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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

緑単トロン:指輪を手にした暴君デッキ(モダン)

岩SHOW

 モダンの世界へようこそ。『指輪物語:中つ国の伝承』は世界中で新たなモダンプレイヤーを生み出すための入り口として、大いに機能しているように感じている。世界にたった1枚の《一つの指輪》があるという一種の原作再現要素は、プレイヤーをこの新しいセットへと誘うだけの魔力があったね。たった1枚の特別仕様でなくても、この指輪はたまらない強さを誇っており、指輪を求めて今日もパックを剥く、というのがルーティーン化している方もいるかもしれない。

 《一つの指輪》……まず、戦場に出すだけで仕事をする。その時点で優秀!しかも誘発するその能力が、プレイヤーへのプロテクション付与!「すべて」に対するプロテクションなので、マジックのありとあらゆるカードやトークン、紋章などからダメージを受けず、またそれらの呪文や能力の対象にならない。1ターンだけとはいえ、ほぼほぼ無敵!「各対戦相手は○○」「ライフを失う」「このターン、ダメージは軽減されない」なんかのテキストを持つカードにはこのプロテクションを乗り越えられてしまうが、一体どれだけのデッキがその条件を満たすカードを備えているやら。

 そうやって1ターンを稼ぎつつ、指輪の起動型能力でアドバンテージを得る。まず初回起動時は重荷カウンターを1個置き、計1個のカウンターが乗っているので1枚ドロー。次のアップキープには重荷カウンターの数だけダメージを受けるので、1点テイク。からの2回目起動、重荷が2つになって2枚ドロー、次のターンには2点ダメージを受け……と、恩恵を受けられるが後からライフの代償を求めてくるというデザインになっている。ライフを失うデメリットに目がいきがちであるが、このドロー力の高さはその代償を補って余りある、勝利に向かうスペシャルムーブ!まず2回起動できれば4マナで計3枚ドロー、マナ効率の良さは十分。3回目の起動となると6枚カードを引いていることになるので、1枚からここまでアドバンテージを叩き出すものはないぞ。

 この無色のアーティファクトをどう用いるか……では、そのアンサーの一例を見てみよう。

Kat Miller-Granger - 「緑単トロン」
NRG Series $10,000 Showdown 8位(7-1-1) / モダン (2023年6月25日)[MO] [ARENA]
4 《ウルザの塔
4 《ウルザの魔力炉
4 《ウルザの鉱山
1 《ウルザの物語
1 《ウギンの聖域
2 《耐え抜くもの、母聖樹
2 《
-土地(18)-

2 《街並みの地ならし屋
1 《隔離するタイタン
2 《絶え間ない飢餓、ウラモグ
-クリーチャー(5)-
4 《彩色の星
4 《彩色の宝球
4 《探検の地図
4 《森の占術
4 《古きものの活性
2 《歪める嘆き
3 《忘却石
3 《一つの指輪
1 《大祖始の遺産
1 《石の脳
4 《大いなる創造者、カーン
2 《解放された者、カーン
2 《精霊龍、ウギン
-呪文(38)-
1 《湧き出る源、ジェガンサ》(相棒)
3 《機能不全ダニ
1 《トーモッドの墓所
1 《魂なき看守
1 《真髄の針
1 《仕組まれた爆薬
1 《石の脳
1 《忘却石
1 《罠の橋
1 《一つの指輪
1 《ワームとぐろエンジン
1 《隔離するタイタン
1 《歩行バリスタ
-サイドボード(15)-
Melee より引用)

 

 というわけでモダンの「トロン」デッキの最新モデルの登場だ。トロンとは、真空管などの機械のこと。転じてそれらが並ぶ実験室の意味でも用いられる。マジックにおいてはモダンを中心とした特定の土地で戦うアーキタイプ名である。《ウルザの塔》《ウルザの鉱山》《ウルザの魔力炉》、この3種類を用いるデッキは、もれなくトロンと呼ばれるね。イラストにもウルザのテクノロジーを集結させた実験場のような光景が見て取れるので、これらの土地を主役にしたデッキがトロンと呼ばれるようになったそうだ。

 トロンは3種類並ぶと塔が3マナ、残り2種が2マナの無色マナを加えるという、パワフルなマナ加速能力を備えている。無色マナに過ぎないといえばそうではあるが、土地3枚から7マナも出れば相当な無茶苦茶が出来てしまう。特に大型アーティファクト、エルドラージと無色呪文、無色のプレインズウォーカーと、無色マナの有効活用法が登場するにつれてトロンデッキのパワーは増していった。近年のモダンでは使用率は下がっていたのだが、無色の最強ドローこと《一つの指輪》が出てきたことで再びこの無色デッキに注目が集まる、と相成ったわけだ。

 無色のカードで勝つのがトロンだとはいっても、このアーキタイプ内でも派閥は分かれている。具体的にどういうことかというと、色の話。無色だけで構成されるトロンもあるが、色々な側面を考えると何らかの色でトロンの成立をサポートしてやった方が良い結果に繋がる。このリストはご覧の通り緑タイプ。緑にはウルザ土地を揃える手段が豊富で、トロンデッキの中でも多くの支持を集めている。シンプルに土地ならなんでも手札に加えるサーチ呪文《森の占術》。これだけでも十分に緑を選ぶ価値があるが、さらに1マナで無色のカードを手札に加えられる《古きものの活性》がある!これが緑トロンの強みだな。

 無色、即ちアーティファクトやクリーチャー、プレインズウォーカー、そして肝心かなめの土地……このリストではメインデッキの60枚中52枚が無色のカードなので、ライブラリーの上から5枚も見ればなんらかの当たりは見つかるはず。無色の《探検の地図》も加わればもう文句なし!3ターン目にトロン完成も夢ではないッ!

 ところで土地も無色が中心で、しかもそもそもの総数が少ないトロンデッキ。このデッキの色マナ供給は《》というよりも《彩色の星》《彩色の宝球》などのアーティファクトが担っている。いわゆるマナフィルター、無色マナが緑マナに変換され、上記のソーサリーが唱えられるようになる。

 これらのマナフィルターの優秀な点は、手札が減らないというところ。使い捨てのフィルターながら、色マナを加えるとともにドローをもたらす。これらで必要な緑マナを得つつライブラリーを掘り進める、この2種8枚からの土地サーチがあるからこそ、トロンは20枚を切るような土地構成で空けたスペースに、重く破壊力が高いカードを詰め込んだという一見異形の構築のデッキリストを成立させているのである!

 さてメインディッシュの解説だ。トロンを構成する土地を揃えるための屋台骨、それにより支えられ溢れ出た無色マナを注ぎ込むのは……《街並みの地ならし屋》&《絶え間ない飢餓、ウラモグ》!これらのクリーチャーは唱えればパーマネントを除去できる。どちらもクリーチャー本体が打ち消されようとも唱えた時点で除去能力が誘発しているというのが重要なポイント。地ならし屋は8マナと小回りが利く(?)ため破壊できるものは限られるが、トランプルも持ち蘇生もありと便利な若手のナイスガイ。対してトロンの大御所、ウラモグはパーマネント2枚追放、土地まで対象に取れるという猛者っぷり!

 デカいクリーチャーに加えて《解放された者、カーン》《精霊龍、ウギン》もパーマネント除去のエキスパートだ。とにかく追放しダメージを与え、盤面にパーマネントを生存させない!生殺与奪は我にあり、このコントロールっぷりがトロンの最大の武器。盤面を作って勝つタイプのデッキは、勢いづいたトロンという暴君の前にはひれ伏すしかないのだ……。

 《大いなる創造者、カーン》は《機能不全ダニ》を持ってくるなどコントロール要素を後押ししつつ、《一つの指輪》のようなアドバンテージ源だったり《ワームとぐろエンジン》などのフィニッシャーに繋げたりととにかく器用。《一つの指輪》をカーンでクリーチャー化させ、破壊不能の戦闘要員として用いるというのも、絵面の面白さも相まってSNSで話題になったりしたね。

 無色マナを得るのに最も効率の良いデッキ、トロン。このデッキは今、《一つの指輪》という防御とドローを同時にこなす超強力な一手をものにした。このカードパワーで全てを薙ぎ倒すデッキとなるのか……今後の躍進、プロツアーでの活躍っぷりに期待が高まるね!

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