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Making Magic -マジック開発秘話-
ダンジョンズ・アンド・デザインズ その1
2021年7月5日
『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ:フォーゴトン・レルム探訪』のプレビュー第1週にようこそ。これからこのセットのデザインを解説し、展望デザイン・チームを紹介し、そしてクールなプレビュー・カードをお目にかけよう。諸君も御存知の、いつもの方法だ。
君はバル・ミツワーで始まった
1980年、13歳になった私のために、ユダヤ教の成人の祝典、バル・ミツワーが開かれた。私は私のバル・ミツワーに多くの人を招待し、その中に、たまたま私の小学1年生のときの先生になった隣人がいた。彼女の贈り物が「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ」だった。ドラゴンが書かれたカラフルな箱に入っていて、ルールブックは青で描かれた同じ絵だったのを覚えている。
これが、私と「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ」との出会いだった。私は中高の間ずっとプレイし続け、大学でも多少プレイし、そしてロサンゼルスに住んでいたころは毎週友人とキャンペーンをプレイしていた。これは、ルームメイトのクリス/Chrisが描いたパーティーの絵だ。(クリスは、この絵は昔若い頃に描いたものだと強調してほしいそうだ。)私はこの右側にいる、手が光っているウィザードだ。
ここでこの話をしたのは、私には「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ」の思い出があるからである。マジックがはじめてセット全体で扱うマジック以外の知財が、私が情緒的な繋がりを持つものであることが嬉しいのだ。私のダンジョンズ・アンド・ドラゴンズの経験についてもっと知りたい諸君には、2007年に私が書いた記事(「トピカル・ジュース」シリーズの3作目:英語)がある。ゲームデザイナーは自分が、特に成長時期に、プレイした(そして楽しんだ)ゲームに色濃く影響されるものであり、私は自分のゲームデザインにD&Dをルーツとしている部分を見いだせる。
興味深いことに、「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ」は私だけでなくマジックに大きな影響を及ぼしている。リチャード・ガーフィールド/Richard Garfielrも10代の頃にD&Dをプレイしており、ゲームデザイナーになる助けになったと記している。D&Dをプレイしたことが、彼がマジックのデザイナーになる第一歩だった。これが彼に突き刺さり、そして彼がマジックを(そしてそれ以外のゲームも)デザインするあり方に濃く影響を及ぼしたのだ。また、彼はD&Dでファンタジーにハマり、もちろんこれもマジックに大きな影響を与えている。
ウィザーズ・オブ・ザ・コーストがゲーム会社として設立されたのは、その創業者たちがロールプレイングが好きだったからで、ロールプレイングを形作ったのはダンジョンズ・アンド・ドラゴンズである。伝説の、という特殊タイプが『レジェンド』で作られたのは、そのデザイナーたちが自分たちがロールプレイング・ゲームで使っていたキャラクターをマジックに持ち込みたいと考えたからだ。
1998年、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストはTSR社を買収し、ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズはウィザーズのゲームになった。マジックを手掛け、マジックに影響を与えた人の多くは、まずD&Dに励んでいたのだ。また、リチャードや私がそうであるように、マジックをデザインした人の多くがD&Dの影響を受けている。「素晴らしき哉、人生!」的に「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ」がない世界を考えると、高確率でマジックは存在していなかっただろうし、あったとしても全く違うものになっていただろう。
君はデザイン・チームを組んだ
このセットがどのように作られたかの話に入る前に、展望デザイン・チームを紹介しよう。通常は、リード・デザイナーにチームの紹介をしてもらうのだが、アンドリュー/Andrewはすでにウィザーズを離れているので、私から紹介させてもらおう。『ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ:フォーゴトン・レルム探訪』の展望デザイン・チームだ。
クリックで展望デザイン・チームを表示
君は多くの要求を受けた
ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ・マジック・セットは、マジックの初期の頃からずっと求められていた。フレイバー的にはまさにふさわしく、また、もちろんマジックとD&Dのファンはかなり重なっていた。その要求の声は、ウィザーズがD&Dを買収したとき一層強くなった。我々がそれを避けていたのは、ウィザーズ内に、一般から見てその2つの知財は混同されているという危惧があったからである。どちらもファンタジーのゲームで、ほとんどの人々はそれらがどう異なっているかの機微を理解しなかったので、我々は意図的にそれらを分けていたのだ。
そして長い長い時が流れた。マジックはマジックであり、D&DはD&Dであって、その2つが出会うことはなかった。ジェームズ・ワイアット(上述の通り、展望デザイン・チームの)がD&Dチームからマジックに異動になるまでは。
ジェームズはクリエイティブ・チームに参加して、さまざまなセットで世界構築を手掛けた。彼の責務の1つが、新しく発行し始めたアートブックのコピーを書くことだった。(おそらくジェームズがいたからこそ成立したものだろう。)ジェームズはセットのため、そしてアートブックのため、世界についての大量の文章を書いた。そしてジェームズは、これらの世界はD&Dのキャンペーンの舞台にできると気がついたのだ。必要な作業の多くは終わっていたので、ジェームズはそれらの世界でD&Dをプレイできるようにデザインした本をまとめるために必要な追加の作業をすることにした。それらの本は「Plane Shift」と命名され、ジェームズはゼンディカー、イニストラード、カラデシュ、アモンケット、イクサラン、ドミナリアを舞台にした「Plane Shift」をまとめ上げたのだった。「Plane Shift」の人気に触発されて、D&Dチームはラヴニカやテーロスのソースブックを作った。
D&Dプレイヤーがマジックの素材で興奮していることを知り、副社長のビル・ローズ/Bill RoseはD&Dの素材をマジックで使うというアイデアを再検証した。(おそらく、部分的には、我々が『ゼンディカーの夜明け』でやったD&D的デザインも影響していることだろう。)
ビルのアイデアは単純だった。毎年の夏、我々は基本セットを作っている。基本セットには、ちょっとしたテーマがあるものだ。ある年はニコル・ボーラスを、またある年はチャンドラを、またある年はテフェリーを中心に据えた。それなら、基本セットのテーマをマジックのキャラクターにするのではなく、D&Dにしたらどうだろうか。それによって基本セットに独自の特徴が生まれ、新規プレイヤーを引き込むこともできるかもしれない。
ビルは2021年夏の基本セットにD&Dというテーマを持たせることを指示した。D&Dチームは、その舞台はフォーゴトン・レルムにしてほしいと条件をつけた上でその計画を承諾したのだった。
私は諸君によく実際の文書を見せている。そして、今回、アンドリューは提出文書の一部として、狙っている雰囲気がよく分かる、素晴らしい文章を作っていた。これはアンドリュー率いるチームが再現しようと考えた全体としての雰囲気を理解する助けになるだろう。(次の項目はアンドリューが書いたものである。非公開情報の関係で一部編集してある。)
アンドリューの文章はこちら。
さて。ここからは再び私(マーク)だ。この文書から分かる通り、このセットにはしなければならないことが多かった。D&Dは、長年に渡って多くのプレイヤーがプレイしてきている、愛されているゲームである。マジックのD&Dセットへの期待は10年以上に渡って積み上がってきていたのだ。マジックらしく、しかし同時にD&Dらしいセットを作ることに多大な重圧がかかっていた。アンドリュー率いる展望デザイン・チームは、その仕事にうってつけだった。
君は物事の移り変わりに気がついた
アンドリュー率いるチームがD&D風味の基本セットを作ることからデザインが始まった。まず彼らは、『エルドラージ覚醒』の《魔法の眠り》のような、D&Dらしいと感じられる既存の単純な呪文を探した。次に、マジック・ミサイルという直接火力呪文など、基本セットに入っていると予想される呪文を選んでD&Dのフレイバーを持たせた。それから、D&Dのコンセプトを踏まえて単純なトップダウンのカードをデザインした。それらのカードをデザインしていたとき、彼らは、基本セットに入れるには複雑過ぎるカードを作っていることに気がついた。すべてのアイデアが単純なものに変換できるわけではなく、それらのデザインはクールだったので、彼らはそれらをセットに入れた。
それから、メカニズムが必要かどうかについて話し合った。(先の文書の中で、アンドリューが新メカニズムについて語っていることに気づいていたかもしれない。)基本セットでは常磐木でないメカニズムを使わなくなっているが、かつては使っていた。D&Dセットなら例外にできるかもしれない。メカニズムを1つだけ使うことができるかもしれない。再録メカニズムは必要ないかもしれない。新メカニズムにできるかもしれない。このセットに常磐木でないメカニズムを複数入れられるかもしれない。「かもしれない」が積み重なり、少しずつ、セットは複雑になり始めていた。そのことからは、当然、「このセットは複雑になるべきだろうか」という重要な質問が導かれた。
これは、『マジック・オリジン』の事例を想起させた。それは、基本セット、の一種だった。新メカニズム2つと、再録メカニズム1つ(変身/両面カード)が入っていた。通常の基本セットよりも複雑だったが、我々はそれを基本セットとした。D&Dセットは『マジック・オリジン』のようなものかもしれない。基本セット・プラスというべきものだ。個別のトップダウン・カードのデザインは奈落の全員を興奮させていたので、よし、これは基本セット・プラスだ、となった。
当時、『ゼンディカーの夜明け』はセットデザインの後期で、うまく進んでいた。このセットは、冒険世界というフレイバーの性質上、非常にD&Dに近い方向性であり、人々はそれに非常に好意的だった。また、開発部は、アーロンが提案した、他の知財を使ったマジックのカードをデザインするというアイデア「ユニバースビヨンド」に関する議論にかなりの時間を割いていた。どの知財がベストかという議論が起こっており、そのリストの順番にはさまざまな異論があったが、全員が1つだけ同意するもの、それが、D&Dは完璧にふさわしい、ということだった。全体として他の知財を用いる初めてのセットなのだから、これまで以上にそれに寄せるべきかもしれない。基本セット・プラスでは足りないかもしれない。
D&Dセットが具体的にどうあるべきかの激しい議論が交わされた。最終的に、「できるかぎり最高のD&Dセットにする」と決定された。もう、基本セットであるとは考えなくてもいい。最終的に基本セットでなくなるという話ではなく、デザイナーがもう基本セットだと意識しなくてもいいということである。単純に、できるかぎり最高のマジックのD&Dのセットを作るのだ。これは、新メカニズム、ゲームの外部の要素、サイコロを振ること、メカニズムへのフレイバーの新しい付け方、その他いろいろなことにつながる。それらについては、来週、その2でお話ししよう。
君は新しいクールなものを見つけた
今日の締めくくりの前に、すべて白のプレビュー・カード3枚をお見せしよう。まずは白のドラゴンだ。知らない諸君のために言うと、D&Dののドラゴンの主な色5色は、白、青、黒、赤、緑である。これは無視できない偶然の一致だったので、このセットにはアンコモンのドラゴンのサイクルが存在する。
次は、大量の呪文を唱えることで実力を見せてくれるモンクだ。
最後に、このセットの白のプレインズウォーカーをお見せしよう。
君は休息の夜を迎えた
本日はここまで。デザインの物語の序盤を楽しんでもらえていれば幸いである。いつもの通り、この記事や『フォーゴトン・レルム探訪』に関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、セットのメカニズムとテーマについて話し始める日にお会いしよう。
その日まで、あなたが好きな知財を愛し、あるいは新しい知財について学びますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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