていましたが、エリシュ・ノーンがウラブラスクとシェオルドレッドの領土を支配したようでした。そのため、私達は彼女を倒すことに全力を注ぎました。ですが私達が一人命を救うごとに彼らは八人、十人、百人を殺しました。やがてすぐに、守るべきものはごく僅かのみとなってしまいました。エリシュ・ノーン曰く、「我々は一つの存在だ。 異議を唱えるものは正典の中に組み込んでしまわねばならぬ」。


大修道士、エリシュ・ノーン》 アート:Igor Kieryluk

 ミラディンで生きるということは言語に絶し、理解を越えています。それでも私達は生きました。何日も何日も何日も......もはや生きることができなくなるまで。抵抗軍は失われました。私達の最後の時がやって来ました――最後の抵抗の夜が。

 メリーラとその守り手達とは散り散りになってしまっていました。彼らが捕らわれたのかはわかりません、ですが逃げ延びられたとも思えません。コスと私はファイレクシアの聖堂城塞へと何とか侵入し、死と狂気の巣を抜けました。私達が秘密の小部屋へと辿り着つくためには、屠殺の間を横切る必要がありました。カーンが機械の父であった頃に「特別な」処刑が行われていた所です。今、そこには荒々しく点々と、まるで夜空の星のように散らばる乾いた血痕の他には何もありませんでした。

 その小部屋について最も重要なのは、そこは新たな玉座の間の真下にあるという事でした。そしてコスは呪文爆弾を持ってきていました。ミラディン人はずっと呪文爆弾を使ってきましたが、これほど強力なものは誰も組み立てたことはありませんでした。私達はヴェンセールの図面を用いてそれを改造していました。その着想は、彼がファイレクシアの技術を用いた、次元の間を飛ぶ船の建造計画を記していた筆記帳に殴り書きされていたものです。私を嫌いにならないで欲しいのですが、彼がその船を完成させる前に死んだことを私は喜ばしく思います。

 アジャニ、貴方がファイレクシアを決して目にしないことを祈ります。ですが、想像して下さい。白い布の隅を血の桶に浸したなら、それは広がって沁み渡らない所は何も残りません。それが自然の法則です。それがファイレクシアなのです。その最後の夜、彼らによって全てが台無しにされました。彼らはコスと私がその人工の次元に残る最後の自然なままの存在となってしまうまで、食い尽くし、壊死させました。少なくとも私達にはそう見えました。


倒れし者の記憶》 アート:Eric Deschamps

 私達は、その玉座の間に法務官達が、新たな機械の父、もしくは母を選出するために集合しているのを知っていました。テゼレットもそこにいたと思われます。ですがもしそうであっても、他の法務官達は多分彼を処刑するか、壮大で新たな構築物のためにその身体の部品を手に入れたでしょう。法務官達がこれほど近くに揃うことが再びあるかどうかはわかりませんでした。これは彼らが本当に感じられるであろう打撃を与えることのできる、最後の機会でした。

 それでも、私は考えずにはいられませんでした。この世界に残っている守るべきものは何だろうか? 私は新ファイレクシアの神としての法務官達を見ました。彼らが自身をどう考えているのかを想像します。「見よ、完成ぞ」。もし私達が成功し、新ファイレクシアの神々を全て殺したとしても、それで終わりではないのです。彼らは虐殺に走る心を必要としていません――それは汚染そのものに内在しているのです。エリシュ・ノーン、シェオルドレッド、ジン=ギタクシアス......一つの頭が失われても、一つが栄光の完成の中に成長するのです。そしてファイレクシアは広がります、貴方も私も知っているように。

 コスの言葉です。「勝利が存在しないのなら、永遠に戦うまでのことだ」。ですがその夜、私はその永遠が終わる所に辿り着きました。アジャニ、これを書くのはとても疲れます。ガラスの破片が喉に刺さっているように感じます。見てきたこと全てを忘れることができるなら、盲目になっても構いません。私はそこでコスとともに死ぬ覚悟だったのでしょうか、よりよき事のために自らを犠牲にして? 彼はそう望んでいました。彼の心に選択などありませんでした。どこにいようと、何になろうと、彼は私よりも善き魂を持っていました、それは疑いありません。


槌のコス》 アート:Eric Deschamps

 扉を封じていたにもかかわらず、ファイレクシア人達は私達に肉薄しました。コスが設置した防御を彼らが突破するのは時間の問題でした。壁に武器が打ち鳴らされる音は律動のようで、彼らが中に入るまでの時を数えていました。私には栄光も、偉大でありたいという欲求もありませんでした。貴方には本当のことを伝えましょう――私はただ終わらせたかったのです。終わらせたかったのです。私は傷つき、飢え、ここや他の世界で死んだ者達の名がのしかかっていました。コスは呪文爆弾を設置しました。

「君は行け」 彼は言いました。

 わかりますか? 奇妙な時間でした。ナイフが皮膚へと刺さってゆくとき、時間が遅く感じたことはありますか? それは天使の真実、ですが私は彼の言っていることが理解できませんでした。私は異議を唱えたかったのです、「いけない、それは駄目です。私もここに留まって戦います」、そのような事を。ですが私はただ彼をじっと見ながら、私達のまだ生きた身体から皮膚をはごうとする侵入者達の単一思考が扉を曲げる音を聞いていました。

「君は行け」 彼は再び言いました。「戻ってきても何もない。この世界に封をして、鍵を捨ててくれ」

 そして何処へ? 「私に故郷はありません、コス。行く所もありません」 残していくものも何もありません。

「君は休息を、でなければ新たな戦場を見つけることができる」 彼は言いました。「だが、ここじゃない」

 コスがヴェンセールに何をしたかを話したことはありましたか? アーボーグでの事です、ヴェンセールがファイレクシアの船を建造していたのを見た時、コスはヴェンセールの頭部を岩で覆い、ミラディンへのプレインズウォークを強要しました。

 そして今、私の番でした。ですが彼は私の膝までを石で固めると、私をそこに放置しました。まるで私が、その世界が奪われ終焉を迎えた戒めの標であるかのように。そして彼は、呪文爆弾が私を吹き飛ばしてしまわないように、私との間に壁を立てました。これが、貴方に伝えられるコスの全てです。彼は単純な選択を提示するのです、簡単に選択できるような。ここから去るか、死か。

 彼を許してやってくれ、貴方はきっとそう言うのでしょう。彼は私の命を救おうとしました、助かろうという気などなかった私を。ですが私は彼を憎みます、彼は私を檻に閉じ込めました。その扉は私でないものの手に委ねられ、扉の向こうには私が見てきたあらゆる悪夢が待っているのですから。

 私は素早い次元渡りができたことはありませんでした。以前貴方は教えてくれました、より簡単で、傷つくことない方法を。ですが久遠の闇へと向かう準備をするのは、抽象のナイフで皮膚を裂くように感じられました。両脚が動けないまま、私は心を決めました。ですが去るためには、私はこの悪臭漂う暴力的な、文明の紛いものと繋がり、そこからマナを得なくてはなりませんでした。ですが私が力を感じる前に、小部屋の扉が炎とともに爆発しました。私がそこを離れるには、もう少しかかる所でした。


ファイレクシアの抹消者》 アート:Todd Lockwood

 一体の抹消者が小部屋によろめき入ってきました。これは汚染が生み出した傑作です――ただ殺すことのみを意図した忌まわしきもの。そしてそのゆがんだ未来像のもと、この生物達はその仕事を完璧に遂行します。生き物の口から何列もの歯をほころばせながら、それは私へと向かって来ました。その胸郭から毒の蒸気を漏らしながら、何枚もの刃のような腕が空を切りました。それは死者の皮膚をまとい、潰され壊された生者から受け継いだものの面影を運んでいました。

 抹消者は一歩踏み出すだけで私に肉薄しました。その刃が私の腹部に深く突き立てられようとしましたが、私はその前に剣を構えることすらできませんでした。私は背後へと転がり、床に倒れました。膝下は今も石に包まれたままです。コスの呪文爆弾が、彼が当座しのぎに作った壁の向こうで爆発し、私の背中の下で地面が鳴動しました。ですがその破壊によって何がもたらされたかは、私は知るよしもありません。私は小部屋の上に、奇妙な星座を見ました、暴力と堕落から生まれた模様でした。抹消者は私へと立ちはだかり、その刃が私の頭へと振り下ろされ、小部屋の眺めを覆いました。私は目を閉じ、心の暗闇の中、その星座をテーロスの夜空へと変えました。

 私はヘリオッド、太陽の神を思い出しました。私は剣を手に入れた日、地平線に聳えるその姿を見ました。彼は人間のような姿ですが。星空とともに存在していました。私は絶望的にテーロスを、神の顔を見た唯一の地に抱かれることを求めました。


太陽の神、ヘリオッド》 アート:Jamie Jones

 その悪夢の世界から抜け出すと、私は血に急かされました。久遠の闇の奇妙なゆらめきと混沌の中、私は神について考えました。もしかしたら神々の何かが、テーロスを不滅にしてくれるかもしれない。もしかしたら神的存在はつまり、破壊されず感染もしないのかもしれない。もしかしたら、神々がいれば、堕ちるものは何もないかもしれないと。

 私は、神々とは何か、彼らが何を求めるかを見つけねばなりません。彼らは生贄を求めるのでしょうか? 忠誠を? 尊敬を? 私は回復するまでこの聖なる洞窟の中に忘却されていました、生と死とが何か奇妙に調和し、同時に存在するらしき場所に。私は横たわったまま、岩の細い裂け目からこの新たな世界の青空を見ることができました。私が出て行くのを塞ぐものは何もありません。動けるようになるとすぐに、私は歩き出して生まれ変わりました。私はこの地に留まろうと決心しました、この世界と神的な世話役達の性質を理解するまで。

 アジャニ、貴方がここにいたら私に何をしろと言いますか? 天に向かってヘリオッドの名を叫ぶべきでしょうか? もしくは、そもそも私は彼の名を口にすることを許されているのでしょうか? 生贄を捧げるべきでしょうか? 私の持ち物のうち、神が切望するであろうものはこの剣だけです。

 この祈りはどうでしょうか。私よりも偉大なものがどうかありますように。私が体を休めたあらゆる場所を貪ってきたような、容赦ない悪に打ち勝つ偉大なものがありますように。私がもう求めない苦痛と孤独と記憶を持ち去ってくれますように。

 もしヘリオッドの顔を拝むことができたなら、私はこう言うでしょう。平穏を下さい。平和を下さい。終には安らぎを下さい。アジャニ、私からの手紙はここまでです。もし私の話を聞いたなら、貴方は私を非難するでしょうか? また逃げ出した臆病者と言いますか? そう言う者もいるでしょう、でも貴方は違う。貴方には私のあるべき全てが見えている。ですが私が自分自身を顧みても、そうあるべきだった自分の姿しかわからないのです。

 敬具

 エルズペス

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