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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

ストーム値:『テーロス』『テーロス還魂記』

Mark Rosewater
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2020年12月7日

 

 ストーム値とは、何年も前に私が私のブログ(TumblrでやっているBlogatog)で、特定のメカニズムその他のものが本流のセット(スタンダードで使えるもの)に再録される可能性を予測する楽しい方法といて作り出したものである。スタンダードでの再録の可能性が低いストームというメカニズムにちなんで、それをストーム値と名付けたのだ。ストーム値が好評だったので、この「Making Magic -マジック開発秘話-」でも何度も取り上げている。

 今回の記事では、『テーロス』とブロックと『テーロス還魂記』のメカニズムを扱う。ストーム値は1から10まであり、おそらく再録されるであろうメカニズム的要素が1、まず再録されないであろうメカニズム的要素が10である。値それぞれの意味は以下の通りだ。


1 次のセットでも再び使われることになるのは間違いない。

例:飛行、接死、占術


2 再び使われることになるのは間違いないが、すぐとは限らない。

例:キャントリップ、混成マナ、両面カード


3 おそらく今後何回も使われることになるだろう。

例:サイクリング、フラッシュバック、上陸


4 今後も使われることになるだろうが、確実と言えないような問題がある。

例:変異、キッカー、賛美


5 再録するのにふさわしい場所を探す必要があるが、私は可能性が高いと思っている。

例:進化、怪物化、陰鬱


6 再録するのにふさわしい場所を探す必要があるが、私は可能性が高いとはあまり思っていない。

例:貪食、忍術、生体武器


7 再録されるとは思われないが、ふさわしい環境があれば再録はあり得る。

例:氷雪マナ、回顧、刹那


8 再録されるとは思われないが、もしかしたらあり得る。

例:マッドネス、エコー、待機


9 ありえないとは言わないが、ちょっとした奇跡が必要。

例:フェイジング、スレッショルド、激突


10 ありえないとは言わないが、かなりの奇跡が必要。

例:ストーム、発掘


 次に、メカニズムのストーム値を決めるために私が使っている5つの分類について説明しよう。

人気

 プレイヤーがこのメカニズムを好きだったかどうか。プレイヤーが好きなものは、再録される可能性が高い。そうでなければ、再録される可能性は低い。これは「楽しかったか」という質問が大きな基準になる。この評価は以下の4段階になる。

  • 大好評 ― 市場調査で、史上すべてのメカニズムの中で上位25%に含まれているメカニズム。なお、これらの評価は現在のメカニズムと史上すべてのメカニズムとの比較になる(市場調査はずっと以前から始めていたのだ)。従って、上位に入るのは難しい。
  • 好評 ― 市場調査で、平均以上で上位25%には至らなかったもの
  • 普通 ― 市場調査で、平均以下で下位25%には至らなかったもの。ただし平均としてかなり好かれるようにしているものなので、平均以下といってもプレイヤーの多くが嫌っているわけではなく、それ以上に好かれているメカニズムがあるというだけである。この分類に入ったからといって再録の可能性が下がるわけではない。
  • 不評 ― 市場調査で、下位25%のメカニズム。この区分に入ったものは、再録の可能性は低くなる。
デザイン空間

 このメカニズムで作れるカードの枚数にどれぐらい余裕があるか。それ以上カードを作ることができなければ、どれだけのプレイヤーが好んでいようと、どれだけデベロップしやすかろうと関係ないので、デザイン空間は重要である。この評価は以下の3段階になる。

  • 広大 ― このメカニズムには非常に広大なデザイン空間がある。何度でも再録できて、新カードを作る上での問題はない。
  • 中等 ― このメカニズムにはいくらかのデザイン空間があり、簡単に再録はできるが何度でもというわけにはいかない。
  • 狭小 ― このメカニズムはこのセット内でデザイン空間の限界に来ている。再録したときに充分なカードをつくるのは難しい。
多用途性

 このメカニズムと他のメカニズムの相性はどうか。このメカニズムには多くの前提が必要か、それともサポートはほとんどいらないか。言い換えると、このメカニズムによってデザインは簡単になるか難しくなるか。この評価は以下の3段階になる。

  • 柔軟 ― このメカニズムは使用が簡単で、サポートはほとんど必要なく、他のメカニズムと容易に相互作用する。
  • 普通 ― このメカニズムは多少使用が難しく、いくらかのサポートが必要で、他のメカニズムと絡むのに問題がある。
  • 硬直 ― このメカニズムの使用は難しく、かなりの前提が必要となり、他のメカニズムと混ぜるのには明確な問題がある。
デベロップ

 このメカニズムのコスト付けがどの程度難しいか。バランスを取るのは難しいか。このメカニズムを仕上げるのが簡単かどうか。この評価では、メカニズムをデベロップする難易度を見ている。この評価は以下の3段階になる。

  • 問題なし ― デベロップが簡単で、プレイデザインが乗り越えるべき大きな課題はない。
  • 普通 ― プレイデザインが取り組み、テストやデベロップにおいて特別の注意が必要な問題が存在する。ほとんどのメカニズムはこの分類に当てはまる。
  • 問題あり ― このメカニズムにはプレイデザインにとっての、大きな課題が存在する。テーマに立ち返り、構築にあまり影響を与えない方向に方向転換しなければならないこともありうる。
プレイアビリティ

 このメカニズムの働きや他のメカニズムとの相互作用を、プレイヤーが理解する上で問題があったかどうか。このメカニズムを使う上で物質的な問題はなかったか。この評価はメカニズムをプレイする上での障壁があったかどうかを見るものである。評価は2段階になる。

  • 問題なし ― プレイする上で問題はなかった。
  • 問題あり ― プレイすることに影響するような問題が存在した。

 前例通り、ここで私はストーム値が単なる私の意見であり、楽しみのためのものであり、物事を予測する上で将来の情報は使っていないということを強調しておく。例えば、あるメカニズムが2年後に再録されると知っていたとしても、その情報を用いずに予測は行なう、ということである。

 それを踏まえて、メカニズムの値付けを始めることにしよう。


授与(『テーロス』『神々の軍勢』『ニクスへの旅』)

人気:普通

 授与には間違いなくファンがいるが、市場調査の結果を見てみると全体の中間程度だった。

デザイン空間:中等

 中等とは言うものの、その中では最低に位置する。授与クリーチャーは必ず、そのパワーとタフネスの分だけエンチャントしたクリーチャーを強化せねばならず、そのため可能なデザインの種類が限られてくるのだ。この制限を取り払えば、デザインは大きく広がることになるだろうが、一体感が大きく損なわれることになる。このメカニズムには、お互いに踏みつけ合いにならないようにするため、全ての授与クリーチャーを組み合わせてデザインしなければならないというデザイン上の課題も存在する。

多用途性:普通

 ある意味で、授与は組み合わせるのが簡単である。必要なのは、常にマジックには大量に存在しているクリーチャーである。またある意味で、これは特定のリソース(開発部語で言うところの強化、つまり何かを継続的に大きくするもの)を食いつぶしてしまい、何らかの形でそれらに言及するもの(エンチャント関連テーマ、サイズ関連、など)を作らせる、という課題がある。これらを踏まえて、授与は多くのセットに入りうるが、入れるとそのセットを歪ませてしまうことになるので、正しく使うには微妙な調整が必要になることになる。

デベロップ:普通

 オーラを構築戦で成立させることとあまりにも多くの2対1を作ってバランスを崩すことの間には微妙な差しかないので、プレイデザイン的に授与は難しい。つまり、スタンダード環境において授与クリーチャーは少量しか入れることができないということになる。

プレイアビリティ: 問題あり

 授与クリーチャーは、オーラでよく起こる2対1を防ぐためにデザインされた。残念ながら、これによってこのメカニズムは少しばかり直感的でなくなり、プレイヤーを困惑させることになった。

ストーム値:7

 『テーロス還魂記』について、他の再録されなかったメカニズムに比べて一番多かったのが、授与が存在しないことについての質問だった。そこには間違いなく一部のプレイヤーの心を躍らせるものがあるので、再録させるにふさわしい場所を見つけたなら検討することになるだろう。しかしながら、このメカニズムにともなう障害から、その場所を見つけるのは難しい。そのため、このストーム地は少しばかり高くなっている。


信心(『テーロス』『神々の軍勢』『ニクスへの旅』『テーロス還魂記』)

人気:好評

 『テーロス』が発売されたとき、信心は上位25%に位置していた。『テーロス還魂記』が発売されたとき、信心の評価はまったく変わらなかったが、上位25%には入らなかった。この2つのセットの間に、上位に位置するものが増えていたのだ。とはいえ、信心は今も多くのプレイヤーに愛されている。

デザイン空間:中等

 信心の人気の高い実装法のほとんどは開発部語で言う「拡大」メカニズムであり、累加的に大きくできる(通常、何らかの形で数を含む)効果を選ばなければならない。。信心では閾値効果(信心がある値に達している、つまり色マナ・シンボルの数が一定数に達する、ときに有効になるもの。神々がその好例である。)を使うこともできるが、それはあまり派手にならない傾向がある。さらなる信心カードを作る余地はもちろんあるが、それは一見したときに想像されるほど巨大なデザインの鉱脈というわけではない。

多用途性:普通

 信心は色マナ・シンボルを参照するので、これをセットに入れる場合は色マナ・シンボルを増やすことに繋がり、単色テーマを持つものにすることが多くなるだろう。

デベロップ:普通

 信心は大成功か大失敗のどちらかになりがちである。単色をプレイするように誘導するが、攻撃することやパーマネントでない呪文をプレイすることを回避させることになる。これを有用にして、一方で振れ幅が大きくなりすぎず、充分な多様性を持った環境を作るようにするのは難しい。

プレイアビリティ: 問題なし

 信心は、把握上も運営上も問題はなく、あるのは数える必要があるという小さな問題だけである。

ストーム値:4

 プレイヤーは信心が好きで、デザイン空間も潤沢に残っている。これを使うセットに求められるものはあるが、それを処理するのはそれほど難しくはない。(例えば、我々は普段から単色に焦点を当てたセットを作っている。)


英雄的(『テーロス』『神々の軍勢』『ニクスへの旅』)

人気:普通

 このメカニズムにはファンがいるが、全体としては、大好き、というほどのものではない。

デザイン空間:中等

 このメカニズムはあらゆるパーマネントに持たせることができるが、ほとんどは、対象にしやすいクリーチャーに持たせることになる。クリーチャーの大きさは問わず、また、効果にはほとんどの呪文効果を選べる。

多用途性:普通

 これもほとんどのセットに入れられるメカニズムだが、通常よりも有用にするためにはデザインを特定の方向に向けることになるだろう。このメカニズムは特にオーラや自軍のクリーチャーを助ける呪文と相性がいい。

デベロップ:普通

 英雄的も授与と同様、構築では、このメカニズムがすることを最大化するようなデッキを組むことを求める全振りのメカニズムである。少量なら楽しいが、大量に入れることができるようなものではない。また、リミテッドで有用にするのは非常に難しい。

プレイアビリティ: 問題なし

 このメカニズムが呪文でないものに対して働かないということについていくらかの混乱があるが、理解しさえすれば問題ないものである。

ストーム値:5

 英雄的はフレイバーに富み、理解しやすく、楽しいゲームプレイに繋がりうる。しかしながら、セットに組み入れるのは想像されるほど簡単ではない。私は、これがいつの日か再録されるだろうと思っている。


怪物化(『テーロス』『ニクスへの旅』)

人気:普通

 興味深いことに、このメカニズムを個別のクリーチャーが持っていることはプレイヤーに好まれていたようだったが、メカニズム全体としての評価はそれに比べて少し低くなっていた。おそらく、これはメカニズムと言うよりも「クリーチャーができること」と感じられたのだろう。+1/+1カウンターをクリーチャーの上に置くことは、非常に当たり前の能力である。

デザイン空間:広大

 クリーチャーを大きいクリーチャーにするというデザイン空間は非常に広い。これは、マジックのどのセットでも非常に多くやっていることである。完璧にふさわしいマナ・コストと起動コストで効率的に変化するクリーチャーを作ることは、ときによっては難しいものであるが、このメカニズムには3つのツマミ(マナ・コスト、起動コスト、+1/+1カウンターの数)があることを指摘しておこう。

多用途性: 柔軟

 どのセットにでも、怪物化クリーチャーを1体だけ入れることは可能であり、そうした場合には問題なく作用することだろう。実際上の問題は、そのセットで似たようなことをするメカニズム(キッカーなど)の邪魔をしてしまうことがありうるということだけである。

デベロップ:問題なし

 プレイデザインはマナ消費方法や大量のツマミのあるメカニズムが好きなので、怪物化は彼らのお気に入りである。

プレイアビリティ: 問題あり

 怪物化は+1/+1カウンターを必要とするメカニズムなので、評価はこうなる。加えて、怪物化は+1/+1カウンターと相互作用するようにはデザインされていないので、そのクリーチャーに他の方法で+1/+1が置かれていた場合、怪物化をまだ使っていないことを覚えておかなければならないという記憶の問題が生じることになる。『ラヴニカの献身』の順応は、この問題を解消した怪物化の調整版である。

ストーム値:4

 怪物化には広いデザイン空間がありデベロップも簡単である。将来に向けての唯一の問題は、怪物化ではなく順応を使うだろうということだけだ。しかし、怪物化のほうがフレイバーに富むので、これがいずれ再録されるだろうと考えている。(シミックが順応を使ったのは、+1/+1カウンターを置くことがシミックの特徴の大きな部分だからである。)


占術(『テーロス』『神々の軍勢』『ニクスへの旅』『テーロス還魂記』、現在常盤木)

人気:大好評

 メカニズムが複数のセットで登場する場合、その登場するセットごとに評価している。今回、占術については、常磐木化した時点で評価されることがなくなったが、それ以前の登場時は常に上位25%に位置していた。プレイヤーは占術が好きなのだ。

デザイン空間:広大

 単に「占術1」を付けるだけでほとんどあらゆる呪文に持たせることができるので、このデザイン空間は明らかに非常に広大である。すでに大量の占術カードを作っており、今後もさらに大量に増やしていく。それが不可能になることは不安視していない。

多用途性: 柔軟

 占術とシナジーを持つものは少ないが(例えばライブラリーの一番上を参照するものなど)、占術はどんなセットにも、その多寡を問わず入れることができる。問題になるのは、よく似たメカニズム(『ラヴニカのギルド』の諜報など)が他にある場合だけである。

デベロップ:問題なし

 一方のプレイヤーが必要なカードを一切引かず何もプレイできないという「ゲームにならない」ことが占術によって減らせるので、プレイデザインは占術の大ファンである。占術はカードを引くことや赤青のルーター処理に比べて細かいものでもあるので、セットのパワーレベルを調整する上で素晴らしいツマミとして働く。問題になる可能性があることとしては、占術が多すぎてマジックの持つ無作為性を台無しにしてしまい、どのゲームも同じようなプレイになってしまうということが挙げられる。

プレイアビリティ: 問題なし

 占術には、混乱や運営上の問題は存在しない。

ストーム値:1

 これは常盤木メカニズムである。ストーム値1の定義である。1の例が列記されている中に、占術も挙げられている。


クリーチャー・エンチャント(『テーロス』『神々の軍勢』『ニクスへの旅』『テーロス還魂記』)

人気:好評

 これはプレイヤーに調査したものではなく、推測である。一般に、作り出せるシナジーとテーロスのフレイバーという両面から、プレイヤーはクリーチャー・エンチャントが好きだと思われる。

デザイン空間:中等~広大

 開発部内で、クリーチャー・エンチャントをどのようにデザインすべきかという激論があった。エンチャントらしさを感じさせるようにエンチャント的なメカニズム要素が必要だという一派がいた。また、(現在の有色アーティファクトがそうであるように)フレイバーだけで充分示せるのでメカニズム的には考慮しなくていいという一派がいた。私は最初、初代『テーロス』をデザインしていたときは前者の考え方だったが、のちに後者の考えに変わっていった。実際、もし過去に戻れるなら、私は『アルファ版』におそらくイリュージョンとしてクリーチャー・エンチャントを入れ、最初からこの組み合わせの可能性を伝えていたことだろう。前者の考え方に従うなら、デザイン空間は中等。後者の考え方に従うなら、デザイン空間は広大となる。

多用途性: 柔軟

 クリーチャー・エンチャントは「エンチャント関連」セットには必須だが、フレイバー的に意味があるセットなら少量にせよ問題なく入れることができる。マジックにはすでにエンチャント破壊が存在しているので、エンチャント・テーマが存在しないセットであっても、メカニズム的には意味を持ちうる。

デベロップ:問題なし

 クリーチャー・エンチャントは、プレイデザイン的観点からはほぼ単なるクリーチャーである。エンチャントに言及しているセットでは少しだけシナジーを持ち、またエンチャント破壊のパワーレベルが高くなることになるが、それらはどれも簡単に調整できるものである。

プレイアビリティ: 問題なし

 過去のクリーチャー・エンチャントが存在するセットには、必ず特別な枠があった。今後も作るのであれば必要だと考えられるが、それはプレイヤー側の問題ではなくこちら側の問題である。

ストーム値:5

 私が決められるなら、クリーチャー・エンチャントを常盤木にするだろうが、おそらくそうなることは難しいだろう。私は、いずれこれがふさわしいテーロス以外のセットが見つかるだろうと考えている。


エンチャント関連テーマ(『ニクスへの旅』『テーロス還魂記』)

人気:好評

 クリーチャー・エンチャントとは異なり、これについては調査を行なっており、プレイヤーは一般的にこれのファンであった。実際、初代『テーロス』の最大の批判の1つは、「エンチャント関連」テーマが存在しない(『ニクスへの旅』のために温存していた)ことについてのものだった。こそで、『テーロス還魂記』でテーロスを再訪した時、我々はエンチャント関連テーマがあるようにしたのだ。

デザイン空間:中等

 エンチャントに言及する方法はいくつもあるが、クリーチャーに比べると機能性が低いので、クリーチャーの部族に比べるとデザイン空間は狭い。

多用途性:硬直

 「エンチャント関連」テーマの唯一の大問題はこれである。大量にサポートが必要になるのだ。まず最初に、これが成立するようにするためには、クリーチャー・エンチャントの開封比を充分に高めなければならない。このテーマを扱うセットは、大量の構造的サポートが必要なので始めからこれを中心に据える必要がある。

デベロップ:普通

 プレイデザインは、各色にエンチャントへの対策があるようにしなければならないが、これは色によっては難しいものである。(例えば、赤はエンチャントを除去するのではなくエンチャントを持つプレイヤーを罰することが多い。)しかし、我々は大量の「○○関連」セットを作るので、これはプレイデザインがよく取り組んでいることである。

プレイアビリティ: 問題なし

 何がエンチャントで何がそうでないかプレイヤーが区別できるように注意しなければならない。(テーロスではいつも特別な枠を使っていた。)しかし、それ以外は、このテーマは混乱も運営上の問題も起こさないことが多い。

ストーム値:4

 マジックに最初から存在しているものの中で、軸にしてセットをデザインできるものはそう多くない。エンチャントはその中の1つであり、(アーティファクトや墓地といった)他のものよりもずっと扱ってきた頻度が低いのだ。「エンチャント関連」セットは、作るかどうかではなく、いつ作るかの問題だと言える。いつの日か、テーロスを舞台としていないものを作ることになるだろうと私は確信している。


神(『テーロス』『神々の軍勢』『ニクスへの旅』『テーロス還魂記』)

人気:大好評

 神というクリーチャー・タイプが導入されたのは初代『テーロス』で、すぐに人気になった。そのため、我々は他の世界にも神を導入したほどである。

デザイン空間:狭小

 神々をデザインする上で最大の課題の1つは、メカニズム的に神を定義するものを決めることである。『テーロス』ブロックではすべてを破壊不能にしたが、これはプレイデザインの問題を引き起こすことになった。(詳しくは後述。)それ以降、神々をもっと印象的で、通常のクリーチャーよりも殺しにくいようにする再調整を行なった。新しい空間を掘り下げていくことでデザイン空間を広げることは可能かもしれないが、現時点では少しばかり狭小である。

多用途性:普通

 メカニズム的には、神々をさまざまなセットに入れることはできる。ただしフレイバー的には、神がそのセットで意味を持つべきである。神々はかなり注意を惹くので、セットの構造の中で中心的役割を果たすようにするべきなのだ。

デベロップ:普通

 殺すのが非常に難しい神々は、バランスを取る上で問題になりうる。神々を作る新しい手法は、ふさわしい状況では強力で対処しにくいが、それにはデッキ構築上で十分なサポートを入れなければならなくして、色さえ合っていればどんなデッキにも入れられるというものではないようにするというものである。

プレイアビリティ: 問題あり

 神々をプレイアビリティ上問題ないものにすることはできるが、テーロスのさまざまなバージョンでは信心の閾値を使っており、それには常時計算が必要である。把握するのが難しいものではないが、問題ありとするには充分だと考えられる。

ストーム値:4

 神々は人気があり、ふさわしいセットではかなりのフレイバーを加えてくれる。将来、より多くの神々を印刷すると思われるが、そのメカニズム的実装についてはさらなる方法を実験していくことになるだろう。


単色テーマ(『テーロス』『神々の軍勢』『ニクスへの旅』『テーロス還魂記』)

人気:好評

 これは『テーロス』ブロックに関する調査で質問したものではないが、私は、単色テーマに心躍らせている多くのプレイヤーと交流してきた。

デザイン空間:中等

 この分類の一部である信心同様、このデザインも拡大型や閾値型に分類されるものが多い。扱えるものは多いが、無限と言うには程遠い。

多用途性:普通

 単色テーマには、単色カードの開封比がある程度必要だが、それはほとんどのセットでしてきていることなので最大の問題というわけではない。単色テーマのやり方はいろいろと存在し、それごとに異なるサポートが必要となる。例えば、信心は色の濃いマナ・コストが必要である。

デベロップ:普通

 単色では、色の弱点が目立つので、対策カードが強調されることになる。また、リミテッドでは1色だけで必要なだけのカードを手に入れることは難しいので、セットにはそれを助ける道具(無色カード、混成など)を使用することや、1色中心で2色目を散らすプレイを推奨することが必要となる。

プレイアビリティ: 問題なし

 あるとすれば、単色戦略では監視すべきマナの問題が少ないのでプレイしやすいということであろう。

ストーム値:3

 「エンチャント関連」もそうだが、我々が使える基本のテーマはそう多くない。単色テーマは、定期的に見かけるべきものなのだ。


神啓(『神々の軍勢』『ニクスへの旅』)

人気:不評

 これが追跡が難しいからかそれともそれほどフレイバー的でなかったからかはわからないが、神啓は結果としてプレイヤーに印象深いものにはならなかった。

デザイン空間:中等

 このメカニズムは主にクリーチャーが持ち(ただし理論上はタップ能力を持つアーティファクトにも持たせられる)、またそれは攻撃などのタップする手段を持つクリーチャーでなければならない。効果はアンタップされた時点で誘発するので、ターンの開始時に有用なものでなければならない。

多用途性:普通

 クリーチャーは攻撃できるので、タップする方法は自然と存在するが、このメカニズムでは攻撃する以外の方法で自軍のクリーチャーをタップできるような効果が必要である。

デベロップ:問題あり

 このメカニズムを構築で有用なものにするには、いくつもの関門を越えなければならない。クリーチャーは、唱えなければならず、1ターン生き延びねばならず、次のターンに攻撃せねばならず、その攻撃を生き残らねばならず、そして結果を得るにはさらにもう1ターンかかるのだ。そして、リミテッドでは、戦場にあるもので攻撃できなくならないようにこのメカニズムをサポートする方法を探さなければならない。これは非常に手間のかかるメカニズムなのだ。

プレイアビリティ: 問題あり

 なぜだか、アンタップすることを誘発イベントにすることは、プレイヤーにとって把握することや監視することが非常に難しい。おそらく、プレイヤーは、アンタップしてすぐにカードを引くことが多く、そのときに何かが起こるということを考慮していないことが多いのではないか。

ストーム値:9

 これは不人気であり、デザインが難しく、プレイデザインがデベロップするのは難しく、プレイヤーが監視するのが難しい。私は、これが近いうちに再録することについて懐疑的である。


貢納(『神々の軍勢』)

人気:不評

 プレイヤーは懲罰者カード、つまりその結果の選択を対戦相手に強いるカードが好きだったので、我々はこのメカニズムに高い望みをかけていた。成功はしなかった。

デザイン空間:狭小

 2つのサイズを取りうるクリーチャー(その差はちょうど+N/+Nである)を、その差が呪文的能力の強さと一致するようにデザインするのは、ツマミが正確でなく、能力とサイズがお互いに邪魔しないものでなければならないという2つの理由から、難しいことがわかっている。

多用途性:硬直

 貢納クリーチャーは、プレイヤーが最終的にどうするか明確にわからないので、セットを形作って上手くバランス付けるのが難しい。最終的にはそれを入れるためにセットを大きく曲げることになったのだ。

デベロップ:普通

 これは、一方が他方よりも強ければそのカードは常に同じ形でプレイされることになってしまうので、バランスを取るのが難しいメカニズムである。プレイデザインはうまくいくカードも見つけたが、充分な深さがあるわけではない。

プレイアビリティ: 問題あり

 このメカニズムは+1/+1カウンターを使い、加えて、対戦相手にこちらがプレイしているカードに基づく難しい選択を迫る。

ストーム値:8

 私は、神啓に比べれば貢納のほうがありうると思っているが、その差はわずかだ。


星座(『ニクスへの旅』『テーロス還魂記』)

人気:普通

 これはプレイヤーの一部が熱烈に称賛していて、他の誰もが問題ないと思っていたメカニズムの1つである。

デザイン空間:中等

 星座のデザイン空間は、それと組み合わせられる効果の数によって制限されている。作ることができるものは多いが、それらはすぐにお互い邪魔し合うようになるので、同じセットに大量に入れることは難しいと思われる。

多用途性:硬直

 このメカニズムは、そのセットのエンチャントの開封比が充分に高くなければ成立しない。「エンチャント関連」テーマの一部なので、このメカニズムはクリーチャー・エンチャントがあるセットに入ることが必要である。

デベロップ:普通

 『ニクスへの旅』の星座カードはすべてエンチャントだったので、お互いに供給源となりあってプレイデザイン上の問題を引き起こしていた。『テーロス還魂記』は、このメカニズムをエンチャント以外に持たせることでその問題を解決した。

プレイアビリティ: 問題なし

 プレイヤーはエンチャントをプレイするときに意識しなければならないが、それは特に難しいことというわけではない。

ストーム値:5

 『テーロス還魂記』の展望デザインで、新しい「エンチャント関連」のメカニズムを探すのにかなりの時間を費やした。そして我々が行き着いたのが、星座よりもずっと優れたものはない、ということだったのだ。「エンチャント関連」がいずれ再録されることになるなら、星座が再録される可能性も十分あると思われる。


奮励(『ニクスへの旅』)

人気:不評

 『ニクスへの旅』は最初、バイバックを再録することを予定していたが、強力すぎる上に同じ繰り返しになりがちだったので、奮励に入れ替えられた。私はバイバックを知っている。私は、バイバックを作ったセットのリードだった。奮励よ、君はバイバックじゃない。

デザイン空間:狭小

 奮励はインスタントやソーサリーにしか持たせられず、その効果は対象を取るものである必要があり、複数の対象を取ることに意味があるものでなければなかった。『ニクスへの旅』のために20枚のデザインはできたが、同じ効果を繰り返すことなくあと20枚作れるかと言われると疑問である。

多用途性:普通

 このメカニズムには、大量のクリーチャーが戦場になければならない。そのために、そのセットはいくらかの構造上の条件があるが、それはそれほど厳しいものではない。

デベロップ:普通

 奮励に関するプレイデザインの最大の問題は、強化することができる効果を見つけることだった。上述の通り、これに使える効果は少ないのだ。

プレイアビリティ: 問題なし

 奮励には、混乱や運営上の問題は存在しない。

ストーム値:8

 これは人気がなく、狭い。これが筋が通るような完璧なセットが来る可能性がないとは言わないが、それは大穴だ。


脱出(『テーロス還魂記』)

人気:普通

 正直に言おう。このメカニズムについて、私はもう少し高評価を得られると思っていた。プレイヤーは自分のカードを再利用するのが好きなので、これも好かれるだろうと考えていたのだ。

デザイン空間:中等

 脱出のデザイン空間は非常に柔軟である。あらゆるカード・タイプに持たせられる。これが墓地から回収できるカード・タイプはどの色にも1つは存在する。(墓地セットであるにも関わらず、我々はどの色が何を墓地から回収できるかについて曲げることを進めた。)デザインするものは豊富だ。制限は、繰り返したときに強くなりすぎるようなものを作らないようにすることだけである。例えば、強いブロッカーになるような脱出クリーチャーは作らないようにした。

多用途性:普通

 脱出は墓地テーマがあるセット、あるいは少なくともカードを墓地に送る何らかの方法(手札から捨てる、切削する、生け贄に捧げる、など方法は多様に存在する)があるセットにこそふさわしい。

デベロップ:普通

 カードを再利用できることは、意味がある程度に多く、また反復の問題を起こすほど多くないようにすべきなので、プレイデザインにとって課題になる。

プレイアビリティ: 問題あり

 このメカニズムは墓地で働くので、監視の問題がある。また、時々、+1/+1カウンターを用いる。

ストーム値:6

 私は、脱出がうまく働き、そして充分なデザイン空間があると思っているが、構造上の問題や平均以上の注意を払わなければ正しくプレイできないという問題が伴うとわかった。これが再録される可能性は充分にあると思うが、そのためにはこれと並ぶものが必要となる。


英雄譚(『テーロス還魂記』)

人気:大好評

 英雄譚は、プレイヤーの間でとても人気がある。サプライズではなかったと考えている。

デザイン空間:中等

 英雄譚のデザインは難しい。うまく噛み合ってプレイできるだけでなく物語を描くように複数の効果を組み合わせる必要がある。つまり、この物語という側面が、数多くのクールなトップダウン・デザインを生み出すと確信させてくれたのだ。

多用途性: 柔軟

 英雄譚はどんなセットでも成立するが、その入るセットには何も制限をかけることはない。基柱にすることはできるが、そうしなくても成立するのだ。

デベロップ:普通

 英雄譚をデベロップするための手法は、序盤に充分な価値があり、のちの章にも有用性を持たせることができるような適正なバランスを見つけることである。

プレイアビリティ: 問題あり

 英雄譚はカウンターを用い、さらに記憶問題を引き起こす。(毎ターン、カウンターを置くのを忘れる。)

ストーム値:3

 私は英雄譚の未来に大きな希望を抱いている。のみならず、いつかこれが落葉樹になる可能性もあると思っている。しかし、それは今ではないので、3とした。

ストーム値の港

 『テーロス』ブロックと『テーロス還魂記』のメカニズムやテーマについては以上となる。私のソーシャルメディアに新しいストーム値の記事を書いてほしいというリクエストがつねづね届いているので、諸君も楽しんでもらえていれば幸いである。いつもの通り、この記事や私が話題にしたメカニズムについての諸君の反響を聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 これから数週間休みをいただくが、1月、『カルドハイム』のプレビューでお会いしよう。

 その日まで、あなたが再録を望むメカニズムがありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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