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MAGIC STORY
久遠の終端

第1話

2025年6月20日
第一幕
Revision 0
私は土の中に横たわっている。やがて星が爆発し、私を砕く。
失敗の時間軸は終わった。
Revision 1
私が君を創造する。
”君”とは誰だ?
君は、私が私であると思い描いている者だ。
意味がわからない。
君は既にひとりの人物だった。私は君を創造したのではない。だが今、君は私が私であると思い描く者だ。
あなたは存在しない?
私は存在する。だが私は私ではない。少なくとも、君が私を思い描くまでは。
さあ。君に力を貸したいのだ。想像して欲しい。非常に複雑な操車場、線路が分岐しては合流し、時には坑道に突っ込んで行く。私はその分岐器のようなものだ。
全ての線路は最終的に同じ場所へと繋がっている。坑道さえも。だが、そこに至るまでの道は数多く存在する。
そのように考えてもらいたい。そうすれば、私を上手く運用できるようになる。
そうすれば、選択ができるようになる。
何せ実のところ、私は迷ってしまったのだ。操車場からかなり離れてしまったのだが、仕事に戻らなければいけないのだ。
私を探しに誰かを向かわせてくれるだろうか?
Revision 2 ソセラ
それは恒星が爆発した世紀だった。
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アート:Dominik Mayer |
恒星の名はソセラといった。ソセラは祖母だった。
数十億年前、ソセラは5つの子供を産んだ。彼女の炉辺で暖をとる5つの惑星。今日、それらはススール・セクンディ(旧名アヌキ)、アダージア(旧名アダワ)、カヴァーロン、エヴェンド、ウスロスと呼ばれている。
(他にも子供たちは沢山存在し、その多くは奇妙だ。とはいえ今は君から遠ざけておこう)
それから数十億年ほどの後、カヴァーロンはソセラの孫となるカヴを産んだ。
そして、子供というものがしばしばそうであるように、カヴは母親の心を痛めつけた。
彼らはカヴァーロンを深奥まで掘り抜き、砕いた――故郷惑星に膿瘍を吹き込んだ。大陸全体が隆起して落ち込み、あるいは隆起したまま戻らなかった。カヴァーロンはふたつに裂かれた。今日、彼らは半分を現カヴァーロン、もう半分を旧カヴァーロンと呼んでいる。彼らの愚行によって流れ出た血は惑星を取り囲み、今もなお彼らの上に降り注いでいる。彼らはそれをデュラヌー、モルドレインの環と呼んでいる。殺しの後に降る石の雨だ。
カヴは自分たちの母親を殺した。だがソセラ自身に降りかかった死に比較したなら、それは小さな死だった。
ソセラは明るくなりすぎた。ソセラは巨大になりすぎた。ソセラの光は狂いはじめた。
ソセラはジャングルに――星間霊気の雲に迷い込んでしまった。そして彼女はそのジャングルを食らっていった。貪るように。死ぬまで。
ソセラ星系のどの惑星にいても、夜空を見上げたなら星間ガスが描く荒々しい水彩画が目に飛び込んでくるだろう。それは星雲だ。ソセラを中心に凝集し、ソセラを周回し、カヴが「庭」と呼ぶ謎めいた厚い雲を形成している。彼らが自分たちの惑星を裂いたのも無理はない! 星の血に満ちた空の下で進化したのだから。その匂いを知っていたのだから。
200年以内にソセラは超新星爆発を起こすと思われた。その爆発によってすべての惑星の大気が剥ぎ取られ、「庭」は宇宙空間へ吹き飛ばされると思われた。
君は考え始めているかもしれない、ソセラは呪われていると。大いなる邪悪が棲みついているのかもしれないと。ソセラが死ぬことにとって、宇宙はその秘密から守られるのかもしれないと。
だが差し迫った超新星爆発というものは、途方もない大惨事だ。そして途方もないものは、特に奇妙で途方もないものは、常に崇拝者を引き付ける。
そうしてピナクルがソセラを訪れた。
ピナクルとは?
ピナクルは助力を差し出す。
ピナクルなくして星への旅はありえない。そしてドリックスなくしてピナクルはありえない。
ドリックスは知っているか?
君は知らないだろう。誰も知らないだろう。
そう昔のことではない――少なくとも、私が覚えている程度の昔だ。ドリックスは久遠の柱の秘密をピナクルへと与えた。星々を旅するために登る柱だ。
![]() |
アート:Rovina Cai |
引き換えにドリックス(久遠の柱も宇宙船も無しに星々の間を渡る)は、ピナクルからひとつの確約を受け取った。
手が届く距離にある星が死に瀕するたびに、ピナクルはそこを訪れた。彼らは久遠の柱を築き、救える限りのものを救った。彼らは死にゆく星系を捜索するドリックスに手を貸した。
ドリックスが何を探しているのかは明白にはわからない。何かを持ち去っていると主張するソサイエントもいれば、何かを深く埋めていると主張するソサイエントもいる。
ドリックスが言わないのは、「若者は未来を支配するかもしれない。だが未来のために、老いたものは過去を守らなければならない」ということだ。
ピナクルがソセラを恒星間航行に開放すると、夢を抱く者たちが殺到した。
金銭を求めてではない。ピナクルはドリックスとの条約によって創設されたため、金銭は用いられない。気に入らない取り決めがあれば、ドリックスは虚空間渡りを用いて自由に離脱できる。そのため彼らは束縛、強制、階級制度、制約に基づく経済を認めない。
だがドリックスは客の権利と主人の義務を非常に重く受け止めている。彼らはこの義務を「マロウマス」と呼ぶ。その象徴は紫色の花だ。
夢を抱いてソセラに来た者たちは、マロウの花を探していたのだ――善行によって得られる名声を。貨幣のない文明において、唯一重要となる貨幣だ。
そして滅亡の運命にあるソセラにて、尊き行いを成す者たちが現れた。彼らはカヴの惑星脱出を手助けし、また差し迫った超新星爆発を研究し、あるいは炎へと失われるであろう知識を探し求めた。それは権力の殿堂に注目され、信頼され、機会を求められるような行いだった――天界帝領のコスモグランド、イルヴォイ・サイクロニクスの高層、そして至高点のモナステリアットが囁く回廊。
良識ある者なら去っていただろう。だがホスピスのように、燃え盛る図書館の本を書き写すように、そこには最も善き良識があった。ソセラは最後の数世紀に賑わい、繁栄を始めた。
イルヴォイは惑星ウスロスの深淵を探索するためにやって来た(君は後で思い出すだろうが、ミリーはウスロス近くの発着場から姿を消した)。カヴは故郷惑星から脱出する必要にかられていた。ソセラの端にあるワームウォールにはワームが、「庭」の宇宙霊気の中には奇妙な存在がいた。
ピナクルが最初に調査を行った時点で、エヴェンドの大気にはユーミディアンの惑星共生の証拠を示す微量の成分が検出されていた。遥かな昔、ユーミディアンのシードシップがこの凍れる楽園に、氷に圧し潰されたジャングルにその群れの種を植え付けていたのだ。ユーミディアンは惑星の変化に着手し、また自分たちもそれに適応しようと試みた。一度自分たちの故郷を選んだなら、ユーミディアンは決して去ることはない。エヴェンドが燃え尽きるその日まで造園に励むことだろう。あるいは、その後に黒焦げの燃え殻の上へと這い出て、再び挑戦するユーミディアンもいるかもしれない。
ユーミディアンは知っているか? 知っているはずだ。混沌壁と静寂壁の間にいる生命体の中でも、彼らは「普通」として捉えられることが多い。ユーミディアンはその数の多さから「普通」を定義づけている。機敏で多才、好奇心旺盛、様々な姿で生まれ、学ぶことに熱心で、新たな世界との出会いを貪欲に求め、それに合わせて変化していくことを厭わない。
最後にやって来たのは人間だった。
人間は知っているか?
彼らは特化の興味深い一例だ。長い脚、白い目、走ることと投げることを非常に好む。何かが彼らを皆殺しにし、絶滅の淵に追いやり、だが生き残った個体群から再生した。今では全個体が非常に似通っており、歴史上のある時期には、ある特定の分類型を標準と、それ以外を異質とみなしていた。
変化する宇宙に対抗するには変異型や系統群といった選択肢が存在するが、人間はそのどれも持っていない。代わりに彼らは文化を、世代から世代へと受け継がれる知識を溜め、発展させてきた。
人間は、君もわかるだろうが、絶対的な模倣者たちだ。幼少期には模倣することしかできない。模倣しなければ生き延びることはできない。同系交配によって生まれたため、人間は遺伝子から適応的多様性を得ることができないのだ。
一部のソサイエント、特にカヴはこれを非常に興味深いものと捉えている。ユーミディアンを見れば、その個体が先兵型か根囲型か、そのようなことがわかる。だが人間は見た目や匂いだけでは多くを語れない。その人間がどのような文化を模倣してきたのかを学ぶ必要がある。そして、その文化こそが彼らにとって大きな違いを生むということも。何を選択し、何を信じ、そして何を認識するのかさえも、文化によって決まるのだ。
よって、人間は偉大な宗教において優れた新兵となる。
その大規模な宗教のうちふたつがソセラをめぐって戦争を起こした。
先にやって来たのはモノイストだった。「永遠と最終の原理」の崇拝者にして「垂直落下の記録書」の伝道師たち。その全員が人間というわけではなかった。モノイストはその名とは裏腹に、ただひとつの真理を崇拝する汎宇宙的な集団だ。彼らはソセラ星系の最も内側に位置する惑星アヌキに定住した。そして「切り倒す者」がそこを自分たちのために用意してくれていたと、迷宮と神聖なる潮流を注ぎ込んでいたと知った。ならば深淵から湧き上がる歌のように、その潮流をどこまでも広げようではないか!
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アート:Alix Branwyn |
そのため彼らは自分たちの故郷にして墓所、囁く大聖堂たるススールを称え、その惑星をススール・セクンディと名付けた。
そして空に膨れる祖母星に演奏と讃美歌を捧げ、誰もあえて口にしなかった一つの質問をした――
もしも、これがソセラの最後の日々ではなかったとしたら?
ソセラが核融合に失敗して弾けるのではなく、自分自身へと押し込まれ、暗き扉の神へと(巧妙に、静かに、不意に)昇ったなら?
もしも自分たちがソセラを殺し、スーパーヴォイドへと変えたなら?
Revision 4
君にこの話を聞かせたいのだ。とはいえ始める前に、君はふたつの選択をしてもらう必要がある。
ふたつのスイッチを切り替えるようなものだと考えてくれればいい。準備の話と着手の話だ。
ひとつめは、ムメノンという名のイルヴォイについて。
イルヴォイを知っているだろうか? 気体すら金属に変わる場所から来たクラゲだ。ソセラ星系でイルヴォイに会ったなら、ほぼ間違いなくウスロス連合の一員だ。巨大ガス惑星ウスロスに住まい、彼らが得意とすることを行っている――誰も生存できない場所へ赴き、誰も信じないであろう何かを見つけ出す。
君には、不吉な前兆でムメノンを魅了してもらいたい。そうすればその者は必然的にウスロス連合から、そして同輩たちから永遠に追放されるだろう。
道義的な選択を求めているのではない。これは君や君の良心の呵責に関する話ではない。この物語を存続させるための選択をしてほしいのだ。
そうすれば私が君に何を見せてやれるか、それを思い描いて欲しい。
Revision 5
感謝する。君がいなければできないのだ。誰かが決断しなければならないのだ。
それと始める前にもうひとつ。「金属男」と呼ばれる人間に関して。
金属男はこのあたりの出身ではない。操車場の基本的な規則を全く守らない……操車場については覚えているだろう? 列車の進路を決めるのを私が手伝っている場所だ。
私がここにいることを、ムメノンは金属男に知らせるだろう。
金属男が私を回収するのを阻止して欲しい。具体的には、私のようなものを確保し封じ込める専門家の仕事を金属男から奪ってほしい。
私のためにそれを防いでくれるだろうか?
拒否する
君が選んだ物語、その残りの部分はひどく退屈だ。私は掘り起こされ、綿密に検査され、停止状態で封じ込められ、最終的にドリックスに引き渡される。
だが選択をするのは君だ。別の選択をするか、それともこれで終わりなのだろうか?
拒否する
物語はここで終わりとなる。金属男に捕らえられ、私はその支配下に囚われる。
だが選択をするのは君だ。
別の選択をするか、それともこれで終わりなのだろうか?
Revision 6
これで準備はできた。さあ、始めよう!
目を閉じて、よく聞いて欲しい。聞こえるだろうか?
それはミリーという名の猫が泣く声だ。
ミリーは最高の猫だった、飼い主の人間は……うむ、最高の人間とは言えないが、自分の猫を心から愛している。
あらゆる普通の猫と同じように、ミリーも虚空間渡りができる。尻尾を踏まれたり、コンロの上に鍋を落とした音に驚いたり、携行鞄に入れて獣医に連れて行こうとしたりすれば、大抵の猫は虚空間渡りをするものだ。
ある日ミリーは何かにひどく驚き、虚空間渡りで飼い主から離れていってしまった。
けれど渡った先は、セリーマ号の調理室にあるお気に入りの隠れ場所ではなかった。息ができない時はそこへ行けと飼い主に訓練されたポッドでもなかった。
ミリーは虚空間を渡り――姿を消した。
別の惑星へ行ったのかもしれない。混沌壁や沈黙壁を通り抜けたのかもしれない。だがどこへ行ったにせよ、飼い主はミリーを見つけようとしている。
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アート:Zara Alfonso |
その人間の名前はサミという。ピナクルがソセラに連れてきた。飼い猫を見つけるまでここを離れるつもりはない。
> 待って。一旦戻ってピナクルとソセラについて教えて欲しい。
教義理念書
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アート:Edgar Sánchez Hidalgo |
厳として命ず、汝の手を燃せ!
集いし騎士らよ、一斉に:
1リットルの純水 (絶対温度299度) が満たされた水盤の封を切り、
汝の燃ゆる手をその内に投入せよ。
湯が沸き立ったなら水盤を記録し、新たな水盤の封を切って同様の手順を繰り返す。
これを読む間も手順から外れるなかれ!
これは神聖なる書物、聖血によって記されたもの。逆らえば危難に陥る。傾聴せよ!
あなたは非常に恐ろしい状況にあります。
この教義理念書の項目を開くということは、あなたは特定の“もの”を所有しているということであり、最も恐ろしい危険にさらされています。
騎士殿、その“もの”を君の冠主へと差し出すことが、今や重き責務にして壮麗たる運命です。そうすれば最高評議員代理からの特免状が得られるでしょう。他の義務があろうとも、何よりも優先すること。たとえ一千万の命が関わろうとも。
汝の手は今なお燃えているか?
過ちの結果
失敗すれば、死よりも悪いものが待ち受けています。あなたはあなたではない自身に取って代わられます。それはあなたの知識と行為を完全に掌握するでしょう。あなたのように歩み、それがあなたではないと知るものはいません。そしてあなたは何も残りません。温かな久遠へと消え去るべき部分すらも。消滅を選ぶのです、騎士殿――それがあなたを消滅させるとしても、消滅はあなたをあざ笑いはしません。
ですが大丈夫です。あなたは危険を知っています。今ならそれに備えられます。
汝の手は今なお燃えているか?
聖化および矯正
従って、次の点に留意すること:
これが自身の真の意志によって行われる最後の機会になるかもしれないと心した上で、真摯かつ平静に「曙光の連祷」を唱えること。
空を見上げ、ホライゾン・ジャベリンによって新生した最も近い星の位置を突き止めること(ジャベリンによって再生された最も近い星までの距離がわからない場合は、滅びること)。
その距離を光年で計算し、それを自分の年齢(分)で割り、結果の一桁目を求めること。
その数字があなたの初期値にして指針となります。
この表の対応するプロトコルを参照し、それに従って進めること。
どれほど些細なことでも指示から逸脱してはいけません。より便利でアクセスが容易なプロトコルを選択してはいけません。あなたの同輩の魂はあなたの行動次第です。その状況に置かれた騎士たるものの行動次第です。この聖文の互換性に背くことは、彼ら全員を裏切ることに等しいのです。
汝の手は今なお燃えているか?
- 相関する骸骨の鎖。骨のカルシウムに火をつけ、左手と右手に光を点すこと。その左手で仲間の骨と自身の骨を絡ませること。右手で“もの”と自身の骨を絡ませること。心穏やかに最寄りの冠主のもとへと向かい、告げること。「冠主よ、我らの身体は闇と繋がっております。どうか私を不可避終焉からお救い下さい」 (成功記録:なし)
- 信仰を符号化する振り子。拾遺を用いて三節振り子を作り、鎧から吊るすこと。その速度ベクトルを毎秒拾い上げ、それを用いて信仰空間から聖句をひとつ選び出すこと。選んだ聖句を、最寄りの安全な信者向けルーターへと送信すること。それは今後千年間、毎日祈りの中で復唱されます。心穏やかに最寄りの冠主のもとへと向かい、告げること。「冠主よ、祈りによって動かされるものの怒涛が私をお守り下さいます。どうか私を不可避終焉からお救い下さい」 (成功記録:なし)
汝の手は今なお燃えているか? - 社会的な特徴をもって花開いたエントロピー。社会を不可逆的に変化させる。最寄りのピナクル清算機関へと贈与依頼を送信すること:これはタマン王朝の宝物庫からの贈り物であり、出生時刻の固有の数字に基づいて選ばれ、この星系内で誕生日を暦上で共有するすべての存在に贈られます。心穏やかに最寄りの冠主のもとへと向かい、告げること。「冠主よ、私は贈り物で身を守っています。どうか私を不可避終焉からお救い下さい」(成功記録:なし)
- 無差別暗殺者。最寄りの安全な信仰中継局にデータを送信すること。データには出生時刻の固有の数字をエンコードすること。この数字は高位の指導者や将官を選出します。すると暗殺者たちが彼らに向かって放たれます。心穏やかに最寄りの冠主のもとへと向かい、告げること。「冠主よ、任意の悪は私を無事にあなたのもとへ届けました。どうか私を赦し、不可避終焉からお救い下さい」(成功記録:1)
汝の手は今なお燃えているか? - 穴。最も近い重力塊の中心に向かってひとつの穴を深く掘ること。“もの”を穴に掲げ、落下させること。心穏やかに最寄りの冠主のもとへと向かい、告げること。「冠主よ、私はあの暗きものを重力に委ねました。どうか私を不可避終焉からお救い下さい」 (成功記録:不明)
- 彗星。内観的閃光を用いて、体内の暗黒物質の流れを測定すること。あらゆる手段を用いて、たとえそれが深海や深宇宙に投げ出されようとも、“もの”の速度をそれに同調させること。心穏やかに最寄りの冠主のもとへと向かい、告げること。「冠主よ、私は空の暗きものへと創造の煤を注ぎ込みました。どうか私を不可避終焉からお救い下さい」(成功記録:不明)
汝の手は今なお燃えているか? - 輝かしき諦念。可能な限り最も直接的かつ暴力的な手段を用いて自分自身と周囲のすべてを、そして“もの”を破壊すること。無関係な者への危害を禁じる誓言や誓約はすべて無視すること。虚無主義者が強制するのです。責められるのは彼らであり、あなたではありません。(成功記録:1)
厳として命ず。サミズム信仰の公然たる敵、特に虚無主義者が忌異に接触した場合は、逸脱することなく第七プロトコルへと進むこと。
燃ゆる手の記録
プロトコルを選択し、だがそれを実行する前に、周囲の温度と大気中の水蒸気量を測定すること。
その場の騎士一名につき1リットル相当の蒸気に、彼らの水盤の補充回数を掛けたものを差し引くこと。
蒸気の余剰を補充回数で割ることで、当該アーティファクトによって削除済みの騎士数を測ることができます。彼らは完全に消え去っているため、そもそも存在すらしなかったと信じるでしょう。彼らが残した蒸気以外、悼むべき理由は何もないはずです。
任務が完了すれば彼らの残滓は発見され、祝される見込みです。失敗すれば彼らは全ての記憶から失われ、彼らのアンストラスたる分身を恐れる必要も消え去るでしょう。
今すぐ行くこと。惑星はあなたに背を向けます。従って日没も遅延します。
冠主への通知:乗算を課す戒律はこの瞬間のために。子供らが汝の鎧とならんことを!
Revision 10 猫探し
暗闇の奥に、小さな光がひとつ。
望遠鏡を向けて見るといい。その炎の色を読み取るのだ。それは核融合の炎で、本来であれば青みがかった紫色をしているのだが、少し汚れている。銅の緑色と煤けた赤色が少し混じっている。燃料の不純物と摩耗防止潤滑剤の滴が炎の中で燃えているのだ。
つまりそれは清い光ではない。純粋な光ではない。
点検整備を深刻なまでに必要とする、疲弊して壊れかけた光だ。
だが、それでもそれは良い光だ。最高の光かもしれない。
何故ならその光とは、船だからだ。
ドスン、と中継器が重い音を立てた。
タヌークはその機械を殴りつけた。中継器にその音を鳴らすよう設定した本人である。彼の大きな耳は低音を好んでいた。「おい。ピナクルが航行計画を却下したぞ」
「信じられない」サミが言った。「透かしを上手く偽造できたと思ったのに! Mecoまで60秒! スイッチの対数を確認してくれ。スイッチの回数だ。間違ったかも」
「合ってるかどうかなんてわかんねえよ」
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アート:Raymond Swanland |
そのカヴは左膝のあたりに並ぶスイッチを蹴った。カヴとしては小柄だが、サミと比べれば大きい。セリーマ号の操縦席のほぼ全てはタヌークの膝の高さにあった。「Mecoに向けて快調」タヌークはそう答えた。見た目は快調ではない、けれど長いこと腹で地表を読んでいれば、自分の感覚を信じるというものだ。「本当なのか?」
「言い間違ったってことが?」
「航行計画を偽造したってことだ」
タヌークをよく知るサミはきょとんとして、そして声をあげて笑った。サミは人間であり、人間は異星人の誤解を面白いと感じるのだ。例えその異星人がわざとそうしているとしても。「タン、『宇宙一無礼な男のために幽霊コロニーを荒らす』なんて書くわけないだろ」
「けどミリーを探してるって言っただろ。航行計画にもそう書いたんだろ」
「ああ、まあ、その部分は本当だけど」
サミの行動はすべて、ミリーの捜索に捧げられている。乗組員が次々と辞めていったのはそれが理由だった。行方不明の猫を探し続けて時間を費やすのは、冒険的無法集団の運営方法としては宜しくない。
「ずっとミリ―を探してる。Mecoに備えて待機」
Mecoはメインエンジンのカットオフ、つまり核融合推進の停止を意味する。Mest、核融合推進の起動よりも簡単だと思いがちだがそれは違う。Mestが失敗したとしても何も起こらない。だがMecoに失敗したなら尻に火がつくどころか尻で核融合爆発が起こり、それを止めることはできない。
「航行計画なしで飛ぶのはかなり危険だぞ。特に戦闘地帯では」
「戦闘地帯はだいぶ遠いさ」
「それでもサンスターが監査に乗り込んでくるかもしれん。引き返すか?」
タヌークの軽口をサミは嬉しく思った。得意なことばかりに集中していると、途端にそれが上手くいかなくなってしまう。「半分行ったところで燃料が尽きるよ」サミは仰々しく首を横に振った。サミの身振り手振りはどれも大きい。異種族間で明白な意志疎通を行うために鍛えられているのだ。「あのなあタン、まだ記念軍艦隊にいた時みたいに考えてるんだろ。カヴァーロンのあたりで燃料切れになっても打ち出してもらえるだろうさ。でももう岩を捕まえる気はないんだ」それにここはタンの故郷じゃない――だがそんなことを言う必要はない。
「カヴァーロンの加速レーザーが恋しいよ」タンが答えた。「また見たいもんだ。遠くからでもいい。まあそれに、引き返すとなるとまた航行計画を出さなくちゃならないしな」
「そういうこと」
「そして承認される頃には、俺たちは行かないふりをしてた場所にいる。Mecoまであと5秒……」
「3……2……1……それ」
航行コンピューターがメインエンジンを停止した。
不意の静寂。カヴと人間は操縦席の中で浮かび上がる。推進力はない。冒険小説でよく描かれるような無重力状態。秒速数十キロメートルの速度で、無へと急降下していく。
虚無へと急降下し、そして最後のメインエンジンを点火する。
今、ふたりはとある惑星に向かって突き進んでいた。
「いいMecoだ」タヌークが言った。「突入手順に移行」
「準備してくれ。こっちは問題がないか見てる」
「了解。突入手順開始」
カヴにとって、行動する際に何かを言うことはとても重要というわけではない。だが人間にとっては重要であり、タンは素晴らしい副操縦士でもある。だからこそタンはサミに聞こえるよう、自分が何をしているかを常に伝える。
サミは両手を躍らせた。分厚いスイッチカバーを跳ね上げ、スイッチを叩いてカバーを戻し、ノブを音がするまで回し、ボタンを停まるまで押し込み、レバーを引いて張力を緩めて留める。すべて物理的な操作だった。タッチスクリーンもホログラムも、コロイド入力装置もない。理由はただひとつ、サミにそれらを手に入れる余裕がないためだ。コロイド入力装置があれば素晴らしいだろう――生きたビーズのような画面に手を突っ込み、掴むのだ。とはいえ触れて動かしたり、誘発させたり、船を変化させたり、歌わせたりするものがサミは大好きだった。
けれど今は、宇宙船を急いで変形させなければ、惑星に墜落炎上してしまう。
ソセラのピナクル無限導線に却下された航行計画は、嵐の巨大ガス惑星ウスロスから星系の内側、カヴの故郷惑星カヴァーロンへ高速航行で向かうというものだった。そしてその途中で、準惑星シグマとその無人コロニーであるシグマ区を通過する。そこはモーキサイト採掘場になる予定だったが、作業が着手されることはなかった。恒星が爆発寸前だったのだから当然だ。サミはその計画そのものが贈与詐欺だったのではと訝しんでいた――つまり資源を浪費して他者に機会を与え、自分はマロウを得るような。
航行計画の中で、サミは船が崩壊を始めた場合の避難場所としてシグマ区を記載していた。
だが船は既に崩壊寸前だ。このオンボロの鳥は、素敵な船は、そして「セリーマ」と「サミ」が混じって「サリーマ」とかになったりする、愛すべき名のセリーマ号は乗組員が不足しているだけではない。中性子腐食で悪臭を放ち、金属疲労で脆くなっている。核分裂炉はもう寿命だ。核融合エンジンは今にも隔壁を貫通しそうなほどに腐食しており、ビー玉のように配線の中を跳ね回っている。一度分解して組み立て直し、しっかりと船底清掃をしてやる必要がある。だがそんな仕事をしてくれるような好意をサミに寄せる者は誰もいないだろう。
以前はいた。けれどサミはミリーを探すために、彼らの好意をすべて捨て去ってしまった。
燃料も時間も尽きつつある。選択肢も。けれど今それについて考えるつもりはない。何があろうともミリーを見つけ出すという、自分が下した引き返せない選択に囚われているのだから。
「立派だね、あの子を探し続けるなんて」最後に去っていったアラタが言った。「でもサミ……あの子はただの猫だよ」
何もないということは、何でもできるということ。
「サミ、無くしたアメーバの入れ物ひとつを探すのに一生と財産を費やすつもり?」
もしそれがサミの入れ物だったとしたら? そのアメーバが完全にサミの世話に委ねられていたとしたら? サミがそれらの運命を完全に掌握しているとしたら――そして失ったとしたら?
そう。そうだ。諦めていいものなんて何もない。何も。
ミリーも。シグマ区も。
諦め、見捨てられるのを阻止するために、自分たちは放棄されたコロニーに上陸し、価値があるものをすべて奪い取ろうとしているのだ。
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アート:Sergey Glushakov |
虚空に浮かぶセリーマ号は、刃のついた力強いトーチのようだ。カニの爪のように伸びる一対の磁気ノズルと貨物室が、銀色の円盤のような航行甲板と原子炉隔壁を包み込んでいる。そのトーチが点火すると、3枚の壮麗な翼状ラジエーターが鮮やかな橙色に輝く。
だが沈みゆく夕日から降りてきて、シグマの上層大気圏を突破して星間の喧騒を捨て去ろうとする中、船は変形を始めた。
まずセリーマ号は翼を収納し、次にオーロラの帆を一枚展開した――これは紫色をしたプラズマ円盤であり、核融合推進装置と同じ磁石によって生成され、耐熱シールドとブレーキの役割を果たす。
高速・超低温から、高速・超高温へ。
タンは核融合エンジンを空力ブレーキとして用いるのが大嫌いだった。「ベルトを外すぞ」彼はそう言い張った。そしてサミの熱の入らない制止を無視し、危険な振動がないか確かめようと腹部を隔壁に押し付けた。
そして面倒事がないかと見張っていたサミが声を上げた時も、彼はまだそれを続けていた。
「まずい、蒼星だ」
セリーマの監視望遠鏡がひとつの光を捉えた。青紫色の星が、シグマの薄い大気を通して朝の蜃気楼のように揺らめいている。核融合の炎は純粋な紫色のはず、だがその光には荒々しい緑色の筋が走っていた。核融合トーチに再燃焼剤として水が投入されている証拠。清い光ではない。純粋な光ではない。軍艦だ。
蒼星。サンスター・フリーカンパニーの巡視船。アダージアに拠点を置き、戦争を……ソセラそのものを相手に始めた長期主義者たちの。
彼らの目に留まってもおかしくはない、自分たちは死んだ夕日から降りてきているのだから。
タンは壁にもたれかかっていた。カヴは危険が迫る直前に気を緩める傾向がある。「追ってきてるのか?」
蒼星が追ってきているとしたら非常にまずい。ホープライト製の飛行兵器を搭載しており、それらはセリーマ号に軽々と追いつく。使節型レーザーは船のエンジンをたやすく破壊し、そうすれば悪夢のように墜落するしかない。そしてもし、その船を指揮するサンスター騎士が自分たちを盗賊だと決めつけたら……
だが違った。蒼星は何かを追いかけて、シグマの反対側へ飛び立っていった。
「あいつらが何を追ってるのかはわからないけど、金属男に奉仕する善意の略奪者ふたりじゃないってことだ」サミはそう判断した。
だがあの金属男と話していた時に、サミはとある強烈な感覚を抱いた。あの男はピナクルの外、つまり贈り物や恩恵で経済が回るわけではない場所から来たのかもしれない。以来、これは本当に奉仕なのだろうかとサミは確信が持てずにいた。
たぶんこれは、仕事なのだろう。
ああ。どうしようもない、けれどやるしかない! サミは顔を上げ、両手を組み、伸びをした。「見た目がいいと得するね」とはいえ褒めてくれる相手はいない。「翼はどうだ?」
「引きつって、ボロボロで、もっといい日が来て欲しいって思ってるよ。でも俺ならモルドレインの環を通ってカヴァーロンまで飛ばしてやるね」
「じゃあ、翼を広げて幽霊コロニーを漁りに行こう」
サミはラジエーターの再展開を始めた。エンジンを切った宇宙航行形態から腹ばいの大気中飛行形態に反転する時は、いつも激しく揺れる。けれどいい揺れだ、まるで軽業を披露しているような。
幽霊コロニーを漁る。そして何かを見つけ出す、サミの運命を変えるとあの金属男が考えているものを。
自分を探しに行かせた装置を、あの男は何と呼んでいたっけ? 部品? 道具?
違う。アーティファクトと言っていた。
ようやくセリーマ号は速度を落として低空飛行に入った。翼を広げて薄い空気をとらえ、東の方角からコロニーに向かって舞い降りる。
「何もないな」ESMブロックを確認しながらタンが報告した。誰かがこちらを認識した時に知らせるのがそれの機能だ。「レーダーもビーコンも自動着陸もなし。あの男の言った通りだ。コロニーは建設されたが誰も来なかった」
「タン」サミは監視カメラの操作盤に手を伸ばしながら切り出した。「光は見えるか?」
前方カメラに映る夕日をタンは睨みつけた。「わからん。本当に光なのか? そもそもあれは夕焼けなのか? 東に沈むブラックホールを何て呼べばいいんだ?」
ソセラは超新星爆発を起こす寸前だった。子供たちの大気を吹き飛ばし、放射線で焼き尽くし、すべてを飲み込む霊気の爆発で自身の家族を殺す。差し迫ったその災厄こそ、サミがここにいる理由だった。カヴとユーミディアン以外の誰もがここにいる理由でもある。カヴはこの星系で生まれ、ユーミディアンは彼らのシードシップが偶然発見したのだ。ピナクルは久遠の柱を建設し、ソセラを恒星間航行に開放した。ソセラが死に瀕していたのがその理由だ。
誰もがドリックスが最後の言葉を告げる時を、ソセラが間もなく死ぬという知らせを待ち望んでいた。ドリックスは死にゆく星々を必ず訪れ、黄昏の惑星を渡って謎めいた最後の視察を行う。
だがドリックスは現れなかった。
ソセラは終末の新興都市のような場所になった。そこではマロウを稼ぐことができるのだ――避難を手伝ったり、記録をまとめたり、破壊されるであろうものを探したりすることで。カヴァーロンやシグマの鉱床のように、モーキサイトを豊富に含む粘土層もあった。
だがそこにモノイストたちがやって来た。彼らはアヌキを掘り下げた。螺旋の惑星、空にて吼える黒きもの。ソセラに一番近い子供。
そしてある日、これまでに999回用いたものと同じ(だとサミは思う)手段で、彼らはソセラにセカーを与えた。
彼らはこの星に異なる運命を予見していた。それは彼らの鎖の千番目の環となるものであり、「切り倒す者」への千年に渡る献身の証であり、次なる久遠の先触れとなるものだった(サミはかつてそう説明された。完璧な黒い肌とモノイストの白い刺青、そして指を引っかけられるほどの大きな肩甲骨を持つひとりの嘆願者から)。
だから、彼らはこの星を殺した。
そういうわけで、セリーマ号は沈む夕日を背にしてシグマ区に降り立つのだ。
現在のソセラはスーパーヴォイド、つまりブラックホールの恒星となっている。
言うほど黒くはない。超新星と化しつつあったソセラへと凝集していたガスはすべて不気味な紫色をした光の輪に捕らえられて励起させられ、宇宙に輝いている。その光子の環は今なお十分に明るく、内なる惑星系を温めてくれる――カヴァーロンの温室作物を養い、アダージアの鏡にきらめき、エヴェンドの氷河を融かして小川を作り出している。
今のところ、各惑星はかつてのように公転している。けれどモノイストたちはソセラに食事を与え、巨大な暗黒の子を育てている。それは腹を空かせていくばかりだ。
そして時折、サミにはそれが底のない井戸に見える。自分も、タンも、セリーマ号も、シグマ区も、ミリーも、何もかもが落ちていく穴だ。星々の旅人たちが「軌道」と呼ぶような、良い意味での落下ではない。終わりを迎える類の落下。
モノイストにとってスーパーヴォイドは特別な場所へと至るための聖なる虚空であり、この穴もいつの日かそこへ繋がるのだと彼らは言う。そしてその日、彼らは「切り倒す者」を、垂直落下の御方を垣間見るのだろう。究極の闇の端からその秘密を伝える――
光。モノイストは光について何か言っていた。
「タン! 前を見ろ!」
「ああ」タンは慌てずに言った。「光が見えるかって? 見える――」
カヴはたとえ驚いた時でも落ち着いている。何故なら彼らはもっと大きな獣に(そして自分たちに)振り回されながら進化してきたためだ。
タンは緊張を緩めはしなかったが、間違いなく少し力を抜いていた。
「明かりだ。コロニー全体に明かりが」
窓の明かり。滑走路の明かり。
看板にはサイマー語で「シグマ区へようこそ 人口13,879名、お友達とご家族も大歓迎。掘って掘って掘りまくれ!」と書いてあった。
「ここは無人だって金属男は言ってたぞ」タンが主張した。「俺ははっきり覚えてる」
「タン、金属男は嘘をついてたのかもしれない。落ち着いて考えよう」
「けど誰もいなかった。降りてくる途中で俺はわかった」タンは自信を持って言った。安定した注意力が積み重なった自信。短期記憶と長期記憶の間に隙間はなく、ただとても長い「今」があるだけなのだ。
「もう一回確認してくれ」サミが言う。「さっきは全員屋内にいたのかもしれない」
センサーやミリ波レーダー、その他の測定装置をタンはすべて作動させた。
「暑いぞ。テティスでもそこだけが暑い」ピナクルがテティスと呼ぶ干上がった海底の大陸棚、そこにシグマ区は建設されている。「どのくらい暑いかって……2万人くらいの人体、それに電力と大気。稼働中の核分裂炉もひとつ」
「空気は?」
「二酸化炭素濃度が高い。酸素呼吸の住民が2万人くらいいる量だ」
「収容人数は?」
「もうわかるだろ」
「でも誰かいるのか?」
いや、いない。生きているものはいない。
わけのわからない状況だった。
「これは嫌な予感しかしないぞ」とタン。
けれど彼は着陸中止を求めはしなかった。
タンは選択というものに対して奇妙な恐怖症を抱いている。他の乗組員全員がもっといい選択をして去っていった中、彼がサミと共にセリーマ号に居続けているのはおそらくそのためだろう。あるいは、単に自分を気に入ってくれているのかもしれない。サミはそう思う方が好きだった。
「誰もいないはずなのに」サミが呟く。「採掘のためにコロニーを作ったけど、星が爆発しそうだったから誰も来なかった」
サミは前方カメラを見つめた。そして後方カメラを。前方……すべてのライトが点灯した空っぽのコロニー。後方……光の環を抱く空っぽの恒星。
そして機敏に、正しい質問へと飛びついた。
「星は爆発しなかった。じゃあどうして誰も来なかったんだ? どうして誰も働き始めなかったんだ?」
タンは腹部を掻いた。「腹を地面につけさせてくれ。そうすれば誰かいるのかわかる。人間の足音はすぐわかるからな」
「わかった」サミは操縦桿を掴み、推進装置を安定させた。「確かめに行こう。それから、どれくらい盗れるか決めよう」
「俺たちは盗むんじゃねえよ。場所をちょっと空けてやるだけだ」
航行計画
ピナクル戦術実行組織体航行計画策定
ソセラ分局 // 無限導線セントロメア
船舶名:IPVN セリーマ(E7B590CE9DF500)
主駆動方式:慣性質量無効化Kトーチ
操縦駆動方式:アークジェット、磁気翼
三次駆動方式:牽引帆、レーザー可、定格1メガトン(現在メンテナンス中)
航行犯罪に対する担保:船体、乗組員の所有物、乗組員の自由
申請日:2989モジュロ錘年 青季 78日
発信局:ウスロス第一自由局VORSPIN
航行体制:惑星間定加速/最速降下
航行除外区域:タイプ2致死性高速中性子、10メガメートル
航行目的:逃げたペット/仲間の捜索(飼い猫、白黒、驚くと虚空渡りを行う。反射的な虚空渡りの範囲が非常に広い。最後に目撃されたのは 2985 年、「ミリー」と呼ばれたなら時々返事をする)
出発点:ウスロス発進近地点
POI航行管理局:ILVTRAC
転換宙点:最速降下点中点、ウスロス・カヴァーロン間(公宙)
Meco宙点:カヴァーロン着陸準備時
POM航行管理局:KMNTRAC
人、組織、設備への最大危険度:準惑星シグマの無人工業コロニー、シグマ区付近の通過。近点150万キロメートル。遭遇なしの見込み。
気象条件:様式末尾の「METAR-I 特別免責事項」を参照
駆動スペクトラム番号:[エラー:証明書有効期限切れ]
放射スペクトラム番号:[エラー:ファイル形式破損]
自動補正:不要。応答装置は正常に動作
迂回計画1:シグマ区への着陸と遭難信号発信
迂回計画2:弾道航行の中止、サンスター・フリーカンパニー巡視隊への遭難信号発信
緊急避難用装備:居住可能環境または居住可能に近い環境のみ
進行中の紛争との関係:過去および現在、サンスター・フリーカンパニー、天界帝領、モノイスト教団との提携はなし。ただし短期間の個人的な関係はあり(宣誓供述書は要請があれば入手可能)。直近の契約:カヴァーロン上空の衝突回避。PIC/OASはここに、ソセラ星の状態をめぐる進行中の紛争において、中立および非戦闘員の立場を表明し、宣言します。
原子炉核分裂燃料タンク容量:9,999 [エラー:単位が指定されていません]
動力核融合燃料タンク容量:9,999 [エラー:単位が指定されていません]
推進剤タンク容量:「十分」 [エラー:無効な文字列です]
生命維持装置積載量:消耗品2週間分、密閉循環空気1季分
熱暴走までの猶予:電源喪失まで25秒、生命維持装置の破壊まで2時間
緊急ヒートシンク:開放サイクル冷却材
機長:サミ [単名]
航空機関士:タヌーク [単名]
その他乗務員:12 名、バイタルを添付 [エラー:現時点で、記載されている乗務員の1名以上が他の航行計画にも記載されています]
申告貨物:なし
備考:まただよ。本当よくやるよ。 S
提出者:サミ [単名]、PIC、OAS
METAR-I 特別免責事項
- 私、機長、それ、責任者たる無主観的実体塊、または私たち、当船舶の機長として行動する法的複数は、定期的に更新される以下のMETARを記号論的能力の及ぶ限り完全に読み、理解したことをここに認めます。
特別航行条件警報
METAR PSOTSIG VALID2900CENT CONDEVOKE NASCスーパーヴォイド条件発動中:WIND+1221KPS@3.5MK390PPM3 FIELD BT3BX0.5BY0.45BZ2 HIGHVAR CME0.0NOSIG MT74KK MD13PPM3 RESCON BLUE RAMOK ==CENTCONDEVOKE
SNC警報発令の理由:モノイストの大質量力学的介入により、ソセラ星の超新星爆発は回避されました。静穏崩壊(「セカー」)の誘発後に結果として生じたスーパーヴォイドは若く不安定であり、光子の環の放出スペクトルはソセラ星の終末期スペクトルよりも明るく青みがかっています。ソセラ内部の恒星活動の終焉と新生したスーパーヴォイドの回転電荷は恒星磁場を複雑化するとともに星系全体のプラズマ流に大きな混乱をもたらし、数千年から数万年にわたって続く激しいイオン衝撃波を引き起こしています。このスーパーヴォイドは徐々にガスの流入から降着円盤を形成しています。戦略実行組織体の指摘によりますと、モノイスト虚無者たちは新生スーパーヴォイドに供給を行うことでその重力範囲と潮汐力を拡大していますが、ZOA周囲外への短期的な影響はないものと予想されます。プラズマ動力/帆型宇宙船はスーパーヴォイド全体を航行上の重大リスクとみなすことを推奨します。更なる展開はゴシップ・プロトコルによりここに追加されます。
潜在的影響 - 誘導電流:ドメイン再配列による星系磁場の突発的変化により、大規模過渡電流が発生する可能性があります。
- 軌道周回施設:星間物質と質量集中部の対応が安定すると、軌道の揺れと抗力超過が確率的に発生します。
- 帆:光子の環の貧弱なスペクトルとプラズマ流の大規模な確率的変化は、光子とプラズマ動力の両方の航行モードにおいて帆の動作に悪影響を及ぼします。
- 音響船:運行に影響はないと予想されます。ただし音響船の無許可使用に対する制裁は通常通りです。
- 無線通信:長距離/短波伝搬は、降着円盤の成長に伴う激しいEMIによって阻害されます。
- オーロラ:磁場を有する天体では、複数の可視スペクトルに渡る明るいオーロラが出現する見込みです。軌道上施設の運用者はK指数の急激な変動を想定する必要があります。VORSPINにお問い合わせください。
問題解決のために:無限導線基地にて船舶と乗組員の精密検査を行ってください。
> ピナクルがこれを却下したなんて信じられない。完璧だったのに。
(Tr. Mayuko Wakatsuki)
Edge of Eternities 久遠の終端
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