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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

ゲーム開始

Mark Rosewater
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2024年2月20日

 

 マジック:ザ・ギャザリング『Fallout』プレビューへようこそ。『Fallout』統率者デッキについては、リード・デザイナーのアニー・サルデリス/Annie Sardelisより別途、彼女と彼女のチームがどのように開発に取り組んだのかについての詳しい記事をお送りするため、私は当時を振り返りつつ、もっと全般的に「ユニバースビヨンド」のデザインについて語っていこうと思う。

まったく新しいゲーム

 我々が「ユニバースビヨンド」製品に合わせたい知財を探すときは、2つのカテゴリに分けられていく。1つは「ストーリーベース」の知財で、人々がその知財の物語を読んだり、さまざまなメディア(映画やテレビ番組、本など)で視聴したりすることで知っているものだ。もう1つは「ゲームベース」の知財で、人々がそのゲームをプレイすることで知っているものだ。ゲームの知財はビデオゲームに限られるわけではないが、その製品に十分な数の顧客を集めるのに必要な規模を確保するために、ビデオゲームそのものでなくともビデオゲームの要素を持つものが普通だ。本日の記事では、ビデオゲームを題材に「ユニバースビヨンド」製品を作ることについて話そう。マジック:ザ・ギャザリング『Fallout』のプレビュー週なので、その統率者デッキを例に挙げていく。

 では、ビデオゲームを題材にした「ユニバースビヨンド」製品をデザインする上で、課題となるものは何か?

課題1――ビデオゲームは筋書きよりも体験が大切であること。

 ストーリーベースの知財では全員が同じ順番で同じ物語を体験するため、デザインの多くは物語中のシーンを捉えたものになる。ビデオゲームでは、すべてのプレイヤーが同じ体験をするわけではない。ゲームの本質とは、プレイヤーに選択肢を与え、プレイの方法をカスタマイズできるようにすることにある。つまりゲームの側面には、一部のファンには大いに馴染み深いがその他には馴染み深くない、というものもあるのだ。ゲームの構成によっては物語上の普遍的なシーンはあるかもしれないが、そのゲーム全体の物語における共有体験は非常に少ない。

 例として「Fallout」を取り挙げよう。このゲームでは、プレイヤーは世界滅亡後の生存者である。ゲーム内での行動はプレイヤーに委ねられる。どこへ行くか、どのアイテムを集めるか、誰を仲間にするか――すべてがプレイヤーの選択次第なのだ。プレイヤーごとに異なる道を探検するため、取り組むべきは普遍性ではなく、ゲームとの接点を作ることになる。プレイヤーである諸君が、「Fallout」の世界とのつながり方を選択するのである。例えば放射能は「Fallout」の重要な要素だ。このゲームでは体力の総量に加えて被ばく量もあり、放射性物質と接する際に大いに意識させられる。それは普遍的なものだ。「Fallout」をどのようにプレイしていても、関わらなければならないものなのである。このように、そのゲームにおける共通の相互作用を見つけることこそが、そのゲームらしさを捉える鍵となるのだ。

 ゲームとの接点に加えてもう1つ、我々が製品に組み込む必要がある重要な要素は、ゲーム・デザイン用語で「ゲームの反復」と呼ぶものだ。基本的に、ビデオゲームのデザインにおける目標は、プレイヤーに課題と報酬の両方が与えられる楽しいアクティビティの連続を見つけることにある。反復が良くできているゲームは全体を通してプレイヤーを楽しく前進させ、通常、その先には報酬が用意されている。報酬はスキルの強化や便利なアイテム、さらに大きな目標を達成する後押しになる情報などだろう。そしてそれがプレイヤーを次のアクティビティへ導き、また同様のプロセスへ向かわせる。新たな舞台や新たな脅威との戦いが待っているかもしれないが、基本的なプロセスは繰り返されていくのだ。通常は新たに手にしたツールや強化を活かして取り組む新たなものが追加され、それをクリアするとさらなる報酬が手に入ることになる。ゲーム体験の核心となるのは、広がり続けるゲームの反復(あるいはときおり起こる反復)なのである。

 「Fallout」は、オープンワールド・ロールプレイング・ゲームと呼ばれるゲームだ。ゲームが世界を用意し、プレイヤーはそこを探索する。その中でプレイヤーには、地図上の目的地となるクエストが与えられる。目的地を進んでいくことで、探索が促されるわけだ。例えば別の生存者から、フェラル・グールがはびこる放棄された工場の話を聞く。そこへ行ってグールと戦って全滅させると、グールの死体や工場から戦利品(アイテム)が手に入るだろう。そして手に入ったものを装備したり、それらを材料にクラフト(アイテムを組み合わせたり消費したりしてより良いアイテムを作成すること)したりして、さらなる探索に挑んでいく。探索、戦闘、アイテム収集が繰り返されているのだ。

 ゲームへの接点と同じく、ゲームの反復はそのゲームにおいて最も普遍的なものの1つである。「Fallout」の本質を捉えるために、我々はこういった反復を捉える必要があった。

 ゲームベースの知財を題材にすることとストーリーベースの知財を題材にすることの決定的な違いは、ゲームベースの知財では必ずしもそのゲームの特定のシーンを捉える必要はなく、それよりもそのゲームをプレイする中での普遍的な体験を捉えることが重視される点にあるのだ。

課題2――内容の選択が難しいこと。

 「ユニバースビヨンド」製品の有力な候補となるためには、その知財が比較的人気である必要がある。ビデオゲームの場合、それはつまり多くのゲームを擁する人気シリーズであることが求められる。「Fallout」はその最高の例だ。「Fallout」の第1作は1997年に発売され、それ以来「Fallout」の世界を舞台にしたゲームを多数輩出してきた。これはカードをデザインする材料が多くあるという点では良いのだが、必要なものを入れるためにできることが与えられたスペースよりも多くなるという問題も生み出す。ビデオゲームをもとにした「ユニバースビヨンド」をデザインするときは、デザイン・チームはその中から何を優先するか見極めなければならないのだ。

 最初に注目するのは、馴染みやすさだ。そのゲームの構成要素の中で、最もプレイヤーたちに知られているものは何か? そのシリーズで複数の作品に、何ならすべての作品に存在するものはないか? ゲーム内でたくさん見かけるものはないか? そこで開封比とレアリティの概念の出番だ。低レアリティのカードは本質的に、ある世界に多く存在するものを表している。ビデオゲームを題材にする場合、低レアリティのカードはそのゲームで頻繁に登場する要素を反映したものにしたい。「Fallout」ならそれは、放射能やグール、スーパーミュータント、ミュータント化した動物、ロボット、ボトルキャップ、ボブルヘッド、クラフト、スカベンジング、レイダー、そしてもちろん(このセットのエキスパンション・シンボルにもなっている)「Vault-boy」ということになるだろう。

 マジック:ザ・ギャザリング『Fallout』統率者デッキ収録のコモンは、すべて新規アートの再録カードであることは付記しておくべきだろう。特定のトップダウン・デザインが求められるコンセプトのカードは、少なくともアンコモン以上ということになる。また、統率者デッキのような構築済みデッキは、カードがランダムに封入されるブースターと開封比の点で異なる影響がある。そのためこの課題については、統率者デッキをデザインするのとブースター製品をデザインするので少々異なるものになる、ということは伝えておきたい。

 2つ目に注目するのは、人気だ。これこそ我々が各デザイン・チームにSME(Subject-Matter Expert)を置く理由であり、その知財の専門家であるライセンサーと緊密に取り組んでいく理由である。我々は、その知財のファンが最も興奮する要素を知りたい。我々が入れなければならない要素は何か? 製品に絶対欠かせないキャラクターやアイテム、場所は何か? マジック:ザ・ギャザリング『Fallout』では、特定の仲間や装備、そしてVaultから引き出す必要があることを、我々は把握していた。

 3つ目に注目するのは、言葉だ。人々がそのゲームをプレイするとき、それについてどのような話をするだろうか? どのような用語を使うだろうか? そのゲームのプレイヤーたちは、どのように他のプレイヤーとコミュニケーションを取っているだろうか? マジックのカードにはたくさんの言葉(カード名やタイプ、サブタイプ、特殊タイプ、ルール・テキスト、フレイバー・テキストなど)があり、それらは題材となるビデオゲームの言葉を模倣するための強力なツールとして使えるのだ。

 例として、ボーナスを得たり制限がかかったりとプレイヤー・キャラクターに影響する状態が挙げられる。それらはシリーズを通して使われるため、プレイヤーたちに馴染み深い名前がついている。例えばインベントリの重量が最大重量を超えるとプレイヤーがなる状態は「重量過多」だ。重量過多になると動きが鈍くなり、その他の制限も引き起こされる。デザイン・チームは、キャラクターやプレイヤーにある種の状態を付与することでプレイ中にゲームの用語を使える、というアイデアを気に入った。「Perk」(キャラクターが得られる恩恵を示す「Fallout」用語)は最終的にオーラになり(収録されるオーラがすべて「Perk」というわけではないが)、特定のキャラクターやプレイヤーに「Perk」をつけられるようになった。

 4つ目に注目することは、次の課題に関連する。

課題3――ゲーム内の行動を模倣しなければならないこと。

 ビデオゲームのプレイ感覚を捉えるためには、プレイヤーたちがそのビデオゲームで取るであろう行動をマジックでも取れるようにする必要がある。どちらもゲームである以上、プレイの方法に重なる部分があることは大いに期待できるだろう。ビデオゲームとカードゲームに決定的な違いがあるのは明らかだが、どちらもゲームであるため、ビデオゲームの一般的な感覚を再現したいという想いはあるのだ。

 例えば「Fallout」にはさまざまな重要なリソースがある。健康のためには食事が必要で、ボトルキャップは通貨として機能するのだ。マジックには食物と宝物という2種類のトークンがあり、それらの大切さを感じ取ることができるだろう。しかし「Fallout」では集めた廃品も重要なリソースであり、それに最適な類似品はマジックにはなかった。そこでデザイン・チームは、新たなトークン・タイプ「ジャンク・トークン」を作ることでそれを表現したのだ。

 時にはゲーム中の行動を再現することよりも、感覚を捉えることの方が重要な場合もある。例えば、アニー率いるデザイン・チームは、ゲーム内の時間の流れを遅くする「V.A.T.S.」を再現する方法を見つけようとしていた。マジックはターン制のゲームであり、時間の流れがあるわけでないため、時間の流れを遅くするという概念は本来持っていない。そこでチームは、誰も対応できない動きをする、という方法を見出した。『時のらせん』ブロックの「刹那」メカニズムだ。呪文に刹那を持たせることで、干渉を受けずに行動する感覚を生み出すことができ、時間の流れを遅くする感覚を捉えることができるのだ。

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V.A.T.S.

 陥りやすい大きな罠として、明らかに合っているのにゲームプレイ上ではうまく機能しない、というものがある。「Fallout」における好例が「Vault」だ。これ単体で見れば、Vaultは理想的な土地に見える。土地は場所を表現したものであり、Vaultは場所だ。問題は、土地には多くの制限があり、それがデザイン・チームが求める感覚を生み出す妨げになることだった。最終的に彼らは一歩下がって見渡し、Vaultが場所というより物語を語るものであることに気づいた。それぞれのVaultを訪れると、そこにいる人々に何が起きたのかを知ることができるのだ。マジックには、物語を語るのに最適な方法がある。「英雄譚」のサブタイプだ。英雄譚を使ってVaultを表現することでそれらはより活き活きとし、「Fallout」で訪れたときの感覚を捉えることに成功したのだった。

 「ユニバースビヨンド」のデザイン・チームは、既存のメカニズムの利用と新規メカニズムの作成の適切なバランスを見極める必要がある。新しいものを作りすぎればマジックらしさが感じられず、既存のメカニズムに固執しては題材となるビデオゲームらしさを捉えることができないのだ。

課題4――どのカードにも何らかの関連性を持たせる必要があること。

 デザイン・チームがメカニズムを通してビデオゲームの再現に取り組む方法について語るのに、多くの時間を割いてきたが、製品をマジックにすることもまた重要である。題材となるゲームをマジックとして楽しめるようにするには、デザインにおいて欠かせないものがあり、そして「ユニバースビヨンド」製品においては、収録カードすべてをその知財のフレイバーを感じられるものに仕上げなければならない。通常、2つのゲームの間にある重なりが多ければ多いほど、呪文などに合うフレイバーを見つけるのは簡単になるが、マジックの要素の中にはその知財に簡単には合わないものもあるのが常なのだ。

 加えて、ゲームの必要上、新規カードを作ることができないときもある。例えばマジック:ザ・ギャザリング『Fallout』の各統率者デッキには、それら同士で対戦する場合のバランスを考えて全体除去がいくつか必要だった。デザイン・チームは新しい全体除去を何枚も作るのではなく、フレイバー豊かな再録カードと新規デザインを織り交ぜる必要に迫られた。こうして再録されたカードの中に《破滅の根本原理》があるが、チームはこれを、リージョンを征服するシーザーを表現するのに活かしたのだった。

 この課題は実に繊細だ。顧客の多くが注目しているのは、マジックで表現されるのを楽しみにしていたゲームの構成要素をすべて目にすることだろう。しかしどの「ユニバースビヨンド」製品もマジックの製品であり、マジックとして楽しめるものでなくてはならないのだ。

課題5――ビデオゲームのプレイヤーは、そのゲームにおける微妙な差異をよく理解していること。

 例えばあなたが2体のキャラクターのデザインに取り組んでおり、それらの適切なパワーとタフネスの値を考えているとしよう。ストーリーベースの知財では、その2体が戦ったときにどちらが勝つかはわからないことが多い。その2体が物語上で戦わない場合(明確な決着がつかない場合)、すべては仮定でしかないのだ。だがビデオゲームでは、その構造から2体のキャラクターが戦える場合がずっと多く、またゲームシステムがキャラクターを統計的に分類したがる傾向にある。つまり、そのゲームのファンは小さな違いでも把握できるため、デザイナーがそのゲームを適切に捉えるための的は非常に小さいということだ。

 「Fallout」から例を挙げるなら、エージェントのフランク・ホリガンだ。彼は「Fallout 2」のラスボスであるため、最強のスーパーミュータントであることが熱望された。デザイン・チームは、彼が他のスーパーミュータントに対してどれくらい強そうに見えるかを意識しなければならなかったのだ。

 以上のように多くの課題があるものの、ビデオゲームを題材にした「ユニバースビヨンド」製品をデザインする上で利点となることもいくつかある。

利点1――ゲームのプレイヤーはより複雑なものにも対応できること。

 ストーリーベースの知財のファンは、必ずしもゲームのプレイヤーではない。つまりその客層向けに「ユニバースビヨンド」製品を作る場合、複雑さを少し抑えることが望まれるだろう。その製品を通してマジックを知ったファンにとって、このゲームを学ぶきっかけになるようにしたいところだ。ビデオゲームベースの(公平を期すなら「ゲームベースの」)知財のファンは、ゲーマーである。マジックをプレイしたことはないかもしれないが、彼らは少なくともさまざまなゲームのコンセプトに通じている。つまり「ユニバースビヨンド」製品においても、より複雑なものに対応できるのだ。より複雑なものはデザイナーにより多くのツールをもたらし、それらは題材となるゲームの感覚を捉える助けになる。

利点2――ビデオゲームは世界観を作り込む傾向にある。

 物語にはある程度の世界構築が求められるが、基本的には物語を語る上で必要な分で十分とされる。一方ゲームは、1つの物語ではなく1つの環境を捉えようとする。「Fallout」においては、かつての都市の跡を歩き回るのが常だ。つまりゲーム・クリエイターは、その都市の大きな部分も小さな部分もマップに起こさなければならない。全員ではないにせよ、プレイヤーの中には隅々まで訪れる者がいるからだ。

 このように環境をマップに起こす必要性は、我々がマジックの世界構築を行う手法と一致している。例えば我々は、あらゆるサイズと色のクリーチャーを網羅した「クリーチャー・グリッド」と呼ばれるものを作成している。クリエイティブ・チームを必要とするカードが出てくることを、我々は知っているからだ。ビデオゲームも同様に、ゲーム内で遭遇し、たびたび戦うことになるさまざまなものを用意するために、独自のクリーチャー・グリッドを埋めていかなければならない。だからビデオゲームを題材にした「ユニバースビヨンド」をデザインするときは、セットを作る上で必要なものを確保するために多くのことをしなければならないのだ。

良き友を活かさぬ手はない

 本日の記事を終える前に、最後にプレビュー・カードを1枚お見せしよう。前段で私は、ミュータント化した動物がどれだけ「Fallout」の核心部分であり、「Perk」がどれだけ我々がカードの形で捉えたい要素であるかを語ってきた。本日の私のプレビューは、動物との(しばしばミュータント化した動物とも)絆を結ぶことができる一風変わった「Perk」だ。

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ゲームオーバー

 本日はこれで以上だ。この記事で諸君が、ビデオゲームを「ユニバースビヨンド」製品に仕上げる際の多くの課題について、より深い知見を得られたなら幸いである。この記事やマジック:ザ・ギャザリング『Fallout』統率者デッキに関する意見は、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)TumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、混成マナの歴史を振り返る記事のその2でお会いしよう。

 その日まで、あなたが被ばく量過多の状況を回避できますように。その状況が望みでないならば。


(Tr. Tetsuya Yabuki)

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