READING

開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『モダンホライゾン2』 その2

Mark Rosewater
authorpic_markrosewater.jpg

2021年6月28日

 

 先週、『モダンホライゾン2』に関する一問一答をアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheとともに始めた。質問が非常に多かったので、回答に2週間を費やすことにした。誰が答えたかわかるように、アーロンの答えにはそう記載している。

 それでは、まずアーロンへの質問から。

状況によっては優秀でも、「通例の」カードよりも弱いことが多いカードとしてデザインされたようなカードを見かけることがよくあります。《流刑への道》と《剣を鍬に》とか、各種のダメージ呪文と《稲妻》とか。完全上位互換(《滅ぼし》)を作ることにするのはどんなときですか?

アーロン:私たちは通常、トーナメントでプレイアブルなカードの完全上位互換バージョンを作ることは避けようとします。状況による使い方があって興味深い選択をもたらす「競合品/sidegrades」を作ったり、弱すぎたせいでプレイされなかったカードの強化版を作ったりすることは好きです。

 《滅ぼし》は、一種の異常値です。このカードは、コストによって活きたり死んだりします。超過コストが{2}{W}{W}でなければ、《神の怒り》が連想されることはないでしょう。このカードについては内部で議論が重ねられましたが、内部外部問わず、いつでもレアの試験をしたときは最上位にありました。それだけまとまりのあるカードだったので、私たちは必ず印刷したいと考えました。幸いにも、《呪文嵌め》《コジレックの審問》《大歓楽の幻霊》といったカードのおかげで、モダンの黒マナを出せないデッキにおいては《神の怒り》より《滅ぼし》を使うべきだとは言えず、黒マナを出せるデッキでさえ弱くなる状況があります。

再録カードに新しいアートを与えることにしたのはなぜですか?

 一言でいうと、アート・ディレクターの決定だ。詳しく説明するために、全体の流れを見ていこう。

 各セットにはアートの予算(新アートにできる枚数の上限)があり、アート・ディレクターはそれをどう使うかを考える。もちろん、新カードは新アートだが、それだけで予算全体を使い切るわけではないことが多い。

 カードを再録する場合、アート・ディレクターはそのカードに使えるアートすべてを見直す。ユーザーの多くが目にしたことのないアート、例えばプロモ用のアートやデジタル版などでブースター・パックに入ったことのないアートもあるかもしれない。そしてアート・ディレクターはプレイヤーが心を躍らせるようなアートを使う傾向にある。古参プレイヤーが目にして喜ぶとわかっている非常に象徴的なアートを、アート・ディレクターが再利用することにすることもある。

 しかしながら、それらに当てはまらない場合、アート・ディレクターは新しい何か、あるいはそのカードをセットに関連する何かに結びつける何かを試すときだと判断することになる。これは他の何よりも主観的な判断ではあるが、アートを可能な限り良いものにしようとする行為なのだ。

どのカードを旧枠仕様にするかはどうやって決めたんですか?

「スケッチ風」ショーケース・カードになったのはどのカードで、その決定はどうやってしましたか?

 両方とも、アーロンに答えてもらおう。

アーロン:ほとんどの通常のセットでは、ショーケース仕様は特定のメカニズム的テーマを持つカードに割り当てています。『ゼンディカーの夜明け』の上陸クリーチャーには面晶体枠があります。『イコリア:巨獣の棲処』の変容クリーチャーにはショーケースのコミック仕様があります。

 『モダンホライゾン2』にはメカニズム的濃度がないので、特定の仕様用のカード選択はそれぞれ別々のものでした。旧枠仕様のためには、「オールドスクール」だと感じるカードを(そして旧枠版が存在しない、モダン初収録の再録カード4枚は確実に入るように)選びました。そして、ショーケース・スケッチ枠には、アート・ディレクターのシンシア・シェパード/Cynthia Sheppardと協力して、よく見える明確なスケッチがあるカードを選びました。

白のカードを引くという理念について教えてもらえますか?《エスパーの歩哨》がトーナメント・レベルがどうかはわかりませんが、能力はとてもクールです。

 我々は、白独特のカードを引く能力を白に持たせる方法を見つけるため、色の協議会でかなりの時間を費やした。我々の目標は、単に既存のカードを引く呪文を選んで白にする、というものではなく、カードを引くというデザイン空間を新しく広げてそれを白の特徴の一部にすることであった。その作業は、単に1つのものを作るだけのものではなく、全体が一体となって我々の望む雰囲気を作り出す一連のものを作るというものである。どの部品が一番うまく作用するかすらわからないので、我々はさまざまなものを試しているのだ。できたときには、それについて解説しよう。

 《エスパーの歩哨》は、税としてカードを引くことを試したものである。白は決まりを定めることができるのは明白なので、白が決まりを定めるが、プレイヤーが決まりを定めた白のプレイヤーにカードを引かせることでその決まりを回避できるというのはどうだろうか。これは他のどの色もしていないことで、いかにも白らしいものだ。私はこのデザイン空間に楽観的で、諸君が《エスパーの歩哨》を楽しんでくれるのは喜ばしいことだ。

ヨーグモスの意志》や《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》が緑に移動し、白よりも強力な頌歌もあるようになって、緑はやりすぎで欠点がないという懸念はありますか?

 まずアーロンに答えてもらってから、私も答えさせてもらおう。

アーロン:『モダンホライゾン2』で緑が他の色からいろいろと盗んだという驚愕の声はたくさん届いています。大きいもの3つについて説明しましょう。

  • ガイアの意志》について。《ヨーグモスの意志》が強力さで名高いからといって、その効果が黒だということはありません。実際、マークが『ウルザズ・サーガ』ではじめてこのカードを提出したときは、緑でした。墓地全体を戻すのは緑の能力で、このカードはその名前に比べると強くはないので、私はこのカードが移動したことで色のパワーバランスを大きく崩すとは全く考えていません。
  • 成長の揺り篭、ヤヴィマヤ》について。私は「あなたのすべての土地はあるタイプ1つである」が黒が独占しているものだとは思いません。森が広がってすべてを覆い尽くすのは素晴らしいフレイバーで、緑がこの効果を使えるのは黒がこれを持つのとは全く異なる結果になります。(緑には《陰謀団の貴重品室》や《堕落》のようなカードはありません。)色を変えて模倣するカードで全く違う結果になるのはクールです。
  • 森の頌歌》について。これは度を越しています。このセットが確定した後で、色の協議会はこれはあまりにも度を越していると判断しました。最高の「頌歌」効果は白にあるべきで、これはモダン最強の1枚だと言えるでしょう。時間を遡れるなら、私は、+1/+1以外のボーナスを探すでしょう。

マーク:緑には2つ問題がある。欠点を防いでしまうことと、全体としての色のバランスだ。まず、欠点を防いでしまうことの話をしよう。アーロンが説明した3枚のカードは、どれも、緑ができることの範囲内に存在する。(比率の問題はあるが(効果の強力さとマナ総量)、これらのどのカードも緑がカラー・パイ上すべきでないことをさせてはおらず、緑にその弱点(クリーチャーへの過度な依存)を補うことができるようにしてもいない。つまり、私は、我々が『モダンホライゾン2』で緑の欠点を防いでしまっているという危惧はしていない。

 それでは、色のバランスの話をしよう。私がよく言っている通り、マジックは単一のゲームではなく、共通のルール群とゲームの要素でつながるゲーム・システムである。我々は可能な限り色のバランスを取ろうとしているが、いくつかの障害があるのだ。

 1つ目に、大量の相互作用する部品があるので単純に難しいということ。我々は色を盛衰させる、つまり新セットが登場するごとに最強の色を変えることで対処することが多い。

 2つ目に、さまざまなフォーマットが存在すること。フォーマットが広くなればなるほど、色のバランスを取るのは難しくなる。例えば、特定のリミテッド環境の色のバランスを取ることはそれなりに可能だが、エターナル・フォーマットの色のバランスを取ることはほぼ不可能である。28年間に及ぶカード史に新しいカードを加えることで与えられるインパクトには限りがあり、我々は禁止カードを出すことをなるべく避けたいと考えているのだ。

 なぜ(長い時間で見て)特定の色に強力なカードを作って他の色には減らすことでマジック全体のバランスを取らないのか。それは、エターナル・フォーマットでの色のバランスを取ることすら保証できず、他のフォーマットに多大な問題を引き起こすからである。それにもまして、カラー・パイの進化と、後知恵で言ってすべきでなかった色のルール破りに関して言うと、広いフォーマットではカラー・パイはすでにかなり広げられているので、我々が挑んだとしても達成不可能な任務だろう。

 ここで強調しておきたいのは、先程の質問で答えたとおり、我々は、統率者戦における白などのカラー・パイ的に検討すべき内容を記録しており、さまざまな環境で新しい道具として機能しうるカードを作ることに積極的に取り組んでいるということである。統率者戦において白と緑のバランスを取ることはできないかもしれないが、我々は白が統率者戦プレイヤーが試したくなるような新しいものを使えるようにすることはできるのだ。

片目のガース》は本当にクールなデザインですが、なぜ再録禁止リストにあるカードを作れるようにしたんですか? おそらく競技マジックに影響を及ぼすと思うんですが。

 これもアーロン向けだ。

アーロン:このデザインのクールなところは、物理的に再録禁止リストにあるカード(《知識の噴出》と《ブラック・ロータス》)を持っていなくてもそれらで楽しめるということです。《片目のガース》がコピーを生成して、あなたはそのコピーをプレイできるんです! テストの結果は、これはトーナメント・プレイでバランスを崩すものではなく、マジックの過去をいくらか経験できる楽しい方法にすぎないというものでした。

部族としてのマイアは、今の複数のセットに渡るクリーチャー・タイプの理念上、どういう状態ですか?

 マイアは現在、新ファイレクシア(元ミラディン)だけの存在だ。『モダンホライゾン2』などのサプリメント・セットにはさまざまな世界から登場することがあるので、マイアのようなものを使うこともできる。我々がマイアがいてもおかしくない別の世界を見つけたら、我々は検討するだろうが、残念ながら(私はマイアのファンでもっと見たいと思っている)、マイアは現在単一次元のクリーチャー・タイプである。

どのレガシー・カードをモダンに導入するかを決めるに当たって決定木はどう働きましたか?

 これもアーロンに答えてもらうほうがいいだろう。

アーロン:私はプレイデザイン・チームと協力して、どれが今のモダンにふさわしいか、どれが近い将来のためになるか、どれが導入してはならないか、どれがまったく影響をもたらさないと思われるか、モダンで使えない何百枚ものカードを評価しました。私は1つ目の分類を主に(と、2つ目と4つ目の分類を少々)見て、私たちのリミテッドのテーマに合うものと、プレイヤーの皆さんが待ち望んでいるものと、私がプレイした個人的な思い出があるものを選びました。それらすべてのテストをした結果、一部(《最後の審判》など)はボツにしなければなりませんでしたが、最終的には魅力的な再録カードをモダンに追加できたと思います。

翡翠の復讐者》に何があったんですか?これらのカードをクリエイティブは『未来予知』のように舞台になりうる複数の次元として扱うんですか、それとも今は神河に蛙がいるんですか?

 特定の世界を中心に据えていないセットの自由さの中には、個別のカードのコンセプトを広く弄ることができるというものがある。《翡翠の復讐者》の重要なところは、(《チャブ・トード》に武士道を持たせるため)カエル・侍であるというところにある。我々は、そのカードがどこから来るのかを考えることなく、作りたいカードを自由に作ることができたのだ。正直な所、私は《翡翠の復讐者》がどの次元から来たのかがわかっているかどうかも知らない。神河ではないと思うが、そもそも既知の次元から来たという前提で作られたかどうかは怪しいところだ。

このようなセットを組み上げるとき、ドラフト用カード、モダン構築用カード、統率者戦用カード(再録も含む)のバランスをどうやって取っていますか?

 ブースター・ドラフト(そしてリミテッド・フォーマット全般)をデザインする上での鍵は、フォーマットはメカニズムやテーマの開封比(特定のものがブースター・パックにどれだけの割合で入っているか)を軸に組み立てられることになることから、主にコモンやアンコモンに焦点を置くことである。レアや神話レアはドラフトにスパイスを加えることはできるし、楽しい基柱カードであることもあるが、ドラフトを成立させる上で第一なのはコモンやアンコモンなのだ。メカニズムやテーマは、プレイヤーがドラフトして一体感のあるデッキを作るのに充分な量が必要である。

 構築モダン用カードをデザインする上での鍵は、モダンを研究して可能性のある場所を認識することである。そのための主な方法はいくつか存在する。

  1. 既存のデッキを見て、それらのデッキに入るカードを作る。
  2. そのカードを基柱にしたデッキを組めるような強力なカードを作る。
  3. サブテーマの架け橋になるカードを作る。
 

 注。上記3分類のすべてにおいて、既知の効果を用いて何かをするカードを作ることも、新しい効果をデザインすることもできる。前者のほうが後者よりもずっと簡単である。『モダンホライゾン2』では、特定のカードが上記のいずれかの機能を満たすかどうか見るため、プロプレイヤーを招いたものも含む多くのプレイテストが必要だった。

 統率者戦用カードをデザインする上での鍵は、統率者戦で有意義なことが多い効果を持つカードを見つけることである。全体として統率者戦は遅く、カードやマナを得るような特定のリソースが重要になる。

 また、このフォーマットは統率者を軸にしているので、伝説のクリーチャーをデザインするときには常に統率者戦の視点が必要になる。(ただし、すべての伝説のクリーチャーが統率者戦専用というわけではないことは強調しておこう。)統率者戦を作る専門のチームがあるので、我々はセットを作るときのリソースとして活用している。(また、そのチームのメンバーをデザイン・チームに入れることも多い。)

 これらの分類には当然重複する部分があるので、複数のフォーマットで有意義なカードを作ることが可能である。カードをデザインする時に、そのカードが最も有意義になうフォーマットが何かを理解し、その方向に向けることは重要なのだ。

 今日の最後の質問は、アーロンに答えてもらおう。

CMCが5以上で代替コストや唱える以外の能力(サイクリングなど)やコスト低減効果(探査)を持たず、それでいてゲームを一気に有利にできるようなものでもないものを、「4ターン目のフォーマット」の名で売られているセットに入れたのはなぜですか?

アーロン:これの答えはいろいろとあります。

  • 『モダンホライゾン』の「モダン」は、別に「競技的で冷酷なモダン」だけを意味するわけではありません。多くの人々はモダンを家庭や店舗で、自作のデッキで楽しんでいて、そういったゲームは毎回4ターンで終わるわけではありません。
  • 4ターン目のモダンのメタゲームに影響を与えるために、セット全体の強さを高めるわけにはいきません。それでは誰も幸せになりません。
  • リミテッドや統率者戦のプレイヤーはこの製品のユーザーとして大きな比率を締めていて、カードの目標を向けられる別の場所があることはいいことです。
  • 無慈悲なモダンにおいてさえ、例えば《ドミナリアの英雄、テフェリー》や《原始のタイタン》など、マナ総量が5以上のカードはよく見かけます。ゲームの速度を落としたり、マナ加速をするなどで、それらのカードをプレイアブルにできます。
  • コスト低減やサイクリングを持つ重いカードは多く、このセットにはリアニメイト効果が大量にあるので、マナ総量が7以上のクリーチャーでさえも魅力的になります。

 このセットは、本当にさまざまなプレイヤーや体験に応えています。無慈悲なモダンはこの製品から多くの新しいおもちゃを手に入れます。そして、私たちは、統率者戦やパウパー、レガシー、ヴィンテージ、リミテッドのファンもそれぞれが心躍らせるものを手に入れられるように望んでいます。

「そして……完了。」

 本日はここまで。質問を送ってくれた諸君と、回答を手伝ってくれたアーロンに感謝したい。いつもの通り、私やアーロンの回答に関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。諸君からの質問に対する私の答えを楽しんだ諸君は、私の target="_blank" rel="noopener">Tumblrで毎日質問に答えているのでぜひそちらも見てもらいたい。

 それではまた次回、『フォーゴトン・レルム探訪』のプレビューでお会いしよう。

 その日まで、『モダンホライゾン2』をたっぷりプレイして浮かんだ新しい質問があなたとともにありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索