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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『時のらせん』ブロックについて諸君が知らない27のこと

Mark Rosewater
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2021年3月8日

 

 『時のらせん』ブロックを『時のらせんリマスター』で再訪するにあたり、私は、このブロックのデザインを私の記事で振り返るのは面白いのではないかと考えた。これから話すのは、諸君が知っているものも知らないものも含まれる、興味深い舞台裏の事実の数々である。

#1

 『時のらせん』ブロックでは、過去から数多くのメカニズムを再録したが、このブロックの過去・未来・現在というモチーフを扱うにあたり、私は過去を代表するメカニズム、現在を代表するメカニズム、未来を代表するメカニズムをそれぞれのセットで初登場させた。過去についてのセットである『時のらせん』では、すでに唱えたカードを扱うメカニズムであるフラッシュバック。現在のセットである『次元の混乱』では消失。(消散メカニズムの調整版。このセットはもう1つの現実のセットなので、少しばかり変わった形で消散を再録するのはキュートだと考えたのだ。)未来のセットである『未来予知』では将来を覗くメカニズムである占術。『未来予知』のメカニズムが後に常盤木になったのは、まさにふさわしいと言えた。

#2

 『時のらせん』ブロックの直前のブロックである初代『ラヴニカ』ブロックは、私が主席デザイナーとして初めて扱ったブロックだった。その任についたとき、私にはやりたいことの膨大なリストがあった。その中に、つねづね使っているクリーチャー能力をついにキーワード化するというものがあったのだ。キーワード化していないことが、長年のデザイン上の頭痛の種になっていた。『時のらせん』ブロックはそれをするのに最適な場所だということが立証されていた。このブロック全体が「時間関連」テーマを持っていたので、瞬速は『時のらせん』で導入された。接死、絆魂、到達、被覆は、『未来予知』のミライシフト・カードで導入された。未来からキーワード・メカニズムをチラ見させ、そしてその直後にマジックの一部にするのは面白いことだと考えたのだ。また、当時「ブロック不能」もキーワード化しようとしたが、それをキーワード化するための一貫したテンプレートができなかった。

/
#3

 ところで、瞬速は最初キーワードとして提案されたものではなかった。私はそれよりもはるかに大胆な提案をしたのだ。私は、インスタントを特殊タイプにしようと考えたのだ。インスタントを「あなたが優先権を持つときならいつでもこれをプレイしてもよい。」という意味にする。今のインスタントはインスタント・ソーサリーになり、瞬速を持つクリーチャーはインスタント・クリーチャーになるのだ。当時のルール・マネージャーであったマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebは、私の思いついたシステムはもしマジックの最初から始まっていたなら素晴らしいシステムだったろうが、今のシステムにその変更をするのは手遅れだ、と言った。マークはその後、瞬速をすべてのパーマネント・タイプに持たせられるキーワード能力(最初は「奇襲/Surprise」という名前だった)にするというアイデアを提出した。

#4

 私はもともと初代『ラヴニカ』ブロックのために混成マナを作ったが、デベロップ・チームがそれをデベロップの初期に取り除いた。私はそのメカニズムを本当に気に入っていたので少し落ち込んだが、私は、アイデアが常に今手掛けているセットで使えるわけではないということを理解していた。混成のための居場所を、どこか他で探す必要があるだけなのだ。私は次のブロックに目を向けた。

#5

 待機(当時の名前は「遅延/Delay」)は、本来『神河救済』のためにデザインされたものである。『神河物語』ブロックには伝説のテーマがあり、ブライアン・ティンスマン/Brian Tinsman率いるデザイン・チームはレアの伝説の呪文のサイクルをデザインすることを決めていた。彼らはさまざまなものを試し、そして唱えるためのコストが軽い代わりに解決するのに時間がかかる、大型で派手な呪文が一番心躍らせるものだと見つけたのだ。ブライアンがそのメカニズムを私に見せてきたとき、私は、それは非常にクールだが、サイクル1個にはあまりにも大きすぎるメカニズムだと言った。ブロック全体の軸となるようなメカニズムなので、検討を続けるように言ったのだ。私は彼に、おそらく『神河救済』以外になるが、そのメカニズムの居場所を見つけると約束した。そのサイクルは最終的に、歴伝メカニズムを導入することになる。

#6

 『時のらせん』ブロックは、まず物語のアイデアありきだった。クリエイティブ・チームは、プレインズウォーカーのあり方を変える必要があると判断した。マジックのはじまりから、プレインズウォーカーは神のような力を持っていた。そして、主な登場人物が神々である物語を描くのは非常に難しかった。彼らに関係性を持たせられるようにするため、我々は彼らの強さを抑える必要があったのだ。このことから、壊れつつある多元宇宙を救うためにプレインズウォーカーたちがその灯と引き換えに救う、大修復という物語につながった。この出来事によって、プレインズウォーカーであるということの意味が書き換えられたのだ。そしてそれが、デザインの出発点となったのだった。

#7

 大きくて大胆で変動するものが必要な物語があるので、私は気に入っている保留中のメカニズムのアイデアを確認し、そして、混成マナと待機の2つが思い当たった。混成マナはマナの作用の本質を弄る、混沌と感じられるものの存在を示す。待機は、時間に何かが起こっていることを示す。私は当時のクリエイティブ・チームのリードだったブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuthを訪れ、この2つのテーマを扱いたいということを伝えた。出来事の中に、時間が狂う何かと、多元宇宙の根源的性質を弄る何かを入れることはできないか、と。ブレイディは、物語上必要なのは歴史的規模の危機であることだけだと言った。そして、私の提案したものはクールそうだと。

#8

 『時のらせん』はまず「時間の混乱」というテーマから始まり、混成マナと待機の両方を使っていた。我々はすぐに、この2つのメカニズムにはお互いに何のシナジーも存在しないと気がついた。確かに、混成コストを持つ待機呪文を作ることはできるが、本質的なシナジーは存在しなかったのだ。後半になって『ラヴニカ』のデベロップ・チームは、セットに何か革新的なものが足りていないと気づき、混成マナをセットに少しだけ(各色の組み合わせごとに垂直サイクル1つ。つまりコモン1枚、アンコモン1枚、レア1枚)戻す決定をした。このため、混成マナは『時のらせん』から取り除かれることになったのだ。

#9

 待機はもともと選択的ではなかった。待機を持つカードは、単に解決するのに時間がかかるというものだった。デベロップ・チームは、待機を使うかどうかを選べるようにするほうがこのメカニズムはよくなると判断した。1つ目に、そうすることでこのメカニズムはいかにも長所と感じられるようになる。2つ目に、後半になって引いたときにこのカードのことを最悪だと感じることがなくなる。デザインはこの最後の問題を、待機カードの上の時間カウンターを操作できるカードを作ることで解決していた。例えば、戦場に出たときに時間カウンター1個を取り除く、コモンの土地サイクルが存在していたのだ。

#10

 もともと、速攻は待機メカニズムに組み込まれてはいなかった。単に、色を問わずすべての待機クリーチャーに速攻を持たせただけだった。デベロップ・チームは、それを待機の作用の一部にしたほうがいいと判断したのだった。

/
#11

 待機メカニズムには、アートに視覚上の特徴がある。アートの一部を覆うように水色の「時間の波」があり、その波を通して、同じ場所の違う時間の状態が明瞭に見えている。これは非常にクールな視覚的コンセプトで時間の変化を表現する助けになっているが、メカニズムとアートを1対1対応させることは終わらない頭痛のタネになる。カードにアートが決まった後で、待機を持っていたものから待機を外したり、逆に待機を持っていなかったものに待機を持たせたりすることができなくなり、デベロップ上でいくつもの問題を起こすことになる。そのため、何年にも渡って、メカニズムに特定の視覚的特徴を関連させることを減らしていたのだ。近い過去において少しだけそれを増やすことを認めたこれは、唯一の振り戻しであった。

#12

 『時のらせん』のデザイン提出文書において、我々は各色にそれぞれ過去からのメカニズムを持たせていた。白はキッカー、青はバイバック、黒はシャドー、赤はストーム、緑はエコー。[過去」のメカニズムということで、各色のコモンやアンコモンにフラッシュバックを持たせた。また、コモンにスペルシェイパーのサイクルがあった。その他カメオ的に(1~3枚だけ)登場したメカニズムには、側面攻撃、マッドネス、増幅、インカーネーション、土地サイクリング、累加アップキープがあった。最終的に、デベロップが大量の再録メカニズムを追加したのだった。

#13

 『時のらせん』デザイン・チームが作ったメカニズムのすべてが印刷に到ったわけではない。「冷酷/relentless」というメカニズムは、クリーチャーが毎ターン2回攻撃できるようにするものだった。《連続突撃》をクリーチャーに持たせるというようなものだ。クリーチャーが素早く動くというフレイバーにできると思ったのだ。(これとこの次のメカニズムについて、残念ながらそのメカニズムを持つカードの例を見つけることはできず、それについて振れた文書が見つかっただけだった。)

#14

 また、「維持/Anchor」というメカニズムも作っていた。軽い大型クリーチャーで、維持のためにマナを支払うというものだ。初期マジックに存在した多くのアップキープ・コストへの振り返りで、待機呪文の解決を待つ間に序盤でダメージを与える方法でもあったのだ。

#15

 『時のらせん』のために私がデザインした派手なサイクルで、世に出ることがなかったものがこれである。これは、「郷愁/Nostalgia」というメカニズムを使っていた。そのカードがデッキに入っていたら、フォーマットの制限に関係なく特定の種類のカード1種を4枚デッキに入れることができるのだ。私はこれに非常に興奮していたが、開発部にとっては少しばかり「並外れ」過ぎていた。

〈郷愁の古参兵〉
{2}{W}
クリーチャー ― 兵士
2/3
警戒
郷愁 - 2/3(このカードがあなたのデッキ内にあるかぎり、あなたはヴィンテージで使用可能な2/3クリーチャー1種を最大4枚入れてもよい。)

〈郷愁の魔術師〉
{2}{U}
クリーチャー ― 人間・ウィザード
1/2
{T}:カード1枚を引き、カード1枚を捨てる。
郷愁 - ウィザード(このカードがあなたのデッキ内にあるかぎり、あなたはヴィンテージで使用可能なウィザード1種を最大4枚入れてもよい。)

〈郷愁のゾンビ〉
{3}{B}
クリーチャー ― ゾンビ
3/1
{1}{B}::[カード名]を再生する。
郷愁 - ゾンビ(このカードがあなたのデッキ内にあるかぎり、あなたはヴィンテージで使用可能なゾンビ1種を最大4枚入れてもよい。)

〈郷愁の矢〉
{1}{R}
インスタント
クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。[カード名]はそれに2点のダメージを与える。
郷愁 - {1}{R}(このカードがあなたのデッキ内にあるかぎり、あなたはヴィンテージで使用可能でマナ・コストが{1}{R}であるカード1種を最大4枚入れてもよい。)

〈郷愁の獣〉
{4}{G}{G}
クリーチャー ― ビースト
5/5
郷愁 - ビースト(このカードがあなたのデッキ内にあるかぎり、あなたはヴィンテージで使用可能なビースト1種を最大4枚入れてもよい。)

〈郷愁の宝具〉
{6}
アーティファクト
{6}, {T}:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカード2枚を引く。
郷愁 - {6}(このカードがあなたのデッキ内にあるかぎり、あなたはヴィンテージで使用可能でマナ・コストが{6}であるカード1種を最大4枚入れてもよい。)

 私が受けた反響の中で大きかったのは、イベントでデッキチェックするのがものすごく難しいだろうということだったので、私は「門衛/Gatekeeping」というメカニズムを少し違う形で試みた。これは、特定の種類のカードをデッキに入れるのではなく、その種類のカードのコピーを作れるようにするというものであった。

〈時間の新人〉
{X}{W}
インスタント
2/3クリーチャー1体のコピーとして、トークン1個を戦場に出す。

〈時間の達人〉
{X}{U}
クリーチャー ― ウィザード・多相の戦士
1/1
[カード名]が戦場に出るに際し、あなたは「点数で見たマナ・コストがXに等しいウィザード1体を選ぶ。」を選んでもよい。[カード名]はそのクリーチャーのコピーとして戦場に出る。

〈時間のゾンビ〉
{B}
クリーチャー ― ゾンビ
1/1
[カード名]が戦場から墓地に置かれたとき、あなたは{X}を支払ってもよい。そうしたなら、ゾンビ1体のコピーであるクリーチャー・トークン1個を戦場に出す。

〈時間破〉
{2}{R}
インスタント
[カード名]はマナ・コストが{1}{R}であるインスタント1つのコピーになる。

〈時間番〉
{X}{G}{G}
クリーチャー — エルフ・世話人
1/1
[カード名]が戦場に出たとき、緑で多色のクリーチャー1体のコピーであるトークン・クリーチャー1体を戦場に出す。

〈時間の宝具〉
{7}
アーティファクト
[カード名]が戦場に出るに際し、あなたはマナ・コストが{6}のアーティファクト1つを選んでもよい。[カード名]はそのアーティファクトのコピーになる。

 

#16

 『時のらせん』のデザイン中、私が最初にボーナス・シートというコンセプトを提案したとき、私は、人々がこのアイデアに反対するのではないかと心配していたので、最初は非常に小規模の提案をした。フォイル版のカードを手に入れたとき、その半分がクールな昔の再録カードであるというのはどうか。上層部はそのアイデアを続けることを推してきただけでなく、私にもっと頻度を高めるように強く求めてきたのだ。私が気づく間もなく、ボーナス・シート・カードはパックに1枚になっていた。

#17

 アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheは『時のらせん』のタイムシフト・シートの担当者になり、そして多くの反復工程を経た。週に1回ほど、我々は更新を求め、アーロンはその時点でのタイムシフト・シートの状況を示してきた。私が、おそらく何百種類もの組み合わせをアーロンは試していただろう、と言ったとしても、それは誇張表現ではない。

Squire.jpg
#18

 しばらくの間、タイムシフト・シートのすべてのカードはスタンダードで使える予定ではなかったので、我々は大量のおかしなカードを入れていた。しかし、我々はそこに意思疎通上の問題があることに気がついた。当時、我々はそれらのセットを「スタンダードで使える」と呼んでいた。スタンダードで使えるセットから引いたカードが、スタンダードで使えないなんてありだろうか。我々は解答をブレインストーミングしたが、最終的に、一番簡単な方法はタイムシフト・シートをスタンダードで使えるようにすることだと気がついたのだった。アーロンの仕事が増えた。

#19

 我々は『時のらせん』のタイムシフト・シート用のエキスパンション・シンボルを決めるために多くの時間を費やした。しばらくの間、全く異なるエキスパンション・シンボルを持たせようとしていたが、それは混乱を招くと考えた。色違いの同じエキスパンション・シンボルを使うことに決めた後、我々はさまざまな色を試した。白、青、赤、緑を避けて(黒、銀、金はすでに使っていた)、後の候補は基本的に黄色、オレンジ、紫、茶色となった。黄色は金色に近すぎ、茶色は不細工だったので、オレンジと紫に絞られた。そして我々は紫を選んだ。数年後、我々は新しく神話レアのレアリティで使う色を選ぶことになり、最終的にオレンジを採用したのだ。

#20

 もともと、タイムシフト・シートは『時のらせん』でだけやる予定だった。過去のセットからのカードを入れるのは「過去の」セットにまさにふさわしいものだったが、「もう1つの現在」や「未来」のセットでどう使えばいいのかは明らかとは言えなかったのだ。そしてある日私は、前録、つまりあり得る未来からのカードというアイデアを思いついた。これは非常に心躍る『未来予知』のタイムシフト・シートだと思われた。『時のらせん』と『未来予知』にタイムシフト・シートがあるなら、『次元の混乱』にも必要だろうと感じた。皮肉なことに、そもそもカラーシフト・カードのアイデアがもう1つの現実というアイデアの元になっていたにもかかわらず、カラーシフト・カードをタイムシフト・シートにするというアイデアが思いつくのには時間がかかった。(これについて詳しくは後述。)

#21

 この項目の最初にトリビア問題を出そう。正解はこの項目の最後に。『時のらせん』ブロックの中で、(フォイル版以外で)レア2枚を引く可能性があるブースター・パックはどれか。『時のらせん』ブロックの3セットすべてにタイムシフト・シートは存在しているが、それをどうブースター・パックに入れるかはセットごとに少しずつ異なっていた。『時のらせん』は、ブースター1個あたりタイムシフト・カード1枚。『次元の混乱』は、ブースター1個あたりコモンのタイムシフト・カード3枚、アンコモンまたはレアのタイムシフト・カード1枚。(『時のらせん』ブロック当時はまだ神話レアというレアリティはマジックに存在していなかった。)『未来予知』ではブースター1個あたりのタイムシフト・カードは、レアリティ不定で5~10枚。セットのブースターに何枚のタイムシフト・カードが入るかは、そのセットでそれらが果たす役割に依るところが大きい。『時のらせん』のタイムシフト・シートのカードはすべてが再録であり、フレイバーに寄せたものであった。『次元の混乱』と『未来予知』のタイムシフト・シートにあるカードはすべてが新作であり、プレイヤーの手に入りやすくする必要があったのだ。なお、トリビア問題の答えは、『時のらせん』と『次元の混乱』となる。それらのセットの並べ入れ方によって、『未来予知』ではありえない、レア2枚が入っている可能性が出ていたのだ。

/
#22

 刹那(元の名前は「超速/Superfast」)はもともと、『ギルドパクト』のイゼットのメカニズムとしてデヴィン・ロー/Devin Lowがデザインしたものであった。イゼットは呪文を中心にすることがわかっていて、デヴィンはイゼットの呪文が邪魔されないようにするための方法として刹那を思いついたのだ。最終的に、チームは複製を思いつき、それのほうが良いと判断したので刹那は保留になったのだった。そして『コールドスナップ』のデザインの時期になる。デヴィンはデザイン・チームに所属しており、再び刹那を、今度は昔のインタラプトというカード・タイプの雰囲気を再現するために再導入した。『コールドスナップ』のデザイン・チームはこれを気に入り、セットに入れた。『時のらせん』のデベロップは後に時間のメカニズムを探し、『コールドスナップ』にこれが存在してることに気がついた。(『コールドスナップ』のデザインが始まるのは遅く、小型セットだったので、『コールドスナップ』のデザイン中に『時のらせん』はデベロップ中だった。)そしてデベロップ・チームは刹那メカニズムを取っていいかと尋ね、『コールドスナップ』デザイン・チームは承諾したのだった。

#23

 『コールドスナップ』の広告計画について、マーケッティング部と大論争になったことがあった。最初のキャンペーンでは「過去を再発見しよう」というモットーだったが、私はそれに「それは『時のらせん』のテーマそのものだ」というようなことを言ったのだ。いくらかの論争を経て、最終的に彼らに変更させることができたのだった。

/
#24

 私はビル・ローズ/Bill Roseに『次元の混乱』のデザインをリードすることについて談判しなければならなかった。ビルは最初、私の提案を拒絶したのだ。彼は私の「もう1つの現在」という展望を単に理解しなかった。私は最終的に、私が展望していたコンセプトの試作品として(《滅び》などの)数枚のカードをデザインすることにした。そして彼はもう1つのカラー・パイという私の提案を見て、このセットのリード・デザイナーに就任することに署名したのだった。興味深いことに、実際にビルをその気にさせたカード・デザインである白の《記憶の欠落》は残念ながらセットに入らなかった。(ビルはもともと『ミラージュ』のために《記憶の欠落》をデザインしたが、開発部に就職するためのインタビューのためにウィザーズを訪れていたとき、『ホームランド』のデベロップ会議に助言し、穴埋めのために《記憶の欠落》を譲っていたのだ。)

#25

 『次元の混乱』では、6色目を印刷する可能性が史上最も高まっていた。6色目についての冗談は長年していたが、『次元の混乱』では、「もう1つの時間線」上でのみ存在することから1セット限りで導入するという可能性があったのだ。その色とは紫であり、それに対応する基本土地は最初は洞窟、後には街だった。我々は紫をカラー・ホイール上で青と黒の間に置いていた。すでにカラー・パイの再調整中だったので、各要素を5つではなく6つに分割するだけだった。紫はこのセットにしか存在しないので、我々はカードを詰め込んだ。例えば、その中には、青ではなく紫マナの《マナ吸収》があった。想像以上にバランスを取るのが難しく、少しばかり注目を集めすぎるので、最終的には取り下げることにしたのだった。(デザイナーの1人であるポール・ソトサンティ/Paul Sottosantiが、紫色の実験についての記事(リンク先は英語)を書いているので興味がある諸君はぜひ。)

#26

 『次元の混乱』が発売されたとき、私は当時の有名マジックサイト、MTGSalvationで多くの質問に答えた。私のブログを読んでいて、『次元の混乱』を色の能力の前例として私に引用するというお決まりのジョークを知っていた諸君、諸君ならこの回答を楽しんでくれることだろう。

「『次元の混乱』が何年も後に思い出されることはあると思いますか? どのように思い出されてほしいですか?」 ― Joyd

 私は、『次元の混乱』はスタンダードからいなくなって長い時間が経っても思い出されるセットの1つになると確信している。その主な理由は、「もう1つの現実/色の干渉」のセットという濃いフレイバーがあるからだ。このセットのデザイナーの1人として、願わくば懐かしく思い出してもらいたいと思う。『時のらせん』ブロックが、あえて危険を冒して全く新しいことを試みたデザインの一例であることは疑う余地もなかった。願わくば、これが歴史の中で、愚行ではなく勇敢な行ないと見られんことを。

#27

 プレインズウォーカーはもともと、『未来予知』のミライシフト・カードに含まれる予定だったが、セットを編集に回す時点ではそのデザインに満足できていなかったので、これを他のカードに入れ替えたのだ。『未来予知』で登場していたとしたら、3人だった。青1人、黒1人、緑1人だ。この記事のために私のファイルを見返していると、『未来予知』のデザイン中に私が作ったプレインズウォーカー・カードのデザインが見つかった。当時は、プレインズウォーカーはこういうものだった。特定の量の忠誠度を持って戦場に出る。各ターン、1つの効果を起こす。(大抵は忠誠度が減る。)最初は必ず1つ目の効果を処理し、以降のターンでは順番に進めて、最後の効果を使った後は1つ目の効果に戻る。忠誠度がなくなったとき、プレインズウォーカーはいなくなる。(これはそのままだ。)私のデザインは以下の通り。(興味深いことに、どれも青のプレインズウォーカーのヴェンセールのものだ。)

〈ヴェンセール #1〉
{3}{U}{U}{B}
プレインズウォーカー ― ヴェンセール
忠誠度 ― 18
#1 ― クリーチャー最大2体を対象とする。それらをタップする。次のターン、それらのクリーチャーはアンタップしない。ヴェンセールは4点の忠誠度を失う。
#2 ― カード1枚を引き、ヴェンセールは対戦相手がコントロールしているタップ状態のクリーチャー1体につき1点の忠誠度を失う。

〈ヴェンセール #2〉
{3}{U}{U}{B}
プレインズウォーカー ― ヴェンセール
忠誠度 ― 20
#1 ― プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカード1枚を引く。ヴェンセールは1点の忠誠度を失う。
{#2 ― プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカード2枚を引く。ヴェンセールは2点の忠誠度を失う。
#3 ― プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは望む枚数のカードを捨て、その後、同じ枚数のカードを引く。ヴェンセールはこの方法で捨てられたカード1枚につき1点の忠誠度を失う。

〈ヴェンセール #3〉
{3}{U}{U}{B}
プレインズウォーカー ― ヴェンセール
忠誠度 ― 1
#1 ― あなたがコントロールしているクリーチャー1体を選ぶ。ヴェンセールはそのクリーチャーのパワーに等しい点数の忠誠度を得る。
#2 ― あなたがコントロールしているクリーチャー1体を選ぶ。ヴェンセールはそのクリーチャーのタフネスに等しい点数の忠誠度を得る。
#3 ― X点の忠誠度を支払う:パワーとタフネスの合計がXであるクリーチャー1体を対象とする。それのコントロールを得る。

〈ヴェンセール #4〉
{3}{U}{U}{B}
プレインズウォーカー ― ヴェンセール
忠誠度 ― 10
#1 ― プレイヤー1人を対象とする。その手札を見る。ヴェンセールは1点の忠誠度を失う。
#2 ― プレイヤー1人を対象とする。カードの名前1つを指定する。そのプレイヤーは自分の手札を公開し、その選ばれたカードすべてを追放する。ヴェンセールは1点の忠誠度を失う。
#3 ― ヴェンセールはX点の忠誠度を支払い、ヴェンセールによって追放されているカード1枚をマナ・コストを支払うことなくプレイする。Xはその追放されているカードの点数で見たマナ・コストに等しい。

そして『時』が 『らせん』を描く

 『時のらせん』ブロック作成の舞台裏を覗くことを楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事について、私の語った話について、『時のらせん』ブロックについて、『時のらせんリマスター』についての感想を聞かせてもらいたい。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『時のらせんリマスター』で再録されたカードのカード個別のデザインの話をする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが『時のらせん』ブロックのプレイを、私たちがその作成を楽しんだのと同じように楽しみますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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