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Making Magic -マジック開発秘話-
暗き影 その2
読み物
Making Magic
暗き影 その2
Mark Rosewater / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru
2012年1月30日
前回から、闇の隆盛のカード個別の話をし始めた。私がデザイン・リーダーのときはいくらでもつのる話はあるもので、前回だけでは話したりるはずもない(今回でもまだ足りないのは見ての通りだ)。今回は、個別話の第2弾だ。その1をまだ読んでいない諸君は、この「その2」を読む前の前提として読んでおきたいと思うかもしれないな。
今回の話に入る前に、2枚。先週の話題に漏れたカードのうちでメールを沢山頂いたものについて触れておこう。
《大天使の光》
このカードに関する最大の質問は、なぜこれが神話レアなのか、だろう。確かにこのカードは、レアでも全然おかしくないカードだ。そこで、何が起こったのかを説明しよう。デザイン・デベロップの間を通して、ほとんどの期間はこのスロットにライフ獲得を含む、より奇妙で強力な効果を持つカードが入れられていた(詳細について説明しないのは、確かに今回は却下されたカードだが、将来その要素を再利用できるかも知れないからだ)。プレイテストの結果、そのカードには問題がありうるということが示され、そして最後の最後になって他のカードと差し替えられることになったのだ。
これには2つの条件があった。
1.差し替えるカードは既存のカード名やイラストと合致しなければならない。この条件から、このカードにはライフ獲得の効果が必要だということが決まった。
2.差し替えるカードはデベロップが安心して印刷できるものでなければならない。つまり、カードパワーは弱めにしなければならない。この状況でなぜカードパワーを低くするかというと、カードが弱くなりすぎたとしても印刷したときに問題は起きないからだ。開発部は今までに何度も、最後の最後に強すぎるカードを入れたことで大問題を起こしてきた(《頭蓋骨絞め》や《梅澤の十手》がその好例だ)。
確かに、このカードは他の神話レアのような魅力に溢れてはいないことを認めざるを得ない。非常に大きな効果を生み出すことはあり得る(たとえば展開の遅いゲームでは、プレイヤーに40点や50点のライフを与えることがあり得る)ので、「強烈になる可能性」(開発部が神話レアのガイドラインとして大まかに決めている基準)は持っている。もっと時間があってもっと制約がなければ、このカードは最終的にレアになっていたことだろう。
《墓掘りの檻》
これがもう1枚、会話のタネになっていたカードだ。どうしてこのカードのデザインについて触れないのかというと、私も、私のデザイン・チームも、このカードに関しては何もしていないからだ。このカードをデザインしたのは我々ではない。
《墓掘りの檻》は、私が「デベロッパーの専門的カード」と呼んでいるものだ。これはデベロップが心配した穴を埋めるためにデザインされた。なぜ墓地だけでなくライブラリーにも影響を及ぼすのか? それは、デベロップが警戒するカードが存在するからである。私の範疇外だが、想像するなら《出産の殻》への対策だろう。《出産の殻》と不死メカニズムのコンボは強力だ。
私が答えることのできる、より大きな質問は、セットが推しているそのものを止めるようなカードが作られる理由は何かということだ。答えは、今までそのセットの脅威に対抗できる手段を入れなかった結果、制御不能に陥ったことが何度もあるからである(「君子危うきに近寄らず」という諺を知っているかい?)。対抗策を同じセットに入れることは、失敗を繰り返さないための安全弁なのだ。Xというものが制御不能になっても、Xへの対抗策がそこにあれば大丈夫だ。
そこで《墓掘りの檻》の話だ。デベロップはこの環境に対策カードが必要だと強く感じたのだ。面白い墓地デッキを止めるためではなく、万一墓地デッキが制御不能になったときの対策として。ザックはこれについて、より詳細に語ってくれている。
さて、この2枚の話はここまでにして、今日の分に入るとしよう。
このカードについて絶え間なく来ている質問は、「なぜこれが伝説のクリーチャーじゃないのか」というものだ。答えは昨年私の書いたコラム「問題は伝―ちょっと待って―説だ」の中にある。ところで、そのコラムでは「ママと恋に落ちるまで」のバーニーの言葉をいろいろ引用した。バーニーを演じたのはニール・パトリック・ハリス。そう、頭文字を取ればNPHで当時発売されたばかりの新たなるファイレクシアの略号と同じになるのだ――面白いだろ?
当時、多くのプレイヤーはなぜ問題でないものを問題だとして採り上げるのかという疑問を投げかけてきた。私は「動いているものを弄るな」という手紙を山のようにもらったものだ。このカードはその問題を見せつけてくれた。このカードが伝説のカードであるべきかどうかを決定するとき、次の問題に直面したのだ。
1.これを伝説のカードでないとすると、狼男を自分の統率者として使う機会を与えられなかった多くの統率者戦プレイヤー(や、伝説のクリーチャーというフレイバーが好きなヴォーソスたち)は怒ることだろう。
2.これを伝説のカードとすると、統率者戦やフレイバーに興味がなくてこの強力な狼男を自分の狼男デッキに4枚入れたいと思っているプレイヤーは怒ることだろう。
知っての通り、伝説のカードにすることにはフレイバー的な要素を除いては何のメリットもなく、欠点だけが存在する。フレイバーが好きなプレイヤーはいるが、フレイバーを気にしないプレイヤーもいるのだ。つまり、ある時にはその一方の道を選び、またある時には他方の道を選ぶことが必要になる。《高原の狩りの達人》に関しては、伝説のカードにしないことを選んだ。「伝説の」という特殊タイプが諸君の一部にとって不愉快なものであるという状況を改めたいと思っている。そのため、一部の熱烈な希望があっても、時にはこれを使わないことを強いられているのだ。
我々がこの決定を下したのには他にも理由がある。その中でも最大のものは、特に昼の面と夜の面を行き来するような両面カードの特殊性に関するものだ。「伝説の」という特殊タイプと両面カードの組み合わせでは、奇妙な相互作用が発生する。たとえば、《高原の狩りの達人》を戦場に出して、変身させた後ならもう1体の《高原の狩りの達人》を出すことができる。それらはカード名が異なっているからだ。
トリビア・クイズ:このサイクルがデザインされたのは、闇の隆盛のデザイン中か、それともデベロップ中か?
自信があるなら、クリックして答えを見てくれたまえ。
《目玉の壺》
イニストラードのデザインに関するコラムの中で、デザイン・ミーティングでチームにさせたことの1つとして(チームのメンバーであるジェンナ・ヘランド/Jenna Hellandの手による)雰囲気のあるカード名を選んだ、と言った。その結果、イニストラードで最高のデザインの1つである《邪悪な双子》が誕生したのだ。《目玉の壺》も、そうして作られたトップダウン・デザインによるカードである。
これは、私がさまざまなソーシャル・メディア(Twitter、Tumblr、Google+)で提供したプレビュー・カードだ。これを見て、このフレイバーを気に入ってくれた諸君もいたし、《貫く幻視の祭殿》の改良版だと感じた諸君もいた(実際のところ、《目玉の壺》は生け贄にしなくても使えるんだ)。私は自作のウェブコミック「Tales from the Pit」の中で、このカードはメルヴィン/ヴォーソスの判別に使えると書いた(メルヴィンやヴォーソスというのがなんなのか分からない諸君は、こちらのコラム(リンク先は英語)を読んでくれたまえ)。
私は《目玉の壺》のようなカードが大々々好きで、同じようにこういうカードを好きな人が多い諸君からのメールも沢山来ている。目玉カウンター2つを置くことの楽しさが分からないなら、このカードは楽しめないだろう。逆に、もしこのカードを初めて見たときに「サイクロプスは? 蜘蛛は? 1つ目カカシは?」と考えたなら、このカードを最高に楽しめることだろう。
デザイン中に「図書館員」と呼ばれていたカード、というのはこれのことだ。この背後にあるイメージは、人間の時はただの小さな老婦人なのに、狼男に変身すると非常に危険な存在になるというものだ。このカードのおかげで、人間の時と狼男の時の間の落差をもう少し広げようという方向性を固めることができた。デザインにおける狼男の大部分はどうやって驚きと恐怖をもたらすかというところにあると考えているので、私はその差を広げるのが好きだ。狼男が最初から怖い存在だからではなく、怖い存在になり得るから恐れられるという方が好きだ。私にとって、それこそがホラーなのだ。ホラーについて語らせてもらえるのならいくらでも話すのだが、このコラムのようなご家族向けのところにはふさわしくないような話になってしまうことだろう。
《森での迷子》
これまで何度も、好きな本を聞かれて私はロジャー・フォン・イークの「頭にガツンと一撃」を挙げている。これは、誰にでも当てはまる創造的思考についての本だ。もしまだ読んだことがないなら、読んでみることをお薦めする。フォン・イークが語っている考え方の一つに、「踏み石」がある。表面上はあまりにかけ離れているように見えても、どこかに一歩を踏み出すことでそれまで行けなかったところへたどり着けるものだという。
《森での迷子》はこれまで一度たりとも作ったことのなかった類のカードの一例だ(これは何人ものデザイナーの合作であり、私ひとりの手柄ではないことを書き添えておこう)。このカードのどこをとっても、伝統的なカード・デザインとはつながらない。しかし、完成されたカードを見ると、何とも魅力的に仕上がっている。これこそがトップダウン・デザインの魅力なのだ。私はデザイン感覚を磨くのに16年を費やしてきたが、その結果、私の直観が常に同じ方向を向きがちになっているのも一面の事実である。
トップダウン・デザインでは、通常の直観以外のものを優先させる。そして、別の感覚によるカードを作ることができるようになるのだ。つまり、このカードは万人向けではないが、このカードは何かを想起させてくれるように作ったので、気に入るプレイヤーはいつも以上に気に入るものになっていると信じている。これは貴重な教訓と言えよう。
デザインをコラムで取り上げることの問題点に、もっとも派手な部分ばかり取り上げてしまいがちになるということがある。一般に、「霊感的デザイン」とも言うべきものに対して諸君の反応はいいものだ。つまり、問題があったがイカした洞察の力ですっきり解決した、という物語がウケると言い換えてもいい。漫画的に言うなら、私の頭上に電球がピカーンと輝くわけだ。
まあ実際は、新しいことをひらめくのと同じように重要なデザイン技術はいくらでもある。その1つは、順応的デザインと呼ぶものだ。これは、今取りかかっているセットの要素を取り出し、それを一ひねりする方法を探すものである。これの非常によくある例がセットのメカニズムということになる。1つのブロックで20枚以上ものカードに1つのメカニズムを与えるためには、あり得る色のあらゆる選択肢を試さなければならない。
《マルコフの刃の達人》は順応的デザインの典型例だ。イニストラードのデベロップ・チームは吸血鬼に関連性を持たせるようなメカニズムを与えたいと考えた(デザイン・チームは吸血鬼にメカニズム的フレイバーを与えたが、それを実際のメカニズムと関連づけはしなかったのだ)。彼らが選んだメカニズムは、開発部でスリス・メカニズムと呼ばれているもの(対戦相手にダメージを与えた後で+1/+1カウンターを得るというミラディンのカード群から取られた名前である。もとを遡ればレジェンズの《疾風のデルヴィッシュ》になる)であった。
闇の隆盛については、スリス能力を持つ吸血鬼を増やす必要があったが、明白な選択はすでにイニストラードのときに使ってしまっていた。そこで、新しく、そして単純な方法が必要となった。私がこの《マルコフの刃の達人》を気に入っている理由は、簡潔で魅力的な解決策を見つけ出したからである。見つけるのは簡単ではなかった。順応的デザインは他の手法のように目を惹くものではないが、一度はまってしまえばこの種のデザインは稲妻の革新的発見のようにエキサイティングなものに思えるのだ。
このカードに関しては、面白い小ネタがある。このカードは闇の隆盛のデザインのきわめて初期に作られたものだ。本当に初期だ。実際のところ、イニストラードの《月皇ミケウス》が完成するよりもまだ前の話なのだ。人類の宗教的リーダーの存在は決まっていたが、どんなことをするのかはまだ決まっていなかったころだ。このデザインの理由として重要だったのは、人類の絶望を描くための一つの方法として、リーダーが怪物になってしまうというアイデアが気に入ったということである。
イニストラードの《月皇ミケウス》が決まると、その堕ちた姿としてゾンビのデザインを行なった。人間を強化することと対比して、人間でないものを強化するということ、そして両方が+1/+1カウンターを、まったく違う方法で使うということが気に入っている。また、クリエイティブがやってくれた、対照的なイラストも大好きだ。
このカードのデザインは非常に正直なものだった。私は、変身させようとする対戦相手に罰を与える狼男を作りたいと思っていた。より手の込んだものをいくつも試したが、最終的にはこの愚直なものに落ち着いた。時には愚直な方がいい結果をもたらすこともあるのだ。
《月の帳のドラゴン》
このカードに関してよく受ける質問に、なぜドラゴンはイニストラードに棲息しているのか、というものがある。ゴブリンやエルフはホラーにふさわしくないから追い出したというなら、なぜドラゴンは残したのか? これはデザインというよりもクリエイティブの領分になる(クリーチャー・タイプはクリエイティブとメカニズムの両方が重なり合う領域だ)が、あまりに多くの諸君から質問されるので、私からの答えを提供しよう。
諸君はドラゴンが好きだ。大好きだと言ってもいい。ドラゴンこそが、全てのクリーチャー・タイプの中でもっとも人気があるものだ。だからこそ、最初の『From the Vault』は他でもないドラゴンだったのだ。話し合いの結果、クリエイティブはドラゴンについてホラーの中核ではないもののホラーの雰囲気を壊さない形でドラゴンを出せると考えたのだ。そして、彼らは(各セットに1体だけ)少数のドラゴンを入れることにして、ただしいつもと違うようにするために努力することになった。
私はこの完成品を気に入っているが、諸君の中には邪魔だと思っているものがいることはわかっている。ファンの要求を満たすためには、我々が望まないカードを作らなければならないこともあるのだ。
《捕食者のウーズ》
諸君は《捕食者のウーズ》とブロブの関係について友人と議論したことはあるかね? この中で、関係ある側に立った諸君のために、一通の手紙を紹介しよう。
目の肥えた読者諸賢の友人へ
貴殿と貴殿の友人が、《捕食者のウーズ》の元ネタがブロブかどうかについて議論なされたことはご存じの通りです。その議論の中で、イニストラード・ブロックは1950年代のユニバーサル・スタジオのホラー映画をもとにしているけれども、件のブロブはその時代ではなく、その時代のSFやホラーから生まれた、その次の時代の産物であったことも取り上げられたことと思います。また、新たなるファイレクシアが、マジックにおけるSF系のホラーの具現そのものであったことも俎上に載ったかも知れません。それはまったくその通りですが、そこで1つ注目していただきたいことがあります。
マジックの首席デザイナーであり、それら両セットのデザイン・リーダーでもある私、マーク・ローズウォーターはウーズが大好きだと言うことです。私の愛するクリーチャー・タイプとホラーとを組み合わせる機会を逃すなど、あり得ましょうか?
そこで本題に戻ります。「《捕食者のウーズ》の元ネタはブロブかどうか」ですが、はい。完全に、完璧に、疑う余地もなくそうです。デザイン中の名前は「ブロブ」そのものでした。
これはつまり、この手紙を貴殿にお見せした友人に、あなたが議論で敗れ去ったと言うことを意味します。将来の教訓となる言葉をお送りします。「ローズウォーターのブロブ愛を疑うことなかれ。あとゾンビ愛と、毒愛を。」
それでは、失礼します。
マーク・ローズウォーター
諸君がこの手紙を活用してくれることを心より願う。
カード・コピー
これで今回のコラムは終わりである。カードの英語名に気づいた諸君は、まだこれが全部でないとお気づきのことだろう。その通り、次回は「その3」をお送りする。セット内でのお気に入りの(そして、デザインやデベロップのイカした話もある)カードがまだ残っているのだから、やめるわけがない。そのカードとは――《ゾンビの黙示録》である。
それではまた次回、その3でお会いしよう。
その日まで、ウーズの香りがあなたとともにありますように。
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