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Making Magic -マジック開発秘話-
わかる?『Unhinged』編 その2
わかる?『Unhinged』編 その2
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2017年8月21日
『Unhinged』の発売前に、私は『Unglued』の、ユーザーが気付いていないと思われる大量のジョークについての記事を書いた(リンク先は英語)。『Unstable』の発売が迫る中で、『Unhinged』版のその記事を書くべきタイミングだと判断したのだ。ネタにするジョークは大量にあるので、先週がその1、そして今週がその2になる。それでは早速ジョークの話を始めよう。
26.テーブルの下感
銀枠セットには、サブゲーム・カード、つまり現在進行中のゲームをいったん止め、ライブラリーにあるカードで別のゲームをプレイするカードが存在する。リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldは『アラビアンナイト』で、最初のサブゲーム・カードである《Shahrazad》をデザインした(ちなみにリチャードはこれをお気に入りのデザインだと言っている)。『Unglued』には、《Once More with Feeling》というカードがあった。『Unhinged』のサブゲーム・カードは、《Enter the Dungeon》である。
このサブゲーム・カードにもう少し面白みを足すため、私はプレイヤーがテーブルの下でプレイするようにした。多くのプレイヤーがこのカードのアートで見落としているのが、ダンジョンで対決しているウィザードたちもテーブルの下にいるということだ。周りにある様々なもの(たとえば巨大なコイン)を見れば、彼らがミニチュアのサイズであることは明らかである。私のお気に入りの小物は、アートの右上に描かれている、テーブルの裏に貼り付いたガムだ。
しかし、『Unhinged』でテーブルの下でのサブゲームについて触れているのはこれだけではない。もう1つは非常に見落としやすいものだ。《Stone-Cold Basilisk》(『オデッセイ』の《石舌のバジリスク》と、プロレスラーの「ストーンコールド」スティーブ・オースティン/"Stone Cold" Steve Austinをもじったものだ)のカードでは、トーナメントに参加している他の人たちが石になっていることから、自分の背後にバジリスクがいるということに薄々感づいていくプレイヤーが描かれている。しかし、よく見ると、すべてのプレイヤーが石になっているわけではない。2人のプレイヤーはテーブルの下で対戦しており、《Enter the Dungeon》のサブゲーム中なので、バジリスクの石化の視線を浴びていないのだ。
27.Shall We ゲーム?
『Unhinged』のサイクルの1つが、ミニゲーム・サイクルと呼んでいるものだ。「[体の一部] to [同じ一部]」というカード名のそれぞれのカードで、対戦相手と非常に簡単なミニゲームをするというものである。そのゲームに勝ったら、何かの呪文効果を得るのだ(これらのカードはその効果に比べるとコストが軽くなっている)。そのカードが、《Head to Head》《Mouth to Mouth》 《Eye to Eye》《Face to Face》《Side to Side》である。
このサイクルにあるジョークをいくつか紹介しよう。
《Head to Head》:このカードでは、ブレイズが警察の取調室のようなところで取り調べを受けている。
《Mouth to Mouth》:このカードでは、水中での息止めコンテストが描かれている。審判は時計ですべての時間を図っているマーフォークだ。青のカード枠には最初から水っぽさがあるので、アートの形を変えて枠の部分を増やし、水中らしさが出るように(そして水中を覗いているかのような船の窓らしさが出るように)して、さらにおまけに魚を追加した。
《Eye to Eye》:このアートは「時計じかけのオレンジ」のパロディである。アートの周りにある目は本来あるものではないが、このカードには何かおまけが必要だと感じたのだ。私のお気に入りは、カードの右下角にある見上げている小さな目である。
《Face to Face》:このアートには、マジックの初期版である「Ug」というゲームをしている穴居人が描かれている。
《Side to Side》:このカードには、ターンガースがスクイーに「手伝われて」ジムでワークアウトしているところが描かれている。背景には《ケルドのマラクザス》と《ヴァルショクの戦場の達人》がいる。しかし、これはどれもこのカードのメカニズムである腕相撲にも、生成されるトークン(3/3の類人猿・トークン)にも関係ない。フレイバー・テキストで、これらすべてを組み合わせなければならなかったのだ。
28.飢えたアーティスト
《Fascist Art Director》のアーティストであるエドワード・ベアード・ジュニア/Edward Beard, Jr.は、そのアート上でさまざまな遊びを施している。このカードには乗馬鞭を持ったアート・ディレクターが、鎖に繋がれて絵を描かされているアーティストを監督しているところが描かれている。書き込まれていることは次のとおりである。
- 「A-List Artists: 私の言うとおりのことをするアーティストはこのリストに載せる。奴らの皿には餌も載せる。」
- 「B-List Artists: 絵の描き方を知っているつもりのアーティスト。食事も給金もなし。」
- 「骸骨はなしだと言った。」(長年に渡り、中国向け商品からは骸骨を除外していた)
- 「アート・ディレクターのケツにキスをすれば生きていられる。」
- 「今日はあと10枚スケッチを提出すること。」(アーティストは最終の絵を提出する前に、スケッチを提出して承認を得なければならない)
- 「アーティスト 同意書にはサインしないこと。」(アーティストは必ず権利を明確化する同意書に署名している。このジョークは、《Fascist Art Director》がアーティストの権利を認めていないということである)
- 「食べません描くまでは」
- 「本日は窓の外を見ることを禁ずる」
また、フレイバー・テキストはクランフォード夫妻への手紙である。ジェレミー・クランフォード/Jeremy Cranfordは当時のマジックのアート・ディレクターであった(そして当時はアート・ディレクターは1人だけだった)。
29.汚れ残り
このカードには食べこぼしがついている。そう、本物の食べこぼしなのだ。グラフィック・デザイナーが紙の上で食事をして、その後でそれを(スキャナーに触れないようにアセテートフィルムで覆って)スキャンしたのだ。アーティストは、後にマジックのアート・ディレクターになったジェレミー・ジャーヴィス/Jeremy Jarvisだった。
《Fat Ass》に描かれたすべての物品は、銀食器を元にしている。最後に、カードを食べるな、と告げているフレイバー・テキストは、リーガル・チームからの、このカードにある「食べる/eating」という条件を満たすためにプレイヤーがカードを食べることは想定していないということを明記するよう求めるメモが元になっている。使い方についてフレイバー・テキストに入れるのは十二分だろう。
30.Aからの列
このカードは、一番コレクター番号が小さいクリーチャーに先制攻撃を与えるものである。コレクター番号は、必ずWUBRG順(白青黒赤緑)で、その色の中で辞書順に並んでいる。このアートの中のジョークは、一列に並んで待っているクリーチャーがどれも白で、辞書順でも早く出て来るものばかりだということである。描かれているクリーチャーを順に書くと、こうなる。
- 《慈悲の天使》(Angel of Mercy)
- 《アクローマに仕える者》(Akroma's Devoted)(「孫子/Art of War」を読みながら)
- 《献身的民兵団》(Ardent Militia)
- 《エイヴンの解放者》(Aven Liberator)
そう、《慈悲の天使》が不正に割り込んだところなのだ。
フレイバー・テキスト内の《ヨーティアの兵》のジョークは、これのちょうど逆側なだけで同じジョークである。アーティファクトが最後(土地のほうがもっと後ろだが)であり、《ヨーティアの兵》は当時辞書順で最後に来るアーティファクト・クリーチャーだったのだ。1/4である《ヨーティアの兵》にとって4/1相手に先制攻撃を持つのが理想的なので、《ヨーティアの兵》が先制攻撃を得られる唯一の可能性となるZから始まる名前のアーティファクト・クリーチャーで4/1の存在を夢見ているのだ。
31.見出しから剥ぎ取った
《Flaccify》のフレイバー・テキストは、『Unglued』の《Denied!》(これも打ち消し呪文)のフレイバー・テキストを文字通りちぎり取って《Flaccify》にテープで貼り付けたものである。よく見れば、セロハンテープが描かれているのがわかる。
ここでのジョークは、我々が打ち消し呪文のフレイバー・テキストに同じ基本的なジョークを何度も何度も使うことがある、ということである。このジョークの元になったのは、私が《Denied!》のフレイバー・テキストがそのまま《Flaccify》にも使えるということに気づいたことで、そしてこのセットが銀枠だということにも気づいた結果、こうなったのだ。
32.道半ばまで来たれり
このカードには複数のジョークが含まれている。カード名は1988年のカール・ウィザーズ/Carl Weathers主演映画「アクション・ジャクソン 大都会最前線/Action Jackson」のタイトルをもじったものである。このカードはコミックのスーパーヒーローをパロディにしたものなので、スーパーヒーローの外見と、フレイバー・テキストには頭韻を踏んだ秘密の正体が書かれている(マーベル・コミックでよくあるジョークに、登場人物の多くの名前が頭韻を踏むようにするというものがある。ピーター・パーカー/Peter Parker、マット・マードック/Matt Murdock、スコット・サマー/Scott Summers、スー・ストーム/Sue Stormなど)。
また、分数のジョークを扱うため、《Fraction Jackson》以外のすべての品物が半分しか見えていない。カード枠も半分しか使っていない。これを放射性ビーブルにしたのは、ビーブルは面白おかしいもので、放射性ビーブルという概念が面白かったからである。
33.赤ペン先生
銀枠セットで私が好むことの1つが、常磐木キーワードを選び、それにひねりを加えることである。このカードは、まず私がプロテクション(多弁)を作りたかったことから作られたのだ。その後で、このカードにエディターというフレイバーを持たせるのは面白そうだとなった。そして、エディターがそのカード自体を編集するというアイデアに行き着いたのだ。
テキストを編集する書き込みは、マジックのリード・エディターであるデル・ロージェル/Del Laugelによってなされている。エディターが訂正するような誤りをどれだけ作れるかということも非常に面白い試みだった。また、このセットの中でもかなり下ネタなジョークを編集前のフレイバー・テキストに仕込んでいた。このエディターである人物は、このセット内でもう1枚、同じアーティストであるジム・パヴェレック/Jim Pavelecの手によるカードに登場している。《Punctuate》を唱えているのと同一人物なのだ。
34.夢想の脳
このセットのジョークのほとんどは前提となる知識がそれほど必要ないものであるが、《Gleemax》はその例外である。長年に渡りマジックのコミュニティで流行していたジョークの1つが、開発部は櫃に入った異星人の脳味噌である《Gleemax》に秘密裏に支配されている、というものだった。このジョークは、マジックの初期にネット上で誰かが呟いたことに由来する。《Gleemax》は精神支配するものなので、我々はそのフレイバーを再現するようなメカニズムを作ることにした。
マナ・コストの100万という数字は、《Gleemax》の強力さを示すためのもので、1人の魔法使いが《Gleemax》を支配下に置くのは簡単ではないのだ。フレイバー・テキストも、非常に論理的な異星人の脳味噌である《Gleemax》はフレイバー・テキストに何も必要性を見出していないので無視する、というジョークである。開発部はこの唯一の抜け穴を使って助けを得ようとしていたのだ。
35.輝けるジョーク
『Unhinged』の目標の1つが、可能な限り多くのジョークを詰め込むことだった。そしてある日、私は、プレミアム処理の中にもジョークを入れられるのではないかと考えたのだ。フォイル版だけのジョークで覚えているのはこの4枚である。
《Gleemax》:プレミアム版では、アート全面に小さな文字で「あなたは従わなければならない/You Must Obey」と書かれている。
《Goblin Mime》:プレミアム版では、描かれているパントマイム役者のゴブリンはフォイルの箱の中に入っている。
《Letter Bomb》:フォイルで「ここにサインを/Sign Here」と書かれている。
《Richard Garfield, Ph.D.》:フォイルでリチャードのサインが入っている。
36.それにくっついて
このカードのジョークは、このクリーチャーがとにかくくっつきやすく、指がついたままになるというものだった。アートを見ると、これと戦ったクリーチャーの武器や、これと戦った人物、蹄鉄(このセットのエキスパンション・シンボルだ)、パワー/タフネス欄、あるいはアートの枠そのものまで、あらゆるものがくっついているのがわかる。《AWOL》同様、カードの一部が剥がれているところには、カードの裏面の鏡像が見えるようになっている。
37.父のごとく子のごとく
2つ目の銀枠セットをする上で楽しいことの1つが、1つ目のセットでのジョークを続けることができるということである。『Unglued』では、《Infernal Spawn of Evil》というクリーチャーを作った。このカードは、その前年にアーティストのロン・スペンサー/Ron Spencerがジョークとして描いた、恐ろしいクリーチャーがあるべきところにココアを飲むネズミの絵が描かれているスケッチが元になっている。『Unglued』を作るにあたって、私はアート・ディレクターに、ロンにそのネズミの絵を使っていいか聞いてくれるように頼んだ。ロンは快く同意してくれたのだ。
『Unhinged』では新しいカードの《Infernal Spawn of Infernal Spawn of Evil》[UNH]を作った。これもロンにアートを任せたところ、最初のカードを元ネタにしたネタを大量に描いてくれたのだ。
- 背景が同じ。どちらのカードのイラストも、まったく同じ場所を舞台としている。
- 最初のアートと同じように、父子でマシュマロの入ったホットココアをすすっている。3代目のホットココアもマシュマロが入っているが、赤ん坊なので哺乳瓶の中だ。
- 3代目は緑、2代目は赤と色は違うが、よく似たスカーフをつけている。
- 親のマグカップが「{B}の最高の父/{B}'s Best Dad」というマグカップになっている。
もう1つ、わかりにくいが面白いジョークがある。《Infernal Spawn of Evil》では、タイプ行の「デーモン」が線で消されて「ビースト」に書き換えられている。これは、当時デーモンという語をカードで使うのをやめてビーストにしていたという事実を元にしたジョークだ。そして、この決定は『Unhinged』までに改められていたので、《Infernal Spawn of Infernal Spawn of Evil》では「ビースト」に線を引いて「デーモン」にしているのだ。
38.とてもマジックなプレイボーイ
《Ladies' Knight》は『アルファ版』のカード《ネビニラルの円盤》をもじった「ネビニラルのディスコ/Nevinyrral's Disco」が元である。彼は『オンスロート』のストーリーの登場人物であり、後に融合して《邪神カローナ》になるアクローマやフェイジと付き合っている。彼のペガサスは背景の駐車場に「駐車」している。これが、彼が飛行を持っている理由である。
39.ステッカー・ショック
このカードは、開発部のプレイテスト用ステッカーに似せて作られた。実際のステッカーを印刷し、それに書き込み(プレイテスト中に、その場で変更することがあるのだ。ちなみに、この書き文字はランディ・ビューラー/Randy Buehlerのものである)、そしてスキャンしたものである。このカードのジョークで私が気に入っているのは、これが大人気で強力な『レジェンド』のカード《Moat》の上に貼ってあるということである。開発部は古いカードにステッカーを貼るのが常で、時には大人気のカードにステッカーを貼ることもあるのだ。
40.魔法ハッカー
ジョーク2つと歴史的脚注1つ。彼のメガネに映っているのは、マジック公式ウェブサイトの鏡写しである。実際にスクリーンショットを取って、アーティストに渡したのだ。
フレイバー・テキストはリート語でかかれている。リート語とは、インターネット上で通常の検索で引っかからないようにするために作られたものであり、文字を形のよく似た記号で置き換えている。フレイバー・テキストの内容は、「もしこれが読めたら、君は凄まじいオタクだ/If you can read this, you are a monster geek」である。
《霧衣の究極体》とすべての「変わり身」をティーンエイジ・ミュータント・忍者(ニンジャ)・海亀(タートル)にできるようにするため、《Magical Hacker》を最初、人間・ティーンエイジ・ゲーマーにする予定だった。しかし、当時は銀枠のクリーチャー・タイプも黒枠で公式なものとして扱われていたので、追加するクリーチャー・タイプの数を抑えようと考えて取り除いたのだ。
41.運も実力
《Mise》は技術よりも運で勝つことを言う、当時のマジックのスラングである。それを表現するため、マット・カヴォッタ/Matt Cavottaは「幸運の」うさぎの足を持った巨大なピンクのうさぎを描いた。ただし、このうさぎが持っているのはただのうさぎの足ではなく、自分自身の足である。
もう1つ、見落とされがちなジョークが、辞書の定義のような書式で書かれたフレイバー・テキストにある。最初のいくつかの定義は「mise」を定義しているが、その後でこの辞書は脱線していくのだ。定義の1つでは「猿を投げる」と書いてあるが、これは自身のフレイバー・テキストを食べている、『Unglued』の《Lexivore》を元ネタにしている。そのフレイバー・テキストで、我々は後で定義する別の文化での表現を作るという競争をして遊んでいたのだ。
42.タッチ、捕まえた
《Mother of Goons》は、『ウルザズ・レガシー』の《ルーンの母》のパロディである。彼女の服装はよく似ているが、ジャージである。また、《ルーンの母》で手に持っていたティーカップを、うすのろの1人が持っている。このカードで私が気に入っている部分は、壁やカードに描かれた落書きである。
- 「お前の母へ/Word to Your Mother」:「母/mother」という語を含む落書き。
- 「BFM」:《Big Furry Monster》は『Unglued』の99/99の黒のクリーチャーで、あまりにも大きいので表現するのに2枚必要だった。
- 「やつが来た/It's Coming」:《Infernal Spawn of Evil》を手札から公開する時に言わなければならないセリフ。
- 「俺も来た/I'm Coming Too」:《Infernal Spawn of Infernal Spawn of Evil》を起動する時に言うセリフ。
- 「ゴチ/Gotcha」:このセットのゴチ・メカニズムで、設定されたことを誰かがしたときに「ゴチ!」と言ってそのカードを自分の墓地から手札に戻すことができる。
- 「今っ引き/Mise」:《Mise》のカード名。
また、文字通りギャングのサインを持っているギャングのメンバーがいるのも面白かった。
43.幸せとレベッカ
このカードも、前提となる知識が少し必要なジョークが含まれたカードである。何年も前、アート・ディレクターがレベッカ・ゲイ/Rebecca Guayのアート・スタイルがマジックのスタイルとして想定されるものと合わないと判断し、レベッカに今後彼女を使わないということを伝えたことがある。その情報がやがて公に広がり、かなりの悪評を呼ぶことになった。ファンは声高にレベッカの仕事への愛を叫んだので、アート・ディレクターは判断が間違っていたことを認め、再びレベッカを使うようになったのだ。
このセットには「アーティスト関連」のテーマがあって、私は指名されたアーティストによるカードで土地でないものをすべて手札から捨てさせるというカードを作った。ここでレベッカを選べないようにすると面白いと思ったのだ。そして、もちろんこのカードのアートはレベッカに頼むことになった。彼女は快く受けてくれたのだ。
44.メンタル・マジック・プレイヤー
『Unhinged』当時、私はマジックの創始者リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldをカードにしようと考えていた。また、メンタル・マジック(カードを同じマナ・コストを持つ他のカードとしてプレイできるというフォーマット)をプレイするカードというアイデアも持っていた。そして、この2つはまさにふさわしいと気がついたのだ。このカードにはいくつものジョークが織り込まれた。
- 名前に「Ph.D.」とついているのは、マジックの初期には宣伝のため、インタビューのたびにリチャードの名前にPh.D.をつけさせていたということをネタにしている。彼が博士号を持っているということを宣伝したかったのだ。『アライアンス』の《Phelddagrif》は、「Garfield Ph.D.」のアナグラムであり、これもPh.D.をつけるきっかけの1つであった。
- リチャードについている光輪は正しいWUBRG順のカラー・パイである。
- サッシュにはリチャードが手掛けたセットのエキスパンション・シンボルが描かれている(上から順に)『ジャッジメント』『オデッセイ』『トーメント』『ウルザズ・サーガ』。
- フレイバー・テキストは、石板に彫り込まれたようなデザインになっている。
- 上述の通り、プレミアム版ではリチャードのサインがフォイルで入っている。
45.早すぎ
アートだけ見ていて《Rocket-Powered Turbo Slug》を見つけられない人が多い。アートにはアクローマとカマールが描かれていて、このクリーチャーそのものはもう通過した後だ。ロケットに乗ったナメクジは、カードの右下、突っ切ってフレイバー・テキストを散らかしている。
ここで私がどれほどジョークに真剣かお見せしよう。散らかされたフレイバー・テキストには適当な文字が書かれているのではなく、実際のフレイバー・テキストを作って、グラフィック・デザイナーにその文字を使ってカードを作ってもらったのだ。こうしたのは、文字を識別し、元の状態を読み解けば本来のフレイバー・テキストを知ることができるようにするためである。その本来のフレイバー・テキストとは「すべての難関をくぐり抜けてこれを解読できたかな?/Did you go through all the trouble to unscramble this?」である。
歴史に興味のある諸君のために添えておくと、このカードは『未来予知』の契約サイクルを生み出すきっかけになった。
46.良い奴
このカードは一時的な効果を永続する効果にする。見ての通り、このカードのジョークはクリーチャーが大きくなりすぎてカード枠を割ってしまっているというところだ。しかし、このクリーチャーが何であるかはご存知だろうか。私の目標は、大きくなることで有名なクリーチャーを取り上げることだった。つまり、このクリーチャーは当時最強のクリーチャーの1体だった『オデッセイ』の《野生の雑種犬》である。
47.良い印
《Symbol Status》は、可能な限りさまざまなエキスパンション・シンボルのカードをプレイすることを推奨するカードとしてデザインされた。アートで踊っているシンボルがすべてわかるだろうか。
- 『ビジョンズ』 ― V
- 『フォールン・エンパイア』 ― 王冠
- 『トーメント』 ― 巻いたクリーチャー
- 『アライアンス』 ― 旗(『トーメント』のエキスパンション・シンボルが持っている)
- 『オンスロート』 ― 蜘蛛のような何か
- 『メルカディアン・マスクス』 ― 仮面
- 『ウルザズ・デスティニー』 ― エルレンマイヤーフラスコ
- 『ザ・ダーク』 ― 三日月(空にある)
そして、『Unhinged』の蹄鉄シンボルも、エキスパンション・シンボルのあるべき場所で手足付きで踊っている。
48.大きさ関連
《Wordmail》は、カード名の単語数に応じてクリーチャーを大きくするオーラである。アートに大きく描かれたクリーチャーは《Infernal Spawn of Infernal Spawn of Evil》で、カード名が7語なのでかなりの強化を受けることになる(し、アーティストは同じロン・スペンサーだ)。もう1体は『ジャッジメント』の《憤怒》で、カード名が1語なのでこちらの強化は小さい。
49.全部瓶詰め
このカードは『アラビアンナイト』の《City in a Bottle》を元にしたもので、変更点は好きなエキスパンション・シンボルを選んで破壊できるようになっているところだ。このカード自体は『オンスロート』(と『オデッセイ』)の舞台となったドミナリアのオタリア大陸を表現している。アート枠が瓶の形になっており、《悪辣な精霊シルヴォス》と《戦慄をなす者ヴィザラ》が《大闘技場》と一緒に詰められている。フレイバー・テキストにいい案がなかったので、どこかで使おうと思っていた汎用ジョークを使ったのだ。
50.ZZZを見つけろ
《Zzzyxas's Abyss》は、《First Come, First Served》と同じようなジャンルのネタだが、コレクター番号ではなくカード名の辞書順を扱っている。このカードは『レジェンド』の《The Abyss》のパロディである。これの中では、クリーチャーが破壊される順番を待って列に並んでいる。先頭がAから始まる《Armor Thrull》。次はBから始まる《Baron Sengir》。この2枚とも、アーティストは《Zzzyxas's Abyss》と同じピート・ヴェンターズ/Pete Ventersである。周りの霊体もすでに深淵に囚われたクリーチャーであり、全てAから始まっている。左上から時計回りに、《ネクロマンサーの弟子》(Apprentice Necromancer)、《大気の精霊》(Air Elemental, 『第7版』)、《上昇するエイヴン》(Ascending Aven)、《隆盛なるエヴィンカー》(Ascendant Evincar)、《意志の化身》(Avatar of Will)である。
いよいよオチ
今日はここまで。先週と今週の2週にわたる『Unhinged』見物を楽しんでもらえたなら幸いである。『Unstable』のあらゆるジョークが楽しみこの上ないことだろうが、あと数か月待たねばならないのだ。今日の記事や『Unhinged』、あるいは銀枠セットについての感想を、メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、デザイン演説2017でお会いしよう。
その日まで、私が語らなかった『Unhinged』のジョークがあなたの手で暴かれますように。
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