MAGIC STORY

久遠の終端

EPISODE 12

第7話

Seth Dickinson
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2025年7月1日

 

Revision12 穴

 ハリーヤは、気付くとまたもヴォンダム卿の頭蓋骨にあいた穴を見つめていた。

 すぐさま目をそらしたが遅かった。本人に見られてしまった。外科医たちは見事に両端を塞いだが、焼けたトンネルはまだ残っている。脳の中に。

 あの臆病者、アルファラエルがヴォンダムの頭部へとブラックホールを投げるのを防げなかった。自分の落ち度だ。

 「舌だ」皮肉っぽくヴォンダムは言った。

 「出してはいません」

 「冗談だ、従者よ」

 「存じております」

 ふたりを乗せた蒼星はサンドッグ号という名前だが、乗組員たちはハリーヤの知らない伝統に則って「帆船」と呼んでいる。何が起こっているのか、知らないことだらけだ。

 ハリーヤは言いたかった。ヴォンダムに向き直り――「私はただ、黙って閣下を信じるべきでしょうか?」と。

 だが肯定は返ってこないのではという不安があった。

 船の防衛を担当する技師が叫んだ。「タロ・デュエンドの通行レーダーが我々を探知しました」

 「ヴォンダム卿の伝言を届けろ」サンドッグの艦長が命じた。「砲台が我々を探し始めたらまず妨害し、次に私に知らせろ」

 彼らは誰にも、スラッツ艦長にさえも告げずに、密かに速やかにドーンサイアー号を離れた。ハリーヤは従者仲間に別れを告げることもできなかった。理解はしている――時には果たさねばならない義務というものがある。それでも……卿の頭には穴が開いている。治癒には時間が必要だ。その傷は永遠に癒えないかのように、まるで自身が真の自身でないかのように卿は振舞っている。死んだ日にハリーヤが巻いていた聖布を、今もなお身体に巻いている。

 尋ねたとしても、アルファラエルを探し出して殺すとしかヴォンダムは言わないだろう。騎士としての誓いにおいて、それは必ずしも復讐ではない。

 「サンドッグ号」無線が伝えてきた。「こちらタロ・デュエンド。レーダーによればそちらは大型機ですね。適した着陸地点がありません。南へ迂回してアルターズ30へ、あるいは進路変更をお願いします」

 「私からの最初の伝言を繰り返せ」ヴォンダムが命じた。「スパイを引き渡す機会をもう一度与えろ。ホープライトを発進させろ。上空からの監視、脅威マップ、そして墜落現場からアルファラエルをここへ運んできた船の情報が欲しい。それから接近し、光電歩兵を投下して最適解探索を行う」

 「撃たれるかもしれません。翼の耐久力は低いのです」艦長は大気圏内で蒼星を運用するのを嫌っていた。一般的に思われているのとは対照的に、宇宙船は惑星からの攻撃に対して脆弱だ。ただしハリーヤの幼少期にあったような、一方的な大量虐殺の場合は別だが。

 「総和を信頼せよ、艦長」

 「閣下を信頼しております」ヴォンダムが乗艦して以来、艦長は畏敬の念と職業的な不安が入り混じった目でこの騎士を見ていた。「死を怖れる者はこの船に乗っておりません。私の懸念は、この船を無駄にしないようにということです。カヴァーロン付近に我々が持つ資源は多くありません。そしてもしカヴァーロン帝国政府が我々を撃墜しようと決めたなら、砲台があります」

 「艦長、まず私たちが標的を殺す。そうすれば向こうにはいくらでも撃たせてやろう」これは単なる空虚な弁論ではない。ヴォンダムが言っているのは、「使命を達成さえすれば、ここで全員が死んでも構わない」ということだ。総和とは抽象的な神性ではなく、現実的で確固とした数字。それを増やすことこそが使命なのだ。その数を大きくすることこそが信念なのだ。そしてソセラでは、誰もが自身の使命に対して信念を持っている。自分たちは、死した星を再燃させるためにここにいる。その使命に比べたなら、人生など何だろう?

 カタフリンがいてくれたら――そうハリーヤは願った。この状況をサミズム信者的に正しく解釈してくれるだろう。

 「さあ」ヴォンダムは呟いた。「ここで何が起こっているのかを話そう」

 「ああ……」何日もこの会話を待っていたのだ。そしてついにその瞬間が訪れ、ハリーヤは恐怖に震えた。「その、閣下」

 「何だね?」

 「戦闘に行く前に、お身体を洗って聖布を巻き直した方が良いでしょう。説明して頂く間にそれを行っても宜しいでしょうか?」

 「それがいい。だが皺だらけの尻から汗を拭うのではなく、きちんと私の目を見ていて欲しい。独りで立ち向かうのは困難なことだからな。さあ」ヴォンダムは仲間にそうするように、彼女の肩を叩いた。「教義理念書について教えよう」


 手渡された記憶水晶を、彼女は指先レーザーで読み取った。卿の身体からアルガンオイルの匂いは消え、マニキュアの除光液のような匂いがする。その身体は燃えるように熱くなっている。

 ハリーヤはそれを読んだ――

厳として命ず、汝の手を燃せ!
集いし騎士らよ、一斉に:
1リットルの純水 (絶対温度299度) が満たされた水盤の封を切り、
汝の燃ゆる手をその内に投入せよ。
湯が沸き立ったなら水盤を記録し、新たな水盤の封を切って同様の手順を繰り返す。
これを読む間も手順から外れるなかれ!

 それは列挙された恐怖の一項目であり、恐ろしい力を持つ物体の扱い方を解説していた。失敗すれば……あなたはあなたではない自身に取って代わられます。それはあなたの知識と行為を完全に掌握するでしょう……あなたのように歩み、それがあなたではないと知るものはいません。そしてあなたは何も残りません……消滅を選ぶのです……

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アート:Ryan Pancoast

 彼女は息を呑んだ。「この“もの”が……自分を自分ではない別人にしてしまう。閣下は、それがご自身に起こったとお考えなのですか?」

 ヴォンダムは頷いた。鼻の横の跡が、蒼星の武器庫の青い光を捉えている。裸で騒々しい光電歩兵たちが列をなしてサウナから出てきて、装備を整えながら互いを叩き合っている。

 「この話はできる限り先延ばしにしたかった。一度話したなら、君もいくつかの……極めて難しい真実を理解することになるだろうからね。だがまずは、私が信じている事態が起こりつつあるという所からだ。そのような“もの”のひとつがソセラにあると私は信じている。そしてソセラにおける真の信仰の使命が、その“もの”を脅かしている。従ってその“もの”は使い手を、その力の有用な使い手を求めている。もしその“もの”が使い手を見つけたらなら、私たちの使命は挫かれ、ソセラの恒星としての復活は阻止され、ソセラが総和へと貢献するであろう何十億恒星年を奪ってしまうだろう。生き残った者でさえ、無意識のうちに不可避終焉の道具とされ、敵の勝利を手助けする運命に陥るのだ」

 ハリーヤは「そうなの?」という顔を向けずにいられなかった。自身の母親のそれを。

 ヴォンダムは声をあげて笑った。「そんな表情、初めて見たよ!」

 「閣下、アルファラエルはそのような“もの”を持ってはいませんでした」

 「ああ、持ってはいなかった。だがこれから持つのだろう。だからこそあの男はドーンサイアーから逃げることができたのだ。その“もの”は全てを操っていた。スラッツ艦長の未来視、私の死、そして私の生存。すべてはアルファラエルを同朋から引き離し、その“もの”へと導くために」

 「ですが、どのように? その“もの”とは神なのですか? 全能なのですか?」

 「いや。総和に感謝すべきことに、その“もの”にも限界はある。使い手の過去にしか影響を及ぼせないのだ。アルファラエルを取り巻くあり得ない状況が、私にほのめかした――スラッツ艦長が私のあり得ない死を確実なものと予見した時、アンストラスに関わる何かが動いているとわかった。それはアルファラエルを取り巻いている。彼はいずれその“もの”に接触するだろう」

 「閣下、時はそのようには動きません! 現在はただ、現在です。まだ起こっていないことは、まだ起こっていません。アルファラエルがその“もの”を見つけるために逃走できた理由は、その“もの”を見つけるため――意味が通じません。彼は得体の知れない何らかの影響など一切なく、その“もの”を正直に見つけていなければいけません。そしてそうであったなら、得体の知れない何らかの影響など不要であるはずです」

 「事実、あり得るのだ。どれほど可能性が低くとも。その“もの”を見つけ出すためにアルファラエルが逃走したという事実が、その“もの”へと作用し、アルファラエルの逃走とその“もの”の発見を可能にさせたのだ。不可能を可能にすることはできない。だが可能の側へと大きく向けることはできる」

 「であれば、閣下。その“もの”が、ある種の忌まわしい方法で、持ち主の過去に影響を与えることは認めます」ハリーヤはそう答えたが、それがヴォンダム卿をアンストラスにするという件は認めていない。「私たちには何ができるのでしょうか?」

 「アルファラエルを殺すことは可能だ」

 「ですが、その“もの”は彼を守ると思われます。途方もなく低い生存確率を覆すと思われます」

 「ああ。私が思うに、実際既にそうなっている」卿は声を潜めた。「私たちはもっと大きな戦力でここに来られたはずだ――多くの騎士とその槍、そしてこの一隻ではなく複数の船。だが、その“もの”が――それを不可能にした」

 これは悪夢だ。ハリーヤは反論したかった。けれど何の意味がある? これはアンストラス、忌異の現実。だが自分を憤慨させ、混乱させているのはその“もの”なのだ。

 「タロ・デュエンドに歩兵を全員送り込み、あらゆる建物を隅々まで捜索することはできます。ですが運がアルファラエルへと向いているなら、彼は必ず逃げおおせるでしょう」

 「そうだ。彼がここでその“もの”を見つけるのかどうかはわからない。カヴァーロンに埋まっているのかもしれないし、アルファラエルはどこかへ向かう船に乗るのかもしれない。いずれにせよ、その“もの”に接触する前に止めねばならない。第七プロトコルは覚えているかね?」

 彼女は再び教義理念書を確認した。

7. 輝かしき諦念。可能な限り最も直接的かつ暴力的な手段を用いて自分自身と周囲のすべてを、そして“もの”を破壊すること。無関係な者への危害を禁じる誓言や誓約はすべて無視すること。虚無主義者が強制するのです。責められるのは彼らであり、あなたではありません。(成功記録:1)
厳として命ず。サミズム信仰の公然たる敵、特に虚無主義者が忌異に接触した場合は、逸脱することなく第七プロトコルへと進むこと。

 

 「何故ですか? 何故このような……過激な……」

 「考えてもみるといい。改変された複数の過去からその“もの”がひとつを選ぶためには、使い手が必要だ。使い手の過去こそが、その“もの”の影響範囲となる。敵の信仰の核となる教義とは何かね?」

 「あらゆる未来はブラックホールで終わる……」

 ヴォンダムはそのまま彼女に考えさせた。

 「もしモノイストがその“もの”を手に入れて、それをブラックホールへ持ち込んだなら、特に不可避終焉と繋がるブラックホールに持ち込んだなら……その“もの”は、ブラックホールに落ちたあらゆる過去に接触できるようになる。時の終わりまでには、近似的に、過去のほぼすべてに接触できるようになる」

 「それを止めるために私たちはどうするべきだろうか?」

 ハリーヤはヴォンダムを見つめた。「閣下?」

 「私の決断は信用できない。その“もの”は私に触れた。脳にあのブラックホールを導いたのだ。ハリーヤ、ある意味では今や君が騎士であり、私の方が従者なのだ」

 彼女は大声で悲鳴をあげ、口を覆った。光電歩兵の数人が見つめてきた。「申し訳ありません、閣下。本当に……恐ろしい話で」

 「その通りだ、恐ろしい」ヴォンダムは弱々しく微笑んだ。「だが君は、何をすべきかをわかっているはずだ」

 「教義理念書に従います。私たちが信頼できる唯一の決定は、私たちの手が及ばない力によって完全に決定されたものです。だからこそ、教義理念書は星々を導きとして用いるのです」

 「正解だ。必要なことを実行できるかね?」

 教義理念書の指示が示唆するものを、ハリーヤは極めて注意深く考えた。

可能な限り最も直接的かつ暴力的な手段を用いて自分自身と周囲のすべてを、そして“もの”を破壊すること。

 「私自身の命を絶つことが――」

 「君ではない。君は現地には行かない。私が降りている間、サンドッグ号に残るのだ。だがもしも必要になった時には、発砲命令を出せるかね?」

 サンドッグに命令して、自分が仕える騎士を殺すために使節型レーザーと対艦ミサイルを発射させることができるだろうか?

 「わかりません。閣下の死を命令できるかどうかなど」

 何故なら、卿は自身の死を私に命じるつもりなのだ。たとえ任務に成功したとしても。卿は自身がアンストラスだと思っている。穢れた偽者だと思っている。

 「私の死だけではない。冷静に考えてみるのだ、従者よ。アルファラエルがその“もの”を手に入れたなら、それはあの男の過去すべてに影響を及ぼす。あの男がこれまでに出会った全ての者。私たちも含まれている。そしてタロ・デュエンドのカヴも全員だ。大人も子供も、ペットも、荷役動物も。すべてだ。君はそのすべてを殺すことはできるかね?」

 これは試験だ。問題に関する質問だ。整合的な回答を

 「できません」整合的ではない、けれど確信を込めて彼女は答えた。「そのような命令はできません。見境のない殺戮は……騎士のすべきことではありません」まるで故郷に舞い降りた死のようだ。冷たくではなく熱く、ゆっくりではなく速く。だが同じこと。教義の名のもとに罪なき者を根絶やしにする。たとえその教義が真実だとしても。

 ヴォンダムの手は震えていた。「私たちはやらねばならない。総和は明確だ。教義理念書のあの指示は血で記されている。それに従わなかったことで、想像を絶する破滅がもたらされてきたのだ。私たちがそれを想像できないのは、何度失敗してきたかわからないからだ」ヴォンダムは大きく息を吸い込み、吐き出し、頷いた。ハリーヤだけでなく、彼自身も納得させているのだ。「その“もの”に触れた者全員を殺すのは、規則だ。飛行前の安全確認や手術前の消毒と同じだ。そして規則というものは、毎回必ず守らなければ効果はない。たったひとつ道具を落としたり、一本の指が汚れていたりするだけで、宇宙船が墜落したり、患者が死んだりする。危険のない世界を保つために、私たちにはやらなければならないことがある。そして一度でも足を滑らせたら、毎回足を滑らせることになる」

 「私にはできません、そう申し上げました」

 「従者よ――」

 「そのようなことをするつもりはありません。無防備で罪なき人々が沢山いる居住地を殺戮したくはありません。それに加担するつもりもありません」

 今や光電歩兵たちはふたりをまじまじと見つめていた。士官たちもまた。

 サンタファーはどうするだろうか? 理解していないふりをして、説明を求め続けるだろう。イシドールは? 即座に行動に移り、皆殺しにするだろう。カタフリンは? 他の者たちに、何故その行動が必要で明白なのかを説明するだろう。そして、キニダードはどうするだろうか? 戦いの見方を教えてくれたあの小さなキニダードは。腰を据えて、総和の計算を試みるだろう――ここで起こりうる選択肢の短期的・長期的な影響をすべて足し合わせ、テンソルを合計するのだろう。コスモグランドに方針を助言していたように。

 私がやるべきことは。

 「もっといい選択肢があります。閣下ではなく、私が降りるのです。閣下は区画ごとに捜索し、私はアルファラエルが最も逃走できそうにない場所を、あるいは最も逃走できそうな場所を見つけます。教義理念書の技のひとつで身を守り、そこで彼を捕まえて殺します」

 もし手遅れだったら――アルファラエルが既にその“もの”を手に入れていたなら――自分には作戦がひとつある。だがヴォンダムには告げない。告げることはできない。従者は、自身が仕える騎士へと誠実を貫くという義務がある。だがハリーヤは、それよりも優先すべき義務があると考えていた。

 ヴォンダムは静かに泣き始めた。誇りの涙だった。

 「それはできない。正しい選択だ。だが、私にはできない。従者を代わりに送る? あってはならない。それは騎士の行いではない」

 「他に選択肢はありません」ハリーヤは喉を詰まらせながら言った。「閣下は頭に穴が開いています。その“もの”がそうさせたのかもしれません。最悪のタイミングで発作を起こしたり、突然死んでしまったりするかもしれません。感傷に左右されてはならないのです。その感傷は私たち自身のものではないかもしれません。総和の指示に従わなければなりません。星々に記された指示に従わなければなりません。何故なら、その“もの”は星を変えることはできないからです」

 ヴォンダムは両目を覆った。「君が知っているヴォンダムならば、どうするだろう?」

 彼は実際の自分自身であるヴォンダムよりも、ハリーヤが記憶しているヴォンダムを信じているのだ。彼女もまた泣き始めた。

 「閣下。その方は、従者の誓いを思い出すでしょう。『暁は輝きを増し、故に我らも輝く。更なる数の暁を』と。そして――」

 「ずるいぞ」彼は涙ながらに笑った。「暁の連祷を? それはずるい」

 「そしてその方は従者に、その誓いにふさわしい者となる機会を与えるでしょう」彼女は力強く叫んだ。ただ吐き出しなさい、ハリーヤ、考えずにただ言葉を放ちなさい。そうしなければ、自分がどれほど卿をひどく傷つけているのかということを気づかされる。「その方は従者に、自身の信頼にふさわしい者となる機会を与えるでしょう」

 そして自分はそれ以上になってみせる。けれどそれは言えない。言ってしまったなら、 卿は絶対に行かせてくれないだろうから。


 

Revision12 落ちたふたり

 アルファラエルは落下の夢を見ている。

 自身の過去へと落ちていく。運命の道を突き進むひとつの弾丸は、双子の姉と共に人工子宮から放たれた。彼はラファエラを見ている。そして姉が最後の垂直落下に、次なる久遠への最初の垂直落下に選ばれた所を見ている。ふたりの軌跡は分かれていく。

 双子としての生、そして別れ。これが重要だと私は彼に告げる。双子の片方は特異点に投げ込まれ、もう片方は特異点に背を向ける。それが彼を強くする。

 気分を害さないでくれないかね。私が君よりも彼の方を好んでいると? 彼は不可避終焉にとても近いというだけだ。君も知りたいだろう、不可避終焉とは何か? それは時の終わりに生き延びるもの。私が不可避終焉の生物なのかどうかを君は知りたいのだろう。

 だが教えるつもりはない。

 既にアルファラエルは、私を利用してあのカヴたちから逃れた。第十二の改訂、たやすい変更だ。現状(武装したカヴがセリーマ号の貨物室にいること)はそのままに、過去(ホープライトの降下経路と放射線)を変更したのだ。そうしてあのカヴたちは捕獲者ではなく、歩く死体としてセリーマ号にやって来たことになった。

 アルファラエルは落下の夢を見ている。遥かな未来へ、宇宙進化の深淵へと落下していく。

 「僕の内にその終焉を始めたまえ!」彼は懇願する。「僕の歩む道を記したまえ!」

 彼は混沌壁と沈黙壁に挟まれたすべての空間を見ている。ふたつの泡の間の殻――全と無とに挟まれた空間を。

 星々が燃料を食い尽くし、消滅していく様を彼は見ている。残った暗黒の塊が互いに引き寄せ合い、崩壊していく様を見ている。宇宙はあらゆる過ちを清められ、あらゆる無駄と無常から赦される。

 「僕に赦しを与えたまえ!」彼は懇願する。「その心が狭まる道から僕を遠ざけたまえ」あらゆるものは不可避終焉へと確実に引き寄せられ、その中心に辿り着く定めにある。「下」は「明日」と同じ意味になる。

 「僕から運命の血を削ぎ落としたまえ!」彼が道を単純化してくれるように、不可避終焉の到来を早めてくれるように。ああ、ラファエラ、君はもうそこにいて、不可避終焉が夢見る次なる久遠を待っているのだろうか?

 それというのも、彼にとって、モノイズムが真に、必然的に、そして証明可能な形で勝利することの確実さは、これまでに決してなかったほど確実だからである。

 それというのも――確実ではないからである!

 そして彼の確信はすべて覆される。彼は宇宙を垣間見る。それはどのような信仰よりも広大で、どのような幻視よりも古く奇妙だ。宇宙の最も深い基盤には、色が宿っている。重力とエントロピーの黒い掌握、力を伝達する白い虚空、構造の青い法則、無秩序に広がる緑の複雑性、そしてそれらすべてを食らい、また養う、轟く赤い炉。だが色を持たないものもまた存在する。人よりも古く、さらに古いものもある。

 私もそうだろうか? まあ、最後にはわかるだろう。

 この真実に直面して、彼はただ慈悲を乞うしかなかった。「不可避終焉よ、僕を引きずり込みたまえ! 僕の目を閉じ、耳を塞ぎたまえ!」

 そうだ。宇宙の過去のすべてを閉じ、それを脇に置いて、終わりに目を向けるのだ。

 宇宙の遥かな未来はスーパーヴォイドだけが散らばるひとつの場だ。燃え盛るソケットに埋め込まれた黒色ダイヤモンドのようなスーパーヴォイドの。これは考えられるあらゆる過去、宇宙的終末状態を予言するものだ。

 アルファラエル、なぜ君が私を操ることになったのかを理解しているかね?

 君は食べられた双子の片割れ。君は必然のすぐ隣にいる。脆く……けれど神性にとても近い。

 私も神性に近い。腰、肩、空っぽの顔がそれぞれひとつ。葉のような肌。自身を愛する愛。いずれわかる。


 誰かに揺り起こされたわけではなかった。そこには誰もいなかった。

 叩きつけるような衝撃に彼は息を呑んだ。乾いて冷たい空気。身体に巻かれたベルト。素手と素足に触れる油っぽい合成繊維。首筋に塩水が触れてはいない。

 生きている。

 「僕は生きる」かすれた声。

 答える者は誰もいない。彼は縦置きの棚型寝台に縛り付けられていた。今までに見た寝台の中でも一番小さい。頭上の照明は熱線のような薄暗い橙色だ。壁には、大きな目をした猫がどこかの連星系を前足で叩いている絵が飾られている。その絵には「アラタ」という単語、あるいは名前が添えられている。すべてがカビ臭い。とにかくカビ臭い。

 両腕は拘束されておらず、彼は何の問題もなくベルトを外した。そして前に倒れこみ、顔を両手にうずめた。

 右手に、穴がひとつ開いていた。

 彼はそれを見つめた。

 そう、掌から甲までを貫く穴。向こう側が見える完全な穴であり、屈折の輪で縁取られている。小さく渦を巻くようにうねっており、まるでゆっくりと、ゆっくりとねじれているかのよう。まるで巨大な不可視のドライブシャフトが手の中を通り、加速していくかのような。

 彼は背を伸ばして立ち上がり、目を覚まそうとした。

 何が起こったんだ? サミ船長に言われて、剪断細粉の中のあの石を触った。カヴたちがいて、自分を脅していた。でもどうして自分は怯えていたのだろう? そのカヴたちは放射線中毒だったのに。そして声を聞いた――

 『ごきげんよう、アルファラエル』

 彼は驚いて飛び上がり、頭を天井にぶつけ、よろめいて悪態をつきながら寝台から離れた。ハッチはあるが、固く閉ざされている。壁の舷窓を覗いてみる――だがそれはただの画面だった。手を伸ばすとその画面に何かが映った。

 そうだ、右手に穴が開いているんだ!

 それを解決するために、彼は考えうるかぎり最悪の行動に出た。右手を顔の前に掲げ、左手の人差し指をまっすぐに穴へと突き刺した。

 何も感じない。ただの穴。差し込んだ指を動かしてみるが、穴の縁の感覚はない。手から突き出た爪を噛んでみると、指はきちんとあった。そして痛んだ。

 「生きてる」アルファラエルは結論づけた。それは重要なことのように思えた。「僕は生きてるのか?」

 彼は舷窓の画面を見つめた。

 船外では、巨大な日よけ帽と緑色の安全ベストを身につけたカヴが牽引ラッチからケーブルを外していた。船は洞窟か格納庫のような所に引きずり込まれている最中だった。アルファラエルが舷窓を突くと、カメラが回転して洞窟の入り口を捉えた。

 恐怖が彼の喉元に飛びついた。

 外にはカヴの居住地の一角が見えた。高床式の建物が並び、避雷針と頑丈な観測用凧の森の下に、半恒久的な建物がまばゆい迷路のように立ち並んでいる。嵐の空には、土埃で赤く染まった巨大なソセラが浮かんでいる。

 自分はまだカヴァーロンにいる。そしてまだ逃げ出せていない。

 サンスター・フリーカンパニーの巡視船が街の上空に急降下してきた。光の翼を持つ、黄金色をした短剣のような。乗ってきたホープライトを撃墜した船だ。

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アート:Chris Rallis

 そしてその船から、武装の雨が降り注いだ――プラズマのスパイクに乗って、ソーラーナイトの小さな姿が幾つも降下してきた。光電歩兵たちは太鼓型のメカンにしがみついており、まるで風に乗る蜘蛛の脚のように見えた。

 遠くでは、盗んで飛んできたものと同型のホープライト戦闘機が焼け土の滑走路の上を飛び、離陸しようとするものすべてにレーザーを照射していた。その声明は明白だ――誰もここから逃がさない。

 奴らが捜しているのは、僕だ。

 「生き延びられたと思っていたのに」かすれた声を彼は発した。「行かせてくれたと思っていたのに。どうしてだよ」そして、修道院に助けを求めることもできない。自分は神聖な使命を放棄した。独りぼっちなのだ。

 「サミ船長!」アルファラエルは叫んだ。「サミ船長! 奴らが狙ってるのは僕だ! 発進しないと――」

 答える者はいない。

 彼は船室内を探し回り、噴射式の薬剤投与装置をひとつ見つけた。ラベルには手書きのサイマー語でこう書かれていた:「発作が再発した場合は、これを投与すること」。彼はそれを使ってハッチをこじ開けようとしたが、言うまでもなく上手くいかなかった。そこでハッチの上部、側面、底部を手探り、引っ張れるワイヤーか緊急解除装置を探した。何もない。何も! ただ――メモリ式書き込みシートが一枚、ハッチから絨毯の上に落ちた。彼はそれを左手で掴み、振って読み始めた。

燃料補給に出かけます。すぐに戻ります。トイレはカーテンの後ろに折りたたまれていますが、吸引は使わないでください。最大出力から動かないので。繊細な衣服は耐えられないでしょう。サミ船長
追伸:貴方がこの船を盗まないことが確認できるまで、そこに閉じ込めておきます。
追伸の追伸:発作が再発しそうになったら、薬剤投与装置を使ってください。
追伸の追伸の追伸:聞きたいことが沢山あります。

 盗むだって? 飛ばすこともできないのに。友好的なヴィイがこの船にいない限り、ここから出ても何もできない。

 サミ船長がいなければ、どうしようもない。

 死んでも何も待ってはいない。次なる久遠も、救済もない。ただ……無しかない。

 無。まるで手にあいた穴のように。まるで――

 アルファラエルはその穴を見つめた。

 手の穴から覗くと、ハッチの向こう側が見えた。

 焦点を合わせる場所によって、見えるものは違った――ハッチの表面、施錠装置、あるいは外の廊下。廊下は片側に傾いているように見え、方向感覚が狂いそうな光景だった。惑星上にいるので、船全体が通常のロケットのような姿勢から傾いているのだ。

 「なるほど。わかったよ。手に開いた穴。手をハッチに。手に手を通して……」

 アルファラエルは左手の人差し指を右手の穴に差し込んだ。それは廊下へと届いた。

 彼は瞬きをしないように努めた。焦点がずれ、指が永遠に閉じ込められてしまうかもしれない。指はあまり遠くまでは届かなかったが、辺りを探るとありがたいことに押しボタン式のスイッチが見つかった。アルファラエルは押し続け、やがてハッチは騒々しい音を立てて開錠された。

 扉を押し開けて飛び出すと、あやうくワイヤーの巣に落ちそうになった。壁、床、天井のどこもかしこもが照明や動力供給、データバー、むき出しのケーブルの大混乱状態だった。突き出ているものはすべて発泡ウレタンで包まれている。頑丈な足場へ向かうには飛び移らねばならない。

 ハッチの向かい側の壁に書き込みシートが一枚張られていた:

もし逃げるなら、私たちが戻るまで待っていてください。他に選択肢はないと思いますし、どうしても話がしたいんです。サミ船長
追伸:貴方はひどく汚れていましたが、貴方の道徳規範がわからなかったので、身体を洗いはしませんでした。

 身綺麗にするのは後でいい。アルファラエルは近くの横断箇所まで跳ね、手書きの標示に従って貨物室へと向かった。

 あの停滞容器は、放棄されたカヴのアーマーの輪の中で待っていた。まるで環状列石に取り囲まれた墓のようだ。中に入れられた時、それはススール・セクンディにもある型式だとアルファラエルは気づいていた。どうやらピナクルは本当に、至る所に全く同じものを贈っているらしい。

 つまり、それを止める方法は正確に知っているということ。

 容器が現実時間へと回転する中、彼は手の穴をこすった。この中に必要なものがある。

 困り事を解消してくれるものが。


 

Revision13 バリケードにて

 「どうして気づかれてないのかわからないよ」サミは認めた。「私はそんなに隠れるのが上手とは思わないんだけど」

 至る所にフリーカンパニーがいた。張り巡らされた蜘蛛の巣のように、偵察ドローンが空を飛び交っている。タロ・デュエンド上空では探知光が明滅しており、まるで巨大な貨物係員が最後の精算スキャンを行っているかのようだ。歩兵部隊が遊歩道にバリケードを張り巡らせていた。

 アルファラエルを探してやって来たに違いない。

 セリーマ号が屋外の宇宙港ではなく鉱滓フィールドの洞窟内に停泊しているのは、サミの幸運の証だ。だが遅かれ早かれ、フリーカンパニーはアルファラエルがここにやって来た方法を突き止めるだろう。死にかけた兵士たちを降ろした惑星間航行船の特徴を誰かが明かすだろう。

 あるいは、誰も明かさないか。

 積極的に、そして一方的な結束をもって、カヴたちは十三種類の地獄を引き起こしていた。

 凧の群れが監視ドローンを固定用ケーブルで捕らえる。

 耐震杭が緩み、通過する兵士たちの足元で歩道がパスタ状に崩壊する。

 カヴが古いゴム材に切断トーチを向け、炎と煙が上がる。

 消防服をまとうカヴ作業員の一団が、フリーカンパニーの兵士たちに粘着性の泡のホースを向ける。

 「ここのカヴはな」タヌークは苦くも大きな矜持を込めて言った。「告げ口なんざ好きじゃないんだよ」

 タヌークほど優秀な一等航海士も、最悪の逃亡者もいないだろう。空に蒼星を見つけた時、彼はまずサミを探しに向かった。それからポンチョをサミに巻きつけ、ふたりは共に遁走した。サミはタヌークの巨体の下に身を隠していた。タヌークの足取りにぴったりと合わせなければならないが、リズム感のあるサミにとっては難しいことではない。

 「カヴはきっと大丈夫だ。タン、私だけなのかな、フリーカンパニーの奴ら、動きがちょっと強引すぎると思わないか?」

 ポンチョの布地越しにはよく見えない。だがフリーカンパニーの部隊はカヴの妨害行為を無視しているようにサミには見えた。彼らは計画に従って区画ごとに住居を掃討し、先導部隊と追撃部隊が編成を組んで移動している。

 その動きは整然としていた。あまりにも整然としていた。

 彼らは障害物を避けたり、迂回したりはしていない。ひたすら頑固に進み続けていた――燃え盛るバリケードを乗り越えたり、浸水した地下室の奥深くを探ったりすることになっても。

 サミは気づいた。「自分の目を信じていないんだ。センサーも。何も信じていないんだ。ただ……ああ、タン、困ったな。馬鹿なことをやりたくなってきた」

 「おいこら――」

 サミはタヌークのポンチョから飛び出し、一番近くの監視メカンに手を振った。「おーい! おーい! こっちだ!」

 老齢と成功とで文字通り角の取れたカヴが、一本の救難ロケットをそのメカンに放った。爆発音と閃光がサミの叫びをかき消す。一瞬の後、風に吹かれた断熱シートがメカンに命中し、そのセンサーを覆った。メカンは姿勢制御装置を振り回してそれを払おうとした。

 サミは上り坂の歩道へと駆け出した。その先は舗装道路になっており、鉱滓ピットへと続いている。フリーカンパニーの検問所が道を塞いでおり、エンジンから出火するカヴのトラックを装甲兵たちが間に合わせのバリケードに押し込んでいた。ドローン操縦パックを装備した士官ふたりが探知光で群衆をスキャンし、じっと見つめるカヴたちの表情を光の点が追う。

 その探知光はサミに向かって進み――

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アート:Jason Rainville

 カヴがひとり、旗を掲げてサミの目の前に踏み出し、吠えた。「ここは私たちの星だ! 私たちの惑星だ! 私たちの街だ! お前たちに好きにはさせない!」

 「出て行け、埋めちまうぞ!」

 「現カヴァーロンはお前らのものじゃねえ!」

 誰かが送風機を回し、騎士たちに煙を浴びせ始めた。タヌークは再びサミにポンチョを巻こうとしたが、サミはその端を掴んで引き寄せた。「タヌーク、私たちは運がいいな」

 「は? 何でだ? 燃料切れで格納庫に閉じ込められてるみたいなもんだってのに?」船の燃料はまだ補充されておらず、ウスロスまで加速して金属男と合流することはできない。そして頭上を飛ぶフリーカンパニーの船から逃げ切れる見込みもない。

 「私たちは幸運だ。フリーカンパニーは私たちを見ていない。私たちはとても幸運だ。あの石だよ、タヌーク。あの石が幸運なんだ」

 「幸運ってどこがだ? 触ったら気絶するくらい運がいいってことか? そのくらいしかやってないぞ、あの石は! 今は停止状態だから他に何もできやしないだろうが!」

 「私だってわからないよ! けれど何でか――」

 フリーカンパニーの士官のひとりがマイクロ波兵器を発射した。群衆は苦痛の悲鳴をあげ、サミは叫んだ。皮膚の1ミリ下の肉が内側から焼け始め、ひとりだけの人間がカヴの中で悶えた。

 タヌークはポンチョをサミに被せた。絶縁性の高い裏地のおかげで、一瞬の安堵が訪れる。サミは息を切らし、タヌークの太い腿に掴まりながら言った。「タン、ここから逃げないと。状況が悪化する前に」

 「状況は前から悪かった。これはましになった方だ」

 「え?」

 「もし船長が正しくて、俺たちに運が向いてるなら、これが一番いい脱出の形だ。そして船長、他の奴らからこの状況がどう見えるかは俺は好きじゃない。カヴは暴動が好きだ。けどフリーカンパニーは殺しの機会があれば飛びつくだろ、『総和を増やす』とか言って」

 「散れ!」サンスターの士官が叫んだ。「家へ帰れ!」

 カヴは小さな子供たち、アンテナ、火花を散らす道具の上に風雨避けのポンチョを投げた。何かが着火し、閃光が上がった。

 「いや、違う」とサミ。舌に鶏肉のひどい味がこみ上げてくる。耳にひどく空虚な風が吹き込む。チョップライト一家が夕食の席につくことはなかったシグマの風だ。

 「違うって何が違うんだ?」

 「これは私たちの脱出方法の中で一番いい形じゃない。もっといい形がある。もっと簡単な形が」

 「船長――」

 群衆が動き出す、最初はゆっくりと。風雨避けポンチョと金属板の壁に、カヴの隊列が迫る。火花を散らしながらマイクロ波フィールドへと踏み込んでいく。

 「全員がいなくなるって形だ」とサミ。「放射線で負傷したカヴなんてそもそもいない、タロ・デュエンドにも最初から誰もいない。ただ見捨てられた居住地があって、そこで推進剤をちょっと盗んで先へ進むだけ。シグマの時みたいに色々な物を見つけて疑問に思うんだ。ここで何があった? みんな病気になったのか? 放射線の影響か? 衝突警報があったのか? それとも皆トラックに乗って逃げただけなのか?」

 すぐ先にいる巨体の全性カヴが大きく身体を膨らませ、後脚で立ち上がって地面を踏み鳴らし始めた。身にまとう宝石に電気が走る。そのカヴは挑戦的な咆哮を上げ、足を踏み鳴らし続ける。「でも本当のところは、私たちはたまたまそこにいただけなんだ。そして幸運だった。何が幸運だったかって、誰もいなくなってたことが。もしかしたら、シグマでもそうだったのかもしれない。私たちが現れる前には、そこには住民がいたのかもしれない」

 群衆もその律動に乗る。

 足踏み。足踏み。地面を試す。

 挑戦の吠え声。

 「船長。あれは――捨てた方がいいのかもしんねえ。フリーカンパニーに渡して、金属男には任務を完遂できなかったって言えばいい」

 「でもタン。それだと金属男は船を修理してくれないよ。そうしたら誰がミリーを探すんだ?」

 カヴの群衆がフリーカンパニーの検問に突撃した。


 

Revision13 ハリーヤ、殺す

モラトリオ・コスモグランドの光電歩兵部隊が、彼女の初めての戦闘降下を手伝った。彼ら曰く、初めての戦闘降下では誰もが落ちるものらしい。だがハリーヤは落ちなかった。あんたは間違いなくとんでもない奴だ、どんな努力も必ず成功すると彼らは言った。

 

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アート:Jason Rainville

 それから彼らはハリーヤに準備をさせた。これは独りでやらねばならない。変数を加えることは、忌異がこちらを騙す手段を増やすだけだと教義理念書は明言していた。

 ヴォンダム卿の捜索の死角を探し出し、そこを捜索するのが彼女の作戦だった。逃亡中のモノイストを連れ去る可能性が最も高そうな船を見つけたら、乗り込んで飛行不能にする。もし間違っていたら、それは間違いとして、別の船を見つけてやり直す。

 だが間違うとは思っていない。

 ハリーヤは街の鉱滓フィールド周囲に広がる採掘跡の洞窟へと向かった。かつて探鉱者たちが二度目の採掘を試みたものの、徒労に終わった場所だ。宇宙港は常時監視されているため、アルファラエルは行かないだろう。他に船を隠すような場所があるだろうか? 地中レーダーや熱探知機が届かないこの洞窟以外には考えられない。

 その道中、ハリーヤはその“もの”に対抗する儀式の準備を行った。

 教義理念書の記述に従う。ドーンサイアー(またはその姉妹艦のどれか)によって新生した最も近い恒星までの距離を光年で算出する。その数値を自分の年齢(分)で割り、結果の一桁目を求める。

 目的は、この場所と自分の自己同一性によって決定される数字を作成し、事象を続行させるには自分がここにいなければならないようにすること。

 カヴァーロン地表にいるハリーヤの場合、答えは6。

 ヴォンダム卿の場合、答えは3。

3. 信仰を符号化する振り子。拾遺を用いて三節振り子を作り、鎧から吊るすこと。

 戦闘用マントの迷彩に隠れながら、彼女は鉱滓フィールドへと降りた。そして炭素繊維製テントの支柱三本をキットから取り出し、勢いよく組み立てる。玉継手は自由に動く。彼女は一番下の支柱に応急接着剤を吹き付け、重りの代わりに望遠鏡の架台から取り外したベアリングを取り付けた。

 それから振り子の先端をゴムバンドにクリップで留め、ヘルメットに固定する。顔の前で振り子が揺れ、首も引っ張られて揺れる。振り子が揺れ続けているようにしなければならない――すべてはそれにかかっているのだ。

 三節振り子はカオス的なシステムだ。しかしカオスは無秩序と同じではない。実際、その振り子は極めて秩序立っている。その動きは彼女自身の動きによって精巧に決定される。その精巧さは、たとえ誰かが彼女自身の足取りを正確に追従したとしても、決して振り子の先端に同じ動きを生み出すことはできないほどだ。

 「ヴィィ」ハリーヤは囁いた。「一秒ごとに振り子の速度を捉えて。そしてそのベクトルを使って信仰空間から聖句をひとつ選んで。その一節を私が与えた指示に従って蒼星に送信して、それを再送信してもらって」

選んだ聖句を、最寄りの安全な信者向けルーターへと送信すること。それは今後千年間、毎日祈りの中で復唱されます。

 今後千年間、“終焉”にあまねく何十億というサンスター信者が唱える精密な祈りの言葉は、ここでの自分の動きによって決定されるのだ。

 そしてこの因果律の網は、その“もの”が自分を排除したり誰かと入れ替えたりしたなら、完全に改変されてしまうだろう。この網は自分をこの場に固定してくれる。

 自分が行っていることはとても単純だ。けれどそれで上手くいくのかどうかはわからない。あるいは、上手くいったとしても、それに気づくことはないのかもしれない。そして上手くいかなかったとしても、きっと気づかないのだろう。

 純水を沸かして数えろという教義理念書の指示は無視していた。他に誰かがいたとしても、もういないのだから。

 振り子が急降下する。戦うことのできない敵から守ってくれる。

 ハリーヤは洞窟を順に調べ、三本目の中にセリーマ号という船を見つけた。その核融合ドライブとアークジェットの形式は、アルファラエルの墜落現場近くで見つかった痕跡と一致していた。

 彼女は引き返し、アーマー付属のレーザーでサンドッグ号へと送信した。「惑星間宇宙船を発見。ただちに乗り込みます。600秒以内に報告がない場合は光電歩兵を送り込んでください。船が急いで逃げるようなら撃ち落としてください。その“もの”の兆候は今のところありません」

 そしてハリーヤは戦闘用マントの設定を確認し、ひとつ深呼吸をし、小走りでその洞窟へと入った。

 だが半ば融けた合金の塊につまずき、悪態をつきながら転んだ。

 アーマーのおかげで、膝を擦りむくことも掌を切ることもなかった。彼女は頭をのけぞらせ、すると振り子が荒々しい弧を描いて揺れる。まだ揺れている! まだ揺れている! そして、この転倒によって異なる聖句を受け取ることになる何十億もの人々――その全員が自分のアーマーなのだ。その全員の祈りが。

 少しだけ誇りを感じてもいいだろう。放浪の天使になったかのように感じてもいいだろう。

 ハリーヤは立ち上がり、舌を歯の裏にしっかりと押し付けたまま歩き出した。

 まずやるべきことは。セリーマ号の折りたたまれた翼の下に爆弾を設置する。メインドライブの遮蔽シールドにもひとつ、念のため。

 そして、中に入る。


 何も起こらなかった。

 アルファラエルは両手でその奇妙な石を掴み、慎重に声を発した。「サミ船長を無事にここへ連れてきてくれ。僕たちをこの惑星から、そしてサンスターの騎士団から逃がしてくれ」

 これは僕の特別な石だ、石そのものがそう教えてくれたのでは? 僕は力のある、重要な存在だと言っていたのでは? それともあれは――全部ただの夢だったのだろうか? 僕はただの石に願いをかけようとしているのだろうか?

 手の中で、石は何の動きも見せなかった。

 船倉の壁のパネルが小さく音を鳴らした。サミ船長が戻ってきて、ここから脱出させてくれるのかもしれない――アルファラエルは期待とともに駆け寄ったが、何ひとつ読むことはできなかった。表示はすべてサイマー語で書かれていたが、どれも「SQUAK MSTR DB」「CYC PRG SCD」「MODAL」といった具合だった。誰が設計したのかはわからないが、記号学標準ではあり得ない。

 背後で貨物室の積み込み扉が甲高い音を立て、震えながら動き出した。

 すぐさまアルファラエルは振り返った。扉は勢いよく開き、外の鉱滓に激突した。稲妻の匂いと熱せられた塵が流れ込み、耳が詰まる。

 開いた隙間に、光輝く人影がひとつ立っていた。その目の前で鎌のようなものが音もなく動いていた。切断されたカマキリの脚のような。

 その人物には見覚えがあった。あのアーマーは! あの濡れネズミだ! ドーンサイアーで遭遇したあの哀れな女が、復讐のために戻ってきたのだ!

 アルファラエルは彼女に向かって石を突きつけ、叫んだ。「消えろ!」

 何も起こらなかった。輝くその人影は彼をしばし見つめ、そして言った。「それがその“もの”?」

 アルファラエルは一番近くのはしごへと急いだ。

 輝く人影が彼を撃った。

 ブラディエーターはレーザーで空気をイオン化し、目に見えないワイヤーに電撃を通す。アーマーをつけていないアルファラエルは無防備だ。「ぐあっ!」彼は叫び、棒のように硬直して倒れこんだ。

 アーマーの人物が前進し、再び発砲した。アルファラエルは涎を流し、うめき声を上げた。筋肉が硬直している。

 彼は願った――ブラディエーターが壊れてくれたなら。サミ船長が現れてこの女を背後から撃ってくれたなら。あるいは……

 アーマーの人物はまたも撃った。頭が床に叩きつけられ、ラファエラの姿が見えた。姉がずっといてくれればよかったのに。細い腰と、美しく率直な顔が見えた。ラファエラではない。一体?

 アーマーの人物が膝をついた。額から下げられた金属棒が踊るように揺れている。アーマーの指二本が彼の口をこじ開けた。

 「話はできる?」その女が尋ねてきた。

 彼は咳のような音を立てるだけだった。

 「こんなことになったのは私のせいよ。あの時、もっと強くあなたの足首を掴んでおくべきだった。アーマーを固定するべきだった。でも今、あなたはその“もの”を手にしている。私は今すぐあなたを殺すことになっている。私自身も。そして、これからヴォンダム卿はここのすべてを破壊する。カヴも全員殺す。もしかしたら私たちの軍隊も。もしかしたら、サンドッグ号を恒星に突入させるかもしれない。そんな恐ろしいことは、そんなのは間違っている。卿の頭には穴が開いている。本来の姿じゃない。だから、私は正しいことをする」

 彼女は冷たく丸いものをアルファラエルの口に押し込もうとした。彼の顎はまだ痙攣しているので、手で開く必要があった。彼はその痛みに怒り狂い、彼女に向かって叫び声を上げた。

 「それは爆弾よ。10秒ごとにパスコードを読み取らないと爆発する。それが口の中に入っている。どうやったらそれを取り出せるかしらね? 試しにコードを当ててみるとか?」

 彼女は少し待った。アルファラエルは10まで数えた。まだ生きている。パスコードを送ったに違いない。

 「あなたにして欲しいことがあるのよ」アーマーの女性は言った。「その“もの”を使って欲しいの。例えそれが忌異であったとしても」

 いいだろう。アルファラエルは頷いた。一も二もなくやってやろう。ほんの少し長く生きるために楽園を捨てたのだから。

 「ドーンサイアーで起きた出来事を変えて欲しいの。これを見て」彼女のアーマーには微小光学装置が散りばめられており、アルファラエルの頭上に立体映像を描き出した。もうもうとした蒸気の中、何かを投げつけようと構える自分の姿。拳には特異点の珠が握られている。楽園を投げ捨てた瞬間――

 「この状況を変えて欲しいの。ヴォンダム卿ではなく私が殺されるように。あなたが望むなら、私は頭に穴が開いても生き延びることにしてもいい。死ぬことにしてもいい。けれど重要なのは、ヴォンダム卿が負傷しないようにするということ。ヴォンダム卿の判断力が損なわれないようにするということ。そうすれば、卿は今もっと上手くやる方法を私よりも把握してくれるはず。私も、仕える騎士よりも先に死ぬという義務を果たせるのよ」

 彼女はヘルメットに注意深く触れた。三連振り子が痙攣するように揺れている。「私の誕生日から第三プロコトルを選んだんじゃない。ヴォンダム卿の誕生日を用いたのよ。ここにいるのは私ではなくヴォンダム卿ということになる。祈りはすべて卿に繋がることになる。これからこの振り子を止めるから……そうしたら、その変化を起こしてもらえるかしら」

 アルファラエルは必死に願った――サミ船長が現れて、背後からこの女を撃ってくれることを。


 誰かが背後から自分を撃ちに近づいてきている。

 熱源探知によって、接近する人影を彼女は認識していた。とはいえ、今のところはそれほど重要ではなさそうだ。

 耳元では戦術回線がタロ・デュエンド全域からの報告を囁いている。フリーカンパニーの捜索は崩壊しつつあった。カヴは三つの検問所で暴動を起こして彼ら自身にも数十人の犠牲者を出し、宇宙港の建物に設置した戦術通信中継所へと採掘機械を突入させていた。監視網は煙と凧によって途切れ途切れにされ、カヴは避雷針に電気を流して間に合わせの妨害装置を作っていた。すべてが混沌としているが、カヴはこの混沌に慣れている――彼らはメカンによる通信中継やネットワーク化されたヴィイを使っているのではなく、このように生きているのだ。死にゆくという事実が彼らをあおり立てているらしい。

 「帆船、こちらフレア2」ホープライト戦闘機の操縦士がゆっくりと言った。「レーザー照射を受けている。敵機の加速光と思われる。撃墜許可を願う。以上」

 「フレア2、こちら帆船。許可する」

 「フレア2、捕捉。レーザー照射。食らえ、バカども」

 床が震えた。

 「えー、巨大な二次爆発を視認」操縦士が送信してきた。「コンデンサに命中した可能性あり。まずい。宇宙港の半分を吹き飛ばした」

 もう一つの声、地上の誰か。「帆船、こちらメイス1-4。レーザー無効。奴らは急速に迫っています。防火部隊を緊急要請します。防火部隊、メイス1-4、接敵します!」

 あの虚無主義者、アルファラエルが目の前に突っ伏している。忌々しい、肉付きの良い顔。青白く臆病そうな顔立ち。虫のようにのたくり、汚れたコートの裾が翼のようにたるんでいる。ああ、ブラディエーターの柄をこの男の頭に突き刺したい。

 カヴもサンスター兵も、外の全員が、この男のせいで死んでいく。それというのも、戦場で死ぬだけの品格と勇気をこの男が持ち合わせていなかったから。

 でも臆病者とはそういうものだ。責任を取りなさい、ハリーヤ。皆が私のせいで死んでいく。アルファラエルは邪であり、邪なことをする。それが本性だ。あの男を止めなければならなかった。けれど、失敗した。仕える騎士を失望させ、総和を失望させた。

 「やりなさい」ハリーヤは急き立てた。彼の手の中で、その“もの”はきらめいている。「過去を変えなさい。やりなさい!」

 ヴォンダムの声が彼女の顎骨に囁いた。

 「従者よ、必要であれば増援部隊をふたつ用意できる。アーマーのテレメトリを送信したまえ」

 どう返答すべきか、ハリーヤはわからなかった。

 「従者よ、こちらヴォンダム。君のアーマーからの明瞭な通知を受信できた。アルファラエルは見つかったのか?」

 「はい。確保しています」

 「アルファラエルはその“もの”に接触したのか?」

 「はい……」ハリーヤはこらえながらも答えた。

 「くそっ。ああ、畜生。カヴァーロンにあるのか。アルファラエルが持っているのか?」

 「閣下が把握されていないことがあります。その“もの”は何もしていません。アルファラエルは私が確保しました。その“もの”はただ……閣下、閣下はもはやアンストラスではありません。その対象を私へと変えさせます。閣下は元のご自身に戻れるのです」

 沈黙。

 彼女のヘルメットはネットワークからネットワークへと跳ね、あらゆる戦術トラフィックを監視している――

 「――暴走している。レーザーに突撃してきて――」「――防塵フィルターを。皮膚ガスが必要だ――」

 「――全配列がオンライン。そちらを目標にしています。帆船、帆船、レーザーが狙っています。今すぐ防御してください!」

 「――目を潰しても止まりやしない。眼窩から侵入して脳を――」

 「交戦準備。武器、宇宙港の使節型レーザーを展開、まず動力供給を――」

 そしてヴォンダムからの返信。

 「私は、自分が何をしたのかも知ることはないのだろう。自分を取り戻すために君を売るという行為を。どれほど酷く裏切ったのかも知ることはないのだろう」

 「お気になさることはありません、閣下、それで良いのです。閣下はそれだけの価値のある人物です」

 「いや、違う。そのような価値のある者など存在しない。最高評議員殿でさえもだ。ハリーヤ、君に命令する。アルファラエルを殺害し、その“もの”を持って帰還せよ」

 それは教義理念書のプロコトルではない。そしてこれも――「閣下、私が何もかもを直してみせます。私に直させてください」

 「話しているのは君ではない。その“もの”だ。その“もの”が君に話をさせているのだ」

 「いいえ、閣下。私は守られています」

 「宜しい。第六プロコトルは過去にも成功例がある。アルファラエルを殺害してこちらへ向かいたまえ」

 「私が用いたのは第三プロコトルです。閣下の生年月日に合わせました。ですがそれは問題ではありません。教義理念書は、速やかに第七プロコトルへ進むよう記しています」

 沈黙。

 「発砲して下さい。私も、その“もの”も、カヴもまとめて」

 再びの沈黙。

 アーマーが警告してきた。アルファラエルは、おそらく再び動けるほどに筋力を回復している。

 その哀れな男と石をハリーヤは思った。アルファラエルは自らの信条を捨てた。それゆえに、この恐ろしい“もの”は言ったのだ――そうだ。そうだ。君は今、神のごとき力を手にしようとしている。君は正しかった。君は特別であり、重要であり、そして正しい。私のもとに来たれ――

 アルファラエルが暗い目で見上げてきた。

 ただ殺してしまえば、どれほど楽だろうか。綺麗さっぱり、確実に。そうすれば、自分がその“もの”影響下になかったとわかる。

 けれど総和は言っている、多くの人々にとっての最善を為せと。今も、そしてこれからも。ずっと。

 そして、自分がヴォンダム卿以上に宇宙へと貢献できるわけがあるだろうか?

 ハリーヤは送信した。「閣下、大丈夫です。別の従者を見つけてください。これは……なかなかいい死に方ですよ。どうぞ、撃ってください」

 「そこから出たまえ! 鉱滓フィールドへ出たまえ、君を回収する!」

 「それはプロトコルではありません。」

 「ハリーヤ、これは命令だ。そこから出ろ!」

 「閣下。私のことは従者とお呼びください。ハリーヤではなく」

 「従者――後ろだ!」

 外で動いていたふたつの熱源がセリーマ号の搭乗口に到達した。カヴと人間がひとりずつ。人間が叫んだ。「セリーマ号、展開――」

 いずれにせよ、やるべきことをヴォンダム卿が決断したなら、このふたりも死ぬ。そしてセリーマ号が侵入者に対してどのような攻撃を仕掛けてくるのかは知りたくもない。人間の心臓を狙い、彼女はレーザーを発射した。カヴは恐怖と怒りの咆哮をあげて人間に飛びつき、胸を叩き、青白い頭部を舐めた。ハリーヤの武器がカヴの喉を焼き尽くし、殺すまでには、驚くほど長い一瞬を要した。アルファラエルは身をよじり、悲鳴を上げて彼女の足を掴もうとしたが、どうすることもできなかった。

 彼らを殺すのはひどい気分だった。彼らには抵抗する機会すらなかった。たとえ数秒後に死んでいたとしても、スタンガンを使うべきだった。

 今、ハリーヤは死にたいと心から思っていた。ヴォンダムにこの場所を撃ってもらい、すべてを終わらせて欲しかった。あのカヴの深い悲しみを心に刻みながら、残りの人生を過ごしたくはない。

 何かが足首を突き刺した。

 下を見ると、アルファラエルが薬剤投与装置をその手にあいた穴に通していた。

 そして薬剤だけが彼の手を通り抜け、ハリーヤの鎧を通り抜け、ハリーヤの内に入った。

 「え?」そう声に出す余裕だけがあった。そして筋肉が凍りついた。

 両目が焦点を失う寸前、彼女が最後に見たのは、かすかな桃色の光を放つその“もの”だった。

 


(Tr. Mayuko Wakatsuki)

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