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Making Magic -マジック開発秘話-
モダンの手法 その1
2021年5月24日
『モダンホライゾン2』プレビュー特集第1週にようこそ。今日諸君にお見せするプレビュー・カードのことを思うとこの上なく胸が躍るが、その前にお話すべきデザインのことと紹介すべきデザイン・チームがある。準備が良ければ早速始めよう。
チームのご紹介
いつもの通り、デザイン・チームの紹介からプレビュー特集を始めよう。プレビューは2週に渡って行われるので、今日展望デザイン・チームを紹介し、来週セットデザイン・チームを紹介しよう。それぞれのチームのリードに、自己紹介とチームの紹介をしてもらった。
まず、イーサン・フライシャー/Ethan Fleisherによる『モダンホライゾン2』展望デザイン・チームの紹介をどうぞ。
おかわり
初代『モダンホライゾン』の歴史について知らない諸君のために、手短に説明しておこう。
開発部はときおり、開発部の多くが1週間通常の業務を離れて、将来のプロジェクトの1つにそれぞれ集中するハッカソンというものを行なっている。第1回ハッカソンは、新しいサプリメント製品のアイデアを見つけるというものだった。誰でも、新しいサプリメント製品向けのアイデアを提出できたのだ。
イーサン・フライシャーと私は、それぞれ別個に、初代『時のらせん』ブロックの特徴の多くを備えている、複雑さが高くて郷愁に富んだドラフトのセットというアイデアを提案していた。2人のアイデアが似通っていたので、イーサンと私は協力して働くことになった。(アリソン・スティールとナット・モース/Nat Moesも一緒だった。)この製品は採用され、最終的には『モダンホライゾン』になったのだ。このセットの発売は2019年で大成功を収めた。そこで我々はすぐに、その2作目に取り掛かることになったのだ。今日の話は、そのセットのことなのである。
イーサン・フライシャーは、そのハッカソン・チームと初代『モダンホライゾン』のリードを務めたので、その続編に最適な人材だと考えられた。作業を始めると、目標は非常に明瞭だった。初代『モダンホライゾン』がこれほど成功したその理由をさらに進めるのだ。私は、特定のメカニズムの話ではなく、その精神を再現する、という話をしている。『モダンホライゾン』は高い複雑さを扱えてマジックの過去に温かい思い出を持つ、熟練したプレイヤーを対象にしている。
開発部ではずっとその種のカードを「『時のらせん』カード」とあだ名していた。通常のセットにも1~2枚あってもいいが、『モダンホライゾン』セットでは、あふれんばかりのそれらのカードでいっぱいだったのだ。そのハッカソンで、このセットにコードネームが必要だったので、我々は『退廃/Decadent』と命名した。その名前は、デザインやプレイがどのように感じられるかということをうまく表してくれたのだ。
イーサンはまず2つのことを調べることから展望デザインを始めた。2つ目のセットで、1つ目のセットの何を繰り返すべきか、そして何を違う形にできるのか、である。
まず、何をそのままにしたいか、から。
#1) 郷愁、郷愁、郷愁
我々が初代『時のらせん』ブロックを作ったとき、我々はそれを「マジックへのラブレター」と呼んでいた。それは明らかに、マジックの歴史を体現し、誇示するカードでいっぱいのブロックだったのだ。個別のカード、メカニズム、キャラクター、場所、出来事、名前、フレイバー・テキスト。どこにも限界はなく、そしてお互いに関連していることも多かった。
『モダンホライゾン』はそれを引き継ぎ、そしてそれは『モダンホライゾン』のDNAに永遠に刻み込まれたのだ。幸いにも、先述の展望デザイン・チームで分かる通り(そして来週はセットデザイン・チームでも見る通り)、『モダンホライゾン2』のデザイナーたちはマジックをよく知っており、その郷愁をもたらすことができる人々なのだ。
#2)より高い複雑さ
『時のらせん』ブロックは、奇妙な数字をもたらした。売上は落ちたが、組織化プレイは増えたのだ。それまでは、この2つの数字はいつもお互いに同じ傾向を示していた。『時のらせん』ブロックでわかったことは、組織化プレイにもっとも良く参加するような熟練したプレイヤーが好み、大量にプレイするということであった。そうでないプレイヤーは、怖気づいた。元ネタとなっているもののほとんどを知らず、しかも、その高い複雑さに手こずり、このセットをあまり楽しめなかった。
『モダンホライゾン』はサプリメント製品なので、少数のユーザーに焦点を当てることができる。それによって、複雑さを高めることができるようになり、郷愁を感じさせるメカニズムのうちいくつかを使うことができることになったのだ。
#3)奇妙なドラフト・アーキタイプ
通常のセットでは、基本レベルのプレイをいくらかドラフトに組み込まなければならない。誰かが1~2色を選びその色だけをドラフトしたとして、それで基本的には成立するようなデッキがなければならないのだ。それで何勝もできる必要はないが、デッキの形になってプレイして楽しいものでなければならない。熟練したプレイヤー向けに舵を切ったことで、カードやテーマのシナジーをよりよく理解する必要があるテーマを扱うことができるようになったのだ。通常のドラフト環境には、奇妙なドラフトのアーキタイプが2~3存在する。『モダンホライゾン』ではその数を増やすことができるのだ。
次は、『モダンホライゾン』でできなかったことで『モダンホライゾン2』でできること。
#1)モダンに追加するものを最大化する構造を作る
展望デザインが始まってしばらくするまで、カードが直接モダン・フォーマットに入るかどうかの決定がされてはいなかった。初代『モダンホライゾン』の展望デザインは適応したが、あのセットのために作った構造はモダンで使えるかどうかがわかるよりも前に作られたものだったのだ。
今回は、そうではない。デザイン・チームは、モダンがどのような種類のカードを必要とするかを考え、それらのテーマを軸にしてアーキタイプをこのセットの構造の基礎部分に組み入れることができた。
#2)伝説のクリーチャーをより多く使う
初代『モダンホライゾン』には、伝説のクリーチャーは9体しかいなかった。なぜそれほど少なかったのか。それは、『モダンホライゾン』と同時期に『統率者レジェンズ』(スケジュールは何回か変更された)が発売され、そちらに踏み込みたくはなかったからである。(ウルザやヨーグモスといった)古くから人気のキャラクターを数人選んだが、伝説のクリーチャーにはまったく向かわなかったのである。『モダンホライゾン2』ではその心配はいらないので、伝説のクリーチャーをテーマとして扱うことができるのだ。
#3)多色に少し寄せる
『統率者レジェンズ』のせいで、『モダンホライゾン』はもう1つ、多色カードも減らす必要があった。『モダンホライゾン』には多色カードは24枚(コモンは0枚)あったが、『モダンホライゾン2』ではもう少し増やすことができた。
#4)使えるメカニズムをもっと増やす
初代『モダンホライゾン』では、『タルキール龍紀伝』までのモダンのメカニズムに制限していた。この製品の未来がどうなるかわからなかったので、もう1つデザインしなければならない場合に備えていくらか余裕を作っておくことにしたのだ。
『モダンホライゾン2』では、モダンに存在しているメカニズムに限るだけになった。チームは、どのメカニズムでも採用することができた。(実際の制限は、そのメカニズムがカードをデザインする時点で発表済みであることだけだった。未公開のメカニズムは実際に印刷に到るまでに変更される可能性があるからである。)
これらを踏まえて、イーサン率いるチームはセットを作り始めた。展望デザインがセットに組み込んだ主なテーマはこうである。
マッドネス
彼らが考えたことの1つは、「トップ・ティアに近いモダンのデッキで、『モダンホライゾン2』がそのテーマに焦点を当てたらトップ・ティアに入りうるデッキはあるだろうか?」というものだった。
そういうテーマの1つが、マッドネスであった。マッドネスは『オデッセイ』ブロック第2セットの『トーメント』で初登場したメカニズムである。他の多くのメカニズム同様『時のらせん』ブロックで再登場し、その後『イニストラードを覆う影』ブロックでも再登場した。合計6つのセットで登場している。モダンで時折姿を見せるのは充分な枚数があるが、トップ・ティアに入るには充分とは言い難い。『モダンホライゾン2』に入れることで、必要な強化ができるだろう。このメカニズムの1種色は黒、2種色は赤なので、マッドネスは黒赤のデッキ・アーキタイプになった。
+1/+1カウンター
もう1つ『モダンホライゾン』でできることは、多くのメカニズムを1枚だけ入れることである。多くのメカニズムに共通しているテーマは何か。チームは調査を行い、そして最も目立ったものが+1/+1カウンターだった。
+1/+1カウンターは継続的累加的成長を可能にする、マジックの必需品である。長年に渡り、多くのメカニズムは+1/+1カウンターを使ってきた。加えて、それらのメカニズムすべてがあることにより、メカニズム的に+1/+1カウンターを扱うカードも多く存在している。+1/+1カウンターを最も使っている色が緑と白なので、展望デザイン・チームはこれを緑白のアーキタイプにした。
リアニメイト
リアニメイトは、ほとんどのセットではリミテッドのテーマとして取り上げるのが難しいテーマなので、『モダンホライゾン2』はまさに最高の機会だと考えられた。展望デザイン・チームはこれを白黒に配置した。
多色カード
『モダンホライゾン』には24枚の多色カードがあったが、コモンには1枚もなく、そのため開封比は非常に低かった。イーサン率いるチームはコモンの多色カード(完全サイクル1つで10枚)と、高いレアリティのカードを追加し、開封比を高めてドラフトにおける多色の役割を強めた。『モダンホライゾン2』自体は「金色のセット」ではないが、1に比べると多色カードの枚数は間違いなく増えている。
再録
この製品はモダンで使えるということをわかって作り始めたので、展望デザイン・チームは初期からプレイデザインと協議し、どの再録カードをセットに入れられるかを決めることができた。(再録カードをこのセットに加えると、そのカードはモダンで使えるようになる。)最終的にセットに入った再録カードは、展望デザイン中に加えられたもののほうが初代『モダンホライゾン』で加えられたものよりも多かった。
黒き剣のダッコン・テーマ
イーサンは物語の長年のファンで、黒き剣のダッコンのプレインズウォーカー・カードを作る機会に巡り合った。ダッコンは『レジェンド』で伝説のクリーチャーとして登場したが、プレインズウォーカーとしての時間を反映したカードになったことはなかった。このカードがセットに入ると、デザイン・チームは、クリエイティブ・チームの強力を受けて、黒き剣のダッコン関連のカードを数枚作る機会を見出したのだ。
展望デザイン・チームは、最終的にセットには入らなかったがいくつかのテーマを試みた。例えば、ファイルがセットデザインに提出された時、赤白は装備品テーマで、緑青は移植メカニズムを軸にしていて、黒緑はエルフ部族だった。来週、セットデザインと、そのチームがこのセットに加えた、新しいドラフト・アーキタイプなどの多くの変更について語るが、私のプレビュー・カードに関わることなのでそれらの変更のうち1つについて今日語らなければならない。今日のプレビュー・カードは5枚あり、それらすべてが同じテーマを扱っている。それらのカードをお見せする前に、まずは話をさせてもらいたい。
今日お見せするテーマは、私が1997年にしたことの見返りなのだ。しかし、1997年がこの話の始まりではない。1996年前半に遡る。私はその数か月前にウィザーズで働き始めたところだった。私が参加した初めてのデベロップの会議は『アライアンス』のものだったが、そのすぐ後に私は『ミラージュ』のデベロップ・チームに参加することになった。
ある日、我々はファイル内の緑のカードを手掛けていて、こんなカードに出会った。
〈見えざる野生生命〉
{G}{G}{G}
ソーサリー
各プレイヤーはそれぞれ、自分がコントロールしている森1つにつき1体のリス・トークンを生成する。それらのトークンは1/1の緑のクリーチャーである。
私の長年のファンは、この話がどこに行き着くかもうわかっただろう。(そしてきっと笑みを浮かべてくれていることだろう。)これはリス・トークンを生成する。我々は、このカードにリス・トークンがふさわしいかについて話し合った。私は、このカードにふさわしいのはリスだけだと言った。もちろん、リスでなければならないのだ。私はこのアイデアに魅了されていた。デベロッパー全員が、これをリスのままにすることに問題はないと言った。これが、マジックにおけるリスの初登場だった。
このカードのアートの指示は以下の通りだった。
「何十もの飢えた小型生物がジャングルの下生えの中を走っている。絵では、その生物が何なのかは描かれていない。目だけが見えている。」
そして届いた絵がこれだ。(印刷されたカードでも使われている。)
明らかに、リスではない。何らかの理由で、見えざる生物は猫だったのだ。しかしアートがこうだったので、カードの効果を変えなければならなかった。リスが初登場するのは『ウェザーライト』の《うろの下僕》というカードになり、そして私は『Unglued』で《Squirrel Farm》というとてもおもしろいリス・カードを作ったのだった。
しかし、私にはさらなる望みがあった。目立つようなリス・カードを作りたいと考えていたのだ。そしてその機会は『ウルザズ・レガシー』で訪れた。
ただデザイン・チームに所属したと言うだけでなく、奇妙なめぐり合わせの結果、『ウルザズ・レガシー』の全カードのコンセプトを担当することになったのだ。(一言で言うなら、他に誰もいなくて、私は『Unglued』で経験済みだったのだ。)つまり、私がカードのアートの指示を書いたということである。私は、戦場に出たときに1/1のクリーチャー・トークン4体を生成し、その後それらすべてを+1/+1する(このカードはエコーを持っていたので、戦場に残すためにはもう1度コストを支払う必要があった)クールな緑のクリーチャーを作っていた。パワーレベル的な理由で、目立たないクリーチャー・タイプにする必要があったので、私はリスを選んだ。
この時点で、私の邪魔になりうるのはアートだけだった。《草陰の待ち伏せ》で学んだ通り、アートが帰ってきて実際にリスが描かれていなければ、これはリスのカードにはならないのだ。幸いにも、今回は私がアートの担当であり、アートの指示に間違いなくリスと書くようにすることができたのだ。こうして、《錯乱した隠遁者》が生まれた。(リスに関する全体の話は、2002年のリス特集の際に書いた記事「Squirrel of My Dreams(「私の夢のリス」:英語)」を読んでくれたまえ。)
こうして、リスを広めるという計画はうまく行った。非常にうまく行った。《錯乱した隠遁者》は非常に良かった! 非常に良かったので、無作法で若い新人(実際は彼は新人でも若くもないが無作法ではある)はこれを使って2000年のアメリカ選手権で代表チームを作った。そのアメリカ代表チームは、ベルギーのブリュッセルで行われたその年の世界選手権のチーム選手権で優勝するに到ったのだ。そのプレイヤーこそが、アーロン・フォーサイスという男であった。このカードが彼にもたらした成功のおかげで、アーロンはそれを大層気に入り、彼のリス愛が始まったのだ。
そして『モダンホライゾン2』のセットデザインに到る。展望デザイン・チームはエルフ部族を黒緑のアーキタイプとして提出していたが、アーロンはこのセットには面白みが足りないと考えた。初代『モダンホライゾン』には、スリヴァーと忍者がいた。エルフは普通すぎる。スタンダード・セットでもエルフ部族はできる。黒と緑にあって、もう少し面白みのある種族はなんだろうか。どうなるのか、諸君も予想できることだろう。
これまで、他の人や私が、リスを黒枠世界に戻すためにどれほど努力してきたかの話をしてきた。アーロンはもう一歩進んで、リスを黒枠セットのドラフト・アーキタイプにしたのだ。『モダンホライゾン2』にはリスがいるだけではなく、ドラフトできるリス部族があり、今日の私のプレビュー・カード5枚はすべてこのテーマに属するものなのだ。
まず、新しくモダンに追加される、リスの再録カードをお見せしよう。
それでは、新しいリス・カードをお見せしよう。1枚目は、自軍をリスでいっぱいにする助けになるアンコモンだ。
次は、リス・デッキでカードを引く助けになる、黒緑混成カードだ。
《錯乱した隠遁者》は初のリス・ロードだったが、それ以降にも何枚か存在している。『モダンホライゾン2』の、アンコモンなのでドラフトの軸にできる新しいロードをご紹介しよう。
最後に、リスを愛する統率者戦プレイヤー諸君のために、最後のプレビュー・カードをお見せしよう。そう、ついに、黒枠の、黒緑のリスの統率者である。
リス・ファンの諸君が私と同じように興奮していれば幸いである。もう1つ、今回プレビューした他にも結構なリス・カードがあることをお伝えしておこう。リスは、確実に、そして明白に、黒枠に踏み込んだのだ。
そんなバカな!
さて、この光り輝くリスのプレビュー・カードをもって、今日の話は終わりとなる。いつもの通り、今日の記事について、『モダンホライゾン2』について、あるいはリスについての諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『モダンホライゾン2』のセットデザインを解説し、リス以外の(また別の心躍るテーマの)プレビュー・カードをお見せする日にお会いしよう。
その日まで、あなたに24年後に見返りを得られるようなことがありますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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