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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
マルドゥ・サイクリング(スタンダード)
皆が使っているデッキはどんなデッキ? この質問には大きく分けて2つの答えがある。
1つは、そのフォーマットにおける有力なデッキの名前をそのまま言うという形。「赤単アグロ」とかそういう、一般的なデッキ名およびアーキタイプを言うだけで相手に伝わるやつだ。
ではもう1つの答え方とは……前者とは対照的だ。「○○ってカードあるじゃないですか、あれと△△を組み合わせたコンボを使っています」という具合に、デッキの主要カードを取り上げて説明しないと内容が伝わらない、オリジナルデッキの類だ。
カードショップの大会、たとえばフライデー・ナイト・マジックなどに赴いて、参加者の使用デッキをざっと見渡してみると……そのコミュニティがどれだけ競技寄りかにもよってくるが、大体6割から7割くらいが前者の広く浸透したデッキで、残りの3割くらいのプレイヤーがオリジナルデッキを持ち込んでいるという印象がある。
そこから大会の規模やその競技レベルが上がるに従って、オリジナルデッキ使用者の割合はより下がっていく傾向にある。懸かっているものが大きい真剣勝負の舞台で、強さが証明されているデッキを持ち込むのは当然の判断と言える。
ただそんな競技の世界、その最高峰でもあるプレイヤーズツアーなどにおいても、オリジナルデッキを持ち込むことを好むプレイヤーもまた存在するのである。自分の武器は自分で作る、自ら調整したデッキこそ最も信頼に足るものであるというスタイルは、とても格好よく見えるものだ。
日本にもそのスタイルで戦うファンタジスタがいる。マジックプロリーグ(MPL)所属、行弘賢選手だ。彼は先日開催されたプレイヤーズツアー・オンライン2に自身の手で磨き上げたデッキを携えて参加した。「マルドゥ・サイクリング」だ。
2 《沼》 4 《神無き祭殿》 4 《血の墓所》 4 《聖なる鋳造所》 2 《寺院の庭》 4 《サヴァイのトライオーム》 -土地(20)- 4 《繁栄の狐》 4 《ドラニスの癒し手》 4 《ドラニスの刺突者》 4 《悪魔の職工》 4 《雄々しい救出者》 4 《壮麗牝馬》 4 《威圧するヴァンタサウルス》 -クリーチャー(28)- |
4 《踏み穴のクレーター》 4 《記憶漏出》 4 《天頂の閃光》 -呪文(12)- |
1 《黎明起こし、ザーダ》 -相棒(1)- 4 《壊死性の傷》 2 《強迫》 2 《灯の燼滅》 4 《轟音のクラリオン》 2 《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》 -サイドボード(14)- |
6月以前のスタンダードにおいて、サイクリング・デッキと言えば環境を代表する強デッキの1つであった。それはジェスカイやボロスで組まれることが多く、《繁栄の狐》《ドラニスの刺突者》《雄々しい救出者》といったサイクリングする行為自体をダメージ源にできる能力を持ったクリーチャーらを展開しつつ、{1}でサイクリングできるカードをどんどん捨ててカードを引いて、残りわずかのライフに対して《天頂の閃光》を撃ち込んで勝利するというものであった。
サイクリング・デッキが世に出た当初は別の相棒が使われていたが、すぐに《夢の巣のルールス》を用いたタイプが作られ、墓地から上記のクリーチャーを再利用することで継続して戦えるという強みを活かして各種トーナメントでも存在感を発揮していた。6月に入り、相棒ルールの変更を受けて、ルールスを用いたサイクリング・デッキは大きく弱体化。環境の変化もあって、サイクリング・デッキ自体があまり見かけないものになった……という矢先に登場したのがこのリストだ。
相棒は前述のルールス以前に使われていたもの、《黎明起こし、ザーダ》だ。
起動型能力のコストを軽減する能力を持っており、ルールス・デッキではコストの関係から採用されなかった《壮麗牝馬》や、通常サイクリングコストが{3}と重い《サヴァイのトライオーム》などを扱いやすくなる。
このザーダの採用も面白いところだが、このデッキの重要なポイントはマルドゥというカラーリングにある。前環境では見ることがなかった、白と赤に黒を足した構成である。サイクリング・デッキにはそのサイクリングコストの軽さから《記憶漏出》が採用されるのが定番であり、土地から黒マナを得られるようになればこれをきちんと唱えることもできるようになる。
状況によってはこれもかなり強い動きだが、まあそのためだけに黒マナを用意しているわけではもちろんなく、メインとなるのは《悪魔の職工》だ。
このクリーチャーはサイクリングもそれに関する能力も持たないので、一見デッキには噛み合っていないように見えるかもしれない。能力でクリーチャーをライブラリーから直接戦場に出せるが、そうやって持ってきたい大型クリーチャーがいるというわけでもない。
ではなぜか? 答えは墓地のクリーチャーカードの数だけパワーとタフネスが上昇するという能力を活かして、ヘビーなアタッカーとなるためだ。サイクリングするということは手札から墓地へとカードを捨てるということであり、これを行うたびに職工のサイズはアップする。いわば追加の《繁栄の狐》のようなものであり、これらのクリーチャーを出してからガンガンサイクリングすることで成長させて殴り切るというのがゲームプランだ。
狐と違って職工は、墓地さえ満たされていれば後から引いてきてもいきなりサイズが大きいというのが強みである。この職工は、サイクリング用のカードでもある《踏み穴のクレーター》との組み合わせもかなりイケている。
狐や救出者を並べて攻めていたところに《空の粉砕》などで盤面を綺麗に押し流された返しに、職工を出してクレーターで速攻を付けて攻撃! 合計4マナで10点以上たたき出すことも難しくなく、そう考えると追加の《天頂の閃光》であるとも言えるね。《壮麗牝馬》で絆魂を得させれば赤単などとの殴り合いも完璧だ。
もちろん、クリーチャーを探してくる能力で人間・トークンを他のものに置き換えるというのが勝利につながる場面もあるだろう。またクレーターは他にも、ザーダに速攻を与えてブロック参加不可能力を即座に起動したりと……とにかくいろいろなカードが噛み合っており、プレイしていて面白いデッキだ。
本人いわく、「ティムール再生」デッキを相手に戦うのは不利であり、「ラクドスかまど」も厳しいとのこと。それでも初日はファンタジスタの意地を見せ、「ティムール再生」が大多数を占めるトーナメントの中7勝2敗の成績を残していた。
2日目はその再生にやられたようであり、選択を間違えたとつぶやいてはいたが、この独創的なリストを持ち込んだことは世界中のプレイヤーの注目を大きく集めた。今後も大舞台で挑戦的なデッキで戦う姿を応援していきたい。
デッキビルダーとして大成したいというプレイヤーには、このリストにおける《寺院の庭》を採用したような細やかさを参考に頑張ってほしいね。一見使い道がない{G}、これは《悪魔の職工》を唱えやすくしつつしっかりと{W}も用意したいという工夫なのだ。
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