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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

モダンの手法 その2

Mark Rosewater
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2021年5月31日

 

 『モダンホライゾン2』プレビュー特集第2週にようこそ。先週、このセットの展望デザインの話をした。今日は、セットデザイン・チームを紹介し、彼らのしたことを解説し、クールなプレビュー・カード2枚をお見せしよう。(今回のプレビュー・カードは、私がリスと同じぐらい好きなテーマに基づいている。そしてそれがものを言うのだ。)私と同じく、諸君にも楽しんでもらえれば幸いである!

 最初に、リード・セット・デザイナーのアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheにチームの紹介をしてもらおう。(注:アーロンの紹介は私がしていて、そのあとの他のメンバーの紹介はアーロンがしている。)

クリックしてセットデザイン・チームを表示


位置について……用意

 初代『モダンホライゾン』は、独自の特徴を作るために多くのことをしていた。『モダンホライゾン2』は、その同じ構造を受け継ぎ、その上に構築しなければならない。アーロン率いるチームは『モダンホライゾン2』がする、初代『モダンホライゾン』と異なるものは何かを理解しようとした。

 大きな違いは以下の通りである。

多人数戦が重要な役割を果たす

 先週述べたとおり、『統率者レジェンズ』の邪魔をしないように、初代『モダンホライゾン』のデザイン・チームはセット内の多色カードの枚数を制限していた。『モダンホライゾン2』はそうではないので、展望デザインはその枚数と開封比(ブースターパック内にそのテーマが占める割合のこと)をともに増やした。セットデザインはその枚数を、コモン10枚、アンコモン10枚にし、レアや神話レアの枚数も増やした(再録は含まず、新規のカードのみで)。また、増大する金色カードを支えるため、コモンに10枚からなる2色土地のサイクルを入れた。(まだそれらの2色土地はプレビューしていないが、いかにも『モダンホライゾン』らしいものだと約束しよう。)

再録の扱いが変わる

 『モダンホライゾン』では、再録は単にセットに入っているだけだった。ブースターパック1つから何枚出てくるかは、めぐり合わせに依るものだった。『モダンホライゾン2』では、アーロン率いるチームは再録が各ブースターパックに必ずちょうど1枚入るようにした。(例外についてはこのあと述べる。)この枠のすべての再録カードには、それが最初に登場したセットのシンボルがすかしとして入っている。これの例外は、レアに存在する敵対色フェッチランドのサイクルで、これらは再録枠ではなく通常のシートに入っている。結果として、これらにはすかしは入っていない。ちなみに、この結果、ブースターパック1つから通常のレア1枚と再録のレア1枚の合計2枚のレアを手に入れることがありうる。

異なるドラフト・アーキタイプがある

 両『モダンホライゾン』セットの全体的な雰囲気は同じだが、『モダンホライゾン2』は、特にドラフト・アーキタイプに関して、異なるメカニズムに焦点を当てるようにしたいと強く考えていた。2色の組とそれぞれのテーマに関する考え、そしてもう1つ追加のアーキタイプは以下の通り。

白青 ― 「アーティファクト関連」

 マジックは長年に渡り、テーマやサブテーマとしてアーティファクトを扱ってきたので、このアーキタイプはそれを扱う。大量のアーティファクト・メカニズムを使うが、その中でも、アーティファクトに集中することを奨励する、親和(アーティファクト)と金属術に特に焦点を当てる。親和(アーティファクト)は、派手で印象に残る、通常の本流のセットに入れようと苦心してきたものの絶好の例である。

青黒 ― 「自分のカードを捨てる関連」

 このアーキタイプは、青と黒の、自分の墓地を肥やし、その後さまざまな墓地メカニズムに使う能力を活用する。アーティファクト同様、捨てることと墓地はどちらも長年の間に、さまざまなカードを複合して新しいものを作り出すことができるほど登場しているテーマである。

黒赤 ― マッドネス

 先週述べたとおり、『モダンホライゾン2』における我々の目的の1つが、モダンでもう少し強化が必要なテーマを選び、それにカードをいくらか追加することだった。マッドネスはそういったテーマの1つであった。有用なマッドネス・カードの大半は(『イニストラードを覆う影』の吸血鬼の大テーマだったことから)黒と赤にあるので、これは黒赤のドラフト・アーキタイプになった。

赤緑 ― ストーム

 私は、ストームというメカニズムが本流のセットにいかに再録されにくいかを表すための、指標(ストーム値について詳しくはこちら)を立てた。つまり、これは『モダンホライゾン』のようなセットでなければできないテーマなのだ。アーロン率いるチームは、『モダンホライゾン2』に独特の雰囲気を与える助けになる、このようなメカニズム的テーマを見つけることに集中していた。赤緑は最もマナ生成に関わりが深い色なので、ストームはいかにも赤緑である。

緑白 ― +1/+1カウンター

 これも、展望デザインから持ち越されたテーマである。基本的に、これには我々が過去何年も作ってきた+1/+1カウンターを使うさまざまなメカニズムが含まれる。緑と白は+1/+1カウンターに最も焦点をおいた色なので、これが使えるカード・プールが最も広くなっている。

白黒 ― リアニメイト

 リアニメイトは展望デザインから持ち越された3つ目のテーマである。ストーム同様、これも複雑さと開封比の問題から本流のセットで成立させるのは非常に難しいメカニズムだが、そのどちらも、複雑さの高いサプリメント製品でなら解決できる。このテーマは、リアニメイトを最も使う色である白と黒に集中している。

青赤 ― 昂揚

 私がアーキタイプを解説している間に諸君に気づいてもらいたいことの1つが、色が共通しているアーキタイプ同士の間にどのようにシナジーがあるかである。例えば、青は大量の墓地肥やしを青黒で使ってて、それは『イニストラードを覆う影』ブロックの昂揚メカニズムとうまく噛み合う。昂揚もまた複雑なメカニズムであり、本流のセットではできない方法で、特に色の組1つだけのテーマとして、『モダンホライゾン2』が提供できるものである。

黒緑 ― リスと生け贄

 このテーマについては、先週プレビュー・カードをお見せしたときに話した。アーロンはアーキタイプの1つに部族テーマを持たせる、可愛らしいクリーチャー・タイプを探していて、リスは黒緑にまさにふさわしいと感じられたのだ。このアーキタイプはまた、リストうまく噛み合うようにデザインされた生け贄テーマも持っている。(リスの多くは1/1クリーチャー・トークンなのだ。)

赤白 ― アーティファクト・アグロ

 このアーキタイプは接合メカニズムの利点を生かして、白青よりもアグロ寄りなアーティファクト・テーマを作っている。過去のさまざまなテーマから選んでいるので、赤白が最もアグロ寄りのデッキになるのは道理にかなっているが、アーティファクト要素によって『モダンホライゾン2』の独自性が出せている。

緑青 ― 「トークン関連」

 トークンも、さまざまなセットに広がるテーマの1つである。このアーキタイプはただ種々のクリーチャー・トークンに言及するだけでなく、ここ何年も使われているさまざまなアーティファクト・トークン(手掛かり、食物、宝物)も扱っている。

5色 ― 収斂

 アーロン率いるチームは、5色すべてをドラフトしたいプレイヤーのために、収斂メカニズムを軸にした楽しい5色のアーキタイプも作った。

『モダンホライゾン』で軽く扱ったあるテーマを重視する

 もう1つ、最後の大きな違いは、『モダンホライゾン』では軽く触れただけのあるテーマを扱っている。そのテーマが今日のプレビュー・カードに関わっている。それが何なのか、これからいくつかヒントを出そう。

 このテーマは、『アルファ版』まで遡る。それを持っていたカードは以下の5枚である。

 さて、諸君にはそのテーマが何かわかるだろうか。わからない諸君のためにもう1つヒントを出そう。『アルファ版』で現在のテンプレートを使っていれば、《セラの天使》も含まれていた。

 そう、これはいわゆる、複合デザインだ。名前があるメカニズムを複数持っているカードである。現在、我々が複合について話す場合、複数の常盤木キーワードを持つカードはどのセットにもいるので、それらには注目しない。どちらのメカニズムも常磐木でないカードのほうが、興味深い複合カードなのだ。そのためには同じセットに同じカードに持たせて成立するようなメカニズム2つを入れなければならず、それは難しい。

 複合デザインをはじめて作ったのは、1999年にバルセロナで行われたデュエリスト・インビテーショナル(翌年、マジック・インビテーショナルに改名された)のためのものだったと記憶している。インビテーショナルで私が好きだったフォーマットは、16人の参加者全員が同じカードの組み合わせを受け取り、それでデッキを作る、デュプリケイト・シールドと呼ばれるものだった。最初の2年間は既存のマジックのカードだけを使っていたが、3回目のインビテーショナルに向けて、私は新しいカードをデザインすることを考えていた。プレイヤーは初めて見るカードを判断しなければならないので、このフォーマットに新しいレイヤーが加わることになる。

 私は上司に、カードを作ることの許可を求めた。彼は許可してくれたが、セットで使うことができるようなデザインをしないこと、という条件がつけられた。彼は私が将来のデザイン空間を「使い潰す」ことを懸念したのだ。私は、複合がこの課題への素晴らしい回答だと考えた。両方のメカニズムが再録されたとしても(そして当時、メカニズムの再録は当たり前ではなかった)、同じカードに載るためには両方同時に再録されねばならないので、これらのデザインは安全だと思われた。

 長い私のデザイン歴の中ではじめて(おそらく史上初)の、私が1999年デュエリスト・インビテーショナルに向けてデザインした複合カードの何枚かを紹介しよう。

〈霊ヒル〉
{1}{W}
インスタント
バイバック{3}、サイクリング{2}
ターン終了時まで、以下の能力のうち1つをすべてのクリーチャーから取り除く。バンド、先制攻撃、側面攻撃、飛行、土地渡り、プロテクション、再生、シャドー、トランプル

〈テフェリーのサラカスの臣下〉
{1}{U}{U}
クリーチャー ― 兵士
シャドー、フェイジング
3/2

〈ダウスィーの騎士〉
{1}{B}{B}
クリーチャー ― 騎士
側面攻撃、シャドー
2/1

〈突撃!〉
{2}{R}
インスタント
バイバック{1}{R}、サイクリング{2}
プレイヤー1人を対象とする。ターン終了時まで、そのプレイヤーがコントロールしているすべてのクリーチャーは側面攻撃を持つ。

〈魔法の駿馬〉
{2}{G}{G}
クリーチャー ― 馬
エコー、側面攻撃
魔法の駿馬は呪文や能力の対象にならない。
4/2

 私たち開発部は、いつも複合デザインができる機会を探しているが、その可能性はそうそう訪れない。それでも、長年の間にいくらかは作ってきた。

 そして『未来予知』だ。私は未来のヒントとなるデザインを、過去のメカニズムを使ってする方法を探していた。(狂気じみた理由から、我々は過去のすべてのデザインを『時のらせん』ブロックでは使えることにしていたのだ。)そして、いつか両方のメカニズムが同時に戻ってくるということを暗示する複合デザインが完璧な選択肢だと気がついたのだ。過去のもの同士を複合しててできる、新しいものだった。

 私は、(当時請負契約をしていて、デザイン・チームに所属していた)プロツアー殿堂顕彰者のズヴィ・モーショヴィッツ/Zvi Mowshowitzに、名前のあるすべてのメカニズムを調べて最高の複合デザインを列記する仕事を割り当てた。ズヴィはすべての複合デザインを調査して、5段階で評価をつけた巨大なスプレッドシートを作り上げたのだ。その中で4点や5点がついているもののほとんどは『未来予知』に入ったはずだ。

 そして初代『モダンホライゾン』のデザインに到る。我々は『時のらせん』ブロックの時代の価値観に則ったので、私はさらなる複合デザインの可能性を見出した。私の好みのテーマの1つであり、そのデザインをする機会はそう多くはないのだ。私は大量のカードをデザインしたが、完成したセットにはわずか3枚しかなかった。(すべてが私がデザインしたものではない)。

 そのため、アーロンが複合デザインを『モダンホライゾン2』のテーマとして使うことを決めたと聞いて嬉しかった。間違いなく、『モダンホライゾン2』は複合カードの完璧な居場所なのだ。

 それはさておき、いよいよプレビュー・カード2枚のお披露目のときだ。どちらも複合カードで、共通の人気のメカニズムと、それぞれ異なる別のメカニズムとの複合カードになっている。

 1枚目は、《血編み髪の匪賊》だ。

 クリックして「血編み髪の匪賊」を表示

 2枚目が、《エーテル宣誓会のスフィンクス》だ。

 クリックして「エーテル宣誓会のスフィンクス」を表示

 この記事とこの2枚のプレビュー・カードをもって、私の『モダンホライゾン2』のデザインの話はおしまいだ。いつもの通り、今日の記事について、『モダンホライゾン2』についてについての諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『モダンホライゾン2』のカード個別の話をする日にお会いしよう。

 その日まで、クールなメカニズムが一緒に訪れる夢があなたとともにありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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