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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『ストリクスヘイヴン』 その2

Mark Rosewater
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2021年5月10日

 

 先週、『ストリクスヘイヴン』に関する一問一答を始めた。良い質問が大量に残っていたので、それらに答えるためにもう1本記事を書くことにしたのだ。

80年代の高校を舞台にした映画の素材はいくつぐらい先行デザインのホワイトボードに書かれましたか?

 昨今、私は各セットの素材空間に精通するようにしようと考えている。芳醇なカード・デザインを作るために重要なのは、ユーザーが何を認識するかを理解することなのだ。『ストリクスヘイヴン』の場合、何段階かに分けられる。

 まず、魔法学校のあらゆる素材がある。それから、ポップカルチャー上の学校のあらゆる素材がある。最後に、実生活での学校のあらゆる素材がある。この1つ目の分類では、魔法を授業で教わったり、レクリエーションとして魔法で対決したりする学生などが挙げられる。2つ目の分類に入るのは、他の学校を退学になった新入生とか、大きなプロジェクトに口を出そうと努力する学生などが含まれる。最後の分類では、抜き打ちテストや2科目専攻などがある。つまり、80年代の高校を舞台にした映画の素材は(他のもの同様)いくつもホワイトボードに書かれていた。

新しい無色呪文やアバターのことが大好きです。エルドラージをここに入れたいという誘惑はありませんでしたか?

 なかった。我々には、無色が単なるエルドラージだけではないものを意味できるようにすることが必要だったのだ。エルドラージはゼンディカーにはふさわしかったが、他に無色呪文でできることは大量にある。例えば、『ストリクスヘイヴン』では、無色はどの学生も学ばなければならない1年目の授業を表していた。(ストリクスヘイヴンで大学を選ぶのは、2年生になってからである。)

ロアホールドは素晴らしいカードだけじゃなくボロスとまったく違うという点でもすごかったです。でも、プリズマリとクアンドリクスは、ラヴニカのギルドとそれほど違うようには思いませんでした。これは、青赤や青緑と比べて、赤白のほうがデザイン空間が広いからですか?

 まず、このセットをプレイしてみてもらいたい。プリズマリやクアンドリクスは、それぞれイゼットやシミックとは諸君の想像以上に大きく異なっているからだ。このセットは「呪文関連」のセットであり、そのテーマを持っていたギルドはイゼットだったので、プリズマリは対応するギルドとの差別化が一番難しい大学だった。イゼットは1ターンの間に大量のインスタントやソーサリーを唱えることに特化したテンポ・デッキでだったので、それと逆の方向に向かった。プリズマリはコントロール・デッキだ。プリズマリの考え方は、壮大な効果を持つ大型呪文を唱えられるようになるまで、時間稼ぎにリソースを費やすというものである。

 クアンドリクスはフラクタルの大きさを定義するために+1/+1カウンターを使うが、それは単に変数に意味を持たせるためだけである。シミックはカウンターに意味を持たせることに特化していて、それはクアンドリクスにはほとんど存在していない。

 プレイにはもう1つ因子があると私は考えている。赤白は、セットごとに同じ表現をされることがもっとも多い色の組だ。赤と白の2色はもっともアグロ寄りの色なので、セット内で赤白をアグロのアーキタイプにするのは非常に当たり前のことだ。アグロのアーキタイプは必要で、それが大得意な色の組み合わせは多くないので、赤白にやらせることがかなり多くなる。つまり、アグロをしない赤白の陣営を考えると、それは激しく目立って新奇になるのだ。

 対照的に、緑青はセットごとのアーキタイプにおそらくもっとも幅がある色の組であり、何をやっても見たことがあるものになってしまうことになる。

黒の大学でなく赤白の陣営が墓地に焦点を当てることにしたのはなぜですか?

 各陣営についてまず最初に決めたのは、どんなフレイバーが色の対立の一般的理念に当てはまるかだった。例えば、赤白の対立が社会を中心にしたものだと明らかになり(混沌と秩序は大きな系を扱うものであり、赤と白は人のつながりを最も意識する色である)、我々は赤白の大学を最も人々に関心を向ける大学にしようと考えたのだ。このことから進めていった結果、歴史の大学になったのである。

 次に、フレイバーをメカニズム的実装を決めるための始点として用いた。歴史に関心を持つ陣営は、何を中心にすべきか。過去を表す、墓地だ。もちろん黒のない陣営であることは認識していたが、我々は安易な目標を避けようとしていたので、赤白の墓地戦略というものがどのようなものになるかに注目したのだ。なんとかできると認識して、我々はそれを軸にした陣営を作ったのだった。

ミスティカルアーカイブのようなものによってストーム値的に問題があるメカニズムをスタンダード・セットのドラフト環境に入ることが起こりましたが、このようなことは今後増えるんでしょうか?

 ミスティカルアーカイブは、スタンダードに影響を与えることなくリミテッド環境を補完するための方法としてボーナスシートを使うことの実験だった。人気が出れば(そして初期の兆候としては熱狂的にそうなっている)、このリソースを将来のセットでも使うことになるだろう。これを使ってできるクールなことがいろいろとあるので、私の中のデザイナー魂はこの可能性にひどく興奮しているのだ。

ガラクを『ストリクスヘイヴン』に登場させることを一度は検討しましたか?

 なかったと記憶している。物語上はそれを検討する理由はあったが(『エルドレインの王権』の最後に、ガラクはローアンとウィルに気を配っていた)、プレインズウォーカーの色のバランス上不可能だったのだ。カズミナと双子は物語の中核なので、緑青と青赤は埋まった。

 残りは、少なくとも部分的に黒と、少なくとも部分的に白の2人の枠だった。ガラクは今は緑単色(呪いがなくなった時に黒もなくなった)なので、入れる枠がなかったのだ。これは、メカニズム的必要性が物語上欲しいものと衝突するという好例である。

『ストリクスヘイヴン』は、最初トレイリアのアカデミーのセットを意図したものでしたか?

 トレイリアのアカデミー(『ウルザズ・サーガ』ブロックに登場している土地の1つ)は、かつてマジックが魔法学校というジャンルを掘り下げたものではあるが、そこにはあまりにも多くの障害がついてきてしまう。敵対色で呪文中心の陣営セットというのは、長年の参考文献と矛盾することを心配しなくても充分な難題だったのだ。

これまでのどのセットよりも多種多量なMDFCが登場しているのは、成功すると考えた賭けだったのでしょう。このアイデアが大失敗だとわかったときのためのプランBはありましたか、それともこのセットはその存在が大前提になっていたんですか?

 マジックのセットの時系列から言って、MDFC(モードを持つ両面カード)のある最初のセットである『ゼンディカーの夜明け』に関するフィードバックを受け取る時期には、『ストリクスヘイヴン』はもうほとんど固まっていた。変更を加えなければならないとなったら、新しい資産なし、つまり既存のアートやカード枠だけを使うことになっていただろう。しかも、プレイテストをする時間もなかっただろう。

 つまり、変更を検討すること自体が我々にとって最悪の誤りであり、そうであったとしても、我々ができることはそう多くなかったのだ。

なぜスピリットが赤になったんですか? 今までは主に青、白、黒でしたよね。

 スピリットが赤なのは、ロアホールドが歴史の大学であり、スピリット部族はそれに関わるものにしたかったので、このセットには赤白のスピリットがいるのだ。メカニズムはカラー・パイに縛られるが、クリエイティブはフレイバー的な正当性があれば裁量の余地があるのだ。

 例えば、吸血鬼は通常黒だが、『イニストラード』には赤の吸血鬼が、『イクサラン』には白の吸血鬼がいる。ゾンビも通常は黒だが、『イニストラード』には青のゾンビが、『アモンケット』には白のゾンビがいる。新しい世界を作るという中には、特定のクリーチャー・タイプが存在する色を変えるということが含まれるのだ。

 さておき、多相を含まずに数えて、『ストリクスヘイヴン』以前にも45種類の赤のスピリットが存在していたので、これは新しいことですらないのである。

なぜ、助けになるカードが存在する既存のタイプ(ホラー、ナイトメア、イリュージョン)を使わず、墨獣を新しいクリーチャー・タイプにしたんですか?

 ああ、長年の、ヴォーソス対メルのクリーチャー・タイプの対立だ。ヴォーソスは、クールで刺激的なクリーチャー・タイプを好み、新しいクリーチャー・タイプを喜ぶ。特に、その世界においてフレイバーに富んでいるならなおさらのことだ。メルは部族シナジーを最大化したがるので、新しいクリーチャー・タイプを作るよりも既存のクリーチャー・タイプを再利用するほうを好む。

 我々は『ストリクスヘイヴン』で(いつもしている通り)これを分けて、両方を喜ばせる手法を取った。該当する大学のフレイバーに合う既存のクリーチャー・タイプを見つけられなかったので、墨獣と邪魔者は新しく作ったが、ドワーフやイフリートといったクリーチャー・タイプを再登場させて使うカードを増やせる部族を埋めるようにしたのだ。(訳注:邪魔者/Pestは新規クリーチャー・タイプではありません。)

色の組5つに焦点を当てたセットは、10種ではなく5種のリミテッドのアーキタイプを使うことが多いです。展望デザイン中に、リミテッドがあまりに繰り返しにならないようにする手立ては何かありましたか?

 開発部は常に、どんなドラフトでも10種以上のアーキタイプを作っている。敵対色に焦点を当てた多色の陣営セットでは、通常、ドラフト戦略に合った3色のアーキタイプ5つを作っている。『ストリクスヘイヴン』では、敵対色の陣営をドラフトするので、楔3色(1色とその敵対色2色)のアーキタイプを作った。これは、楔3色が、色1色を共有する任意の2つの大学の組み合わせになるからである。

単純明快に。なぜ護法なんですか? その裏にあるデザインのコンセプトは何ですか?

 我々が必要としたものの1つは、対戦相手がパーマネント、主にクリーチャー、に干渉しにくくする、ただし干渉できなくはしない、キーワードだった。呪禁やプロテクションは、クリーチャーを対処できないものにしてしまうことがよくあったのだ。

 我々は個別カードのデザインで実験を繰り返し、最終的に一番プレイ感が良かったものが「霜の鎧/Frost armor」と呼んでいたもの(基本的にはマナを要求する護法)だったのだ。我々はそれを気に入り、マナ以外のものを要求するものなどの変種を作り始めた。やがて我々は、開発部の言い回しで「充分使ったのでキーワードにしよう」という時期を迎えたのだ。我々はそれをいろいろなコストで使えるように自由度をどう高めるかを考え、名前を与えた。『ストリクスヘイヴン』は、単に、それが完成した次のセットだったのだ。

「0/0クリーチャーに+1/+1カウンターが載せられたフラクタル」というのは、ボトムアップのデザインですか、トップダウンのデザインですか?

 フラクタル・クリーチャーというアイデアは、0/0クリーチャーに+1/+1カウンターが置かれたものになるより前からあったので、おそらくトップダウンと言えるだろう。展望デザインでは、フラクタルは1/1のクリーチャー・トークンで、ほとんどの呪文が複数体生成していたのだ。

MDFCのないセットをまた見ることはできますか?

 『ゼンディカーの夜明け』発表時に言ったとおり、MDFCは我々が(D&Dのものを除く)マジックの「1年」に繋がりを持たせるため、この3つの本流のセットで使っているものである。いつかは再登場するかもしれないが、今のところはこれで終わりとなる。

ミスティカルアーカイブを思いついたのはいつごろのことでしたか?

 それは、セットデザイン中に追加された要素である。おそらく(私はそのチームにはいなかったが)、セットデザインの中盤だっただろう。

私がこのセットで一番好きなのは、色の組が、特にロアホールドが、伝統的なメカニズムの得意分野と違っていたことです。これは今後も続く傾向ですか?

 それは、諸君がどう感じたかによる部分が大きい。我々がドラフト・アーキタイプを新しい方向に向けたことを楽しんでくれたなら、教えてくれたまえ。それは我々が可能なことだ。

新しいリスは甘やかされてます。潮目は変わったんですか?

 潮目は変わりつつある。リス嫌いの連中は去り、新しいリスの日々が訪れたのだ。

カズミナの特徴のうちどれぐらいが、彼女が『灯争大戦』で初登場した時に決められていたんですか? 確か、彼女がエルドレインで登場すると言っていたはずです。彼女の物語上の役割はそこでも同じでしたか?

 カズミナが魔法学校の世界に関連付けられることは彼女が作られたときから決まっていた。『灯争大戦』版のプレインズウォーカー・カードにも、ウィザードを生成する能力がある。一時期、カズミナを『エルドレインの王権』の物語に登場させ、マーリンのような役割をさせることを検討していたが、それは物語を具体化する中で変更されたのだ。

カード名のジョークの比率についての議論はありましたか? それはどのようなものでしたか? これらのカード名は、黒枠が銀枠の冗談に最も近づく部分でしょう。

 クリエイティブ・テキスト(カード名やフレイバー)をもう少し(妥当な範囲で)愉快なものにできるよう、クリエイティブ・チームの方針転換があった。この変更を私はとても気に入っている。

時間切れ

 一問一答記事のまとめに入る時間だ。質問を送ってくれた諸君に感謝したい。すべての質問には答えられなかったことを申し訳なく思っている。質問をするのが好きなら、私はこういったことを私のブログ、Blogatogで毎日やっている。

 いつもの通り、今日の各回答や『ストリクスヘイヴン』一般について諸君の考えを聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『未来予知』デザイン提出文書の公開の際にお会いしよう。

 その日まで、あなたがストリクスヘイヴンの「授業行き」を楽しみますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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