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戦略記事

佐藤レイの「一歩踏み込む!」リミテッドの極意

第2回:もっと勝てる!『ゼンディカーの夜明け』ドラフト

佐藤 レイ

 こんにちは、マジック・プロリーグ(MPL)所属の佐藤レイ(@r_0310)です。

 いよいよ10月になり、新しいシーズンのマジック・プロリーグが始まりました。年間の成績を競い合うマジック・プロリーグにおいて、今回の『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンドではスタンダード戦を計24戦行います。

 先週末最初の12戦が行われ、ぼくは幸運にも11勝1敗という好成績で首位になることができました。もちろんずっとこんな調子でいくとは思ってはいませんが、最初に良いスタートを切れて嬉しいです。後半戦の12戦はもちろん、その後も含め、これからも頑張っていきたいと思っています。

 ……ということで、今年出場するリーグ戦や大会は構築戦ばかりなので、練習時間以外でマジックを遊ぶときはほとんどリミテッドをやっています。この『ゼンディカーの夜明け』のドラフトは本当に奥が深くて面白いです。ただ取れる戦略がたくさんあり、なかなか勝つことに苦労している方も多いのではないでしょうか。

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 今回も前回記事と同様に、『ゼンディカーの夜明け』のドラフトについて、どのような戦略が有効でそのためには何を知っていたら良いのかという応用編の記事を書かせていただきました。良かったら参考にしてみてください!(まず基本を知りたい、という方は同じくMPL所属の行弘賢さんの記事を読んでみてください!)
 

もくじ

 

第1章 アーキタイプ環境とは?

 『ゼンディカーの夜明け』のブースタードラフトがどういった環境なのかを一言で言うと、「立体的なアーキタイプ環境!」です。

 ドラフトにおいて、アーキタイプ環境(色だけではなくコンセプトに沿った構築が求められる環境)であることは特段珍しいことではありません。ただ『ゼンディカーの夜明け』ドラフトではそのアーキタイプの数が従来の環境に比べ、圧倒的に多いです。

 これはデッキの軸となるコンセプトがキーワード能力(キッカー・上陸)と部族(ウィザード・クレリック・戦士・ならず者)の2軸あるだけでなく、さらに別々の部族を集めることで得られるパーティーというコンセプトがあり、それらが個別の色だけではなく、何種類かの色の組み合わせで構築可能だからです。

キッカーと上陸 カード例
 
部族 カード例
 
パーティー カード例
 

 ドラフト中には色の組み合わせだけでなく、いつどのアーキタイプに参入するかを考える必要があり、それがこの環境のドラフトを難解にさせています。なので『ゼンディカーの夜明け』ドラフトにおいて、まず勝つために何よりも先に知らなければならないことは「アーキタイプ環境とはどのようなものか」、です。

 アーキタイプ環境においては、従来のような色を読むことを中心としたドラフトとは何が変わるのでしょうか。押さえておいたほうがよいポイントが3つあります。

「アーキタイプを決定するカード」からピックする

 アーキタイプ環境においては、自分がどのアーキタイプに進むべきかを判断する材料を集める必要があります。そこでまずはアーキタイプを決定するカードからピックしていきましょう。

 アーキタイプを決定するカードとは、特定のコンセプトのデッキが組めたときに、最も強力になりうるカードのことです。例えば《イオナの大司祭》や《ドレイクの休息地》などですね。

 

 特に大切なこととしては、強力な2色のカードを早く取ることをためらわないでください。色が被らないことが重要な環境においては、多色の強力なカードよりも単色の除去からピックしていくことが一般的です。なぜならその方が受けが広いからです。ですがアーキタイプ環境では、逆に自分が寄せらせるカードをどのくらい持っているかが重要になります。

 なので《生命の絆の僧侶》や《空飛ぶ思考盗み》を単色の除去などよりも優先してピックしていきましょう。

 
アーキタイプが決まるまでは受けを狭くするカードを取らない

 よほど強力なカードが序盤に複数枚取れたとき以外は、ドラフトの序盤においては複数のアーキタイプを狙いつつピックしていくことが一般的です。

 いつどのアーキタイプが空いているということが分かるかは決まっていません。なので、序盤は複数のアーキタイプにおいて活躍が期待されるカードからピックするのがいいでしょう。例えば《英雄たちの世話人》は白黒クレリックにおいても、白青パーティーにおいても価値のある優秀なカードです。

 

 コツとしては色をあまり強く意識しすぎないこと、それと特に緑以外の色では部族シナジーが発生しない(つまり、クレリック・ならず者・戦士・ウィザード以外の)クリーチャーをなるべくピックしないことです。

空いているアーキタイプを選ぶことが重要

 アーキタイプ環境においては、同じ色でもあるデッキではもっとも強力だけれどもあるデッキでは全く使えないといったカードが多数存在します。例えば《イオナの大司祭》は白青パーティーでは強力なカードですが、白黒クレリックでは見向きもされません。

 

 なので、そういったカードを後半に上手くピックするために、空いているアーキタイプを選ぶことが重要になっていきます。アーキタイプを決定するカードの流れ具合によってそれらを判断していくことになりますので、ここにはある程度経験と慣れも必要でしょう。

~第1章のまとめ~

■『ゼンディカーの夜明け』ドラフトはアーキタイプ環境

■アーキタイプ環境のポイントは3つ

  • アーキタイプを決定するカードからピックする
  • アーキタイプが決まるまでは受けを狭くするカードを取らない
  • 空いているアーキタイプを選ぶことが重要

 

 

第2章 アーキタイプ紹介

 アーキタイプ環境とはどのようなものかを理解したら、次は環境においてどのようなアーキタイプがあり、その中でどれが強力なのかを把握する必要があります。

 環境のアーキタイプはすべての2色の組み合わせに存在しており、そのコンセプトは基本的にその色の組み合わせの多色アンコモン・カードが持つ能力に一致しています。そしてほとんどの場合、その多色アンコモン・カードがそのままその色のアーキタイプを始める理由にもなっています。

 まずはこの10種類の色の組み合わせを、それぞれ強力な順にティアー(階層)1、ティアー2、ティアー3と分けながら紹介していきます。

ティアー1

白黒クレリック

 

 ライフを得ることで効果を生むクレリックを集めたアーキタイプ。文句なしで環境最強です。この環境のドラフトでは誰しも《コーの祝賀者》の存在を憎んだことがあるでしょう。

 

 クレリックに関わらず、ならず者・戦士・ウィザードも同様ですが、他のクリーチャータイプのカードを入れれば入れるほどデッキは弱くなっていきます。なので、基本的にはあまり他のタイプのクリーチャーを入れないようにしましょう。

青黒ならず者

 

 こちらも強力なアーキタイプ。スタンダード同様インスタント・タイミングでトリッキーな動きをすることができ、相手を翻弄していきます。

 『ゼンディカーの夜明け』ドラフトは基本的に白黒クレリックと青黒ならず者の2強環境です。卓内で唯一のクレリックやならず者に位置取ることができれば、おそらくその中で最も強いデッキが出来上がるでしょう。

ティアー2

白青パーティー

 

 パーティーを集めることでメリットを得られるカードを活かしたアーキタイプ。白黒クレリックを目指していたところからパーティー関連のカードをピックして移行することも多く、逃げ道としても有効です。

青緑キッカー

 

 キッカーすることによってメリットを得られるカードを活かしたアーキタイプ。上手く組めると強力なのですが、上記の《ドレイクの休息地》、《ムラーサの発芽種》がしっかり取れないと単純に弱いカードの集まりになってしまいがちなので注意してください。

黒赤パーティー

 

 白青以外のパーティー関連のカードを活かしたアーキタイプ。赤を使っていることでよりアグレッシブなアグロ戦略をとっています。狙うというよりは「クレリックやならず者を目指していたけれどあまり流れてこず、逆に赤がとても流れている時」に参入する逃げ道のようなアーキタイプです。

黒緑カウンター

 

 +1/+1カウンターが置かれることでメリットを得られるカードを活かしたアーキタイプ。緑全般に言えることですが、部族シナジーをデッキとして持っていないので逃げ道として使うのは難しいものの、上手くポジションを取ることができればデッキを構成するのは自分以外のプレイヤーが必要のないカードばかりになるので、強力なカードを終盤に取りやすいです。

 ティアー2の4種類のデッキは、ティアー1の2つに比べると落ちますが、それでもいいポジションでやることができれば、十分に全勝を目指せるアーキタイプです。

 ここから下のティアー3はかなり強力なレアやアンコモンを有していないと勝つことが難しい、できればやりたくないアーキタイプです。

ティアー3

赤白戦士

 

 装備や戦士という部族を上手く活かしたアグロアーキタイプですが、なかなかにシナジーが薄く勝ち切るデッキにすることが難しい。どちらかの色の強力なカードを取っている上で《カルガの戦導者》や《恐れなき探査者、アキリ》が上手いポジションでピックすることができた時にのみ参入するイメージです。

赤緑上陸

 

 このカラーリングもやらされるアーキタイプ。どちらの色もある程度いい流れ具合で、かつ《山火事の精霊》がかなり遅いタイミングで取れた時に参入します。

青赤ウィザード

 

 一見環境のメインアーキタイプに見えますが、実はかなり組みづらいアーキタイプです。他に比べデッキが呪文中心になるため、部族付きのクリーチャーをあまり取ることができず、序盤のピックにおいて他のアーキタイプとの天秤にかけづらいのもマイナスです。

緑白上陸

 

 この環境においてもっともシナジーを構築することのできない色の組み合わせで、最弱アーキタイプです。野生の魂、アシャヤ》や《フェリダーの撤退》などの強力なレアをどちらの色でも取ることができて初めて組むことができるアーキタイプでしょう。「アーキタイプ」と言っていいのかも怪しいレベルです。

 以上がこの環境の基本アーキタイプです。ここでさらに3つ、押さえておきたいポイントがあります。

黒が強くて緑と赤が弱い

 アーキタイプをティアーごとに分けると、ティアー1は黒いデッキ2つ、さらにティアー3にはまったく黒いデッキは存在していません。赤と緑に関してはその逆で、ティアー1に存在せず、ティアー3はこれらの色で構成されています。

 『ゼンディカーの夜明け』ドラフトでは「黒が強くて緑と赤が弱い」です。したがって同じくらいのカードの強さなら黒いカードを優先してピックしていって良いでしょう。

パーティーを組むのなら基本は青白か赤黒

 パーティー関連のカードをふんわりとピックしてデッキに投入してしまう。これはこの環境がアーキタイプ環境だと理解していないうちに最もやってしまいがちな失敗です。

 部族デッキはその部族で固めることで強力になっていくので、パーティー戦略とは全く相容れられない構造になっています。なので、強力なパーティー関連のカードをフィーチャーしようとすると色の選択肢は限られてきます。基本は青白か赤黒以外のパーティーデッキはないと認識して良いでしょう。もちろん実際のドラフトではできてしまうこともありますが、その多くは失敗デッキです。

緑はあまり部族を使わない/部族に影響しないコンセプトのアーキタイプが多い

 緑は+1/+1カウンターやキッカー、さらに上陸というシステムをフィーチャーしていて、環境的には部族シナジーを伴わないアーキタイプの多い色です。

 ここにはメリットとデメリットが存在します。

 まずメリットは、他の人と欲しいカードが被らないところです。部族デッキは卓に1人だとしても、すべての部族を必要とするパーティーデッキに結局強い部族カードはピックされてしまいます。しかしキーワード能力を軸にした緑においてはそのようなことはおきません。

 デメリットは、序盤のピックにおいて他のアーキタイプとの天秤がかけづらいことです。緑の間での行き来はできるものの、部族に頼っていないため序盤に緑に入っているとそこから他の色のアーキタイプに転向することが難しいです。

 なので、緑のカードを序盤にピックしていくということは緑と心中する可能性が高いということを覚えておきましょう。

~第2章のまとめ~

■特に強力なアーキタイプは白黒クレリック、青黒ローグ。

■基本的に黒が強くて緑が弱い。

■パーティーを組むなら白青か黒赤がベター。

■緑はあまり部族を使わない。


 

 

第3章 どのような戦略をとるべきか?

 『ゼンディカーの夜明け』ドラフトがアーキタイプ環境なことも、強いアーキタイプもそれ以外にも多くのアーキタイプがあり、さまざまな特徴があることもわかりました。

 ではその上でどのような戦略をとるべきでしょうか。

 僕の考える『ゼンディカーの夜明け』ドラフトにおける戦略は大きく分けて2つあります。それは「卓状況を読み、空いているアーキタイプを目指す戦略」「あらかじめ強力なアーキタイプをある程度狙う戦略」です。

卓状況を読み、空いているアーキタイプを目指す戦略

 もっともスタンダードかつ上級者が好む戦略です。序盤にアーキタイプの軸となるカードをピックし、そこからおそらく卓に自分しかいないであろうアーキタイプに移行していきます。

 卓にいないアーキタイプにいつでも入りにいけることが重要で、そのためには受けを狭くしないことが大切です。初手~3手目で色を決定しないよう、あらゆる可能性に対応できるようにしておきましょう。

あらかじめ強力なアーキタイプをある程度狙う戦略

 この戦略を取る場合、「黒をある程度狙いつつ、緑を避ける」ことになります。

 まずクレリックかローグを目指し、どちらもできなさそうならそれらのパーツを持って青白パーティーや赤黒パーティーに寄せていくことが多いでしょう。若干卓状況を読むアーキタイプに比べてハイリスクですが、もっとも強力なアーキタイプを逃さない強みもあります。

 こちらの戦略で大切なのは、ダメだったときのプランBです。パーティーはいい逃げ道になることが多いので、クレリックやならず者を上手く取れない時は、パーティーデッキであれば強力になりうるカードや他の部族を抑えておくことが大切です。

 

 緑を避けるのはクレリックやならず者のカードを利用することが難しいからです。レアケースですが、卓の流れによっては初手か4手目あたりのカードをすべて捨て、緑に参入することもあります。

 どちらの戦略が有効かは、プレイヤーの引き出しがどのくらいあるのかと、戦っているステージによります。

 さまざまなアーキタイプを知っていて、それらに対応できるのなら「卓状況を読み、空いているアーキタイプを目指す戦略」が最適戦略になる可能性が高く、知らなければ知らないほど「あらかじめ強力なアーキタイプをある程度狙う戦略」になるでしょう。

 また卓内のプレイヤーが上級者になればなるほど、空いているアーキタイプを目指すことの価値は高まります。強力なアーキタイプの人気がより集中するからです。またそれなりに勝ち越せればいいのか、全勝にしか意味がないのかでも変わるでしょう。全勝にしか価値がないのなら、リスクを取ってある程度強力なアーキタイプを狙う意味があります。

 ぼくも優勝しか価値のないプロツアー予選などと、勝ち越すことに意味があるプロツアー本戦ではピック戦略を変えていたりしていました。今自分がやっているドラフトにはどちらが合うのかを意識してみることも面白いかもしれません。

 

 『ゼンディカーの夜明け』ドラフトはカードの出方や流れてくるカード、卓内での自分のポジションによって、最適な戦略がかなり異なってくるので、「こうすれば勝てる!」と絶対の戦略はありません。

 だからこそアドリブ力を身につけるには素晴らしい環境だと思います。ぜひドラフトならではの毎回違う状況を楽しんでください!

~第3章のまとめ~

■『ゼンディカーの夜明け』ドラフトには「卓状況を読み空いているアーキタイプを目指す戦略」と「あらかじめ強力なアーキタイプをある程度狙う戦略」の2つがある。状況によって使い分けよう。


 

 

最後に

 今回の記事は以上となります。ここまでに書いたことが何か1つでも参考になればこんなに嬉しいことはありません。最後までお読みいただき、本当にありがとうございました! 今後の参考にさせていただきますので、もしよければTwitter(@r_0310)などでご意見やご感想をいただけるとありがたいです!

 それでは、次回の記事でお会いしましょう!

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