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シングルカードストラテジー:《最後のトロール、スラーン》

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By 津村 健志


 みなさんはトロールという種族をご存じだろうか? または、それらと対峙したことがあるだろうか?

 マジックの歴史上ではいまだ22種類しか確認されていないこの種族だが、筆者の「トロール」族への思い入れは強い。おそらくみなさんが想像しているより、ずっと、である。

 古くは《ウスデン・トロール》や《Sedge Troll》に始まり、《アルビノ・トロール》や《トロールの苦行者》へと受け継がれてきた「トロール」という種族の歴史。

 今までに登場したトロール・クリーチャーたちは全て再生能力を持っている。《苔橋のトロール》などは、再生能力を極限まで高めたのか、自動発動となってしまっているくらいだ。

 そして、この中で最も大きな成功を収めたものは、《アルビノ・トロール》だろう。世界選手権でのトップ8や、斉藤友晴のFinals優勝などが最たる例である。

 僕が初めてトーナメントマジックに参入したそのデッキにも、《アルビノ・トロール》が入っていた。

津村 健志「タングル・ストンピィ」[MO] [ARENA]
12 《
4 《樹上の村
4 《ガイアの揺籃の地

-土地(20)-

4 《ラノワールのエルフ
4 《エルフの抒情詩人
4 《野生の犬
4 《飛びかかるジャガー
4 《リバー・ボア
4 《アルビノ・トロール

-クリーチャー(24)-
4 《怨恨
4 《巨大化
4 《野生の力
4 《からみつく鉄線

-呪文(16)-
4 《ウークタビー・オランウータン
4 《ぶどうのドライアド
1 《マスティコア
3 《スランのレンズ
3 《調和ある収斂

-サイドボード(15)-


 このデッキは僕にトーナメントマジックの楽しさを教えてくれた。
 戦闘フェイズの奥深さや、サイドボードの重要性、はたまた赤いデッキ相手には《野生の犬》を出しちゃいけない事など、数えだせばきりがないくらいだ。

 このデッキには数多くの優秀な低マナクリーチャーが入っていたが、そんな中でも、《アルビノ・トロール》は別格だった。
 特に、苦手とする「赤茶」デッキの《火口の乱暴者》《燎原の火》に対する、強力なアンチテーゼである再生能力は重宝した。当時の黒の除去と言えば、《血の復讐》《殺し》《非業の死》など、再生を許さないものがほとんどだったし、《神の怒り》の前にも再生能力は無力だったが、それでもパワー3の再生持ちは貴重な戦力だった。

 そして、《アルビノ・トロール》に《怨恨》が付いてしまえば、まさに鬼に金棒、向かうところ敵なしと言ったところだった。


 しかし時は流れ、ウルザ・ブロックはスタンダード落ちしてしまった。愛する「ストンピィ」のカードしか持っていなかった僕は、《突進するトロール》と《アルマジロの外套》の入った緑白デッキを作ったのだが、対戦相手の《気高き豹》の前に止まってしまったこの哀れなトロールを見て、マナ効率への意識が芽生えたし、ついでにレアリティの偉大さも学ぶことができた。

 最終的に《突進するトロール》はデッキから抜けてしまったが、彼もまた、《アルビノ・トロール》と同じく、僕にとっては特別な存在だった。


 さらに悪いことに、《アルビノ・トロール》の引退を境目に、「トロール」軍団の活躍の機会を拝む機会はなくなってしまった。そもそも、「トロール」という種族を持つクリーチャーがほとんど印刷されなかったのだ。

 ウィザーズ社は「トロール」族を絶滅させようとしている。そんな噂さえ流れ始めた2003年に、我々は良い意味で裏切られた。

 そう、「トロール」界の救世主とも言える、「あの」クリーチャーが登場したのである。

 このクリーチャーは「対戦相手の呪文や能力の対象にならない」という画期的な能力を持っていた。

 みなさんも小さい頃、両親から「知らないおじちゃんに飴もらっちゃだめよ」なんて教育を受けたかもしれないが、彼はそれを忠実に守り抜いている。
 《炎の稲妻》や《燻し》のような単体除去は、この高貴な「トロール」の前にはキャストすることすらかなわない。こいつを効果的に除去できるカードなんて、《悪魔の布告》くらいのものであろう。

 もちろんの事ながら、トロール族の象徴とも言える再生能力も付いているため、戦闘でも無類の強さを誇った。クリーチャーデッキ同士の対戦ではほとんど死なない事を利用し、《崇拝》と組み合わせ、対戦相手を投了に追い込む戦略も当時ではよく見受けられた。

 そして、この強力なクリーチャーは、我が盟友である志村一郎氏をグランプリ・トップ8に送り込んだ。

志村 一郎「Macey Rock」
グランプリ・シンガポール Top8 - 2005/03/20[MO] [ARENA]
9 《
6 《
2 《樹上の村
4 《ラノワールの荒原
1 《真鍮の都

-土地(22)-

4 《極楽鳥
3 《ラノワールのエルフ
4 《野生の雑種犬
3 《催眠の悪鬼
1 《永遠の証人
3 《トロールの苦行者

-クリーチャー(18)-
4 《陰謀団式療法
3 《怨恨
2 《吸血の教示者
2 《燻し
1 《悪魔の布告
1 《仕組まれた疫病
4 《獣群の呼び声
1 《頭蓋の摘出
2 《火と氷の剣

-呪文(20)-
1 《悪辣な精霊シルヴォス
3 《強迫
1 《棺の追放
3 《帰化
1 《悪魔の布告
3 《仕組まれた疫病
2 《破滅的な行為
1 《頭蓋の摘出

-サイドボード(15)-


 当時彼と一緒にこのデッキで出る約束をしていたのだが、直前になって慣れ親しんだ《精神の願望》デッキに変更してしまった。そのことを、今でも後悔している。せっかく「トロール」と再び戦えるチャンスを得たのに、どうしてそれを棒に振ってしまったのだろう、と。

 そんな筆者の想いをよそに、志村氏はベスト4という結果を残し、見事「トロール」族の強さを証明してくれた。ここでも『鬼に金棒システム』として、《怨恨》と《火と氷の剣》が採用されている。《怨恨》の威力も十分すさまじいが、《火と氷の剣》などは最早棍棒ではなく大砲レベルと言っていいだろう。


 この《トロールの苦行者》の活躍っぷりに、「トロール」は一気に日の目を浴びるかと思われたが、ウィザーズが「トロール」が嫌いなのか、「トロール」族が引き籠り気質なせいなのか、またしばらくの間「トロール」の露出は減ってしまう。

 だが、僕は歴史を見て学んだ。「トロール」族はただ単にストイックなだけなのだ。自分が納得できる力を得るまでは、人前には決して露出しない、ただそれだけの事なのだと。

 彼らの教えは、すでに「ミラディンの傷跡」のあるカードに現れている。

 再生、対戦相手の呪文や能力の対象にならない、という効果を自軍のクリーチャーすべてに及ぼすこのカードは、その教えを端的に表現しているといっていいだろう。

 そして今、長い長い修業の日々を越え、「トロール」族の代表として、ついに我々のもとに帰ってきたのが彼だ。

 4マナ4/4。これだけならば《トロールの苦行者》のサイズが上がっただけだが、彼は一族の中でも更なる高みへと到達した存在なのだろう。その修行の成果は、「打ち消されない」という一文に現れている。

 まさに伝説と呼ぶに相応しい人物である。どれほどまでに自分を追い込めば、これほどの完璧超人になれるのか。その答えを知る術は筆者にないが、その姿勢はぜひとも見習いたいところである。


 そして、長い年月の間に変わったのは《最後のトロール、スラーン》だけではない。世界もまた、大きな変化を見せていた。

 《神の怒り》は最早過去の遺産であり、現在の全体除去は《審判の日》に移り変わっている。注目すべきは再生が許されている点だ。

 つまり、《最後のトロール、スラーン》を対処できる呪文は極僅かしか存在しない。筆者が思いつく限りでは《精神壊しの罠》と《黒の太陽の頂点》くらいだ。それ以外ではクリーチャーやプレインズウォーカーで対抗するしかない。

 だが近年のカードパワーのインフレはすさまじい。《悪斬の天使》《墓所のタイタン》《ワームとぐろエンジン》の前には、流石の《最後のトロール、スラーン》と言えど立ち往生してしまう。

 ならば『鬼に金棒システム』の出番である。自分ひとりでどれだけ頑張っても無理な事はあるが、皆で協力すれば何とかなるのが世の常だ。《最後のトロール、スラーン》だけでは歯が立たない問題があるなら、他のカードでそれを補ってやればいい。

 《火と氷の剣》の後釜である《肉体と精神の剣》や、今回登場した《饗宴と飢餓の剣》と《骨溜め》などの大砲クラスの装備品を付けてやれば、恐れるものは何もない。
 《エルズペス・ティレル》の生み出すトークンに苦労するなら、《紅蓮地獄》《金屑の嵐》《オキシド峠の英雄》《虐殺のワーム》などでバックアップしてやればいい。

 単体でも十分に強力で魅力的な《最後のトロール、スラーン》だが、その真の力を発揮できるかどうかは、使い手のあなた次第だ。


 今のところ、筆者の中で《最後のトロール、スラーン》が最も輝くのは、「赤緑《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》」のサイドボードではないかと考えているが、これを機に緑のビートダウンデッキの復権の可能性も大いにありえると思う。
 それほどまでに《最後のトロール、スラーン》は強い。

「サンプルデッキ・《最後のトロール、スラーン》入りエルフ」[MO] [ARENA]
17《
4 《巨森、オラン=リーフ

-土地(21)-

4 《ラノワールのエルフ
4 《東屋のエルフ
4 《ジョラーガの樹語り
4 《ジョラーガの戦呼び
4 《獣相のシャーマン
3 《森のレインジャー
4 《エルフの大ドルイド
4 《最後のトロール、スラーン
3 《復讐蔦

-クリーチャー(34)-
3 《エルドラージの碑
2 《野生語りのガラク

-呪文(5)-


 今回は「エルフ」デッキに入れただけの、非常にシンプルな構成にしてみた。

 唯一の弱点として懸念される回避能力が無いという部分を、《野生語りのガラク》の最終奥義や、《エルドラージの碑》で飛行を与える事で解消している。

 このデッキは、3ターン目に《最後のトロール、スラーン》をキャストできる可能性が環境内でも屈指だと思う。そのため、《最後のトロール、スラーン》の力を早く試してみたくてウズウズしているみなさんは、このようなリストから始めてみてもいいだろう。

 その他のリストは近々僕の連載で紹介する予定なので、そちらの方もチェックしてみてほしい。


 今回紹介したリストは、《最後のトロール、スラーン》の力のほんの一部にしか過ぎない。あなたなら、どうやって彼の力を引き出すだろう?

 「トロール」の一ファンとしては、スラーンの名前に「最後」と付いているのも気になるところだ。はたして、「トロール」の歴史は本当にここで終わりを迎えてしまうのか?

 いや、そうではないだろう。おそらく彼らはまた長い間姿を見せないだろうが、それは彼らが滅んでしまったことを意味するのではない。更なる高みを目指すべく、爪を磨いでいるだけなのだ。

 ならば我々に出来る事は、ただ彼らの帰りを待つのみだ。彼らが再び我々の前に現れてくれることを、再会を、祈りながら。

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