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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『ユニバースビヨンド』のデザイン

Mark Rosewater
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2022年9月12日

 

 マジック:ザ・ギャザリング ユニバースビヨンド 『統率者デッキ:Warhammer 40,000』のプレビューにようこそ。『統率者デッキ:Warhammer 40,000』4種のリード・デザイナーを務めたイーサン・フライシャー/Ethan Fleischerによる、この製品のデザインの話は9月19日、来週の月曜日に公開されるので(英語)、私は一歩引いて、『ユニバースビヨンド』製品をデザインする上での大きな問題について語ろうと思う。例示としては『Warhammer 40,000』を多く使うことになる。いくつかの問題については私が軽く触れてイーサンがより深く掘り下げるものもある。また、クールな『Warhammer 40,000』のプレビュー・カードも用意してある。

 『ユニバースビヨンド』は、マジックを他の知財(IP)に持っていくものだ。これは多くの大きな利点を生み出すが、同時にいくつもの課題がある。今日の記事ではそれについて語っていこう。

 まず利点だ。

利点#1:マジックを新しいユーザーに紹介できる。

 ゲームとしてのマジックが乗り越えるべき最大のハードルは何かと問われれば、私は、高い参入障壁だと答えるだろう。私にとって、マジックは世界最高のゲームだが、かなりの複雑さを伴っている。プレイを学ぶことは非常に怖気づかせるものだと言える。そのゲームには2万以上の要素がある。総合ルールという本は1センチ以上の厚さがある。メタゲームは常に変わり続けている。そしてプレイの仕方が多数存在している。本当に多いのだ。つまり、人々をこのゲームに引き込むための鍵は、最初の躊躇を乗り越えるために十分な引き込むものを見つけることなのだ。そのための素晴らしい手段が、相手の好きなIPを使うことである。『統率者デッキ:Warhammer 40,000』で我々が興奮している理由の1つが、Warhammer 40,000にはマジックを楽しんでくれるであろうファンが多くいることなのだ。(また、同様に、Warhammer 40,000を楽しんでくれるマジックのファンも多くいるだろう。)

利点#2:トップダウンのデザインは新しいデザインの発見につながりうる。

 私はしばしば、マジックのそれぞれのデザインを新しい視点から始めようとする方法について語ってきた。創造的であるための鍵は、これまで扱ったことのないカードやメカニズムやテーマに行き着くようなデザインを進める新しい手法を見つけることである。新しいIPはそのための素晴らしい方法なのだ。それはデザイナーに明瞭な目標を与え、それをマジックのメカニズムに適応させる方法を見つけることはしばしば新規のデザインにつながるのだ。実際、イーサン率いるデザイン・チームは(帝国の諸軍デッキで)分隊という将来も使われる事がありうる新規のメカニズムを作り上げた。(知らない諸君のために説明すると、分隊は、追加で一定量のマナを望む回数支払うことでそのクリーチャーのコピー・トークンを作るというクリーチャーのメカニズムである。)

利点#3:多くの芳醇さを使うことができるようになる。

 この記事でしばしば語ってきた通り、芳醇さはマジックのデザイン(に限らずあらゆるゲームのデザイン)において重要なリソースである。プレイヤーにゲームを心から気に入ってもらいたいなら、彼らに訴えかけるような要素を作らなければならない。そのための最も簡単な方法の1つが、相手がすでに意識しているものを使うことなのだ。もちろん、そのIPのファンはそのIPが気に入っているが、そのIPに馴染みがないプレイヤーでさえそのIPで用いられている素材の多くを認識することになる。このことから、『ユニバースビヨンド』のセットは非常に芳醇なものになる傾向がある。

利点#4:マジックの限界を押し広げる。

 これほど長い間マジックを手掛けてきている間に見つけた真理の1つが、このゲームは認識しているよりもずっと多くのことができるということである。マジックを特別なものにしていることの一部には、マジックが進化・変化し続けていること、常に新しい限界へと向かっていること、マジックに可能なことが常に定義され直していることがある。『ユニバースビヨンド』はマジックを全く新しい方向に進めることになり、それは多くのプレイヤーに多くの楽しみをもたらすに違いないのだ。

 さて、利点について語ってきたが、ここからは『ユニバースビヨンド』製品を扱う上でのデザイン上の課題の話について語ろう。

課題#1:色が常に均等とは言えない。

 私は、カラー・パイはマジックの核だと考えている。メカニズム的にもクリエイティブ的にもマジックを作り上げている要素なのだ。カラー・パイ以上に多く私が語ってきた話題はない。(これまでカラー・パイについて語ってきた記事の一覧がここにある。)また、マジックに取り組む相手などに対して、カラー・パイについてスピーチしたことは何度もある。そのスピーチは、「マジックの秘伝のソース」と呼ばれている。これまでに何度も黄金の三本柱、すなわちリチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldがマジックを作ったときに持っていた3つの天才的アイデアのことを書いてきたが、その1つがカラー・パイであり、あと2つがトレーディング・カードゲームというジャンルと、マナ・システムである。マジックにとっての重要さは、いくら強調してもし足りないと考えている。(参考:英語記事)

 カラー・パイを正しく扱うため専門のグループ、色の協議会を作っているほどである。大げさに言えば、カラー・パイの中心を正しく定めなかったマジックのセットは失敗しているのだ。

 これは、他のIPと関わるときに大きな課題になる。なぜか。カラー・パイがマジックにとって非常に重要なので、我々はそれをマジックのIPの基柱にしているからである。白青黒赤緑の各カードがどのセットでも同数入っているのは、そうできるように次元を作っているからである。他のIPはそれを考慮してデザインされてはいないので、他のIPを取り上げてカードを該当する色に振り分けると、自然と色の不均衡が生じるのだ。例えば、Warhammer 40,000の世界では、黒寄りの概念が多く、緑寄りの概念は少ない。第一の目標がWarhammer 40,000の最高のゲームが作れるようにすることなので、優先されることが異なっているだけなのだ。しかし、これは、他のIPをマジックに割り当てる上では課題がありうるということである。『統率者デッキ:Warhammer 40,000』では、5色すべてが存在はしているが、均等に表されているわけではない。青と黒はデッキ3つに入っているが、赤は2つ、緑と白は1つにしか入っていない。相当幸運でなければ、他のIPで色が均等であることはないのだ。

 これは、マジックの中でさえそうなのだ! 例えば、イニストラードは黒寄りの次元である。しかし我々が作っているものなので、セットを作るにあたって調整できる。もちろん、我々は人狼を単体では黒緑にしたいと考えていたが、なぜ赤緑なのかという理由を見つけることができたのだ。その選択が唯一の選択であると思えるように、その次元に仕込むこともできる。我々はマジックのIPを形作るので、需要に応じて調整できるのだ。他のIPに関しては、その自由は存在しない。

 しかしながら、我々は何を『ユニバースビヨンド』のゲームに取り込むかについて慎重になることができる。Warhammer 40,000を例に取れば、全体として緑は少ないが、巨大なIPであって大量の要素が含まれているので、製品に何を取り入れるかを選ぶことができ、多くの緑の要素を入れることができたのだ。

 強調しておくべきことは、パートナーと協働する上で、彼らには彼らの優先することがあり、我々はそれを尊重しなければならないので好きにできるわけではないことである。パートナーはそのIPの専門家であり、そのIPを成立させるのは何か、そのIPのファンが見たいのは何かを一番良く知っているのだ。(これについては課題#8で詳しく述べる。)

課題#2:他のIPの概念がマジックのカラー・パイに沿うとは限らない。

 これは先程のものと関連する話題である。ほとんどの場合、マジックはそのIPをデザインしているので、明白に色に位置づけられている。クリーチャーを赤にしたければ、他の色のほうがふさわしいと感じるような性質を持たせないようにする。他のIPでは、そういう贅沢はできない。他のIPのキャラクターやクリーチャーは、マジックでは同時に持たせることがないようにしている性質を併せ持つことがある。そういう場合、我々にはいくつかの選択肢がある。多色カードや色違いの起動コストを使って、そのカードを複数の色だと感じさせることもできるが、それが成立しないこともある。実際、『Warhammer 40,000』のティラニッドのデッキは緑青赤である。黒緑が最もふさわしい性質があっても、このデッキにはその色の組み合わせは入らない。

 同じような問題が、キャラクターがどの色かを決めるにあたっても存在しうる。すでに成立しているキャラクターは複数の性質を示していて、1色や2色だけで表すのは難しい場合があるのだ。もちろん、3色以上にすることもできるが、人気のキャラクターをできるだけ多くのデッキで使えるようにしたいし、作る製品に入れられるようにしたいので、多色は少数になる。その結果、既存のキャラクターの色を選ぶのは難しい問題になり、全員が同意できるような選択ができるとは限らないのだ。私のブログ(英語)で、プレイヤーが私に、他のIPのさまざまなキャラクターがどの色なのかという質問をしてくるが、正解が1つだけとはことが多いのは明らかなのだ。

 3つ目の問題は、概念は明らかに特定の色だが、そのIP内の関連するものと色が合わない場合に生じることがある。例えば、あるキャラクターがある色の組み合わせでありるとき、それに関係するキャラクターやものが別の色である場合がありうる。統率者デッキを特定の色にしているので、そのIPで一緒にあるものを同じデッキに入れることができないという問題が生じることになるのだ。

課題#3:クリーチャーの正しい比率が存在するとは限らない。

 色の問題と関連した問題が、「クリーチャー格子の問題」と呼ばれる問題である。新しいマジックの次元を作る場合、クリエイティブ・チームはクリーチャー格子と呼ばれる、各色の大小のクリーチャーを揃えた表を埋めていく。すべてのマジックのセットでは、各色に各サイズが必要なので、マジックの次元を作るときにはこれがクリエイティブの工程に組み込まれている。色同様、これも他のIPにおいては必須ではないので、彼らがしているとは限らない。実際、多くのIPでは、さまざまなクリーチャーがいるようにすることは考慮すらされていない。多くのIPでは人間に焦点が当てられているので、製品を作れるだけのクリーチャーを揃えることは課題になるのだ。幸いにも、Warhammer 40,000にはこの問題はなかった。Warhammer 40,000はゲームであり、そのためにさまざまなクリーチャーが必要だったので、マジックにはちょうどよかったのだ。

課題#4:メカニズム的必需品が欠けている。

 マジックには、ゲームとして、どのセットでも必要な要素がある。これまで何度も、どのファイルにもそれらの要素が入っているようにするために我々が使っているデザイン骨格の話をしてきた。すべてのIPにそういう要素があるわけではない。この典型例が、回避能力である。マジックは、クリーチャーに非常に重きをおいている。何もなければ、どちらのプレイヤーも攻撃できないクリーチャーの膠着状態に陥ることになるだろう。この問題を解決するため、どのセットにも膠着状態を打開できるような回避能力が入っている。回避能力の代表格が、飛行である。

 さて、IPによっては、空を飛ぶクリーチャーがあまりいないことがある。そのような近日発売のセットでは、充分な数の飛行クリーチャーがいるセットをデザインすることは課題になる。他の回避能力を使うこともできるが、他のIPにある課題の一例なのだ。

 この問題の派生として、カードの特定の効果を示すために用いることができるものがそのIPに存在しないということもありうる。《巨大化》は、クリーチャーがサイズ的に大きくなることを表している。すべてのIPにこの発想が組み込まれているわけではないので、《巨大化》カードの概念付けをするときに問題になる場合がある。これらの問題はクリエイティブ的に解決されることが多いが(《巨大化》は物理的に大きくなるのではなく力の奔流を表しているのだ、とか)、それはセットを作る上でクリエイティブ的な花台が増えることになる。

 『Warhammer 40,000』での問題を例に取ってみよう。Warhammer 40,000のゲームはウォーゲームなので、両陣営は(ミニチュアで表される)戦闘員の軍勢をもってゲームを始める。時間とともに、戦闘が起こり、プレイヤーたちはリソースを失っていく。ゲームデザイン的に、これを「摩耗のゲーム/game of attrition」という。すべてのリソースを持って始めて、時が経つにつれて失っていくのだ。

 それと対象的に、マジックは時が経つにつれてリソースを得るゲームである。つまり、何かを得るという概念が大量に必要になる。Warhammer 40,000にもないわけではないが、その需要の中心ではないのでマジックが必要とするほどの量は存在していないのだ。

課題#5:マジックはそのIPの中核的概念を表現できない。

 この問題は先程のもののちょうど反対である。他のIPには、マジックのカードでは意味をなさない中核的要素があることがある。たとえば、マイリトルポニーの(数年前に出した3枚組のではなく)セットを作るとしよう。マイリトルポニーIPの中核は友情である。友情は魔法だが、それをマジックにするのは簡単ではない。対立を元にしたゲームで再現するにはおかしな概念なのだ。マジックにはさまざまな表現があるが、とはいえ7つのカード・タイプに限られており、プレイヤー同士が戦うゲームで意味が通らなければならない。他のIPを扱うとき、簡単にはマジックのカードとして表せないようなアイデアが思いつくことはよくあることなのだ。

課題#6:カードが初期に「固定」される。

 マジックのセットを作る鍵は、デザイナーが反復工程を重ねて変更していくカード・ファイルを作ることである。時を経て、カードは「固定」される、つまり変更できないものになっていく。これはどのセットでも少しは起こる。カードが物語上重要な人物や物品を表している場合、デザイナーがそれが合うように言われている。

 『ユニバースビヨンド』ではこの問題が大きく増えることになる。他のIPを再現する場合、重要なのは、そのIPの鍵となる要素を再現したカードを可能なかぎり多くすることである。つまり、多くのカードが初期に固定されることになり、デザインが進化するにつれて変化させることが非常に難しくなるのだ。

 ただしこれには利点もあり、カードで描かなければならないものがわかっているのでアートの発注はずっと単純になる。ただしセットデザインの後期に調整するデザインの柔軟性は大きく損なわれることになる。

課題#7:カードの再録が難しくなる。

 統率者線のようなエターナル・フォーマットの人口が増えるにつれて、製品に再録カードを入れてほしいという要求が高まっている。『ユニバースビヨンド』では、カード名がそのIPで通じなければならないので、再録できるかどうかにもう1つの条件が増えることになる。単語の示すものに新しい意味付けをすることは可能で、その結果楽しい再録カードが生まれることは多いが、特にマジックのIPに関わるようなカードについては使うのが難しい。これは通常のマジックのセットでも言えること(次元特有のものは他の次元では難しい)だが、『ユニバースビヨンド』ほどではないのだ。『Warhammer 40,000』でこれを示している事実として、イーサン率いるデザイン・チームが再録できたクリーチャーは1枚だけだったのだ。

課題#8:懸念すべきことが多くなる。

 他のIPと『ユニバースビヨンド』で関わるとき、我々はマジックの懸念とそのIPの懸念に取り組まなければならない。他者のIPを扱う場合、そおのIPの問題に敏感であることは重要である。我々は良きパートナーであるべきで、可能なかぎりそのIPらしさを感じてもらいたいのだ。この結果として、セットが取り組まなければならない懸念が増えることになる。通常のセットよりも制約が増えることになり、解決すべき問題が増えることもあるが、常々言う通り、制限は創造の母である。それらの制約が、そのセットの独自性を感じさせる助けになることだろう。

 今日の締めくくりに入る前に、しなければならないことがある。プレビューすべき『Warhammer 40,000』のカードがあるのだ。このカードは、ティラニッドのデッキに入っている。

クリックして恐怖の武器を表示

 我々開発部が『ユニバースビヨンド』についてデザインの観点からどう考えているのかを表す一助になれば幸いである。クールな『ユニバースビヨンド』製品はいくつも進行中で、その多くはまだ公開されていないので、諸君にお見せする日が楽しみだ。さて、いつもの通り、今日の記事や回答、そして『Warhammer 40,000』についての反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、ついに『Unfinity』のデザインについて語りプレビューを始める日にお会いしよう。

 その日まで、あなたがWarhammer 40,000の世界の探索を楽しんでくれますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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