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MTGアリーナとマジックの「両立」

Aaron Forsythe, Chris Clay

2019年1月31日

 

アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe:ゲームを愛する皆さん、こんにちは! 私はアーロン。マジックのシニア・デザイン・ディレクターです。本日は、特命ゲーム・ディレクターたるクリス・クレイ/Chris Clayとともに、マジック:ザ・ギャザリングに起こる大きな出来事についてお話しします。それはマジックそのもののデジタルゲーム――「マジック:ザ・ギャザリング アリーナ」が生み出されたことに起因するものです!

 皆さんご存知だと思いますが、「MTGアリーナ」とは、私たちがお送りするマジックの最新デジタルゲームです。現時点ではまだオープンベータテスト中ですが、このゲームは私たちの予想をはるかに超えて大好評をいただいています! 事実、ひとつ前のセット『ラヴニカのギルド』はマジックの長い歴史の中で最も多くのプレイヤーを集めましたが、それに「MTGアリーナ」が大きく貢献したことは間違いありません……さらに『ラヴニカの献身』シーズンは、それをも上回るペースでプレイヤーが増えています!

 しかしながら、ゲームをお楽しみいただいている皆さんの中には、「MTGアリーナ」と卓上マジックが今後どのように共存していくのかについて、疑問や関心をお持ちの方がいらっしゃるでしょう。どちらかのニーズが優先されるのではないか? どちらかに統合されるのではないか? 本日は、私たちがそれらの疑問にお答えします。デジタルゲームと卓上ゲーム、ふたつのマジックの今とこれからの関係を言い表すキーワードは……「両立」です。

「両立」とは

 当初から、「MTGアリーナ」は本格的なデジタル・マジック体験をご提供する計画でした――それは、美麗なグラフィックと音響効果だけの話ではありません。私たちは、デジタルゲームという舞台を活かして卓上マジックではできないことをいろいろとやりたいと考えたのです。それはゲームの速度であったり、「ゲームにならない」事態の軽減であったり……他にもまだ着手すらしていないことがたくさんあります。それらについて、これからもう少し詳しくお話しします。まずデジタルゲームは、卓上マジックの制限に縛られる必要がありません。私たちは、デジタル版と卓上版のマジックが両方とも「小さくまとまって面白みに欠けるもの」になってしまうことを望んでいなかったのです。

 では卓上マジックはどうなるのか? 少なくとも皆さんが愛するゲームにどれだけの変化が起きるのかと問われれば、簡潔に言って「特に何も起きません」。私たちはデジタルに向けて卓上の方を少し曲げようとしていますが、フォーマットもルールも、発売製品も、抜本的な改革を行おうとはしていません。モダンもレガシーも統率者戦もこれまでと変わらずお楽しみいただけますし、サイドボード込みの2本先取マッチも変わりません。他に7人のプレイヤーと卓を囲み、ブースタードラフトを味わえるのも一緒です。

 一方「MTGアリーナ」では、既存のものとは異なるものを試したり、こちらでしかできない要素を加えたりすることに力を入れ、新しい遊び方をご提供していくつもりです。たしかにこれまでもマジックは、モダンや統率者戦のような新しいフォーマットが導入されたり、「デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ」のようなデジタルゲームが配信されたりと、新しい遊び方を受け入れてきました。しかし「MTGアリーナ」はそれらとも違うまったく新しい地平を切り開き、紙のカードでは(容易に)真似できない体験を目指します。

クリス・クレイ:「MTGアリーナ」チームが心に宿すのは、これまで長い間取り立てて問題にされてこなかった慣習に「なぜ?」と問いかけ、挑戦する意欲です。私たちが何か問題に直面した場合、なぜそれが発生したのかを探り、卓上マジックではできないデジタルならではの解決法がないか探すつもりです。こういう姿勢はTCGデザインスタジオ(開発部の一部で、カード・セットを作成する部門)との衝突を招くのではないかと思われるかもしれませんが、実際はともに問題に取り組み、かつての問題に新たな解決方法を見出すことができています。この取り組みの初期の例を挙げると、私たちが「MTGアリーナ」の1本先取のゲームで採用している初期手札のシステムは、TCGデザインスタジオとの共同開発でした(詳しくはこちらをご覧ください:リンク先は英語)。同じデッキを複数回シャッフルして初期手札を選ぶという方法は、卓上マジックの領分ではありません。それでもTCGデザインスタジオのメンバーはマリガンとデッキ構築に対する深い知識を持っており、私たちはそれに基づいて数学的考察を重ね、採用を決定したのです。このように、「MTGアリーナ」は新たな道を進んでいます。続けて、卓上マジックの体験と特に異なる部分をお話ししましょう。

ドラフトAI

クリス:「MTGアリーナ」の社内テスト版が始まったのは『カラデシュ』発売の頃で、その時点でプレイできたのは最大8人で卓を囲む1本先取の『カラデシュ』ドラフトだけでした。8人集まらない場合は(集まらないのが常でした)、空いた席に極めて初期段階のAIが入っていました。するとAIのドラフトは、空席を埋めるだけでなく他にも多くのものをもたらしてくれることに私たちは気づきました。特に気に入ったのは、新規プレイヤーが時間を気にせずドラフトのやり方を学べることです。カードの点数表を見に行ったりカードを調べたりできますし、ドラフトの途中で席を外さなければならなくなった場合も問題ありません。また、忙しい日々を送る経験豊富なプレイヤーにとっても助かる仕様です。こうして最終的に、日常的にプレイする人たち、とりわけ配信者の皆さんにも楽しんでいただける形に仕上がりました。もちろん、人とドラフトをするのは私も大好きです。だからこそ、私たちはAIに個性を加えたりこの方式のさらなる改良を続けたりするのに努力を惜しみません。決して8人ドラフトの体験に代わるものではありませんが、これはこれで楽しめるものだと私たちは確信しています。

アーロン:これは掘り下げていくのが楽しい問題でした。周りが全員AIの卓において、予測できないくらいの変動性を持ちつつ良い体験を生み出すには、どうすればいいか? 私たちはさまざまな方法に取り組みました――AIに個性を持たせることや、外部データを参照してより最適なピックをするように設定すること、古き良き「勘」の要素を取り入れること。そして最終的には、一度中断してログインし直す場合も含めてプレイヤーが自分のペースでドラフトを体験できるということが、すべての歯車を動かしました。私は社内テストのときも公開された今も、この方式を大いに楽しんでいます! とはいえまだ完璧とは言えないため、今後も機会があるたびに「MTGアリーナ」チームと改善に取り組み続けます。

サイドボードにとらわれない2本先取

クリス:マジックの歴史の大部分において、サイドボード込みの2本先取が唯一の競技ルールとなっており、その戦略的な深さと競技的なバランスのおかげで長く続いています。ですが来たる「ミシックインビテーショナル」に向けて、私たちはサイドボードを使用せず複数回のゲームを行う新しいフォーマットに取り組んでいます。過去に伝統を破ったときと同様に、私たちは納得に足る理由でこの道を進んでいるのだと信じています。私たちは競技の試合が1ゲームで決着することを望んでおらず、さまざまなデッキで複数回のゲームを行うことで新しくエキサイティングなプレイ体験を生み出せるのではないかと考えています。この新たなフォーマットは各セットで解決すべき「カードの可能性」の幅を広げ、また最高レベルの戦いを観戦した人たちが、そこで目にした体験をそのまま「MTGアリーナ」で味わうことができます。さらに、競技的なプレイに対する大きな障壁を取り払ってくれるでしょう。「MTGアリーナ」では、できるだけ多くのプレイヤーに競技的な面も楽しんでいただき、イベントに参加していただきたいと私たちは考えています。サイドボーディングは多くの問題を解決してくれますが、それは理解し習得するのが難しい要素を増やしてもいます。「MTGアリーナ」が卓上マジックと「両立」できるように、マジックの競技的な面に幅を持たせる方法を私たちは実験しているのです。

 「MTGアリーナ」の競技的な面のために私たちが「アリーナ・スタンダード」 と呼ぶこの新たなフォーマットを作るという目標は、開発当初はありませんでした。ですがクローズドベータテストとオープンベータテストのゆくえを見守るうちに、今の目標が定まりました。開発当初は「MTGアリーナ」を手軽にマジックが楽しめる場所にしたいと考えており、私たちがそれをサポートできるクライアントを作成した結果、大多数のプレイヤーが主に1本先取のゲームをプレイするようになりました。プレイヤーたちが1本先取のゲームに惹かれた理由は多々ありますが、しかし結局のところ、1試合の長さに帰結します。それ以外の要素が同じなら、平均およそ6分で終了する試合の方がその3倍近く時間がかかる試合よりプレイしやすいのは間違いありません。極端な例を挙げるなら、1本先取の試合の実に99%が18分未満で決着するのに対し、2本先取の試合は決着まで1時間を切ることすら確かではありません。これは決して、「MTGアリーナ」では2本先取のゲームを捨て去りたいという意味ではありません。ですが私たちは、「MTGアリーナ」の大半のプレイヤーがプレイしている方法でも「競技」を味わえる良い手段はないかと模索しているのです。「MTGアリーナ」における多くの部分と同様に、これもまた現在開発中の方策であり、今後もウィザーズ社内のパートナーやプレイヤーの皆さんへの影響を見ながら発展させていくつもりです。

アーロン:eスポーツの舞台たるプロ・リーグや各種イベントを、一般の「MTGアリーナ」プレイヤーの心をつかむものにするために大切なのは、彼らがゲームをプレイする際に可能な限り近い体験を味わえるようにすることです。それはサイドボーディングでは実現できませんが、デッキをまるごと変えるなら実現可能です――構築ランク戦では、(特に負け始めると)頻繁にデッキを変えるものですから。プレミア・イベントの試合が1ゲームで決着することを望む人はいないと断言できます。それなら、デッキを変えることで多様性ある面白い体験を生み出せるはずです。さらに、同じデッキを使うことも禁止されていません。もし「環境を打ち破るデッキ」を作れたなら、イベントを通してそのデッキを使い続けることもできるのです!

 サイドボーディングなしのフォーマットのメタゲームは、私たちが慣れ親しんだいつものフォーマットと異なるメタゲームになるでしょうか? ぜひそうなることを願っています! 以前述べた通り「MTGアリーナ」はマジックの新たな遊び方であり、異なる体験の中で挑むべき新たな難題が生まれてこそ、マジックは最高のゲームたり得ます。サイドボーディングなしのフォーマットにおけるメタゲームが、いつものフォーマットで固まったメタゲームに一石を投じることになるのを、私たちは楽しみにしています。すでにいくつか非常にクールなデッキが登場していますが、まだまだ始まったばかりです!

 さまざまなデッキの登場や多彩なメタゲームを求める私たちに呼応して、TCGデザインスタジオもセットに収録されるカードをさまざまな形で使えるようサポートできる方法を模索し始めました。《秋の騎士》や《荒廃ワーム》、《魔性》のようなカードは、アリーナ・スタンダードにおいて「手も足も出ない」マッチアップの数を減らす助けになるはずです。その一方で、《燃えがら蔦》や《漂流自我》、《一斉検挙》のような伝統的なサイドボード・カードの作成も続けるつもりです。それらはきっと、卓上マジックのサイドボードに居場所を見つけられるでしょう。

 アリーナ・スタンダード向けのデザインは、卓上マジックのサイドボードありのフォーマットと異なり何十年も積み上げてきたものではありません。だからこれから取り組んでいく中で、学ぶこともあるでしょう。混乱を避けるために念のため言っておきますと、私たちはスタンダードと「MTGアリーナ」で禁止カード・リストを分けて管理することも可能であり、「MTGアリーナ」でプレイモードごとに適切な禁止リストを制定することも可能です。これまで通り、私たちはメタゲーム・データを慎重に観察し、私たちが理想とする体験を皆さんにお届けできるようお約束します。

未知の海域

クリス:「MTGアリーナ」で行われている配信者イベントに参加したことのある方は、私たちがこのゲームの可能性を変えるさまざまなルール変更やユニークな紋章を追加していることをご存知でしょう。以前述べた通り、私たちは、私たちが作成するカードのすべてを皆さんが使って楽しめるような道を探り続けています。私たちは、私たちがご提供するフォーマットすべてにおいてその健全さを慎重に監視し続けており、表出する問題を解決する難しさに応じてイベント期間を調整しています。最近行われたホリデー・イベントでは、イベント期間中にデッキの多様性が著しく減少していくという興味深い事例が見受けられました。もしPauper(コモン構築)が常設のイベントであったなら、初期の段階から環境は解明されていたでしょう。これは、私たちが「MTGアリーナ」ですべてのフォーマットを常設にしていない理由でもあります。いつものスタンダードとアリーナ・スタンダードが常設されていれば、次のセットが発売されるまでの期間を耐えられるだけの奥深いフォーマットをご提供できると、私たちとTCGスタジオは信じています。その上でいくつか奥の手をご用意することで、より確実にセット間を埋められるでしょう。新たなゲームモードの探求には、皆さんの助けが不可欠です。本当に、いつもありがとうございます!

アーロン:私が統括するデザイン・チームもその探求に少し携わっていますが、枷を投げ捨ててありとあらゆるクレイジーなことに挑戦するのは「MTGアリーナ」チームが主体となっています。彼らがいともたやすく新しいフォーマットを発明し、それが実装されるやいなや大量のプレイヤーたちが飛び込んでいくのを目の当たりにすると、正直かなりうらやましく思います!

「MTGアリーナ」における2本先取のゲーム

クリス:本格的なデジタル・マジック体験をご提供するというのは、私たちが目指す重要な到達点のひとつであり、そのことに偽りはありません。皆さんが「MTGアリーナ」の2本先取のゲームで体験できることは、少し光とアニメーションの演出が添えられている以外は、シャッフルのランダム性を含め卓上マジックをプレイしたときに得られる体験そのものです。2本先取のランク戦もプレシーズン2から実装されるため、今後はすでに楽しさが証明されているこのフォーマットにも、より一層力を入れていけると思います。結局のところ、大元の体験なしには「MTGアリーナ」と卓上マジックの「両立」は実現できないのですから。それから、スタンダード以外のフォーマットで遊びたい方にはMagic Onlineがあります。そこでは、「MTGアリーナ」ではサポートしていないフォーマットの多くをお楽しみいただけます。

アーロン:なるほど。週末のフライデー・ナイト・マジックのドラフトに向けて「MTGアリーナ」で練習したいときもあれば、卓上マジックのミシックチャンピオンシップ予選に向けてサイドボードの調整をしたいときもあるでしょう。だから「両立」なのです! たとえ現時点では「MTGアリーナ」のプレミア・プレイがないとしても、本格的な卓上マジックを体験できるモードは欠かせないと私たちも考えています。皆さんは、好きなときに好きな遊び方でお楽しみいただけるのです!

反復工程の世界に生きる

クリス:この記事を終えるにあたり、最後に皆さんにお伝えしておきます。「MTGアリーナ」にはまだまだ未開拓の場所がたくさんあり、これから1年の間にさまざまなことを積み重ねていくうちに、最高の体験をお届けするためまたいくつかの変更が行われるでしょう。2019年はマジック全体にとってエキサイティングな1年になるかと思います。その旅路を皆さんと共有する日が待ち切れません。どうぞ今後も、皆さんの素晴らしいフィードバックをお送りください。私たち皆が愛するこのゲームの一員でいてくださり、本当にありがとうございます。

 さて、それでは今日はこれで失礼します。『ラヴニカの献身』シールドのデッキ構築をしなければいけないので。

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