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『ブルームバロウ』の伝説たち

Neale LaPlante Johnson
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2024年8月12日

 

 ブルームバロウでは、渓間のアニマルフォークたちが互いに調和して暮らしています。災厄の獣が次元に惨害をもたらす恐れはあるものの、彼らは友や家族の緊密な繋がりを通じて自分たちの住処を切り開いてきました。独特の魔法織りが駆使されるブルームバロウは多元宇宙から一線を画しており、あらゆる者にとっての平和な家というひとつの可能性の象徴です。

 ブルームバロウの中心はその社会にありますが、伝説の地位に上り詰めた者もいます。この英雄たち(および悪役たち)は渓間の象徴となり、その名前と物語は多元宇宙の牧歌的なこの一角に住む誰もが知っています。

 ブルームバロウの物語と、家族を守るためのメイブルの冒険に興味があるなら、こちらでその物語を読むことができます。さらに、ブルームバロウ自体の歴史について知りたい場合は、「プレインズウォーカーのための『ブルームバロウ』案内(その1その2その3)」が、この新登場の次元に関するあらゆる物事を学ぶのに最適です。

 この次元を初めて訪問する皆さん、ブルームバロウのアニマルフォークたちについてもっと学んでみませんか。あなたの物語が力強く、あなたの心がさらに強くなりますように!


物語のキャラクター

岩山炎の後継者、メイブル

 菓子作りの匠であり、英雄であり、そして(一番誇らしい地位として)母親であるメイブルは、夫のクレムと愛らしい子供のロザリン、フォギー、ピップと共にグッドヒルの村に住んでいます。彼女は野生児でした――心はやんちゃで、いつもいたずらをしていて、日没前に帰宅した試しはありませんでした。ですが成長するにつれて、当面は家族の世話をすることが十分に冒険になると気付きました。彼女は平穏な生活に満足していましたが、ある時ヘルガが村にやって来てマーハの蹂躙を告げます。渓間内の脅威は無視できないほど大きくなっていました。家族のため、友のため、そして故郷のために、彼女は冒険の呼び声に応じました。家宝の剣である岩山炎を手に取り、彼女は英雄たちのパーティーを結成し、災厄の獣を動揺させているものを見つけ出し、それを解決するために何ができるかを探るために旅立ちます。メイブルは勇敢ですが、故郷を救えるかどうか、先祖のリリーの偉業に匹敵できるかどうかは確信が持てていませんでした。

災厄の占い師、グラルブ

 魔術師にして王であるグラルブは、多層の街である噴水港の王座から穏やかに統治しています。常に今のような策士だったわけではなく、かつては占術を学ぶ者たちの師でした。季節を告げ、渓間を繁栄の未来に導きたいと願う者たちのために、彼は素晴らしい学校を運営していました。グラルブは知識だけでなく、渓間に命をもたらす周期と季節についての考察でも有名になりました。ですが災厄の獣の手と爪が渓間に破壊をもたらすという予見が、幾つもの季節に渡って彼の夢を苛みます。自身が予見した惨害に故郷を襲わせまいと、彼は傭兵である残虐爪の力を借りて、災厄の獣の卵を盗む計画を立てました。そして、それを自分で意のままに育てようと目論見ました。どのような結果になろうとも、自分が予見したような破壊には及ばないと確信していたのです。

神経質な予見者、ヘルガ

 グラルブの元弟子であり、根っからの悲観主義者であるヘルガは、ほぼカエルフォークだけが住む村で育ちました。彼女に対する期待は明確でした――占術こそが進む道であると。村の者たちは力を惜しまずにヘルガへと占術を教えましたが、彼女は他の子たちのようにその術を身につけはしませんでした。代わりに、彼女は池のさざ波を見つめて思索にふけりながら、オタマジャクシの幼少時代を過ごしました。その後、村の者たちはヘルガを村から送り出しました。より厳しく、実績のあるグラルブの指導によって彼女の可能性が解き放たれることを期待したのです。ところがその環境は村以上にヘルガに合いませんでした。グラルブはのんびり過ごすことを許さず、ましてやぼんやりすることなど言語道断でした。ヘルガは王の方針と態度に動揺し、災厄の予見が王の心を揺さぶるにつれて扱いも悪化するばかりだったため、弟子の地位を辞して去りました。彼女は平穏を願いましたが、そうではなくマーハの恐怖に襲われてしまいます。そしてメイブルと出会い、渓間を再び正しい状態に戻すための冒険に出発して、彼女は気付きました――自分の成長を助けてくれる親友たちに囲まれていると。

悪名高い残虐爪

 残虐爪には様々な面があります――時には深い仲の相手、大抵は悪党、あるいはその両方かもしれません。それは見る者が関係のどちら側にいるかによります。残虐爪以上に楽しい時間を知る者はなく、楽しい時間には代償が伴うもの。金、縁故、権力……彼は必要なものは何でも手に入れ、頂点の座に居続けるためには何でもします。元々、残虐爪はラクーンフォークが放棄した家々から財宝を盗むろくでなしとして食い扶持を稼いでいましたが、やがてもっと厄介な依頼元の大きな仕事へと移りました。残虐爪は決して仕事を断らず、決して負けないという評判ですが、正々堂々と戦ったことはありません。彼の直近の冒険は歴史書に記されるほどのものでした――グラルブ王の命令でマーハの卵を盗んだのです。強盗は上手くいっても、帰りの旅はそうとは限りません。ですが残虐爪は、渓間で最も有名な占術師の手に自身の未来を託すのは安全な賭けだと考えました。

鱗の焦熱、ゲヴ

 ゲヴの評判は決して良いものではありませんでした。故郷の村で育つ間は芸術家になりたいと思っており、今では芸術家だと言うでしょう。ゲヴの道具はカンバスと筆ではなく、刃と態度です。彼は死体漁りをするために多くの長い夜を路上で過ごしました。ですが屈強なハグスと出会い、彼をその商売に迎え入れると状況が変わりました――両者は傭兵としてだけでなく、相棒同士として離れがたい仲になったのです。焚き火の傍や星空の下でアナグマフォークに密着するのは、夜の寒さの中で身体を温める最も簡単な方法でした。ゲヴはハグスの良い影響を受け、長年をかけて温和になりました。ですがもし何者かが相棒に危害を加えたなら、ゲヴは必ず短剣使いとしての面を相手に教え込むでしょう。

忌まわしい守護獣、ハグス

 腕っぷしは強く、心は広い。そんなアナグマフォークのハグスは、危険には慣れっこです。根の迷路にて孤独に育ったハグスには、やがて食べなければならなくなる昆虫以外にはほとんど友達がいませんでした。そして冒険の途中でリザードフォークのゲヴと偶然出会うと、彼らはすぐに友達になりました――ハグスは一言も話さず、まだ自身の名前すらなかったにもかかわらず。両者は何年も一緒に冒険し、沢山の儲けを積み重ね、それをさらに大きなご馳走に費やしました。こうした初期の冒険のひとつにおいて、ハグスが災厄の獣であるヘラジカを押し留め、その間にゲヴが街の住民たちを安全な場所へと導くということがありました。町民たちが戻ってくると、そこにはハグスだけが、傷つきながらもしっかりと立っていました。町の子供たちは彼を取り囲み、腕を組み合って抱き着きました。彼が膝をついてその仕草に応えた時、ゲヴは相棒を何と呼べばいいかを悟ったのでした。そしてメイブルの仲間に加わる頃には、ハグスの名は渓間の子供たちの間でよく知られるようになっていました。

星界を呼ぶ者、ゾラリーネ

 ゾラリーネは、渓間のリリーの世代まで細々と遡る、最も古いバットフォークの血統のひとつに属しています。彼女には三本木市でも最大の教会における主任聖職者の二代目という権威もありますが、たとえ起きていて気力が十分だとしても、そのことは決して話さないでしょう。夜の街に響き渡る偉そうな儀式や騒々しい歌声は、夜空を探求し分析したいという彼女の願望と調和しませんでした。そこである日、彼女は出発を告げる書き置きだけを残して独りで旅立ちました。そして一晩(あるいは七晩)休むことができるグッドヒルに辿り着くまで、そう長くはかかりませんでした。メイブルに同行して渓間を救うよう彼女を説得するのは簡単でした。とはいえ、ゾラリーネが冒険に出た理由は他者のためというだけではありません。冒険の中で実践的な稽古ができるのであれば、彼女は喜んでもう数回の説教を休みにするでしょう。

腕利きの射手、フィニアス

 フィニアスはグッドヒルの村じゅうで、それどころかその少し先までも名射手として知られています。彼は大家族に甘やかされて育ち、故郷の安全な環境でしっかりと成長しました。最初、弓術は暇つぶしのつもりでしたが、彼の矢が的のすぐ近くに当たる様子を見た母親は、あらゆる方法で彼に稽古をさせました。フィニアスはそれ以来、名射手にならなければ母を失望させることになると肝に銘じています。そして、そうはさせませんでした。渓間を脅威から守ることを使命とするラビットフォークの集団、脚当て隊への加入をフィニアスは目指していましたが、その心は家族の監視の目から離れての冒険を求めていました。メイブルが助力を求めた際、フィニアスは自分の弓が役に立つと思いましたが、その冒険がどれほど厳しいものになるかは知りませんでした。大きな期待に応えなければなりません。ですが母は言います――いつ世界に出ても大丈夫だと。

羽の夜のマーハ

 「我らはそれを夜長の季節と呼んでいる。その両翼は空から太陽を覆い隠す暗闇をもたらし、その飛跡には今この時の夜空と、それに先立つすべての夜空に輝く星座が見える。我らの祖先の時代には、その爪が空を切り裂き、永遠の暗闇を生み出したと言われている。このところの猛り狂いは、卵が行方不明になったためのようだ。災厄であろうとも親の愛情はあるということだろう」――渦巻く精神、ウィック

岸無き海、エルージュ

 「エルージュの到来は深海の季節の先触れよ。渓間に住む私たちのほとんどは、水域のどこまでも見渡すことができた。けれどエルージュの深い顎が水面を突き破ると、波が止まることなくやって来て、尾が激しく打ち付けるたびに潮流が起こって、根を土から引き抜こうとする。最近になって、エルージュは遠く長川の下流で目撃されるようになったのよ。エルージュをここまで近づける何かが上流にあるに違いないわ。そしてこれほどの災厄を駆り立てることができるものは、渓間全体を脅かすかもしれない」――分岐する嵐、アラニア

運命の大嵐、ドラゴンホーク

 「この新しい災厄を言い表す言葉は渓間には存在しない。そもそも災厄じゃないのかもしれない。嵐を運んでくるけれど、渓間の嵐とは全然違う。わけがわからない。目的もなく空を裂く。一瞬でそこに現れたかと思うと、雷鳴とともに消え去る。茨野原の向こうから来たのか、それとももっと遠くから? 旅の途中に、とある世界の話を聞いたことがある。巨大な炎の獣が、牙と爪で支配しているらしい。恐らくこの災厄はそこから来たもので、領界路に入った時に姿を変えたのだろう。何故だろう……私はその生き物自体よりも、その後に起こる嵐のほうが心配だ」――茨の吟遊詩人、ベロ

その他のキャラクター

全てを喰らうもの、イグラ

 「イグラはいつも腹を空かせている。その到来は塩の季節と呼ばれている……イグラが来ると、畑も友達も塩の柱に変えられてしまう。イグラは食べても食べてもずっと空腹のまま。口の中は渇いてばかり。どんな生き物も、災厄であろうとも、塩だけでは生きられない。その苦しみの源が、私が愛し、守ろうと努力してきた故郷でないのなら、哀れなくらいだ」――刈り手、ベイレン

刈り手、ベイレン

 時に農民、時に戦士。ベイレンは自身の身体と武器の両方に荒々しい力を吹き込むという独自の能力で、ヘイメドウの村の防衛を率いています。つい最近までベイレンは賑やかな三本木市の中心部でリザードフォークと共に暮らし、彼らの熱烈な習性を学んでいましたが、田舎のヘイメドウへと逃れてきました。ただ畑を耕し、喝采を避けたかったのです。しかしベイレンはすぐに勧誘され、名高い脚当ての一員となりました。災厄の獣による騒動が話題になるとベイレンは脚当ての部隊に加わり、渓間の防衛に参加するよう招かれました。そのような騒動のひとつが現実の脅威になるとベイレンは信頼する大鎌を手にして、荒々しい魔法をそれに注ぎ込んで災厄を追い払いました。ベイレンはヘイメドウを無防備なままにしておくことを拒み、住民たちが自衛できるように脚当て隊を離れたのでした。

心配潮、クレメント

 クレメントは、渓間で最も危険から遠い冒険家として名声を博しています。その魅力的なほどに心配そうな態度の下に、自然に対する鋭い洞察力が隠れているのです。彼のパーティーでは、完璧な天候や危険に対する完璧な回避、そして立派な報酬がほぼ保証されます。渓間のほとんどのアニマルフォークにとって、それは冒険の目的を台無しにするようなもの。ですがいざ危険が襲ってきた時には、クレメントは食料と指示、そして破壊の準備を整えていることが分かるのです。それだけでは十分ではない? 彼は渓間でも最高のシードローフを調理すると言われています……ぬめぬめした衣に耐えられるなら。クレメントはそれが消化に良いのだと言いますが、彼のパーティーは同意しないでしょう。

種選奴、カメリア

 渓間のパン屋や農家の誰もがその名を怖れるリスフォークがいます。カメリアは渓間の種子をほぼ独占しており、雪や飢饉の兆候が現れるまでそのほとんどを溜め込んでいます。カメリアは善意からそうしているのですが、ほとんどの者はその手法を少々極端すぎると感じています。豊作の時期に彼女が初めて種子を貯蔵して以来、渓間は食糧に困ったことはありません。資源が乏しく、共同体もさらに少ない茨野原で育った彼女は、自然の残酷さと飢餓がもたらす恐ろしい空腹を誰よりも知っているのです。渓間が持続していくためには自制が必要です。カメリアがいなければ、豊作の季節はあまり長くは続かないかもしれません。

分岐する嵐、アラニア

 謎めいたアラニアは強大な力を持つカワウソフォークであり、飽くことのない好奇心と、一瞥しただけで魔法を複製する才能を持っています。彼女は「どうして?」という疑問の答えを見つけるため、他のアニマルフォークが踏み入ろうとしない渓間のすべてを旅します。魔道士としてパーティーに参加することもありますが、その際は宝物や名誉といったありふれた約束よりも、唯一無二の体験を好むことで知られています。この態度と才能からアラニアは、自身が望むかどうかに関係なく、熱心に同行したがる自称弟子たちを無意識のうちに育ててきました。好奇心がいずれ自分を終わりに導くとわかっていますが、どれほどの脅威であろうと彼女や「弟子たち」がブルームバロウとその先を理解するための探求を止めることはできません。腐敗口のバイパーと単独で対峙し、その能力を複製して相手に使用した時、彼女は尋ねる言葉を「どうしてしないの?」にするべきだったとようやく気付いたのでした。

ゴミの策略家、ムエラ

 ムエラは忠実なラクーンフォークの群れのリーダーであり、彼女を出し抜こうとした敵は悲惨なことになるでしょう。ムエラが率いる戦士たちは、生き残ることは勝利の次に大切だと信じています。そしてムエラの指揮下ではその両方を達成できると確信しています。彼らは根の迷路へと至るスクラッチバークの地域を放浪して守り、楽しみのために略奪者と戦い、物資と引き換えに世間知らずの旅行者を救います。ムエラはスクラッチバークを知り尽くしており、巧みな戦術を使って敵を騙し、武装を解除し、驚かせ、混乱させます。彼女についての最も有名な物語のひとつは、光の魔法を用いて陽背骨のオオヤマネコを自滅させたというものです。

風冠の者、ケストラル

 ケストラルは、行方不明者を助けることに献身する精鋭部隊のリーダーです。彼女はまた、自身の葬儀から7つの季節を経て羽信隊の旅から戻り、自分自身を含む全員を驚かせたことでも知られています。奇妙で大規模な雷雨が突如発生し、翼を折られて道から外れてしまったため、迷子になったと彼女は明かしました。続けてケストラルは、見たこともない者たちから助けてもらったと、聞いたこともない災厄の獣から逃げなければならなかったと語りました。友や家族は彼女が生きていることを大喜びしました。ですが以前はのんびりした性格だったケストラルは、他の風冠の者よりも速く、これまで以上に風に敏感になって戻ってきました。羽信隊の旅そのものが風冠の者を形作ると言われており、ケストラルの能力はアニマルフォークたちの想像以上に危険な旅を生き延びたことによるものだと皆は理論づけています。ケストラルは気にしません。自身の力は不幸から生まれたものだと信じているためです。誰もかつての自身ように絶望し、迷うことがあってはならないのです。

情け知らずのヴレン

 ヴレンは死者や死にゆく者たちの間でよく知られています。彼は災厄の獣の足跡を注意深く追い、再利用に最適な小物を見つけるのを心から好んでいます。そして再利用できるものが見つからない時は、自分で作ります。沼地では、感染症であれヴレンのナイフの鋭い先端であれ、たったひとつの傷が死をもたらすことがあります。ヴレンはラビットフォークの小村を埋め尽くすほどの手下を雇っており、彼らは命令を受けたなら死ぬ以外の何でもするでしょう――そのためには特別丁寧に頼まなければいけませんが。それでも、ヴレンの行動には常に悪意があるわけではありません。災厄の獣がやって来て、逃げるのではなく追い払う必要がある時には、必要としているかもしれない者たちに向けて武器や防具を、しかも格安で売っているヴレンの姿が見られます。彼は再利用品の利益率はほぼ100パーセントだと考えています。つまり、どのみち利益は出ているのです。

森の轟き、ルムラ

 「ルムラの咆哮を聞いた時には、もう迷っている。その声が響く土地は森に飲み込まれ、瞬く間に何もないところから枝が生えてくる。森の樹冠は深くて空も見えず、幹は果てしなく伸びて高さは計り知れない。絡み合った棘だらけの茂みに日光は差さず、旅行者は出口を見つけることができない。僕は何週間もルムラの迷路をさまよい、破壊された村や迷える魂に出会った。時々ルムラの轟く足音が茂みを震わせ、僕は距離をとるように歩いた。逃げられたのは奇跡だよ……他はみんな、迷った末に死んだ。僕は運が良かったんだろうな!」――愚者、フラブス

渦巻く精神、ウィック

 湿地帯の巻貝村で育ったウィックは、精神術師たちの共同体の中では神童でした。彼は相棒のカタツムリであるグロットジャイアと離れがたい関係を築きました。彼らの精神的な絆は非常に深く、互いの考えを予測できるほどでした。ですがその後、巻貝村のカタツムリたちを病が襲い、ウィックも同じく罹ってしまいます。彼は渦巻きと沢山の目の幻覚に悩まされ、眠れなくなりました。彼は夜通し起き続けて経典を書き留め、数年後、その妄想は悟りへと昇華しました。ウィックはカタツムリとの絆に慰めを見出し、それを広めようとします。彼は同じ考えを持つ精神術師たちと共に村を出て布教を開始し、門徒を集めて地中に螺旋状の迷路のような通路を掘り、改宗者たちと共にそこに隠遁しました。入門者たちはそれぞれ、ウィックが耐えたのもの同じ、過酷な入門の儀式を受けます――究極の真実と引き換えに、聖別されたカタツムリとの繋がりを築くのです。彼らはカタツムリのあらゆる面を敬います――崇拝し、その肉を食し、残骸を魔法に転用し――そして新たな繋がりが築かれます。それによって、終わりのない螺旋のサイクルが新たに始まるのです。

カワウソボールの精鋭、キッツァ

 キッツァは生涯を通じて運動選手として活動しており、幾度も波を砕いては骨を折ってきたため、今やその身体には血ではなく水が流れていると親は言います。キッツァと親しい者たちは、彼女に会うには扉をノックするよりも水中に潜る方が確実だと心得ています。次のカワウソボールの試合に向けて練習をしていない時、あるいは好敵手に痛烈な反論をしていない時のキッツァは真珠を収集し、また失われた芸術品を渓間の住民へと返却しているのです。その慈善活動と水中での技術により、キッツァの名は渓間で最もよく知られていると言っても過言ではありません。他のカワウソボールの選手たちは、キッツァのひげこそが彼女のプレイスタイルで最も危険な部分であると断言しています。どういうわけか、キッツァの鼻がピクピクと動く時、彼女は敵の戦略をすべて見抜いているのです。彼らはキッツァを妨害し、可能な限り彼女の視線を混乱させるという対策戦法を開発しましたが、キッツァはそれを面白いと思っています。どうしてその努力を上達するために使わないのでしょう?

跳ねる春、ベーザ

 「私たちは春の季節と呼んでいますが、実のところほとんどの方はベーザを名前で呼んでいますよ! ベーザはとても崇められていて、その栄誉を称える祝宴が催されます。灰と死を新たな成長に転じる厄災はベーザだけではありませんが、その中でも最大なのは間違いないですね。ベーザを私たちの友だと思うのは少々高望みかもしれませんが、ベーザが誰かを追いかけたことは一度もありません。実際、私たちはベーザが他の厄災を戦うのを見たことがあります。母の昔話をはっきりと覚えています――若い頃に木に登って、通り過ぎるベーザの背中に飛び乗ったんですって。つまりベーザは穏やかなので、母は生き延びてその話を語り継ぐことができたというわけです。そしてその無敗の戦闘記録を思うに、私としては祝宴を開くのは当然だと思いますよ」――バンブルフラワー夫人

激浪のならず者、ブリア

 悪名高い泥棒にして悪党のブリアは、幾つもの季節にもわたって噴水港の善良なアニマルフォークたちを悩ませてきました。かつて彼女は街の頂点に登り、玉座の間の上に「グラルブ王の厚意により、食事を無料でどうぞ!」と書かれた横断幕を立てたことがあります。噂が広まり、アニマルフォークが群れをなしてやって来て美味な食事を要求しましたが、グラルブ王とその護衛によって追い払われるだけでした。そして商店主たちが店や屋台に戻ると多くのものが盗まれており、名刺として数個の貝殻だけが残されていたのです。ブリアは水を用いて宙に道や流れを作り、混雑した通りを避けて貴重品を失敬します。彼女はビルケや彼を支えるラビットフォークたちをやり過ごす技を特に誇っており、そのラビットフォークの警官を好敵手であり友であると考えていますが、その感情は全くもって両方向のものではありません。

司直の長耳、ビルケ

 ビルケは偉大なるグラルブ王に仕える勤勉な警官であり、法を順守する市民として噴水港の大通りや裏道を長年巡回してきました。悪党を逮捕したなら、釈放する前に長く厳しい説教をするのが自分の義務であると彼は考えています。二度とその説教を聞きたくないと思う者たちは心を入れ替えるため、これには非常に効果的な抑止力があると証明されています。この警官はかつて、波止場近くのパイ屋の壁へと特にひどい落書きをしていた集団を一斉に逮捕しました。その落書きの内容は、ほとんどがルバーブの品質や、ルバーブをより良く使用する方法についてでした。ですがブリアが現れてからというもの、ビルケがぐっすりと眠れた夜はありません。常にすぐ背後に、すぐ近くにいようとも、ブリアは毎回逃げおおせてしまうのです。

愚者、フラブス

 渓間の一部では、フラブスこそが最も幸運な生き物であると噂されています。常に危険を恐れないフラブスは、直感と冒険への渇望に導かれ、風が吹くままに歩きます。ですがその不注意な放浪にもかかわらず、彼はまだ結末を迎えていません。花の香りを嗅ぐために身を屈めたことで矢を避けたという経験が何度もありました。夢遊病で歩きまわったことで火事の家から脱出しました。彼は、常に変化するルムラの森から逃げ延びたことで知られる唯一のアニマルフォークです。フラブスは従来知られていなかった幸運の魔法に祝福されている、そんな説を学者たちは唱えています。領界路が開いてからというもの、フラブスは自分の次元の先までも探検を始め、彼の幸運の噂も広まっています。領界路から領界路へとさまよいながら、彼は小さな追従者集団さえ集めました。以来この集団は、まさかのフラブスを中心とする謎の多元宇宙間組織へと成長しています。

統率者

バンブルフラワー夫人

 優雅で親切、気前のいいバンブルフラワー夫人は、三本木市で最も人気のある宿屋のオーナーであり、その看板メニュー「終わりのないシチュー」の管理者でもあります。この真に巨大な鍋は常にかまどに置かれており、客は自由にそこから料理を取ったり、好きな具材を加えたりすることができます。バンブルフラワー夫人は宿屋を片付けたり、食料品の買い物中に友好的な会話を交わしたりする姿がしばしば目撃されます。その親切な性格のためか、はたまた街の全員を怒らせることを怖れてか、最も図々しく騒々しい客でさえ夫人の気分を損ねるようなことはしません。

 バンブルフラワー夫人は、アニマルフォークたちが安全に休める場所としてこの宿屋を創設した元海賊の母親からこの施設を受け継ぎました。今日でも夫人は母の友達から頻繁に訪問を受け、過去の冒険物語を聞かせてもらったり、宿屋を手伝ってもらったりしています。そしてその逞しくも過保護な沢山の友達のせいで、フォックスグローブ氏は夫人になかなか言い寄れないのでしょう――バンブルフラワー夫人は彼のその気持ちに気付いていないようですが。

フォックスグローブ氏

 魅力的で抜け目なく勇敢なフォックスグローブ氏は、渓間じゅうのさまざまなギルドから「あなたの心を最も勝ち取る可能性が高い」冒険家であるとよく言われます。頼れるレイピアを素早く振り回すだけでどんな敵も無力化され、歯を見せて笑うだけでどんなファンも骨抜きです。向こう見ずで遊び好きだと知られている彼ですが、ある運命の夜、彼の運はほとんど尽きていました。冒険から帰りついた彼は、疲れ果ててボロボロの姿で偶然バンブルフラワー夫人の宿屋に入りました。彼女はあらゆる客にそうするようにフォックスグローブ氏を歓迎し、彼が立ち上がることも困難だとわかると、長椅子に横になれるように手を貸しました。空想物語であれば、フォックスグローブ氏は夫人の膝の上に寝かされ、彼女の手当てを受けたでしょう。ですがフォックスグローブ氏はそのようなことは認めません。それでも彼は何も気づかない夫人の目を引こうと、日中の奇妙な時間に宿屋にしばしば出没します。彼は粘り強いのです。

根花のヘイゼル

 備蓄の主ヘイゼルの名は、行儀の悪い子供たちの頭上に君臨する脅威としてブルームバロウの住民の間で囁かれるに過ぎません。彼女はこの次元を自然へと返すため、残忍かつ秘密に活動する組織「ベラドンナ」の謎めいた指導者なのです。かつてヘイゼルは質素な農業共同体における一介の備蓄作業員でしたが、持続不可能な慣習と自然への酷使に激怒し、それを変えることを誓いました。彼女は熱狂的な演説と強力なドルイド魔法で悪名を馳せ、やがて共同体の前指導者が謎の死を遂げるとその支配権を握りました。彼の死因は今なお不明ですが、ナス科植物の毒によるものと非常に似ていたという説もあります。

 ヘイゼルは最近は滅多に姿を見せず、神秘的な雰囲気に身を包んでいます。そして姿を現すと、必ず驚異的な魔法の離れ技が続きます。彼女は今でも自身の共同体の食料貯蔵庫を注意深く監視しており、その魔法は邪魔者などものともせずに祝宴に豊かさを添えます。彼女はかつて春の災厄の獣を束縛し、その驚異的な魔法を用いて木と同じほどに高いベリーの茂みの下に村ひとつを葬り去りました。傲慢で厳格なヘイゼルは、気の短さと冷たく燃えるような怒りで知られています。ですが彼女をよく知る者たちは、素晴らしい支配者であるだけでなく隠れた優しさを持っていると言います。

どっきりドングリ団

 何かをしてもらう必要がある時、ヘイゼルは頼み事をします。拳で話す屈強で逞しいローズマリー、友達に悪戯をしてばかりの口達者で卑劣なオレガノ、そして瞬く間に弓で敵を倒す寡黙で粋なタイム――それがどっきりドングリ団です。このトラブルメーカーたちは共に働いてはいるものの、仲が良いわけではありません。プライベートでは殴り合いを避けるのがやっとです。とはいえ仕事となれば、この巧みなやり手たちは侮れない力を持っています。ヘイゼルの隠し場所からどんぐりをひとつ盗みましたか? 備蓄の主に手を出すんじゃなかったと後悔しながら、油の鍋の上にぶら下がって目を覚ますかもしれませんよ。

茨の吟遊詩人、ベロ

 「アライグマの吟遊詩人」「がらくたの達人」そして最近では「領界路歩き」――これらはベロが旅の途中で得た異名のほんの一部に過ぎません。彼はブルームバロウの隅々まで、そして今ではその先までも旅し、がらくたを集め、自然に立ち向かい、馴染みのない料理を楽しんでいます。ベロは多くの辛い冒険を経て知恵と自信を培いましたが、未知の世界がまったく新しいレベルの危険をもたらすことを否定しません。ですがありがたいことに、彼は機転と巧みな弁舌で何とかそれらをやり過ごし、その過程でしばしば土産物を頂戴します。ドミナリアで発掘されたスランの遺物、イコリアの未開地で採掘された結晶、ギラプール建築の金線細工の歯車、これらはほんの数例です。そして満面の笑みで付け加えるでしょう――自分の最高の業績は、アクームのスカイクレイブの頂から引き抜いたひとつの面晶体だと。

 冒険はベロにとって常に魅力的ですが、彼は故郷の世界を愛しており、しばしば戻っては夢中の聴衆へと物語を語ります。彼のエレメンタル魔法は周囲の世界に命を吹き込み、自身の収集品を用いて物語を生き生きと動かします。すべてのアーティファクトには魂が宿るとベロは言うでしょう。彼の魔法はその魂をエレメンタルの形で顕現させるのです。暖炉の火花や牧草地のそよ風のように穏やかで親しみやすいものもあれば、雪崩の音や山火事の炎のようなものもあります。ベロが収集してきたものは多いく、ですが失ったものはそれ以上に沢山あります。奇妙な場所から奇妙で場違いながらくたが見つかったなら、それはおそらくベロがうっかり置き忘れたのでしょう。

一掃する大口、猛焼

 「リリーの時代、猛焼は炎の季節として知られていた。その炎は永遠に燃え続けたのだろうな、リリーが種火を奪うまでは。今ではかつての面影は残っていないが、それでも渓間の住民が敵わないほどの力を持っている。消耗して弱った状態でもこれほど長く生きられるという事実は、かつての強さと災厄の獣が持つ永続的な力を示している。私は尋ねたい……『その力はどこへ行ったのか?』リリーとともにこの次元に還ったのだろうか? それとも、あらゆる自然と同じように、季節が変わって戻ってくるのを待っているのだろうか?」――茨の吟遊詩人、ベロ

渓間の声、ジニア

 ジニアの歴史は誰にとっても興味深いものです。社交的でうっかり者、何の秘密もないにもかかわらず、ジニアがどこから来たのかは誰も知りません。ジニアは三本木市に文字通り墜落し、それ以来、リュートで住民たちを楽しませてきました。ロマンティックなバラードの数々を尽きることなく披露し、冒険心も持ち合わせるジニアは、あらゆる社交の場に喜びと笑いをもたらします。この放浪のコウノトリが次にどこに現れるかはわかりませんが、その時は歌や翼の助力を期待できるでしょう。

 ジニアは遠い彼方の地の貴族であるという噂です――裕福なバードフォークの王族か、彼らを守る精鋭兵士の一員か。この噂は嵐の鷹の到来とその惨害の後、さらに盛んに言われるようになりました。ジニアは優雅な飛行術と戦闘でその力を発揮したのです。熟練の羽信隊の兵に匹敵する鋭く決断力のある動きでジニアは嵐の鷹の注意をそらし、追い抜き、辺境地域の村に住むアニマルフォークたちを危険から遠ざけるという見事な救出活動を指揮しました。この勝利から、ジニアは愛情を込めて「生命の君主」と呼ばれるようになりました。結婚式や安産祈願などの儀式でジニアが演奏をすると幸運がもたらされる、そう考えられています。

マリーゴールドの騎士、アーサー

 アーサーの偉業を称える歌は数多く作られており、ジニア自身が歌ったものもあります。陽背骨のオオヤマネコに追いかけられながら災厄の墓場を横切り、ひげの一本すら焦がすことなく逃げ切った物語を忘れられる者はいるでしょうか? 腐敗口のバイパーの骨を蘇らせようと目論む邪悪な死体使いの一団と戦った物語は? 渓間の救世主であるメイブルに剣術を教えた物語は? ところで、アーサー以外にその偉業を目撃した者はいません。会ったことがあるかと確認を求められたメイブルはとても面白がっていました。ですが渓間の民は、アーサーが高貴な枝細工の馬に乗って繰り広げた英雄的行為を疑う必要はないのです。


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