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Making Magic -マジック開発秘話-
ゲームデザインでダイバーシティが重要な理由
2019年8月19日
表題を読んでわかってもらえたかもしれないが、今日は多様性、ダイバーシティについての話をする。この記事の重点は、一般にダイバーシティが良いものである理由ではなく(実際そうだが、それは今日の話題ではない)、ゲームがダイバーシティを持つことがゲームデザインのために良い理由を説明することにある。そのため、2016年のゲーム・デベロッパー・カンファレンスで最高評価を得た「20の年、20の教訓」に立ち返ろう。(記事その1、その2、その3、動画(英語)、ポッドキャスト(英語)とさまざまな形式で見ることができる。)
なぜダイバーシティが必要なのかの話をする前に、まずここで言うダイバーシティとは何かを定義しておこう。ダイバーシティとは、この世界に存在する、(人種、民族、性別、性自認、性的指向、社会経済的地位、年齢、肉体的能力、障害/健常性、神経多様性、宗教的/霊的信仰、政治信条など)さまざまな個人を意識して認識し、そしてそれらの違いを表現を通じて伝えようとすることである。一言で言えば、作るゲームがこの世界に存在するあらゆる種類の人々を反映したものであるようにすることだと言える。
そのゲームをプレイヤーが私的なものにすることができるようにする
この節は、プレイヤーがそのゲームと個人的なつながりを持てるよう、ゲームに語りかけられていると感じるようにすることの重要性についてのものである。そのゲームの中の何かが個人的なレベルで語りかけてきていれば、それと感情的なつながりを築くことは大いに多くなるだろうし、また、私がよく語っているように、人間の判断はほとんどの場合感情的刺激への反応を中心にするものなので、ゲームをそのプレイヤーに感情のレベルで語りかけるようなものにすることはプレイを始める動機だけでなく、プレイし続ける習慣を大きく強めてくれるのだ。
また、人間は安心を求めるものだという話も何度もしてきた。それはつまり、馴染みのあるものを続けたいという強い欲求が人々の本能のレベルで存在するということである。生物学的観点から言うと、これは、馴染みのない果物を食べれば死ぬかもしれなかった創成期に、脳が馴染みのあるものを優先するように学んだのだ。これの類例に、自分に似たものを優先するなどの、自分が育った環境と似たものに親近感を覚えるというものがある。これは、自分が描写されているのを見たときの脳内での生理的反応に過ぎない。安心を感じるのだ。
そこで、我々はプレイヤーにそのゲームへの個人的つながりを作れるようにしたいと考える。人間の脳は自身と同じように見えるものを見た時にそう働くので、ゲームデザイナーとして、どのプレイヤーも自分自身をゲーム内に見出す可能性があるようにしたいのは明らかである。それによって、プレイを始め、プレイを続けてくれるようになる感情的つながりを作ることができるようになるのだ。
《テフェリーの防御》 アート:Chase Stone |
誰もがそのゲームを好きでも、誰も愛してくれなければ失敗する
この節では、ゲームデザインにおける成功の鍵はそのゲームにすべてのプレイヤーにとって情熱の対象となる何かがあるようにすることだ(ただし全員が同じものに情熱を向ける必要はない)ということを説明する。成功は、すべてのプレイヤーがそのゲームの何かを愛するようにすることから生じるものであり、誰もそのゲームの何も嫌わないようにすることに注力しても得られない。これがどうダイバーシティと関わるのか疑問かもしれないが、極めて大きく関わっているのである。
誰もが何かを愛するようにするための技法は、提供するものを広くすることである。例えば、マジックをデザインするときに、存在するあらゆる種類のプレイヤーのことを考えているという話を何度もしてきた。ドラフト・プレイヤー、スタンダード・プレイヤー、統率者戦プレイヤー、モダン・プレイヤー、ヴィンテージ・プレイヤー、パウパー・プレイヤー、その他さまざまなフォーマットのプレイヤーがいる。2人戦に注力しているプレイヤーもいれば、多人数戦に注力しているプレイヤーもいる。ティミー(タミー)も、ジョニー(ジェニー)も、スパイクもいる。マジックのフレイバーを追い求めるヴォーソスも、メカニズムの職人芸を目指すメルもいる。コレクターやトレーダーもいる。コスプレイヤーもいる。ポッドキャストや動画やブログや記事を通してマジックを体験したりマジックについて描写したりする人もいる。そして、セットを作るとき、必ずこれらのさまざまなプレイヤーが存在することを意識しなければならない。それぞれのプレイヤーの求めに応じたものを提供するようにすることで、これらのプレイヤーが何かを愛するようになるようにしているのだ。
ここで、そうしなかった場合のことを考えてみよう。作るセットがどれも、スパイクのドラフト・プレイヤーだけに向けたものだったとしたら。他のフォーマット向けのカードを作ろうとはしない。多人数戦のことは配慮しない。他の心理学的分類のことは配慮しない。世界のデザインに必要以上の労力を注いだり、小洒落たメカニズムを作るために超尽力したりしない。そのゲームは、マジックという体験の中のほんのわずかな欠片だけのものだ。それはどんなものだろうか。
スパイクのドラフト・プレイヤーにとっては、それは素晴らしいものだ。どのセットも、どのカードも、どのテーマも、どのメカニズムも、どの選択も、可能な限り彼らを満足させられるように作られている。しかし、それ以外のすべての人は彼らほどの満足はしないだろう。他のフォーマットも存在はするだろう。作られたものを使ってできるかぎりのことはするだろうが、それは最適なものとはとても言えない。例えば、統率者戦プレイヤーが新しい統率者を手に入れるためには、伝説のクリーチャーをドラフトすることを中心としたセットが作られるまで何年も待たなければならないかもしれない。一部の人をマジックに引き込む要素や、一部の人が愛するマジックの中の要素が存在しないので、プレイ人口も減るだろう。プレイする人も、少なくともスパイクのドラフト・プレイヤー以外は、魅力的な新要素が少なくなるのでプレイを続ける時間は減ると考えられる。全体として、マジックは低下していくことになるだろう。
スパイクのドラフト・プレイヤーを満足させるのは、セットの100%よりはるかに少ない量で可能だ。彼らの満足度を最大にするためにすべてのカードを作るのは、他の種類のプレイヤーを満足させることを難しくするだけでなく、どこかの地点からは彼らの満足度を高めなくなるのだ。さまざまなマジック・プレイヤーのタイプごとに、マジックに関してそれぞれが愛するものに注目したカード群があれば、それぞれが満足する。気に入らないものであれば、それを使わない。彼らは、気に入ったものに注目するだろう。
さて、それではここでマジックのプレイヤーのタイプを、人間のタイプに置き換えてみよう。マジックのすべてのカードをある種の人間のためにデザインするのは、マジックをある種のプレイヤーのためにデザインするのと同じ誤りなのだ。ゲームを、(ほぼ)単一の購買層のために作るのは、そのゲームが得る可能性がある利点を生かさないことである。それはデザインを小分けにし、多くのプレイヤーに届かせる可能性を引き下げているのだ。
プレイヤーがゲームで魅了されるところは細部である
特定的に語りかけてくる要素を見つけることでプレイヤーはゲームと感情的につながりやすくなることから、この節では細部の重要性について語る。その要素は大きいものである必要はなく、単にそのプレイヤーがつながれる何かなのだ。実際、最も強いつながりを作り出すことができるものは、自分だけが興味を持ったと思えるような、自分が発見したと感じられる非常にわずかな細部であることが多い。
このことから、社会的アイデンティティと異質感という概念が導かれる。ある社会において、グループは社会的構造の一部として形作られるが、そのグループが自身を普通だと定義づけるような権力側(多数派であることが多い)であれば、それ以外のグループの一員は、定義上、外部者となる。所属しないと常に感じるようになるので、それ以外であることは簡単ではない。この概念に馴染みがない諸君は、自分と似た人よりも自分と似ていない人のほうが多いグループで明白にマイノリティであったときのことを思い出してくれたまえ。よくあるこの状況として、他の国への少人数での旅行がある。その国の文化が自分の母国の文化と違っていれば違っているほど、その異質感は強くなる。明らかに「所属していない」、外部者だという感覚の明白さを思い出してくれたまえ。
私はストレートで白人でシスな男性なので、「以外」であることは多くないが、宗教という1つの点についてはそうである。私はユダヤ教徒だ。宗教は目で見てはっきりと区別できる要素ではないので、多くの「以外」に比べると少し簡単に混じりいることができる。しかし、誰もがキリスト教徒だということが前提にされていて、私は存在しないものとして扱われた経験は何度もある。そのことから、常々異質感を感じている人々の経験に比べれば当然ほんのわずかなものではあるが、「以外」として生きるということについてのちょっとした洞察を得た。
異質感という概念を理解するのが重要なのは、所属しているという感覚は日常の中で失うことがなければ当たり前のものだと思ってしまうからである。異質感の副次効果の1つは、娯楽などの中にあるものの中で自身が反映されたものを見ることはめったにないことである。そのため、それが起こったなら、理想的にはすでにいくらかのつながりを持つその形の娯楽の中で存在が受け入れられたと感じ、非常に強い感情的繋がりを作ることがありうるのだ。
これらの話をしているのは、ゲームデザイナーは細部によって、幅広い人生経験に思い当たらせることができるようになるからである。例えば、あるプレイヤーが私に、彼自身の家族と同じなのでチャンドラが混血した家系であるということが重要なのだと伝えてきたことがある。このちょっとしたことは多くのプレイヤーには軽く扱われるかもしれないが、そのプレイヤーがマジックとつながったと感じた決定的瞬間だったのだ。それがそのプレイヤーの異質感を溶かし、マジックと結びつけたのである。
細部に時間と労力を費やすことの裏にあるポイントはプレイヤーとの感情的なつながりを強くすることなので、ダイバーシティをそのための道具として使うことで大きな利益を得ることができるのだ。
プレイヤーに所有感を持たせることができる
この節では、カスタマイズの重要性について語る。プレイヤーをゲームとのつながらせるための重要な道具が、プレイヤーにゲームを個人的なものにするための道具を与えることである。プレイヤーは、創造に参加したゲームには簡単に、速く、そして完全に、つながるものなのだ。つまり、プレイヤーにプレイの仕方の選択肢を与えるような方法でゲームをデザインするべきだということになる。これは同時に、プレイヤーに自分自身に関するものを表現する方法を与えるということにもなるのだ。
ここまで、ダイバーシティをプレイヤーにゲームとの感情的なつながりを作らせるための助けとしてどのように使えるかという話をしてきた。この節では、プレイヤーが自身の独自性をゲームに編み入れるための方法としてダイバーシティをどのように用いることができるかについて語っていく。これによって、ゲームは世界に対してプレイヤーが自分が何者であるかを表現するもう1つの手段になりうるのだ。
この最高の例が、《死に微笑むもの、アリーシャ》である。アリーシャはマジック史上初の、公然トランスのキャラクターである。(彼女についての短い物語をこちらで読むことができる。)彼女に関して受け取った手紙や投稿やメールは数え切れないほどあり、その多くではアリーシャ・デッキを作った方法と、プレイできるキャラクターとして存在することの開放感について語っていた。このことは常々話題になる。何かを参照するのは、ゲームにおいて意味を持つものだ。しかし、それをその要素と繋がりたいプレイヤーが、それをただ自分が何者であるかを示すために使えるだけでなく、それとの相互作用をすることができるようなゲームの要素にすれば、さらに魅力的なものになるのだ。
ダイバーシティは特定のプレイヤーを力づけ、単なるゲームを超えてプレイヤーのアイデンティティの一部になるようなゲームにすることができる。これは、ゲームが可能な限り一個人と近づくことであり、そのプレイヤーを一生涯のファンにする助けになるのだ。
意図したユーザーのための要素をデザインせよ
この節では、あまりにも多くのユーザーを満足させようとしてデザインすることの危険について語る。最高のゲームデザインをするためには、各要素の対象となるユーザーがどんな層かを理解し、それからその要素をそのユーザーに向けて最大化しなければならない。また、このアイデアには、対象外のユーザーがその要素を嫌っても問題ないということも含まれている。その要素は、そのユーザーのために作られたものではないのだ。(ここで一言、もしその要素が、他のグループを積極的に傷つける、例えば悪い面を強調するようなものであれば、それは問題である。誰かを積極的に中傷することによってあるグループを満足させることはすべきではない。)
この節がダイバーシティの重要性を理解するための鍵である理由は、権力を持つグループに属する人々は描写の比率が高くなるものだからである。他の人々を描くことができるようにその描写を減らすことは、そのグループの描写が減らされたことによる批判を招くことがある。彼らは、現状を基本線だと思っているのだ。その基本線を引き下げることは、彼らから何かを取り去ったことになり、攻撃として受け取られることがある。
私はそれへの反論として、ゲームはプレイしている中で最も多数派のグループだけでなく全員の需要に応えるものでなければならないと言おう。例えば、統率者戦というフォーマットは長い間存在していなかった。そのためそれを意識してデザインすることはなかったが、そのフォーマットに意識を向け始めたとき、我々はそれをデザインに組み入れ始めた。(それどころか、明確にそのフォーマット向けの商品も作った。)そうすることで我々は統率者戦の認知を高め、そのことがそのフォーマットをプレイするプレイヤーの増加を招いたのだ。
これと同じことが、特定の客層向けにデザインすればそのグループはそのゲームを快適だと感じ、その結果としてそのグループのプレイヤーを増やす働きを持つことになる。例えば、数年前に我々は意図的に、アートに描かれるマジック世界の性別を現実世界に合わせる(つまり半々にする)という決定をした。この、マジック内での性別の描写を現実的にしたことで(そして、女性の役割の多様性の幅によって)、マジックをプレイする女性が増えることになった。
この節では、ゲームデザイナーとして、単に誰がそのゲームをしているかを観察し続けるだけでなく、誰がそのゲームをプレイする可能性があるかを観察しなければならないということを語っている。成長の鍵は、新しいユーザーを招くような要素をデザインできるようにすることである。ゲーム全体を見て、ユーザーの各グループそれぞれに向けてデザインされた要素があるようにすることがそのための手法となる。すべての要素が全員のためでなければならない、特に多数派のためのものでなくてはならないという思い込みの罠にはまらないように。
プレイヤーに挑むことよりもプレイヤーを飽きさせることを恐れよ
この節では、プレイヤーはいつもと同じものを単に作るのに比べて新しいことに挑戦することのほうをずっと許容してくれるという、ゲームデザインにおいてリスクを取ることの重要性について語る。これがダイバーシティの議論において重要なのは、ダイバーシティへの最もよくある反論の1つが、変更する必要はないというものだからである。いわく、長い間この方法でやってきている。同じままに保とうじゃないか。
それは、ゲームデザインの感覚から言って、破滅するための特効薬である。例えば、私や他の誰かがマジックで可能なことの限界を押し広げようとすれば、揺り戻しがあるものである。ゲーム・サポート・チームは、当時のCEOに『アライアンス』の「ピッチ」カード(《意志の力》などの、同じ色のカードを捨てることでマナ・コストを支払わずに唱えることができるカード)を印刷しないでくれという手紙を書いていた。リード・デベロッパーは『インベイジョン』の最初の会議で、分割カードをボツにしようとした。混成マナ、両面カード、土地をテーマとしたセット、ギルドのブロック、フルアート土地、おとぎ話のセット……マジックの偉大な革新の多くには抵抗があったのだ。
ゲームに拡張性を認めるという中には、限界やダイバーシティを押し広げ、新しい利益をもたらすようにするという意識が含まれるのだ。ここまで、ダイバーシティがそこで描写されている人々のために何をするのかという話をしてきた。ここで、それ以外の人にとって何をするのかという話をしておこう。ゲームに多様性をもたらす。独特のものだと感じさせるようになる。新しいものと古いものの違いを感じさせる助けとなる。また、プレイヤーが本当に楽しむものに触れさせることができるようになる。人間は自分自身がその娯楽の中に描写されているのを見るのが好きだが、他社が描写されていることにも非常に自由なものなのだ。もしかすると、それぞれの人生の中の誰か他の人物を思い出すかもしれない。それによって、気づいていなかったことについて学ぶことにつながるかもしれない。新しい見方で物事を見ることができるようになることで、楽しむことができることだろう。ダイバーシティは単に人々が自分たち自身を見ることができるようにするだけでなく、他の人々も彼らを見ることができるようにするものなのだ。
多いことはいいことだ
見ての通り、ダイバーシティはゲームデザイナーにとって強力な道具である。プレイヤーがゲームとつながり、どう接するかを変える助けとなる。新しいプレイヤーをゲームに招く、成長の助けにもなる。ゲームを新しい方向に押し、新鮮なものに保つ助けともなる。一言でいうと、ダイバーシティをゲームに取り込むことで、ゲームはさらに良くなるのだ。
今日の記事はダイバーシティについての新たな見方を扱っていたものなので、楽しんでもらえていれば幸いである。いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、毎年恒例のデザイン演説でお会いしよう。
その日まで、あなたのプロジェクトにダイバーシティを加える方法が見つかりますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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