READING

開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『カルドハイム』 その2

Mark Rosewater
authorpic_markrosewater.jpg

2021年2月15日

 

 先週、『カルドハイム』に関する一問一答を始めた。今週は、その続きである。

Q: 将来のセットでもモードを持つカードは定期的に出てくるようになりますか?

 モードを持つ両面カード(MDFC)は、生産上の問題が増える(例えば、MDFCは専用のシートで印刷しなければならない)上に物理的なプレイ上の問題もある(不透明スリーブや差し替えカードを使わなければならない)。そのため、単純にどのセットにでも入れられるというものにはならない。ただし、ユーザーの大多数がMDFCのことを本当に気に入っていて、(実用)デザイン空間が大量に残っているので、MDFCは「定期的に」かどうかはともかく再録されるだろう、と思っている。「たまに」ぐらいに落ち着くのではないか。

Q: 『カルドハイム』と『モダンホライゾン』はどちらも氷雪と多相を取り上げています。偶然の一致ですか、それとも計画されたものですか?

 その2つにはメカニズム的な関係性はないので、計画されたものと言うよりは偶然の出来事である。『モダンホライゾン』でのその2つの人気が、『カルドハイム』での再録の助けになったのは間違いないだろう。

Q: マーク、シミック・プレイヤーとして、私は多相の戦士のアーキタイプが大好きです! でも、私の夢は、シミックに「独特のクリーチャー・タイプ関連」を持たせることです。これはかなり近いと思います。これについての議論はありましたか?

 もちろん、1つあるいは少数のクリーチャー・タイプを大量にプレイすることが必要な、伝統的な部族テーマとは異なり、さまざまなクリーチャー・タイプをプレイすることを推奨するクリーチャー・タイプ・テーマについては話し合った。皮肉なことに、最大の問題は多相の戦士だった。いや、厳密に言えば、多相メカニズムだったのだ。それによって物事は複雑になっていた。例えば、クリーチャー・タイプを数える拡大型カードを作ることはできない。なぜなら、多相1枚で……ぱっとはわからないが、とにかく巨大な数になってしまうからである。他の解決手段がないということではないが、現時点では、単純なものは存在しない。私もそのテーマのアイデアは好きなので、ずっと考えていくと約束しよう。

Q: 私がマジックを始めたのは『アイスエイジ』なので、私は氷雪メカニズムが大好きです。私は『カルドハイム』に氷雪が来ることを予想していたのですが、氷雪メカニズムはこのセットに確実に入るものでしたか?

 そうではなかった。実際のところ、展望デザインの期間はずっと存在していなかったのだ。話題には出ていた。もちろん、北欧神話と言えば寒冷な気候を連想するものはいたが、周知の通り、氷雪が使われた最初の3回(『アイスエイジ』『アライアンス』『コールドスナップ』)はどれもとても好評とは言えなかったのだ。正直なところ、その原因の一部はメカニズムの実装にあったのだが、開発部は氷雪に冷たかったのだ(氷雪だけに)。そのため、展望デザイン中に話題に出たとき、我々はそれを採用しないことにしたのだった。

 一方、『モダンホライゾン』で最初試していた2色土地がうまくいかず、我々は他に土地中心の可能なことがないか探していた。いくつかのフォーマットでプレイされていたが『コールドスナップ』以来供給がなかったので、冠雪基本土地を求める声が多いことがわかった。そこでそれまで作ったことがなかったフルアートの冠雪基本土地をセットに入れることを提案したのだ。セット内に氷雪関連のカードがないのに冠雪基本土地を入れるのは奇妙に思えるので、セットデザイン・チームはそのテーマをセットに加えることにした。(氷雪だけに)雪だるまのように膨れ上がり、結局は我々が想定していた以上の規模になった。

 デイブ・ハンフリー/Dave Humpherysが『カルドハイム』のセットデザインを始めた時点で、彼は我々が展望デザインの開始時に抱いていたのと同じ疑問を投げかけた。このセットに氷雪は必要だろうか。しかし、そこで参考にしたものはうまく行かなかった3セットではなく、まだ発売はされていないが開発部内で氷雪の使い方が好評だった最新セットの『モダンホライゾン』だったのだ。我々は氷雪に人気が出ると予想していたので、デイブは氷雪を使うことに安心し、そして期待を持って『カルドハイム』に追加したのだった。

Q: 物語と、カードのデザインと、伝説のクリーチャーの選択と、メカニズムの中で、どれが最初でしたか?

 セットが始まる前のほとんどの時間、我々はセット内でストーリー的に大きく何が起こるのかをいくつも構想する。大きなストーリーライン上で起こっていることにどうあてはまるのか。通常、我々が知っているのは物語上の主な登場人物、つまり、多くの場合プレインズウォーカーである主役と敵役だけである。展望デザイン・チームは主なテーマとセットの構造、それに多くの場合はメカニズムの大半を決める。我々はカードもデザインするが、それは最終的なセットで印刷される実際のカードというよりもコンセプトを示すために存在する部分が大きいのだ。他の登場人物は、セットデザイン中に決められデザインされることが多い。物語の細部を詰めるのはライターに任せることが多いが、それはセットデザインの後期であることが通例である。

 つまり、質問への答えは(多くの場合)、大きな物語、主な登場人物、メカニズムのデザイン、カードの一部のデザイン、伝説のクリーチャーの選択、他のカードのデザイン、詳細な物語、という順番になる。

Q: 《巨怪な略奪者、ヴォリンクレックス》は、以前にあなたが決して作らないだろうと言っていた「ファイレクシアン」というクリーチャー・タイプを持っています。なぜ考えを変えたんですか? また、恐竜のように、ファイレクシアンというクリーチャー・タイプの整備は行なわれますか?

 ファイレクシアンをクリーチャー・タイプにするという決定は、古くからの開発部の工程を経たものである。

1)我々がしたいと願っていたがしなかったものを見つける

 ファイレクシアンは『アンティキティー』で登場していたがクリーチャー・タイプはなかった。これはおそらく、『アンティキティー』にはそれほど多くのファイレクシアンがいなかったからだろう。(《Phyrexian Gremlins》《Priest of Yawgmoth》《ヨーグモスの悪魔》だけ。)その後もしばしばファイレクシアンは登場していたが、それらのセットにはスタイルガイドがないものもあり、何がファイレクシアンで何がそうでないのかは明白でない場合もあった。ファイレクシアンをクリーチャー・タイプにしようというアイデアを初めて提案したウェザーライト・サーガを手掛けたのはこのころだったと思う。ファイレクシアンはストーリー上の大敵になり、私はメカニズム的にそれらに言及する手段がないことは問題だと気づいたのだ。

2)それをする機会を見逃したと判断する

 開発部の他のメンバーはそれをメカニズム的に言及できるようにしたいという私に同意してくれたが、それが必要なことかどうかについては懐疑的だった。全体の意見としては、『アンティキティー』でファイレクシアンがクリーチャー・タイプになっていたならよかったのだが、そうならなかったのでその機会は過ぎている、というものだった。

3)誰かがその決定を覆すために頑張る

 私が、ファイレクシアンを再びマジックの大敵として登場させる『ミラディンの傷跡』のリードを務めていたとき、私は再びファイレクシアンをクリーチャー・タイプにしたいという要望を伝えた。物語上、新種のファイレクシアンが登場していた。私はこれをクリーチャー・タイプを導入する根拠になると主張したのだ。

4)再び却下される

 基本的には同じ議論を繰り返したが、今回は参加者は異なっていた。それをしていればよかっただろうと誰もが同意したが、彼はそうしなかったのだからもう遅い、ということでしなかった。

5)「未来を考える」

 『カルドハイム』の《巨怪な略奪者、ヴォリンクレックス》はファイレクシアンの次なる再登場である。再びこの話題が持ち上がった。(今回は私が主導したものではない。これはセットデザイン中で、私が別のセットに異動したずっと後の話である。)今回の議論は、「これをしてこなかったし、今はその数年後にしなかったことに不満を覚えている。今回はそういうことはなくしよう。」というものだった。私に意見を求めてきた人がいて、私の答えは「もちろんやるべきだ。何年もそれに取り組んできたのだから。」というものだった。

6)過去を改める

 そう、過去のカードに訂正を出すつもりである。ファイレクシアンであるものすべてはファイレクシアンというクリーチャー・タイプを得る。(ただし、曖昧なクリーチャーもいる。)といっても、クリーチャー・タイプを失うものがいるとは思わない。この変更はただ追加するだけになるだろう。

Q: 《ケンタウルスの前兆読み》は再録として検討されていましたか、『未来予知』の予顕を叶えるためだけにでも?

 これについて議論はされていて、ケンタウルスは北欧神話系のセットに登場するにはギリシャ神話風すぎると判断されたと思う。これがミライシフト・カードを使うことの難しさの1つである。そのセットのメカニズム的特徴にもフレイバー的特徴にも合わなければならないのだ。一方には完璧に合うが、もう一方には合わない、というのはよくあることである。

Q: なぜこんなにEDH向けにデザインされたカードがあるんですか? EDH向けのカードを見つける楽しさがなくなりました。

 それは、もっともプレイされるフォーマットになったことによる影響である。開発部はそれ向けのカードをデザインするようになる。ただし、それによって発見の余地がなくなるということではない。鍵となるのは、自分自身のデッキに制限をかけ、普段は見ないようなところを見なければならないようにすることだ。例えば、それまで統率者としてプレイされているのを見たことがないような伝説のクリーチャーを使ってみることである。好みのポップカルチャーを選び、それをテーマの源として使ってもいい。10セットだけからカードを選ぶように縛りをかけることもできる。自分に制限をかけることで、大きな楽しみが生まれうるのだ。

 統率者を意識してデザインされたカードで、もっと差し出がましくないものにすることができるだろうという声も聞こえている。この声は多くのプレイヤーから届けられており、我々は心に留めている。我々の目標は、統率者戦でクールなものを探すことができるようなカードを増やし、特定のテーマをプレイするときにプレイしなければならないカードを減らすことなのだ。

Q: 能力カウンターは今、落葉樹ですか?

 実験中である、と答えるべきだろう。デイブ・ハンフリーは『イコリア:巨獣の棲処』と『カルドハイム』の両方のセットデザインのリードなので、キーワード・カウンターを使って彼が気がついたデザイン上の問題を解決しようとしているのだろう。キーワード・カウンターの落葉樹としての将来は、ユーザーがそれを『カルドハイム』でどう使うかによるところが大きい。正直なところ、どうなるかについて私は確証が持てていない。

Q: 過去の象徴的トップダウン・セットにはメカニズム的テーマがありました。(『イニストラード』=墓地、『テーロス』=エンチャント)最近のトップダウン・セット(『エルドレインの王権』や『カルドハイム』)にはありません。これはトップダン・デザインがメカニズム的特徴を中心とするのをやめたということでしょうか?

 それは単純化し過ぎだろう。トップダウン・デザインは、さまざまなメカニズムに関連を持たせるためにフレイバーを使うことが定義である。『イニストラード』が墓地を使ったのは、それがホラー感に関わるものだったからであるが、変身や部族、「死亡関連」も使っていた。『カルドハイム』も同じようなことをしている。戦闘関連の部分と、部族の部分と、呪文のテンポの部分と、MDFCの部分がある。それらをまとめて、セットに全体の雰囲気を持たせているのだ。質問で他のセットについてしているようにテーマを1つだけ取り上げたいのであれば、私はこのセットで最も大きな部分を締めている「戦闘関連」を選ぶことだろう。一言でいうと、我々がトップダウン・セットを作る手法は何も変わっていない。

Q: 《怪物縛り》がパイの中にあって、《拘引》の単なる強化版でないのはなぜですか?

 最初に、その質問そのものに答えてから、実際に聞きたい内容について説明することにしよう。

 《怪物縛り》はカラー・パイ上適正か。適正である。これは、クリーチャーがアンタップすることを妨げるオーラであり、多くの場合はエンチャントしたときにタップさせる、開発部語で言う《脱水》効果である。このカードの曲げている部分は、自分にダメージを与えることだが、(擬)コストとしてライフを支払うことやファメージを受けることは青が(むしろすべての色が)することがあることなので、大きな曲げとは言えない。

 青にこの効果をこのコストで持たせるべきなのか。それはパワーレベルの質問であり、私の専門分野から離れることになる。「ある色が何かをできる」と「その効果がどれほど強くあるべきか」には大きな差があるだろうか。(もちろん、実際のプレイの観点から見ると、パワーレベルがカラー・パイを示すものだということは理解している。)この2つの問題には2つの異なるグループが対処している。ある色が何かをすることができるべきかどうかを決定するのは色の協議会で、特定のカードがすることがどれほど強いものであるべきかを決定するのはプレイデザインだ。色の協議会はどの色がその能力を一番使うかという線引きをし、1種色、2種色、3種色と呼ぶ(詳しくは私のメカニズム的カラー・パイの記事で定義している)。しかし、それは多くの場合に何が起こりうるかを表現しているものなのだ。どこか1箇所を取り上げるなら、2種色のほうが1種色よりも上手くしていることはありうることである。パワーレベルの決定は厳密な科学ではない。我々は、何百万人のプレイヤーがかかってもすぐには解明できないように複雑に環境をデザインしており、そのため我々自身にも何が起こるか完全にはわからないのだ。

 問題になるのはここである。その手法はこうだった。マジックの歴史上、ほとんどの期間においてもっともプレイされているフォーマットは、ローテーションのあるスタンダードだった。つまり、そこには栄枯盛衰はあっても、カラー・パイは中心に振れ戻るものであった。仮に2種色に最強のカードがある瞬間があっても、その頻度は低く、それがローテーションで落ちれば物事は正常に戻っていたのだ。今は、最もプレイされているフォーマットにローテーションは存在しない。何かがフォーマットに入れば、それは永遠に残り続ける。これはマジックのカードやマジックのセットをデザインする混沌において少しばかり厄災だと言える。我々は新しいことを実験し、試す必要があるのだ。トレーディング・カードゲームの最大の楽しみの1つは、我々が継続的に新しいものを作り続けることであり、それによってゲームは新鮮なものに保たれる。しかし我々にはもうローテーションという安全弁は存在しないのだ。

 これが私が言い続けている、我々は時折、後から考えると進むべきでなかった方向に境界を押し広げていたといえるようなカード(正直なところ、《怪物縛り》がそうかどうかは確信が持てない)を作ることがある、というものである。マジックをデザインすることには厄介な部分もあるが、私はそれはマジックをこれほど特別なものにしている代価だと考えている。

Q: 毒カウンターを復活させようとしているようにお見受けします。なぜこんなに目立たない方法でしているんですか? なぜ、たった1枚でしか目を惹かないような形でやっているんですか?

 セットデザイン中に、彼らはフレイバーに富んだカードを作ることができる機会だと気づいたのだ。能力をクリーチャーに与える伝説のクリーチャーで、つまり統率者であれば毒を扱うカード1枚だけでも毒デッキが作れるのだ。これはいかにもクールそうだ。濃い毒テーマを前提に始めたセットではなく、1枚だけで主張していた。毒を持っていたのは1枚だけだ。

 これは、毒テーマのセットを作ることはない、という意味ではない。単に、この場合、このセットでは、毒の使い方としてそれが最適だったということである。メカニズムに価値を持たせるには、それが大テーマである必要があるわけではないのだ。例えば、《霧衣の究極体》は、多相がそのセットに存在しなくても、すべてのクリーチャー・タイプを持つ楽しいカードである。

Q: 予顕は、フラッシュバックやその他ほぼ常磐木なキーワード同様に再録されると思いますか?これはさまざまなセットで可能性がありそうです。

 私は予顕を非常に安定したメカニズムだと思っているので、再録されることはあると考えている。要石なメカニズム(ストーム値で言えば3。いつでも使えるが落葉樹ではないメカニズムで、サイクリングやフラッシュバックやキッカーなど)になる可能性はあるだろうか。その判断はまだ早すぎる。私の直感は、これのストーム値は3ではなく4~5あたりだと言っているが、最終的に予想よりいい値が出たとしても驚きはしないだろう。

Q: 氷雪は比較的珍しいメカニズムであり続けると思いますか、それともさまざまなパーマネントに渡る他の特殊タイプを検討したことがありますか?

 まず明確にしておきたいことがある。ゴブリンやルーンや祭殿といったサブタイプは、単一のカード・タイプに属する。(例外として、インスタントとソーサリーはサブタイプを共有している。)伝説や氷雪といった特殊タイプは、あらゆるカード・タイプにつくことがありうる。つまり、あらゆる特殊タイプは「さまざまなパーマネントに渡る」(さらに厳密に言えば「さまざまなカード・タイプに渡る」)ものである。

 さて、我々は今後新しい特殊タイプを作るだろうか。私は作ると思っている。(『戦乱のゼンディカー』の)欠色は、プレイヤーは目印として働く(他のカードが参照すること以外の働きをしない)メカニズムにを好まないということを教えてくれた。特殊タイプのほうがその使い方にはふさわしいのだろう。なぜその特殊タイプがそのカードについているのかを表すフレイバーに富んだ単語を使うことができるし、特殊タイプに同じようなメカニズム的重みを持たせることは期待されないだろう。私の直感は、この目的で、新しい特殊タイプを作ることになるだろうと言っている。メカニズム的意味を持つ新しい特殊タイプを作ることはない、という意味ではない。私は単に、それが少数派になるだろうと予想しているだけである。これは、私の個人的考えである。

少しはスキーに

 本日はここまで。質問を送ってくれた諸君に感謝したい。すべてに回答できなかったことにはお詫びしよう。いつもの通り、この記事や私の回答、あるいは『カルドハイム』全体について、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、「1000週記念」でお会いしよう。

 その日まで、あなたが求める答えを見つけられますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索