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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『ファイレクシア:完全なる統一』方的な話 その1

Mark Rosewater
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2023年1月17日

 

 『ファイレクシア:完全なる統一』カード・プレビュー第1週にようこそ。これから先行デザイン・チームと展望デザイン・チームを紹介し、このセットのデザインの話を始めて、クールな新しいプレビュー・カード2枚をご紹介しよう。面白い話なので、早速始めよう。

完成化した話

 『ファイレクシア:完全なる統一』のデザインの話を始める前に、このセットを手掛けた先行デザイン・チームや展望デザイン・チームを紹介したい。来週、セットデザイン・チームを紹介する予定だ。いつもの通り、チームのリード・デザイナーに紹介してもらうが、このセットに関してはリードは私が務めた。

クリックしてチームを表示

 最初にファイレクシアの物語というアイデアを思いついたとき、我々は、どれだけのファイレクシア人を登場させるべきか自問した。ファンのいる敵役ではあるが、暗くなりがちであり、多すぎると問題になることはわかっていた。最終的に、ファイレクシア人はいくつかのセットで(特に後半のセットで)登場するが、1つ以外のセットでは大半を占めることはないようにすることにした。ファイレクシアの物語をするのであれば、セット1つではそこに焦点を当てる必要がある。ファイレクシア人のファンのために、すべてをファイレクシア人に染めたファイレクシアのセットが必要だった。

 このセットが、ファイレクシア人が現在棲息していて何年もそこから出てきていない新ファイレクシアへの再訪になるのは妥当だった。ほとんどの住人はファイレクシア人で、少数のミラディン人の反乱軍がかろうじて生き延びている。このセットの課題は、ファイレクシア人のファンを楽しませながら、大ファンでない人たちにも魅力的にすることだった。

 初期に、我々はテーマを「ファイレクシア人であることは楽しい」と定めた。他のすべてのセットでファイレクシア人は戦うべき敵役だが、このセットでは、ファイレクシア人の視点に立つことができるのだ。楽しめるゲームプレイでありながらファイレクシア人らしいプレイスタイルが必要だった。我々はまず、ファイレクシアのファンがこのセットに求めるものが一体何かを考えることから始めた。これまでにファイレクシア人と関連付けたメカニズム的なものの一覧がこうである。

毒/感染

 毒は『レジェンド』で導入された、もう1つの勝利方法である。数年間は毒を使ったカードを作っていたが、やがて、ゲームから取り除かれた。私は毒を再登場させることを何年も試みて、ついに『ミラディンの傷跡』でファイレクシアの武器として再登場させることができたのだ。『ミラディンの傷跡』ブロックで使っていたのは感染で、クリーチャーがダメージを他のクリーチャーには-1/-1カウンターの形で、プレイヤーには毒カウンターの形で与えるというものだった。

-1/-1カウンター

 『ミラディンの傷跡』ブロックでは、感染を用いていたので、+1/+1カウンターではなく-1/-1カウンターを使った。(セットで主に使うカウンターは通常1種類で、多くは+1/+1カウンターである。)これにより、感染を持つカード以外にも-1/-1カウンターを用いるカードが作れるようになった。それらのカードはすべてファイレクシアであるとフレイバー付けがされていた。これは『ミラディンの傷跡』ブロックでテーマ的に重要な「疾病としてのファイレクシア人」というモチーフとつながっていた。

増殖

 これも『ミラディンの傷跡』ブロック全体に渡るファイレクシア・テーマのメカニズムであった。感染が生み出す-1/-1カウンターや毒カウンターと相性がいいようにデザインされている。増殖は『灯争大戦』で再登場して、そのときは忠誠カウンターや+1/+1カウンターと相互作用した。(このセットには36枚のプレインズウォーカー・カードがあってプレインズウォーカー・テーマがあった。)増殖はマジックのユーザーに好評なメカニズムの一つである。

ファイレクシア・マナ

 色マナか2点のライフで支払うことができるマナである。これは『新たなるファイレクシア』で登場し、強力なメカニズムだったので構築戦でよく用いられた。ここに列記した中で、プレイデザインが一番懸念したものがこれである。

ライフの支払い

 これは、『ミラディンの傷跡』ブロックのファイレクシア人に関わるテーマであった。ファイレクシア・マナはこのテーマから作られた部分もある。

死亡誘発

 これも、『ミラディンの傷跡』ブロックのファイレクシア人に関わるテーマであった。死亡はファイレクシア人と関連するもう1つのリソースだった。

アーティファクト

 ファイレクシア人の初登場は、濃いアーティファクト・テーマがあった『アンティキティー』である。その初登場以来、ファイレクシア人はアーティファクトと深く関わっていたのだ。『新たなるファイレクシア』では、ファイレクシア・マナを持つアーティファクト・クリーチャーのサイクルや、起動コストのファイレクシア・マナを没アーティファクト・クリーチャーがあった。

パーマネントを生け贄に捧げる

 これも、『ミラディンの傷跡』ブロックのファイレクシア人に関わるテーマであった。

生体武器

 『ミラディン包囲戦』で初登場したメカニズムである。装備品が持っていて、黒の0/0の細菌・クリーチャーについた状態で戦場に出るというものだった。これらすべてはテーマ的にファイレクシア人に紐づいていた。

 この一覧を作り終えて、我々は、これらの中でユーザーがファイレクシアのセットに期待するものはどれか、と考えた。そして最終的に、毒、ファイレクシア・マナ、増殖の3つが浮上したのだった。我々はこれを、Poison、Phyrexia Mana、Proliferateの頭文字を取って「3つのP」と呼んだ。

 デザイン・ファイルの最初のバージョンにはこの3つが入っていた。毒の簡単な使い方として、感染が再登場していた。開発部が-1/-1カウンター環境を問題視している、感染が賛否両論のメカニズムで嫌っている人が多いという問題点はあったが、感染にもファンはいるので、まず感染が使い物になるかどうか見ることから始めようと考えたのだ。唯一加えた変更は、ファイレクシア・マナに関するものだった。マナ・コストに使うのではなく、起動コストに使うことにしたのだ。これによってカラー・パイ問題の発生を回避し、カードを早く唱えることができないようにしていくらかバランスを取りやすくした。

 最初のプレイテストは、『ミラディンの傷跡』ブロックと同じようなものになり、当時の問題点の多くを思い出させた。最大のものが、毒の分岐である。毒デッキを使うか、使わないかのどちらかになるのだ。ダメージを与えるカードと毒を与えるカードの間にシナジーがないことから、どちらか一方だけをプレイすることになってしまい、両方を使うことはできなくなる。

 我々のこの問題への最初の解決策は、堕落/corruptedという能力語を導入することだった。堕落は、対戦相手1人が3個以上の毒カウンターを持っているとカードを強化する。これで、対戦相手に少しだけ毒を与えるようなデッキを使うことを推奨できると考えたのだ。そして、そのデッキの主な狙いではなくても、場合によっては対戦相手を倒せるだけの毒を与えることができることがあるかもしれない。

 この時期にアリが提案したのが、感染から有毒への変更だった。有毒は、『未来予知』のミライシフト・カード2枚で「プレビュー」していた能力である。有毒Nを持つクリーチャーがプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたび、そのプレイヤーに毒カウンターN個を与える。これは感染のようにパワーと直接関連してはいない(感染クリーチャーを《巨大化》すると与える毒カウンターの数も増える)が、ダメージと毒の間の断絶をなくした。有毒クリーチャーで攻撃した場合、ダメージで相手を倒す方向にも進んでいるのだ。このセットは、キーワードとして有毒を採用した状態で提出されることになる。来週、なぜそれが毒性に変わったかの話をしよう。

 感染をやめたことで、我々は他にいくつかのことができるようになった。1つ目に、-1/-1カウンターを使うことをやめることができた。私は、セットデザインやプレイデザインを新しい-1/-1カウンター環境で納得させられるか疑っていたのだ。2つ目に、増殖で何か違うことをすることができるようになった。最初のプレイテストで、増殖はまさに『ミラディンの傷跡』ブロックと同じように、つまりほとんどがクリーチャーやプレイヤーを倒すために、使われていた。私は『灯争大戦』の増殖を、ポジティブな形で、何かを壊すためでなく築くために使うことを本当に楽しんだのだ。

 このことから、新しい種類のカウンターのアイデアにつながった。+1/+1カウンターや-1/-1カウンターではなく、油カウンターを使うのだ。油カウンターは、いろいろな形で使える、基本的には意味を持たないカウンターである。能力を何回使ったかを記録したり、強化する助けになったり(拡大型能力や閾値型能力のどちらでも)、カウントダウンに使ったり、クリーチャーのサイズや効果の強さを変えたりできる。非常に柔軟に使えるのだ。

 1つ決めたこととして、増殖との相性をよくするため、油カウンターが多いほうがいいことにした。これはつまり、3ターンだけ戦場にいられるクリーチャーを作るなら、油カウンターを増やしていって3個になったら除くのではなく、最初に油カウンターを3個持って戦場に出てから減らしていくことにするということである。こうすることで、増殖を使うとそのクリーチャーが1ターン多くいられることになる。

 ここから生まれたのが、浸油/oiledと呼んでいたメカニズムである。

浸油4(【カード名】は油カウンター4個を置いた状態で戦場に出、カウンターがない状態で増殖したとき油カウンター1個を得る。)
 

 浸油は2つの効果があった。そのクリーチャーは特定数の油カウンターが置かれた状態で戦場に出て、カウンターがないときに増殖すると油カウンター1個が得られるのだ。これは最後の油カウンターを使うことを避けなくてもよくするためのものだった。油カウンターはこのセットに採用されたが、浸油はされなかった。なぜボツになったかは、来週語ろうと思う。

 最終的に、我々はファイレクシア・マナを2種類の使い方で使うことにした。1つ目が、起動コストとして使うこと。2つ目が、執拗/relentlessという新しいメカニズムのコストとして使うことだった。執拗の例は次の通り。

〈不気味な決断〉

{4}{B}
ソーサリー
あなたの墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とする。それを戦場に戻す。
執拗{4}{B/P}{B/P}{B/P}(この呪文をあなたの手札から唱えたなら、これの解決に際し、これを追放する。あなたが土地をプレイしたターンの間、追放領域にあるこれを執拗コストで唱えてもよい。)

 

 執拗の元になった考えは、ファイレクシア人は止まらないという雰囲気を再現することだった。執拗は、呪文を2回プレイできるようにする、フラッシュバックの変種である。ただし、ただマナだけで制限するのではなく、追放領域からだけ(この点ではフラッシュバックよりも弱体化していると言える)、土地をプレイしたターンにだけ唱えられるのだ。執拗コストでは必ずファイレクシア・マナを使っていた。執拗は、このセットの呪文メカニズムとして追加された。浸油同様、これも最終版のセットには採用されなかった。これについても来週詳しく語ろう。

 もう1つ最後にしたことは、レベル用のメカニズムを見つけることだった。新ファイレクシアのほとんどの住人はファイレクシア人だが、なんとか生き延びている少数のミラディン人も残っていた。このセットで彼らを、理想的にはドラフト・アーキタイプとして、表現したかった。そして、彼ら専用のメカニズムに値すると考えたのだ。

 我々は、ファイレクシア人の何かに一捻り加えて、レベルのためのメカニズムにしたいと考えていた。生き延びるというのはファイレクシア人の何かを吸収するということだと考えたのだ。列記したものを振り返ると、我々が使っていない中で最もファイレクシア人らしいものが生体武器だった。これを、0/0の細菌から何か別のものに変えて使えないだろうか。そうだ、レベルだ。

 クリーチャー・タイプのレベルの初登場は、『メルカディアン・マスクス』の白のクリーチャーで、自分以外のクリーチャーを探してくることができる名前のないメカニズムを持っていた。このクリーチャー・タイプの再登場について話し合っていたが、ふさわしい場所がなかったのだ。(『戦乱のゼンディカー』でエルドラージと戦う人々がいい線を行っていたが、彼らは同盟者というクリーチャー・タイプを持っていた。)今回こそ再登場にふさわしい。

 すべての装備品がタフネスを強化しなければならなかったという生体武器の問題点を解決するため、このトークン・クリーチャーを少し大きくするというアイデアを採用した。最初に試したのが、2/2だった。うまく働いたので、再検討はしなかった。展望デザインで、我々はこのメカニズムを武器を取れ/take up armsと名付けた。(感嘆符はまだ使われていなかった。)

 展望デザイン提出文書の時点で、このセットには有毒、堕落、油カウンター、浸油、執拗、武器を取れ があったのだ。この記事の第2部で、セットデザインがこれらのメカニズムをどうしたかを解説していく。

 それでは、終わる前に、プレビュー・カード2枚をお見せしよう。1枚は(有毒からできた)毒性と増殖を持つ。もう1枚は油カウンターを使っている。

クリックして「ふくれた汚染者」を表示

クリックして「記念ファサード」を表示

「私を完成化する」

 本日はここまで。いつもの通り、今日の記事や私が語ったメカニズム、『ファイレクシア:完全なる統一』のセットそのものについての感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、この話の第2部でセットデザインの話をする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたがファイレクシア人たることを楽しめますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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