READING

開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

ダンジョン語り その1

Mark Rosewater
authorpic_markrosewater.jpg

2021年7月19日

 

 これまで2週に渡り、『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ:フォーゴトン・レルム探訪』のデザイン全体の話をしてきた(その1その2)。つまり、今週(と来週)は、カード個別のデザインの話をすることになる。

 私は今回どのデザイン・チームにも所属していないが、ドレイク(カードに加えられたすべての変更を記録しているカード・データベース)は使えるので、今セット内の伝説のカードの進化について掘り下げてみようと思う。人気のあるD&Dのキャラクターで、興味深い進化を遂げてきたカードを取り上げるつもりだ。

ドリッズト・ドゥアーデン
//

 まず最初に取り上げるべきは、(R.A.サルバトーレ/R.A. Salvatoreの手による小説のおかげで)おそらくD&Dで最も有名なキャラクター、ドリッズト・ドゥアーデンだろう。ドリッズトはドラウ(ダーク・エルフ)のレンジャーで、「北方」の英雄となった。彼は、素晴らしい戦士であることと。黒豹のグエンワイヴァーを相棒としていることの2点でよく知られている。この2つの点を、カードで再現しなければならないとデザイナーたちは理解していた。実際、ドリッズトのカードのファイル内で一番最初のバージョンは、単純にこうだった。

〈ドリッズト〉(バージョン #1)
(g/w)
伝説のクリーチャー ― エルフ・戦士・スカウト
2/2
二段攻撃
伝説の猫・トークン1体を生成する。

 カードファイルでは、緑白の混成マナを(g/w)で書いている。今回の場合、このカードが混成マナをコストに持つ、という意味ではなく、緑白のカードである、という意味で使っている。初期には、そのカードがどうなるかまだ決まっていないけれどもファイル内に枠を取っておきたいという場合、我々はその枠が何色になるかを示すためにマナ・シンボル1個を置いておく。2色カードの場合、混成シンボルを使うのだ。

 この充填剤カードは、ドリッズトが何らかの戦闘能力を持ち、伝説の猫・クリーチャー・トークンを生成する、ということを意味している。それではバージョン2を見てみよう。

〈ドリッズト〉(バージョン #2)
{2}{G}{W}
伝説のクリーチャー ― エルフ・戦士・スカウト
2/2
あなたの終了ステップの開始時に、あなたが「グエンワイヴァー」という名前のクリーチャーをコントロールしていない場合、「グエンワイヴァー」という名前で緑の2/2の伝説の猫・クリーチャー‥トークン1体を生成する。
{G}{W}:猫1体を対象とする。ターン終了時まで、それと[カード名]は二段攻撃を得る。(猫を対象にせずにこの能力を起動することはできない。)

 この第2バージョンで、初めて、グエンワイヴァーが(2/2であると)定義された。ここで、私が初めてリードを務めたセットの『テンペスト』のカード《霊の鏡》で私が初めて作ったメカニズムが使われている。毎ターン誘発型能力で特定のトークンを生成するが、それはそのトークンを自分がコントロールしていない場合に限るのだ。このバージョンでは、二段攻撃が起動型能力になったが、そのためにはドリッズトとグエンワイヴァーを戦場に出していなければならない。(厳密に言えば、猫がいればいい。)プレイテストの結果、両方が必要だというのは少しばかり苛立たしかったので、2つ目の能力は次のように変更された。

{1}{G}{W}:猫最大1体を対象とする。ターン終了時まで、[カード名]とそれは二段攻撃を得る。

 次のバージョンでは、数か所の変更があった。

〈ドリッズト〉(バージョン #3)
{1}{G}{W}
伝説のクリーチャー ― エルフ・戦士・スカウト
1/1
二段攻撃
[カード名]が戦場に出たとき、「グエンワイヴァー」という名前で緑の3/3の伝説の猫・クリーチャー・トークン1体を生成する。
{4}{G}{W}:ターン終了時まで、[カード名]とグエンワイヴァーはそれぞれ+X/+Xの修整を受ける。Xは他方のパワーに等しい。

 まず、ドリッズトは起動することなく二段攻撃を持つように戻った。また、少し軽く、小さくなったが、見て分かる通りその影響を抑える手段が与えられている。グエンワイヴァーは2/2ではなく3/3になったが、再登場する誘発型能力はなくなった。グエンワイヴァーは1体限りなのだ。最後に、このカードはドリッズトとグエンワイヴァーを大きくできる起動型能力を得た。外部の助けなしなら、この能力はドリッズトを1/1から3/3にするが、二段攻撃のおかげで与えるダメージは4点増える。

 これを踏まえてできたのがバージョン4である。

〈ドリッズト〉(バージョン #4)
{3}{G}{W}
伝説のクリーチャー ― エルフ・戦士・スカウト
3/3
速攻、警戒、二段攻撃、絆魂、トランプル、到達、装甲/Armor{3}
パワーが[カード名]よりも大きいクリーチャー1体が死亡するたび、[カード名]の上に、その差に等しい数の+1/+1カウンターを置く。

 このバージョンではコストが重くなっているが、ドリッズトは大量の、基本的に緑や白がフレイバー的に持てるすべてのクリーチャー能力を持っている。(ああ、瞬速を持たせることもできただろう。)ちなみに、装甲とは護法のことだ。まだ正式な名前がついてなかったのだ。

 そして、ドリッズトを時間をかけて成長させていく2つ目の能力を与えた。このバージョンには、このカードの必須条件2つのうち1つであるグエンワイヴァー・クリーチャー・トークンがいないので、どれぐらい真面目だったかはわからない。(グエンワイヴァーを独立したカードにしようとしていた可能性はある。)

 そして、このバージョン5になる。

〈ドリッズト〉(バージョン #5)
{3}{G}{W}
伝説のクリーチャー ― エルフ・戦士・スカウト
3/3
二段攻撃、到達、トランプル、装甲{2}
[カード名]が戦場に出たとき、「グエンワイヴァー」という名前で緑の4/1の伝説の猫・クリーチャー・トークン1体を生成する。[カード名]よりも大きいパワーを持つクリーチャー1体が死亡するたび、[カード名]の上に、その差に等しい数の+1/+1カウンターを置く。

 これはバージョン4をきれいにしたものだ。クリーチャー能力の数を減らし、4/1になったグエンワイヴァーを追加している。最終バージョンにかなり近い。ドリッズトは到達とトランプルと装甲を失い、クリーチャー・タイプのレインジャーを得た。クリーチャー・タイプとしてレインジャーを加えるかどうかには紆余曲折があったが、最終的に、マジックにレインジャーを加えるべきだという結論に達した。(そして、今後はD&Dでないマジックのセットでもレインジャーを見かけることだろう。)

アイ・オヴ・ヴェクナ》《ハンド・オヴ・ヴェクナ》《不浄なる暗黒の書
///
///

 ヴェクナは、元人間でオアースで亜神になったリッチである。彼は、不浄なる暗黒の書、という非常に邪悪な本の筆者であった。彼は副官に殺され、目と手しか残っていなかった。

 「アイ・オヴ・ヴェクナ」、「ハンド・オヴ・ヴェクナ」、「不浄なる暗黒の書」はどれもD&Dで有名なアーティファクトである。目と手は力をくれるが、自分の目や手と入れ替えさせようとする。書物は邪悪な人々に魔法を教えるが、邪悪すぎるのでただ見ただけでも邪悪でない人々を傷つけるのだ。この3つの品はファンに人気が高いので、これらをアーティファクトにする必要があることはわかっていた。

 まず最初に、お互いに関係したデザインになる目と手から手掛けることにした。

〈アイ・オヴ・ヴェクナ〉(バージョン #1)
{1}
伝説のアーティファクト ― 装備品
装備しているクリーチャーが攻撃するたび、あなたのライブラリーの一番上にあるカード1枚を公開し、カードX枚を引き、X点のライフを失う。Xは公開したカードのマナ総量に等しい。
[カード名]がパーマネント1つからはずれた状態になったとき、そのパーマネントを破壊する。
装備{3}

〈ハンド・オヴ・ヴェクナ〉(バージョン #1)
{2}
伝説のアーティファクト ― 装備品
装備しているクリーチャーが攻撃するたび、ターン終了時まで、それは+X/+Xの修整を受ける。Xはあなたの手札にあるカードの枚数に等しい。[カード名]がパーマネント1つからはずれた状態になったとき、そのパーマネントを破壊する。
装備{3}

 最初は、《アイ・オヴ・ヴェクナ》も《ハンド・オヴ・ヴェクナ》も装備品だった。デザイン・チームは、そうすることでこれらが使われるというフレイバーを再現していると考えたのだ。これら両方には、それがはずれたら装備していたクリーチャーは死亡する、というおまけがついていた。この2つはシナジーを持つようにデザインされており、《アイ・オヴ・ヴェクナ》はカードを引き、《ハンド・オヴ・ヴェクナ》は手札の枚数が多いと強くなる。《不浄なる暗黒の書》の第1バージョンは、この《アイ・オヴ・ヴェクナ》や《ハンド・オヴ・ヴェクナ》と組み合わせて使うようデザインされた。

〈不浄なる暗黒の書〉(バージョン #1)
{2}{B}{B}
伝説のアーティファクト
あなたがコントロールしている呪文や能力によってあなたのライフが失われるたび、各対戦相手はそれぞれその点数のライフを失う。
{T}:あなたのライブラリーの一番上にあるカード1枚を公開し、あなたの手札に加える。あなたはそれのレベルに等しい点数のライフを失う。(カードのレベルとは、それをプレイするのに必要なマナの量である。)

 《アイ・オヴ・ヴェクナ》によってライフを失うことで1つ目の能力は誘発し、2つ目の能力でカードを引くことで《ハンド・オヴ・ヴェクナ》の助けになる。また、《不浄なる暗黒の書》だけを出している場合にも、2つ目の能力を使うことで1つ目の能力を誘発させられるようにデザインされていた。

 《アイ・オヴ・ヴェクナ》、《ハンド・オヴ・ヴェクナ》はどちらも次のバージョンでは装備品ではなくなっている。

〈アイ・オヴ・ヴェクナ〉(バージョン #2)
{3}
伝説のアーティファクト
この呪文を唱える段階であなたが捨てた各カードは、{1}かそのカードの色のマナ1点を支払う。
あなたはいつでもあなたのライブラリーの一番上にあるカード1枚を見てよい。あなたはそれを、コストの一部としてそれと同じレベルでありそれでないカード1枚を捨てるなら、唱えてもよい。

〈ハンド・オヴ・ヴェクナ〉(バージョン #2)
{5}
伝説のアーティファクト
あなたがカード1枚を引くたび、あなたは1点のライフを失う。あなたの終了ステップの開始時に、あなたの手札にあるカードが5枚よりも少ない場合、その差に等しい枚数のカードを引く。5枚よりも多いなら、その差に等しい枚数のカードを捨てる。

 この新バージョンもまたシナジーを持っているが、方法は異なっている。《アイ・オヴ・ヴェクナ》は呪文を唱えるためにカードを捨てることができ、《ハンド・オヴ・ヴェクナ》は手札を補充する助けになる。今日のカードの中に、「レベル」という単語がよく出てきていることに気づくだろう。セットデザイン・チームはそれを、「マナ総量」(当時は「点数で見たマナ・コスト」)の代わりに使っていた。「点数で見たマナ・コスト」を変えることを長年模索していたので、『フォーゴトン・レルム探訪』チームは「レベル」を提案したのだ。

 《不浄なる暗黒の書》は、この3枚のカードを組み合わせる新しい、そして少しばかり露骨な方法を見つけた。

〈不浄なる暗黒の書〉(バージョン #2)
{2}{B}{B}
伝説のアーティファクト
あなたの終了ステップの開始時に、各対戦相手はこのターンにあなたが失ったライフの総量に等しい点数のライフを失う。
{B}, {T}:カード1枚を引き、公開する。あなたはそれの基本のコストに等しい点数のライフを失う。あなたが「ハンド・オヴ・ヴェクナ」という名前のアーティファクト1つと「アイ・オヴ・ヴェクナ」という名前のアーティファクト1つをコントロールしているなら、それらと[カード名]を追放し、「ヴェクナ」という名前で8/8の黒の伝説のゾンビ・ウィザード・クリーチャー・トークン1体を生成する。それは破壊不能と、それらのすべての能力を得る。

 《不浄なる暗黒の書》は、《ハンド・オヴ・ヴェクナ》によってライフを失うことで対戦相手を害する。また、これら3つの品物を戦場に揃えることができたら、ヴェクナ・クリーチャー・トークンを得られるのだ。ヴェクナは8/8の破壊不能クリーチャーで、3枚のカードすべての能力を持つので、ヴェクナを生成することによって機能的に失われるものはない。ヴェクナがファイル上にクリーチャー・トークンとして登場したのはこれが最初である。

 《アイ・オヴ・ヴェクナ》は最大の変更を遂げた。

〈アイ・オヴ・ヴェクナ〉(バージョン #3)
{3}
伝説のアーティファクト
カード1枚を捨てる:{C}かその捨てたカードの色1色のマナ1点を加える。あなたはいつでもあなたのライブラリーの一番上にあるカード1枚を見てよい。[カード名]が生み出した1点以上のマナを支払うなら、あなたはそれを唱えてもよい。

 このバージョンは、「カードを捨ててマナを出す」機能や、自分のライブラリーの一番上のカードを唱えられるということはそのままに、それらそれぞれの働き方を変更している。

〈アイ・オヴ・ヴェクナ〉(バージョン #4)
{4}
伝説のアーティファクト
{T}, X点のライフを支払う:占術Xを行い、その後カード1枚を引く。

 次のこのバージョンでは、全く違うことを試みている。より強力なカードを引く助けになるようにするのはどうだろうか。

〈アイ・オヴ・ヴェクナ〉(バージョン #5)
{4}
伝説のアーティファクト
あなたはいつでもあなたのライブラリーの一番上にあるカード1枚を見てよい。
{T}:あなたは1点のライフを支払ってもよい。そうしたなら、あなたのライブラリーの一番上にあるカード1枚をあなたのライブラリーの一番下に置く。カード1枚を引く。

〈アイ・オヴ・ヴェクナ〉(バージョン #6)
{3}
伝説のアーティファクト
あなたのアップキープの開始時に、あなたのライブラリーの一番上にあるカード1枚を見る。あなたは3点のライフを支払ってもよい。 そうしたなら、カード1枚を引く。そうでなければ、カード1枚を切削する。

 バージョン5と6は、バージョン4と基本的に同じ目的を、少しばかり違う実装で目指していた。

〈アイ・オヴ・ヴェクナ〉(バージョン #7)
{2}
伝説のアーティファクト
[カード名]が戦場に出たかあなたがカード1枚を捨てたとき、あなたは2点のライフを支払ってもよい。そうしたなら、カード1枚を引く。

〈アイ・オヴ・ヴェクナ〉(バージョン #8)
{1}
伝説のアーティファクト
[カード名]が戦場に出たかあなたがカード1枚を捨てたとき、あなたは{1}と3点のライフを支払ってもよい。そうしたなら、カード1枚を引く。

 バージョン7と8は、カードを捨てることとシナジーがあり、捨てることをルーティングにすることができる。フレイバーを保つため、必ずライフの喪失が含まれている。最終版では、さらにカードに寄せている。カードを引くのだ。

 一方、《ハンド・オヴ・ヴェクナ》は装備品に戻っていた。

〈ハンド・オヴ・ヴェクナ〉(バージョン #3)
{2}
伝説のアーティファクト ― 装備品
装備しているクリーチャーは+X/+0の修整を受ける。Xはあなたの手札にあるカードの枚数に等しい。
装備― {2}, 2点のライフを支払う

 これは再び、手札にカードを持っていることによってパワーを高めるという有利が得られるようになっている。(ただしタフネスは増加しなくなっている。)また、マナ以外の装備コスト、この場合はライフの支払い、を試している。

〈ハンド・オヴ・ヴェクナ〉(バージョン #4)
{2}
伝説のアーティファクト ― 装備品
あなたのターンの戦闘の開始時に、ターン終了時まで、装備しているクリーチャーか「ヴェクナ」という名前であなたがコントロールしているクリーチャー1体は+X/+0の修整を受ける。Xはあなたの手札にあるカードの枚数に等しい。
装備 ― クリーチャー1体を生け贄に捧げる, 1点のライフを支払う

 次のこのバージョンでは、2つの違いがある。1つ目に、これは、装備しているクリーチャーとヴェクナを強化する。(ヴェクナはアーティファクト3つのすべての能力を持つことを思い出してもらいたい。)2つ目に、装備コストとしてクリーチャーを生け贄に捧げることを試している。

〈ハンド・オヴ・ヴェクナ〉(バージョン #5)
{3}
伝説のアーティファクト ― 装備品
あなたのターンの戦闘の開始時に、ターン終了時まで、装備しているクリーチャーか「ヴェクナ」という名前であなたがコントロールしているクリーチャー1体は+X/+Xの修整を受ける。Xはあなたの手札にあるカードの枚数に等しい。
装備― {1}, 2点のライフを支払う

 次のこのバージョンは、再び+X/+Xに戻り、装備コストもライフはついているもののマナに戻った。これは最終版に近いが、印刷版では装備コストがマナとライフを含む1つではなく2つになっており、一方はライフだけ、一方はマナだけとなっている。

 《不浄なる暗黒の書》も、いくつもの変更を経ている。

〈不浄なる暗黒の書〉(バージョン #3)
{1}{B}
伝説のアーティファクト
{X}{B}:あなたの墓地にあり基本コストがXであるクリーチャー・カード1枚を対象とする。それを戦場に戻す。それが戦場を離れるなら、それを他の何処かに置く代わりに追放する。
{T}, あなたがコントロールしている、「不浄なる暗黒の書」という名前のアーティファクト1つと「ハンド・オヴ・ヴェクナ」という名前のアーティファクト1つと「アイ・オヴ・ヴェクナ」という名前のアーティファクト1つを生け贄に捧げる:「ヴェクナ」という名前で8/8の黒の伝説のゾンビ・ウィザード・クリーチャー・トークン1体を生成する。それは破壊不能と追放されたそれらのカードのすべての能力を持つ。

 《不浄なる暗黒の書》の死者を蘇らせることができるというフレイバーを再現するため、墓地から蘇らせる起動型能力を持つようになった。

〈不浄なる暗黒の書〉(バージョン #4)
{2}{B}
伝説のアーティファクト
各終了ステップの開始時に、このターンにあなたがライフを失っていたなら、黒の2/2/のゾンビ・クリーチャー・トークン1体を生成する。
{T}, あなたがコントロールしている、「不浄なる暗黒の書」という名前のアーティファクト1つと「ハンド・オヴ・ヴェクナ」という名前のアーティファクト1つと「アイ・オヴ・ヴェクナ」という名前のアーティファクト1つを生け贄に捧げる:「ヴェクナ」という名前で8/8の黒の伝説のゾンビ・ウィザード・クリーチャー・トークン1体を生成する。それは破壊不能と追放されたそれらのカードのすべての能力を持つ。

 次のこのバージョンは、クリーチャーを墓地から蘇らせるのではなく2/2のゾンビを作る。これは、ライフ喪失の量に関わらず誘発するということを除いて、最終版に近い。最終版のカードは2点以上のライフを失うことで誘発するようになっている。

 これら3枚の印刷されたバージョンは、良いシナジーを生み出している。《アイ・オヴ・ヴェクナ》でカードを引き、ライフを支払い、《ハンド・オヴ・ヴェクナ》は手札のカードをクリーチャー強化でダメージに変え、《不浄なる暗黒の書》がライフの喪失をゾンビ・クリーチャー・トークンに変えて、それに《ハンド・オヴ・ヴェクナ》を装備させる。この3枚が揃うとヴェクナが手に入る。デザイナーたちはそれぞれの品物をうまくフレイバーに沿わせ、そしてすべてをメカニズム的につなげるといういい仕事をしたと思う。

デヴィルに選ばれし者、ファリダ
//

 ファリダは、邪悪なキャラクター(ローカンというハーフフィーンド)と事故で契約を結んでしまったティーフリング(悪魔の影響を受けたヒューマノイド)の邪術師である。このカードはデザインの最初、こうだった。

〈学んだ魔術師○○〉(バージョン #1)
{2}{U}{R}
伝説のクリーチャー ― 人間・ウィザード
3/2
[カード名]が戦場に出たとき、あなたの墓地にありインスタントやソーサリーであるカード1枚を対象とする。それをあなたの手札に戻す。そのカードがレベル3以下であるなら、あなたはそれをマナ・コストを支払うことなく唱えてもよい。

 興味深いことに、この枠は最初はダリダのトップダウン・デザインではなく、青赤の呪文テーマを扱うボトムアップのデザインだったのだ。ここでも、「レベル」はマナ総量の意味で用いられている。

〈学んだ魔術師○○〉(バージョン #2)
{U}{R}
伝説のクリーチャー ― 人間・ウィザード
2/2
アドバンテージを得る ― あなたがサイコロ1個を振るなら、その代わりにそのサイコロ2個を振り、その出目のうち1つを無視する。

 第2バージョンで、このカードはd20を振ることに言及するように変更され始めた。最初の試みは、基本的に、『Unstable』の《〈クラークのもう一本の親指〉》のようなものだった。このセットの多くのカード同様、効果がその世界で何を意味するのかを表現する助けとして、フレイバー語が与えられた。この時点でもまだこのカードは名無しのウィザードだった。

〈暴走魔法のソーサラー、○○〉(バージョン #3)
{2}{U}{R}
伝説のクリーチャー ― シャーマン
3/3
アドバンテージを得る ― あなたがサイコロ1個を振るなら、その代わりにそのサイコロ2個を振り、その出目のうち1つを無視する。
あなたのターンの戦闘の開始時に、クリーチャー1体を対象とする。20面体サイコロ1個を振る。成功したなら(10以上)、ターン終了時まで、それは飛行と速攻を得る。

 次のこのバージョンは、まだ名前はないが、2つ目の能力としてサイコロを振ることを含む能力を得た。これによって、他にサイコロを振るカードを使っていなかったとしても、1つ目の能力が意味を持つようになった。そのため、コストは重くなり、サイズも大きくなった。

〈アスモデウスに選ばれし者、ファリダ〉(バージョン #4)
{U}{R}
伝説のクリーチャー ― ティーフリング・邪術師
3/2
飛行、速攻
アドバンテージを得る ― あなたがサイコロ1個を振るなら、その代わりにそのサイコロ2個を振り、その出目のうち1つを無視する。
[カード名]が攻撃するたび、あなたがコントロールしているパーマネント1つを対象とする。20面体サイコロ1個を振る。成功したなら(10以上)、それをアンタップする。

 このカードは最終的にファリダになり、サイコロを振る効果は彼女に能力を与えるものではなくパーマネントをアンタップすることで再利用できるようにするものになった。マナ・コストは再び軽くなり、タフネスも1点減った。

〈アスモデウスに選ばれし者、ファリダ〉(バージョン #5)
{1}{U}{R}
伝説のクリーチャー ― ティーフリング・邪術師
2/2
アドバンテージを得る ― あなたがサイコロ1個を振るなら、その代わりにそのサイコロ2個を振り、その出目のうち1つを無視する。
あなたがサイコロを振るたび、ターン終了時まで、[カード名]は+1/+0の修整を受け、飛行と威迫を得る。

 これがアンコモンで青赤の基柱カードになると決まったので、このカードを使うにはこれ以外のサイコロを振るカードが必要に戻った。サイコロを振ることを助け、サイコロを振ることで利益が得られるようになった。また、再びマナ・コストやスタッツが調整されている。

〈アスモデウスに選ばれし者、ファリダ〉(バージョン #6)
{1}{U}{R}
伝説のクリーチャー ― ティーフリング・邪術師
1/4
アドバンテージを得る ― あなたが1つ以上のサイコロを振るなら、代わりにそれよりも1つ多い数のサイコロを振り、1つを無視する。
あなたが1個以上のサイコロを振るたび、ターン終了時まで、[カード名]は+2/+0の修整を受け、飛行と威迫を得る。

 このバージョンは微調整があった。パワー/タフネスは2/2から1/4になった。サイコロを振ることへの修整が調整されて、複数のサイコロを振るときに何が起こるのか明確化された。(おそらくこの当時、複数のサイコロを一度に振るカードを試していたのだろう。)最後に、2つ目の能力による強化が大きくなった。

〈アスモデウスに選ばれし者、ファリダ〉(バージョン #7)
{1}{U}{R}
伝説のクリーチャー ― ティーフリング・邪術師
1/4
飛行、威迫
アドバンテージを得る ― あなたが1つ以上のサイコロを振るなら、代わりにそれよりも1つ多い数のサイコロを振り、1つを無視する。
あなたが1個以上のサイコロを振るたび、ターン終了時まで、[カード名]は+1/+0の修整を受け、あなたはカード1枚を引く。

 このバージョンは飛行と威迫を標準で持っていて、ボーナスは小さくなり、カードを引く効果が追加された。

〈アスモデウスに選ばれし者、ファリダ〉(バージョン #8)
{1}{U}{R}
伝説のクリーチャー ― ティーフリング・邪術師
2/2
飛行、威迫
あなたが1個以上のサイコロを振るたび、この結果も得る。
1-9 | [カード名]の上に+1/+1カウンター1個を置く。
10-19 | カード1枚を引く。
20 | クリーチャーやプレインズウォーカーのうち対戦相手がコントロールしている1体を対象とする。[カード名]はそれに自身のパワーに等しい点数のダメージを与える。

 次のこのバージョンでは、サイコロの結果表が追加されている。このセットには、サイコロの結果表があるファリダの火の玉の呪文があるので、デザイン・チームはおそらく彼女自身にも持たせるのがクールだと考えたのだろう。再びスタッツが調整されている。

〈アスモデウスに選ばれし者、ファリダ〉(バージョン #9)
{1}{U}{R}
伝説のクリーチャー ― ティーフリング・邪術師
2/2
飛行、威迫
あなたが1個以上のサイコロを振るたび、[カード名]の上に+1/+1カウンター1個を置く。あなたが10以上の出目を出したなら、カード1枚を引く。

 このバージョンでは、ついにサイコロを振ることに修整を加えるのを止めてそれに影響を受けるだけになった。このバージョンは、一時的に飛行と威迫を与えるのではなく+1/+1カウンターを与えるという点を除いて、印刷版に近くなっている。また、最終版では、マナ・コストが重くなり、スタッツも2/2から3/3になった。

敬愛されるレンジャー、ミンスク
//

 ミンスクは、ブーというハムスターの相棒がいる心優しいレインジャーだ。ミンスクは、ブーは小型の巨大宇宙ハムスターだと信じている。物語上、ブーが成長薬を飲んでしまい非常に大きくなったことがある。ミンスクとブーは非常に愛されているので、彼らをカードにしたいと考えたのだ。

〈バルダーズ・ゲートの英雄、ミンスク〉(バージョン #1)
{2}{R}{W}
伝説のクリーチャー ― 人間・レインジャー
3/3
[カード名]が攻撃するたび、「ブー」という名前で「これがプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、そのプレイヤーはカード1枚を無作為に選んで捨て、カード1枚を引く。」を持つ伝説のハムスター・クリーチャー・トークン1体をタップ状態かつ攻撃している状態で生成する。戦闘終了時に、そのトークンを追放する。ブーがブロックされた状態になるたび、ターン終了時まで、[カード名]は+2/+2の修整を受け先制攻撃を得る。

 このカードには最初から2つの目的があったと思う。1つ目に、これはブー・クリーチャー・トークンを生成しなければならない。2つ目に、このカードにはブーを大きくする手段がなければならない。最初は(デザイン上の反復のほとんどでも)、そのカードが攻撃した時にブーを生成する赤白のカードだった。このカードのほとんどの能力は、ブーがすることについてのものだった。ちなみにこれは、レインジャーのクリーチャー・タイプを持つ。レインジャーはまだクリーチャー・タイプではなかったが、このカードを作るなら誰であってもレインジャーであるべきだと提案することを考えるだろう。

〈バルダーズ・ゲートの英雄、ミンスク〉(バージョン #2)
{2}{R}{W}
伝説のクリーチャー ― 人間・レインジャー
3/4
[カード名]が戦場に出たとき、「ブー」という名前で赤の1/1の伝説のハムスター・クリーチャー・トークンを1体生成する。あなたがコントロールしているハムスター1体がプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、[カード名]の上に+1/+1カウンター1個を置く。

 次のこのバージョンでは、戦場に出たときにだけミンスクがブー・トークンを作るようになった。このバージョンではブーを大きくする方法はないが、ブーがミンスクを大きくすることができる。ミンスクのタフネスも1上がっている。

〈バルダーズ・ゲートの英雄、ミンスク〉(バージョン #3)
{1}{R}{W}
伝説のクリーチャー ― 人間・スカウト
3/3
[カード名]が戦場に出たとき、「ブー」という名前で先制攻撃と威迫を持つ赤の1/1の伝説のハムスター・クリーチャー・トークンを1体生成する。あなたがコントロールしているハムスター1体がプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、[カード名]の上に+1/+1カウンター1個を置く。

 このバージョンではブー・クリーチャー・トークンに先制攻撃と威迫を持たせ、ミンスクを軽くして、3/3に戻した。クリーチャー・タイプもスカウトになっている。これは、レインジャーがまだクリーチャー・タイプとして存在していなかったことによるものであり、印刷版として考えられていたデザインに近づけようとしていたからである。

〈バルダーズ・ゲートの英雄、ミンスク〉(バージョン #4)
{R}{W}
伝説のクリーチャー ― 人間・スカウト
2/1
[カード名]が戦場に出たとき、「ブー」という名前で威迫を持つ赤の1/1の伝説のハムスター・クリーチャー・トークンを1体生成する。
あなたがコントロールしているハムスター1体がプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、[カード名]の上に+1/+1カウンター1個を置く。その後、[カード名]の上に5個以上の+1/+1カウンターがあるなら、これをアンタップし、このフェイズの後に追加の戦闘フェイズ1つを行う。その戦闘では[カード名]でしか攻撃できない。

 このバージョンではミンスクは2マナの2/1に縮み、ブーは先制攻撃を失い、デザイン・チームはミンスクが充分大きくなった場合の《連続突撃》的な追加攻撃メカニズムを試した。

 このバージョンと最終版の間には多くの変更があった。ミンスクは2色ではなく3色のカードになり(おそらく優秀な統率者にするためだろう)、ブーは威迫を失ってトランプルと速攻を得た。(ブーが速攻を得るまでにこれほど多くのバージョンを費やしたことは驚きだ。私は第1バージョンから持っていたと思っていた。)デザイン・チームが最初から望んでいたもの、つまりブーを巨大化させるミンスクの能力、に戻ることができるように、余計なものが削られた。ブーだけでなくクリーチャーにならその能力が効くように拡張された。クリーチャー・タイプとして巨人を加えたのは、D&Dの巨大宇宙ハムスターを連想させるものとして素晴らしい。

冒険の終わり

 本日はここまで。いつもの通り、この記事や話題したカード、あるいは『フォーゴトン・レルム探訪』全体について、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『フォーゴトン・レルム探訪』のカード個別のデザインの話を続ける日にお会いしよう。

 その日まで、この新セットであなただけのD&Dの冒険ができますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索