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プレインズウォーカーのためのイニストラード案内 ステンシアと吸血鬼
プレインズウォーカーのためのイニストラード案内 ステンシアと吸血鬼
Magic Creative Team / Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori
2011年11月2日
文字通りにまた比喩的に、ステンシア州はイニストラードで最も陰鬱な州である。だが同時に最も劇的で、最も名高い、最も未開の州でもある。その谷は田園地帯(にもかかわらず暗い)から枯死した針葉樹がゆっくりと沈みゆく黒い沼地にまで広がっている。クロマツの森が広がる内陸部には、深緑から紫、灰がかった橙にまで様々な色を見せる霧深い小沼が点在する。遠方の藍色と黒色の山々は雲間に消え、隠された山頂に何が住まうのか、人間たちは想像するのみである。
ステンシアでは、奇妙な色をした雲を裂いて太陽が完全に姿を見せることは決してない。ステンシアを支配する力、吸血鬼の血族はそれを好んでいる。ここではイニストラードの月が完全な姿を見せることは滅多にない。Z型に連なって州の大部分を占める山地、禿鷲の翼幅が谷をそれぞれ隔てており、容易な監視と支配を可能にしている。ステンシアの辛抱強い人間たちは、その故郷へと彼らとしては不合理な忠誠を抱いている。実際、彼らのほとんどに選択肢など存在しない。彼らは州の狭い山道と、昔ながらの牧畜と採集の生活に囚われている。
Vincent ProceとJames Paickによるコンセプト・アート |
禿鷲の翼幅
ステンシアの大部分を占める山地である禿鷲の翼幅が、この州を完全に定義している。ガヴォニーとケッシグの州境から州の端へと移動するにつれ、この山脈は着実に高さを増す。内陸では山頂は森に覆われ、山脈の只中では山頂は樹木限界を越えて裸の岩となっている。だが州の端では、山頂は雲の中に消える。高地には洞窟と裂け目が点在し、そこを支配するのは禿鷲、蝙蝠、そして他の巨大クリーチャーである。
James Paickによるコンセプト・アート |
山道
禿鷲の翼幅を貫く山道は少なく、貴重である。ステンシア州を出入りする旅人は例外なくそれらを使用する。
魂の小道
禿鷲の翼幅、そのZ字型の終端を横切る魂の小道はステンシア内陸の谷から海へと至る唯一の道である。魂の小道の終点から海までは標高1600フィートに達し、波立つ水面へと至る唯一の方法は飛び降りる......もしくは徒歩やラバで、果てしないつづら折りの、同じことを試みて死んでいった幽霊たちに悩まされる危険な小道を下るかである。
ホフスアデルと針の目
これら二つの道は内陸の谷と辺境の谷をと繋いでいる。ホフスアデルは幅広く、人通りの多い道で、吸血鬼たちも手をつけずに残している。その理由は、長い目で見れば、人間の交わりはそれがステンシア人の間に限られている限りは良いものだからである。しかしながら針の目は狭く危険な命取りの小道である。復讐に燃える幽霊がおり、灰口とそこに棲む小悪魔達にもまた近接しているからである。人間は近隣の谷で緊急の出来事があった時にのみ、針の目の小道を使用する。
ゲトアンダーの小道とクルーインの小道
近接する州からステンシアに至る小道である。ゲトアンダーはケッシグからの道で、長く曲がりくねっており、貪欲なファルケンラスの吸血鬼たちが監視している。ガヴォニーからはクルーインの小道を利用しなければならない。ゲトアンダー同様に長いが平面方向よりも垂直方向への移動が多く、そして栄養十分なマルコフの吸血鬼たちによって怠惰に監視されている。
《山》 アート:James Paick |
ステンシアの谷
禿鷲の翼幅の形状はこの州に二つの長い谷を作り出した。そして山麓がそれらの谷を孤立した多数の地域に分割している。
辺境の谷
この外部の谷は地形によって8つに分割されており、そのうち3つは注目すべきものである。人間の村シャドウグランジ、見捨てられたマウアーの地所、そして人間の牧場主たちから成るラマスの共同体である。シャドウグランジとラマスはひどく情熱的な、それと同時に誇大妄想的で恐ろしい生活様式を持つ人間たちが居住する一風変わった地である。これら遠く離れた地を目にしたことのあるイニストラードの他の人間はわずかである。
内陸の谷
内陸に伸びる谷には、著名な吸血鬼が保有する重要な人間の共同社会が二つ根付いている。いくつかの家庭経営農園に囲まれた、宿命論的な聖戦士たちが常駐する小さな石の塔シルバーン、羊飼いとその家族からなる大規模な村ウルバンク。そしてマルコフの領地が、二つの共同体を丘の上から見下ろしている。マルコフの領地はソリン・マルコフの祖父、エドガー・マルコフの住処である。
James Paickによるコンセプト・アート |
遠沼
一つは内陸にもう一つは辺境に、双つの沼がインク溜まりのようにステンシア中央を覆っている。二つともかつては松の木立であったが、それらの木々は今は枯れた幹をもつれさせながら、奇妙な角度で泥炭のぬかるみに沈もうとしている。沼の周囲は古よりの墓地となっており、墓がぬかるみの中に溶けゆくほどに幽霊は増殖する。同様に僅かなグールがこの地をさまよっている。彼らのほとんどは若い独学のグール呼び、リネルダ・スミットが呼び出したものである。彼女は吸血鬼の攻撃に対抗するための彼女自身の軍団を作り上げることによってステンシアで名を上げようとしている、無責任な十代の少女である。
《沼》 アート:James Paick |
灰口
禿鷲の翼幅の中央、ホフスアデルと針の目の間。森に覆われて、地下のマグマの輝きを見ることができるほど巨大な淵、灰口が横たわっている。そこからは灰混じりの煙霧が立ち上り、上空で暗い雲と混ざり合う。灰口は地獄への入り口であり、もしかしたら最も重要なものかもしれない。シルゲンガーという名のデーモンはこの奈落から出現し、同時にデーモンたちだけが理解できる気味の悪い様式に従って、小悪魔の一団も吐き出された。
《地獄の口の中》 アート:Raymond Swanland |
ソンバーワルド
その暗さにもかかわらず、ステンシアにはまだ美しい場所がある。並び競う谷と残酷な山頂の間で、禿鷲の翼幅は曲がりくねって憂鬱な、うなだれた松の原生林となっている。これらの森は何種類かの、イニストラードの最も気高く清純なクリーチャー達の故郷である。熊、鹿、その他安全と隠遁を求めて何世紀も前に流れてきたクリーチャー。彼らの多くはかつてケッシグで見られたが、狩人、罠師、狼男が勢力を拡大してきたため、吸血鬼の影に隠れて安全なこの地に追いやられた。
人間の生活と文化
羊と牧羊
ステンシアの頑固な気質とぼんやりとした陽光のもとでは、多くの作物は育たない。そのため人間たちは毛、皮、乳、そして肉のために羊を頼っている。ここでは牧羊の伝統は昔から続くもので、ステンシアの羊毛は世界一とされている。吸血鬼の支配はこの州で狼男が足がかりを得るのを妨げており、羊の群れは他の州よりは捕食者からずっと安全でいられる。ステンシアでは人類は羊に依存し、吸血鬼は人類に依存している......吸血鬼たちの間にもこの皮肉は生きている。
禁欲主義
ステンシアの人間は表情豊かでも、感情を表に出す人々でもない。何世代もの艱難と吸血鬼の要塞に近接している事は......子供たちを失い、仲間を失い......ステンシア人たちに心を守るようにと教えてきた。彼らはその熱い信念を誇りにしているが、他の州の人間からは無愛想に、また冷たいものにさえ映る。
村の濠、家屋の木、歓迎の鏡
吸血鬼に囲まれた環境で、人間たちは彼らに可能な限り生活を適応させてきた。ほとんどあらゆるステンシアの村は羊の水飲み場から引いた浅い濠に囲まれている。この州ではしばしば雲を月が覆い隠すので、月が見えない時には濠が吸血鬼の侵入を防いでくれるからである。小規模な村では生木の入手を集中管理するために、家屋は通常サンザシの小さな木立の周囲に配置される。より大きな村では、家屋そのものがしばしばサンザシの木を囲んで建てられる。木の幹が共用部屋の中央に、そしてその葉が屋根の上に来るようにする。家屋の木を世話することは長子の義務である。最後に、ほとんど全てのステンシアの家屋は玄関の扉の外側に取りつけられた鏡を特徴としている。吸血鬼に接近を思いとどまらせるためである。
Vincent Proceによるコンセプト・アート |
吸血鬼の文化
高貴な後援者
自身の立場と人間の立場に対する吸血鬼の心構えは、誰もが予想する通りに利己的で偏っている。吸血鬼たちは、自分たちが人類の救い主であり守り手であると信じている。人間の「犠牲」、その死すべき運命と、血縁との繋がりを放棄させることは吸血鬼にとって慈善の証明であり、同時に彼らの人間に対する振舞いは、裕福な博愛主義者が貧者に対するそれに等しい(彼らが時折貧者の血を吸う以外は)。
社交的クリーチャー
吸血鬼たちの社会生活はそれら高貴な宮廷のように、あらゆる細部まで危険で堕落している。吸血鬼たちはパーティー、饗宴、恋愛、娯楽、そういったものを行うために互いを訪問する。彼らにとって遺恨と裏切りはそれが深刻な問題であればあるほど楽しみの源である。そして吸血鬼の逢引と対立を追いかけることに多くの時間を割こうとする。
華美なものに対する要求
吸血鬼たちは最上の衣服、最上の武器、最上の鎧、最上の家具、最上の輸送手段のみを欲する。時折これらの欲求は吸血鬼の職工によって満たされるが、吸血鬼たちよりも何かしらを上回る力量の芸術的手腕で、人間が名声を得ることもある。こういった場合、吸血鬼は仲介人を通して交渉するか、その職人を直接訪れて支払うかして問題のものを入手する手段を見つける。通常、件の人間は顧客が吸血鬼であると簡単に識別可能である。何故なら吸血鬼の審美眼は人間のそれとははっきりと異なっているからである。だが利益、脅迫状、もしくは単純に生命の危険から、ほとんどの職人は従う。
吸血鬼の王/女王の謁見
この不穏な三日間はオリヴィア・ヴォルダーレンが発案したものである。一人の人間が定められ、誘拐され、この催しの期間「吸血鬼の王もしくは女王」として仕える吸血鬼の広大な地所や城に運び込まれる。勿論、完全におびえきった偽の王/女王は最上の食事と飲み物を与えられる、そして劇的に請い求められる。吸血鬼たちは王/女王が「玉座」を放棄する試み以外のどんな命令にも従う。三日間の終わりには王/女王は殺され、参加者全員がその血を共有する。
吸血鬼の重要な場所
ステンシアには、いくつかの主要な吸血鬼の血統の最重要拠点がある。全て高地にあり、眼下の人間たちの詮索の目から隔離されている。
ファルケンラス城
禿鷲の翼幅の中央付近の山肌、ホフスアデルとゲトアンダーの小道の間にファルケンラス城が鎮座している。高くそびえる威圧的なゴシック様式の傑作であり、ファルケンラス一族の吸血鬼が多数暮らしている。その血族の始祖は死んで長いにもかかわらず、城は几帳面に保全されている。より小規模の邸宅が城の周囲とケッシグ州境に存在するが、ファルケンラス城こそがステンシアで最も有力な吸血鬼がその野心的な捕食を企てる本拠地である。
《荘園のガーゴイル》アート:Matt Stewart |
ヴォルダーレンの地所
魂の小道の終点から4マイル、霧に覆われてぎざぎざの峰に囲まれた、オリヴィア・ヴォルダーレンの広大な地所がある。彼女はヴォルダーレンの血統の始祖、奇人の美食家として名高い。オリヴィアはしばしば遠方へと旅をし、イニストラードの4州に点在するヴォルダーレン家の荘園や要塞を訪問する。吸血鬼のエリートは、オリヴィアは最上のパーティーに飛び付くことを知っている。そして幸いにして彼女の尊大さから地所外への旅は周期的な舞踏会となっている。
マルコフの荘園
ガヴォニーに近接するステンシアの端に、エドガー・マルコフの邸宅がクルーインの小道を見渡している。そしてそのバルコニーからは遥か遠くにスレイベンの高地都市を望むことができる。マルコフの血族は最も名高く恐らくは最も広まっているにもかかわらず、エドガーは他の吸血鬼の古老よりも比較的簡素な生活をしている。
ステンシアの重要人物
コスパー・ロウ
シルバーン警備隊の隊長である。シルバーンの小さな共同体は、この地域の聖戦士たちの宿泊所兼作戦本部であるシルバーンの塔から発足した。シルバーンの聖戦士たちはアヴァシンの失踪以来宿命論的になってきたが、彼らの隊長、コスパーという名の典型的な美形の若者は、感心すべき指揮を続けている。彼は馬術と剣術に優れてもいるが、彼の主たる技能は皆を鎮め、鼓舞するカリスマである。ただ一つの事だけがコスパー・ロウを悩ませている。彼を好きになった女性は全員失踪しているのである。それによりコスパーは理解し始めた、彼自身が吸血鬼の心酔の対象になっていることを意味すると。
悪魔殺しのカスティーヌ
シャドウグランジからやって来た若く正気でない女性であり、自身を放浪の僧兵とみなしている。あるデーモンが彼女の子供3人を殺し、子供たちが安息を見つけ出すまで、仇と他のあらゆるデーモンを殺戮すると誓った。
トラフトと彼の付添人
トラフトは生前、アヴァシンの天使とともにデーモンと戦う生きた聖者であった。トラフトの幽霊と彼に付き添っていた天使の何人かは死後も戦い続けるために残り、デーモンの帰還を待ち構えている。トラフトは灰口を含むステンシアのいくつかの場所に現れる。そして彼の付添人はスレイベンのトラフト廟に住まい、訪れた者へと予言や前兆といった形で助力を与える。
審問官の刃、レム・カロラス
最も怖れられ、かつ最も敬愛される審問官、レム・カロラスによってのみ解決される問題がある。レムは三十代後半で、斑模様の愛馬に乗り、彼のトレードマークであるレイピアで武装している。また脇腹に短剣を差し、背中には大剣を背負ってイニストラードを放浪している。エルゴード訓練場は何度となくレムへと指導者として誘いをかけているが、彼は興味を持っていない。彼はその目的に同意すればスレイベンからの命令を受け取るが、しばしば単純に放浪し、遭遇した危険とやり合う。そしてステンシアには少なくとも他の州よりも多くの危険がある。
イニストラードの吸血鬼たちは人類以外でただ一つ文明を形成し、この次元の人間にとって最大の脅威である。彼らの存在は自堕落な欲望の具現を一種表している。もし狼男たちが抑圧された激怒の象徴であるとするなら、吸血鬼たちは抑圧された欲望の象徴である。イニストラードには吸血鬼の邸宅、宮廷、そして城さえも次元のあらゆる所に存在し、彼らの獲物である人間への攻勢は大きく変化する。
《夜の歓楽者》 アート:Steve Argyle |
吸血衝動の本質
イニストラードの吸血衝動はウイルスでも呪いによるものでもない。だが吸血鬼自身は幾分遠まわしに「血の調子」と呼んでいる。それは比類ない魔法によって永続する聖別である。そして吸血衝動を持つ者がそれを呪いだとみなす事はほとんどない。「調子」の本質が表れる時、吸血鬼たちは身体を血で洗い流して新たな状態をもたらす。彼らは時折詩的にそれを沐浴と呼んでいる。イニストラードの吸血鬼たちは正確にはアンデッドではない。しかしながら彼らは不老や冷たい肌といった、いくつかのアンデッド的特徴を持つ。
Vincent ProceとSteve Prescottによるコンセプト・アート |
吸血鬼の特色
吸血鬼の外見で最も特徴的なのは彼らの目である。白目は黒く光彩は金、銀、もしくは他の色をしている。肌は青白く触ると冷たい。髪はしばしば黒だが時々深い紫色、暗い赤紫色、暗紅色、暗青緑色もある。変化や目新しさを求め、もしくは人間たちの中により容易く隠れるために鬘を被る者もいる。吸血鬼の犬歯は常にごく僅かに突出しており、何かに噛みつく時には4分の1インチほど伸びる。吸血鬼たちはまた長く僅かに湾曲した指の爪を持つ傾向にある。
Steve Prescottによるコンセプト・アート |
吸血鬼の力
人間たちは、吸血鬼の能力についての邪悪さと不思議さについて荒唐無稽な話を語ってきた。しかし現実は、吸血鬼の一般的な力はただ三つに限られる。不老、わずかに高い筋力(人間のほぼ倍)、そして彼らの意思に応じて発せられる幅2フィート程の沈黙のオーラである。
《忍び寄る吸血鬼》 アート:Slawomir Maniak |
吸血鬼の魔法
多くの吸血鬼たちは比類のない魅力的な姿(疑似幻影魔法)をとることができ、人間たちの中で探知されず動くことを可能にしていると言われている。これらは精神に影響を及ぼす魔法であり、対象の外見を変化させる真の幻影魔法というよりも、自身が知覚しているという人間の考えそのものを変化させる。従って、とりわけ意思の強い人間は時折魅惑の影響を打ち破り、吸血鬼の真を見ることができる。また、時間と魔力とマナがあれば、年長の吸血鬼たちはあらゆる種類の強力な魔法を習得する。飛行、催眠の視線、他の姿への変身(蝙蝠や霧といったもの)、等々が含まれる。
Daarkenによるコンセプト・アート |
吸血鬼の弱点
全ての吸血鬼は、彼らの種族を作り出した儀式から繋がる弱点の一式を受け継いでいる。最初に、彼らはどんな武器によっても傷つけられまた殺されるのだが、生木の武器は特別な効能を持つ。これはドライアドの遺産とも呼ばれている(死した木は不活性であり、石や鋼といったもの以上の効果はない)。二番目に、吸血鬼は月が映る流水を横切ることができない。これは人間の糧としての水と天使の力の源としての月との繋がりによるものである。三番目に、アヴァシン自身が触れることによって魔法のかかった水は、酸のように吸血鬼を焼く。だがこの水は不足しており、時が経つとともに貴重になりつつある。
銀、前兆をもたらす存在
イニストラードの銀の月とその天使たちとの繋がりから、そして吸血鬼が創造された儀式に天使の血を飲むことが含まれていたことから、銀は吸血鬼と相対する特別なものである。それは彼らに吸血鬼の魅惑を無視させ、いかに彼らが正常な、定命の存在であったかという現実へと直面させる。このため、吸血鬼は鏡(銀のコーティングに裏打ちされたガラス)を避けるために長い距離を取る。鏡は彼らの現在ではなく、定命の姿を映すからである。これは同様に、何故吸血鬼が月の映る流水を渡れないかという理由にもなる。銀の武器は吸血鬼にとってとりわけ致命的ではないにもかかわらず、銀の存在は彼らの心を乱し、不利な状況に追い込む。
Steve Prescottによるコンセプト・アート |
アヴァシンの力
大天使アヴァシンは人間と吸血鬼の平衡を保つ生ける盟約である(あった)。アヴァシンの失踪によって教会の力は近年著しく減少しているにもかかわらず、アヴァシンの聖印は吸血鬼たちへと、無力化される怖れと逃げ出したいという欲望を引き起こす。アヴァシンの不在にもかかわらず、信念の力はそれだけでアヴァシンの象徴、銀の首輪及び白鷺の冠毛へと持続する魔力を吹き込む。
抑えられない渇き
月が一周する間ずっと人間約一人分の血を飲まない限り(約5リットル)、吸血鬼は餓えて死にうる。しかしながら、ほとんどあらゆる吸血鬼が、機会さえあればそれ以上を飲む。十分な血がなければ、吸血鬼は数日のうちに速やかに飢える。まず乾燥し、ついには塵と化して崩れる。全ての吸血鬼を作り出した源の魔法が原因で、生きた人間の血だけが彼らの渇きを癒すのに適当なものである。吸血鬼の錬金術師たちは動物の血を人間の血に変質させることを企ててきたが、全て失敗に終わっている。死んだ人間の血もまた不適当である。もし生きた人間の血がワインだとしたら、死んだ人間の血は酢のようなものである。
《吸血鬼の侵入者》 アート:James Ryman |
血の商い
吸血鬼にとって、血は実際ワインのようなものである。その商品が滋養をなさなくなるまで数日しか良い状態を保たないにもかかわらず、吸血鬼たちは血の活発な貿易を楽しむ。血が新鮮さを保つのは、切られた木が生きている時間と大体等しい長さである。比較的近接する小規模な城や邸宅はそれぞれ、様々なブレンドを試した血を四輪馬車で交換し合う。とりわけ興味深い、もしくは美味なサンプルは、血が「死ぬ」ことを短時間防ぐ魔法を使用することのできる時の魔術師によって保存される(冷凍は効果をなさない)。とはいえ時間魔術師が確保できない時は(しばしばある)、吸血鬼は犠牲者である奴隷に頼る。彼/彼女を場所から場所へ、その血を飲むために運ぶ。特別な四輪馬車がこの目的のために存在する。
食事と繁殖
吸血鬼は人間から、通常その犠牲者が失血死するまで血を飲む。だが時折吸血が中断させられ、その人間が生き残り回復することがある。他の人間たちは吸血鬼に噛まれて生き残った者は吸血鬼になると疑うかもしれないが、これはありえない。何故なら繁殖には血の交換が含まれるからである。生還者は不穏な、時折エロティックな夢に何年も苛まれるが、吸血鬼と化すことはない。
Vincent Proceによるコンセプト・アート |
ある吸血鬼がある人間を吸血鬼に変えたいと考え、犠牲者を吸血鬼化させるには、吸血鬼は彼/彼女の血を犠牲者へと導入しなければならない。これを果たす最も単純な方法は、吸血の前もしくはその間に、吸血鬼自身の頬や舌に傷をつける事である。この行動は犠牲者を「聖別」し、彼/彼女へとあらゆる吸血鬼が持つものと同じ「血の調子」を授ける。だがこれは最初の一歩でしかない。犠牲者は一度聖別されたなら、血の渇きを感じ始める。そして1日から3日の間のうちに食事では満足できなくなる。だがこの最初の血の渇きは特別なものである。繁殖元の吸血鬼の血のみがその渇きを満たすことができる。新たに聖別された犠牲者のうち、次の新月までに繁殖元の血を飲まなかったものは死に至る。だがそれが成されれば、繁殖は完成し聖別された者は一人前の吸血鬼となる。
Steve Prescottによるコンセプト・アート |
恵まれた者のみ
吸血鬼は誰を繁殖に選ぶのか? 吸血鬼は自分達を人類の救い手だと信じており、また彼ら自身の堕落した快楽主義から、精選された人間のみが繁殖に適するものとなる。例えばある吸血鬼はその人間の美しさ、カリスマ、知性、もしくは才能から人間を選ぶ。端的に言うと、最も非凡な人間のみが吸血鬼となる。
Vincent Proceによるコンセプト・アート |
噛みつき
吸血鬼が食事をする時、彼らはその牙を露出した肉に沈める。通常、首が最も手頃だが、腕や頬の場合もある。だが繁殖の噛みつきは特別である。吸血鬼たちは未来の同胞の外見を損なうことを避けようとするので、しばしば繁殖の噛みつきは目につかない場所に行われる。太腿の上部、脇腹、足の裏などである(とはいえこの最後の例は、吸血鬼が謙遜する価値があるほどの特別な存在に違いない)。
《ステンシアの血の間》 アート:John Avon |
血統
全ての吸血鬼が平等に作られるわけではない。現存する吸血鬼の血統の中では、いくつかはよりありふれている。だが名高いもの達のいくつかは稀であるにもかかわらず尊敬されていない。元来12の血統が存在した。これらは大昔、マルコフの始祖エドガー・マルコフとともに行われた何かの儀式に源を発している。このうち3つの血統は完全に死に絶えた。5つは比較的小規模で、より少数の吸血鬼によって存続されている。残る4つの主要な血統は、
マルコフ家
これはエドガー・マルコフを始祖とする、最も名声のある血統である。マルコフ家は何世紀にも渡って一族を増やすことにそれなりの野心を抱いてきた。その結果としてマルコフの吸血鬼はイニストラードの4州全土に存在する。だがマルコフ家の吸血鬼全員が気高く壮大というわけではない。血統は気質、自己修養、慎みを決定するものではない。マルコフの古老たちは精神魔法の才能に恵まれていると思われる。
《系統の王》 アート:Jason Chan |
ファルケンラス家
ステンシアにおいて、ファルケンラス家の者はマルコフ家よりも集中しており、有名な鷹匠(故人)を始祖とするために遠大な活動と捕食の気質を残し続けている。ファルケンラスの吸血鬼たちは人間の中を大胆にも歩き、安全とみなされている人間社会の深くから犠牲者を選ぶことを楽しむ。ファルケンラスの古老たちは他の血統よりも飛行の力に熟達しているようである。
《ファルケンラスの匪賊》 アート:James Ryman |
ヴォルダーレン家
ヴォルダーレン家の始祖、オリヴィア・ヴォルダーレンは美しくも健在である。だが彼女は奇妙で難解な、わがままな女性であり、人間の文明から遠く離れて暮らすことを好む。彼女は見たところ限りのない財産によって建造された邸宅に住んでいる。彼らの始祖のように、ヴォルダーレンの吸血鬼たちは人里離れた地、イニストラードの州境や端に住まう傾向にある。ヴォルダーレンの古老たちは彼らを動物の姿、特に蝙蝠や猫、鼠といったものへと変身させる魔法を容易く習得する。
《オリヴィア・ヴォルダーレン》 アート:Eric Deschamps |
ストロムカーク家
ステンシアの吸血鬼たちの政治的、社会的策謀に加わることを好まず、ストロムカーク家は代わりにネファリアに権力を集中させることを選択した。結果として彼らの変装の魅惑はより強力に、またより洗練されたものとなった。ストロムカークの始祖である流城のルノは生前、アヴァシンが現れる以前の、海と嵐の神を崇拝する高僧であった。そしてストロムカークの吸血鬼たちは今も多少の親しみを沿岸地帯に抱いている。ストロムカークの古老の何人かは自身を霧に変身させる能力を手に入れた。
《流城の貴族》 アート:James Ryman |
プレインズウォーカーのためのイニストラード案内 目次
- 序説
- ガヴォニーと人間
- ケッシグと狼男
- ネファリアとアンデッド
- ステンシアと吸血鬼
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