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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

ダンジョンズ・アンド・デザインズ その2

Mark Rosewater
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2021年7月12日

 

 先週、『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ:フォーゴトン・レルム探訪』のデザインについての話を始めた。 今回はその続きとして、様々な要素がどのように作られたのかを語り、セットデザイン・チームを紹介する。話すべきことが大量にあるので、さっそく本題に入る。

君は謎の大集団に出会った

 まず最初に、セットデザイン・チームの紹介から入ろう。セットデザイン・チームのリーダー、ジュール・ロビンス/Jules Robinsに自己紹介とチームの紹介をお願いした。

 以下が『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ:フォーゴトン・レルム探訪』のセットデザイン・チームだ。


 クリックでセットデザイン・チームを表示


君はダンジョンを見つけた

 セットデザイン・チームの紹介が終わったところで、このセットのメカニズムの話に入っていこう。まずはダンジョン探索の話だ。

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 遠い昔から、マジックにはドラゴンはいるがダンジョンがない、という冗談があった。D&Dの本質を再現するなら、ダンジョンをセットに入れる方法を見つけることは重要だと思われた。しかし、それは一体どういうことだろうか。ダンジョンらしく感じさせるには、どうやってカード化すればいいだろうか。もちろん、ダンジョン内に生息するクリーチャーや、ダンジョン内ですることを表すような呪文はカード化できるが、それらだけでは充分だとは感じられなかった。デザイン・チームは、ダンジョンを探索するという文脈を表すメカニズムに意識を向けていた。

 チームは、ダンジョンというメカニズムで何を再現しようとしているのかについてのブレインストーミングを行なった。何があればダンジョンらしいと感じられるのか。かなりの議論の末、必要なのは連続性だと結論した。つまり、さまざまなことを何らかの順番でするものであること、である。ダンジョン探索は、冒険だ。このメカニズムは、それを進めていく中で起こることだという雰囲気を再現する必要がある。マジックでその進行する雰囲気を再現するにはどうしたらいいか。彼らはまず、マジックにこれまでに存在していたものを調べた。

英雄譚

 英雄譚は物語を表している。複数のことが、時系列に沿って発生する。連続性があり、フレイバーに富んでいる。これはダンジョンとして使えるものだ。1つだけ、選択が足りなかった。

 ダンジョン探索というなら、プレイヤーにいくらかの主体性が必要だ。何が起こるかに影響する決定を、プレイヤーがするのだ。英雄譚はプレインズウォーカー・カードを初めてデザインした時のバージョンでもあったが、それではプレインズウォーカーが自動的に動くものだと感じられるものになってしまったので別の方向に向かうことにしたのである。ダンジョンも同じように感じられるという懸念があった。

変身する両面カード(TDFC)

回転

 TDFCも、進展を示すためにはいい道具になる。まずカードの第1面を見て、その後第2面に変化する。アートを2枚見ることになる。物語を伝えることができる。問題は、2話だけでは非常に単純な物語しか提供できず、ダンジョンはそれよりもう少し深みが必要なのだ。また、このメカニズムはパーマネント中心であり、つまり出来事よりも人々や場所や物品に関するものになるということである。

出来事

 上述の通り、ダンジョンを進むことは出来事なのだから、『エルドレインの王権』の出来事を使えばいいのではないか。2部に分かれていて、連続性は感じられるが、アートは1枚だけである。ダンジョン内のある瞬間を再現することはできるが(部屋を探す/ヘルハウンド)、ダンジョン全体らしさはない。

Lvアップ

 これはオブジェクト1つの進化を描くものだが、その段階は2つではなく3つである。(そして出来事同様、アートは1枚だけである。)Lvアップはこのセット内で使われる可能性はあったが、それはダンジョンそのものではなく冒険者を描くものになると思われた。

からくり

 からくりはゲーム開始時には第2デッキに入っていて、メインデッキ内のカードを使って戦場に出る。このアーティファクト・タイプは、進行中の順列を作り出す何かを作り上げている。この順列は繰り返されるが、それはからくりがそうであるだけでメカニズムそのものがそうである必然性はない。からくりデッキは無作為化されるので、驚きの要素も加えられることになる。セットデザインの早期にセットデザイン・チームは第2デッキを使うことを検討したが、スタンダードで使えるセットでするにはゲームプレイへの負荷が大きすぎることに気がついた。

 その後、チームは、デザイン中に試みたことがあるが印刷には到らなかったものの検討を始めた。

昼/夜 / day/night

 これは、初代『イニストラード』で、狼男(そして最終的には変身メカニズム)を成立させるための試みの1つであった。カードで、昼か夜かを示すための外部のトークンを用いる。プレイヤーが呪文を唱えるごとに、トラック上のマーカーを進める。そしてある地点で、そのカードを裏返し、昼と夜が変わるのだ。その進行を速めたり遅めたりできるので、ある種の主体性はあるが、選択ができると言えるものではない。これは、我々がゲーム外の要素を試した最初の試みだった。(最初に印刷されたのは『コンスピラシー:王位争奪』の統治者である。)

衝突/skirmish

 これは、『灯争大戦』のために作られたメカニズムである。カードが、クリーチャーで戦闘ダメージを対戦相手に与えるなどの特定のタスクを達成することで綱引きの要領で自分の方向に進める、ちょっとしたサブゲームを作る外部のトークン・カードを持ち込むのだ。つまり、通常のゲームの上に連続性のあるミニゲームを被せることになる。フレイバーは完璧ではなかったが、外部のトークンがゲームプレイの上に新しい処理を被せるというコンセプトは興味深いものに思われた。

 最終的に、チームはこれら多くのものから要素を借りて、新しいものを作ることにしたのだった。外部のトークンは選べる選択肢を持つ道を示し、その道はゲームに影響する効果を生成する。これによって、ゲーム全体に影響するミニゲームを作りながらいくらかの主体性が得られることになる。

 セットデザインは、どのような効果を使うべきかを決めるためにかなりの時を費やした。5色ともダンジョン探索ができるので(彼らは「ダンジョンを始める」あるいは「ダンジョンを進む」と呼んでいた)、どのような効果を使うことができるかについてはかなりの議論があった。最終的に、プレイヤーが達成すべき充分な条件があるので、通常は5色すべてではできないような単純な効果を使うことは問題ないということになった。(また、5色すべてができる効果に絞ると、充分な種類がないという問題もあった。)

 ダンジョンの構造には主に2つの条件があった。1つ目が、カードに収まること。2つ目が、プレイヤーに選択肢を与えるということだ。最終的に、最初の部屋は1つで、分岐する道があって、最後の部屋は1つか2つ、とした。ダンジョンの性質上、ダンジョンを進むにつれて効果を強くすることができる。また、D&Dのダンジョンには、奥に探索を進めれば進めるほどに大きな見返り(と大きなリスク)があるものなので、それによってフレイバーも高められることになった。

君の目の前で物事が起こった

 次に、我々は黒枠でのd20を振ることの使い方を検証した。

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 サイコロを振ることは、マジックにおいて新しいことではない。1998年に作った『Unglued』で、その重要な要素になっていた。

 これには賛否両論の反響があったので、2つ目の銀枠セットである『Unhinged』ではサイコロを使わなかったのだ。後に私は時間を欠けてデータを見直し、ユーザーは特定のカードにおいてはサイコロを振ることを好む、ということを知った。得られるものをいくらか予想できて、プレイヤーが得るものの量を決めるサイコロは好きだが、何が起こるかを決めるようなサイコロは嫌うのだ。前者を基柱にしてデッキを組むことはできるが、後者ではできない。後に私は、3つ目の銀枠セットである『Unstable』でサイコロを振ることを取り入れた。

 また、『Unstable』では(最終的にはHasconのボックスセットで発表されたが、本来は『Unstable』用に作られたものである)、このカードも入っていた。

 我々は、既存の剣サイクルの命名法を使ってD&Dを示すクールな方法を思いついたのだ。元のデザインでは6面サイコロを3つ振っていたが、D&Dチームから、D&Dの象徴的なサイコロであるd20、20面サイコロに変更できないかと言われたのだ。我々はそう変更し、こうしてマジックには20面サイコロを使う初のカードができたのだった。

 そして『フォーゴトン・レルム探訪』のデザインに到る。チームはいかにもD&Dというようなものを探していて、d20を振ることがまさにその需要にピッタリだったのだ。サイコロを振ることのデザイン空間が広いことは銀枠セットで明白になっていたが、銀枠でないカードで扱っていいのかどうかという大きな疑問があった。

 20面サイコロを振ることを使った最初のデザインは、結果が1-10と11-20の2種類あるもので、すでに黒枠に存在しているコイン投げを、単に可愛らしい方法で置き換えただけだったと思う。(チームは後に1-9、10-20にしてコイン投げと同じではなくしている。)チームはまた、サイコロの振り方について市場調査から私が学んだゲームの情報にもたどり着いていた。

 このことから、サイコロを振った結果を3通り、主に1-9、10-19、20、に分けることにたどり着いたのだ。効果の大きさを決めるためにサイコロを使う呪文のほとんどは、それぞれの結果が関係あるようにしている。20は、特別に心躍る、めったに起こらないことができる。

 チームは、リミテッドやカジュアル構築で有意義で、それでいて競技のゲームを決定づけてしまうようなものではないようにするためにも非常に心を配った。もう1つ大きな革新は、D&Dで結果を表すサイコロの表という技術を、文章欄内で使うことができると見つけ出したことである。

 大きな課題は、デザインではなく、本流のセットでd20を使うことに開発部の多くを同意させることだった。あまりにも銀枠じみていて、多くの開発部員が限界以上だと感じる無作為性を体現した物体に関係が深すぎたのだ。

 同意が取れるまでには、何度も試行錯誤を重ね、サイコロを振るカードには調整が重ねられた。成功の大部分は、これが「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ」のセットだから、ということによるものだろう。

君のレベルが上がった

 さて、ここからはクラス・エンチャントがこのセットに入ったこといついて検証していく。

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 もう1つ、D&Dの象徴的要素はレベルである。キャラクターが強くなるにつれ、そのキャラクターの強さやどんな能力を持つかを表すレベルが上がっていく。明らかに、D&Dセットにはレベルが必要だ。

 最初に調べられたのは、『エルドラージ覚醒』のLvアップ・メカニズムであった。(これについては先述の通り。)もちろん、これはそのフレイバーそのものを再現するためにデザインされたものである。1つだけ小さな問題があった。D&Dでレベルアップするのは、プレイヤーなのだ。Lvアップは、プレイヤーではなくクリーチャーを強化する。プレイヤーのレベルを上げられるようにする方法はあるだろうか。

 その後、デザイン・チームはLvアップ・クリーチャーの基本構造を調べ、それを一般的なエンチャントとしてプレイヤーに適用したのだ。チームは、2つの基本的な変更を加えた。1つ目が、各レベルアップには単一のマナの支払いがある。(レベルアップにはLvカウンター分の支払いが必要で、それからどのしきい値を上げたかを伝える。)2つ目が、効果はエンチャント系の、能力を与える効果である。この新しいサブタイプを表すために、英雄譚の枠を調整して使うことができることがわかった。あと必要だったのは、D&Dから人気のクラスを選び、それをカードにするだけだった。

君は選ばなければならない

 『フォーゴトン・レルム探訪』のもう1つ独特の側面は、フレイバーを追加する方法であった。多くの能力には、その呪文がD&Dでどう表されるかを示す、フレイバー語と呼ばれるものがある。その表記は能力語と同じように教科書体で、D&Dのフレイバーを感じさせる助けとなっている。そして、デザイン・チームはこれらのフレイバー語を使う賢い方法を見つけたのだ。

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 フレイバー語をモードを持つ効果に持たせることで、D&Dのキャンペーンの雰囲気を再現するカードを作ることができるようになった。これらのカードはその後、D&Dのセッション中の雰囲気を扱うため、(ほとんどは「君は」から始まるように)命名されたのだった。

君の冒険は終わった

 これが『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ:フォーゴトン・レルム探訪』のデザインの話である。我々がこれを作ることに心を躍らせたのと同様、諸君もプレイすることに心を踊らせてもらえれば幸いである。いつもの通り、今日の記事やこのセットそのものに関する諸君の反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、このセットのカード個別のデザインの話する日にお会いしよう。

 その日まで、あなたにフォーゴトン・レルムでの輝ける冒険がありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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