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Making Magic -マジック開発秘話-
『ホライゾン』を広げる:エルドラージ編
2024年6月3日
『モダンホライゾン3』のプレビュー記事を2つ(その1、その2)お届けしたので、次はカード個別のデザインの話だ。今回はいつもと少し異なるものにする予定である。まず今週は注目すべきエルドラージ・カードを取り挙げ、来週はエネルギー・カードを取り挙げる。それから、取り挙げるカードには元ネタがあるものを選ぶ。そしてそれらの元ネタについてもデザインの物語を伝え、そこからどのような着想を得て『モダンホライゾン3』のカードになったのか語っていこう。
《虚空漂い》
《虚空漂い》のデザインは、2005年の『ローウィン』ブロックに端を発する。『ローウィン』はタイプ的テーマのセットであり、当時の私は普段と異なる方法でそれに取り組んでいた。スペルに関わるメカニズムが必要だったため、「タイプ的テーマに合う」スペルを用意する方法についてブレインストーミングを行ったのだ。(最終的にこの方法を実現した1つが、今では「同族」と呼ばれるカード・タイプ「部族」であった。)私はまず自身に問いかけた。「クリーチャーに変わることができるスペルはどうか?」ゴブリンになれる直接火力を想像してみろ、と。
このアイデアを元にしたメカニズムの初期案は、マナを支払うことでクリーチャーになれるインスタントやソーサリーだった。面白いことに、私が最初に思いついたのがクリーチャーになる《空民の助言》だった(のちの『基本セット2010』で《予言》となる)。{2}{U}でカードを2枚引くソーサリーだ。最初のデザインは以下の通りである。
〈鼓舞する本質〉(Ver.1)
{1}{U}{U}
部族・ソーサリー ― エレメンタル
2/2
カード2枚を引く。予示3(この呪文が解決されるに際し、あなたは{3}を支払ってもよい。そうしたなら、これはクリーチャーとしてプレイされる。)
あなたがカード1枚を引くたび、宝物1つを生成する。
--------------------------------飛行
《空民の助言》より強力なため{2}{U}で作るわけにはいかないと見て、{1}{U}{U}にした。それからシンプルなカードにしようと思い、クリーチャー側も我々がよく使う《風のドレイク》、つまり飛行を持つ2/2にした。《風のドレイク》のコストは{2}{U}だが、はじめに青マナを2点支払っているため、追加分は{3}にした。ここで使われている「予示」という言葉は、何年も後に『運命再編』にて再利用することになった。
私はこのデザインをルール・マネージャーのもとへ持っていった(当時はマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebが務めていた)。そのときの我々の会話を(今風の言葉で言えば)「盛った」内容が次の通りである。
私:どう思う?
ゴットリーブ:「キッカー」したらソーサリーでありクリーチャーでもあるってこと?
私:そうだ。
ゴットリーブ:オーケー、こいつを唱えて、もう3マナ支払う、と。そしたらどうなる?
私:飛行を持つ青の2/2のクリーチャーを得て、2枚引く。
ゴットリーブ:まず、そのクリーチャーは戦場に出るなり状況起因処理で死ぬ。戦場にあるソーサリーはそうなるから。
私:ソーサリーが戦場に出ても死なないようにルールを変えられないか?
ゴットリーブ:ルールが存在するのには理由がある。このメカニズムと関係ないソーサリーが戦場に出たらどうなる?
私:わかった。ではソーサリーからクリーチャーに変わるのは?
ゴットリーブ:いつ?
私:わからない。スタック上で?
ゴットリーブ:唱えるときにソーサリーじゃなきゃダメ?
私:《空民の助言》か、《空民の助言》と《風のドレイク》かを選べるようにしたい。
ゴットリーブ:それならできる。思ってたのと違うかもしれないけれど。
こうしてできたのがバージョン2だ。
〈鼓舞する本質〉(Ver.2)
{4}{U}{U}
クリーチャー ― エレメンタル
2/2
飛行
[カード名]が戦場に出たとき、カード2枚を引く。
削減3(このクリーチャーを{3}少ないコストでプレイしてもよい。そうしたなら、これが戦場に出たとき、生け贄に捧げる。)
問題を解決したのは、そのカードを常にクリーチャーにすることだった。マナ・コストをすべて支払わない場合は、生け贄に捧げるのだ。これで、戦場にあるソーサリーに関するルールを迂回できた。この時点で話をしたのはゴットリーブだけだったため、異なる形になったがコストは据え置きだった。このバージョンはルール上うまく機能した。私は次に、何人かのデベロッパーに見せてみた。
〈概念の滑空者〉(Ver.3)
{5}{U}
クリーチャー ― エレメンタル
2/2
飛行
[カード名]が戦場に出たとき、カード2枚を引く。
急送{2}{U}(このクリーチャーを{2}{U}でプレイしてもよい。そうしたなら、これが戦場に出たとき、生け贄に捧げる。)
まず、《空民の助言》のコスト設定にはゆとりがあることがわかった({2}{U}を支払うほどの効果ではないという意味である。無論{1}{U}よりは多く支払う必要があるが)。そのため「スペル」として使う場合のコストを{2}{U}にできた。カードのマナ・コストは{4}{U}{U}から{5}{U}と軽くなった。もうひとつの大きな前進は、元のコストから足したり引いたりする「キッカー」スタイルの方法は支払うべきコストをただ書き出すよりも難しいと判断したことだった。そのため{3}減らすと書くのではなく、能力のコストは{2}{U}であると伝えるように変更したのだ。こうして印刷されたのが、このカードである。
デベロップ・チームは最終的に、これのマナ・コストを{4}{U}に下げた。そしてクリエイティブ・チームがこのメカニズムの名称を「想起/evoke」に変更した。《熟考漂い》はこのセットで最高のカードの1つとなり、最高の想起クリーチャーとなり、数多くプレイされる人気カードとなったのだった。
それでは、これを元にした『モダンホライゾン3』のカードのデザインについて語ろう。
〈決心〉(Ver.1)
{1}{U}
インスタント
占術2を行い、その後カード1枚を引く。{E}{E}を得る。
《虚構漂い》の枠は、はじめはクリーチャーではなくスペルだった。エルドラージ・呪文ですらなく、エネルギーと結びつくものだった。(青はエルドラージとエネルギーの両方のテーマを持っているのだ。)このカードはドローの質を高めてから1枚引き、エネルギーも供給するという、多くの青のデッキに有用な1枚だった。
〈宿命的未来視〉(Ver.2)
{U}
インスタント
カード1枚を引く。諜報1を行う。
発掘1
デザイン・チームはこのカードからエネルギーの要素を取り除き、別の昔のメカニズムを探した。どのような経緯で発掘にたどり着いたのかは定かでないが、「モダンホライゾン」セットでは、ギルドのメカニズムを元の色以外で使うことが好まれている。だがプレイテストにて、発掘はこのカードに最適なアイデアでないことが示された。いやはや驚きである。
〈論理的主張〉(Ver.3)
{1}{U}
インスタント
呪文1つを対象とする。それのコントローラーが{1}を支払わないかぎり、それを打ち消す。その{1}が支払われたなら、調査を行う。
デザイン・チームは異なるアプローチを試し、打ち消し呪文でもあるドロー呪文を作り上げた。ここでは『イニストラードを覆う影』から「調査」メカニズムを採用している。
〈青の伝説〉(Ver.4)
{7}{U}
伝説のクリーチャー ― エルドラージ
7/7
[カード名]が戦場に出たとき、カード3枚を引く。
滅殺2
想起{C}{C}{C}{C}
そしてチームは、もう少し刺激的なものを試した。このドロー呪文がコモンではなくレアだったらどうだろうか?(最終的に他にコモンの枠が必要になり、このカードの枠と交換したのだと思う。カード枠のレアリティが変わるのは、そういう理由が多い。) そしてエルドラージだったらどうか?と。このときになって初めて、このカードは「想起」を持つに至った。エルドラージのフレイバーを持たせるために、「滅殺」も加えられた。
〈コジレックの信奉者〉(Ver.5)
{5}{C}{U}
伝説のクリーチャー ― エルドラージ
4/4
欠色(このカードは無色である。)
この呪文を唱えたとき、占術3を行い、その後カード1枚を引く。
滅殺1(このクリーチャーが攻撃するたび、防御プレイヤーはパーマネント1つを生け贄に捧げる。)
想起{C}{C}(この呪文を想起コストで唱えてもよい。そうしたなら、これが戦場に出たとき、これを生け贄に捧げる。)
デザイン・チームはエルドラージのアプローチを気に入り、そちらへ向かうことにした。コストは無色マナと青マナが混ざるという、これまでやったことのないものになった。さらに「欠色」も与えられた(おそらく実際には、1つ前のバージョンでついていたものと思われる)。「カード3枚を引く。」は「占術3を行い、その後カード1枚を引く。」に調整され、その分「想起」コストも下げられた。「滅殺2」も「滅殺1」に変更されたが、これはプレイテストを経て滅殺がいかに心を壊すものなのか思い出したのだと思う。(このセットには滅殺2を持つカードが2枚と滅殺Xを持つカードが1枚あるが、いずれも簡単に扱えるものではない。)
〈虚構漂い〉(Ver.6)
{6}{C}
伝説のクリーチャー ― エルドラージ・エレメンタル
4/4
欠色(このカードは無色である。)
この呪文を唱えたとき、カード2枚を引く。
飛行
滅殺1(このクリーチャーが攻撃するたび、防御プレイヤーはパーマネント1つを生け贄に捧げる。)
想起{2}{U}(この呪文を想起コストで唱えてもよい。そうしたなら、これが戦場に出たとき、これを生け贄に捧げる。)
このカードが《熟考漂い》を思わせるものになったのは、バージョン6に至ってからのことだった。《熟考漂い》に合わせて「スペル」として使う能力は「カード2枚を引く。」になり、「想起」コストは{2}{U}になり、エレメンタルにもなった。デザイン・チームはマナ・コストに無色マナを含める形を試したが、印刷されたバージョンでは不特定マナに変更された。
最後に、《虚構漂い》のアート指示をお見せしよう。
*** 無色のフレームでお願いします***
次元:特定の次元ではない
色:無色マナに関わるクリーチャー
場所:海上
意図:《熟考漂い》とエルドラージ(『戦乱のゼンディカー』226~228ページを参照)の要素を組み合わせた、新しいクリーチャーをデザインしていただきたい。228Aページに記載の画像を参考に始めて、海面上にいるそれへズームしていくような形で。《熟考漂い》のような羽や、赤い背びれがあるかもしれない。
焦点:飛行するエルドラージ・エレメンタル
雰囲気:幻覚を見ているような素晴らしき不思議さ
《多産攻撃の司令官》
《多産攻撃の司令官》の物語の始まりは、『スカージ』のデザイン中(2002年開発開始)に遡る。『スカージ』は、初めてタイプ的テーマを大きく取り挙げた『オンスロート』ブロックの第3セットである。さて物語は、開発部全員のデスクがある社内エリア「奈落/The Pit」で始まった。現社屋から道を1本挟んだ反対側にあった、旧社屋でのことである。私が他の仕事に取り組んでいるときに、当時の開発部メンバーであるワース・ウォルパート/Worth Wollpertから声をかけられた。
ワースは当時の「奈落」で私の隣の席だった。彼は『スカージ』のカードのデザインに取り組んでおり(このセットのデザイン・チームは、彼とリード・デザイナーのブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanの2人だけだった)、私に意見を求めたのだった。そのとき彼が作っていたのはゴブリン・トークンを複数体生成するゴブリンだったのだが、それはやや精彩を欠いており、特別な赤らしさがなかった。私は彼に、「ゴブリンを生け贄に捧げる」能力を加えるよう提案した。カラー・パイにおいて赤が持ちやすいものであり、生み出すトークンに第2の目的を与えるものだった。さらに、ゴブリンが生け贄になりやすいのは周知のことだ。そこでワースは《有象無象の大砲》に注目した。『ウルザズ・デスティニー』で私が作ったこの1枚は、おそらくフレイバー・テキストが特に有名だろう。
ではゴブリンを生け贄に捧げて、1つを対象にダメージを与えるというのはどうだろうか? 実に赤らしい。それが結実したのがこのカードである。
《熟考漂い》と同様に、《包囲攻撃の司令官》は収録セットで最も強力で人気を集めたカードの1つとなり、トーナメントの舞台でも多く見受けられたのだった。
それでは、《多産攻撃の司令官》のデザインを見ていこう。
〈ロケット・ゴブリン〉(Ver.1)
{1}{R}
クリーチャー ― ゴブリン・狂戦士
2/2
[カード名]や他のクリーチャーがあなたのコントロール下で戦場に出るたび、対戦相手1人と激突を行う。あなたが勝ったなら、ターン終了時まで、そのクリーチャーは速攻を得る。
この枠はゴブリンのものであり、まだエルドラージのものではなかった。最初のバージョンでは、『ローウィン』初出の「激突」メカニズムが使われていた。たしかこのカードは、エリック・ラウアー/Erik Lauerが展望デザインの初期に、既存のメカニズムすべてについてカードを1枚ずつ作成しようとしていたときのものだったと思う。激突は、我々開発部にとっては心躍るものだが多くのプレイヤーにすこぶる嫌われているメカニズムであることで、我々の中で有名だった。(そしてもちろん、その原因の多くは我々のやり方にある。)
〈ロケット・ゴブリン〉(Ver.2)
{1}{R}
クリーチャー ― ゴブリン・狂戦士
2/2
戦闘フェイズの開始時に、このターンに少なくとも2枚の土地があなたのコントロール下で戦場に出ていた場合、ターン終了時まで、あなたがコントロールしているクリーチャーは速攻とトランプルを得る。
次のバージョンでは名前つきのメカニズムは使われず、当時のデッキ・アーキタイプの1つと結びついたものになった。マナ・カーブ上の位置も機能も前のバージョンと同様だが、印象に残らず強い郷愁も呼ばないものだった。
〈ロケット・ゴブリン〉(Ver.3)
{1}{R}
アーティファクト・クリーチャー ― ゴブリン
2/2
{C}: ターン終了時まで、あなたがコントロールしているクリーチャーは速攻とトランプルを得る。
ここで初めて、無色の要素が加えられた。興味深いことに、まだエルドラージではなくゴブリンのままである。このことから、デザイン・チームはエルドラージのフレイバーをつけずに無色マナ・コストを使うことを試してみたのだろうと私は思った。効果は引き続き、速攻とトランプルを与えるものになっている。
〈鯨波エルドラージ〉(Ver.4)
{2}{C}{C}{R}
クリーチャー ― エルドラージ
6/6
[カード名]が攻撃するたび、ターン終了時まで、他の攻撃クリーチャーは+2/+0の修整を受ける。
ここから、デザイン・チームはこのカードをエルドラージにする方へ向かい始めた。ゴブリンからエルドラージに変更され、マナ・コストに無色マナが含まれるようになった(《虚構漂い》と同様に、デザイン・チームは無色マナでやりたいことを試していた)。そしてサイズもコストも大きくした。能力も序盤に欲しいものから後半に欲しいものに変わった。
〈戦闘生成エルドラージ〉(Ver.5)
{3}{C}{R}
クリーチャー ― エルドラージ
6/2
[カード名]が死亡したとき、「このクリーチャーを生け贄に捧げる:{C}を加える。」を持つ無色の0/1のエルドラージ・落とし子・クリーチャー・トークン4体を生成する。
自軍との相互作用を持つのではなく、それ単体で脅威となるものはどうだろうか? 死亡時誘発の能力を持たせることで、より攻撃に向かわせやすくなっている。サイズも6/6から6/2にしたことで、死亡してトークンを生成する回数が増えるだろう。無色の0/1のエルドラージ・落とし子・クリーチャー・トークンは、このセットの主要なトークンの1つである。
〈戦闘生成トリナクス〉(Ver.6)
{3}{R}{R}
クリーチャー ― エルドラージ・トカゲ
6/2
欠色(このカードは無色である。)
[カード名]が死亡したとき、「このクリーチャーを生け贄に捧げる:{C}を加える。」を持つ無色の0/1のエルドラージ・落とし子・クリーチャー・トークン3体を生成する。
マナ・コストから無色マナが消え、エルドラージと結びつけるために「欠色」が与えられた。さらにフレイバーを少々加えるため、トカゲのクリーチャー・タイプも与えられた。エルドラージのカードには、『イニストラードを覆う影』や『異界月』で見受けられたようにエムラクールの影響による変異を受けたものもあるのだ(イニストラード特有のものではないが)。そして生成するトークンの数が4体から3体に下げられた。
この段階で、デザイン・チームのメンバーからこのカードをエルドラージ版《包囲攻撃の司令官》にするというアイデアが提案された。クリーチャー・トークンを生成するのは死亡時誘発ではなく戦場に出たときの誘発型能力になり、それらを生け贄に捧げて起動する能力が加えられた。マナ・コストと能力の起動コスト(赤マナではなく無色マナという違いはあるが)、起動型能力の効果、そしてパワーとタフネスも、すべて《包囲攻撃の司令官》と揃えた。このカードは、エルドラージ・落とし子・トークンを生成する他のカードとも相性の良い1枚に仕上がったのだった。
《多産攻撃の司令官》のアート指示は以下の通り。
*** エルドラージのフレームでお願いします***
舞台:特定の次元ではない
色:無色のクリーチャー
場所:岩場
行動:エムラクールの血統であるエルドラージ・ゴブリンを描いていただきたい。ゴブリンの再デザインに関する文書を参考にゴブリンをデザインし、そこへ添付をもとにエムラクールの影響による変異を加えること。そのエルドラージ・ゴブリンの背中から生えた触手が、より小さなエルドラージ・ゴブリンをカタパルトのように放り投げている。背景には他に2体のエルドラージ・ゴブリンが映っており、自分が放り投げられる順番を今か今かと待ち望んでいる。
焦点:大きめのエルドラージ・ゴブリン
雰囲気:生ける弾薬
《荒景学院の戦闘魔道士》
次なるカードの物語は、1998年の『インベイジョン』のデザインが始まった頃に遡る。私の父について語った記事において、このセットのデザインがネバダ州のタホ湖にある父の家で始まったことを書いた。ビル・ローズ/Bill Rose率いるデザイン・チームには、私とマイク・エリオット/Mike Elliottが所属していた。そしてデザインの第1週において、ビルが「キッカー」と呼ぶ新たなメカニズムについて切り出した。
「キッカー」は汎用性が非常に高いだけでなく、多色ブロックにも適していた。キッカー・コストは元の呪文の色以外でも設定できたからだ。マイクと私はそのアイデアを取り入れて、発展させていった。『インベイジョン』ブロックは「版図」のようなものが示すように「可能な限り多くの色をプレイする」テーマであり、マイクと私は「異なる色のコストが設定された複数のキッカーを持つカード」というアイデアを思いついたのだった。
マイクは「戦闘魔道士」を作り上げた。それぞれが戦場に出たときの能力のコストとなる、異なる2色のキッカー・コストを持つ単色のクリーチャーである。私は「ボルバー」を作り上げた。それぞれがそのクリーチャーに能力と+1/+1カウンターを与える、異なる2色のキッカー・コストを持つ単色のクリーチャーである。キッカー・コストごとに+1/+1カウンターの数を異なるものにすることで、そのクリーチャーがどの能力を持ったのか伝えられるようになっていた。
マイクと私は『インベイジョン』でこれらのアイデアを提案したものの、ビルはこのブロックの後半で「キッカー」にひねりを加える役目にする方がうまく機能すると考えた。そして戦闘魔道士とボルバーは非常に似通っていたため、片方を『プレーンシフト』に、もう片方を『アポカリプス』に入れることにした。戦闘魔道士の方が、戦場に出たときの効果は持つもののその後はただの2/2クリーチャーという「実質バニラ」なシンプルなものであったため、こちらが『プレーンシフト』に採用される運びとなった。『プレーンシフト』が『インベイジョン』と同じく友好色中心のセットであり、『アポカリプス』が対抗色中心のセットであったことは、似通っていた戦闘魔道士とボルバーの距離を置く助けになった。こうして、戦闘魔道士は好評をもって受け入れられたのだった。
そこから着想を得たのが、《荒景学院の戦闘魔道士》である。
〈稲妻エルドラージ〉(Ver.1)
{3}{C}
クリーチャー ― エルドラージ
4/2
速攻
紛争 ― あなたの戦闘ステップの開始時に、このターンにあなたがコントロールしているパーマネントが戦場を離れていた場合、ターン終了時まで、[カード名]は滅殺1を得る。
この枠は、はじめから無色マナ・コストを持つエルドラージ・クリーチャーの枠だった。初期のバージョンではより赤に寄っていた。それから『霊気紛争』の「紛争」メカニズムと『エルドラージ覚醒』の「滅殺」メカニズムが使われている。この2つの組み合わせは「雪だるま式」の気が強すぎた。有利な方がさらに有利になる後押しをし、不利な方が押し返すのは極めて難しかった。
〈稲妻エルドラージ〉(Ver.2)
{3}{C}
クリーチャー ― エルドラージ
4/2
速攻
[カード名]が死亡したとき、各対戦相手はそれぞれパーマネント1つを生け贄に捧げる。
次のバージョンでは、死亡時誘発で1回限りの滅殺のような能力が試された。悪くはなかったものの、特別エキサイティングでも何かを呼び起こすものでもなかった。このバージョンはしばらくファイルに残り続けたが、いずれは変えられる運命にあることは全員が知っていた。やがてセット・デザインは「緑青エルドラージ・ランプ」のアーキタイプを求めるようになり、多くのマナを消費できるカードを必要とした。理想を言えば、コストを選択できるカードが望ましかった。ゲームのさまざまな段階で使うことができ、多くのマナを確保できればさらに強くなるというカードである。
やるべき仕事はシンプルだった。追加でマナを注ぎ込めばそのクリーチャーが強化される、昔のメカニズムを探すことだ。「モダンホライゾン」セットに取り組む際は、解決策を求めてデータベースに目を通すのが常套手段となる。そして探査の目は『プレーンシフト』に及び、「戦闘魔道士」を捉えた。その効果は、今まさに築いているアーキタイプの緑青にふさわしいものであった。こうして、このセット唯一の戦闘魔道士が収録されることになったのだった(「モダンホライゾン」セットでは、サイクルから着想を得たカードが単体で作られるのもよくあることだ)。緑青のアーキタイプは速度が遅いため、盤面を築く時間を稼げるような回答手段が欲しかった。初期案の段階で、基本的な部分は印刷されたものと同じになった。
〈エルドラージの戦闘魔道士〉(Ver.3)
{1}{C}
クリーチャー ― エルドラージ・ウィザード
2/2
キッカー{G}、キッカー{1}{U}
あなたがこの呪文を唱えたとき、これがキッカー{G}でキッカーされていた場合、対戦相手がコントロールしていてアーティファクトやエンチャントである1つを対象とする。それを追放する。
あなたがこの呪文を唱えたとき、これがキッカー{1}{U}でキッカーされていた場合、対戦相手がコントロールしているクリーチャー1体を対象とする。それをオーナーの手札に戻す。
緑の能力はアーティファクトやエンチャントへの回答となり、青の能力はクリーチャーへの対処に役立つ。元の「戦闘魔道士」に合わせてマナ・コストを{2}{C}にすることが議論されたのは間違いないと思うが、異なる2色の能力を持つ2/2のクリーチャーというだけで戦闘魔道士の感覚を捉えられるとデザイン・チームは感じ、マナ総量は軽い方が良いと判断したのだろう。
このカードのアート指示は以下の通り。
*** 無色のフレームでお願いします***
次元:『戦乱のゼンディカー』におけるゼンディカー。ワールドガイドを参照。
色:無色マナに関わるクリーチャー
場所:タジーム(29~35ページを参照)
行動:元の「戦闘魔道士」の画像(添付を参照)を反映させた、エルドラージ・騎士をデザインしていただきたい。221ページ記載のエルドラージを参考に始めて、馬と交わるイメージで。元画像と同様に、後ろ足で立ち上がるようなドラマティックな姿勢を見せること。添付の画像に乗り手はいないが、このエルドラージにはおそらく頭が2つあると思われる。
焦点:エルドラージの「騎士」
雰囲気:騎士の歪んだ姿
(無)色とりどり
本日はこれで以上だ。いつもの通り、この記事や本日取り挙げられたカード、それから『モダンホライゾン3』全般に関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、再びカード個別のデザインを語る日にお会いしよう。次はエネルギー関連のカードだ。
その日まで、あなたが『モダンホライゾン3』をプレイしながら内なるエルドラージに触れますように。
(Tr. Tetsuya Yabuki)
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