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Making Magic -マジック開発秘話-
死の扉にて その1
2020年1月2日
『テーロス還魂記』プレビュー特集第1週にようこそ。今日は、このセットの展望デザイン・チームを紹介し、デザインを見ていき、そして(前回のテーロスにも存在した有名キャラクターの)クールで新しいプレビュー・カードを紹介しよう。楽しみにしてもらえれば幸いである。
チームをご紹介しよう!
私にとってギリシャ語のようにわけがわからないもの
ギリシャ神話を元にしたセットが最初に提案されたのは、私が1990年代なかばにウィザーズで働き始めたころに遡るはずだ。当時却下されたのは、マジックというものの大部分がギリシャ神話に基づくものだったので、充分刺激的なものにはならないと考えたからだった。興味深いことに、最終的にギリシャ神話風セットを作ることが認められたのは、我々がそうすることを選んだからではなく、また他の計画がうまく行かなかった時の代替案としてだった。説明しよう。
私はマジックのブロックについての素案を思いついた。第1セットは恐竜(これは『イクサラン』よりも何年も前の話だ)その他の先史時代の獣、そしてかなり進化の初期の人類(もちろんこれは地球で起こったことではないが、ファンタジー世界を創造しているのだ)でいっぱいの先史時代のセット。そして、第2セットは何千年も時間を進めて、人類は文明の中で道具を使っている。第1セットにいたクリーチャーの多くも、進化した形で存在している。そして第3セットはさらに何千年か時間を進めて、また同じクリーチャーたちがさらに進化している、(マジック標準の)現代世界に到るのだ。
このアイデアは7か年計画の中に取り入れられたが、実際に作る時期が近づくと、クリエイティブ・チームから、関連があるとはいえ1年に3つの実質的に別々の世界を作るリソースはないと言われた。それ以降、それだけの量の世界構築ができるようにクリエイティブ・チームを拡大してきたが、当時は単純に不可能だったのだ。当時のクリエイティブ・チームのリードであったブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuthは、何年もの間私と断続的に話し合ってきていた2つである、エンチャント・テーマを持つギリシャ神話風世界を提案してきた。その2つをどう組み合わせるかはわかっていなかったが、彼は私になら可能だと確信していたのだ。その結果生まれたのが『テーロス』だった。
『テーロス』のデザインについての当時の記事はこちら(他ならぬ『テーロス』その1、その2、その3)で読むことができるが、簡単にまとめるとこうだ。
いくらかの調査の結果、「神、英雄、怪物」と私が呼んでいる構造にたどり着いた。このセットのデザインに存在する3要素であり、それぞれがギリシャ神話の一面を担っていた。それぞれが、達成というテーマに向かっていた。どの道であれ、ゲームプレイ上、時を経て成長し、大きくて強力なクリーチャーや効果を生み出していくのだ。それぞれについて見ていこう。
神々
最終的に、エンチャント・テーマを神々の部分として、神々の影響や創造物を表すことにした。これはつまり、マジック史上初の(ああ、『未来予知』のミライイフト・カードは例外とする)クリーチャー・エンチャントなのだ。このセットには、授与という新メカニズムも存在していた。授与を持つカードは、オーラとしてでもクリーチャー・エンチャントとしてでも唱えられるのだ。もう1つ、信心というメカニズムもあって(詳しくは来週)、これは人々がその神々に持つ強い感情を表していた。このセットのこの一面に目を向けると、オーラをクリーチャーに唱えることでも、大きくなったり大きくて強いクリーチャーや効果を使ったりできるようにパーマネントを増やして信心を高めることでも、いずれにせよ成長することができるのだ。
英雄
英雄は、この世界の文明人を表している。英雄は、自軍のそのクリーチャーを対象としたときに効果を生成する、英雄的というメカニズムを持っていた。そのための方法の1つが、時とともに英雄を強化していくことができるようにオーラを唱えることである。英雄的クリーチャーの中には+1/+1カウンターで自分を強化するものもあるので、何度も対象にすることで自軍のクリーチャーを強化するという戦略も存在した。
怪物
ギリシャ神話風世界で、大量の怪物がいないわけがない。怪物は、ゲーム中に1度だけマナを使って大きく危険な姿に強化することができる怪物化という独自のメカニズムを持っていた。
『テーロス』は好評で、我々はいつか再訪することになるだろうと話し合っていた。プレインズウォーカーのエルズペスが関わる物語は、エルズペスがヘリオッド神に探索を命じられ、その任務を完了したところでヘリオッド神に殺された、という引きで終わりになっていた。テーロスには死の国があるので、エルズペスが死んでも消滅するわけではなく、死の国に囚われるだけである。再訪しなければならないもう1つの理由は、このエルズペスの物語が中途半端なままになっていたことだ。彼女に何が起こるのだろうか。
これらすべてを踏まえて、『テーロス還魂記』のデザインが始まった。
その裏側で
よい再訪のための鍵は、元のセットやブロックを成立させていた魂の部分を可能な限り再現したいところだが、その一方でなにか新しいことを試せる余地を空けておくことである。マジックは、結局のところ、現在進行系の進化し続けているゲームなので、再訪はそのかつての姿への郷愁と、その新しい姿への興奮の両方にしたいのだ。再訪は、既存の世界の上に組み立て、その姿をさらに拡張していく好機なのである。今日は、我々が追加した新しい要素について語り、来週は再録することに決めたものについて掘り下げていこう。
再訪の際の新しい要素を何にするかかなりの時間を掛けて探すこともあれば、銀の皿に載せてお膳立てされていることもある。今回の場合、我々は意図的に再訪を初代『テーロス』ブロックでした作業から組み立てていった。今回の再訪で焦点を当てることができるよう、意図的に死の国を描かないようにしていた。(少しだけはほのめかしたが。)このセットは、死の国だけが舞台ではないということを明記しておくべきだろう。それは要素の1つに過ぎないのだ。最初の『テーロス』ブロックで楽しんださまざまな要素を再訪できるよう、地上のテーロス世界も多く描いている。
展望デザイン・チームへの大きな質問は、当然死の国である焦点を当てる先が何なのかではなく、ではなく、それをどうメカニズム的に表すか、だった。いくつもの方法を試したが、突出していたのは彼岸/stygian(「スティックス河の」、つまり死の国に到るために渡らなければならない死の川の、という意味の英単語)と呼ばれたメカニズムだった。
彼岸の処理は次の通りだった。彼岸メカニズムを持つカードをプレイしたとき、ゲーム外から死の川を表す特別なカードを戦場に出す。その川の片側は生者の側だ。その時点で戦場に存在していたクリーチャーはそこに置かれる。その川の反対側は死者の側だ。生者の側のクリーチャーは生者の側のクリーチャーしかブロックできず、死者の側のクリーチャーは死者の側のクリーチャーしかブロックできない。マジックのカードでこれに最も近いのは、『アルファ版』の《Raging River》だ。
このメカニズムは何度も変更された。あるバージョンでは、クリーチャーはタップして生者の側と死者の側を移動できた。あるバージョンでは、戦場に出るときにどちらの側に出るか選ぶことができた。また別のバージョンでは、彼岸を持つクリーチャーだけが側を移動できた。さらに別のバージョンでは、生者の側で死亡したクリーチャーは死者の側に置かれた。このメカニズムには調整できるさまざまな方法があり、完全に詰めることができていないのはわかっていたが、それでも我々は心躍らせていたのだ。派手で、おかしく、独特のプレイスタイルを生み出していた。展望デザインがセットデザインに提出したのはこれだった。
その結果、これには多くの問題があった。プレイデザインが調べていくと、これは我々が望んでいたようにバランスを取れるものではなかった。デジタル・チームは、これがかなりの手間だと強調してきた。(彼らはしようとしたが、特定のデザインをデジタルに変換するのがどの程度難しいかを説明するのは彼らの仕事のうちなのだ。)セットデザインは、これがプレイ上よくない動機をもたらすと理解した。クリエイティブ・チームは、これは死の国の実際の動きと異なっていると懸念を示した。生者の側と死者の側を渡り歩くのは大きな任務であり、ゲームプレイ上で頻繁に起こることではないのだ。また、命あるものが死者の側にあるべきではなく、死者は生者の側にあるべきではない。全体として、誰もがこのメカニズムの派手さを好んだが、上手く成立しなかったのだ。
こうして、セットデザイン・チームは新しい死の国のメカニズムを探さなければならなくなった。先行デザインや展望デザインがしたことを繰り返すのではなく、彼らは他の質問をすることに決めた。我々が語る物語の中で、死の国はどう反映されているか。物語の主眼は、エルズペスが死の国から脱出することだった。死の国から脱出する話なので、死の国にそれほど焦点を当てないというのはどうだろうか。
それはつまり、どういうことになるのか。死の国を簡単に表す方法は、墓地である。テーロスでクリーチャーが死んだら、死の国に行く。ゲーム中でクリーチャーが死んだら、墓地に行く。墓地を死の国だとしたら、死の国から脱出するのは墓地から脱出することになる。セットデザイン・チームは、興味深いところに差し掛かっていると気がついた。
このことから、次の当然の疑問に繋がった。死の国から脱出するというのは何なのか。パーマネントだけに注目すれば、墓地から戦場に戻すことを意味する。あらゆるカードに注目すると、墓地から手札か、あるいはライブラリーの一番上に戻すということを意味する。直接戦場に戻すほうが芳醇で派手だが、もちろん強力な効果であり(つまりバランスを取りにくく)、パーマネントでないカードを放置することになる。
このことから、墓地からカードを唱えるというアイデアにつながった。こうすれば、パーマネントは戦場に出て、呪文はスタックに行くことになる。必要なコストは何だろうか。チームは最初マナだけから始めたが、それではいくつもの問題が生じた。1つ目に、呪文は基本的に単なるフラッシュバックであり、2つ目に、反復プレイの問題になった。このメカニズムで墓地から唱えた呪文を追放することにもできたが(完全にフラッシュバックになってしまう)、パーマネントに関してはその処理はずっと難しいことになる。戦場を離れたときに追放する、ということはできるが、それが何ターンも後に起こると、記憶の大問題を生み出してしまう。呪文やパーマネントが単に墓地に戻るなら、単にそれを何度も何度も唱えない理由はあるだろうか。
このことから、セットデザイン・チームは限りがある他のリソースを使う必要があるということに気づいた。立ち止まって考えれば、答えは簡単だった。脱出メカニズムは、墓地を死の国として扱うものである。それなら、墓地そのものをリソースとして使えばいいのだ。墓地からカードを追放することはフレイバー的で、カードを再利用する回数を制限する上でも素晴らしい働きをしてくれる。また、それによって呪文は複数回唱えられるので、フラッシュバックとは違うものになる。
チームはコストがカードを追放することだけというバージョンも試したが、それはこのメカニズムのバランスを取るためのつまみが存在しなかったのでカードの追放だけでなくマナもコストに加えられた。その後、チームはこのメカニズムをプレインズウォーカーも含むあらゆるカードに適用できると気がついた。
こうして、今日のプレビュー・カードに到ることになる。世界を再訪するにあたって楽しいことの1つが、既存の登場人物の新しいカードを作る機会ができることである。私のプレビュー・カードは、再登場させられることに私が心を躍らせた人気のテーロスの伝説のクリーチャーである。さらにクールなことに、このクリーチャーに脱出メカニズムをもたせる物語上の素敵な理由があったのだ。、それでは早速、この《鎖を解かれしもの、ポルクラノス》をご紹介しよう。
見ての通り、ポルクラノスは残念ながら死んだが、エルズペスで分かった通り、テーロスでは完全に最後というわけではないのだ。つまり、ポルクラノスに2色目が増えて、2つ目のクリーチャー・タイプが増えた。(《名誉あるハイドラ》による不朽は例外として、史上初のゾンビ・ハイドラだ)ポルクラノス・ファンの諸君が、この最新版を楽しんでくれれば幸いである。
また次回
本日はここまで。もちろん『テーロス還魂記』には多くの再録メカニズムがあり、それについては来週語ろう。いつもの通り、今日の記事や『テーロス還魂記』についての諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、その2でお会いしよう。
その日まで、あなたが何度も死の国から脱出するのに成功できますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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