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Making Magic -マジック開発秘話-
マジックのデザイン・AからZ その3
2022年7月25日
先々週と先週(その1、その2)、AからZまでの26枚のカードのデザインの話をしてきた。先週はQまで進んだので、今週はRから始めよう。
R-Rofellos, Llanowar Emissary《ラノワールの使者ロフェロス》
マイケル・ライアン/Michael Ryanと私が最初のウェザーライト・サーガの物語を書いたとき、ジェラードがウェザーライトを離れる理由が必要だった。物語上の鍵となる要素は、ウェザーライト号の乗組員が現れ、シッセイを助けるためにジェラードの助けが必要だと言うことだが、ジェラードが戻ってくるためには、いったんいなくならなければならない。ウェザーライトとレガシーは彼の運命なので、そのためには重大な理由が必要だと思った。
かなりの議論を経て、我々は、彼に親しい誰かの死しかないと判断した。ジェラードとミリーを親友にするため、我々は彼らをムルタニのもとで学んだとしていた。もう1人誰かともに学んだ人物をウェザーライト号に加えたらどうか。そして、その人物の死によってジェラードとミリーが船を離れるのはどうか。大きな問題は、そのキャラクターが誰なのかである。
我々が最初の乗組員を決めた時、私は、必要になるかもしれない多くのキャラクターの類型のリストを作った。その中で居場所がなかった1人が、ラノワールのエルフだった。これは最終的にロフェロスになった。マイケルと私はかなりの時間をかけてロフェロスについて書いたが、そのほとんどはジェラードとミリーの背景としてだった。ロフェロスがカードになるとはまったく思っていなかったのだ。彼は、物語が始まる前に死んでいたのだ。
しかしその後、私が予想していなかったことが起こった。マイケルと私が物語から離れて、新しいチームはウルザがどう物語に関わるのかを示すために時を遡ることに決めたのだ。(もとの物語でも緩い繋がりはあったが、書き直し版では関わりがずっと大きくなった。)ウルザは実際、これに関わるサーガ(とレガシーとデスティニー)全体を得ることになった。
最終的に私が『ウルザズ・デスティニー』のデザインをリードしたとき、私は、ロフェロスのカードを作る機会が訪れたことに気がついた。エルフは人間より長命なので、『ウルザズ・デスティニー』の時代にも生きていた可能性があるのだ。彼はラノワールのエルフなので、その中で強烈なものにすることにした。タップして{G}を出すのではなく、自軍の森1つにつき1点の{G}を出すのだ。ロフェロスはこうして非常に強くなった。(あまりにも強いので、現在、統率者戦では禁止されている。)
S-Scragnoth《スクラーグノス》
私の知る限り、これはマジックのセットにおいて私がデザインして印刷に到った初めてのカードである。私が初めて組んだデッキは、緑単色だった。私が初めて開いたパックには《大喰らいのワーム》が入っていて、私はそれに魅せられたのだ。私が組んだ2つ目のデッキは、青単色だった。なぜ初期に単色デッキばかり組んでいたのかは覚えていないが、2色以上をプレイできると気がついていなかったのだろう。
初期には大会というものはなく、マジックをプレイしている友人もいなかったので、私は自分自身だけでよく対戦していた。デッキを2つ作り、それらがお互いにどうプレイするかを見ていたのだ。対戦相手の手札を知らないものとして最善を尽くして判断していた。ともあれ、私がプレイした対戦の中で、「緑単色」対「青単色」が最も多かったのだ。
その対戦で私が困ったことの1つは、青は緑の脅威に対策があるけれども、緑には青の脅威に対策する手段が事実上ないことだった。そのことから私は、私の初めてのデザインだと思われる、カードをデザインした。〈滑るイタチ〉というそのカードは、プロテクション(青)を持つ緑のクリーチャーだった。プロテクションの働きを完全に理解してはいなかったが、青がそれに干渉できないということはわかっていた。青では打ち消し呪文もできないと思っていたのだ。それから何か月か経ってプロテクションの働きを理解して、打ち消し呪文は止められないとわかったので、私はそれに「打ち消されない」を加えた。
数年後、私は初めてリードする『テンペスト』のデザイン・チームで、これをセットに入れたのだ。誰もがこれを気に入ったので、採用された。テンプレート化するにあたって、エディター(確かダーラ・ウィリス/Darla Willis、のちのダーラ・ケネルッド/Darla Kennerudだったと思うが自信はない)は「この呪文がスタックにある間、これはインスタントの対象にならない」のような長いテンプレートを使いたがっていたが、私が「『打ち消されない』とは書けないか?」と言ったのだ。そして長年の間、《スクラーグノス》は青のプレイヤーから見た頭痛の種になったのだった。
T-Triangle of War《戦争の三角》
『ビジョンズ』のデベロップ中のある日、ビル・ローズ/Bill Roseは《戦争の三角》のアートとなる絵を取り出した。いくらか脚色はあるが、そこでの会話は次のようなものだった。(ビルと私だけの会話になっているが、チーム全体が会話していたと思ってくれたまえ。)
ビル:この絵を見てくれるか? これのカードを作る必要がある。
私:これは何だい?
ビル:知らん。
私:ああ、いや、なぜこれのカードを作る必要があるのか、と。
ビル:これはブースター・ボックスに描かれることになった。
私:なぜこれがブースター・ボックスに描かれることに?
ビル:知らん。これが発注されて、ボックスアートになることになっている。私の管轄ではない。向こうから、これのカードを作るように言ってきたのだ。
私:そうなると、これは何だ、という話に戻ることになるね。
ビル:これはクリーチャーにはできなさそうだ。肉体がないからな。
私:インスタントやソーサリーにするには動きがない。
ビル:おそらくはアーティファクトかエンチャントだろう。
私:これには怒りが見て取れる。
ビル:攻撃的な何かを推進するのはどうだ。
私:《闘技場》(雑誌プロモカード)を使い捨てのアーティファクトにしたいという話はあるね。クリーチャーをお互いに戦わせるんだ。
ビル:それだ。よし。
最初から最後まで(コストは後に調整されたかもしれない)、このカードは3分未満でデザインされたものだった。
U-Urza's Factory《ウルザの工廠》
ミケランジェロは、大理石の塊の中に最初から像はいると言っていた。彼の仕事は、その周りのものを取り除くことだと。様々な意味で、《ウルザの工廠》は我々が作ったというよりも見つけ出したデザインだと言える。その成り立ちは次の通り。
『アンティキティー』はマジックの2つ目の拡張セットで、メカニズム的テーマ(アーティファクト)と物語(兄弟戦争)があった初めてのセットである。物語の舞台を描写するため、デザイン・チームは兄弟それぞれの名前がついた土地をいくつか作った。ウルザには、今日ウルザトロンと呼ばれている土地(《ウルザの鉱山》《ウルザの魔力炉》《ウルザの塔》)が作られた。ミシュラには、《ミシュラの工廠》と《Mishra's Workshop》が作られた。これら5種類の土地はどれも競技プレイでよく見かけられるものになった。
『時のらせん』のデザイン中、我々は過去のデザインを連想させるような新デザインを作ろうとしていた。ウルザ土地やミシュラ土地は非常に象徴的なものだったので、それらに調整を加えた1枚を作れないかと考えたのだ。初期の考えの1つが、この土地のウルザとミシュラを入れ替えられないかということだった。ミシュラの鉱山、ミシュラの魔力炉、ミシュラの塔は3枚で作らなければ成立しないのは明らかだった。ミシュラトロンを作るか、作らないか。そして当時はセットに3枚分の場所はないと判断したのだ。そうなると、後は、《ウルザの工廠》かウルザの作業場か、だった。どちらもクールに思えた。
次に気がついたことは、ウルザ土地の起動コストをウルザトロンで生み出せる不特定マナ7点にするのがクールなのではないかということだった。(当時はまだ無色コストは存在しなかったので、無色マナ7点という発想はなかった。)7マナにふさわしいものは一体何だろうか。考えた結果、2/2の無色のトークンを生成できると気がついた。ウルザとミシュラに関係がある2/2の無色のトークンがある、そう、《組立作業員》だ。そうなると、2/2の《組立作業員》に言及した初めてのカードが《ミシュラの工廠》だった(マナを支払って《組立作業員》になる)ので、《ウルザの工廠》こそがふさわしい選択に思えるようになったのだった。また、今日、土地はフェッチランド(やわずかな例外)以外必ずタップするとマナを出せるものなので、タップして無色マナを出すこともできる。
振り返ってみると、我々はこのカードをデザインしたとはいえ、むしろこのカード自身がデザインしたようなものであり、我々はただの観客としていただけだと思う。
V-Vizzerdrix《ヴィザードリックス》
1990年代後半(確か1998年だったと思うが、1~2年違うかもしれない)、開発部内の研究所を舞台にした一連のマジックのコマーシャルが作られた。その前提として、開発部はカード化されるあらゆるものを試す巨大な科学組織だ、となっていた。そんなコマーシャルの1つが、「ふわふわうさちゃん」と呼ばれるものだった。こちらから見ることができる。
このコマーシャルの中で、開発部はプロレスラーとウサギを組み合わせて『テンペスト』のカード《ケザードリックス》を作っている。
この広告を作った代理店は、マジックのカードを見て、そしてコマーシャルにふさわしいと考えたこの1枚を選んだのだ。我々はこの一連のコマーシャルが非常に気に入って、これを使って新規プレイヤーをマジックに招き入れたいと考えたが、《ケザードリックス》は新規プレイヤー向けではないという懸念があった。そこで我々は新しい怪物的ウサギのクリーチャーを当時最新の初心者向け製品『Starter 1999』のために作ることになったのだった。入っているデッキは赤単色と青単色で、赤単色デッキには他のコマーシャル(2本作られていた)で取り上げられていた《オーグ》が入っていたので、怪物的ウサギは青のデッキに入れることにした。こうしてできたのが《ヴィザードリックス》である。6/6になったのは、ゲームプレイ上単純に保つためだった。〈プードル少年〉(と〈経理部のボブ〉)は、日の目を見ることがなかった『Unglued 2』に登場することになっていた。(それらのカードについては、こちらの記事で見ることができる。)
W-Wasteland《不毛の大地》
初期のマジックのデザイナーであることの楽しみの1つは、壊れたカードの再デザインをして、失敗して、いくらか弱いがまだ壊れているカードを作ることができることだった。《不毛の大地》はまさにその好例である。『アンティキティー』には、《露天鉱床》というカードがあった。
土地1枚を出すというコストだけで、タダで土地1つを破壊できたのだ。これに非常に問題があると誰もが気づくのに時間はかからなかった。実際、《露天鉱床》は禁止された初めての土地のはずである。
ともあれ、『テンペスト』のデザイン中に、私は、《露天鉱床》の「訂正版」を作る必要があると考えていた。私は《露天鉱床》の問題点は基本土地を壊せることにあると判断し、新カードは基本でない土地だけを壊せるようにしたのだ。その結果、広いフォーマットでは、基本土地がそれほどプレイされていないので、基本的に、それらのフォーマット向けの新しい《露天鉱床》を作っただけになった。
《不毛の大地》からは、なにか壊れたものを訂正しようとする場合、最初に思ったよりもずっと弱くする必要があることが多い、という価値ある教訓が得られた。あるいは、よりよい教訓としては、楽しくないものの訂正版を作る必要はない、ということかもしれない。
X-X〈ミスターX〉
「アン」カード(あるいは少なくとも銀枠/どんぐりカード)を作る中で楽しいことの1つは、カードをデザインするために使える道具がずっと多いことである。その典型が〈ミスターX〉である。
私が〈ミスターX〉をデザインしていたときの目標は、熟練のスパイを作ることだった。熟練のスパイは何をするのか。通常のセットであれば、対戦相手のものを様々な方法でいじることになるが、中でも常に問題があることといえば相手の手札にある呪文を唱えることである。我々は何度も試みてきたが、大成功を収めたことは一度もなかったのだ。しかしこれは「アン」カードなので、少しばかり型破りなことを試すことにした。〈ミスターX〉が対戦相手の手札に入り、そこから呪文を唱えるというのはどうだろうか。対戦相手のカードを唱えることができるカードの最大の問題は、それがある時点で起こり、対戦相手はその唱えられそうな呪文を唱えることで対応できてしまうことだった。しかし、〈ミスターX〉が手札にあるなら、対戦相手ができない可能性を見つけることができる。
以下は、そのデザインの進展である。このカードの能力はあまり変わらなかった。この機会に、テンプレート化が難しいカードを表現する試みをお見せすることにしよう。最初のデザインはこうだった。
〈最高の工作員〉(バージョン#1)
{4}{U}{B}
伝説のクリーチャー ― スパイ
4/4
すべての領域で、あなたはこのカードをコントロールする。
{U}{B}, {T}:プレイヤー1人を対象とする。[カード名]をそのプレイヤーのライブラリーの上から3枚目に表向きで置く。このカードが対戦相手の手札にある間、あなたはそのプレイヤーの手札を見てもよい。
{2}{U}{U}{B}{B}:あなたはマナ・コストを支払うことなくそのプレイヤーの手札にあるカード1枚をプレイしてもよい。この能力はあなたのターンで、このカードが対戦相手の手札にあるのでなければプレイできない。
基本コンセプトが一番最初からあったことは見てわかるだろう。〈ミスターX〉は対戦相手の手札に忍び込み、そこからカードを唱えるのだ。〈ミスターX〉が対戦相手の手札にあるときに使う方法を示すため、すべての領域でこれをコントロールする、から始めている。
〈最高の工作員〉(バージョン#2)
{U}{B}
伝説のクリーチャー ― スパイ
2/2
すべての領域で、あなたはこのカードをコントロールする。(コストを支払えるときならいつでも、あなたはこれの能力を起動できる。)
{U}{B}, {T}:対戦相手1人を対象とする。[カード名]をそのプレイヤーの手札に入れる。
{U}{B}:対戦相手1人を対象とする。[カード名]がそのプレイヤーの手札にあるなら、その手札を見る。
{2}{U}{U}{B}{B}:対戦相手1人を対象とする。[カード名]がそのプレイヤーの手札にあるなら、あなたはマナ・コストを支払うことなくそのプレイヤーの手札にあるカード1枚をプレイしてもよい。この能力は、あなたのターンにしか起動できない。
次のこのバージョンでは、{4}{U}{B}4/4から{U}{B}2/2に縮んだ。また、ライブラリーを経由するのではなく直接対戦相手の手札に入るようになった。これ以降〈ミスターX〉のマナ・コストやパワー/タフネスは変わらなかったので、ここからはメカニズムをどう文書化するかを試みていたルール・テキストだけを見せていこう。
〈ミスターX〉(バージョン#3)
すべての領域で、あなたはこのカードをコントロールする。(コストを支払えるときならいつでも、あなたはこれの能力を起動できる。)
{U}{B}, {T}:対戦相手1人を対象とする。[カード名]をそのプレイヤーの手札に入れる。[カード名]が対戦相手の手札にある間、あなたはいつでもそのプレイヤーの手札を見てよい。そのプレイヤーはこのカードを唱えられない。
{3}{U}{B}:対戦相手1人を対象とする。[カード名]がそのプレイヤーの手札にあるなら、あなたはマナ・コストを支払うことなくそのプレイヤーの手札にあるカード1枚をプレイしてもよい。この能力は、あなたのターンにしか起動できない。
このバージョンで、起動コスト(それぞれ{U}{B}と{3}{U}{B})と、〈ミスターX〉が対戦相手の手札にあることの一部として対戦相手の手札を見る効果があることが固定された。以下のバージョンはどれも、基本的にテンプレートが変更されているだけである。
〈ミスターX〉(バージョン#4)
これが対戦相手の手札にある間、[カード名]のオーナーはこれをコントロールする。
{U}{B}, {T}:対戦相手1人を対象とする。[カード名]をそのプレイヤーの手札に入れる。[カード名]がそのプレイヤーの手札にあるかぎり、あなたはそのプレイヤーの手札を見てもよい。(そのプレイヤーはこのカードを唱えられない。)
{3}{U}{B}:対戦相手1人を対象とする。あなたはマナ・コストを支払うことなくそのプレイヤーの手札にあるカード1枚をプレイしてもよい。この能力はあなたのターンでこのカードが対戦相手の手札にあるのでなければ起動できない。
このバージョンでは、すべての領域に言及するのではなく、〈ミスターX〉が意味を持つ、対戦相手の手札にある場合だけに言及している。プレイヤーがこのカードをプレイできないというのはルール・テキストから注釈文になっているのは、対戦相手の手札にある間、これのコントローラーがそのプレイヤーではないことから導かれるからである。(対戦相手に〈ミスターX〉を唱えてほしくはない。)2つ目の能力は、テキストの異なる要素が入れ替わっている。
〈ミスターX〉(バージョン#5)
これが対戦相手の手札にある間、[カード名]のオーナーはこれをコントロールする。
{U}{B}, {T}:対戦相手1人を対象とする。[カード名]をそのプレイヤーの手札に入れる。[カード名]がそのプレイヤーの手札にあるかぎり、そのプレイヤーは手札を公開した状態でプレイする。(そのプレイヤーはこのカードを唱えられない。)
{3}{U}{B}:あなたはマナ・コストを支払うことなくその同じプレイヤーの手札にあるカード1枚を[カード名]としてプレイしてもよい。この能力は、あなたのアップキープにしか起動できない。
このバージョンでは、対戦相手の手札を見るのではなく対戦相手が手札を公開してプレイするようになった。また、〈ミスターX〉が対戦相手の手札になければならないということが前の部分に含まれていると判断して、2つ目の能力からその部分を除いている。ここで大きな問題として、文章が長すぎたので、このセットのエディターであったグレン・ジョーンズ/Glenn Jonesは収まるように文章を削ろうとしている。
〈ミスターX〉(バージョン#6)
これが対戦相手の手札にあるかぎり、これのオーナー(だけ)はミスターXを唱えたりその能力を起動したりしてもよい。
{U}{B}, {T}:対戦相手1人を対象とする。ミスターXをそのプレイヤーの手札に入れる。ミスターXがそのプレイヤーの手札を離れるまで、そのプレイヤーは自分の手札を公開した状態でプレイする。
{3}{U}{B}:あなたはマナ・コストを支払うことなくその同じプレイヤーの手札にあるカード1枚をミスターXとしてプレイしてもよい。この能力は、あなたのターンにしか起動できない。
このテンプレートでは、対戦相手が自分の手札にある〈ミスターX〉を唱えたり起動したりすることができないことを明らかにし、公開効果に持続時間をつけている。
〈ミスターX〉(バージョン#7)
ミスターXがオーナーの対戦相手の手札にあるかぎり、オーナーはミスターXを唱えたりミスターXの能力を起動したりしてもよい。その対戦相手はミスターXを唱えることはできず、自分の手札を公開した状態でプレイする。
{U}{B}, {T}:対戦相手1人を対象とする。ミスターXをそのプレイヤーの手札に入れる。
{3}{U}{B}:あなたはその同じプレイヤーの手札にあるカード1枚を、マナ・コストを支払うことなくミスターXとしてプレイしてもよい。
1つ前のテンプレートはまだ文章欄に入れるには長すぎたので、さらに短くなった。起動型能力のルール・テキストを短くして、対戦相手が唱えたり移動したりできず手札を公開するということを常在型能力に持たせることで解決したのだ。テンプレートの進化についてはあまり見せないが、これは新しいデザイン空間を扱う最も複雑なカードで起こったことである。
Y-Yargle, Glutton of Urborg《アーボーグの暴食、ヤーグル》
ヤーグルは一体どのようにしてできたのか。このスロットは、最初からアンコモンの黒の伝説のクリーチャーに割り当てられていたが、延々とデザインされ続けていた。人間・クレリックから始まり、ゾンビになり、人間・ウィザードになり、またゾンビになり、やがてウーズになった。再録だったこともあれば、歴史的クリーチャーだったこともある。チームはさまざまな選択肢を試していたのだ。
ある時点で、チームは話し合っていたアイデアを採用し、新しいバニラの伝説のクリーチャーを作ることに決めた。(このシリーズのその1で、《今田家の猟犬、勇丸》が初のバニラの伝説のクリーチャーになった経緯を語っている。)そうする上で、数字を単にそれまでしてこなかった組み合わせというだけでなく、バニラ・クリーチャーで見た人たちが心を躍らせるような何か新しいものにする必要があった。チームは{4}{B}9/3と結論付けた。ヤーグルのアート指定は面白いものだった。
舞台:ドミナリア
色:黒の伝説のクリーチャー
場所:アーボーグの沼地(p. 68参照)* この独特の伝説のキャラクターのデザインはおまかせします *
外見:恐ろしい沼の精霊ヤーグルとの出会い。p.74Cのキャラクターの、大きな口と爪と、ちっちゃな足を起点としてください。このクリーチャーは飛べないので、足は地面につけてうださい。これらを踏まえると、少しコミカルなものになるかもしれません。恐ろしい大きな口うつろな眼窩、ねじれた爪、すべてが6本の小さな足で走り回ります。ヤーグルの身体はぼやけて見えにくくなっていますが、口や爪ははっきり確実にあります。ヤーグルは巨大で、15メートルほどもあります。
行動:アーボーグの沼にそびえ立っている。ヤーグルは陰謀団の騎士や兵士の軍勢(pp. 62-65の陰謀団の服装、p.67の騎士参照)と戦っていて、圧倒的に勝っている。馬と騎手を片手で口に放り込みながら他の戦士を潰したりばらばらにしたりしているかもしれない。あるいは、上品に、陰謀団の騎士を旨辛持ち上げて2本指でつまんで食べているかもしれない。ヤーグルの奇妙な比率の身体の上に、陰謀団の兵士1人が必死に斧を振り上げて小さな足を切ろうとしている。(これは重要ではなく、重要なのはヤーグルが恐ろしくて破壊的であるということ。)
焦点:ヤーグル
雰囲気:15メートルの剃刀状の歯と怒れる爪(弱点があるかもしれない)
注意:このカードのメカニズムは、非常に強烈な打撃をするが、反撃には弱く、特殊な能力はない。
ヤーグルを我々が狙ったとおりにユーザーが受け入れたことをとても嬉しく思っている。
Z-Zephid《ゼフィド》
このカードを作ったのは、私が『ウルザズ・サーガ』のデザインを手掛けているときだった。
〈私をセラに〉
{2}{W}{W}
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントしているクリーチャーは、+2/+2の修整を得、飛行を持つ。それは攻撃時にタップしない。
警戒はまだ名前がなかった。私は、オーラがクリーチャーに《セラの天使》の能力を与えるというアイデアを気に入った。そこから私は、2枚目のカードを作った。
〈私をシヴ山のに〉
{2}{R}{R}
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントしているクリーチャーは、+2/+2の修整を得、飛行を持つ。
{R}:ターン終了時まで、エンチャントしているクリーチャーは+1/+0の修整を受ける。
2枚できたら、これのサイクルができるのは明らかだった。黒は当然こうなった。〈私をセンギアに〉だ。緑は最初、〈私を(大地の)怒りに〉だった。(他より大きい)+3/+3とトランプルを与えるのだ。これは、エンチャントであるがゆえにもとのクリーチャーである《大地の怒り》のアップキープ・コストを持たせられなかったので、先の3つに比べて完璧とは言えなかったが、充分近いものにできていたと思う。このサイクルの難しい部分は、青だった。青のエンチャントで何になればいいのだろうか。
初期の青でもっとも象徴的なのは《マハモティ・ジン》だが、ただ飛行を持つだけで、白や黒や赤はさらに追加の能力を持たせている。(増えるパワーやタフネスが大きいのは、緑の「2つ目の」能力だと考えていた。)我々はあらゆる青の飛行クリーチャーを見たが、必要な、2つ目の能力を持つ大きな青の飛行クリーチャーは得られなかった。
解決策は、セットにそのクリーチャーを作り、その後でそのクリーチャーをもとに抱擁を作ることだった。これが《ゼフィド》を作った理由であり、《ゼフィドの抱擁》を作ることができたのだ。被覆を持つ初の飛行クリーチャーであった。(当時はまだ被覆という名前はない。)青にはホマリッドがいて、緑には被覆を持つ地上クリーチャーは多かったが、回避能力持ちは《ゼフィド》が初めてだったのだ。我々はこの2つの能力を組み合わせると強いオーラになると考え、《ゼフィド》は(私が思い出せる限りでは)もとにしたオーラを作るためにデザインされた最初のクリーチャーになったのだ。しかし、《ゼフィド》とはなんだろうか。未だにわかっていない。
「物語の時間は終わり」
私のアルファベット順の話を楽しんでもらえたなら幸いである。過去の多くのデザインを振り 返るのは楽しかった。いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。今日の話やカードについての感想を聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、今年のデザイン演説でお会いしよう。
その日まで、あなた自身のAからZまでのマジック体験がありますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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