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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『エルドレインの王権』

Mark Rosewater
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2019年10月14日

 

 伝統的に、新セットに関する諸君からの質問に答える一問一答記事を各セット1~2回書いている。今回は、『エルドレインの王権』について語ろう。

 私のツイートは次の通り。

 私はこれから『エルドレインの王権』に関する一問一答記事を書く。質問が1ツイートに収まるように、またツイート内の質問は1問にするようにして、『エルドレインの王権』に関する質問を送ってくれたまえ。よろしく。

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えようと思うが、以下のような理由によって答えられないこともある。

  • 文章量の都合で、答えられる質問の数には限界がある。
  • すでに同じ質問に答えている場合がある。最初に来た質問に答えるのが通例である。
  • 私が答えを知らない質問もあるし、正しく答える資格がないと思われる質問もある。
  • 将来のセットのプレビューになるなど、さまざまな理由で回答できない話題もある。

 それでは伝統に倣い、もっとも多かった質問から始めることにしよう。

Q: ファイルに入れようとしたけれども枠が足りなかった素材はありますか?

Q: 入れたいと考えていたけれども入らなかったりうまくできなかったりしたおとぎ話や逸話1つというと何ですか?

Q: このセットに入れる神話を選ぶ工程はどのようなものでしたか?

Q: *どうしても*入れたかったけれども最終的なセットには入れられなかったものはありますか?

 我々がカードにするおとぎ話やアーサー王伝説の素材をどのように選んだか、そして編集室の床に放置したものがあるかどうかに興味がある諸君は多かったようだ。その工法はこうだった。カードにできると考えたおとぎ話やアーサー王伝説の要素すべてについて文書にまとめた。何人ものチームメンバーが、それぞれ個別の話にあたり、使える可能性があるあらゆるものを書き出した。本当に多かった。

 例として、「ジャックと豆の木」の話1つだけを取り上げてみよう。カードの候補はこれだけあった。

  • 冒険好きな若者
  • 夫を亡くした母親
  • 交換された牛
  • 魔法の豆
  • ずるい商人
  • 疑わしい取引
  • 愚行への怒り
  • 投げられた豆(窓の外へ)
  • 朝の驚き
  • 豆の木
  • 豆の木を登って
  • 空のお城
  • 「フィー・ファイ・フォー・ファン!」
  • 豆の木の巨人
  • 巨人の妻
  • 眠りに落ちて
  • 盗んだ金
  • 豆の木での逃亡
  • 城への帰還
  • 金のガチョウ
  • 金の卵
  • 魔法の竪琴
  • 豆の木での追跡
  • 斧の取り出し
  • 豆の木の切り倒し
  • 巨人殺し

 もちろん、これらすべてをカードにすることはないだろうが、この物語は非常によく知られていて要素も非常に多いので、さまざまな選択肢があった。そこで、あらゆるおとぎ話やアーサー王伝説の物語から見つけられる限りのアイデアを集め、最終的にカードの候補を何百も列記したのだ。

 それから、可能な限りのトップダウンのデザインを始めた。ボトムアップのセットでの展望デザインでは、初期には構造に注目することが多いが、トップダウンのセットでは、個別のカード・デザインを大量に作り、どのようなメカニズム的方向性が志向されているのかを探るのだ。これほど豊富な量があったので(以前言ったとおり、『アモンケット』ではエジプト風の素材集めに数週間かけてほんの数十個しか見つからず、その多くは世界観にそぐわなかった)、中でも芳醇なものに集中することができた。アーサー王伝説は奥深いものなので、特徴的な素材をすぐに見つけることができた。それと対照的に、芳醇で特徴的なおとぎ話の素材は何日もかかった。

 先に列記したものを例に取ってみよう。ジャック、牛、巨人、商人、魔法の豆、金の卵、金のガチョウ、これらはセットに入ったが、それ以外にも夫を亡くした母親、(アーティファクトとしての)魔法の豆、疑わしい取引、「フィー・ファイ・フォー・ファン!」、魔法の竪琴、豆の木の切り倒し(他にも忘れているものがあるかも)はデザインしたのだ。最高のものだけが生き残るということを理解した上で、我々は多くのカードをデザインした。ここで、作ったがセットに採用されなかったおとぎ話カードはあるか、という問いに答えよう。あった。大量にあった。実際、リストの大部分をカードとしてデザインしたので、諸君がおとぎ話やアーサー王伝説の素材を何か1つ選んだなら、それを元にしたカードはおそらくデザインされていただろう。

 私の助けになったのは、セットに入れるには間違いなく多すぎる素材がある、ということがわかっていたことである。枠を埋めていくことになる世界構造は大量にあった。プレビュー記事で使ったケーキの例えを使うなら、おとぎ話を素材としたカードは砂糖飾りであり、つまりこのセットに入れられる数には限りがある。ケーキに乗せられる砂糖飾りは有限なのだ。しかし、私はエルドレインを信じていた。諸君がエルドレインを愛してくれて、いずれ再訪することになる。つまり、裂け目に消えてしまったこれらのさまざまなカードが将来日の目を見ることがあるに違いないと。

 しかし実際、もし印刷されていないのがおかしいと諸君が思うようなカードがあったとしたら、そのカードを我々はどこかでデザインしている可能性が高い。魔法の豆がカードにならなかったのは残念だった。(それはちょっとしたタップ効果を持っており、生け贄に捧げていくらかのマナを支払うと防衛を持つ緑の0/6の豆の木・クリーチャー・トークンを作ったのだ。)


Q: このセットには、無名のおとぎ話からの「深い仕込み」が『テーロス』や『アモンケット』に比べて多くないように思います。その原因は何だと思われますか?

 理由は2つある。

 1つ目に、このセットに深い仕込みは存在している。例えば、ほとんどの人は《パイ包み》は童謡由来だと思っているが、そうではない。我々は童謡をもとにはしていない。あのカードは、邪悪な継母が継子を殺して料理してしまうという話を元にしている。また、多くのプレイヤーにとって、アーサー王伝説を元にしたものの多くは深い仕込みである。

 2つ目に、上述の通り、よく知られた芳醇な物語要素が大量にあるので、あまり知られていない題材を掘り下げる必要はそれほどなかった。


Q: 『イニストラード』はテーマや素材を連想させ、『テーロス』は物語や神話の要素を連想させました。一方『エルドレインの王権』は、全体として特定の物語を調整しただけのものを連想させています。これはトップダウン・セットに関する幅を広げただけですか、それともおとぎ話という課題特有の解決策なんでしょうか?

 この世界の大規模なメカニズム的構造は、このセットのアーサー王伝説の面に立脚している。宮廷があるために単色テーマを扱うことができて、騎士や非人間部族要素を作ることができて、そしてアーティファクトやエンチャントに注目することができているのだ。おとぎ話の面を扱っていて気づいたのが、それらは非常に部品的性質を持っているということであった。おとぎ話では、同じ要素(糸車、大きくて悪い狼、端正な王子様、などなど)が何度も使われていることがあるので、プレイヤーが知っている話を再構築したり(《魔法の眠り》に落ちた《敬愛される王女》を《真実の愛の口づけ》で目覚めさせる)、おかしな新しい組み合わせを作ったり(《ジンジャーブルート》と《亜麻色の侵入者》が《魔法の馬車》に乗り込む)と、後で組み合わせることができるように部品をデザインすることができた。

 プレイヤーが馴染みのある要素を使って自分自身の物語を作ることができるということは、最終的に、このセットのおとぎ話部分を作り上げる上でメカニズム的中核になったのだ。我々は意図的に、部品を上手く組み合わせられるよう、自由度の高いものにした。つまり、トップダウン・デザインの方法が変わったわけではなく、この特定のトップダウン・デザインがうまくいくようにしただけのことである。


Q: あまりにも残酷すぎるという理由で除外したおとぎ話はありますか?

 非常に残酷なもの(そしてグリムらしいもの)は、知名度が低い。有名なおとぎ話というのは、長年に渡って全年齢向けに調整されていくことができるものであり、雰囲気面でいじる余地が充分にあるものなのだ。『エルドレインの王権』には暗い要素がいくらかあるが、マジックの通常の雰囲気を超えるものはない。もう1つ指摘しておくべき点として、おとぎ話は西洋の口承文学に深く織り込まれているので、それぞれの物語を表す方法には広い幅がある。ユーザーはさまざまな雰囲気でおとぎ話を知っているものなので、非常に明るいものから非常に暗いものまであらゆる選択肢があったのだ。


Q: 人々がおとぎ話由来だと*思い込んでいる*ものを元にしたものはありますか?(テーロスのクラーケンのように)

 トップダウン・デザインをする上での自明の理として、ユーザーはこちらが想像するようには素材についての情報を得られない、ということがある。トップダウン・デザインをするために多大な調査をするが、それはつまりそのもととなる素材をほとんどのユーザーよりもはるかに深く掘り下げているということを意味する。結果として、うまく当たるだろうと思ったカードが、元ネタがわかりにくかったりユーザーが知らないものをもとにしていたりという理由で、プレイヤーにスルーされることはよくあるのだ。

 これが何度も起こっているので、今は、デザイン中にそのカードを見たことがない内部の人間に、何を素材としたものかわかるかどうか試してもらうことが多くなっている。アーサー王伝説の素材も通常と同じく、試してもらった人々に気づかれないものが多かった。一方、おとぎ話のほうは全く違っていた。試してもらった人のほとんどは、ほとんどのカードが何を素材にしているかわかったのだ。おとぎ話は全年齢のポップカルチャーに深く染み込んでおり、よく知られているということである。これらすべての理由から、プレイヤーは何が実際におとぎ話由来かをよく把握できることが多いのだ。

 この例外として、時折、ポップカルチャーでおとぎ話を扱う人々は、有名なおとぎ話を作るときにあまり知られていない他のおとぎ話から借りていることがある。例えば、ガラスの棺は諸君の殆どが知らないであろう「ガラスの棺」というグリムのおとぎ話由来だが(つまり、これも知っている諸君にとっては深い仕込みの1つである)、ウォルト・ディズニーがこれを白雪姫に転用したので、今は多くの人がこれを元の物語よりも白雪姫に関連したものだと考えるようになっている。


Q: 《ジンジャーブルート》がちょうど「これは馬鹿げすぎているか」という境界線上にあるカード・アイデアだという話を簡潔にしていただきました。その線を大きく踏み越えていたカード・アイデアの例を教えてくれませんか?

 長靴を履いた猫の話をしよう。ハイ・ファンタジーとおとぎ話のマッシュアップをしていたので、猫の剣士というのはまさにうってつけだと思われた。そして、展望デザインの初期に、彼のカードを作ったのだ。クリエイティブ・チームがそのカードを見て、少しばかり疑問を持った。そして、こんな話し合いが持たれたのだ(いつもどおりドラマ仕立てだ)。

彼ら:長靴を履いた猫の外見をどうイメージしていますか?

:剣士の格好をした猫だ。

彼ら:つまり、服を着ていると?

:ああ、長靴を履いた猫だからね。最低でも長靴は履いていないと。

彼ら:そして喋るんですか?

:そうだ。素晴らしいフレイバー・テキストができるだろう。

彼ら:そして剣で戦うんですか?

:もちろん。彼は剣の名手なんだ。

彼ら(しかめっ面で):うーん……。

 デザインの工程中ずっと、我々は世界観にそぐうおとぎ話とそぐわないおとぎ話の間の線をどこに引くべきかという話をしていた。長靴を履いた猫は、その境界線を越えていると思うとクリエイティブ・チームから言われた初めてのカードだった。(《ジンジャーブルート》は「境界線上」で、踏み越えているかどうかははっきりしなかった。)彼らは、喋る動物を強く拒絶したのだ。人間が話しかけたときに理解する程度の主体性を持つ動物は問題なくても、実際に会話できるとなると彼らが構築している世界の雰囲気に反すると感じたのである。

 それなら、喋ることはないが長靴を履いている猫というのはどうだろうか。剣士じゃなく通常の猫で、ただ誰かがあつらえてくれた猫用のかわいい小さな長靴を履かせただけの猫だ。彼らは動物を擬人化するのをひどく嫌っていたので、服を着るのはボツになった。

 それなら、レオニンの剣士はどうか。動物の猫ではなく、猫型の人類だ。世界構築チームは動物型の人類について話し合ったが、それも彼らの作っている世界の雰囲気とは反すると感じた。神話の生物の多くについては問題なかったが、動物型人類の問題を避け、動物は通常の動物にすることにしたのだ。

 展望デザインをする上で、重要な技術がいくつも存在する。あまり話題にしないものの1つが、譲歩の重要性だ。例えば、私はアーロンにトップダウンのおとぎ話要素とアーサー王伝説風の世界を組み合わせることを納得させた人物である。デザインの開始時に、クリエイティブ・チームはそのマッシュアップに同意していたが、おとぎ話要素が彼らが信用するアーサー王伝説要素に何をするか少し不安があった。そこで、私は、全員が満足できるものを作るために彼らと協力する必要があった。他のクールな要素の多くで同意していたので、私は、擬人化した動物の問題について譲る必要があるということがわかっていたのだ。世界構築において適正な雰囲気を掴むことは重要であり、どの要素が調和してどの要素が調和しないのかということに関する理解についての彼らの専門性を私は信頼していた。長靴を履いた猫は作れなかったが、うまく行っていれば、おかし男は作れたと言えるだろう。


Q: エルドレインで2つのセットを作ることは検討しましたか?

 かなり初期の計画では、エルドレインを舞台に2セット続けることも検討したが、直前が単一の次元を舞台にした3セット連続ものだったことと、はやくテーロスに戻りたかったことから、エルドレインを舞台にしたセットは1つにすることにした。プレイヤーがエルドレイン次元を楽しんでいたなら(そしてデータがそれを示していたなら)、私は、再訪を強く主張しよう。


Q: ローアン・ケンリスやこのセットにいる他のプレインズウォーカーが次のセットに旅して話をつなげますか、それとも、あの『灯争大戦』が次元そのものを意識する余地もあまりないような壮大な網だったように、しばらくはそれぞれの次元で独立して物語が起こりますか?

 緊密に繋がりあった3年間の物語のあとなので、ギアを少し変えて短い物語をいくつか紡ぐことにした。とはいえ、マジックの物語には常に繋がりが存在する。『エルドレインの王権』のプレインズウォーカーを見かけることもあるだろうし、この物語の中で起こったことの中には将来の物語に影響を及ぼすものもあるのだ。


Q: エルドレインはローウィンの落ち着いた再起動として意図されていましたか? ローウィンは私のお気に入りの次元で、その理由は種族と役職の部族メカニズムが大きいです。私はこの次元を楽しみたいんですが、似ているので不安になります。

 私は、ローウィン/シャドウムーアとエルドレインは全く違う2つの次元だと確信している。人々がそれらを関連付けて見ているののは、単に、ローウィンが発売当時マジック史上最も「おとぎ話」に近い次元だったからというだけだろう。いくつかの馴染みのある要素(フェアリー、巨人、エルフなど)と明るい雰囲気の組み合わせはマジックの可能性を示してくれた。実際、ローウィンは、私がおとぎ話のセットをやりたいと思っていることに気づかせてくれたものではあるが、その大きな理由となっているのが、ローウィンはおとぎ話のセットではなかったことである。何かを示してくれたが、それはその何かではなかったのだ。『ローウィン』はトップダウンのセットではなく、素材に合うようにカードをデザインしたものではなく、そしておとぎ話次元に必要な大きなものが2つ欠けていた。1)人間。人間が中心的役割を果たさない人気のおとぎ話は存在しない。2)構造化社会。おとぎ話には王国や宮廷や王や女王や王子や姫が必要で、おとぎ話をつなぎまとめる鍵は中世感である。

 対照的に、ローウィン/シャドウムーアはその2つの状態を基柱としたボトムアップの次元だ。光の世界と闇の世界を行ったり来たり変化する次元なのだ。ローウィンの特徴は、その2つの状態の間で変動していることであり、再訪するならメカニズム的にその部分を扱うことになるだろう。それにもまして、ローウィンはその特徴として部族と混成の要素が中核にあり、どちらも本質的にメカニズムのものだ。

 つまり、あらゆる意味において、私はエルドレインをローウィン/シャドウムーアの落ち着いた再起動だとは考えていない。たしかに重なる部分は少しあるが、同じようにエルドレインとイニストラードの間にも重なりはある。(実際のところ、私はそちらのほうが大きいと思っている。そしていずれ間違いなくイニストラードを再訪すると確信しているのだ。)ローウィン/シャドウムーアへの再訪の難しいところは、ユーザーが最初にその次元が登場したときにどういう反応を示したかということであり、エルドレインがその領域を侵したということではない。


Q: デザイン中に実際のジンジャーブレッドはどれぐらい食べましたか? おとぎ話の登場人物の中でお気に入りは誰ですか?

 興味深いことに、私が最も強く印刷すべきと主張したのはおかし男だったと思う。これはおそらく、それが『エルドレインの王権』を少し馬鹿げたものにしたいという意志を表していたからだろう。さておき、私はジンジャーブレッドは好きではない。『エルドレインの王権』の告知動画を撮影しに行ったとき、シンシア・シェパード/Cynthia Sheppard(このセットのアート・ディレクターでリード・世界デザイナー)は支柱として使っていたジンジャーブレッド・クッキーを食べたがった。しかし私はそれよりも、2020年のセットのエキスパンション・シンボルを描いたシュガークッキーを食べることのほうにずっと興味があったのだ。撮影終了後、私は『テーロス還魂記』のクッキーを食べたが、美味しかった。

まとめ

 今日の質疑応答はここまでだが、来週もさらなる質問にお答えしよう。いつもの通り、今日の記事や私の回答、あるいは『エルドレインの王権』そのものについて、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、さらなる回答をする日にお会いしよう。

 その日まで、私にとって『テーロス還魂記』のクッキーが美味しかったのと同じように、『エルドレインの王権』が諸君にとって美味しいと感じられるものでありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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