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開発秘話

Play Design -プレイ・デザイン-

Mファイル『イコリア:巨獣の棲処』編・怪物

Jadine Klomparens
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2020年4月23日


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 Mファイルへようこそ! 私はジェイディーン・クロンペアレン/Jadine Klomparens、あなたに『イコリア:巨獣の棲処』のカードがどのようにしてそうなったのかの舞台裏を見る定期記事をお届けするためにここに来ました。今回の舞台裏の旅は怪物でいっぱいなので、あなたがそれを好きであることを願います。

 ウィザーズ・オブ・ザ・コーストのマジックのデザイナーは、私たちが作っているカードについてコミュニケーションを取る助けとなるたくさんの手段を使っています。そのうちの1つであるドレイクは私たちが個別のカードについてのコメントを残す内部のデータベースです。ドレイクのコメントはデザイナーの気にしたことなら、変更が行われた記録や共有するべき懸念、もしくはただ単に「これはすごい」でも何でもありです。これらのコメントはマジックのカードを作るための仕事のほんの一部を反映しているに過ぎませんが、アイデアができたところからカードとして完成するまでの数か月に渡る旅路の全体像を感じさせてくれます。

 こちらをクリックすると今回のコメンテーターをご覧いただけます。

 では、カードを見ていきましょう!


らせん樹の滑空獣

DEL: レビュー――コンセプト決めに課題あり?
VERHEYG: 飛行を外して代わりに+1/+1カウンターを持たせるのはどう? 飛行を選ばない人を見たことがない。
CJB: 何回か先制攻撃を選んでるの見たことあるよ。知らんけど。
DSJ: 特に対アグロで引いたときに先制攻撃を何回か選んだことがある。いくつか「明確に」多用途なクリーチャーもあるべきだと私は思う。
VERHEYG: 私も何度か先制攻撃を選んだことを世界中に知らせるために数カ月ぶりにここに戻ってきた。将来の「プレイ・デザイン」の記事で、簡潔なコメントをつけて私の主張を面白くすることができる。
DGH: ナイトメア・リス!
ELI: ローズウォーターのおかげで、リスの絵文字があることがわかった。

 一発目です。

 これはこれで片がついたので、《らせん樹の滑空獣》の話をしましょう。このナイトメア・リスは、あなただけのオリジナル・フレンチバニラのクリーチャーを作ろうというコモンの5枚サイクルの一部です(フレンチバニラとは、マジック用語でキーワード能力を1つだけ持っていて他には能力を持たないクリーチャーのことです)。ほとんどのマジックのセットには何枚かのフレンチバニラ・クリーチャーがいて、クリーチャーを戦場やブースターパックにあまり多くの複雑さを与えずにリミテッドで影響力を持たせるのにとても役立ちます。『イコリア』においてキーワード・カウンターのテクノロジーが可能にしたクールなことの1つは、フレンチバニラのコンセプトにちょっとしたスパイスを効かせながら複雑さへの影響を少ないままにすることでした。

 ガヴィンの、飛行が常に選ばれるのではないかという具体的な懸念は杞憂だったかもしれませんが、彼の根本的な心配はもっともなことです――私たちは選択肢が提示されているように見えるカードを作りたいわけではありません。2つの選択肢のあるカードがあっても、一方を選ぶことが戦略的に常に正解であるなら、テストの引っ掛け問題のように感じてしまいます。マジックのゲームでは引っ掛け問題でなくても考えることがたくさんあります。《らせん樹の滑空獣》の先制攻撃の場合は、その選択は十分選ばれていて影響を与える頻度も樹分あり、満足行くものでした。


サメ台風

ABRO: サイクリングを{U}{U}{X}にしてX/X飛行のトークンを試してみることもできる。
DGH: ABROのリクエスト通りにサイクリング誘発を変更。
DEL: プレイテストのお気に入り。
PC: このカードは存在感があるようには思えない。{X}{1}{U}でサイクリングは試せる? ジェスカイのサイクリング・デッキを作ろうとするとこれのマナがとても厳しい。
DGH: この変更は良さそうだ。他の反応を聞くまでこれで行く。
ABRO:{4}{U}{U}→{5}{U}。
DGH: これがサメ・トークンに変更されると信じている。
ABRO: サメはもっと構築フォーマット向けのカードにも使われる。みんなが勝ちだ。
DOUGB: オーマイガーこのアートは :D
REGV: このカードはバカですごい。

 《サメ台風》はエンチャントなので、厳密には『イコリア』の怪物たちに含まれないのではないかと私は思います。ですが私たちは、実際にはトークンに向けてドレイクのコメントを残すのではないので、このすごいカードの裏話を紹介するために私の中のルールに例外を作ろうと思います。このアートが届いたとき、奈落はこのカードにマジでどハマりして、ドレイクのコメントにその興奮の一部が反映されているのが分かると思います。

 このカードのクリエイティブとアートは素晴らしいのですが、このカードに入っているあるクールなメカニズム的ゲームデザインも同じぐらいすばらしいものです。私たちの最初のアイデアは《サメ台風》を長期戦向けデッキの《機械医学的召喚》型のフィニッシャーにして、計画がうまく行かなかったときのためのエキサイティングなサイクリング誘発をつけるというものでした。その構想に沿ってプレイを重ねていくたび、私たちはこのカードがものすごく柔軟性の高いカードだということを実感し、より幅広いデッキでこのカードをプレイしたいという思いを強くしました。このカードの色マナの濃さがそれを邪魔していたので、呪文とサイクリングの両方のコストの色マナをシングル・シンボルだけにしました。


狩り立てられた悪夢

DGH: AFのリクエストでどこでも使える新デザイン。レアのほうがふさわしいかもしれないが、スロットに空きがない。
ABRO: 3マナに下げたほうが成功するチャンスが高くなると思う。{1}{B}{B}4/5とか?
DGH: ABROの案に変更。
AN: 神話レアよりもレア感があるな。
DGH: レアに格下げ。
JDR: これは本当にかわいい。
DMUS: これすき。

 マジックのデザイン(や他の創造的な分野)において、発展は必ずしも真っ直ぐなものではありません。時にはアンコモンを作ろうとして、最終的にレアみたいなものが出来上がることがあります。《狩り立てられた悪夢》は神話レア枠の穴埋めとして生み出されましたが、そこに完璧に合うものではありませんでした。プレイデザインがこのデザインの最も楽しいバージョンにするために数字をいじった結果、マナ・カーブの下の方に移って、さらに神話レアらしさがなくなり始めました。

 プレイデザインはカードの細部の仕事をするので、こういう事態によく遭遇します。カードに対する一連の反復工程が、そのカードが本来の目標を達成していないことが明らかになるまで、設定された目標からどんどん離していきます。このような分岐点においては、目標かそのカード自体のどちらを変更するかを決めなければいけません。基本的に、答えはそのカードがどれだけ好かれているかによって変化します。《狩り立てられた悪夢》の場合、そのデザインの簡潔さは維持したいと思うのに十分なものであり、そしてレアの枠にこれをそのままにしておける場所が見つかりました。


哀歌コウモリ

DGH: コウモリ向けに接死を飛行に。
MMAJ: クール。
ABRO: パワーとタフネスが対称になった。FFL。
DGH: これがまだ強いので弱くするために提案した数字か?
ABRO: 変容コストは{4}{B}{B}以外考えられない。変容の重ねるという性質は厳しい縛りだ。私はこのデザインを強くしたいとは思わない。
DGH: 変容コストを{3}{B}{B}から{5}{B}に。
DGH: 《虚空》から《大渦の脈動》にして変容を5マナに戻す。
DGH: そして変容を{5}{B}に戻す。
DGH: {2}{B}{B}3/3→{1}{B}{B}3/1。
JDR: これが残響するのを見てかなり驚いた。繰り返し使える除去呪文はトークンの群れに対して不利であるべきだと感じる。
DGH: 《大渦の脈動》から《英雄の破滅》に。
DGH: 瞬速を追加、コストを1マナ重く。3/1→3/3にして変容コストから色マナを1つ減らしたので青黒デッキでキツすぎにはならないかな?

 《哀歌コウモリ》は『イコリア』のプレイデザイン会議で最も議題になったで賞に輝きました。私たちは変容すると相手のクリーチャーを除去できる黒のレアの変容クリーチャーが欲しかったのですが、その詳細を決めるのはとてつもなく難しいことが判明しました。変容誘発に頼ったデザインは、毎回変容するたびに利益を稼ぎ始めるので、本質的に雪だるま式です。その利益が対戦相手の何かを除去するという形でもたらされる場合、雪だるまは早く坂を転がり落ち、当たったときの被害が大きくなります。

 私たちはすぐに《哀歌コウモリ》の能力を選んだ数字のものを何でも破壊する(《虚空》)から同じ名前のものを全部破壊する(《大渦の脈動》)に変更し、そして最終的には1つだけ(《英雄の破滅》)に落ち着きました。私たちはその雪だるま性に制限をかけたいと考え、そして複数のものを一度に破壊できる可能性は全くその助けになりませんでした。この変更は雪だるまを抑える助けになりましたが、このコウモリにはまだ問題が残っていました。

 私たちは行き詰まりました。このコウモリは雪だるま式の除去能力にカードパワーが偏りすぎていたので、このカードが強い場合楽しいものではありませんでした。私たちには《哀歌コウモリ》を対戦相手をゲームから締め出さずに強化する方法が必要でしたが持っておらず、ある運命の日に瞬速をこのコウモリにつけるというアイデアを思いつきました。マナを立ててターンを返し、後で何をするか決めることができるというのはとても強力ですが、雪だるま式のゲームにする能力を直接強化するものではありません。ついに私たちはこのコウモリを楽しい方法で強化する手段を手に入れたのでした。


さまよう怪物、イダーロ

DGH: コーリーの新作。
DOUGB: これは「さまよう怪物」として楽しい。.
ELI: リミテッドでこれが1枚あって、これと《》2枚が初手に来たら、3ターン目にタダで出せる確率は0.018%のようだ。
AP: 唱えるのが今より難しくなってもトランプルか他のキーワードが付いたらクールだと思う。
CJB: 同意。このカードをもっとクールにするためのことはとても見逃しやすい。大きな見返りのための重いコストはクールだと思う。
DGH: サイクリングを{1}{R}に、素出しは7マナになった。
DGH: トランプルと速攻を追加、10/10→8/8。
MDT: 構築フォーマットで超楽しそうですね。 <3

 他のものよりも完成形が見えないカードというのがあります。イダーロのクールなところであるそのデザインの核は、最終的に戦場にたどり着いて対戦相手を粉砕し始めるまで、ゲーム中に領域から領域へと曲がりくねった道を進む巨大な怪物というものです。超すごいのですが、このアイデアは未回答の問題をたくさん残していきました。巨大って厳密にどれぐらい大きいの? どれぐらいの長さの旅路が一番楽しいの? こいつをドアから押し出すのにどれぐらい強く押せばいいの?

 最後のはちょっと抽象的過ぎかもしれませんが、ほとんどの部分はプレイデザインが答えを出すのに適任である類の質問です。最初に行われた変更はイダーロの探索を少し達成困難にすることでした。私たちはプレイヤーがイダーロを引いて毎回すぐにサイクリングしたいならばある程度展開を犠牲にしなければならないようにしたいと考え、そしてそれは1マナだけのサイクリング・コストでは達成できませんでした。その後で、私たちはイダーロをより意味のある強さにすることでその探索を達成する価値があるようにしました。大きな数字は印象的かもしれませんが、速攻とトランプルをつけたほうがゲームのほとんどの状況でこの探索を達成した報酬を意味のあることを保証するという面において良い仕事をします。


巨大猿、コグラ

DGH: 新作トップダウン。
PC: 構築フォーマットの選択肢としては超エキサイティング、って感じじゃないね。もうちょっとテコ入れできると思う。
MMAJ: 《ギャレンブリグ城》があるので強化できるとは思わない。今のでかなり満足だ。
PC: 私が間違ってた。このカードは凶暴なビートダウンをくれたよ。
ABRO: 7/6でダメージを与えたら《帰化》誘発→6/6で攻撃誘発で《帰化》。
ABRO: 6/6→7/6 FFL。
DGH: 格闘を「最大1体」に変更。
TABAK: その変更をします。コグラは彼の接死クリーチャーへの恐怖をを踏まえて適切に振る舞えるようになりました。

 プレイデザインはいろいろなことをしますが、主な任務はプレイ環境を楽しくバランスの取れたものに保つことです。これはつまりスタンダードに同時に存在するカードすべてを記録し、他のセットのカードとの強力な相互作用を常に探すということです。《巨大猿、コグラ》を5ターン目に出すために《ギャレンブリグ城》を使うことは、プレイデザインが注目したそのような相互作用の1つです。

 ランプ呪文を唱えるためにターンを消費することなく、6マナ域を予定より早く出すことはとても強力で、これは私たちがコグラの攻撃的なカード・パワーを厳しく取り締まらないといけないということでした。たとえばトランプルは論外です――私たちは5ターン目のコグラがそれ単体でゲームを簡単に終わらせてしまうようにはしたくありませんでした。代わりに、このカードの多用途性を少し高め、エンチャントかアーティファクトを破壊する能力を戦闘ダメージの誘発ではなく攻撃したときの誘発に変更しました。結局のところ、トランプルを持たない緑の大型クリーチャーは常にチャンプブロッカーに対する弱さを抱えていて、そして私たちはブロッカーに7点のライフとエンチャントかアーティファクトの両方を守ることができるようにしてこの問題を悪化させたいとは考えませんでした。


スプライトのドラゴン

VERHEYG: これは常にカウンターが置かれるので、正方なスタッツであるべき? (これはたまにあることなので必要ではなく、ただ質問してみただけです。これが2/2だとどれぐらい無茶苦茶?)
EEF: 良さそうですね!
ABRO: 構築フォーマット向けに2/2?
DGH: 速攻を追加。1/2→1/1。
ABRO: さらに良くなった。

 もともとのバージョンの《スプライトのドラゴン》はリミテッドでいい動きをする楽しいカードでした。私たちがこれを構築フォーマットで楽しんでみようとしたとき、満足行くものよりも少し弱いことがわかりました。カードを1つのフォーマットでだけ強化して他では強化しない方法を見つけるのはマジックのデザインにおいて最も挑戦的なことの1つであり、そしてたくさん起こります。単純なスタッツの増加は《スプライトのドラゴン》をリミテッドにおいて私たちの求めるよりも強くしてしまったので、私たちはこれをリミテッドよりも構築フォーマットで強くするつまみを探しました。《スプライトのドラゴン》に速攻をつけることで、我々は両方のフォーマットで求めていたパワー・レベルに同時にダイヤルを合わせることができました。


威厳あるレオサウルス

BRYAN: これは構築フォーマットでもいけそうな感じのカードだが、キーワードを使った構築フォーマット向けカードなしでは変容するのが難しすぎる。今は記録を残しておくのが正解かもしれない。
BRYAN: 新しい変容の仕組みで間違いなく構築フォーマット級カードになった。
DGH: 変容コストを1マナ重く。
DGH: 「他の」にしてナーフ。
DGH: {1}{R}{W} 3/2→{R}{W} 2/2
ABRO: びっくりマーク猫。

 プレイデザインが変容のようなメカニズムを構築フォーマットで楽しいものにする仕事をしているときに心に留めていることの1つは、私たちにはさまざまな事柄ができるさまざまなカードが必要だということです。私たちはそのメカニズムを持ったどんなデッキでも楽しくて役に立つ独立したカードが必要ですし、そのメカニズムを持っていてデッキの軸になるように訴えかけるカードが必要ですし、それとは全く異なる方法でデッキの軸になるように訴えかけてくるカードが必要です。すべての変容を持った基柱カードが同じようなことをして同じデッキに向かっていたならば、最終的にそのデッキの最高のバージョンが発見されプレイするべき「正解」のカードが決まってしまうでしょう。

 では《威厳あるレオサウルス》の話に入りましょう。変容したときの誘発の仕組みにより、ほとんどの変容のデザインはゲームに勝つために同じクリーチャーに重ねて1体の巨大で強力なクリーチャーを作ることを奨励します。《威厳あるレオサウルス》はその変容誘発によってクリーチャーの横並べを奨励することでそれに立ち向かいます。《威厳あるレオサウルス》の入ったデッキをプレイしたいなら、トークンを出してアグレッシブに行くような、他の変容デッキが必ずしもやりたいとは限らないようなことをやってみたいということになります。方向性の異なる変容カードを作ることは、メタゲームの掘り下げが進んでも変容カードを新鮮で楽しいものにする助けとなります。


滑りかすれ

DGH: 新作。
DGH: モード式に変更――ドローかライフ喪失。
ABRO: ドローかライフ喪失→1枚ドローするだけ。
ABRO: ドローにマナの支払いを追加。
TABAK: 明らかな読み間違いを減らすために「他の」を追加。
DGH: {1}{U}{B}→{U}{B}{B}。テキストを元に。

 環境にすでにあるデッキに収まるカードを作ることは難しいことです。「選択肢を作って、強化をせず」が標語です。古いデッキに特定のデッキは興味を示すが他のデッキはそうではない新しい選択肢を与えることができた場合は素晴らしいのですが、以前にあった選択肢より明確に優れている新しい選択肢を与えることはあまりクールではありません。

 プレイデザインの目標は《滑りかすれ》を純粋な「ディミーア・フラッシュ」デッキのパーツとして、そして「シミック・フラッシュ」のプレイヤーがこれをプレイしたい場合「ゼイゴス・フラッシュ」へと移行するための選択肢としての両方でエキサイティングなものにすることでした。うまくいけば、メタゲームは回ってタイミングによって異なるバージョンのフラッシュ・デッキが最強とされるようにになります。

 これは命中させるのが大変な的であり、私たちが試した最初のバージョンの《滑りかすれ》ではうまくいきませんでした。「シミック・フラッシュ」に《滑りかすれ》をプレイするのに十分な黒マナを追加することは、黒を足すという選択に重みがあると感じさせるのに十分なデッキ構築面でのコストではないことが分かりました。いくつがの解決策を試してみた後、私たちは最終的に《滑りかすれ》のプレイを選択することは選択肢の1つであり、当たり前のことではないことを確かにするために、2つめの黒マナ・シンボルを追加することにしました。


獲物貫き、オボシュ

DGH: 発生源はCMCを持っているのか。
DGH: 我々が言いたいのは「点数で見たマナ・コストが偶数の発生源がパーマネントかプレイヤーにダメージを与えるなら、それはそのパーマネントかプレイヤーにその点数の2倍のダメージを与える」だ。
ELI: 機能する、それでいい。
ABRO: FFLは3HH 3/5への変更を提案している。
DGH: FFLの提案を採用。

 相棒メカニズムはプレイデザインに、それらに変更を加えるのがいかに難しいかというだけではなく数多くの独特な課題をもたらしました。普通はカードのマナ・コストを変更するのは大変なことではありません。プレイデザインが5マナのバージョンの《獲物貫き、オボシュ》を試したいところまでたどり着いたとき、私たちはすべてを変更しなければいけませんでした。

 オボシュはもともと偶数の相棒でした。私たちは4マナでテストを始めて、そこから違う割合を何回か試し、最終的に私たちが満足できる4マナのバージョンはないと判断しました。私たちは5マナを試したかったのですが、5は奇数であり物事がややこしくなります。オボシュを私たちの望む形にするということは、相棒の偶数奇数を入れ替えねばならないということで、それはつまり私たちが組み上げてきたデッキをすべて1からやり直さなければいけないということでした。とはいえこの入れ替えは成功して、オボシュと偶数の相棒は少しの調整を行った後に私たちが満足するものに落ち着きました。


孤児護り、カヒーラ

ELI: 各クリーチャーは必ず猫、もしくはエレメンタルなどでなければならないという意図?
DGH: そうだが? デッキに入っている各クリーチャーは少なくとも1つはこれらのタイプを持っていなければならないというのが意図だ。
ELI: しかし同じタイプである必要はない(1つはナイトメア・猫、もう1つは猟犬・エレメンタルでいい)。
DGH: その通り。
SKOLNIJ: ノンクリーチャー・デッキで《灰色オーガ》のためにサイドボードのスロット1つと情報を公開するのはいいの? どちらも実際にコストだ。まあメタにカヒーラのデッキがいれば情報の分はどっか行くけど。
MJJ: ノンクリーチャー・デッキには大量のトークンを入れられるから、常にオーガ1匹というわけじゃない。
ABRO: あなたがコントロールする他のクリーチャー+1/+1する2/2→リストに載ってるやつを+1/+1する3/2。

 プレイデザインはデザイン過程全体を通して相棒を「ごまかす」行為に大きな注意を払ってきました。ノンクリーチャー・デッキが《孤児護り、カヒーラ》にアクセスできることについては、私たちは最初から考えていました。良い点と悪い点を測った後、私たちはこれは構わないと判断しました――しかし、サイドボードのスロットを割く価値があるのかどうかという問いができるだけ興味深いものになるように、その価値をできるだけ低くしたいと考えました。つまり、私たちは相棒クリーチャーを積極的にデッキの軸にしないプレイヤーにとっては単なるフレンチバニラ・クリーチャーにできるだけ近づけたいと思っていたということです。

 私たちがプレイしていた最初期のバージョンのカヒーラは、相棒の条件に書かれていたクリーチャーだけでなく、他の自軍のクリーチャーすべてを強化していました。それをプレイした後、私たちはノンクリーチャーのコントロール・デッキであっても、二次的なトークン・クリーチャーが多く入りすぎていて満足できないと判断しました。最終的に、私たちはカヒーラが強化するのは猫、エレメンタル、ナイトメア、恐竜、ビーストだけにしました。


猟の頂点、スナップダックス

AF: 大量の《稲妻のらせん》の繰り返し。
MMAJ: めちゃくちゃ強そうなカード。監視リスト入り――手札からの9点ダメージはゲームの序盤において大きなプレッシャーになる。
ABRO: クリーチャーかプレインズウォーカーかプレイヤー→クリーチャーかプレインズウォーカー。
DGH: 変容誘発のらせんは4点になって、タフネスは5に上がった。
MJJ: 対戦相手のコントロールするやつ? (今は空の盤面だと自分に当たる)
ABRO: いい指摘だ。

 初期バージョンの《猟の頂点、スナップダックス》は、実際にゲームの早すぎる段階で手札からの攻めが強すぎました。こういうことはプレイデザインの初期にはよくあることで、プレイデザインは毎日こういうことを見つけています。ここで私が強調しておきたいのは、スナップダックスが与えるダメージを増やしたのと同時にタフネスを上げたという微妙な組み合わせについてです。

 私たちは先にカードをプレイしたほうが負けるミラーマッチにおいての「瞬き禁止」プレイパターンを避けようとしました。私たちはこのような動きを《火炎舌のカヴー》のようなカードで見たことがあり、それらがゲームを遅くさせ一般的に楽しいものではないことを発見しました。私たちはこの問題を時間をかけてさまざまな方法で解決してきました。《栄光をもたらすもの》の「ドラゴンでない」は同じ現象に対する別の解決法です。《猟の頂点、スナップダックス》の場合は、与えるダメージよりもタフネスを1高くすることでこの問題を回避することができました。


悪魔の職工

DGH: 新デザイン。象徴的なカードを黒にアレンジしたい。とても緑っぽいが、これに関するすべては黒っぽく感じるだろうか?
DGH: 起動できるのは自分のターンだけに。
DGH:コストにマナを追加して「X以下」に移すようテンプレートを変更。
DGH: 黒緑? もしくは黒緑混成か。
DGH: 黒緑混成。 コンセプトが緑で機能するかダグに確認を。
DGH: 0/1→1/1。
DSJ: ソーサリー速度のほうが好みだ。「あなたのターン」はクリックの増加と不愉快な戦闘につながるだけで、機能的な向上につながらない。
ABRO: ドナルドに同意する。ソーサリー速度がいいだろう。

 私たちがマジックのカードの反復工程において常に意識している事柄の1つは、不必要な複雑さを削減することでです。複雑になるカードはありますが、必要以上に複雑になるカードはあるべきではありません。繰り返しライブラリーから探せるカードとして、《悪魔の職工》は本質的にかなり複雑なカードであり、私たちは頑張ってその複雑さをできるだけ低く抑えました。

 私たちがここで最初に複雑さを減らそうとしたのは、《悪魔の職工》のスタッツでした。クリーチャーが自身のスタッツを強化する効果を持っている場合、そのクリーチャーの基本のスタッツが正方(マジック用語でパワーとタフネスが同じ数字であること)だと常に処理がしやすいことを私たちは発見しました。これはすごいことのようには見えないかもしれませんが、ゲーム中に何度もクリーチャーの大きさを数えるときすぐわかるようになります。《悪魔の職工》のパワー・レベルが1/1でも問題ないと分かると、すぐに私たちはその変更を行いました、

 その後、次に私たちが目を向けたのは《悪魔の職工》の能力のタイミング制限でした。私たちはこのカードを相手にしたときの強さを制限するために、自分のターンにだけ起動できるところから始めて、最終的にはソーサリーを唱えられるときにだけ起動できるようにしました。対戦相手が探すことができるものを全部考えるのは何もなくても難しく、戦闘に影響を与える可能性があるどんなクリーチャーを探すことができるかを気にするのはさらに難しいことです。

 それでは、本日はここまでです。来週またMファイル『イコリア:巨獣の棲処』編の後編でお会いしま……っと待って、これ何? ドナルド・スミス・ジュニアがもう1つ話したいことがある? 《光明の繁殖蛾》がどのようにしてこうなったかについての話? わかりました、頑張って、ドナルド!


光明の繁殖蛾》(文:ドナルド・スミス・ジュニア)

 《光明の繁殖蛾》、またの名をモスラ。おそらくカードそのものよりも、どのように我々がこれにたどり着いたのかという話のほうが興味深いだろう。《光明の繁殖蛾》は私がこのセットの仕事をするかなり前からファイルの中に鎮座していた。それはシンプルながらも機能的なカードであり、機能していた。間違っているところは何もなかった。誰も怒っていなかったし、我々はそれをそのまま印刷することができたし、そうしていたならいい感じの白いカードとしてある程度使われただろう。

 しかし思いも寄らない何かが気になった。このカードのクリーチャー・タイプ、そしてアート以外だけを見たとき、私はこれが蛾だとは感じなかった。これは天使でもいいし、クレリックでもいいし、さらには兵士であってもよかった。

 私はこのチャンスを逃すつもりはなかった。すべてのセットに蛾がいるわけではないし、ましてや神話レアとなればもっと少ない。これはマジックでの蛾のメカニズム的特徴を今後数年、おそらくは蛾の頻度を考えると数十年に渡って固めるチャンスだ。

 さて、デザインし直す必要のないカードをデザインし直すにはどうすればいいだろうか? なにか特別なことをしなければならない。私は1週間ほど打ち込んでみたが、壁に突き当たってしまった。私は完璧に良いものである古いデザインと入れ替えることを正当化できるものを何も思いつかなかったのだ。私は思いをTwitterに載せてみた。

「蛾って何するの?」

 「蛾って何するの?」それが疑問だった。私はTwitterだけでなく、奈落全体にも問いかけた。私は机を渡り歩き、同僚たちに蛾って何をすると思うか問いかけた。マジックのカードで答えた人もいたし、生物学的定義を教えてくれた人もいたし、モスラの伝承を説明してくれた人や、ただ一言「照明」とだけ答えた人もいた。何も思い浮かばなかったので、私はこの『イコリア』の神話レアの蛾をデザインし直そうとしていること、そして負けて、やられて、助けが必要であるということを認めた。

 彼らは興味を持ってくれた。「蛾って何するの?」は強力な質問であり、研究と創造的な過程を促した。突如として、アリ・ニーエはウィキペディアの「蛾」のページを開き、コーリー・ボーウェンはウィキペディアの「モスラ」のページを開き、あるデザイナーはGathererで蛾と蛾に関係するカードを検索し、別のデザイナーはYouTubeで蛾の動画を見始め、さらに別の誰かは「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」のモスラ全シーン集を見始め、そしてヨニ・スコルニクは恐らくその狂気を無視するためにヘッドホンを付けてスプレッドシートに黙々と取り組んでいた。

 いくつかアイデアが浮かび上がったが、カードのデザインには時間がかかった。あるアイデアはこのセットの別のカードに似すぎていた。別のアイデアは(ドイツ語に翻訳したときに)カードに収まりきらなかった。繭・トークンは素敵だったが、このセットにはトークンを追加するスペースはもう残っていなかった。あのデザインは後期にフューチャー・フューチャー・リーグに導入するのはリスクが高すぎる。私はこのデザインが好きだが、我々全員が十分に「蛾っぽい」と感じられないのではないか? 1時間近くの間デザインが次々に投げ込まれ、それからヨニはヘッドホンを外した。

「不飛」

「何だって?」

「不死に似ているが、飛行カウンターを置く。これが君のクリーチャーに不飛を与えたとしたら?」

 

(Tr. Takuya MASUYAMA / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)

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