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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『ストリクスヘイヴン』 その1

Mark Rosewater
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2021年5月3日

 

 私は各セットごとに、そのセットに関する諸君からの質問に答えるための一問一答記事を1~2本書くことにしている。今回は、『ストリクスヘイヴン:魔法学院』に関する質問に答える。私のツイートは次の通り。

現在、『ストリクスヘイヴン』の一問一答記事を書いている。この新セットに関する質問があれば、1問1ツイートで送ってくれたまえ。 #WotCStaff

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えようと思うが、以下のような理由によって答えられないこともある。

  • 文章量の都合で、答えられる質問の数には限界がある。
  • すでに同じ質問に答えている場合がある。最初に来た質問に答えるのが通例である。
  • 私が答えを知らない質問もあるし、正しく答える資格がないと思われる質問もある。
  • 将来のセットのプレビューになるなど、さまざまな理由で回答できない話題もある。

 それではさっそく質問に入ろう。

(『イコリア』で放浪者を登場させたように、)タミヨウを『ストリクスヘイヴン』に登場させることは考えましたか? 彼女はふさわしいと思います。

 顔は見せるがカードにはならないというとき、そのプレインズウォーカー個人のファンは不機嫌になるものなので、我々は、プレインズウォーカーのカメオ的登場の頻度に気をつける必要がある。放浪者には、しばしば登場することを正当化できる特徴的性質(彼女はプレインズウォークし続けなければならない)があるのだ。

 タミヨウがこのセットでプレインズウォーカー・カードとして登場できなかった理由は、各セットごとのプレインズウォーカーの色を均等にする必要があり、『ストリクスヘイヴン』には物語上必要な青のプレインズウォーカーであるカズミナとウィルの2人がいるからである。

多色セットでは陣営は明らかに好評で成功する手法ですが、『タルキール』『ラヴニカ』『ストリクスヘイヴン』などなどでお互いのデザイン空間をお互いに食い合うのをどうやって防いでいるんですか?

 新しい陣営セットを扱うための秘密は、それらの陣営がそれぞれの世界の一部である全体的特徴を持つようにすることである。『ラヴニカ』は初めての「現代的」陣営セットだったので、あらゆるお手軽なものを選び、それぞれの2色組についてもっとも良く知られている通りのことをすることができた。確かにどれもギルドではあるが、それを結びつけるような大きな構造はそれほど存在していない。

 『ラヴニカ』後の陣営セットは、陣営であることができるような構造に特徴を持たせなければならない。たとえば、『ストリクスヘイヴン』の陣営は、インスタントやソーサリー関連であり、独特のフレイバーを持たせる学校というモチーフがある。これはつまり、陣営セットに求められるものが増え、軽い手法が必要だということである。色そのものが特徴だったのはもう遠い昔のことなのだ。

『ストリクスヘイヴン』には、新しく擬人化された動物種族を含み、マジックに存在している「ほとんど」すべての種族が登場しているように思います。ところで、ゴブリンはどこに行ったんですか?

 枠には限りがあり、『ストリクスヘイヴン』をゴブリン以外の、ドワーフ、オーク、イフリートなどの赤のクリーチャー・タイプに陽の目が当たる機会にすることを決めたのだ。また、ロアホールドにはスピリットの部族要素があるので、赤や赤白のカードの一部はスピリットにする必要があった。

 ゴブリンを外すことはゴブリンのファンにとって残念なことはわかっていたが、そうすることで他のクリーチャー・タイプのファンを満足させる枠ができた。セットごとにクリーチャー・タイプを混ぜ合わせることで、誰もが時々は自分の好きなものを手に入れられるので、マジックのコミュニティ全体を満足させられる傾向にあることがわかったのだ。

なぜ邪魔者やフラクタルはマスコット・カードにならなかったんですか?

 この質問は、《マスコット展示会》のことだろう。

 それには主な理由が2つある。1つ目が、そうするとそのカードはさらに重いものになるが、マナ総量が7というのはすでにプレイしにくいものである。2つ目が、文章量の懸念があり、邪魔者とフラクタルには多くのテキストが必要になる。邪魔者は丸1行分のルール・テキストが必要で、フラクタルはその大きさ(+1/+1カウンターをいくつ得るか)を定義しなければならず、フラクタル・カードはすべて違う値を取っているのだ。

『ストリクスヘイヴン』に友好色それぞれの大学があと5つあったとしたら、それらの研究科目は何でしょう?

 何かをデザインするときは、将来のデザインのための場所を残すかどうかを決めなければならない。残す場合、将来のデザイン・チームが使えるように、特に触れない場所を保つことになる。残さない場合、将来のデザイン空間のことを心配する必要はない。『ストリクスヘイヴン』はこの後者でデザインされた。

 友好色の大学を作る計画はないのだ。我々はこのトップダウン素材を深く掘り下げて5つの大学を作った。おそらく、ストリクスヘイヴンと違う雰囲気を持つ別の学校を作ろうとするのは、不可能か、そうでなくても非常に難しいだろう。

 とはいえ、この世界についての手がかりを得る方法は大量にあるので、アルケヴィオスへの再訪はストリクスヘイヴンだけを舞台にしたものでないことがあり得る。そこには友好色のものがあるのだろうか。私の本能はないと言っている。すべての2色陣営セットに、10組すべてが存在する必要はない。例えば、『アラーラの断片』は弧3色の組み合わせだけであり、タルキールの氏族は楔3色の組み合わせだけである。

なぜPVは彼のカードをデザインしなかったんですか? 彼は選択肢を提示されただけですよね。

 遠い遠い昔、私は「The Duelist」(ウィザーズが発行していたマジック専門誌)がスポンサードできるクールなイベントを考えていた。予算はそれほどなかったので、創造的な解決策が必要だったのだ。マジックにはオールスター・ゲームはなかったので、私は、後にマジック・インビテーショナルとなる「The Duelist」インビテーショナルを思いついた。注目を集める少数のプレイヤーによる大会は、運営するのが予算的にずっと簡単だったのだ。同様に、私は、価値があって予算がかからない賞品にも創造性を発揮する必要があった。そして考えついたのが優勝者に優勝者自身のカードをデザインする権利を与えるというものだった。それは独特で、クールで、そして何より予算がかからないものだったのだ。

 インビテーショナルは11年続き、11枚のカードが作られた。最初のカード(《なだれ乗り》は、第2回インビテーショナルに優勝したダーウィン・キャスル/Darwin Kastleが作った。第1回インビテーショナルの優勝者であるオーレ・ラーデ/Ollie Radeがカードを作ったのは後だった。)を印刷したとき、奇妙な運命のねじれのおかげでダーウィンの絵を入れることができた。私は『ウルザズ・レガシー』のカード・コンセプトを手掛けていたのだ。それで標準が決まり、優勝者の絵をカードに入れるのは我々がすることになった。

 インビテーショナルが終わり、そしてそれとともにインビテーショナル・カードも終わった。プレイヤーからそれを残念に思う声が多かったので、何年か後に、調整を加えて復活させることにしたのだった。プレイヤーが最も気に入っていたことは、プレイヤーの絵が入っているという事実だった。誰がデザインしたかは、プレイヤーには見えないことだったのだ。実際、インビテーショナル・カードの多くはプレイヤーではなく私がデザインしたものである。私は優勝者と協力して、彼らが楽しむもの、そしてプレイスタイルに合ったものを作ったが、デザインの作業はデザイナーに任せたほうがいいデザインになることがほとんどだと気がついたのだ。

 新しい世界王者のカードも、同じように機能した。我々は優勝者と協力して彼らが満足するようなカードを作るが、デザインを作る作業は我々が手掛けることにしたのだ。

大学に、友好色でなく敵対色を使うことにした理由は何でしたか?

 2色組10種すべてを扱う『ラヴニカ』セットを除くと、2色組に焦点を当てたセットで友好色と敵対色それぞれがどのように取り上げられたかを見てみよう。

友好色の組み合わせに焦点を当てたセットは:

  • 『レジェンズ』(1994年)
  • 『アイスエイジ』(1995年)
  • 『インベイジョン』(2000年)
  • 『プレーンシフト』(2001年)
  • 『シャドウムーア』(2008年)
  • 『タルキール龍紀伝』(2015年)
  • 『Unstable』(2017年)

敵対色の組み合わせに焦点を当てたセットは:

  • 『アポカリプス』(2001年)
  • 『イーブンタイド』(2008年)

 友好色の組み合わせのセットのほうが3倍以上あるのだ。加えて、敵対色のセットは2008年(13年前)以降存在せず、伝統的な金枠敵対色のセットとなると2001年(20年前)になるのだ。一言でいうと、時は来た。

再訪したら、学院外の人や場所がもっと登場しますか?

 『ストリクスヘイヴン』は学院に主に焦点を当てていたが、クリエイティブ・チームは広い次元を感じられるよう、それ以外のアルケヴィオスについての手がかりを得られるようにしていた。これは、ストリクスヘイヴンの外の世界を描くために再訪する準備になっている。

デザイン中に、「履修」を「カード1枚を引く」よりも強くしたかったか、弱くしたかったか、同じにしたかったか、どうでしたか?

 それは私の専門分野から少し外れるので、『ストリクスヘイヴン』のリード・セットデザイナーのヨニ・スコルニク/Yoni Skolnikに聞いてみた。彼の答えはこうだった。

「全体としては、弱くしました。履修カードの多くは、履修を『カード1枚を引く』に入れ替えたら印刷しないことにするようなカードです。履修のアドバンテージを得るためにはドラフトやデッキ作成の時点での熟慮が必要ですが、カードを引くことは常にとても強いものです。とはいえ、デッキ作成のコストを支払いさえすれば、履修のほうがカード1枚を引くよりも強いと感じられる状況は大いに見つかるでしょう。」

パーマネント+呪文のMDFCにはかなりの可能性があるように思いますが、セット内の枚数はかなり少なく、あまり推されていないように見えます。これは『エルドレインの王権』の当事者メカニズムがスタンダードで同じような役割を果たしているからですか?

 最初に『ストリクスヘイヴン』が複数年のセットのスケジュールに上がったときは、『ストリクスヘイヴン』はモードを持つ両面カード(MDFC)にもっと焦点を当てたものになる予定で、そのほとんどは一方の面がパーマネントでもう一方の面がインスタントやソーサリーだった。

 数年後、『エルドレインの王権』に出来事が追加され、『ストリクスヘイヴン』をどうするか再考しなければならなくなった。『ストリクスヘイヴン』は私が最初に計画したほどMDFC寄りにできないという理解は、MDFCを3セットに広げることを推奨するという判断の一部だった。『ストリクスヘイヴン』チームが、パーマネント/呪文のMDFCを我々が出来事として作ったものと違うようにしようと意識したことはわかっている。

ダレッティやタミヨウといった他のプレインズウォーカーを、教授なり来訪者なりにすることは考えましたか? このセットが大好きで、プレイするのが待ちきれません。

 初期に、このセットには黒単色のプレインズウォーカーの枠があることがわかっていて、最初の計画ではその枠のプレインズウォーカーとしてダブリエルの名前が挙がっていた。しかし、リリアナが別人に偽装して隠れる場所というアイデアを思いつき、すぐにそう変更したのだった。すでにリリアナとカズミナという2人のプレインズウォーカーの教授がいるので、それ以外は真剣に検討はしていない。

大学をデザインする中で、カラー・パイの予測にはどれだけ縛られましたか?

 色には、それぞれが使える能力が存在する。もちろん、少しだけ曲げることはできる。しかしその色にできないことを軸として多色の陣営を作ることはできない。とはいえ、各色のできることは様々に存在しているので、その中の一部を取り上げ、他を減らすことは可能である。

 各大学がすることを選ぶ中で最大の影響があったのは、(カラー・パイの枠内になければならない、ということを除いて)カラー・パイではなく、同じ色のギルドと似ないように注意しながら、その大学のトップダウンのフレイバーを再現することだった。

『ストリクスヘイヴン』にはウィザードだけではありません。これらの「魔法使い」の職業はどう選びましたか?

 『エルドレインの王権』以来、マジックには5種類の魔法使いのクリーチャー・タイプが存在している。クレリック、ドルイド、シャーマン、邪術師、ウィザードだ。

 展望デザイン中に、我々はクリーチャー・タイプを大学ごとに分けることを話し合ったが、うまくは行かなかった。クレリックは白黒でウィザードは青赤なのでわかりやすかったが、ほかはそれほどうまくはまらなかったのだ。ウィザーブルームはドルイドがよかったが、そうなるとどちらの黒の大学にも邪術師がいない。ウィザーブルームを邪術師とすると、ロアホールドがシャーマンになるが、これは赤には良くても白には奇妙だ。そしてクアンドリクスがドルイドというのは、緑にはふさわしいが青には奇妙だ。

 最終的に、クリエイティブ・チームは5つのクリーチャー・タイプを色で分けることにした。白にはクレリック、青はウィザード、黒は邪術師、赤はシャーマン、緑はドルイド。つまり、各大学に魔法使いのクリーチャー・タイプが2種ずついることになった。シルバークイルはクレリックと邪術師、プリズマリはウィザードとシャーマン、ウィザーブルームは邪術師とドルイド、ロアホールドはシャーマンとクレリック、クアンドリクスはドルイドとウィザードである。

統率者戦が、派手で重い効果や伝説のクリーチャーの割合の高さなどで、スタンダード・セットの理念とデザインに強い影響を与えているように見えます。これは今後も続く傾向ですか?

 サプリメント・セットでないセットのことを「スタンダードで使える」という言い方をするのを止めて「本流の」セットと呼ぶようにしていることに気づいているだろう。この理由は、開発部が主な製品をどう見ているかという理念の変化である。スタンダード(やリミテッド)だけに焦点を当てるのを止めて、プレイされている重要なフォーマットすべてに意思を向けるようになったのだ。

 (「持っているものを食卓でプレイする」をフォーマットから除いて)統率者戦が今最もプレイされているフォーマットであるとデータが示しているので、我々は本流のセットには必ず統率者戦にふさわしいカードを入れるようにする必要がある。つまり、これを今後も続く傾向だと言ってもいいが、さまざまな要素の量はそのセットで必要なものに応じて、セットごとに変動するものなのである。

授業の終わり

 本日の質問はここまで。質問する時間を作ってくれた諸君に感謝したい。質問をするのが好きなら、私はこういったことを私のブログ、Blogatogで毎日やっている。いつもの通り、今日の各回答や『ストリクスヘイヴン』一般のについての諸君の考えを聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、諸君からの『ストリクスヘイヴン』のさらなる質問に答える日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが質問し続けますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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