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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

セレズニア鱗:あれは……ブラッシュワグ?(パイオニア)

岩SHOW

 その昔。マジックを初めて何年か経った頃のこと。アメリカに在住していた親しい人が帰国し、その際にマジックのカードをいくつかお土産で持ち帰ってくれた。その中に『ミラージュ』のスターターデッキがあった。当時はカード60枚入りのこのようなキットが販売されていて、後に75枚入りのトーナメントパックというものに変更され……プレリリースなどではこれを用いてシールド戦を行っていたものだ。

 さてそんな『ミラージュ』のスターター、当時の僕からすればちょっとしたお宝だ。その時にはもう同セットは絶版になっており、日本語はおろか英語のパックすらも店頭で見ることは稀であった。ポルトガル語など他言語のものが出回ってはいたが、中学生にはハードルが高すぎるというもの。英語であれば英和辞典でなんとか……という時代。はじめて『ミラージュ』のカードが手に入るということで、熱帯の大陸を舞台にした独特の世界観に浸れる!と意気込んで開封したものだ。

 さて、当時はカードを見てもレアリティが表記されていない。パックやスターターを剥いても、一見しただけでは何がレアなのかわからないのだ。そこでマジックカード辞典で、1枚ずつレアリティを確認していく。スターターにはレアが3枚入っている。さあ何が飛び出てくるか……残念ながら2枚が何であったかは記憶に薄いのだが、1枚だけは強烈なインパクトをもたらしたので強く記憶に刻まれている。《ブラッシュワグ》だ。

 3マナ3/2、クリーチャーとの戦闘になると1/4になる。当時3マナでパワー3というクリーチャーは非常に少なく、これで本体を攻撃出来ればそれなりにマナ効率は良い攻めになる……が、如何せんタフネス2のクリーチャーにブロックされては止まってしまう、レアとは思えないかわいらしい性能だ。いや、そんなことはまあどうでも良い。昔のレア・クリーチャーが強くなかったのはこれに始まった話ではない。重要なのは「ブラッシュワグって何よ?」という点。これに尽きるな。

 名前もブラッシュワグならタイプもブラッシュワグ。ひょうきんな顔、明らかに歩行するには短すぎる前脚が、植物の蔦や根のような塊から飛び出している。このアンバランスさは一目見ると忘れられないもの。この生物についてのさしたる説明もなければ、クリーチャータイプの再編時にもビーストや植物にはならずにそのまま。ネタに全振りしたようなタイプではあったが……後に《万能のブラッシュワグ》が登場しこのタイプは今後も扱われていくことが判明。一部のマニアを驚かせた。

 そんな思い出のブラッシュワグ族に、『サンダー・ジャンクションの無法者』で新顔が追加された。黒枠としては3枚目となる《気性の荒いタンブルワグ》!ブラッシュワグという生き物がそもそもタンブルウィード、西部劇でコロコロ転がるアレ的なボディの持ち主である。そのタンブルウィードが無数に存在する次元には、まさしくタンブルを身にまとったものが棲んでいる。3マナで2/2と初代ワグよりも素のスペックでは劣るものの、戦闘面での強さは比較にならないレベルで進化している。戦闘開始時に+1/+1カウンターを置くことが可能で、これはワグ自身でも他のクリーチャーでも良い。そしてこれが騎乗された状態で攻撃すると、カウンターの数を倍にする!なんだこの大盤振る舞いは。ワグもここまで強くなるか……個人的には謎の感動を覚える、そんなレアだ。

 さあ今回はこの最新のワグを使ったデッキを紹介しよう。フォーマットはパイオニアだ。

thatguycurt - 「セレズニア鱗」
Magic Online Pioneer Preliminary 3-1 / パイオニア (2024年5月15日)[MO] [ARENA]
4《寺院の庭
4《剃刀境の茂み
4《枝重なる小道
2《草茂る農地
2《寓話の小道
2《ハイドラの巣
1《耐え抜くもの、母聖樹
1《平地
2《
-土地(22)-

4《実験体
4《生皮収集家
4《光輝王の野心家
4《棘を播く者、逆棘のビル
4《植物の喧嘩屋
4《議事会の導師
4《気性の荒いタンブルワグ
-クリーチャー(28)-
4《ドロモカの命令
4《硬化した鱗
2《打ち砕かれた尖塔、オゾリス
-呪文(10)-
4《剛力の殴り合い
4《ひるまぬ勇気
3《没収の強行
3《漁る軟泥
1《オゾリス
-サイドボード(15)-
Magic Online より引用)

 

 パイオニアの「セレズニア(白緑)鱗」デッキだ。鱗とは《硬化した鱗》。クリーチャーに+1/+1カウンターが乗る場合、それを1つ増やすというエンチャント。タンブルワグと組み合わせれば、戦闘開始時にカウンターが2個乗り、騎乗して殴ればカウンターが2倍+1個と、クリーチャーのサイズがえげつないまでに成長することに。このようにカウンターをばら撒いて強化する類のカードを中心に、鱗と《打ち砕かれた尖塔、オゾリス》や《議事会の導師》でその数を増やしながら対戦相手を圧倒する、王道的なビートダウンを行うのが鱗デッキだ。

 導師を見ればわかるように、クリーチャーをカウンターで強化するのは白と緑の得意とするところ。定期的にこの2色のテーマとして各セットにて扱われるので、カードの選択肢は多種多様。それらの中からなるべく低コストのものを集めて組まれたのがこのリスト。3マナのワグが最重量であることからも、デッキの軽さがよくわかる。

 鱗デッキとはカードとカードの相互作用、シナジーを重視している。《実験体》などはシナジーありきというカードで、単体ではそれほど大きな働きをするカードではない。鱗やオゾリスなどのバックアップを受ければメリメリと音を立ててバルクアップ、驚異的な破壊力を手に入れられる……まあ理想通りに動けばそうなるけども、毎回毎回臨んだ展開になるゲームじゃないってことは、皆も身に染みてよくわかってることだよね。シナジー重視のデッキはそこが弱点で、ドローが噛み合わなかったり相手がこちらのプランを崩してきた時、一気に厳しいゲームに陥ってしまう。

 ただクリーチャーにカウンターを置くというテーマは、シナジーが機能しなくてもなんとかなるものではある。《光輝王の野心家》などはシナジー云々抜きにしても強力なカードで、これで攻めているだけでも十分に勝てたりするものだ。野心家の追加枠とも呼べる《棘を播く者、逆棘のビル》も加わり、最序盤から「除去られなければ勝ってしまいますよ」という強気の攻めが可能に。シナジー以前にヤバいこれら2マナ圏、うっかり生き残ったりシナジーを形成できれば……あとはご想像にお任せ。とりあえずワグが猛り狂う大怪物となることは間違いない。

 この鱗デッキ、サイドボードには待望の1枚が。アーティファクトかエンチャントを破壊できるものは砕土に用意しておきたいところだが、この放題呪文はその両方を1枚で対処できる。さらに全クリーチャーにカウンターを乗せるモードも備えており、ばら撒き強化+置き物への対処をカード1枚で同時に行える。こういうカードが加わることでデッキの立ち位置はガラリと変わったりするので、今後もカウンターを乗せるカードが出たらすべてくまなくチェックするべし!

 ブラッシュワグ族の新顔は、驚異的な進化を遂げつつも過去と今を繋ぐ1枚。《気性の荒いタンブルワグ》で強い盤面を作って殴る。このシンプルな動き、《硬化した鱗》で倍々ムーブに引き上げて楽しもう!

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