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Making Magic -マジック開発秘話-
『ダブルマスターズ2022』との出会い
2022年6月16日
『ダブルマスターズ2022』プレビュー記事へようこそ。今日はまずこのセットのデザインの話をしてから、プレビュー・カード2枚をお見せしようと思う。
今年の『ダブルマスターズ』は初代『ダブルマスターズ』にいくらかの微調整を加えた続編なので、このセットの話を始める前に、初代『ダブルマスターズ』がどのようなものだったかの話をしよう。
初代『ダブルマスターズ』は、332枚(コモン91枚、アンコモン80枚、レア121枚、神話レア40枚)からなっていた。『ダブルマスターズ2022』も332枚だが、内訳は少し違っている(コモン91枚、アンコモン80枚、レア120枚、神話レア40枚、ブースターに必ず入っているカード1枚)。レアが1枚減って、コモンよりもレアリティが低い新カードが1枚入っているのだ。そのカードは《謎めいた尖塔群》といい、マナ基盤を安定させる助けとして作られた新カードだ。(このセットになぜそれが必要だったのかは後述する。)
初代『ダブルマスターズ』は15枚入りブースターで、各ブースターにはそれぞれレアや神話レアが2枚と、プレミアム版(つまり伝統的フォイル加工の)カード2枚が入っていた。これらは『ダブルマスターズ2022』でも継承されているが、16枚目のカードとして必ず《謎めいた尖塔群》が入っているのだ。(これはドラフト・ブースターだけで、コレクター・ブースターは15枚入りである。ただしレアや神話レアは合計4枚入っている。)
この製品をドラフトする場合、各ブースターの第1ピックで2枚取ることになる。こうすることで、レアを2枚ともか、コンボになる2枚か、シナジーの強い2枚か、好きな2枚を取ることができる。そのブースターのそれ以降のピックは1枚ずつ取っていく。つまり、ドラフト1回の間に、2枚ピックするのは3回ということになる。ドラフトのやりかたは『ダブルマスターズ2022』でも同じである。(初代『ダブルマスターズ』のデザインについて詳しく知りたい諸君は、私の記事「ダブル利用」を読んでくれたまえ。)
『ダブルマスターズ2022』では、車輪の再発明は試みていない。初代『ダブルマスターズ』は好評だったので、この新セットでは新しいテーマを同じ構造で扱っているのだ。ブライアン・ホーレイ/Bryan Hawley率いる展望デザイン・チーム(他のメンバーはエリック・ラウアー/Erik Lauerとヨニ・スコルニク/Yoni Scolnik)とセットデザイン・チーム(他のメンバーはミシェル・ロバーソン/Michelle Roberson、ロブ・シュスター/Rob Shuster、レジー・ヴァルク/Reggie Valk)にとっての最大の課題は、デザインにおける「主役」と我々が呼んでいる、基柱にするべき新テーマを見つけることだった。初代『ダブルマスターズ』には、アーティファクト・テーマがあった。『ダブルマスターズ2022』のクールなテーマを作れるのは何だろうか。
そのテーマを見つける鍵は、『ダブルマスターズ』とは一体何化をよく理解することである。(リミテッドの文脈で。構築の観点からは、『ダブルマスターズ』ではプレイヤーが開封して心躍らせるようなカードを大量に供給する必要がある。)
特に熱烈なプレイヤー向け
ほとんどのセットで、我々は特に熱烈というわけではないプレイヤーがそのセットのテーマやドラフト構造を見つけられるようにすることにかなりの時間を費やしている。『ダブルマスターズ』の主なユーザーはマジックを熟知した人々なので、『ダブルマスターズ』にはこの問題は存在しない。そのため、この後に述べるような、通常のセットではできない、さまざまなことができるようになっている。
平均的パワーレベルが高い
再録セットなので(つまり、高いレアリティなどのカードはプレイヤーが構築で必要とするものに寄せられている)、カードは特に強力な側から選ばれることが多い。このセットは通常よりもレアや神話レアが2倍パックに入っていることも加えると、リミテッド環境は平均よりも強烈なものになる。
複雑さが高い
熱烈なプレイヤーはリミテッド環境で多くのことが進行することを扱うことができるので、デザイナーはセット内のテーマの数を増やしたりテーマ内の幅を広げたり(名前のあるメカニズムを使う数を増やすなど)することができる。また、ニュアンスやシナジーを多く組み入れることもできる。
シナジーが多い
パワーレベルや複雑さが高いことから、デザイナーはセット内にお互いに相互作用する高度なテーマ群を組み込むことができる。
レア/神話レアがリミテッドに与える影響が大きい
開封比が倍になることで、通常のドラフトでアンコモンがするような機能をレアに持たせることができる。出現することを前提としたことが可能になり、それらを基柱にした構築も可能性が高まるのだ。各パックの最初のピックが2枚になることでこれは強まっている。
何でも「上げて」いる
上述のすべてから、デザイナーがそれ以外のほとんどのセットではできないであろうう選択をすることが『ダブルマスターズ』のリミテッド環境では可能になっている。すぐに見ていくが、これによって通常のセットの制約下では単にできないことをする可能性が開けているのだ。
すごく心躍るものである
最後に、望まれている再録は心躍るものであるし、その興奮はリミテッド環境にもつながってくる。リミテッド環境で強力なカードでプレイするのは楽しいのだ。
これらすべてから、『ダブルマスターズ』セットでは通常のセットでは成立しないテーマを基柱にすることができる。プレイヤーが好きだったクールなテーマで、このセットで取り上げられるものはあるだろうか。展望デザイン・チームはこう考えた。
『アラーラの断片』は、3色のドラフト・テーマを初めて導入したセットである。(『インベイジョン』ブロックは3色デッキをドラフトすることはできたが、アーキタイプ的にテーマにはなっていなかった。)そのブロックでの3色テーマはどれも、弧3色(断片)だった。『タルキール覇王譚』は楔3色のテーマを導入した。他のセットでも3色のテーマを扱っている(『イコリア:巨獣の棲処』、『ニューカペナの街角』など)が、どれも5種だけだった。『ダブルマスターズ2022』を、10種の3色の組み合わせのどれでもドラフトできる初のセットにするのはどうだろうか。
展望デザイン・チームはこのアイデアを大いに気に入った。マーケティング的に伝えやすく、このセットに人気のテーマを使うことができ、初の試みになるクールなコンセプトである。問題は、それが可能かどうかだった。これまでしてこなかったのにはわけがあるのだ。ドラフトのテーマは重複する必要があり、組み合わせを5つ増やすとなると組み上げるには複雑な構造になる。しかし非常に心躍るものだったので、彼らは試すことを選んだのだ。
「これを作るなら……」
まず最初に、デザイン・チームが直面したパズルの複雑さを説明しよう。ドラフト環境をデザインするに際して、ほとんどのカードが複数のプレイヤーに魅力的であるようにする必要がある。この失敗の例と言えるのが、『ローウィン』である。あのセットでは、8つのクリーチャー・タイプ(エレメンタル、エルフ、フェアリー、巨人、ゴブリン、キスキン、マーフォーク、ツリーフォーク)が重視されていた。クリーチャー・タイプ1つをドラフトしたら、線路に乗ったようなもので、あとはそのクリーチャー・タイプのカードだけに注目するだけになっていたのだ。取り合いになるカード(除去呪文、多相など)もあったが、ほとんどはエルフのプレイヤーがエルフ・カードを全部取ることになり、そのため、どのエルフ・ドラフトでもほぼ同じものになっていた。
それを防ぐため、我々はほとんどのカードが複数のアーキタイプで魅力的になるようにした。例えば、白単色のカードは赤白のプレイヤーと白黒のプレイヤーに魅力的で、緑白や白青のデッキにも入りうるものになっている。特定のカードが必ず特定のアーキタイプに行くということがないので、ドラフトの多様性が高まっているのだ。
これがなぜ問題なのか。3色セットには単色カードと2色カードと3色カードが入っている。この3色カードは、それをドラフトしたいアーキタイプが1つしかないという点で『ローウィン』のエルフのようなものであるが、単色や2色のカードは複数のアーキタイプに魅力的である必要がある。
ここで、10種の3色の組分けを見ていこう。単色カードは6種類の3色デッキに入る可能性がある。(例えば、緑のカードは黒赤緑、赤緑白、緑白青、緑白黒、青黒緑、緑赤青に入る。)2色カードは3種類(緑白は赤緑白、緑白青、緑白黒に入る。)難しい部分は、それぞれのアーキタイプ・テーマが他の9種類のアーキタイプそれぞれと重複しなければならないということである。
ここでは、白青黒を例に取ってみよう。これは他の3色の組み合わせ6種と、2色重複する。(白青が緑白青と赤白青と、青黒が青黒赤と黒緑青と、白黒が緑白黒と赤白黒と重複する。)そして、他の3色の組み合わせ3種と、1色重複する。(白が赤緑白と、青が緑青赤と、黒が黒赤緑と重複する。)つまり、すべてのアーキタイプがテーマ的に他のすべてのアーキタイプと重複し、その中でも大半は2色が重複するということになる。これは、デザイン・チームがその答えがあるのかどうかもわからない複雑な組み合わせだが、彼らは取り組むことにした。
このパズルを解く前に、彼らがしなければならないことがあった。マナ基盤である。どうすれば、4色や5色を可能にすることなく3色デッキが常に必要なマナを得られるようにできるだろうか。マナがあまりにも簡単なら、最終的には「グッドスタッフのスープ」と呼ばれる、最高のカードをすべて詰め込んだデッキに行き着いてしまう。これはドラフトを乱し、最終的にはどのデッキも同じものにしてしまうことになる。
解決策は、2色のマナだけを生み出せる土地を使うことに行き着いた。2色土地をマナ基盤の中心に据えることで3色は可能でも4色5色は難しくすることができる。そこから、プレイヤーが必要な組み合わせの2色土地を手に入れられるようにすることが難しいという別の問題が生じた。
この問題の解決策は、解決策にはよくあることだが、全く別のチームからもたらされることになった。開発部は、どのセットとも直接関わらない大きなデザインの問題に取り組むためにデザイン・チームを組むことがある。そのようなチームの1つが、ドラフトを、何か特定のセットのドラフトではなく全体としてのドラフトを、進化させる方法を探すためのチームだった。どのセットでもできることで、ドラフト体験を向上させることはないだろうか。
この話はそのチームのことではないので今日は掘り下げるのはやめておくが、彼らは重要になるあるアイデアを生み出したのだ。ドラフトが終わった後、タップ状態で戦場に出てどの色を生み出せるかを(プレイ時ではなくデッキ構築時に)選べる2色土地を使えるとしただろうだろうか。それによってドラフトは向上するだろうか。チームは最終的にそれを推薦しないことにしたが、そのアイデア自体は開発部内に残ったので、ブライアン率いるセットデザイン・チームがマナの問題を解決しようとしたとき、解決の選択肢として浮かんだのだ。
これには問題があった。すべてが再録からなる製品の新カードであること。かなりの量で入れなければならないことになる。デッキ構築中にカードの判断が必要であり、それは新規なことである。最終的に、彼らはメリットのほうが大きいと判断し、試すことにしたのだ。各パックに1枚入れるようにし(最初は15枚目だったと思うが、後に16枚目に変更されている)、プレイテストをした。うまくいったので、初期セットデザインのファイルに公式に加えられたのだ。
いよいよアーキタイプ・パズルの番である。これを解くための鍵は、遅く、漸増的な工程であった。各アーキタイプごとにテーマを選び、単色や2色のカードでテーマを可能な限りうまく重複させ、そしてプレイテストをした。その後、すべてのプレイテストのフィードバックを集め、どのテーマがどの程度シナジー的かを調べる。そう、あまりにもシナジーが強すぎて2つのアーキタイプの相性が良すぎるとドラフトが歪んでしまうため、それもまた問題なのだ。
フィードバックの結果、大抵は2つの大きな変更に繋がることになる。1つ目は、アーキタイプ・テーマを調整できて、新しい方向に向かう。2つ目は、テーマ間の重なりのためにデザインされたカードを変更する。ドラフト環境を点アシクするという中には、多くの微妙な調整が含まれるのだ。
また、これは全再録セットなので(《謎めいた尖塔群》は例外である)、すべての作業は既存のカードだけでしなければならないということを思い出してもらいたい。大抵は、デザイン中に2つのアーキタイプを重複させようとする場合、まさにその機能を果たすためのカードをデザインすることができる。『ダブルマスターズ2022』チームにはその選択肢がないので、この作業全てがずっと印象的になる。
各アーキタイプが最終的にどうなったのかを見ていこう。
白青黒
このアーキタイプは明滅の価値が中心である。つまり、明滅(追放して戦場に戻す、白や青)したり、バウンス(手札に戻す、青)や死者再生(墓地から手札に戻す、白や黒)して唱え直すことを必要とする、「戦場に出たとき」の効果を持つクリーチャーが大量に存在する。他方のアーキタイプのテーマに合う効果を選べるので、「戦場に出た」ときの効果は、デザインの道具として特に良い。
青黒赤
このアーキタイプは墓地ミッドレンジである。黒で墓地からクリーチャーを戻し、青や赤で呪文を戻して、強力な脅威を再利用して次第に相手を圧倒するのだ。重複するアーキタイプの要素が同じ要素をどのように活用するかがわかるだろう。例えば、白青黒と青黒赤はどちらもクリーチャーを墓地から戻すことを活用する。
黒赤緑
このアーキタイプは、強力なクリーチャー除去や単体で強力で自給自足な脅威を活用し、少し生け贄シナジーのある、ジャンド(初代『アラーラの断片』ブロックで黒赤緑で支配的だった戦略の名前にちなむ)として知られる人気の戦略を扱っている。青黒赤や黒赤緑の重なりは、その大型ミッドレンジ・クリーチャーと、生け贄テーマに見られる。
赤緑白
このアーキタイプは英雄的アグロである。オーラやコンバット・トリックで自分のクリーチャーを対象にすることで、戦闘で勝利につながるような強力な効果を生み出す。アグロ・アーキタイプとのシナジーを作る上での鍵は、重複色の低マナクリーチャーに注意することである。
緑白青
このアーキタイプは大型ランプである。呪文を使ってマナや土地を増やし、さらなるランプ呪文をプレイし、そしてゲームの勝利に繋がる大型クリーチャーや大型効果を唱えるのだ。この色の組み合わせは、ランプは白よりも赤なので、このテーマから離れていくことになる。
白黒緑
このアーキタイプは+1/+1カウンターが中心である。クリーチャーが最も多く、クリーチャー強化も最も多い3色である。軍勢を作り、それを強化し、攻撃して勝つ。このデッキは質も量も増やすことができるのだ。他のアーキタイプでも、大きな戦略の一部でなくても、クリーチャーを強化するために使うことができるので、+1/+1カウンターはテーマとして良いものである。
青赤白
これは果敢アーキタイプである。特に戦闘中にクリーチャーでない呪文を唱えるたびに利益を得るクリーチャーをプレイする。呪文の濃い色である青と赤で、果敢は特にうまく作用する。コンバット・トリックと小型攻撃的クリーチャーが濃いのは白と赤である。
黒緑青
これは墓地成長のアーキタイプである。このデッキは、自分の墓地を扱う色である黒や緑で自分の墓地が肥えることで利益を得る。また、この3色は自分の墓地を肥やすことが得手である。黒はパーマネントを生け贄に捧げることと切削が得意、青は切削とルーター(引いて捨てる)と呪文を唱えることが得意、緑は根囲い(自分のライブラリーから切削し、そのカードに応じて利益を得る)が得意だ。
赤白黒
このアーキタイプは生け贄デッキである。この3色はトークン生成が得意で、2色(赤黒)はクリーチャーを生け贄に捧げることが得意である。このデッキには大量の使い捨てのしもべを作り、それをゲームの勝利につながるアドバンテージに変換することが多い。生け贄テーマは他のいくつかのアーキタイプと重複することがわかるだろう。
緑青赤
このアーキタイプはミッドレンジである。赤や緑でマナや大型クリーチャーを使い、青や緑でカードを引き、青や赤の呪文でテンポを取るのだ。さまざまな種類の呪文を活用することができる、汎用的なデッキである。
見ての通り、デザイン・チームは、あるアーキタイプのカードが近隣のアーキタイプで魅力的になるようにテーマを重複させるために尽力した。そして、プレイヤーが複数のアーキタイプがなぜ噛み合うのかを特に強く意識することなく、すべてが成立するようにできた。プレイを重ねていくにつれシナジーがよりわかりやすくなるようなレンズ状のデザインが大量に組み込まれているのである。
今日の締めくくりの前に、プレビューがある。『ダブルマスターズ2022』なので、もちろん、プレビューも2枚だ。
1枚目はイクサラン次元からの伝説のクリーチャーだが、『イクサラン』ブロックからではない。
次は、初登場が初代『イニストラード』ブロックだった人気の土地である。
これらの再録は、再録カードの選択が特に統率者戦などのさまざまなフォーマットを意識していることの証左である。
ダブルの時間
今日の物語やプレビューを楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事や回答、そして『ダブルマスターズ2022』についての反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『ダブルマスターズ2022』に入っているカードの何枚かがどのように作られたかの思い出を語る日にお会いしよう。
その日まで、このセットをプレイしてあなたの楽しみがダブルになりますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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