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戦略記事

津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ

津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ マルドゥの復権とデッキに差をつけるワンポイント

津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ マルドゥの復権とデッキに差をつけるワンポイント

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 こんにちは! 晴れる屋の津村です。

 来週にはいよいよ「グランプリ・静岡2017春」が開催されるということで、今週は「グランプリ・ユトレヒト2017」 (2月25~26日開催) 、「Magic Online Championship 2016」 (3月3~5日開催) の結果から最新のデッキを特集していきたいと思います。

 前回の連載までは「黒緑アグロ」が栄華を極めておりましたが、そこからスタンダード環境はどのように推移したのでしょうか?

 まずは「グランプリ・ユトレヒト2017」でトップ8に残ったデッキをご覧ください。

グランプリ・ユトレヒト2017 トップ8デッキ (2017年2月25~26日)

  • 優勝・「マルドゥ (白黒赤) バリスタ」
  • 準優勝・「マルドゥ・バリスタ」
  • 3位・「マルドゥ・バリスタ」
  • 4位・「黒緑アグロ」
  • 5位・「マルドゥ機体」
  • 6位・「黒緑アグロ」
  • 7位・「黒緑アグロ」
  • 8位・「4色サヒーリ」

 4人の「マルドゥ」に3人の「黒緑アグロ」、そして「4色サヒーリ」が1人と、「三すくみ環境」と呼ばれるに相応しい結果となった同大会。

 ただし、以前と決定的に違うのが「マルドゥ」が「機体」型から「バリスタ」型へとシフトしてきていることです。

 《経験豊富な操縦者》ではなく《歩行バリスタ》を採用した「マルドゥ」と言えば、市川ユウキさんたちがプロツアー『霊気紛争』で使用したリストが記憶に新しいですが、こちらは市川さんご自身が失敗だったと仰っていることもあってか、その後しばらくは日の目を浴びることはありませんでした。

 しかし「グランプリ・ユトレヒト2017」の前週にMagic Online (以下MO) で行われたプロツアー予選(参考)で「バリスタ」型が優勝を収めるや否や、徐々に、しかしながら確実に注目度が増していきました。そこからMOで対戦する回数や5戦全勝リストに掲載される回数が目に見えて増加し、ついには「グランプリ・ユトレヒト2017」で上位3席を独占するに至ったのです。

「マルドゥ・バリスタ」

Samuel Vuillot - 「マルドゥ・バリスタ」
グランプリ・ユトレヒト2017 優勝 / スタンダード (2017年2月25~26日)[MO] [ARENA]
2 《
2 《平地
2 《
4 《感動的な眺望所
1 《鋭い突端
1 《凶兆の廃墟
4 《秘密の中庭
4 《霊気拠点
4 《産業の塔
-土地(24)-

4 《スレイベンの検査官
4 《模範的な造り手
4 《屑鉄場のたかり屋
2 《異端聖戦士、サリア
4 《歩行バリスタ
-クリーチャー(18)-
4 《致命的な一押し
4 《無許可の分解
4 《キランの真意号
4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン
2 《反逆の先導者、チャンドラ
-呪文(18)-
1 《領事の権限
3 《チャンドラの誓い
3 《リリアナの誓い
4 《グレムリン解放
2 《先駆ける者、ナヒリ
2 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス
-サイドボード(15)-
 

 このリストの特徴、そして以前の「マルドゥ機体」からの大きな変化は下記の2点です。

 早く(2)に関してお話ししたい気持ちは山々ですが、順を追って見ていきましょう。

(1) 《歩行バリスタ》の採用

 《歩行バリスタ》の採用は、「4色サヒーリ」の隆盛を受けてのことだと思われます。《歩行バリスタ》さえあれば《守護フェリダー》・《サヒーリ・ライ》コンボ成立を許すことはありませんし、このデッキにとって悩みの種である《つむじ風の巨匠》から生み出される「飛行機械・トークン」にもある程度の耐性が付きます。このリストでは、《歩行バリスタ》以外にも《異端聖戦士、サリア》が採用されており、他のリストと比べメインから「4色サヒーリ」を意識した構成になっていることが分かります。

 また、《経験豊富な操縦者》とは違い、《歩行バリスタ》はマナベースに負荷をかけることがありません。ここ最近ではほとんどのリストが除去のスロットに《ショック》ではなく《致命的な一押し》を起用していますが、それに伴い序盤から安定して《致命的な一押し》をキャストするために《》を採用するリストも増えています。その際に{W}{R}を要求する《経験豊富な操縦者》と《》の併用は好ましくありませんし、《歩行バリスタ》であれば《致命的な一押し》の「紛争」条件達成にも寄与します。

 もちろん《経験豊富な操縦者》の方が優れているマッチアップも存在します。《歩行バリスタ》の打点の低さと《キランの真意号》に「搭乗」できないことが響く、対コントロールデッキや対《霊気池の驚異》デッキなどはそれが顕著で、今後そういったデッキが増えるようであれば再び《経験豊富な操縦者》に光が当たることもあるでしょう。

(2) 革新的なサイドボードプラン

 続いてはこのデッキのサイドボードプランに関してですが、これこそがこのデッキを優勝まで押し上げた最大の要因ではないかと思います。このリストは驚くべきことに、サイドボード後に軽いクリーチャーやアーティファクトを全てサイドアウトし、「プレインズウォーカーコントロール」にシフトできる構成になっているのです。

 実際に優勝者が「マルドゥ」ミラーマッチとなった決勝戦で、どのようなサイドボーディングを行ったのかをご覧いただきましょう。

サイドボード後のデッキ[MO] [ARENA]
2 《
2 《平地
2 《
4 《感動的な眺望所
1 《鋭い突端
1 《凶兆の廃墟
4 《秘密の中庭
4 《霊気拠点
4 《産業の塔
-土地(24)-

4 《スレイベンの検査官
2 《異端聖戦士、サリア
4 《歩行バリスタ
-クリーチャー(10)-
4 《致命的な一押し
3 《チャンドラの誓い
3 《リリアナの誓い
4 《無許可の分解
4 《グレムリン解放
4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン
2 《反逆の先導者、チャンドラ
1 《先駆ける者、ナヒリ
1 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス
-呪文(26)-

 ご覧の通り、「マルドゥ」の象徴であるはずの《模範的な造り手》も《屑鉄場のたかり屋》も、さらには《キランの真意号》の姿もそこにはありません。これにより対戦相手の除去呪文や《グレムリン解放》は全くもって期待外れのカードに成り下がってしまいますし、対するこちらは《チャンドラの誓い》と《リリアナの誓い》で序盤のクリーチャーをしっかりと対処しつつ、なおかつ中盤以降の「プレインズウォーカー」の出し合いに備えた下準備をも同時にこなしてしまえます。

 メインデッキは環境最速のビートダウンデッキでありながら、サイドボード後には純然たる「プレインズウォーカーコントロール」に変貌できるこの戦略。これはリストが知れ渡った今でも十分に通用する戦法で、その理由はふたつの戦略の速度に落差がありすぎるため、どちらにも対応できるサイドボードプランがほとんど存在しないからです。

 実際に蓋を開けてみるまでは「マルドゥ・バリスタ」側がどちらのプランを取るかは分からないので、前述の通り軽い除去やアーティファクト破壊呪文を多用すれば「プレインズウォーカーコントロール」モードに歯が立ちませんし、ビートダウン対策を怠ればメインデッキのままの形に対応しきれません。

 この衝撃的なサイドボードプランはあっという間に流行の兆しを見せ、「グランプリ・ユトレヒト2017」の翌週に開催された「Magic Online Championship 2016」でもJosh Utter-Leytonを優勝へと導いています。

Josh Utter-Leyton - 「マルドゥ・バリスタ」
Magic Online Championship 2016 優勝 / スタンダード (2017年3月3~5日)[MO] [ARENA]
3 《平地
3 《
4 《秘密の中庭
4 《感動的な眺望所
1 《鋭い突端
4 《霊気拠点
4 《産業の塔
-土地(23)-

4 《スレイベンの検査官
4 《模範的な造り手
4 《屑鉄場のたかり屋
2 《異端聖戦士、サリア
4 《歩行バリスタ
-クリーチャー(18)-
4 《致命的な一押し
4 《無許可の分解
4 《キランの真意号
3 《霊気圏の収集艇
4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン
-呪文(19)-
1 《大天使アヴァシン
1 《チャンドラの誓い
3 《リリアナの誓い
2 《苦い真理
1 《苦渋の破棄
2 《燻蒸
3 《グレムリン解放
1 《先駆ける者、ナヒリ
1 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス
-サイドボード(15)-
 

 Joshのリストは《霊気圏の収集艇》を多用することで、《霊気拠点》が色マナを捻出しやすいように工夫されています。

 また、「プレインズウォーカーコントロール」に移行する際にデッキが重くなることを加味してか、4枚目以降の土地をスムーズに引き込めるよう《苦い真理》も採用されています。

 「プレインズウォーカーコントロール」に変更する場合は長期戦になりやすいので、消耗戦に強い《苦い真理》は非常に理にかなった選択だと思います。各種「プレインズウォーカー」や「誓い」の枚数には議論の余地がありそうだと考えていましたが、今後はそこに《苦い真理》も加わることになるでしょう。

 

 この両極端の戦略に上手く対応するのは非常に困難であり、僕自身も明確な答えを出すにはいたっていませんが、ひとつの対抗手段として「片方の戦略が有効でないデッキを使う」ことが挙げられます。

「ティムール《霊気池の驚異》 with 《電招の塔》」

rizer - 「ティムール・霊気池の驚異 with 電招の塔」
Magic Online Standard Regional PTQ 7勝1敗 (権利獲得) / スタンダード (2017年3月4日)[MO] [ARENA]
5 《
2 《
1 《
4 《植物の聖域
1 《伐採地の滝
4 《尖塔断の運河
4 《霊気拠点
1 《見捨てられた神々の神殿
-土地(22)-

4 《ならず者の精製屋
1 《奔流の機械巨人
3 《絶え間ない飢餓、ウラモグ
-クリーチャー(8)-
4 《霊気との調和
2 《ショック
4 《予期
4 《蓄霊稲妻
4 《織木師の組細工
1 《霊気溶融
2 《電招の塔
4 《霊気池の驚異
4 《天才の片鱗
1 《ニッサの復興
-呪文(30)-
2 《守られた霊気泥棒
1 《導路の召使い
1 《奔流の機械巨人
1 《世界を壊すもの
3 《払拭
1 《ショック
3 《否認
1 《自然廃退
2 《コジレックの帰還
-サイドボード(15)-
 

 その代表例のひとつが、《霊気池の驚異》を使ったデッキです。

 《霊気池の驚異》はデッキの構造上、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》以外の遅い「プレインズウォーカー」を無視してゲームを進めることができますし、ミッドレンジデッキや打ち消し呪文のないコントロールデッキに対して無類の強さを誇ります。そのため、この手のデッキは「マルドゥ・バリスタ」に「プレインズウォーカーコントロール」になるという選択肢を与えません。《霊気池の驚異》側は、純粋に「ビートダウンのマルドゥ」対策を行うだけで済むというわけです。

 また、このデッキは「マルドゥ」が2マナ域を《経験豊富な操縦者》から《歩行バリスタ》に変更したことによる恩恵を受けたデッキのひとつでもあります。先ほど述べた《歩行バリスタ》の打点が低く、《キランの真意号》に「搭乗」できないという弱点がこのマッチアップでは重くのしかかるからです。

 「4色サヒーリ」に対しても複数枚のインスタント除去呪文と《電招の塔》でしっかりと戦える構成になっていますし、「マルドゥ・バリスタ」のサイドボードプランに振り回されたくない!という方にぜひともお勧めしたいアーキタイプです。

 逆に「マルドゥ」側は現状ではコンボデッキに対してガードが下がってしまっているので、こういったデッキを意識するのであれば《否認》や《金属の叱責》を入れた「4色」の形も再検討の余地があるでしょう。

今週の一押し ~「ティムール・タワー」~

藤村 和晃 - 「ティムール・タワー」
プロツアー『アモンケット』地域予選・名張 権利獲得 / スタンダード (2017年2月26日)[MO] [ARENA]
5 《
2 《
1 《
4 《植物の聖域
2 《伐採地の滝
4 《尖塔断の運河
4 《霊気拠点
-土地(22)-

4 《ならず者の精製屋
2 《逆毛ハイドラ
3 《奔流の機械巨人
-クリーチャー(9)-
4 《霊気との調和
2 《ショック
4 《蓄霊稲妻
3 《予期
3 《否認
2 《焼夷流
4 《電招の塔
3 《不許可
4 《天才の片鱗
-呪文(29)-
2 《守られた霊気泥棒
2 《払拭
3 《自然廃退
3 《不屈の追跡者
2 《光輝の炎
3 《慮外な押収
-サイドボード(15)-
 

 すっかりTier1デッキの仲間入りを果たした感のある「ティムール・タワー」。「グランプリ・ユトレヒト2017」でも数名のプラチナレベル・プロがこのデッキを選択しており、Ondrej Strasky選手が11位に、Oliver Polak-Rottmann選手が20位に入賞しています。プロツアー地域予選でも権利獲得者を輩出するなど、日増しに存在感を増すこのデッキ。「グランプリ・静岡2017春」までにしっかりと対戦経験を積んでおきたいアーキタイプです。

 そんな中でも注目のアプローチを施したのが、数々のプロツアー参戦経験とグランプリトップ8入賞経験を持つ藤村 和晃選手です。このリストの注目点は《逆毛ハイドラ》の採用です。

 たったひとつのスロット変更がそんなに大きな影響を与えるのか疑問に思われるかもしれませんが、めったにデッキを褒めないことで有名 (?) なあの中村 修平さんに「マルドゥ・バリスタのサイドボードプランくらいの衝撃を受けた」と言わしめたほどに重要な変化だったのです。このデッキが苦戦を強いられる各種「プレインズウォーカー」への牽制になるだけでなく、《電招の塔》が対処されてしまうサイドボード後にも頼れるフィニッシャーとして機能してくれます。

 このデッキの生みの親である八十岡 翔太さんがサイドボードに《つむじ風の巨匠》を用意していたこともあってか、対戦相手はサイドボード後にも必ず除去呪文を残してきますが、《逆毛ハイドラ》なら事前に3つ以上の「エネルギー」を用意しておくだけで打ち消し呪文などのバックアップがなくともそれらを掻い潜ることができます。

 今回の《逆毛ハイドラ》が示す通り、まだまだ登場して日が浅いデッキということで、これからのさらなる成長と活躍が期待されるデッキです。

おわりに

 今週の「津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ」は以上です。今のスタンダード環境は、サイドボードプランが非常に重要になっていると思います。多くのプレイヤーが既存のリストとたくさん練習を重ねているからこそ、予想外のプランやカードの奇襲性は抜群です。

 「マルドゥ・バリスタ」ほどインパクトのあるものでなくとも、1スロット変更するだけで十分な対価が得られると思いますし、それが一般的なサイドボードプランから外れていれば外れているほどに効果が高いはずです。「グランプリ・ユトレヒト2017」を境に、「黒緑アグロ」系統のデッキは少し元気がなくなってきた印象を受けていますが、デッキの根幹は相変わらず強力そのものなので、新たなサイドボードプランさえ確立できれば以前のような勢いを取り戻せるのではないでしょうか。

 今週末には「グランプリ・ニュージャージー2017」・「グランプリ・バルセロナ2017」とふたつのグランプリに加え、MOでもプロツアー地域予選が開催されますので、「グランプリ・静岡2017春」に参加予定の方はぜひご注目ください。

 それでは、また次回の連載でお会いしましょう!

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