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岩SHOWの「デイリー・デッキ」

今週のCool Deck:デッキに「制限」のない時代(フォーマット制定前)
マジックはなぜ、これほどまでにクールなのだろう?
その要因は……いくらでも思い浮かぶが、やはり自分でカードを選んでデッキを構築するというところは、トレーディングカードゲームの祖であるマジックがこの世に新たにもたらしたクールさであることは疑う余地がないだろう。
というわけで今週もやってきました、フォーマットや時間に縛られず、とにもかくにもこれはクールだなと感じたデッキを紹介するこのコーナー。
今回取り上げるのはマジックの黎明期、すなわち原初。冒頭で触れたデッキを自分で作る楽しみ、その新しい感覚がこの世界に新たに拡がりつつあったまさにその時だ。
ちなみにマジック最初の基本セットは『アルファ版』と呼ばれる。このセットは当初260万枚のカードが印刷された。これを多いとみるか少ないとみるか。今の価値観であれば少なくも思えるが、パックを買ってデッキを作るためのカードを集めるという行動がまだ人類の思考に組み込まれていない段階で100万を越える枚数というのは冒険的な数字であることは間違いない。
この『アルファ版』を6か月かけて100万枚販売する予定だったという。ブースター・パック15枚入りで考えれば約6万パックというところ。そして実際のところ、これらのパックはなんと1週間で売り切れてしまったという。クールなエピソードだぜ。
その後すぐさまカードの角などを現在の形に調整した『ベータ版』と呼ばれる再印刷分が用意され、さらに枠を白くした再々印刷分『アンリミテッド』と続き、使用可能なカードを拡張するエキスパンション・セット『アラビアンナイト』から今日に至るまで、長い長いマジックの歴史は続いていくのである。なんとクールなゲームなんだ。
マジック誕生直後のこの時代は、ルールの面でも現在のマジックと大きく異なる点が多数見られる。時の流れとともに洗練され、より万人に愛されるゲームへと進化してきたというのはクールなことだが、過去のルールも今振り返ると味わい深いものだったりもする。
今回のデッキも今日とルールが全く異なる時代だからこその産物だ。とくとご覧あれ。
-土地(0)- 6 《巨大戦車》 1 《ウォー・マンモス》 -クリーチャー(7)- |
8 《Black Lotus》 8 《Mox Sapphire》 5 《Ancestral Recall》 6 《Time Walk》 3 《心霊破》 3 《Timetwister》 -呪文(33)- |
このクールなデッキは?
……っていうかデッキに見えねえ。
そう思ってしまうのも無理はない。何せ枚数がおかしいもんな。というわけでこのリスト、Twitterでたまたま見かけた衝撃的な逸品だったのでここで取り上げさせていただこう。
これは1993年にピーター・アドキソン/Peter Adkison氏が使用していたというデッキリスト。この方、何を隠そうウィザーズ・オブ・ザ・コースト社の創設者の1人である。
アドキソン氏は元々航空会社のシステムアナリストとして働きつつ、ウィザーズ社の運営も行っていたそうだが、前述のマジックの大成功によりウィザーズ社に専念することに。このクールな決断がなければマジックはこの世に生を受けることはなかったという、マジック史における重要な人物なのである。彼が実際に使っていたというこのデッキ……いや、だからこれはデッキなのか?
どこがどうクールなのか?
クールポイントその1:As you wish
マジックの構築フォーマットのデッキというものは、「(カードのテキストによってルールが破られない限り)基本土地以外は同名カードは4枚まで」という制限のもと構築される。なので上記のリストはとてもじゃないがデッキに見えない……というのは、僕らがそのルールが制定された後にマジックに触れた人間だからこその感覚。
実はこのルールは1994年の1月に定められたものであり、『アルファ版』がリリースされた1993年の夏からの約半年間は、「デッキは40枚以上で組む」というルールしか縛りらしい縛りはなかった。なのでこのようなイカツいデッキが組まれていたのである。
ちょっとしたカルチャーショックだよな。《Black Lotus》8枚って……ここまで尖っていると笑いしか出ないな。
クールポイントその2:No land, Yes Power 9
このリストは土地が0枚なのが特徴的だ。それもそのはずと言うべきか。《Black Lotus》8枚に《Mox Sapphire》8枚という狂ったマナアーティファクトがてんこ盛りだもんな。
計16枚、リミテッドにおける40枚デッキで推奨される土地の枚数が17枚だから、ほとんど土地と同じ割合でこれらのアーティファクトが入っていることになる。
1ターン目からこれらをバンバン出して3マナ以上捻出する、という想像するだけで身震いのする展開力。そこから繰り出されるのは……「Sapphire」からも分かる通り青いカードたち。
まず《Ancestral Recall》。1マナ3枚ドローを実に5枚も。
40枚という少ないデッキをこれでガンガン掘り進み、MoxとLotusを並べてはまたドローを繰り返す……クールすぎて言葉が出ないよ。
さらにドロー呪文として《Timetwister》も採用。
これは3枚という、デッキリストに書かれている数字としては見慣れたものが出てきてなんだか落ち着くね。これは単純に手札を増やすものではなく、墓地のカードをライブラリーに戻して修復する役割も兼ねる。LotusやRecall、《心霊破》などの使い捨てのカード、そして除去されたクリーチャーを戻すことでライブラリー切れを防ぎつつ攻め手を継続させる。
Recall・Twisterときたら続く青いカードはもちろん《Time Walk》。
6枚も入っているので、かなりの確率で1ターン目に唱えることが可能となっている。そしてそこから連打し続けることも……このリストは1ターン目からこのWalk連打でそのまま勝利が決まる確率が90%あったとか。
そりゃあこんなのゲームとして尖りすぎてるよな、というわけで構築に4枚制限ルールが設けられ、さらにはここで紹介したような強すぎるカードにはさらに少ない枚数の制限を設けるよう制定されていったというわけである。
ゲームに歴史あり、最初期のマジックはあまりのもハチャメチャだったのだ。
クールポイントその3:Juggernaut is coming!
《Time Walk》連打から勝つ手段としてはクリーチャーを用いる。これで延々どつき続けるわけだが、そのチョイスがたまらなくクール。《巨大戦車》6枚!
かっこよすぎるぜ。当時のクリーチャーは全体的にサイズが小さめなのだが、その中でも4マナでパワー5という《巨大戦車》のスペックは突出したものであった。色マナを要求しないのであらゆるデッキに組み込めるのもポイントが高い。当時を象徴する最強クリーチャーの一角というところだ。攻撃に参加しなければならないというデメリットも、このデッキならないのと同義だしな。
そしてこの《巨大戦車》を7枚にせず、1枚だけ《ウォー・マンモス》採用ってのもクールすぎるだろ!
おそらくはアーティファクトではないクリーチャーを採用したいという考えがあったのだろうが、それにしてもこのチョイスはシブすぎるだろうと。マンモスで勝ちたいという完全な趣味な気もする。青とアーティファクトの海に佇む緑一点、思わず目を奪われるぜ。
クールなまとめ
マジックにもやんちゃな時期があったんだなと、今回はクールなゲームのカオスな時代のデッキを取り上げさせてもらった。無秩序な構築から枚数制限の概念が生まれ、そしてスタンダードのローテーション、その他のフォーマットの制定などなど、今日のマジックを楽しむための土壌が作られていったと考えると、当時のデザイナーやプレイヤーには感謝しかないね。
そして僕らも次の世代に繋げられる何かを担っているのかもしれない……と。それじゃ今週はここまで。Stay cool! Thanks for the limit!!
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