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Making Magic -マジック開発秘話-
モダン・タイムス
2019年6月10日
セットごとに、私は、カード数枚を取り上げ、それらのデザインについての話をしている。『モダンホライゾン』は、目をみはるようなデザインの話でいっぱいのセットだ。その話をできる時間は1週しかない(来週には『基本セット2020』のプレビューが始まるのだ)ので、大量の話を何とか1本の記事に詰め込もうと思う。シートベルト着用のこと!
《熊の女王、アイユーラ》
イーサン・フライシャー/Ethan Fleischer(このセットの共同リード・デザイナー)は、熊が大好きだ。彼は熊テーマの統率者戦デッキを持っており、常々新しいクールな熊や熊テーマの部族カードを探している。(彼がリード・セット・デザイナーを務めた)『基本セット2019』では、彼は史上初の伝説の熊、《カル・シスマの恐怖、殺し爪》をねじ込むことに成功した。しかし、あのカードは大型クリーチャーを助けることが主であり、特に熊を助けるものではなかったので、イーサンは熊部族をテーマにした統率者を作ることを狙い続けていたのだ。郷愁という全体のテーマと多相という部族の接着剤から、『モダンホライゾン』はそれを投入するのに完璧なセットだったのだ。
ある日、イーサンは展望デザインの会議に現れ、そして「今日は熊部族の統率者を作ろう」と言ったのだ。そのデザインの最大の課題は、熊が決して強くない部族であるということだった。つまり、熊の統率者は大量の大したことのない2/2クリーチャー群を強力なクリーチャーにする助けにならなければならないのだ。ブレインストーミングの結果、我々は熊を唱えるたびに何らかの効果が誘発するようにするというアイデアが気に入った。熊1体を対象としてそれに+1/+1カウンターを2個置くというのは、熊を大きく恐ろしいものにするのでクールだと思った。もちろん、今戦場に出たばかりの熊にカウンターを置くことを選ぶことは必ずできる。熊を他のクリーチャーと格闘させることも、非常にフレイバーに富んでいるのでクールだと感じられた。我々はこの2つの効果のどちらかを選ぶのではなく(結局のところレアなので)、シナジーがあると感じられるそれら両方を含むことにした。熊を充分大きくなるまで育ててから、格闘させるのだ。セットデザイン中に施された唯一の調整は、チームが熊・トークンを生成するカードを何枚も増やしたことを受けて、熊・トークンの生成でも誘発するようにするため、誘発条件を熊が自分のコントロール下で戦場に出たことにしたことだった。
スリヴァー
ある展望デザインの会議で、我々はスリヴァーに焦点を当てることを決めた。スリヴァーは、その再録を求めるファンの声が強く、郷愁のセットのための素晴らしい選択だったこと、スリヴァーを作る上で一番難しい部分はそれらに持たせる能力を十分な量見つけることなので大量のメカニズムを使えるセットは理想的であること、そしてこのセットの原動力になったのは「時のらせん2」であり、スリヴァーは『時のらせん』ブロックの特徴的な部分だったこと、この3つの理由から、このセットにスリヴァーを入れたいのは以前から決めていた。
その会議は、スリヴァーに持たせるものとして安全で当然の選択を提案するという無害なことから始まった。その後、お互いに先んじようとし始めて、スリヴァーに持たせることができる中で最も狂ったメカニズムを考えるようになっていったのだ。
「長久はどうだろう?」
「蘇生はどうだろう?」
「賛美はどうだろう?」
「続唱はどうだろう?」
我々は笑い、そしてそれらすべてを書き出した。我々が書き出したすべてがカードになったわけではないが、最も狂ったものの中からもカード化されたものがある。最終的に、続唱を伝説の5色スリヴァーに持たせた。マジックには、5色の伝説のスリヴァーを作るという歴史(《スリヴァーの女王》《スリヴァーの首領》《スリヴァー軍団》《巣主スリヴァー》)があり、『モダンホライゾン』にも他よりも抜きん出たそれが必要だということはわかっていた。
《終異種》
トリビア問題:5枚サイクルを完成させるために時間が一番長くかかったのはどれだけか。
『モダンホライゾン』現在、答えは21年である。そのサイクルは1998年、『ウルザズ・サーガ』の《変異種》から始まったものである。
このカードはもともと、《クローン》になる予定だった。《クローン》は『アルファ版』に入っており、ルール上の問題から、新カードのデザインからはクリーチャーをコピーすることが廃止されていたのだ。成立させる方法を見つけ出したと考えたので、それを祝って、《クローン》をレアとして『ウルザズ・サーガ』に再録することにしたのだ。(もとの『アルファ版』ではアンコモンだった。)不幸なことに、最終盤、アートができた後になって(《変異種》が《クローン》のアートをもとにしているのがわかるだろう)、《クローン》にすることはできないので変更しなければならないと告げられたのだ。
アートにふさわしいカードにしなければならなかったので、コピーを使えないという条件下で多相の戦士を作る方法を検討することになった。我々が思いついたアイデアは、それに複数の能力をもたせて、さまざまな形に変身できるようにするというものだった。最初に、大きさを変えられるように、自身を+1/-1したり-1/+1したりする能力を持たせた。最終的に、攻撃してからブロックできるように自身をアンタップする能力を、回避のために飛行を、自身を守るために被覆(当時は名前がついていなかった)を持たせた。これは最終的に、強力でしかも人気のあるカードになった。(この2つのことはよく関連している。)
それから何年もの間に、我々は《変異種》をもとにした青のカードを色々と作ったが、9年後、『次元の混乱』というセットを作った。そのセットの主なアイデアは、そこが、カラー・パイが、同じ理念ではあっても最終的に違う能力の組み合わせを持つようになっている別の現実であるというものだった。
そのセットで我々がしたことの1つが、既存のカードを選び、それの異なる現実版を作るというものだった。それなら、《変異種》を選んで赤にしないわけがあるだろうか。我々は「{1}:+1/-1」と「{1}:-1/+1」を含む5つの能力を持つということをそのままに、単色1マナを必要とする他の3つの起動型能力をその色が使える能力に取り替えた。『次元の混乱』なので、赤は普通と異なる能力を使うことができたのだ。例えば、アンタップするのは赤だったので、《炎異種》は《変異種》と同じ1つ目の能力を持っていた。その後、回避能力の代わりに、ブロックを強制できる能力を持たせた。最後に、被覆の代わりに、それを対象とした呪文の対象を変えるという防御的な能力を持たせた。これが異なる現実の《変異種》であるということが明白になるよう、「《炎異種》」と名付けられたのだった。
これらのカードをサイクルにするという計画は全くなかったが、2年後、『コンフラックス』をデザインしている間に、《変異種》の緑版を作るというアイデアに偶然行き着いた。
今回もまた「{1}:+1/-1」と「{1}:-1/+1」を持っていたが、他の3つの能力は緑が使えるものというだけの条件から選ばれた、速攻とトランプルと破壊不能で、同じく3つ目の能力は自身を守るための防御的なものだった。パターンを踏襲して、これは「《茨異種》」と命名された。
それから9年間、我々が白や黒の《変異種》を作ることはなかった。とうとう、『バトルボンド』で白の《変異種》を作る機会を見つけたのだ。これも「{1}:+1/-1」と「{1}:-1/+1」の能力を持っていたが、文章量を減らすために1行にまとめられた。最初の2つの能力は(《変異種》や《炎異種》のアンタップ能力と似た)警戒と、絆魂だった。防御的能力は、危機に瀕している自身を自分の手札に戻す、セルフバウンス能力だった。
《終異種》は《光異種》に倣い、+1/-1と-1/+1の能力をまとめている。そして威迫と接死を持ち、防御的起動型能力として不死を持った。《終異種》は、常磐木でないキーワードを使った初めての《変異種》だが、『モダンホライゾン』なのでそれがふさわしく感じられたのだ。なお、これはセット内で唯一の不死能力を用いたカードであることに注意してほしい。
こうして、わずか21年を経て、このサイクルは完成したのだった。
《常在夢境》
『神河物語』のデベロップ中に、私は、呪文関連要素をそのセットに加えるために連繋を作った。このメカニズムは、本質的には、このメカニズムを持つカードの効果を他の呪文に綴じるというものだった。『神河物語』では、綴じる先の呪文は秘儀というサブタイプを持っているものに限られていた。デベロップの後期になって、私は、特定の呪文タイプを持つものだけでなくインスタントやソーサリーに連繋させることができる可能性に気がついたが、その発見はあまりに遅く、変更することはできなかったのだ。
私は常々、いつか連繋を再登場させて、さらなる後方互換性を持つように広げることを願っていた。『ラヴニカのギルド』で、イゼットのメカニズムとして連繋(インスタントかソーサリー)を試したが、うまく行かなかった。このメカニズムは『モダンホライゾン』の2枚だけで使われているが、ついに諸君みんなに試してもらえる機会がやってきたのだ。諸君からの感想やゲームプレイ上の結果を見ることで、これを再録すべきかどうか、またするならいつかという情報が得られることになる。
《愚者の饗宴者》、《甦る死滅都市、ホガーク》、《混沌の辛苦》
先述の通り、私が最初にハッカソン向けのアイデアを提示したとき、そのアイデアを「未来予知2」と呼んでいた。『未来予知』のデザインの中で私のお気に入りだったものの1つが、常磐木でないキーワード2つを1枚のカードに持たせた「組み合わせ」呪文だった。私(たち)は『モダンホライゾン』向けに何枚もの組み合わせ呪文をデザインしたが、それらは非常に文章量が多くなりがちだったので、印刷にまで到ったのは3枚だけだった。その3枚がこれである。
《愚者の饗宴者》は、大量のクリーチャーを必要とするメカニズムである召集と貪食の2つを組み合わせている。クリーチャーを、デーモンを軽く唱えられるようにするために使い、その後でそれが戦場に出るに際して大きくするために生け贄に捧げることができるというアイデアである。クリーチャー4体を使えば、{B}{B}で11/11クリーチャーを手に入れることができるのだ。
《甦る死滅都市、ホガーク》は、コスト減少メカニズムである召集と探査を組み合わせている。クリーチャーが戦場にあろうが墓地にあろうが(あるいは墓地にある他のカードも)関係なく、さまざまな方法で支払うことができる。《甦る死滅都市、ホガーク》は墓地からも唱えることができ、これは探査メカニズムのフレイバーと合致している。
《混沌の辛苦》は、それ自身や、あとでは手札にある他の土地を、自分のライブラリーにあってコストが3点以下の無作為の呪文に変えることができる。長期戦で、引いたものの使い道のない土地を呪文に変えることができるので、このシナジーは非常に有用である。
このセットに含まれる『未来予知』の気配を楽しんでもらえれば幸いである。
《過大な贈り物》
『新たなるファイレクシア』で、我々は《内にいる獣》というカードを作った。
緑の弱点の1つが、クリーチャーに頼りすぎているということである。特に、クリーチャーがないときにクリーチャーを殺すことができないのだ。これが、ほとんどのセットで格闘が緑の主な武器になっている理由である。格闘では対戦相手のクリーチャーを殺すために自軍のクリーチャーを使う。《内にいる獣》は、(トークンを作るので)クリーチャーを扱っているが、唱えるのにクリーチャーが必要なわけではない。したがって、これは緑にはできないはずのこと、つまりクリーチャーがいない状態でクリーチャーである脅威を取り除くこと、をしているのだ。これは、緑最大のカラー・パイ違反の1つである。
私はこの件についてブログでしばしば語っているが、そうするとこんな質問が返ってくる。「オーケー、緑がこれをすべきでないなら、何色がすべきなんです?」私の答えは、常に、白である。白は除去一般を最も得意とする色であり、対戦相手のパーマネントを破壊した時に対戦相手に何かを与えることが一番多い色である。『モダンホライゾン』が「時のらせん2」なのであれば、『次元の混乱』要素を少し入れるのはクールかもしれない。そこで、これ以上はカラー・パイ破壊を起こしたくないとはいえ、正しい色にカラーシフトさせるのは問題なかったのだ。こうして、白の《内にいる獣》がこのセットに入ったのだった。
《ゴブリンの軍旗》
『アルファ版』は、何枚もの誤植があることで有名である。その1枚が、《オークの軍旗》であった。コストは{3}{R}のはずだったが、『アルファ版』では誤って{1}{R}になってしまっていたのだ。
『ベータ版』で修正されたが、初期のしばらくの間、イベントではすべてのカードが最新版にあわせて同じ挙動をするのではなく、印刷されているとおりに働くことになっていた。(オラクルはまだ存在しなかった。)そのため、『アルファ版』の《オークの軍旗》のほうが強いカードになっていたのだ。実際、一番最初の制限禁止リスト(リンク先は英語)では、制限カードに指定されていたほどである。
興味深いことに、時を経て、{1}{R}というコストもまったく壊れていると言えるようなものではないということがわかった。モダンでは何の問題もなく印刷可能である。このカードの最初のバージョンは、冗談めかして「アルファ版の軍旗」と呼ばれていた。最終的に、完成したカードはゴブリン・カードとテーマ付けられたが、最初のデザインを連想させるものにするため「軍旗/oriflamme」という単語はそのまま残された。(訳注:それ以外の「軍旗」には、《掲げられた軍旗》ではbanner、《軍旗の旗手》ではstandardが使われています。)最後のトリビア:私は初代『時のらせん』のためにこのカードをデザインしたが、印刷までは到らなかった。
《ミラディン包囲戦》
ちょっとオタク的に語らせてもらいたい。このカードはセットデザイン中に作られたものなので、私が初めて目にしたのはこのセットのスライドショーのときだった。『タルキール覇王譚』ブロックの固定語(「カンか龍かを選ぶ」と言うやつだ)と、ミラディン人とファイレクシア人の戦いとを組み合わせることを誰が思いついたのかは知らないが、これは輝かしいものだ。ミラディン人側はミラディン人らしく、ファイレクシア人側はファイレクシア人らしく、そして両方ともにアーティファクト・テーマのデッキで見事に作用するのだ。しかも、これは別のセット名をカード名にしている。これこそ、『モダンホライゾン』でしかできないカードなのだ。
《自然の詠唱》
このカードはハッカソン中に作ったものであり、これをもとに10枚のサイクルを作ろうとしていた。色のペアごとに、それぞれの色で同じコストに存在する象徴的呪文を探したのだ。我々は本気で探したが、この1枚目のカードに並ぶようなサイクルを作ることはできなかったので、最終的にこのクールなカードだけを作ったのだった。
《パシャリク・モンス》
モンス・ジョンソン/Mons Johnsonはリチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldの長年の友人であり、長年に渡って開発部員であった。彼のゴブリン好きは相当のものだったので、リチャードは『アルファ版』で《モンスのゴブリン略奪隊》を作ったのだ。
このカード名の「モンス」は、向こうの世界ではゴブリンの偉大な指導者、パシャリク・モンスのことを指す。我々は、何年もに渡って何度もパシャリク・モンスをカード化しようとしてきた。例えば、『時のらせん』のデザイン・チームが提出したデザイン・ファイルに入っていたのだ。我々は、『統率者』デッキなどのさまざまなサプリメント・セットに入れることについて議論してきた。しかしながら、常に無視され、作られることはなかったのだ。『モダンホライゾン』は、パシャリク・モンスを人々にもたらすことで、ついにこの状況を正したのだ。
最初から、彼がゴブリンの部族カードであるべきだとわかっていた。確か、彼の起動型能力が最初にデザインされたはずだ。彼はゴブリンの指導者であり、『アルファ版』のカードから、1/1のゴブリンと切っても切れない関係だ。ゴブリンを生け贄に捧げる関係で、必ず他に1体のゴブリンは必要だが、それさえ満たせば、彼が生成したゴブリン・トークンを生け贄に捧げることができるようになる。彼のゴブリン軍団が時とともにただ膨れ上がっていくのは本当に楽しいものだ。誘発型能力は、ゴブリンと彼の起動型能力と有機的に繋がるようなダメージを与える能力をこのカードに持たせるために与えられたものである。モンスを筆頭に、ゴブリン・ファンの諸君がこれで何をするのか楽しみだ。
《セゴビアの天使》
『モダンホライゾン』の課題の1つは、どのようにフレンチバニラ・クリーチャー(常盤木キーワードだけを持つクリーチャー)をデザインするかだった。どのセットにもいくらか必要だが、『モダンホライゾン』にふさわしいと思わせる理由が必要だったので、それらをデザインするのは難しかったのだ。最初のハッカソンでカードをデザインしたとき(それについては私の最初の『モダンホライゾン』のプレビュー記事で読むことができる)、私は、過去の有名なクリーチャーを取り上げ、それの小さいバージョンを作るという、「若き日の」象徴を描いたコモンのサイクルのアイデアを思いついていた。確か、このカードの最初のバージョンは、次のようなものだった。
〈若きセラの天使〉
{2}{W}
クリーチャー ― 天使
2/2
飛行、警戒
展望デザイン中に、ケリー・ディグス/Kelly Diggesは、1994年の『レジェンド』の《セゴビアの大怪魚》に遡る往年のマジックのジョークを用いることで、もう一歩このジョークを進める方法を思いついた。
このカードは3/3だが、アートにはこれよりもずっと小さい鯨と一緒に泳いでいる姿が描かれている。単にその奇妙な食い違いを認めるだけでなく、当時のクリエイティブ・チーム(「コンテ/Continuity」と呼ばれていた)は、このクリーチャーはセゴビア次元から来たものであり、その次元ではすべてのものが小さいので、大怪魚を召喚した場合には他のどの世界で呼び出した大怪魚よりもずっと小さなクリーチャーが呼び出されることになる、と説明した。こうして、小さなクリーチャーの次元セゴビアが生まれたのだ。
ケリーのアイデアは、天使の小ささを説明するために、それをセゴビアから来たことにするというものだった。イーサン/Ethanはそのジョークを気に入り、それをさらに誇張するためにクリーチャーを1/1に縮めた。カード1枚だけのほうがサイクルで存在するよりもおかしなジョークになると思われたので、展望デザイン中にこのサイクルの他のカードはボツになった。《セゴビアの天使》は、最初のハッカソンから生き残った約15枚のカードの1枚として、印刷にまで生き残ったのだった。
《ウェザーライトの艦長、シッセイ》
近年のサプリメント・セットで我々がしてきたことの1つが、すでに伝説のクリーチャー・カードになっていて人気のある過去のキャラクターを取り上げ、そしてその更新版を作ることである。シッセイは、自分のライブラリーから伝説のカードを取ってくる能力で統率者として人気がある。彼女の大きな欠点は、その固有色である緑と白のカードに限られるということだった。我々のアイデアは、5色の固有色を持って好きな伝説のカードをプレイできるようにした新しいシッセイを作るというものだった。
唱えることが難しくならないように白単色にして、そして取ってくる能力が{W}{U}{B}{R}{G}を必要とするようにすることでシッセイの固有色を5色にした。(固有色は、カードに記されているすべての色マナ・シンボルを参照する。)この能力は大量のマナを必要とするので、シッセイの元のカードのタップ能力と違ってカードを直接戦場に出すようにした。その後、5色すべてを使いたくなるようにするため、彼女のサイズや彼女が持ってくることができるものの大きさを定義づける常在型能力を作った。ウェザーライト・サーガの共同制作者として、私はウェザーライトの乗組員が新しいカードになるのを見るといつも幸せになるのだ。
《強打のらせん》
熱心なプレイヤー向けのサプリメント・セットを作る上での楽しいことの1つが、小粋な身内向けジョークを仕込むことができることである。《強打のらせん》はその好例だ。「クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体かプレイヤー1人を対象とする。カード名はそれに3点のダメージを与え、あなたは3点のライフを得る。」が黒の能力でもあり、赤白の能力でもある、という事実をちゃかしている。これは、スタンダードで使えるセットでは決して見かけることのないカードである。
《奮起の演説》、《精神の掻き寄せ》、《厚鱗化》
過去のメカニズムを持つ新カードをデザインするために使った手法の1つが、陣営に基づくメカニズムを選び、その陣営の外の色を掘り下げることであった。 超過を例として取り上げてみよう。超過は、『ラヴニカへの回帰』でのイゼットのメカニズムだったので、これまでにデザインしたことがあるのは青と赤の超過カードだけであった。そのため、我々は青と赤を掘り尽くしたが、超過と組み合わせると興味深いことになる白、黒、緑の効果を探す自由を手に入れたのだ。
良い超過のデザインの鍵は、単一の対象を取る効果と全体に影響する効果がどちらもその色に属する効果を見つけることにある。例えば、白は単一のクリーチャーに+2/+2を与えることも、自軍クリーチャーすべてに+2/+2を与えることもできる。(+3/+3以上は緑の領域になるので、白は+2/+2までである。)超過コストを大きくすることで、これは、長期戦の突破口としてゲームを決める助けとなるカードにもなる、良いコンバット・トリックを生み出すことになる。《厚鱗化》も同じように、序盤でも終盤でも使えるカードを作れる形でデザインされたカードである。《精神の掻き寄せ》はその逆に、対象を取る場合のほうが強い(対戦相手だけにカードを捨てさせる)ので、超過コストのほうが安くなっている。これらの効果は、青も赤もできないことなので新しいものである。(青はクリーチャーのサイズを変えることはできるが、6/4にすることはない。)
《一連の消失》
ここでもう1問、マジック・トリビアの時間だ。《一連の消失》がもとにしたマジックのカードは何か。
正解は、1994年の『レジェンド』からの《稲妻の連鎖》だ。
これはよく元ネタにしようと話題に上るが、実際に作られたことはほとんどないカードである。それを知っている諸君は、まさにマジック・トリビアの達人だ。
《筋腱と鋼鉄の剣》、《真理と正義の剣》
初代『ミラディン』ブロックは、装備品を初めて登場させたセットであった。『ダークスティール』で、マジックの内部的対立を表す剣を2枚作った。それらの剣はどちらも唱えるのが3マナ、装備するのが2マナだった。それらの剣はそれぞれ、+2/+2とその対立で表されている2色へのプロテクションを与えていた。そして、それぞれは装備者にサボタージュ能力(装備したクリーチャーが他のプレイヤーに戦闘ダメージを与えたときに誘発する能力)をプロテクションで言及している各色ごとに1つ、あわせて2つ与えていた。これらの剣は強力で、人気だった。
また、いかにもサイクルをなしそうだったので、私は何年もの間、「『○と○』の剣のサイクルを完成させるのはいつになりますか」という質問を受けた。『ミラディンの傷跡』サイクルでミラディンを再訪するにあたって、我々はプレイヤーの望んでいるものを提供する時期だと判断した。
そのブロックの各セット(『ミラディンの傷跡』『ミラディン包囲戦』『新たなるファイレクシア』)のそれぞれで、不足していた剣が1本ずつ登場した。最後に赤白の剣を『新たなるファイレクシア』に入れたのは、ミラディン人のものであるというテーマでなければならなかったが、そのときには次元の殆どがファイレクシア軍の手に落ちていたからである。抵抗勢力は赤白なので、彼らに最後の剣を持たせるのは道理にかなっていると思った。そこから逆算して、最後の剣と重複しない黒緑の剣を第2セットに、そして緑青の剣をブロックの第1セットに入れたのだ。これらの剣はすべて最初の2種と同じパターンを踏襲していた。これらの剣もまた、強力で、人気だった。
このサイクルを完成させると、今度は友好色の剣を求める声が届き始めた。問題は、敵対色の剣の形式を使った剣は、スタンダードには強すぎる装備品を作ることになってしまうということに我々が気づいてしまったことだった。いくらか弱いバージョンを作ることも検討したが、そうするとプレイヤーは満足するよりも不満に思うことになるだろう。我々は少しだけ違う形式で関連性は感じるが比較するようなものではない盾を作ることも思いついたが、究極的にはいつの日かうまい場所を見つけ、そこに友好色の剣を入れるほうがいいと判断した。
そして、その日が『モダンホライゾン』であったのだ。少なくとも、そのうち2本については。元祖の剣が多くのセットに分かれていたので、敵対色の剣に倣い2枚だけから始めるのがふさわしいと思われた。我々は、色の重複がなく、過去の形式に倣うような組み合わせ2種を選んだ。直接モダンで使えるようになるということは、スタンダードに存在させるべきだと考えるよりもパワーレベルの高いものにできるということである。
私は、諸君がこの最初の2枚の友好色の剣を楽しみ、残りの3種類を求める声を上げてくれることを待っている。
《捧げ物の魔道士》
これも、サイクルを完成させる助けにしようとしたカードである。
このサイクルは、『フィフス・ドーン』のカード《粗石の魔道士》から始まった。『フィフス・ドーン』には、コストが0~1のアーティファクトに焦点を当てた「歯車」テーマがあった。《粗石の魔道士》は、歯車を教示者する(自分のライブラリーから手札にカードを持ってくる)クリーチャーとしてデザインされている。
『ミラディン包囲戦』で、我々は《粗石の魔道士》の鏡写しとして、重いアーティファクト(コスト6マナ以上)だけを教示者するクリーチャー《宝物の魔道士》を作った。
『霊気紛争』ではこの2体の間を埋めるために、コストがちょうど3マナのアーティファクトを教示者する《戦利品の魔道士》を作った。
『モダンホライゾン』では2の枠を埋めたので、残りは点数で見たマナ・コストが4のアーティファクトを教示者するものと、5のものをそうするものの2枚になる。Tから始まる(訳注:そして品物の)単語が尽きないように祈ろう。
《よじれた反射》
これも気の利いたデザインだ。これは、縮小(パワーを減らすこと)とパワー・タフネス交換という、相異なる2つの青の能力を持った双呪呪文である。この2つの能力を組み合わせると、青がしないこと、つまり(パワーが6以下の)クリーチャー破壊をするのだ。これらの2つの能力は、組み合わせたときでさえ、青がすることであるが、それら両方をすることができるようにする双呪コストはいつもクリーチャーを殺す色である黒なのだ。
《最高工匠卿、ウルザ》
ウルザはマジック初期の主な登場人物の1人である。その名前は『アルファ版』で2枚のカードに使われており(《ウルザの眼鏡》、《ウルザの色眼鏡》。彼は眼鏡が好きなようだ)、そして、『アンティキティー』で(部分的に)語られたマジック最初の大きな物語である兄弟戦争の主たる登場人物の1人でもある。私がマジックで諸君と関わってきた限りずっと、ウルザのカードを求める声は届き続けていた。『Unstable』で1枚(《〈アカデミーの頭、ウルザ〉》、銀枠世界では彼は肉体のない頭だけの存在なのだ)作ったが、それ以降もプレイヤーは黒枠マジックでのカードを求めていた。
ウルザのカードを作るべきだということはわかっていた。問題は、いつのウルザを描くかである。彼の人生の中でどこを選ぶか。かなりの思案の後、我々は最初から、つまり彼が工匠だった時代、兄弟戦争の時代から始めることにした。この選択によって我々は、アーティファクト・テーマのデッキに入れたくなるようなすごい工匠を作ることになった。
我々は彼に3つの能力を持たせた。1つ目は、構築物を作る能力。結局のところ、彼は巨大なアーティファクト・クリーチャーの軍団を作ったことで有名なのだ。アーティファクトと関連して変化するように、(ほかの構築物も含む)戦場に出しているアーティファクトの数が多ければ多いほど大きくなるようにした。2つ目が、彼にアーティファクトを使ってさらなるアーティファクトを唱えられるようにする、マナ生成能力。3つ目が、自分のライブラリーの一番上からどんな呪文でも唱えられる可能性がある派手な能力である。悪用できるようなことを防ぐため、シャッフルを組み込んでいる。
願わくば、黒枠のウルザのカードを求めていた諸君全員が、最終的に彼を楽しめんことを。
すべてはモダン・ファミリーのために
本日はここまで。私の話を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事、私が取り上げたカード、あるいは『モダンホライゾン』そのものについて意見があれば、メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『基本セット2020』のプレビューが始まる日にお会いしよう。
その日まで、あなた自身の『モダンホライゾン』に関する話が紡がれますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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