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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

さらなるこぼれ話:『イコリア』

Mark Rosewater
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2020年5月18日


 

 先週、『イコリア:巨獣の棲処』に関する一問一答を始めた。大量の質問があったので、今週も回答を続けよう。

Q: 眷者(Bonder)がいるこのセットで結魂(Soulbond)をメカニズムとして採用することは考えましたか?

 我々が最初に取り組んだのは怪物であり、つまりかなり初期から変容が存在していたということである。変容が存在するとなれば、理解上の複雑さ(そのメカニズムが本質的にどのような動きをするのかに関する混乱)を生み出すと考えられる他のメカニズムを採用するわけにはいかない。結魂は、プレリリースにおいて(我々がその観点から記録を取り始めて以来)もっともジャッジ上の問題を引き起こしたメカニズムという記録を持っている。そのため、結魂が眷者とフレイバー的に非常に相応しいものではあっても、このセットに入れることを真剣に検討されたことは一度もなかった。

Q: このセットでお気に入りのカード・デザインの話は何ですか?

 (私がこの記事で話してきたものを除いて)お気に入りのデザインの話といえば、おそらく、《不思議な卵》の話になるだろう。

 展望デザインの間、変容はクリーチャー・タイプか常盤木キーワード(正確に言えば、キーワード・カウンターが存在していたキーワード)が共通したクリーチャーでなければ発生しなかった。適正な対象が存在するようにするための補助として、あらゆるクリーチャーに変容できる無色のカードを作ることにしたのだ。それを卵にしたのは、そこから何が出てくるか誰にもわからないというフレイバーが気に入ったからであった。過去の卵の多くがアーティファクトだったので、最初のバージョンはアーティファクトだったはずだ。

 変容誘発で+1/+1カウンターを得るのは、展望デザインのファイルでコモンやアンコモンの変容クリーチャーすべてが持っていた変容誘発だった。セットデザイン中に変容が変化した時、このカードがボツになる可能性はあったが、誰もがこれのフレイバーを気に入っていたので、そのまま残ることになったのだ。唯一の変更は、フレイバー上の理由で、アーティファクトからアーティファクトではない無色のカードになった、ということである。

Q: トライオームが基本土地タイプを持つのはなぜそんなに重要なんですか?

 トライオーム(サイクリング3色土地)は、セットデザイン中にデザインされたものである。なぜ基本土地のサブタイプを持つのかというと、おそらく、「タップ状態で戦場に出る」3色土地(『タルキール覇王譚』に存在している)はもう少し強化できる余地があったからだろう。これらのサブタイプを加えることで、古いフォーマットにおいては特に、他のカードとのシナジーが強まることになる。

Q: 伝説の人間の神話レア・サイクル全体の背後にある物語はどのようなものですか? 怪物のサイクルはわかりますが、人間は白黒中心ではなかったんですか?

 メカニズム的テーマと、世界構築の全体は別物だ。確かに、人間部族は白黒が中心だが、クリエイティブ的には人間はすべての色に存在している。人間はこの怪物世界で(怪物の味方、敵、餌として)重要な役割を担っており、それらのさまざまなつながりを描写するものとして伝説の人間サイクルが必要だったのだ。また、マジックのプレイヤーの非常に多くが人間なので、人間の統率者を心から求めるプレイヤーが多いということがわかったので、大量に作ったのである。

Q: このセットに入る予定だったけれども最後にはボツになったクリーチャー・タイプはありますか?

 このセットの中核となる5つのクリーチャー・タイプをどうするかという議論は大量にあったが、最終的にそれが確定したら(展望デザイン中だったと記憶している)、それ以降は印刷に到るまで変わらなかった。しかし、クリーチャー・タイプのクールな組み合わせを作ることについては大量の議論があり、それはセットデザイン中ずっと続けられていた。その部分には私は関わっていなかったので、『イコリア』のクリーチャー・タイプの責任者であったダグ・ベイヤー/Doug Beyerに、最終的には作られなかったがクールなものはあったかと聞いてみた。ダグは、カヴーを採用するというアイデアを楽しんだが、ビーストや恐竜と充分な差別化ができなそうだったので最終的にはボツになった、という話をしてくれた。

Q: クリーチャーに変容を持たせるオーラは『イコリア』のデザインやデベロップの間に検討されましたか?

 変容は複雑なメカニズムである。複雑なメカニズムを扱うときに注意しなければならないことの1つが、その複雑さを可能な限り最小化することである。2万枚以上の既存のカードとの相互作用をコントロールすることはできないが、そのメカニズムを持つカードについては注意深くなることができるのだ。したがって、我々は、我々が保護している主なフォーマットであるシールドデッキ、ブースタードラフト、スタンダードでもルール問題のパンドラの箱を開くことになる、変容を他のカードに与えるカードを意図的に作らなかった。

Q: 将来、東宝/ゴジラシリーズのようなIPをマジックで見ることはあるんでしょうか?

 ゴジラシリーズ・プロモーションをした理由の1つが、この種のことに対するユーザーの興味を計ることだった。過去に、銀枠で(《Grimlock, Dinobot Leader》《Nerf War》《Sword of Dungeons & Dragons》《Princess Twilight Sparkle》など)事前調査をしたことがあったが、黒枠でしたことはなかった。これが成功を収め、初期の情報調査がその方向を示していたなら、掘り下げていくことになるだろう。

Q: サイクリングを持つ大型クリーチャーがあまり多くないのはなぜですか?

 怪物テーマが存在するセットであっても、大型クリーチャーを入れられる数には限りがある。大型クリーチャーを使える可能性を最大化したメカニズムを選び、その後でプレイテストによって「大型クリーチャー点」を使うのにもっともふさわしい状態を決定した。サイクリングと大型クリーチャーには将来的にかなり重複する可能性があるので、サイクリングよりも大型クリーチャーを必要とするこのセットの別の側面を優先したのだ。

Q: 変容したクリーチャーをコピー/クローンした場合、そのコピーはその変容すべてを維持します。特に、元のクリーチャーが死んでいて複数の変容したクリーチャーがあったりしたら、紙のマジックでそれを追跡するのは非常に面倒だと思います。この複雑さに対して、どのようなデザイン理念があったんですか?

 複雑さに関して我々が対処しなければならない2つの大きな問題を、私は直感的問題と物理的問題と呼んでいる。直感的問題は、突き詰めれば「このカードは予想通りに働くだろうか」ということである。プレイヤーが想定するように働かなければ、間違ったプレイをされる危険性が非常に高い。物理的問題は、突き詰めれば「これはどれだけ追跡しやすいか」ということである。これは、プレイヤーがプレイ中にそのカードを維持するためにどれほどの作業が必要かということに注目している。理想的には、カードは直感的にプレイできて物理的に簡単に監視できるべきである。

 問題は、マジックは大量の部品がある複雑なゲームであるということである。例えば、クローン(つまり、多くの場合はクリーチャーをコピーすること)はそれ自身で非常に複雑である。初期のマジックでは、一貫して処理するためのルールが出来ていなかったため、何年もクローン効果を印刷するのを止めてすらいたのだ。変容もまた、上述の通り、複雑である。この2つのものを組み合わせるのはただトラブルを招くだけだが、この質問に答えないわけにはいかない。どちらもゲーム上に存在しているのだ。

 通常、我々はまず直感的問題から始める。プレイヤーは何が起こると考えるだろうか。直感的な回答通りに成立させられるようであれば、我々はそうしようとする。確かに物理的問題は重要であり、非常に配慮しているものであるが、プレイヤーがどう動くか考えていることと矛盾するようなプレイをさせることは無謀な戦いなのだ。はるかに良いゲームプレイやルール上の必要からそうすることはあるが、可能なら避けたいことなのである。この場合、直感的回答は明白であった。変容したクリーチャーをコピーする。何をコピーする? 全部だ。通常、コピーはそう作用するものである。

 そのため、物理的なコストがあることを把握した上で、直感的で一貫性のある回答のままにしたのだ。幸い、それが起こるのは、デッキを使うプレイヤーが自ら選んで使う、構築フォーマットがほとんどである。物理的問題があまりにも大きいと感じるプレイヤーは、他のデッキをプレイすることだろう。デザインには、常に簡単な答えがあるわけではない。可能な選択肢の中から選ばなければならない場合もあるのだ。

Q: マーク、今後キーワード・カウンターはもっと使われると思いますか? 『イコリア』での成功次第でしょうか?

 そのとおり、キーワード・カウンターの将来は、『イコリア』での評価に依るだろう。セットに加えるにはパンチアウト・カードが必須なので(そうでなければ物理的障壁が高すぎることになる)、使える機会には限りがあることには留意してくれたまえ。私は、キーワード・カウンターの将来に楽観的である。

Q: 『イコリア』には、点数で見たマナ・コストが奇数/偶数であることに言及したカードがあります。このデザイン空間は将来のセットでさらに掘り下げられると考えていいですか?

 「奇数/偶数関連」はゲーム・デザイナーが陥りやすい問題の好例である。一見すると、これは非常に大きなデザインの鉱脈に思える。あらゆるメカニズムに適用することができる。「点数で見たマナ・コストが偶数のクリーチャー1体を対象とする。それを破壊する。」「クリーチャー1体を対象とする。それは+2/+2の修整を受ける。それの点数で見たマナ・コストが奇数なら、代わりにそれは+4/+4の修整を受ける。」「このカードが戦場に出るに際し、偶数か奇数を選ぶ。あなたがコントロールしていて点数で見たマナ・コストがその選んだ偶数か奇数であるクリーチャーは威迫を得る。」

 問題が発生するのは、それが実際にどうプレイされるかを検証するときである。奇数であるカードを使っていることを参照すること、は楽しいだろうか? それにはいくらかの新奇性があり、少量であれば新奇性そのものは楽しいものだが、しかしそもそも参照して楽しいものではない。また、これは観察しにくい値である。テーブルの向こう側に、カードが偶数か奇数かをすぐ伝えられるだろうか。伝えられない。頭を使わなければならない奇妙なものであり、したがってこのテーマは普通よりもプレイするのが少し難しいものなのだ。フレイバーとのつながりもないので、このデッキをクリエイティブ的に理解することもできない。すべてをまとめてみると、このテーマで可能だと思えたことは、一見したときに思えた可能性を満たすものにはならないのだ。

 私はこのテーマをカード個別単位では何度も使ってきているが(マジックのカードを大量に作ってきているので)、それが自然に収まるような文脈、上述の問題を解決する助けとなるものが見つからない限り、これを大きなテーマとして取り上げることはまったく想定していない。これは特別なサポートが必要なメカニズムなので、そのようなサポートが提供されるセットを見つけない限り大量に使うことは考えられないのだ。

Q: 採用しなかった相棒のアイデアにはどんなものがありましたか?

 ボツになったアイデアの多くは、デッキ判別問題に引っかかっていた。つまり、デッキが不適正であると対戦相手がすぐにわかるようになっていないということである。例えば、デッキのある一定割合(正確な割合は覚えていないが、通常よりも多かった)が基本土地であるという条件の相棒があった。マナ・コストが同じ呪文を複数入れられないという条件の相棒があった。点数で見たマナ・コストが0から10まですべてのカードをデッキに入れるという条件の相棒があった。《孤児護り、カヒーラ》は最初、10体以上のクリーチャーをデッキに入れるという条件だった。しかし、相棒の条件はデッキをプレイしていたら対戦相手にわかるものでなければならないと決定したので、これらはどれも途中でボツになった。例えば、対戦相手が3マナ以上のコストのカードをプレイしたらすぐにわかる。上記の条件はどれもこの条件に当てはまらなかったのだ。(ああ、《孤児護り、カヒーラ》は調整できた。)

Q: なぜ楔3色の中心色を、タルキールのときのままではなく敵対色に変えたんですか?

 楔3色の中心色は、敵対色であるのが自然である。(例えば、赤白黒では白。)他の2色それぞれと同じ関係性を持つ色なので、誰もが直感的に想像する。『タルキール覇王譚』でそうしなかったのは、単に、そうできなかったからである。各陣営は『タルキール覇王譚』では楔3色で、時間旅行のゴタゴタを経て、『タルキール龍紀伝』では友好2色になる。クリエイティブ的には、陣営は変化しているが中核的特徴は同じである。つまり、このブロックの第1セットから第3セットの間に陣営から消える色である敵対色を中心にすることはできなかったのだ。ちなみに、『タルキール龍紀伝』の陣営は最初敵対色だったが、楔3色のセットと敵対色のセットのドラフトは似通ったものになるので、変更しなければならなかったのである。

 イコリア次元では、タルキールのような制限はない新しい世界なので、楔3色の中心色を最も自然だと感じられる敵対色にした。楔3色の世界同士をさらに差別化するメカニズム的要素が存在するのはいいことだと考えられる。

Q: 単色の統率者デッキに相棒がないのはなぜですか?

 このセットに相棒は10枚しかいないので、それらがフォーマットの数を最大化するようにデザインしたのだ。ほとんどすべてのフォーマットで(リミテッド、構築とも)、混成カードは単色としてもプレイできるので、混成にすることで単色の相棒としても使えるようにした。混成マナが統率者戦(やブロール)では他のフォーマットと違う扱いをするという利点があるが、それには欠点もあり、これはその1つなのだ。単色サポートは、混成マナを通しても行われている。今回の場合、統率者戦は利益を得られないということになる。

Q: 混成マナが入ることになったのはなぜですか?

 混成マナは、デッキ内でメカニズムを使いやすくするための道具である。例えば相棒がどれも単色だったとしたら、混成マナである場合に比べて使えるデッキの数は半分程度になる。道具なので、混成マナは落葉樹として扱われる。つまり、必要があるセットでは使うことができるということである。

Q: このセットの主なメカニズム(カウンター、変容、相棒、サイクリング)が決まった順番はどうで、それはなぜですか?

 それらがこのセットに入った順番と、それらが作られた順番は異なっている。相棒とキーワード・カウンターは、展望デザインが始まる1か月前に開催された開発部ハッカソンの産物であり、クリーチャー・キーワードを最初にほのめかしたのは『アモンケット』のデザイン中、パンチ・カードがブースターで使われたときだという主張もできるだろう。このセットに最初に入ったメカニズムは、変容とキーワード・カウンターの2つ同時であった。最初は、変容はキーワード・カウンターを使っていたことを思い出してもらいたい。次は、相棒だった。相棒についてはハッカソンからずっと考えていて、そしてこのセットにふさわしいと思われたのだ。サイクリングは、このセットにふさわしく、そしてこのセットの需要の一部に応える再録メカニズムとして選ばれたものである。したがって、この4つのメカニズムの中で最後に『イコリア』に入ったことになる。

Q: 装備品がないのはなぜですか? アートやフィクションを考えると、武器や鎧、罠は怪物狩りで重要な部分ですよね。

 セット内の枠が足りなかったからである。もちろんフレイバー的に相応しいクールなものは他にも大量にあったが、それを入れる枠がなかったのだ。イコリアを再訪したときには、もしかしたらありえるかもしれない。

Q: 振り子は複雑さを増す方向に向けてどれぐらい揺れていますか?

 『イコリア』は、スタンダード・セットの中で可能な限り大きく複雑さの側に振れていると思われる。これは実験であり、もしかしたら振れすぎだと判断されるかもしれない。『イコリア』の複雑さについては、来週の記事で掘り下げる予定である。

時間切れ

 本日の回答はここまで。参加してくれたことに感謝しよう。いつもの通り、今日の各回答や『イコリア』そのものについての諸君の考えを聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『イコリア』の複雑さについて語る日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが多くの怪物とつながり、多くの怪物と戦い、あるいは多くの怪物から逃げますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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