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Making Magic -マジック開発秘話-
『ストリクスヘイヴン』にて その1
2021年3月29日
『ストリクスヘイヴン』プレビュー第1週にようこそ。『ストリクスヘイヴン』展望デザイン・チームを紹介し、このセットのデザインの話をし、そしてクールな新カードをご紹介しよう。そこからいろいろなものを得てもらえれば幸いだ。それではさっそく、話を始めよう。
『ストリクスヘイヴン』のデザインの話を始める前に、先行デザインおよび展望デザイン・チームをご紹介しよう。
クリックで展望デザイン・チームを表示
学院の時間
『ストリクスヘイヴン』の話の始まりは、初代『イニストラード』のデザイン中のことになる。人狼を表す方法を探していたときに、デザイン・チームの一員であったトム・ラピル/Tom LaPilleがウィザーズのトレーディング・カードゲームである「デュエル・マスターズ」からカード技術を借りてくることを提案したのだ。それが両面カードの導入だった。最初、我々はそれを変身のために使った。第1面をプレイし、そのあとでそれを第2面に回転させることができるのだ。場合によっては、それを再び第1面に回転させ直すことができることもある。しかし、いったん両面カードが使われると、可能なデザインは変身させることだけではないということに気づくのにそう時間はかからなかった。我々はモードを持つという技術(分割カードのようにどちらの面でも唱えられる)をすぐに見つけたのだ。混乱を招くだろう考えてそれらの両方は『イニストラード』で使わないことにしたので、私はMDFCを将来のために棚上げにしたのだった。
時折、私はそのときに手掛けているセットでMDFCが使えるかどうかを考えたが、そのたびにもっとうまくいく他のものを見つけるのが常だった。そして私は、MDFCの導入はそれが中心的役割を果たすセットになるのだろうと確信するに到った。そのため、社外会議の際に、アーロン/Aaronが私にセットの基柱にしたいメカニズムがあるかと尋ねてきた時、私は、ある、と答えたのだった。さてそれでは、どんな世界がうまく噛み合うだろうか。
私はジャンルに基づくトップダウン・セットの大ファンであり、(クリエイティブ・チームの)ジェンナ・ヘランド/Jenna Hellandと私は魔法学院というジャンルについて話し合っていた。ファンタジー周りのものなのは明らかで、楽しいカードを大量に作り出せる素材であふれていると思えたのだ。アーロンは、それまでセットの中心に据えてこなかったカード・タイプである呪文(インスタントやソーサリー)を基柱にしたセットをするのにいい舞台だと付け加えた。呪文中心のセットを作る上での最大の問題の1つは、特にリミテッドで、デッキに充分な呪文が足りないことが多いということである。MDFCはこれを解決できる。一方の面が呪文で、他方の面がクリーチャーであるというカードを作れるのだ。こうすれば、充分な量の呪文を使える一方で充分なクリーチャーを得ることができる。
それだけではない。他にもいろいろなアイデアが詰まっているのだ! もう1つ私がセットの基柱にしたいと考えていたアイデアが、敵対色をテーマとしたセットである。最後に作ったのは2008年の『イーブンタイド』であり、伝統的な金枠の多色カードに限るなら2001年の『アポカリプス』にさかのぼることになる。それ以来2回敵対色のセットを作ろうとして失敗している。『タルキール龍紀伝』は本来敵対色で作る予定だったが、楔セットをドラフトするための正しい方法はまず敵対色から始めることだと指摘されて、つまりそれでは『タルキール覇王譚』から充分な変化を遂げたことにはならなかったので、友好色のセットに変更しなければならなかったのだ。(ブロック全体のデザインは、前後いずれかの大型セットと真ん中のセットを組み合わせてドラフトをするということを基柱にしていた。)『Unstable』も敵対色の陣営セットにする予定だったが、必ず入れなければならなかった陣営である蒸気打ちは赤白や赤青にはできなかったので、これも友好色にせざるを得なかったのだ。
魔法学院というジャンルは陣営に適していて、敵対色のセットにすることができ、インスタントやソーサリーを中心に据えることもでき、MDFCとの相性もいい。私はこのアイデアをまとめて提案し、全員の賛同を得た。ユーザーとのやり取りを経て、私は、敵対色の陣営セットが求められていることを知っていた。インスタントやソーサリーを中心にしたセットが求められていることを知っていた。メカニズムとしてMDFCに全幅の信頼を置いていた。そして、トップダウンの魔法学院というのは素晴らしい素材空間だと考えられた。単に魔法部分だけでなく、学院関連の素材が大量に使えて、そしてほとんど誰もが一度は学校に通っていたことがあるので、非常に豊潤な空間を扱うことになる。確定した段階で、私が最も心躍らせるセットだった。私はそのあらゆる側面について、絶対の信頼を置いていた。前途洋々と言ったところだったのだ。(諸君は私が大騒ぎしないようにすると学んだはずだと思うだろう。)
巨礫の再訪
1998年、『Unglued』が発売された。発売当初は好調だったので、私は『Unglued 2: The Obligatory Sequel』を作るように指示された。そのプロジェクトは終盤になって中断された。その中で私は、2枚のカードを含み、そのどちらでも唱えられる、いわば分割カードと言うべき種類のカードという奇抜なアイデアを打ち出していたのだ。それの元になったのは、大きすぎるので2枚のカードに分かれている1枚のカードである《B.F.M. (Big Furry Monster)》の成功だった。その逆をするのはクールだろうと考えたのだ。後に、私は分割カードを『インベイジョン』に入れることをビル・ローズ/Bill Roseに提案している。このセットのデベロップ開始時点では、社内でそれをしたいと思っているのは、文字通り、ビル、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfielr、私だけだったのだ。そのセットのリード・デベロッパーであったヘンリー・スターン/Henry Starnはデベロップの初日に分割カードをボツにしようとした。ブランド・チームは我々に分割カードを除くよう頼んできた。編集チームは我々に分割カードを除くよう頼んできた。カスタマーサービスは我々に分割カードを除くよう頼んできた。しかしビルと私は諦めず、印刷までこぎつけ、そしてユーザーに大好評を得るものを作り上げたのだ。
2011年、初代『イニストラード』が発売された。先述の通り、このセットでの我々の目標は人狼を可能な限りクールにすることだった。(マジックにはそれまでに3枚しか人狼はおらず、どれも全くパッとしないものだった。)そしてチーム・メンバーのトム・ラピルは「デュエル・マスターズ」が使っていた両面カード技術を使うことを提案したのだった。両面カードは開発部内で賛否両論に分かれた。セットのリード・デベロッパーだったエリック・ラウアー/Erik Lauerは(最近のポッドキャスト(英語)で)両面カード入りのセットでプレイするのを嫌がる人が多かったので、デベロップ・チームは8回しかドラフトをしなかった、と言っていた。最終的に、内部の抵抗にも関わらず、両面カードは残され、ユーザーからは好評だった。
モードを持つ両面カードが、分割カードと両面カードという、開発部内での不満を乗り越えて印刷されてプレイヤーに大好評だった2つを組み合わせたものであることは明らかだった。もちろん、今回はセット内に残すために私が奮闘する必要はなかった。つまり、分割カードも両面カードもユーザーに愛されていることがわかっていたということである。それらを組み合わせるのに問題があるはずがない。残念ながら、開発部の中にはそうは思わない人がいて、セットに入れることに激しく反対活動をしていた。このため上層部にごたごたを引き起こし(「このメカニズムに不満を覚えている人がいると聞いた」)、アーロンは私にMDFCのデザインを何枚か作るためのデザイン・ミニチームを組織することを提案してきた。実際のカードを見たら、部内でのこのメカニズムへの賛同者を増やせるとアーロンは考えたのだ。
デザイン・ミニチームは数回の会合を経て、非常にクールなデザインを大量に作った。手掛けていくほどに、我々はMDFCに可能性と多様性があるという認識を深めていった。そして私は、これを1セットだけでなく3セットの売りにできる可能性があると気がついたのだ。私は1年間のセット間にメカニズム的な繋がりを増やそうと取り組んでおり、MDFCを『ゼンディカーの夜明け』『カルドハイム』『ストリクスヘイヴン』の架け橋として使うというアイデアを採用することにした。上層部に実際のデザインを見せることでこの新メカニズムに対する懸念を和らげることができるというアーロンは正しかった。充分うまく行ったので、私はアーロンに3セットMDFC計画を提示することができたのだ。しかし、私が予想していなかった小さな中断があった。これらを手掛け始めると、スタンダード環境には両面カードが限られた数しか必要ないということが明らかになった。(そして変身する両面カードがある『イニストラード』は同じ年の後半に登場することが決まっていたのだ。)つまり、すべてのセットでの枚数を減らさなければならないということである。これは『ゼンディカーの夜明け』や『カルドハイム』では大問題ではなかったが、『ストリクスヘイヴン』はMDFCを基柱にするという計画だったのだ。我々は、問題を解決するために必要な大量のMDFCを使わずにインスタントやソーサリーを中心としたセットを作らなければならなくなったのだ。続きは来週。
授業中の学院
先に解決しなければならない、別の問題があった。我々は敵対色陣営のセットを作る必要がある。ラヴニカのセットと違う雰囲気でするにはどうすればいいか。敵対色のギルドは非常に印象的だった。単なる焼き直しには感じられないような、独自の空間をどう削り出せばいいだろうか。これを解決するための鍵は、雰囲気もプレイ感も対応するギルドとは異なる陣営を作ることだった。そのためには、トップダウン素材に踏み込んでいく必要があった。
魔法学院というジャンルの、魔法という部分も学院という部分もクールな部分があるが、陣営という観点から考えた時、私は学院という側に大きく注目した。周知の通り、魔法学院という素材を扱うときに非常に一般的なのは、学生に魔法の分野(薬剤、護符、呪文など)ごとの授業を受けさせるというものである。私は、学生が普通の学術分野を、魔法を使って学ぶということに大きく関心を寄せていた。例えば、歴史学の授業で、研究している歴史上の人物の霊を呼び出し、その人生について話を聞くことを想像してもらいたい。つまり、陣営を大学ごとに分けるということになる。ストリクスヘイヴンは学院であり、各陣営はその学院内の専門分野が違う大学なのだ。
もう1つ私が重要だと考えていたものが、ギルドとは違う方法で陣営を扱うことであった。ギルドは、2つの色の重複部分が中心だった。2色が共通して持っているものを担当していた。それでは、今回はその逆をするのはどうだろうか。2色の対立に注目したらどうなるだろうか。陣営が、同意ではなく論争に基づいていたらどうか。これは、学院というフレイバーにまさにふさわしいものに思えた。私は大学を、研究する人々と集まって同じような話題について議論する場所だと考えている。知性的な論争以上に大学らしいものはないだろう。各陣営が1つの分野を表し、それぞれの色がそれを研究している人々の内的対立を表すのだ。これならギルドとは全く違うものに感じられるだろう。
我々はまず、思いつく限りの大学の分野を書き出すことから始めた。(展望デザインは必ず、ホワイトボードに列記していくことから始まる。)我々はそれから5つの色の組み合わせを見て、それらがどう当てはまるかを確認し始めた。最初に目についたのは、黒緑だった。その対立は、自然の最も原始的な力2つである、生と死である。世界の生態系を検証し、その中の役割はどのようなものかを判断するのだ。これは理系の学校であり、もちろん生物学に重点を置いている。この学校の全員が科学を愛しているが、原動力が何なのかについて大きな意見の相違がある。究極的に自然の方向性を決めているのは生なのか死なのか。
次にできたのが、青赤だった。この対立は、知性と感情であった。これは、世界とそれがどう我々に影響するかをどう理解するか、が中心となる。我々の精神と我々の感情をお互いにつなぐための方法について扱う。これは芸術の学校にまさにふさわしいと気がついた。絵画、彫刻、舞踊、音楽、演劇……あらゆる形の自己表現がここで教えられている。この学校の中心となる対立は、芸術の目的は何かである。人々を考えさせるのか、それとも感じさせるのか。注意深く検討させるのか、生の自然のままのものなのか。
その次は、赤白だった。この対立は、混沌と秩序である。この対立は非常にシステム中心の話だ。白と赤は、最も人と人との関わりに関係する2色である。白はコミュニティが中心であり、赤は個人的繋がりが中心である。これを基に考えると、これは心理学、人類学、考古学を含む歴史の学校となる。人々がどのように関わり合い、それが社会をどう決定づけるのかを見るのだ。この学校の中心となる対立は、人々(人間型クリーチャー)を全体として動かすものが、人々を繋ぎ合わせる構造(法律、宗教、仕事、学校など)なのか、親しい絆(家族や友人との繋がり)なのかというものである。社会を決定づけるのは法律か、それとも情熱か。
それから、我々は緑青について話した。この対立は、自然と育成である。生命とは、それが何であるかの発見なのか、それに何ができるかの生成なのか。この色の組み合わせが何なのかまとまるのには少し時間がかかったが、数学の学校だと決める手がかりになったのは私が何年も前に読んだ本だった。数学の最大の議論の1つが、数学とは一体何なのかという答えを探すことなのだ。常に存在し続けている自然の力でありj類はそれを見つけているだけなのか、それとも人類に寄る創造物なのか。私は、この学校のすべての人が数学を愛しているというアイデアが好きだったが、学生たちは数学の起源や多元宇宙におけるその大きな役割について論じていた。
最後の色の組み合わせは白黒だった。これまでに作ったものを見直し、そして、学問的に言って大きく欠けている部分がある事に気がついた。言語学、文学、情報学といった言葉に関するものである。白黒の対立は、組織の長所と個人の長所である。人生における目的は、可能な限り多くの人を助ける決定をすることか、個人的に自分自身をもっとも良く助ける決定をすることか。この対立をどのように文学その他の情報学に当てはめるかを考えているうちに、我々は興味深い対立が浮上してきたことに気がついた。意思疎通において重要なものは何か。それは人々を助けることか、自分の目標を進めることか。文学は、社会において他人に想定される役割によって無私にも自己中心にもなりうる。これは言葉を愛する人々の大学でありうるが、中心にある対立はその力をどのように使うべきかについてのものである。よりよい社会のためか、よりよい自分自身のためか。
陣営が表すものについての基本的なアイデアはできたが、今度はそれぞれが違う形でプレイできるようにする方法を決める必要があった。これについてはその2で扱う。
最後に触れるクールなものは、各大学がそれぞれ異なる種類の魔法を持つというアイデアを採用したことである。我々は、どう分割するかを見ていて、そのままの分け方があることに気がついた。シルバークイル、白黒のコミュニケーションの大学は、言葉を元にした魔法を使う。魔法を唱えるのだ。プリズマリ、青赤の芸術の大学は、身振りを元にした魔法を使う。動きによって魔法を生み出すのだ。ウィザーブルーム、黒緑の科学の大学は、要素を元にした魔法を使う。魔法を使うには自然の材料の組み合わせが必要なのだ。ロアホールド、赤白の歴史の大学は、記述に依る魔法を使う。魔法の元は巻物や本であり、いくらかの歴史を持つものが多い。クアンドリクス、緑青の数学の大学は、数式を用いる。数学的に事前に組み上げられている魔法を使うのだ。
歴史の講義
今日の終わりの前に、数枚のプレビュー・カードをお見せしよう。まずは、敵対色のセットを作るとなれば作らなければならないサイクルの一部である。マジックには、単色のドラゴンのサイクルが存在する。友好色のドラゴンも存在する。断片3色のドラゴンも存在する。楔3色のドラゴンも存在する。これらすべてに、伝説のクリーチャー版が存在している。しかしながら、敵対色のドラゴンのサイクルは存在していないのだ。(ただし、青赤のドラゴンというだけならいくらか存在している。)それも今までの話だ。この世界を作ることについてダグ・ベイヤー/Doug Beyerと初めて話した時、尋ねたことがある。神話レアで敵対色の伝説のドラゴンのサイクルが必要だということだ。ダグは納得していた。各大学は創立者がドラゴンであり、その名にちなんで名付けられたということになった。今日はロアホールドの日なので、ロアホールド大学の創立者をご紹介しよう。《ヴェロマカス・ロアホールド》だ。
陣営セットにはサイクルがよく似合う。次は伝説の学生のサイクルである。各大学には、複数のカードで取り上げられる学生が1人いて、それぞれが指針となるアンコモンの伝説のクリーチャー・カードになっている。ロアホールドの学生は、特に親しみやすいものだ。このカードは、赤白のドラフト戦略がどんなものかを紹介してくれる。ヒント:大量の小型クリーチャーで積極的に攻撃するというものではない。
もう1つのサイクルが、魔技メカニズム(詳しくは来週)を使ったコモンのクリーチャーのサイクルである。これらのカードは、リミテッドで基柱となるべくデザインされている。5枚ともが混成マナを使っているので、様々なデッキで使うことができる。『ストリクスヘイヴン』のメカニズムについて知りたい諸君は、こちらのメカニズム記事を参照のこと。
次は、各大学の学舎というフレイバーの、敵対色の占術土地のサイクルである。
そして最後のプレビューは、新メカニズムの履修とともに働く講義・カードである。(詳しくは今後の記事で。)これを見ると、もう1つ、各大学にはマスコットとなるクリーチャー・トークンがあることもわかる。クリックすれば、ロアホールドのペットがわかることだろう。また、このカードは赤白のメカニズム的特徴がどんなものなのかもわかるようになっている。
本日はここまで。
諸君が『ストリクスヘイヴン』のデザインの話の第1弾を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事や『ストリクスヘイヴン』そのものに関して、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『ストリクスヘイヴン』のデザインの話その2でお会いしよう。
その日まで、あなたが『ストリクスヘイヴン』が提示する必要があるあらゆるものの履修を楽しんでくれますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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