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Making Magic -マジック開発秘話-

暗き影 その1

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Making Magic

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暗き影 その1

Mark Rosewater / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru

2012年1月23日


 さてプレビュー・ウィークも一段落して、ここからはカード別記事の時間だ。確かにセット全体についての話もあるが、同時にカード1枚ごとの話や数枚ごとの話というのも存在する。カード個別記事では、その後者を取り上げて話すことができる。私はいつでもそういった記事を書くのが好きで――まあ、つまり、前書きはもういいだろうってことだ。

 人間が苦難に直面していることを示す方法はいくつもあった。その中で、両面カードを使った方法がこれだ。13種類の両面カードの中で、昼の面が人間なのは9種類。どのカードも、人間が怪物になることを描写している。《忠実な聖戦士》[DKA]のように、死んだら怪物になるというものもあれば、《マルコフに選ばれし者》[DKA]のように、自発的に怪物になるものもいる。あるいは狼男の様に呪われているものもいる。それらの理由はさておき、ここに込められたメッセージは明らかだ。人間は数を減らし、怪物は数を増やしている、ということである。

 これが非常にささいなことだということは分かっている。イニストラードでも、両面カードに描かれた人間の多くは怪物に変身していた、だが、何かを「正しく感じさせる」ためにはデザインのあらゆる部分が同じテーマを持っていなければならないと私は信じている。諸君がはっきり意識してそれらの選択を理解してくれなかったとしても、無意識には全てが同じ方向だと理解してくれることだろう。

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 この種の記事を書いているときに楽しいのは、あるカードを取り上げてそのカードがデザイン中、デベロップ中にどう変化してきたかを見ることである。このカードは、見方によってはほとんど変わっていないとも言えるし、大きく変わっているとも言える。それでは、このカードがどのようにして作られたのか、そしてどう変わってきたのかを見ていこう。

 狼男は赤と緑だ。青は赤と緑の敵だ。ということで、青に狼男対策のカードを入れることは重要だと私は考えたわけだ。青のコモンのインスタントで、1マナで唱えられて1マナでフラッシュバックできるカードがいいと思いついた。インスタントなら自分のターンにも相手のターンにも変身を防ぐことができる。私がファイルに入れたのは、こんなカードだった。

〈二段跳び/Jump Twice〉

{U}

インスタント

クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで飛行を得る。

フラッシュバック{U}

 この呪文はすでにあるということが分かった。ジャッジメントの《反重力》[JUD]である。それなら、このカードを《反重力》に入れ替えればいい。我々は、ファイルに登録するカード名を繰り返すことで、そのカードが採録だと誰にでも分かるようにすることがある。実際にセットに入れるとき、それが再録であるということがウリにならない、あるいはフレイバー的に現在のセットにふさわしくないという場合には、名前を変更するのだ。

 その後、2つの事件が起こった。まず、インスタントからソーサリーに変更された。その理由として、前回フラッシュバックを使ったときに分かった、理論上気づけるはずのものに驚かされたプレイヤーはおもしろくないということがあげられる。プレイヤーは墓地を見ることを習慣づけていないので、インスタントのフラッシュバックはどこからともなく現われたように思えて嫌な気分にさせられるのだ。次に起こったのは、インスタントからソーサリーへの変化に伴い、デベロップは《反重力》[JUD]に比べて弱すぎない様に効果を少し変更することにした。飛行から「ブロックされない」にしたのは、効果がよく似ていて、インスタントでブロックされない状態にすることにはメリットがないため、先の変更がより自然に思えるようにしたのだ。

 最終的には、デザイン時のものと印刷されたものの差は、飛行からブロックされないになり、インスタントからソーサリーになるというものになった。このカードは実際上はデザイン通りだと言えるかもしれないが、別の見方をすれば根本的に違っているとも言える。デザインとデベロップの間で大きく変化することはそう多くない。小さな変更の積み重ねで、大きな差が出るものなのだ。

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 《黒猫》[DKA]は、最初はイニストラードのためにデザインされたカードだった。いわゆる黒猫というイメージで、トップダウンで作られたものだ。デザイン・チームは皆このカードを気に入ったが、闇の隆盛まで投入されなかったのは、ひとえに時機を見ていたからである。

 説明させてもらおう。イニストラードのイラストの発注〆切がすぐそこに迫っていて(大型セットでは2回に分けて発注を行なうのが常である)、クリエイティブ・チームはスケルトンを入れる場所がないということに気づいた。クリエイティブ・チームはホラー物語の全てのキーを調べ、スケルトンのないホラーというのはおかしいと感じたのだ。ファイル内のどのカードもスケルトンっぽくなかったので、デベロップはファイルを調べ、どれをスケルトンに入れ替えられるかを検討した。

 これはデベロップの終盤で起こったので、ほとんどのコモン・カードは重要な役割を果たしており、除くのは困難だった。《黒猫》[DKA]は愛されていたが、他のカードほど関連性が高くなかったので、これを取り除くしかなかったのだ。そしてこのカードが取り除かれたことに気がついた私は、このカードを闇の隆盛のファイルに投入し、そのまま変更無しに印刷されるに至ったのだった。

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 イニストラードでは、両面カードは全て(例外は1枚だけ、神話レアのプレインズウォーカー《情け知らずのガラク》[ISD]だ)クリーチャーで、変身後もクリーチャーにするという制限を付けていた。闇の隆盛では、この制限は緩められた。今回は、両面カードはどのパーマネント・タイプも取り得て、どのパーマネント・タイプにも変身できるようになった。アーティファクトからアーティファクトへの変身というのは非常に自然なものだ。チームはアーティファクトからアーティファクトに変身するカードを何枚もデザインしたが、その中で一番気に入ったのがこのカードだった。

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 闇の隆盛が世に出る前、「13というテーマは次のセットでも使われるのか」という質問が多く寄せられた。それに対する私の答えはいつでも同じで、「もちろん。こんなすばらしいテーマを捨てると思うのかい?」というものだった。

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 トム・ラピル/Tom LaPilleが気に入らないものの一つに、呼び名を付けるなら「存在ありき」のカードがある。《押し潰す蔦》[DKA]はその好例だ。「存在ありき」のカードとは、メカニズム的には完璧に理解できるものの、フレイバー的には全く意味をなさないカードのことである。たとえば、2つのうちのどちらか1つを破壊できるというモードを持つカードはメカニズム的には理解できる。どちらも緑のカラー・パイに属するものであればなおのことだ。「オーケー、この緑の魔道士である私が、この2種類のうちどちらかを破壊してやろう」というのだ。

 ただし、もう一歩引いて全体を見て貰いたい。はたして、どんな呪文なら、飛行クリーチャーとアーティファクトのうちから選んで破壊できるというのだろうか 考えてみれば、共通点らしい共通点は何も存在しない。クリエイティブ・チームは我々が提示したものを何とかそれらしいものにしようとしてくれるが、このようなカードが優れたイメージを纏うことはない。

 トムは「存在ありき」のカードを作るべきではないと強く信じている。彼の信念では、カードがクリエイティブ的にはっきりしたイメージを持っていなければ作るべきではないというのだ。私は、確かに「存在ありき」のカードが大量に作られるのは好ましくないが、しかしクリエイティブ面以外に非の打ち所のない実用的なカードもあっていいと思うのだ。メルヴィンを抑えてヴォーソスを幸せにさせることが多いのだから、たまにはヴォーソスを抑えてメルヴィンが幸せになってもいい。理想的には、メルヴィンもヴォーソスも満足できるカードを作るのがいいのはもちろんのことだ。

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 私はしばしば、計画が完璧に組み合わさったときのことを話しているが、時によっては計画通りに行かないこともある。イニストラードでは、白を他の色から切り分け、善が孤立していて次第に悪に傷つけられていくという雰囲気を描こうとした(白が常に「善」だとは考えていない。色に善悪の区別はないが、ホラーをテーマとしたブロックにおいては「善」という区別は非常に便利なものだったのだ)。

 孤立を描くための方法の一つが、白以外の全ての色に存在して白には存在しないサイクルやメカニズムを大量に作るというものだった。呪いはその1つとして作られた。デザインにおいては、全ての色に複数の呪いを作った。白の呪いも作ったのだが、白には呪いをいれたくなかったので取り除くことにしたのだ(イニストラードのデベロップ・リーダーであったエリック・ラウアー/Erik Lauerは、後にその取り除いた呪いをセットに戻した。ただし、呪いとしてではなく、《金輪際》[ISD]として)。

 《疲労の呪い》[DKA]は、イニストラード世界の残された部分まで穢され始めているということを描くために闇の隆盛で白に投入された。問題は、私がエリックに「白以外の全ての色に呪いを入れる」ことの重要性をきちんと伝えられていなかったことにある。そのため、彼は緑の呪い、〈おいしさの呪い〉を吸血鬼のスリス・メカニズム(ダメージを与えるたびに+1/+1カウンターを得る、いわば「対戦相手を食べる」メカニズムだ)ににあわせて赤の《うろつく餌食の呪い》[ISD]に作り替えてしまった。白以外全ての色に存在することの重要性を理解していなかったので、彼は代替となる緑の呪いを作らなかったのだ(ファイルがデベロップに渡された時点で、緑の呪いは1つしか残っていなかった)。

 この話の教訓は、デザイン上の発想について伝達することの大切さである。ただ伝達するだけでなく、関与する全ての人に自分のやっていることを理解させなければならない。マジックのカードを作ることはグループでの仕事であり、きちんと伝達することは頭の中にあるものを印刷できるまでに持って行くために欠かせないことだ。アイデアは持っているだけでは役に立たない、共有しなければならない。

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 サブタイプに関するルールの1つに、飾りのためだけに使ってはならないというものがある。使う時には、そのサブタイプをメカニズム的に使用するカードが少なくとも1枚必要なのだ。これは、たとえばゼンディカーで罠にはサブタイプがあり、探索にはサブタイプが存在しないことの理由である。このカードは「呪いテーマ」のカードとしてデザインされた。最終的に、このカードはイニストラードのデザイン・チームにも闇の隆盛のデザイン・チームにも入っていない人物、ケン・ネーグル/Ken Nagleの手によってデザインされた。ケンは、呪いデッキを組みたくなるようなカードのアイデアが気に入っていた。私は同意し、そのカードをファイルに入れた。このカードのデザインの狙いは、できる限り多くの種類の呪いを入れた呪いデッキを組みたくなるようにすることだった。

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 イニストラードのプレビューの際に、全体が部族セットだと思われないようにしながらセット内に部族テーマを忍ばせたいという想いについて語った。テーマにして欲しいと思っている人にとっては重大でも、そうでない人に取ってはそれほどではなかった。従って、イニストラードのデザインの時には、部族をあまりにも推奨するカードは作らないように最新の注意を払っていたのだ。

 一方、闇の隆盛では、私は怪物が力を増していることの描写として、怪物の部族の重要性を高めるというアイデアを気に入っていた。そのために、アンコモンに怪物の部族を強化するカードをデザインすることにした。これらのカードの背景にある考えは、最初のパックを剥いたときにこの辺のカードを引いたら、その部族を使ったデッキを狙ってドラフトしたくなるようにするというものだ。これらのクリーチャーはそれぞれの怪物における勇者で、自分の部族が結集できるようにする。

 カードの方針が決まったあとで、1つの小さな問題が持ち上がった。4種類の怪物の内で3つには指導者がいてもおかしくないが、狼男にはおかしい。そこで、3種類については隊長、狼男にはボスをデザインすることにした。《常なる狼》が隊長サイクルの一部だと気づいた人がどれほどいるかは知らないが、そのことが、プレイヤーが見落としうることを指摘する、このようなコラムを書こうと思った理由である。

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 プレビューで、幽霊にもう少しメカニズム的な特徴を持たせたいという話をした。これらのカードはそのための主要なパーツで、幽霊が他人を操るということをタップすることや戦略的優位を得ることという形で表しているのだ。

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 両面カードをデザインするときに楽しいのは、デザイナーがイメージを出してきたときに「いいねえ。それじゃカードにしてくれ」と答えることだ。悪魔を封じた剣で、その持ち手に持続的な破壊衝動をもたらすというのはいいアイデアだが、実際にカードにするときに失敗する可能性はいくらでもあることを知っていた。

 このカードに関してもう一つ面白いのは、通常のエキスパート・セットではまず見かけない何かをするということだ。つまり、多人数戦でのみ意味を持つ能力を持ったカードを作ったのだ。通常、多人数戦用に何らかの能力を作ったとしても、普通の2人戦でも一応使えるようにするものだ。しかし、今回はよりすごい方法のために2人戦での使用を諦めることにした。

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 グレート・デザイナー・サーチ2の記述問題の1つに、こんなものがあった。

 能力を1つ、ある色から他の色に移動させる様に指示された。その能力は全てのセットで使われているものである(手札を捨てさせる、直接火力、カードを引く、など)。すでに開発部が移動させた能力を選んではならない。どの能力を、どの色に動かすか。また、なぜその移動を選んだかについて述べよ。


 この質問は、デザイナーがすでに確立したアイデアについて再考できるかどうか、そしてカラー・ホイールについてどれらけ理解しているかを見るものだった。おまけとして、誰かが我々の想像もしていなかった何かを示唆してくれるかも知れないと期待していた。そして示された「何か」は、ルーター能力(カードを引いてから捨てる能力)を青から赤に動かすというものだった。

 まず言っておきたいのは、そこから得たのは「ルーター能力を青から取り除く」ことではなく、「ルーター能力を赤にも持たせる」ということだった。デザイン的にこれが刺激的だったのは、コモンの赤にふさわしい呪文の効果が品切れになっていたからだ。もう1種類赤のコモンで使える効果が増えるのは非常に喜ばしいことだった。また、(赤は「必要なものを得るためにものを燃やす」ので)この効果はフレイバー的にも問題なかった。そこで我々はルーター能力を赤に与えることを決定した。

 また、赤のルーター能力が青のルーター能力と違う形になるようにしたのだが、それはこのカードが印刷に回ってからになったので、この話はまたにしよう。赤のルーター能力について、そのカードは現在の文章と少しだけ違う物になっている、とだけ言っておこう。

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 私がしばしば受ける質問に、ほとんどのクリーチャーが種族・職業と2つのクリーチャー・タイプを持っているこのご時世に、なぜトークンを作るカードはクリーチャー・タイプ1つなのかというものがある。その答えは3つだ。

・トークンはその時点でわかりにくいもので、プレイヤーは何も書かれていないものについてその情報を覚えておかなければならない(例外はトークン・カードだ!)。覚えておく情報は、少ないにこしたことはない。

・タイプを増やすことで、カード全体の複雑さも上がる。覚えておけないだけでなく、我々はゲームに不必要な複雑さをできるだけ取り除こうとしているのだ。

・トークンにサブタイプを1つだけ持たせることは、そのカードが再録される時に別のイメージを持たせやすい。

 これらの理由から、ブロックでどうしても種族と職業が必要でない限り(ローウィン・ブロックがそうだ。あのブロックでは、種族も職業も非常に重要だった)、トークンを作るカードではクリーチャー・タイプを1つだけ持たせることにしている。人間はイニストラード・ブロックで重要な意味を持つので、《町民の結集》[DKA]は人間トークンを出すことになった。

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 このカードについてもっとも多かった質問はこれだ。「なぜ13/13じゃないんですか?」 答えは、確かに我々は意味があれば13という数字を使うが、どうしても13でなければならないというわけではない。このカードは10/10としてデザインされ、それがちょうど良かったのでそのままにしてあるのだ。

 また、このカードについてよく受けた質問に、「植物がゾンビを蹴散らすんだろ」というものがあったが――イニストラードではそうじゃないんだ!

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 何度も何度も、私はゾンビの大ファンだと表明してきた。実際、イニストラードには我々に作れるだけのゾンビを詰め込んだ。イニストラードに詰め込みすぎたので、《墓所這い》[DKA]はデベロップ中にイニストラードから闇の隆盛に移動させられた。《墓所這い》[DKA]が闇の隆盛に送られたと聞いて、私は闇の隆盛におけるゾンビのテーマを「ゾンビを墓地から戦場に戻す」というものに決めた。このテーマはイニストラードにも存在したが、闇の隆盛では少しばかり強められている。

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 ほとんどのサイクルは5枚で単一のセットに入っているものだが、常にそうとは限らない。《不気味な辺境林》[DKA]と《大天使の霊堂》[DKA]は10枚サイクルの内の2枚だ。5枚はイニストラードに入っていて、3枚はまだ世に出ていない(アヴァシンの......げふんげふん)。

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 その1の締めくくりに、ストーリー上非常に重要なカードを紹介しよう。《獄庫》[DKA]が何なのか知らない諸君は、ダグ/Doug Beyerの手による紹介記事を読んでくれたまえ。ストーリーにわずかでも興味があるか、あるいはアヴァシンの帰還がどうなるのかに興味がある諸君は、《獄庫》[DKA]に注目するようにお薦めしておこう。今の時点で言えることは、このカードのデザインはトップダウンで、獄庫がすることを描写しているのだ、ということだ。これは後々重要になるので、覚えておくといい。

カードの中身は

 今日の記事はこれでおしまいだ。闇の隆盛の一部を見てきた今回の記事を楽しんでもらえれば幸いである。また次回、この続きをお知らせしよう。

 その日まで、あなたが友人と楽しい物語を共有できますように。

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