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Making Magic -マジック開発秘話-
他ならぬ『テーロス』 その3
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Making Magic
他ならぬ『テーロス』 その3
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年9月16日
2週前、私は『テーロス』のデザインについての話を始めた。しかしその内容は豊富すぎて、1週間で終わるものではなかった。先週、私はその話を続けた。しかしやはりたった2週分のコラムで終わる話ではなかった。つまり、今日は『テーロス』のデザインに関する話の第3部ということになる(前編にあたる2本の記事を読んでいない諸君は、先に読むことをお勧めしよう。出来のいい三部作というものがそうであるように、私はこの限られた空間をあらすじで潰してしまうようなことはしない)。その1で、デザインをどう3つの部分に分けたかという話をした。その3つの部分とは、神々、英雄、怪物である(ああ、これもあらすじか?)。先週は神々の話をしたので、今週は英雄と怪物の話をすることになる。
《邪悪退治》 アート:Eric Deschamps |
世界には英雄が必要だ
先週、『テーロス』に手を付けた時には、同じく現実世界のフレイバーに影響を受けたトップダウン・デザインである『イニストラード』のデザインと同じように行えると想定していた、という話をした。ギリシャ神話のあれこれを掘り下げていくと、受け手のホラーに関する理解の形と、ギリシャ神話に関する理解の形には違いがあるとわかってきた。
ホラーは映画やテレビなど、ポップ・カルチャーに強い影響を及ぼすジャンルで存在感を示しており、それらを通して理解されている。一方、ギリシャ神話の影響力は、ギリシャ神話という形で作り上げられた物語の類型からのものが多い。近代的な物語というもの(少なくとも西洋の物語というもの)はギリシャ神話によって形作られているのだ。
一例を挙げれば、もっとも人気のある物語の類型、スターウォーズからハリーポッター、あるいはホビットの冒険と、ポップ・カルチャーのそこかしこで見うけられる伝説的英雄の神話というものは、まさにギリシャ神話から発生したものだ。つまり、ギリシャ神話の雰囲気を再現するゲーム・プレイを作りたければ、ゲーム・プレイがこういった物語の類型にはまるようにしなければならないのだ。
ここで「雰囲気」という表現を使ったのは、私のするデザインすべてにおいて重要なことの1つが、受け手から返ってくる感情的反響を理解することだからである。『イニストラード』では、これは簡単なことだった。ホラーは受け手に恐怖を作り出そうとするものだ。だから、『イニストラード』のデザインはサスペンスと恐怖を作り出すことを軸にした。狼男はまさにその好例である。プレイヤーが唱えたときは人間の姿をしていて、たいていの場合、人間の面はそう恐いものではない。しかしこの人間がいつか狼男に変身すると、対戦相手にとって厄介なことになるのは誰もが知っているわけだ。この、恐怖であることはわかっていてもそれがいつ来るかわからないということがサスペンスを生むのだ。
ギリシャ神話は、少しばかり噛み砕くのが難しかった。それによって生み出されるべき感情とは? 物語の類型を手がかりにすると決めたことで、神々、英雄、怪物という分類に繋がり、そこからさらに次なる気づきに繋がったのだ。ギリシャ神話は、成長の物語なのだ。最初は小さな存在だった英雄が、試練を通じて偉大な冒険者になっていく。英雄を再現しようとするなら、この成長を再現しなければならない。ここから、必要だった感情的反響が見えてきた。ギリシャ神話とは、成就なのだ。
先週述べたとおり、エンチャントを神々の手とすることに決めていた。クリーチャーがエンチャントされるということは、それがいいものであれ、よくないものであれ、神々が干渉しているということなのだ。神々というテーマから、オーラに注目することになった。英雄を成長させる神々の影響を表すためにオーラを使う、というのはフレイバー的に完璧だった。軽い英雄がゲームの終盤でより大きな脅威になるということも可能になる。また、求めていた成就という雰囲気ももたらしてくれる。しかし、1つ足りないものがあった。すべての核となる要素が必要だった。とはいえ、それが英雄のメカニズムだということはわかっていた。
対象をブレさせない
デザインの技の1つに、その因子が何なのか定めるということがある。定義することで、デザイン・チームが解決しなければならない問題が明文化されるのだ。それでは、英雄のメカニズムについて見ていこう。
#1: それは英雄が持つものである
英雄は既にクリーチャー・タイプとしては存在しない。つまり複数の英雄をメカニズム的に結びつける方法は存在しないということだ。メカニズム的な識別子なしでは、英雄を扱うメカニズムを作ることはできない。例えば、英雄に使った場合に本領を発揮するようなメカニズムを作るとしよう。ルール上、どう書くことができるだろうか? 英雄がクリーチャー・タイプなりキーワードなりで存在していればそれを参照することができる。しかしそういう識別子がなければ、英雄であるかどうかをメカニズム的に参照するカードを作ることはできないのだ。
《セテッサの英雄、アンソーザ》 アート:Howard Lyon |
つまり、英雄のメカニズムは英雄を参照するものにはできない、ということである。全ての英雄をつなぎ合わせるメカニズムは、英雄が持つしかないのだ。そうすることで、そのメカニズムを参照するなりそのメカニズムと相性がいいようにするなりすれば、英雄を助けるようなカードを作ることもできるようになる。
もう1つの副産物として、英雄はクリーチャーなので、英雄のメカニズムはクリーチャーのメカニズム、あるいは少なくともクリーチャーに働くメカニズムになるということがある。
#2: それはオーラと相性がいいものである
神々が英雄その他の存在に影響を及ぼすことを、オーラを使って描くことになっている。この時点では授与クリーチャーはまだ存在していなかったので、一般的なオーラを使うことになっていたことを書き添えておこう。そう、各部分部分の話を別々にしているので、この話は時系列順ではないのだ。これらのサブセクションは他のものとへ移行して作られているので、それぞれの要素の必要に応じて順番はばらばらになっている。オーラがどう作用するかはまだ定義されていなかった。
デザイン上の問題を解決するための因子を作る場合の鍵は、何が必要で何が不必要なのかを理解することである。私は、単に必要だと思っているものではなく必要不可欠なもののことを「決して譲れないところ」と呼んでいる。この言葉は、ママがデートに行く私を座らせて話してくれたことから来ている。曰く、必要なことと欲しいことを区分しなければならない。決して譲れないところが合わない相手と巧く行くことはないのだから、決して譲れないところが何なのかを理解しなければならないのだと。
この面において、デザインはデートとよく似ている。メカニズムが巧く行かないと気付くためには、決して譲れないところが何なのかを知る必要がある。デートでもデザインでも、間違いとなるのは決して譲れないところが何なのかを勘違いすることなのだ。
#3: それは英雄を英雄らしくするものである
最後の条件は、もっとも曖昧で、もっとも重要なものだ。メカニズムを英雄に与えるのは、英雄がメカニズム的に英雄らしいと感じさせるためである。では、英雄らしいとはどういうことか? このメカニズムは、英雄が何かをなす瞬間を作り出すものでなければならないのだ。それは戦闘中かもしれないし、何か特定のことをするときかもしれないし、他のカードと関わりを持つときかもしれない。
《波使い》 アート:Karl Kopinski |
デザインの中には、科学と言える部分もあり、芸術と言える部分もある。セットに含まれる雰囲気をメカニズムで再現しようとするのは、かなり芸術寄りの部分になる。感覚で動かなければならない。
検索開始
3つの因子が定まったので、これらすべてを満たすメカニズムを探し始めた。私のデザインの話ではよくあることだが、解決するために過去のまったく違うデザインを掘り返す必要があった。今回掘り返したのは、『インベイジョン』のデザインだった。
『インベイジョン』は色をテーマとしていたので、色をテーマとする新しい方法を実験していた。そこで試した中に、特定の色の呪文の対象になったときにボーナスを得るクリーチャーがあった。この構想は実際にカード化はされなかったが、メカニズム全体としては気に入っていたのだ。そこで私はこれを頭の中にとりあえず置いておいた。もう1つ、『シャドウムーア』も色をテーマとしたブロックだった。特定の色の呪文がプレイされたときに誘発するカード、というのが存在したので、これも頭の中に入れた。
上で述べている難問に挑んでいる間も、私は英雄テーマを強化するさらなる方法を考えていた。エンチャントされたときにボーナスを得るクリーチャー(『ウルザズ・デスティニー』の小テーマだった)というのもあったが、これはあまりに狭すぎる。と、考えていたら、オーラ呪文はつける先のクリーチャーを対象にしている、ということに思い至り、そして対象にするメカニズムへと考えが向かったのだ。
色は今回関係ないので、単に呪文の対象となることを見るように変更した。能力を含まなかったのは、能力でも誘発するようにするとすぐにぶっ壊れてしまう(コストが{0}の能力でなくてもだ)からである。最初の英雄らしい、この時点で「英雄的」という名前になった、能力は、そのクリーチャーに+1/+1カウンターを1個置く、というものだった。
チームはこのメカニズムを気に入ったが、もう少しこの効果を広げられると感じた。最終的には、+1/+1カウンターは基本的には白や緑のものにしたままにすると決めた。青や赤はもっと呪文っぽい効果を得るようにした。黒はその中間である。そして、この能力を白や青に多いように割り振った。これは、他の色の組み合わせでは他のメカニズムがより有力になるようにしたかったからである。
プレイテストの結果、英雄的はとても楽しいということがわかり、リミテッドでは英雄的クリーチャーを誘発させるためにカードを追加しようとする姿も散見された。そこで、クリーチャー2体を対象として2体の英雄的クリーチャーを一度に誘発させられるアンコモンのサイクルなどを追加したのだ。
私は、この英雄的の出来映えにとても満足している。5つのメカニズムの中で、プレビュー中にもっとも過小評価されていたのはこれだろうが、実際に使ってみればその評価は覆ることだろう。
怪物の頭痛
三部作最後の1つ、怪物の話に入ろう。怪物はいくつかの理由で重要である。セットのテーマが英雄の成長と凄まじい試練を成就することなので、その道を阻む存在が必要となる。英雄は、倒すべき敵と同じ程度の強さなのだ。そして、ギリシャ神話においては、その倒すべき敵とは怪物であることが多い。
ギリシャ神話をテーマとすることについて何年も話し合ってきた理由は、ギリシャ神話の怪物を掘り下げている現実世界の情報源がなかったからである。実際、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldがマジックに組み込んだものの多くはギリシャ神話にその源を持つ。セットの設計をしていると、クリーチャーに埋められない溝を感じることがある。『テーロス』ではその問題は起こらなかった。むしろ逆である。ギリシャ神話の怪物たちに相応しい場所を与えなければならなかったのだ。
英雄のメカニズムと同様に、怪物のメカニズムにも、まず必要なことを書き出すことから取り組んだ。
#1: それは怪物が持つものである
英雄と同じように、怪物のメカニズムも怪物が持つものである。つまりクリーチャーのメカニズムである。当たり前のことに聞こえるが、全ての因子を書き出すことは重要なのだ。
《羊毛鬣のライオン》 アート:Slawomir Maniak |
#2: それは成長させるものである
マジックにはもともと怪物は存在し、それらは常に巨大であった。しかし、今回、ギリシャ神話の怪物はサイズの面で途中から大きくなるものにしたかった。私は「怪物は10段階で11にしたい」なんて冗談を言っていた。同時に、今回の怪物はマナ・カーブのどこで見ても英雄を超えるものにしたかった。英雄が怪物よりも何ターンも早く現れるようにはしたくなかった。つまり、最初は小さいサイズで怪物を出し、後に巨大化してさらに恐ろしい存在になるようにしたかったのだ。
#3: それは派手な瞬間をもたらすものである
ギリシャ神話における派手な瞬間というと、英雄が強大な怪物と戦う瞬間ということになる。ギリシャ神話の雰囲気をあらわすものは、英雄の敵としてふさわしい怪物だということはわかっていた。また、怪物にはドラマティックなプレイの瞬間が望ましいということもわかっていた。強化は必要だが、英雄と違って怪物はクライマックスを1回もたらせばいいので、このメカニズムは1度だけ、派手なものが起こることにした。
#4: それはマナを使うものであることが望ましい
どのセットでも、特にリミテッドにおいて、ゲームの終盤でマナを無駄にしないための何かが必要である。デベロップが授与コストを通常のコストと分けたことで授与にもその役割が果たせることになったが、この時点ではまだそういう形にはなっていなかった。信心も英雄的もこの役割を果たしていない。つまり、怪物の能力はこの条件を満たすことが望ましいということになる。
怪物作り
私がデザイン・チームに上記の因子を示すと、メンバーから、ありとあらゆる構想が送られてきた。気に入ったのはケン・ネーグル/Ken Nagleの手によるもので、ゲーム中に1度だけ使える能力を持つ怪物、というものだった。私はそのドラマ性やフレイバーが気に入った。ポップ・カルチャーで描かれている英雄と怪物の戦いにおいて、基本的な流れは同じものになっている。英雄が怪物と戦う。最初は怪物が有利で、英雄を蹴散らす。その後英雄は何か内なる力を見付け、そして怪物に立ち向かう。英雄が怪物を打ち倒したかと思った瞬間......怪物は強力になるのだ。英雄が初めて見る新しい武器を持ち出すなり、巨大化するなり、暴れ出すなり、何が起こるにせよ、怪物は再び英雄を圧倒する。
《ネシアンのアスプ》 アート:Alex Horley-Orlandelli |
もちろん、最終的には英雄が逆転して最終的な勝利を得るのだが、私はこの怪物の強化される瞬間が大好きである。通常、その瞬間には英雄が「こいつは予想より手強いぞ」と思うような見栄えがある。私はこの「ゲーム中に1度だけ」の起動型能力がこの雰囲気を再現していると感じたのだ。そして、これを使えば大量のマナを使う起動型能力を持たせることができる。このコストは常にそのクリーチャーのマナ・コストよりも重く、大抵は2マナ以上重くすることが決定した。
もう1つ決定したのが、怪物のメカニズムは必ずそのクリーチャーに+1/+1カウンターを置くということだ。これは巨大化するというフレイバーを持つ上に、すでにこの能力を使ったかどうかの目印にもなる(カウンターがあるからと言って怪物化したことにはならないということは明記しておこう。ただの目印だ)。我々はこの能力に「怪物化」という名前を付けた。
より低いレアリティではカウンターを置くだけで、より高いレアリティでは追加の効果を与えることにした。「ゲーム中に1度だけ使える」は、パーマネントが戦場を離れて戻ってきた場合に混乱を招くかもしれないということで、文章整形中に改められた。この決定は理解できるものだったが、「ゲーム中に1度だけ使える」という記述のインパクトを考えると勿体ない気がする。
占術のゲーム
神々、英雄、怪物と話を進めてきたが、ここで1つ触れていないメカニズムがある。占術は如何にして『テーロス』のデザインに居場所を見付けたのか? 答えは――見付けていない。このセットがデザインからデベロップに渡された時点では、占術は入っていなかったのだ。では、何が起こったのか?
《迷宮での迷子》 アート:Winona Nelson |
デザインはフレイバー的に全てをカバーするメカニズムを作ることに専念していて、ゲーム・プレイがそれらしい雰囲気を纏うようにすることが必要だった。「デヴァイン」(デザインとデベロップの中間で、ファイルを扱うのはデザインだがデベロップの会議が始まりコメントを付け始める時期)の間に、『テーロス』のリード・デベロッパーであるエリック・ラウアー/Erik Lauerが、余剰のマナを使う方法が足りないというコメントを付けた。私は怪物化がその目的を果たせると思っていたが、エリックは不充分だと感じたのだった。
エリックは授与を使うためのコストを重くして余剰のマナを使う方法を増やしたが、まだ充分ではないと感じていた。そこでエリックは私の所にやってきて、5つめのメカニズムが欲しいと言った。彼は、既にその中身を把握している再録メカニズムを考えていた。私は、そのメカニズムのフレイバーが『テーロス』にふさわしいものであるなら問題ないと答え、それから1週間後、エリックは再び私の元に訪れた。「占術はどうですか」「完璧だ」。
セットを見ればわかるとおり、エリックは占術を見事に使いこなし、目標を達成したのだ。
色々なことがあったけれど
この3本のコラムで書けたのは、『テーロス』のデザインのほんのさわりの部分である。話したいことはいくらでもあり、私にはこの週刊連載という場が与えられている。いつもの通り、『テーロス』の出来映えやこのセットで楽しんだことや嫌だったことを聞かせて欲しい。メール、掲示板、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+)で待っている。
それではまた次回、カード別の話をする日にお会いしよう。
その日まで、神々、英雄、怪物があなたとともにありますように。
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