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アルケミー向けデザイン
2021年12月8日
私たちがマジックの新しいフォーマットを導入することはそう多くありません。サプリメント・セット『アルケミー:イニストラード』のリード・デザイナーとして、私は新しいフォーマットの立ち上げに携わり、これまで触れてこなかったデザイン領域を使った新たなデジタル専用カードの作成を心から楽しみました。マジックにおけるデジタル専用カードのデザインとは? 物理的な制約がある中で、マジックの体験が持つさまざまな側面をどのように向上させられるのか? それをメカニズムやカード・デザインで実現するにはどうするのが最善か? 紙では作れない、MTGアリーナならではの楽しいカードとはどういうものか? そしてマジック体験の核となる部分を損なわずに、それらすべてを実現するにはどうすればいいか?
アルケミーの目標は、常に新鮮さとダイナミックさを感じられるフォーマットを提供することです。これを実現するために、私たちはさまざまな計画を立てています。例えばカードの再調整を活かし、テーブルトップのフォーマットよりも頻繁に軌道修正を行います。デジタルなら変更も容易ですし、単純な禁止措置は避けたいと考えています。それから、主要セットと主要セットの間に、これまでより多くのコンテンツを盛り込むつもりです。コンテンツ自体もデジタル専用ならではの領域を掘り下げることで新鮮さを感じられるものにします。さらに意思決定の際には、アルケミーのメタゲームをスタンダードやその他のフォーマットと差別化し、異なるプレイ体験を提供できる方策を選びます。
ダイナミックなフォーマットをメカニズムでどのようにサポートするか?
『Jumpstart: Historic Horizons』で初めてデジタル・デザインの掘り下げを行いましたが、まだ掘り下げられていないデザイン領域が多くありました。「永久に」や「創出」、「抽出」など、試すべき新しいものがたくさんあったのです。これらに加えて、私はゲームごとに異なる体験ができるメカニズムに興味を引かれました。他のカードとの相互作用だけでなく、それ単体でもゲームごとに異なる体験をもたらすカードを作るにはどうすればいいか? マジックの歴史からより多くのカードをゲームプレイに取り入れるにはどうすればいいか?
私たちがたどり着いたのは、他のデジタルTCGとまったく異なるものではありませんでしたが、ひねりを効かせたものになりました。私は、ゲーム中にもカードをドラフトしたいと考えました。そしてその選択肢は、ゲームごとに異なるのです。革新的なのは、カードの選択肢の幅をしっかり定めたことです。
そこからメカニズム・コンセプトとしての「呪文書」が生まれました。「呪文書からドラフトする」を持つカードには、それぞれそのカードのコンセプトに合うと感じられる15枚のカードが「呪文書」として組み込まれています。例えば魔女が持つ呪文書にはコウモリや黒猫、呪い、ほうきなどのフレイバーに富んだものが入っているでしょう。釣り人が持つ呪文書なら、海の底からあらゆる風変わりな生き物を引き上げてくるでしょう。毎回、選びがいのある3枚が提示されるのです。幸いにも過去のセットに選択肢は豊富にあり、懐かしさを感じさせるものも多くありました。それから、それ単体で競技構築環境で輝けるほど強くはない面白いカードも探しました。
私たちが目指したのは、意味のある選択肢を提示することでした。状況に応じて選択が変わり、誰かが笑顔になったり、上達を感じられたりできる選択肢を求めたのです。変化に富んだゲーム体験を実現するにはある程度のランダム性が必要ですが、このメカニズムについては、ゲームにランダム性を持たせることを狙っていたわけではありません。さまざまな選択肢から15枚入りの呪文書を厳選して、プレイヤーの皆さんに満足いただけるものを用意できたと思います。
同様に「抽出」のような他のメカニズムについても、ゲームごとに新鮮な体験を味わえるよう、それぞれのカード・デザインにこだわりました。抽出を持つカードのデザインは多くの場合、何を抽出するかが把握できてしまうとゲーム体験の繰り返しが生じるリスクがあります。そこで私は、抽出を持つカードをデザインする際に抽出するものが変化するように作ることから始めました。またデッキ構築の段階でも、抽出の条件を満たすために通常は採用しないカードを入れるといった動機づけを生み出す方法を模索しました。それにより、ゲーム体験の変化に期待できるでしょう。
かつての課題に新たな視点を
マジックの通常のゲームプレイにおける懸念点は何で、その解決に繋がりうるデジタル・デザイン領域とはどのようなものでしょうか?
多くのフォーマットで、特にアグロ・デッキがメタゲームの一大勢力を築いている場合、先攻と後攻では勝率に望ましくない差が出ることがあります。デジタルなら、ゲームが展開する中でもどちらのプレイヤーが先攻や後攻だったかを簡単に参照できるでしょう。しかし私は、先攻後攻を記録するデザイン領域が多くのカードで使えるとは思えませんでした。そこでまずは、この問題の解決に最も寄与するカード・タイプは土地であると考え、ある土地の開発に取りかかりました。
結果的にこの問題が目立ちにくい多色デッキ向けのデザインにはなりましたが、このデザイン領域から学べるものを楽しみにしています。この領域での実験は、これで最後ということにはならないと思います。初のアルケミー用セットにおけるいくつかのデザインと同様に、この領域も後に紙媒体で試すことがあるかもしれません。しかし記録が必要なデザインを複数合わせて使うことを考えると、デジタルでの記録と比較してテーブルトップでは難しくなりすぎるのではないかと懸念しています。
他に私たちが取り組もうとしているゲームプレイ上の懸念は、マッチの第1ゲームにおける「死に札」や弱いカードです。ここで言う死に札とは、クリーチャーを採用しないデッキに対するクリーチャー除去など、特定のマッチアップでほとんど機能しないカードのことです。とりわけBO1のゲームでは、機能しないカードを引くことは苛立ちのもとです。そしてメタゲーム上にあるデッキは、対戦相手にできるだけ多くの死に札を作らせることを目指す傾向があります。そこで私たちはデジタル・デザイン領域を活かし、そういった死に札を有用なカードに変換することで悪い体験を軽減するカードをデザインしました。
それからマナ加速が早すぎるデッキがある問題については、ゲームが何ターン目であるかを記録するデザインも1枚だけ作りました。それはランプに対する安全弁となり、そのアーキタイプに対する回答を探しているプレイヤーの選択肢になるでしょう。
「デジタル専用のデザイン」とは?
サプリメント・セット『アルケミー:イニストラード』のデザインに取りかかる上で、私たちは1つの目標を立てました。それは、すべてのカードを「紙で印刷されなさそうだ」と感じられるものにすることです。それは単に記録が面倒なものだったり、テーブルトップでの再現が非常に難しいものだったりします。私たちは基本的に、皆さんがテーブルトップで出してほしいカードをここで作って悲しい思いをさせるのだけは避けたいと考えています。
ですがその一方で、私たちは紙では複雑すぎると指摘されるメカニズムをテーブルトップでも数多く作ってきました。例えば『イコリア:巨獣の棲処』のリード・デザインを務めたとき、私は多くのカードやメカニズムについて、テーブルトップよりもデジタルで出したほうが良かったという意見を多く目にしました。過去にデザインされたものについても、両面カードなど、おそらくデジタルの方がふさわしいながらも今では紙のメカニズムとして当たり前になっているものもあります。これらの例から私が強調したいのは、デジタルとテーブルトップのデザインの境界線は主観的なものであるということです。
この史上初のセットには、紙では議論の余地があるカードがたくさん収録されています。その中に皆さんに愛されるメカニズムがあれば、その領域の実用的な部分を紙でも検討するでしょう。新しく変わったものばかりが突然現れるとゲーム体験に違和感が生じるのではないかと懸念し、私はデジタルに寄せすぎたデザインが多くなりすぎないようにしたのです。
なぜ昨年のテーマのカードがあるのか?
今後、私たちは各セットごとにアルケミー用のコンテンツをリリースする計画を立てています。今回のセットに着手した当初は、イニストラードをテーマにしたメカニズムが去年のメカニズムに影を落とすのではないかと考えていました。『イニストラード:真夜中の狩り』や『イニストラード:真紅の契り』のメカニズムやクリーチャー・タイプだけが使われるのは、多様性の面で理想的でないと思いました。
そこで私たちは、数は少なくても昨年のテーマをサポートするものを入れることを決定したのです。その後開発が進む中で私はイニストラードのテーマに入れ込みすぎず自由なデザインを心がけるようになったので、特に意識して昨年のテーマのサポートをする必要はなくなりましたが、昨年のセットの舞台となった次元がデジタルで引き続き愛されることは嬉しく思います。
学習過程
アルケミーというフォーマットを築き、このフォーマットにおけるデザインの最適解を導き出すためには、学ばなければいけないことがたくさんあるでしょう。私たちが立ち上げ、これから動き出すものを心から楽しみにしています。私たちは良い点と悪い点を皆さんから聞き、私たちが持つ可能性の海に飛び込みたいと思う方にとって最高に魅力的なフォーマットであり続けるよう、その方法を探っていきます。
それでは、新たなカードをお楽しみください。最後までお読みいただきありがとうございました。
デイヴ・ハンフリー
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