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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:ピットサイクル(過去のスタンダード)

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:ピットサイクル(過去のスタンダード)

by 岩SHOW

 コンボは生き甲斐だ。どんなゲームを遊んでも、トリッキーな決め手で勝利を狙うヤツがいるもので。ゲーム側もそのようなプレイヤーに応えるために「これを使って勝ってみろ!」と挑戦的なデザインを提供してきたり。マジックがまさしくそうで、例えば《精力の護符》なんてこれでコンボを決めてみよう!と語りかけてくる1枚で、世界の誰かが《花盛りの夏》と《シミックの成長室》とのコンボを見つけ出して一躍モダンの強力デッキへと駆け上がったりしたものだ。一見使い道がわからないカードを自身の手で実戦向けコンボデッキのキーカードとして昇華させる、このような「マジックは自己表現」系のプレイヤーを、カード開発部は「ジョニー/Johnny(女性の場合はジェニー/Jenny)」と呼んでいるそうだ。コンボ大好きジョニー&ジェニーをカード化した《Johnny, Combo Player》なんてカードもあるほどだ。あなたもお近くのコンボ好きプレイヤーのことはこう呼んであげよう(心の中でな)。

 このジョニーという称号が浸透する以前の...所謂「マジック黎明期」の日本では、極端なまでにコンボや、常人とかけ離れた構築を行うプレイヤーたちのことを「地雷」と呼んだ。トーナメントで当たってしまうと、わけのわからんデッキに翻弄されてしまう......踏んではならない存在だということだ。その特異な戦術・生き様を貫き活躍したプレイヤーを、人々は敬意をもってこう呼んだ......「日本三大地雷」と。

 その三大地雷の一人が、射場本 正巳、通称「しゃば」さん。マジック黎明期から活躍したプレイヤーで「タックスエッジ」「ループ・ジャンクション」などの名コンボデッキをデザインした、地雷の中の地雷とでも呼ぶべきお方だ。現在ではプレイヤーとしてではなく、開発側として......ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社に務め、謎のハイテンションな写真を添えて新カードをレビューするコラムでもお馴染みだ。

 そんなしゃばさんの最高傑作と言えば......「ピットサイクル」。今でもマジック史上最高に美しいコンボデッキであると語られることもある、珠玉のデッキを紹介だ!

射場本 正巳 - 「ピットサイクル」
The Finals99 ベスト4 / スタンダード (1999年12月29~30日)[MO] [ARENA]
7 《
5 《平地
4 《泥炭の沼地
3 《ファイレクシアの塔
2 《僻遠の農場
1 《高級市場

-土地(22)-

4 《アカデミーの学長
4 《レイディアントの竜騎兵
4 《スカージの使い魔

-クリーチャー(12)-
4 《暗黒の儀式
4 《厳かなモノリス
1 《レイモスの歯
4 《吸血の教示者
4 《死体発掘
1 《縁切り
1 《ヨーグモスの意志
4 《魂の饗宴
3 《ヨーグモスの取り引き

-呪文(26)-
1 《大天使
2 《解呪
2 《休止
2 《非業の死
2 《日中の光
1 《撲滅
1 《象牙の仮面
1 《一掃
3 《打倒

-サイドボード(15)-

 このデッキは《ヨーグモスの取り引き》という挑戦状に対するアンサーデッキだ。《ネクロポーテンス》のようにライフをドローに変換するエンチャントで、カードを手札に加えるまでにタイムラグが存在する代わりに3マナと軽かった《ネクロポーテンス》に対して、6マナと重いが即時ドロー可能というチューンが施されている。重いし、通常ドローがなくなるし、そもそも痛い。能力は強力極まるが、果たしてどのようなデッキを作るべきか? 多くのプレイヤーが使いこなせないでいたこの暴れ馬エンチャントを、見事に乗りこなしたデッキが「ピットサイクル」。

 コンボパーツは《ヨーグモスの取り引き》と《スカージの使い魔》。まずはこの両者を戦場に出すことを目指す。《暗黒の儀式》《厳かなモノリス》《泥炭の沼地》《僻遠の農場》といったマナブーストが多数採用されているのは、このコンボパーツ2種が5マナ&6マナと重いため。最も理想的な展開は、《アカデミーの学長》を《ファイレクシアの塔》の生け贄とし、それで得たマナでスカージを唱えつつ学長の死亡誘発能力で取り引きをサーチしてくる、というもの。

 2枚のパーツが揃ったら、コンボ始動だ。1点のライフを支払い、カードを1枚引いていく。初期ライフから始動すれば、この時点で最大19枚のカードを引くことができる。この手札を......スカージの能力でマナへと変える。そうして得たマナで《魂の饗宴》を撃ち込む。相手のライフを4点吸い取って、これでさらに追加で4枚のカードを引けるようになる。このライフを手札に、手札をマナに、マナでライフを得て、そのライフを手札に......というサイクルを繰り返して勝利するデッキなのだ。これぞ己の身を削る、いわゆるスーサイド戦略の極致と言っても良い。

 もちろん、デッキに4枚の《魂の饗宴》ではそんなにライフが得られない=カードが引けないし、そもそも16点しかライフを奪えないため勝利すらできない。これについては順を追って説明しよう。

 まず、ライフ。デッキが目指すのは5回の《魂の饗宴》による勝利で、これに必要なのは25マナ。単純に考えても30枚以上、40枚はカードを引きたいところだ。これに必要なライフを供給するのが、《レイディアントの竜騎兵》。手札から捨てて黒マナに変換し、墓地に落ちたこれを《死体発掘》で釣り上げて5点回復。これでまた5枚カードを引くことができる。リソース的にはカード3枚使って5枚引いているので、増える枚数自体は微々たるものだが......それだけ掘り進められることに意味がある。

 そうやってゴリゴリ掘り進めながらライフを吸い取るのを繰り返し、さあ最後の4点はどう削るかというと、《ヨーグモスの意志》に頼ることになる。これで既に使用した《魂の饗宴》を墓地から拾って投げつける!決着ゥゥ。ヨーグモスが取り引きはするわ意志を見せつけるわで、これはもうヨーグモスデッキと言っても過言ではない。《ヨーグモスの意志》が防がれてしまったらどうするか?その時は《スカージの使い魔》で殴ってなんとかしよう!

 ここまでを読んで「ギリギリのデッキやな......」と思ったあなたは正しい。このデッキの何が美しいのかと言うと、このギリギリ感。対戦相手がたった1点ライフを回復するだけで、《魂の饗宴》の6発目が必要になる。《清々しい雨》なんて撃たれようもんなら7発目さえ必要で、そうなるとそれらを唱えるのにスカージから生み出すマナで果たして賄えるのか、かなり怪しい。また、コンボパーツが無事に揃ってザクザクとドローを進めて......とやっても、《魂の饗宴》や回復エンジンを1枚も引かないままにライフが尽きてしまう、なんてことも。ライフが尽きれば、もう通常ドローは存在しないのだから......逆転の目はまずない。こんなギリギリの勝負を仕掛けつつも、勝つ時には流れるようにカードが乱れ飛び圧勝してしまえる、そんな「ピットサイクル」は確かに真に美しいコンボデッキの1つだと思う。

 皆のアイドル、日本におけるマジックのコミュニティ担当の金子真実もそんなギリギリ感が好きだと語る。僕ら、世代やもんね(同い年)。僕はこのデッキを組みたくて《ヨーグモスの取り引き》を集めようと思うもまったく手に入らず、諦めていた時に友人から「《ヨーグモスの取り引き》を出すから○○をくれ!」とトレードを懇願され、「いやぁ〜トレーディングカードゲームって良いなぁ〜」とホックホクになった思い出がある(何とトレードしたかは直接聞いてください)。まあそれが手に入ったところでカードが完全に集まらなかったので、あくまで「ピットサイクルもどき」で遊んでいたのだが......いやぁ、書いてて青春が蘇ってくるなぁ。皆もたまには、こうやって自身のルーツを振り返ってみよう(実におっさんらしい〆)。

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