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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『統率者レジェンズ』

Mark Rosewater
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2020年11月30日

 

 セットごとに、私は、そのセットに関して諸君からの熱心な質問に答えるための一問一答記事を書くことにしている。『統率者レジェンズ』を受けて私がツイートした内容は以下の通り。

 現在、『統率者レジェンズ』の一問一答記事を書いている。この新セットに関する質問があれば、1問1ツイートで送ってくれたまえ。#WotCStaff

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えようと思うが、以下のような理由によって答えられないこともある。

  • 文章量の都合で、答えられる質問の数には限界がある。
  • すでに同じ質問に答えている場合がある。最初に来た質問に答えるのが通例である。
  • 私が答えを知らない質問もあるし、正しく答える資格がないと思われる質問もある。
  • 将来のセットのプレビューになるなど、さまざまな理由で回答できない話題もある。

 それではさっそく質問に入ろう。

Q: 昔のキャラクターのうち誰が新しいカードになるか、どうやって決めていますか?

 公式な工程は存在していない。開発部の中にはユーザーと直接やりとりしている者がおり、他にソーシャルメディアにきちんと目を通している者もいる。我々はそれぞれが、提案を目にしてからそれを使える場所を考え、内心で、あるいは文書として、リストを作っている。「伝説の」要素を大きく持つセットのデザイン・リードは、特にそれが単一の世界に紐付けられておらず可能性が広がっているセットであれば、推薦を求めることが多い。例えば、ガヴィン/Gavinは展望デザイン中に、ジュール/Julesはセットデザイン中に、それぞれ私に寄せられている伝説のクリーチャーのリストを求めてきていた。

Q: 『統率者レジェンズ』で取り上げられている伝説のクリーチャーの中で、実は今後のセットの前振りであるというものはありますか?例えば、クウェインとかアーチェロスとか?

 もしそうであったとしても、私は言えない。私が指摘できるのは、サプリメント・セットで初登場して後の本流のセットの物語上で役割を持ったものには『統率者(2014年版)』のナヒリ、『コンスピラシー:王位争奪』のケイヤ、『バトルボンド』のローアンとウィルがいて、これは我々がしうることの1つだ、ということだけである。

Q: (ギックスやガフなど)他にも人気のキャラクターが大量にいる中で、伝説のクリーチャー・カードとなったキャラクターはどのように選ばれたのですか?

 この質問で聞きたいのは、採用できるような既存のキャラクターが充分大量にいる中で、なぜ新しい伝説のクリーチャーをわざわざ作ったのかということだろう。その理由は、伝説のクリーチャーに求めるものはプレイヤーによって違う、ということである。見知った好きなキャラクターが登場することに心を躍らせるプレイヤーもいるが、新規のキャラクターの登場や既存のキャラクターに当てはまらないボトムアップのデザインが大好きなプレイヤーもいるのだ。マジックのデザインにおいて目指しているのは、すべてのプレイヤーが自分にとって一番楽しいものを見つけられるよう、幅広くさまざまな種類のデザインを作ることである。

Q: すでにカードが存在しているキャラクターのカードをまた作ったのはなぜですか?(カマール、アクローマ、逆嶋など)

 それにはいくつかの理由がある。1つ目、自分の好きなキャラクターの新バージョンの登場を楽しむプレイヤーがいる。2つ目、初登場時には最高のデザインができておらず、より良いデザインを受ける価値があるキャラクターがいる。3つ目、我々が作った単体のデザインにクリエイティブ的に完璧にふさわしいキャラクターがいることがある。4つ目、特定のキャラクターを登場させるのに最適なセットのテーマが存在することがある。例えば、同一のセットに、新しいカマールと新しいジェスカを同時に登場させるのは面白かった。(知らない諸君のために添えるなら、彼らは兄妹である。)

Q: なぜアシュノッドやギックスがこのセットにいないんですか?

 伝説のクリーチャーやプレインズウォーカーにできるクールなキャラクターのリストは、カード化できる枠よりもはるかに多い。(そして上述の通り、伝説のクリーチャー枠のすべてを既存のキャラクターに使えるわけではない。)良い点は、マジックは飢えた怪物であり、我々は継続して新しいセットや新しい伝説のクリーチャーを作り続けているということである。多くのプレイヤーが特定のキャラクターを望むなら、それはいずれ登場することになるだろう。

Q: 『イコリア:巨獣の棲処』と『ゼンディカーの夜明け』の両方にボックストッパーがあったのに、テーマ的に入れるのに理想的なはずの『統率者レジェンズ』ではなぜ検討されなかったんですか?

 マジックのセットを作る中で奇妙なことの1つが、発売順と作成順が違うことがあるということである。例えば『統率者レジェンズ』は、『イコリア:巨獣の棲処』や『ゼンディカーの夜明け』よりも前にデザインされており、もともとは発売日ももっと早く予定されていたのだ。つまり、これがデザインされた時点では、それらのセットをもとにして考えることはできなかったということである。

Q: 統率者リミテッド戦のために混成のルールを変えるという議論はありましたか?

 この製品のデザイン理念は、デッキ構築は構築戦版と(他の製品でのリミテッドと同様)少しだけ違うが、ゲームプレイは一致するようにする、というものだった。つまり、『統率者レジェンズ』リミテッドでプレイしている間は、ただ統率者戦をプレイするようにしようと考えたのだ。混成マナを他のフォーマットでプレイされているのと同じように統率者戦で扱うのなら、リミテッドの統率者製品をデザインするのは簡単になるだろうか。もちろんだ。しかしその決定は、ウィザーズではなく統率者戦ルール委員会が下すことである。我々は、従わなければならない因子の中でセットをデザインするのが仕事であり、そのため我々は『統率者レジェンズ』を既存の統率者戦ルールの下でデザインしたのである。

Q: 大修復前のプレインズウォーカーをスタンダード外のセットでもっと作る計画はありますか?

 我々が何かをしてプレイヤーがそれを好んだなら、おそらくもっと作ることになるだろう。ブログでよく言っている、「成功は反復の母」というやつである。

Q: 《船殻破り》はなぜ青のカードなんですか? 白の効果っぽく見えますし、青のデッキより白のデッキでのほうが有効に働くと思います。

 一言で答えるなら、《船殻破り》が青のカードなのは、その効果がカラー・パイの青に位置するからだ。青は他のプレイヤーの引くカードを奪い、場合によっては他のリソースに変えてしまう。白はカードを引くことにコストをかけたりカードを引く他人の行為を自分とそのプレイヤーの両方(あるいは全プレイヤー)が引くようにしたりするが、《船殻破り》のようなことはしない。通常ある1色に存在する効果が、通常それをしない色でのほうが有効になることはありうる。例えば、打ち消し呪文は(初期の数枚のカードを除いて)赤には存在しないので、青にあるより赤にあるほうがずっと有用だろう。これは、我々が現在何かの効果を存在している色から動かそうと考えているということではない。

Q: 白のデザインにはバランス的な意味で隔絶があると思いますか? このセットには白の良いEDH用カードが入っていると聞かされていて、実際のカードを見て不満を感じた人がいます。プレイヤーがカードを評価する上で見落としていることがあるんでしょうか?

 この質問は、我々が問題が何かを誤解していて、開発部がその解決のために選んだ手法が間違っている、というのが主な論点だろう。まず、問題の話から入ろう。統率者戦は、楽しくカジュアルなマジックの変種ルールとして作られた。マジックをプレイする主な遊び方としてデザインされたのではないので、我々はそのフォーマット自身が望む形になるように判断したのだ。それらの判断は、マジックのプレイされ方の力学を大きく変化させた。ライフ総量が違う。プレイヤーの人数が違う。さまざまな能力の強さが違う。プレイヤーのやり取りの形が違う。しかし、それらはすべて、そのフォーマット向けにデザインされたものではないカードやカラー・パイを使っていた。想像してほしい。例えば、すべてのプレイヤーが10点のライフで始めるラッシュ戦という新しいフォーマットがあるとしよう。白はこのフォーマットでは非常に強いが、青は非常に苦しい目に遭うことだろう。

 統率者戦が人気を得るにつれて、我々は統率者戦でうまく働くようにするためにカラー・パイを調整することを受け入れなければならなくなった。良いニュースは、カラー・パイは常に進化し続けているということである。マジックが進化する方向に向けて進む可能性は常にあるのだ。しかしながら、それを正しい形で実行するために重要なのは、色をその中心的理念を扱う形で変えることである。この好例が、赤の統率者戦における扱い方だ。赤にはカードを引く手段がもっと必要だったので、我々は「衝動的ドロー」(カードを追放し、そのターンそれを追放領域から唱えることができるようにする)を赤のフレイバーに従ったカードを得る方法として作り出した。単に他の色から効果を赤に移したというわけではないことに注意。我々はこの問題を、有機的に赤い方法で解決するために新しい空間を掘り下げたのだ。これが、今我々が白において行なっていることである。

 2つ、強調しておく必要がある。1つ目が、我々は物事をゆっくり慎重に変化させるということ。我々が何か新しいことを試すとき、それを弱い呪文で使ってその動きを計り、その後で時間を掛けて、確信を持てるようになり次第強めていくことが多い。考え方を変えて、ただエターナル・フォーマットで永遠に生き残ることになる強化版の新しいものを入れるだけの結果にしたくはないのだ。2つ目が、統率者戦では(ほとんど)すべてのカードを使うということ。超えなければならない障壁が多いのだ。強い白のカードを作ったとしても、それらはその障壁となる既存の環境と戦わなければならない。

 つまるところ、変化には時間と努力が必要だということである。我々は赤についてそれをやり、そして、時間を掛けて、時間を掛けて、目立った成長をなんとか成し遂げた。白はもう少し難しいということがわかっている。白の長所は統率者戦では役に立ちにくく、白の短所は統率者戦では大きな弱点となるので、この問題の解決はさらに難しいものである。しかし我々はすでにこの問題に取り組み始めていると私は宣言できる。我々はすでに解決策となりうるものを見つけているが、それはゆっくりと加速していくことになるだろうし、その効果の強いバージョンを作れるとなってさえもエターナル環境において確立されている色というものに立ち向かうには時間がかかることだろう。これは1セットだけで解決できるような問題ではないのだ。

Q: 4色とWUBRG以外のすべての色の組み合わせは網羅されてきています。特に4色の伝説のクリーチャーについて需要と興奮が常にあることを考えると、なぜ4色を扱わないという判断をしたんですか?(純粋に好奇心です。私はこのセットのことが大好きです!)

 『統率者レジェンズ』は、統率者ドラフトのセットである。つまり、ドラフトが成立するようにすることを第一にしなければならない。多くの色を持つ伝説のクリーチャーをドラフトするのは、特に後半のブースターでは非常に難しい。実際、展望デザインの段階では、プレイするのが非常に難しいという理由で3色カードすらセットに入っていなかったのだ。セットデザインは、統率者戦セットにはもっと色の多い伝説のクリーチャーがいくらか必要だと感じたので追加し、そしてそれを支えられるようなドラフト環境を作るために尽力した。難しいことで、大量に作ることはできなかったのだ。3色で難しいなら、4色は基本的に不可能である。これが、このセットに4色の伝説のクリーチャーが存在しない理由である。

Q: クラークがコイン投げとサイコロ振りの両方を扱っていたことはありますか?

 なかったと記憶している。問題は、サイコロを振ることは間違いなく銀枠の話であり、黒枠のカードで他の黒枠のカードに存在しないことに言及するのは奇妙なことだろう。個人的には、これが私のセットであったなら私は試しただろうが、私はかつて『未来予知』で間違いなくこれをやっていたのだ。(「からくりって何だ?」)

Q: 友軍を裏切ることで有名なテヴェシュが共闘を持っているのはなぜですか?

 友軍を裏切るためには、そもそも友軍を作らなければならない。なお、裏切りというフレイバーはこのカードのデザインに組み込まれている。

Q: どの新カードが共闘を持ち、どの新カードが持たないかをどうやって決めたんですか?

 新カードについては、単色の伝説のクリーチャーは共闘を持ち、単色でない伝説のクリーチャーは共闘を持たない。

Q: 統率者(単数)をテーマとしたセットなのに、なぜ共闘があるんですか? 個人的にはそれを意識したことはありません。

 この製品の鍵となる独自性であるドラフトを成立させる必要があった。その理由については、次の質問の答えを読んでくれたまえ。

Q: マナ基盤のためにフェッチランドを再録するのではなく新しく共闘を持つ統率者を作ることを選んだのはどのような思考過程によるものですか?

 フェッチランドは、共闘が解決する問題を解決しない。共闘は、色を安定化させるためにこのセットに入っているわけではない。ドラフトの色を後半で進化させることができるように入っているのだ。ここで、2つの別々の世界を想像してみよう。世界Aには共闘があり、世界Bにはフェッチランドがある。最初に青単色の伝説のクリーチャーを引いたとしよう。世界Bでは、青単色のカードだけをドラフトしていくことになる。他の色のマナを出すことができるからといって何も助けにはならない。世界Aでは、共闘を持つ伝説のクリーチャーを後で取って2色目にすることができるので、2色目をドラフトしていくことができる。(そして、うまく伝説のクリーチャーを手に入れられなくても、《虹色の笛吹き》を使うことができる。)

Q: 『統率者レジェンズ』が出たわけですが、今後『統率者アンティキティー』とか『統率者ホームランド』が出ることを期待できますか?

 『統率者統率者(2014年版)』が楽しみだ。

Q: なぜ《吸血の教示者》だけが再録されたんですか?

 サイクルで再録することもあるが、必ずそうしなければならないとは考えていない。サイクルの1枚だけを取り出して再録することも問題ないのだ。

Q: なぜこのセットには伝説の土地がないんですか?

 一言で言うと、開発部は伝説の土地のプレイされ方を気に入っていないからである。「伝説ルール」と相性が悪いのだ。物語上の重要な理由から作ることはあるが、可能なら避けたいと思っている。フレイバー的論拠としては、1か所に対して複数の力線を引くことができる、ということが言える。

Q: パウパー統率者戦で使えるようなコモンの伝説のクリーチャーがないのはなぜですか?

 2つの理由から、コモンにはふさわしくない。1つ目、コモンはリミテッドで同じクリーチャーを何枚も手にするものであり、それは「伝説ルール」とうまく噛み合わない。2つ目、フレイバー的に問題である。パウパーのための規則として、我々がカードをコモンにするのはコモンに適しているからであり、パウパーのためにコモンにするようなことはしないことにしている。このフォーマットのポイントは、自然にコモンに存在するものを使うということなのだ。『統率者レジェンズ』では、通常はコモンに入らないようなものでこのリミテッドのフォーマットで意味があるをコモンに入れることができているが、そこに伝説のカードは含まれなかったのだ。

「ご清聴ありがとう」

 本日回答できる時間はこれで終わりとなる。いつもの通り、回答に関するや取り上げた話題について、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、ストーム値の新しい記事でお会いしよう。

 その日まで、あなたが質問を抱き続けますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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