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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『決戦の後に』をする

Mark Rosewater
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2023年5月2日

 

 『機械兵団の進軍:決戦の後に』プレビューにようこそ。

 何ヶ月も前になるが、私は、『機械兵団の進軍』がマジックを根本から変えるということについて語った。その結果、その真意を多くのプレイヤーが尋ねてきた。今日は説明することにしよう。今回のファイレウシアの侵略の大きな悪影響を見て、それがマジック全体にどのような意味を持つのかを語り、新しい製品(エピローグ・ブースター)を紹介して、それがどのようにできたかの話をして、クールなプレビュー・カードをお見せしよう。(順番は変わるかもしれない。)

戦争の物語

 『機械兵団の進軍』のデザインについての記事の中で、物語の範囲について話した。ファイレクシア人が多元宇宙のすべての次元を侵略し、各次元の住人のうちいくらかを完成化し、それらをファイレクシアンにし、それからあらゆる手段でその次元を制圧するべく戦い、多くの次元ではあと一歩まで迫った。

 最終的に、善の勢力が勝ちフェイレクシア人は負けたが、それは損害が少なかったということではない。ほとんどすべてのキャラクターや次元のあり方が根本的に変わることになったのだ。この戦争の出来事やそれが多元宇宙に与えた影響について伝えることは重要だろう。問題は、その両方を1つのセットで伝えることは難しいということだった。

 トレーディング・カード・ゲームの課題の1つが、出来事Aを出来事Bより前に見せるような順序立てを伝えるのが難しいということである。我々はそのためには通例セットを分けていたが、今回の物語の都合上、そうする機会はなかった。この大団円の「事象のセット」はその事象中心でなければならないが、その事象が多元宇宙に与えた影響は非常に重大なのでそれを伝えるための別の製品が必要だと感じられたのだ。

 そこで、我々がどのように『機械兵団の進軍:決戦の後に』を作ったかの前に、このファイレクシア戦争の大きな影響についてざっと見ていこう。

1.多くのキャラクターが死んだ

次元ブースター・ファン

ハロー・フォイル次元ブースター・ファン

エッチング・フォイル仕様

拡張アート版

 ファイレクシア人が成功しなかったからといって、大きな代償なしに勝利を得たということではない。『機械兵団の進軍』で見た通り、多くのキャラクター(やクリーチャー)がファイレクシア化した。ファイレクシア化したキャラクターが全員死んだわけではない(今後語られる話もある)が、多くは死んだ。

 加えて、他にも多くのファイレクシア化しなかったキャラクターが戦いで死んでいる。多元宇宙を救うために多くの犠牲が払われたのだ。エピローグ・ブースターのカードでは、それらの死のいくらかについて語って(あるいはほのめかして)いる。例えば、上記はすでにプレビューしたカードで、エルドレインのケンリス王とリンデン女王の葬儀を描いている。

2.ほとんどのキャラクターの生活が大きく変わった

 今回のファイレクシア戦争はほとんどの人々が無視できるような事象ではなかった。ほとんどのキャラクターは能動的にファイレクシア人と戦った。彼らの友人や家族が完成化されて死んでいる。彼らの次元が根本から変わったのを見た。(詳しくはこの後)彼らは、おそらくその人生で最も悪夢的な事象を生き抜いたのだ。人々の生活に甚大な影響をあたえ、その波紋はマジック全体における彼らの物語に広がることになる。エピローグ・ブースターのカードには、その展開の一部が描かれているのだ。

3.ほとんどの次元が根本的に変貌を遂げた

 次元は対立によって定義づけられており、ファイレクシア戦争はほとんどの次元にとって史上最大の対立だった。次元を再訪したときにわかることだが、ファイレクシア戦争は次元に影響を及ぼしその形を変えさせた。それは各次元の特徴の不可分な一部となっている。今や「戦前」と「戦後」があるのだ。次元にどのような影響があるかは様々だが、その影響は多くの次元に多大な悪影響を及ぼしている。

 『機械兵団の進軍:決戦の後に』ではそれらの次元の一部に与えた影響をほのめかすことになるが、その次元を再訪するまでは宇宙論的変化の全体像を見ることはできない。まずは『エルドレインの森』でのエルドレイン、続いて『イクサラン:失われし洞窟』でのイクサランとなる。どちらの次元も、この戦争で多大な影響を受けたことを見ることになるだろう。(まず最初に、エルドレインでは、上述の通り王と女王が死んでいる。)

4.ザルファーは独自の次元になった

 この戦争には多くの負の影響があったが、良い影響もあった。

 ザルファーは(何年も前にテフェリーがつなぎとめた場所である)辺獄から開放され、ドミナリアに戻るのではなく新ファイレクシアと入れ替わった。つまり、地上はザルファーであり、空は新ファイレクシア/ミラディンである(5つの太陽がある)。

 ザルファーにとってそれがどういう意味を持つか、そしてその新しい居場所は世界にどう影響するか。『機械兵団の進軍:決戦の後に』で少しは示されるが、その全体像は将来のマジックで語られることになる。

5.新ファイレクシアは封印された

 新ファイレクシアは、辺獄に囚われた。それがファイレクシア人にとってどういう意味を持つか。再び登場することはあるのだろうか。時のみぞ知る、である。『機械兵団の進軍:決戦の後に』でもファイレクシア人の影響は描かれているが、ファイレクシア人は登場していない。

 次の話題は非常に大きいものなので、その話に入る前にプレビュー・カードをお見せしよう。

クリックして 灯の破裂 を表示

 『アルファ版』で、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldは、クリーチャー化するアーティファクトや土地を作った。後に我々は、クリーチャー化するエンチャントを作った。自身をクリーチャーにできるプレインズウォーカーは作ったし、そうできるカードの組み合わせもあるが、自分のプレインズウォーカーを直接クリーチャーにするようなカードは作ってこなかった。

 今までは。

 なぜか。なぜなら、それが物語上重要な点だからである。ファイレクシア戦争の結果、多くのプレインズウォーカーに重要なことが起こったのだ。

6.ほとんどのプレインズウォーカーが灯を失った

 ファイレクシア戦争と、侵略樹を通した多元宇宙への彼らの侵略による最大の宇宙論的影響は、ほとんどのプレインズウォーカーがその灯を失ったことである。つまり、『機械兵団の進軍:決戦の後に』や今後のマジックの製品の多くで、これまで知っていた多くのプレインズウォーカーが伝説のクリーチャー・カードとして登場することになる。

7.プレインズウォーカーでなくても次元間を移動できる領界路ができた

 最大の影響は最後に取っておいた。

 大修復前は、プレインズウォーカーでない者が次元間を移動できる次元門(ほとんどの場合は稀)があった。大修復によって変わり、すべての門が閉ざされた(例外は次元橋だが、それでさえ生物は運べなかった)。ファイレクシアの侵略、そして侵略樹の使用によって、領界路が次元の多くを繋ぐことになった(これまではカルドハイムの内部だけだった)。

 今、領界路には大きな差がありうる。小さいものもあれば、大きいものもある。永続的なものもあれば、一時的なものもある。安定したものもあれば、変動するものもある。戻ってくることができる保証はないので、プレインズウォーカーでない者にとっては大きな危険性がある。そして、すべての次元がお互いに繋がっているわけではないので、旅路が長いものになることもある。これらを踏まえて、次元間の旅はプレインズウォーカーだけのものではなくなったのだ。

 ここで詳細を告げることはできないが、これは物語や今後のセットに多大な影響をもたらすことになる。例えば、この変化前に作ることができなかった現在デザイン中のセットは複数あるので、この宇宙論的撹拌は物語的な多元宇宙とゲームの両方に多大な影響をもたらすだろう。

エピローグの時間

 一歩引いた視点からこの戦争が多元宇宙にもたらす影響の大きさを認識して、我々は、『機械兵団の進軍』だけで収めるには大きすぎると理解した。必要なのは、マーベルの映画でクレジット中に流れる追加のシーンのようなものだった。いくつかのものを示し、物語の行く先をほのめかすような機会が必要だったのだ。『機械兵団の進軍』の一部だが別のものである製品を作ることはできるだろうか。そこで生まれたアイデアが、エピローグ・ブースターだった。

 これは、私が展望デザインを終えてセットを提出してから何ヶ月も経ったセットデザイン中のことだった。デイブ・ハンフリーズ/Dave Humpherys率いるセットデザイン・チームが、本体セットに加えてエピローグ・ブースターを作ることを担当した。この2つはほとんど同時期に作られ、FFL(フューチャー・フューチャー・リーグ、将来のスタンダードをテストする場所)で同時にテストされた。

 エピローグ・ブースターのカードはスタンダードで使用でき、プレイデザインが強化が必要だと感じた様々な戦略を持つスタンダード内の異なるデッキを補強するようにデザインされている。

 エピローグ・ブースターを作る上での最大の課題は、その定義づけだった。これまでに作ったことがないので、手本にするものも元にするものも元ネタにするものもなかった。マジックのデザインには多くの課題があるが、通常は何十年の歴史の中で反復したものを作っている。最初の問題は、何を入れるかだった。もちろん、新しいマジックのカードだが、一体何枚にすべきか。

 デイブはクリエイティブ・チームのエミリー・テン/Emily Tengと協力して、カードで描きたいもののリストを作った。そう、これはクレジット後のシーンなのだ。そこで見せたいものはなんだろうか。

キャラクターの結末

 ファイレクシアの物語を終わらせるに当たって、様々なキャラクターの最終的な姿と、彼らに何が起こったのかを描く機会が必要だった。死んだ者も、悲惨な結末を体験した者も、なんとかした者も、中には(何らかの)ハッピーエンドを迎えた者もいる。我々はそれらの物語のポイントを見せるカードを作る必要があった。

様々な次元を描写する

 ファイレクシア戦争はほとんどの次元に多大な影響を与えた。復興を始めた次元を見せてそれぞれが直面する課題を示唆するカードを作ろう。映画なら、エンドロール中に映画の大きな事象に直面したキャラクターを描写することがよくある。同じようなことをするカードが欲しい。詳細に触れはしないが(それは再訪のときにすることになる)、全体的な雰囲気を伝えたいのだ。ファイレクシアが打ち破られたからといって、様々な次元が勝利のために個人的代償を払わなかったわけではない。

灯を失ったプレインズウォーカーの片影

 『機械兵団の進軍:決戦の後に』で示される最大のものの1つが、大量のプレインズウォーカーが灯を失ったことである。それらのキャラクターのカードを伝説のクリーチャーにする機会が必要だった。

伝説のクリーチャーの登場

 『機械兵団の進軍』では多くの伝説のクリーチャーをカード化できたが、行方不明のものも多かった。エピローグ・ブースターでは、彼らがこの戦争でどうしていたかをプレイヤーに示すことができた。

将来の物語のほのめかし

 ファイレクシア戦争は終わったかもしれないが、多元宇宙の問題がすべて解決したわけではない。このセットには、将来のセットで中心に取り上げられるような問題のほのかな片影を示すカードがありうる。

『機械兵団の進軍』に収まらなかったクールなカードを作る

 『機械兵団の進軍』では起こっていることが多く、我々が思いついたクールなデザインすべてを収めることはできなかったので、エピローグ・ブースターはそれらのデザインの一部を収めるいい場所であった。

新しい領界路の初お披露目

 領界路は将来の物語の多くの原動力になるので、このセットはそれを視覚的に描写する始めての機会となる。

 描きうるものは多いが、このセットをそれほど長いものにしたくはなかった。このセットを完全な第2セットにするつもりはなかったのだ。我々がただ示したものに光を当てる、ちょっとしたものが欲しかったのである。

 長い議論の結果、我々はこのセットを50枚(アンコモン15枚、レア25枚、神話レア10枚)にすることにした。コモンを作らなかったのは、ブースターにそれほど多くのカードを入れたくなかったからである。コモンはブースターの大半を占めることになるが、我々はそういう開封体験を望まなかったのだ。カード50枚だけを作るとなれば高レアリティのカードを作りたいので、コモンは入れないことにした。また、初期に、ブースターはリミテッド向けにはデザインしない(リミテッドをするだけの枚数がない)ことを決めたので、コモンを除くことも一貫している。

 次なる大きな決定は、このセットの主な焦点を定義したことである。我々は、灯を失ったプレインズウォーカーに焦点を当てることに決めた。それが、この製品の最重要キャラクターやもっとも独特な物語上のポイントだからである。灯の喪失はこの物語の終わりに起こる。これを強調するため、我々は神話レア・スロット10個すべてを、これまでにプレインズウォーカー・カードになったことがある伝説のクリーチャーに割り当てることにした。その中には伝説のクリーチャー・カードがあるものもいたが、大半はなかった。これによって、彼らは初めて統率者になることができるようになったのだ。

 リミテッドに配慮しなかったので通常より多くのクリーチャーを入れることができることになり、『機械兵団の進軍』でカードにしなかった多元宇宙のキャラクターたちを伝説のクリーチャー・カードにした。

 それ以外のカードについて、デイブはエミリーに頼り、エミリーは物語を描写するためにカードが必要な(様々な次元に渡る)重要なもののリストを作り、そしてデイブ率いるチームはトップダウンでデザインした。デザイン的なもう1つの違いは、エピローグ・カードでは、統率者デッキと同じように、常磐木でなく名前があるメカニズム1つを扱えるということである。

 それではここから、『機械兵団の進軍:決戦の後に』のエピローグ・ブースターを購入して一体何を手に入れられるのかの詳細を説明しよう。先述の通り、このセットには50枚のカード(アンコモン15枚、レア25枚、神話レア10枚)がある。50枚のカードそれぞれに、ブースター・ファン版がある。ブースター・ファン版は、その次元に合わせた『機械兵団の進軍』と同じ枠になっている。新しい枠が1種類あるが、それは旧枠である。ザルファーを舞台にした次元ブースター・ファン・カードでは、旧枠を使ったのだ。

 通常版とブースター・ファン版それぞれに、伝統的フォイル仕様が存在する、加えて、コレクター・ブースターには他に2種類が存在する。通常版カードのエッチング・フォイル仕様。ブースター・ファン版の(通常の『機械兵団の進軍』で見られたフォイル仕様と同じ)ハロー・フォイル仕様。そして、非フォイル仕様と伝統的フォイル仕様の拡張アート版。

 2種類のエピローグ・ブースターそれぞれに入っているものは以下の通り。

通常のエピローグ・ブースター (カード5枚と広告カード/トークン1枚)

* スロット1:非フォイル、通常アートのアンコモン
* スロット2:非フォイル、通常アートのアンコモン
* スロット3:非フォイル、通常アートのレア/神話レア
* スロット4:レアリティ不定のブースター・ファン・カード(伝統的フォイルまたは非フォイル)
* スロット5:伝統的フォイル、通常アート、レアリティ不定のカード
* スロット6:広告カード/トークン

コレクター・エピローグ・ブースター (カード6枚と広告カード/トークン1枚)

* スロット1:伝統的フォイル仕様ブースター・ファン版アンコモン
* スロット2:エッチング・フォイル仕様アンコモン
* スロット3:伝統的フォイル、通常アートのレア/神話レア
* スロット4:拡張アート版のレア/神話レア(伝統的フォイルまたは非フォイル)
* スロット5:ブースター・ファン版のレア/神話レア(伝統的フォイルまたはハロー・フォイル)
* スロット6:エッチング・フォイル仕様レア/神話レア
* スロット7:伝統的フォイル仕様トークン

 エピローグ・ブースターはドラフトを考慮していないので、「ドラフト」エピローグ・ブースターは存在しない。50枚のカードはどれもスタンダードで使用可能である。

 今日の記事を終える前に、おそらく来るであろう質問に前もって答えておきたい。

なぜブースターのカードがこんなに少ないんですか?

 それにはいくつかの要因がある。セットに50枚しかなく、ブースター開封を心躍るものにしたかったので、これが妥当な枚数だと判断した。これはまったく異なる種類の製品なので、新しいことをしたかった。

今後もエピローグ・ブースターは出るんですか?

 これの結果を見て始める予定だ。現在のテーマは、我々は、これまで30年の歴史でしてこなかった新しいことをしているので、プレイヤーの反応を見たいというものである。

灯を失ったプレインズウォーカーの一覧はありますか?

 ない。このセットでは10人が灯を失ったことが示される。今後のセットで、プレインズウォーカー・カードで登場することで灯を失っていないことを示す者もいれば、伝説のクリーチャー・カードで登場することで灯を失ったことを示す者もいる。プレイヤーが時間をかけて次第に知っていくというアイデアを採用しており、かなりの議論を生むだろう。

ファイレクシア戦争で誰が死んだかの一覧はありますか?

 これも時とともに明らかになっていくことだろう。今作っているセットはいくつもあり、その中には再訪するセットも多いので、キャラクターの運命はセット内のカードで明らかにしていきたい。そして何より、キャラクターがその次元から姿を消したとしても、今は領界路があるので死んだとは限らないのだ。新しい宇宙論の面白いところの1つが、過去のお気に入りが予想外の場所に現れることだ。

___はまた訪れる

 本日はここまで。『機械兵団の進軍:決戦の後に』エピローグ・ブースターが一体何なのか、よりよく洞察が示せていれば幸いである。

 エピローグ・ブースター、『機械兵団の進軍』のキャラクターや事象、あるいは今日の記事について、メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『機械兵団の進軍』の展望デザイン提出文書をお見せする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたの一番のお気に入りの物語が『機械兵団の進軍:決戦の後に』に見つかりますように。

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